バンダイが放つ「のだめ化粧品」の狙いは何だ?
玩具のバンダイが化粧品?しかも、キャラクターが「のだめ」?…。いくつも疑問符が頭に浮かんでしまう記事が日経MJ10月26日のファッション&リビング欄に掲載された。しかし、そこには同社の戦略と願いが込められているように思われる。
記事のタイトルは「不慣れでも使いやすく バンダイ 化粧品新シリーズ」とある。「メークに不慣れでも使いやすい点をアピール」とキャプションが添えられた商品パッケージ写真に描かれているのは、まごう事なき「のだめ」だ。上野樹里と玉木宏が主演し、テレビドラマから後に映画までされて大人気になった『のだめカンタービレ』。二ノ宮知子が描く原作漫画の主人公「のだめ」こと「野田恵」と、作品中にのだめ手製の着ぐるみとして登場する「マングース」の絵が描かれている。
日経MJの記事はバンダイが19日にリリースした内容が元になっている。ネット上では毎日新聞配信のYahoo!ニュースで確認できる。
<バンダイ、「クレアボーテ お悩み解消コスメシリーズ」を発売>
http://tinyurl.com/24ruszo
記事では<『お悩み解消コスメシリーズ』は、女性がもつメークへの様々な悩みを解消する新しいコスメシリーズです。人気マンガ「のだめカンタービレ」の主人公である野田恵(通称:のだめ)をイメージキャラクターとして、のだめのようにお化粧に慣れない女性や苦手な女性でも簡単に、上手にメークが出来るように開発された商品です>としている。商品の第一弾は、昨今のメークのキモであるアイメークには欠かせないながら、失敗すると痛い目を見るアイライナーとマスカラの使い勝手と仕上がりの良さを高めた商品だという。
「何でバンダイが?」と思うところだが、リリースにあるように、バンダイには「クレアボーテ(Creer Beaute)」という化粧品ブランドが存在する。( http://www.creerbeaute.co.jp/ )
ラインナップはメーク品と入浴剤、リップクリームやハンドクリームで、何らかのキャラクターとコラボしている。特に注目は11月15日発売予定の「お悩み解消シリーズ」に先行して販売されている2つの有名キャラクターシリーズだ。
10月15日から発売されているのが「峰不二子コスメ」。いわずと知れた『ルパン三世』の永遠のヒロインがキャラクターとなっている。ブランドのコピーには「強さ・美しさをコンセプトに、機能性と不二子のイメージを融合。使うたびに、不二子から強さと美しさをもらえるコスメシリーズです。」とある。2種のマスカラ、アイライナー、2種のリップグロスがラインナップされている。
10月に「峰不二子」、11月に「のだめ」と、矢継ぎ早に展開されているが、「クレアボーテ」は2006年に同社新規事業室に設置され、F1層(20代~30代前半女性)ターゲットの化粧品を開発してきた歴史がある。そして、コスメのクチコミサイトでも何度もNo1.を獲得している「ベルサイユのばら」シリーズを3年前に世に送り出した。
「ベルサイユのばら」シリーズの商品には、現在はアイライナーとマスカラ、スキンケアマスクと入浴剤がある。特にマスカラ、アイライナーは、お姉様フェミニン系の「Ray」、大人オトメ系の「bea’s UP」、ギャル系の「小悪魔ageha」と現在でも幅広いファッション誌で紹介されている。
同シリーズの特徴は何といっても商品パッケージで、「ベルばら」の通称で誰もが漫画・アニメのキャラクターがデカデカと描いてある。池田理代子の描く人物の特徴である、誇張されたまつげや目元、強い目力(めぢから)が、マスカラやアイライナーの威力を無言で訴えかけている。
化粧品の機能性や成分を全面に打ち出すのではなく、キャラクターによって「こんな風になれる!」と訴えかける手法の競合商品も存在している。
2007年から商品展開を行っている「美肌一族」。2006年に商品に先行して携帯小説を配信。さらに2008年には小説を元にしたコミックの発売や、テレビアニメを放送するなどのクロスメディアで展開し話題を獲得して商品認知と販売に成功した。販売しているのは2005年7月設立の「株式会社ラブラボ」。社長はファッション誌JJの読者モデル&ライター出身だ。
「美肌一族」は「美肌」だけに、スキンケア商品が中心で、「クレアボーテ」のラインナップとは一部被っているが全面競合ではない。クロスメディアのカギともなったアニメ化を、バンダイのガールズトイ事業部にある成人女性向け商品の企画チーム「バンダイフィル」と組んで実現させたという経緯(日経トレンディネット2008年11月18日)があるからかもしれない。
キャラクターで訴えかけるパッケージの化粧品で完全競合となるのは、文政8年(1825年)依頼の歴史を持つ老舗、「株式会社伊勢半」の「ヒロインメイク」シリーズだ。「ベルばら」や「美肌一族」同様、目元を強調し、金髪巻き毛などの懐かしき昭和の少女漫画のヒロインを彷彿とさせるキャラクターが全面に押し出されている。有名キャラクターではないものの、商品のキャッチコピーがキャラクターと同じくらいに目立ち、効果を挙げている。「もっと天まで届け!マスカラ」「泣き顔美しいアイライナー」「唇よ咲け!リキッドルージュ」「揺るがぬ美肌 マット化粧下地」…などなど。ラインナップはアイメークを中心にメークアップ用品とベースメークまでと幅広い。同社社史を見ると、発売は2005年かというから、ほぼ同時期に展開された競合ではあるが最古参であるようだ。
競合環境が激しい、目元ぱっちり少女漫画キャラクター化粧品。展開されているのはセルフ販売のドラッグストアやコンビニで目にとまり、手に取らせるインパクトが重要なため、見た目も似てきてしまっている。そこで、バンダイは今回、ターゲットをずらすことを狙ったのだと思われる。
化粧品購入価格は低価格傾向を強めている。大手化粧品メーカも1000円未満の「3桁コスメ」への参入が相次いでいる。そこで、少女漫画ばりに目元をキメるアイメークにこだわる年齢層の少し上を狙って、「峰不二子」を投入したのではないか。
それ以上に期待していると思われるのが、今回の「のだめ」だ。あえて、「ベルサイユのばら」という作品名や、「峰不二子」というキャラクター名をにしなかったのは、「のだめカンタービレ」がそれらほどメジャーでなかったり、「のだめ」のキャラクターのインパクトが弱かったりということではないだろう。もっと、作品やキャラクターへの思い入れや同一化以上に、「お悩み解消」という消費者に課題解決を訴えたかったのだろう。
確かに作品中で主人公の、のだめこと、野田恵が化粧をしてひどい仕上がりになるシーンがある。しかし、そのいわれを知らなくとも、化粧に自信のない層や、まだ慣れていない若年層などはターゲットになり得る。
リリース記事によると、<クレアボーテのホームページでは、動画でメイク方法をご覧いただけます>(現在は準備中)とあり、至れり尽くせりの構えを見せている。うまくターゲットを顧客化し、ファン化できれば、さらなるラインナップを拡充してクロスセリングを図ることも大いに期待できる、なぜなら、「ベルばら」や競合商品のターゲットは、もともとメークに関心があり、より効果的に(しかも安価に)仕上げたいと願う人々だ。「のだめ」のターゲットは自信がなかったり、慣れていなかったりする人であるため、囲い込みがしやすいといえるだろう。
そもそも、バンダイが化粧品に参入する狙い。そして、さらにターゲットを拡大して取り込もうとする狙いは、同社のホールディングカンパニーであるバンダイナムコホールディングスの連結決算から見えてくる。全面的な減収減益で、営業利益は-90%を超えている。玩具もゲーム・アミューズメントも苦戦している。今後も少子化は加速し、本業への影響は免れない。キャラクターやコンテンツを活用するというシナジーを活かし、新たな顧客と接点を作り、新たな領域のビジネスを展開することが欠かせないのである。
バンダイの化粧品事業「クレアボーテ」はまだ、本体の中にある。このブランドが成長して、分社するぐらいの成功を見せるのか、今回の「のだめ」の化粧品だけでなく、今後にも注目してみたい。
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