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15 posts from October 2010

2010.10.29

「40代女子」:絶賛すべき新刊雑誌GLOWのキャッチフレーズ

 10月28日、出版不況といわれる中、女性ファッション雑誌では向かうところ敵なしの「宝島社」から、40代女性向け雑誌が創刊された。『GLOW』。通勤電車の車内吊りや新聞広告を見た人も多いだろう。雑誌のタイトルに添えられているキャッチフレーズは「ツヤっと輝く。40代女子力!」。広告のキャッチコピーは、「アラフォーって呼ばないで。私たちは、40代女子です。」だ。

 巷やネット上では雑誌の内容以前に、「40代女子」という言葉にビビッドに反応した話題や議論が盛り上がっている。そこで今回は、「どうよ?」と考察してみたい。

 結論を先に提示すると、「40代女子」という表現はすばらしい。絶賛に値する。
但し、筆者が言わんとするところは、新刊雑誌『GLOW』のキャッチフレーズとしての用い方においてである。

 生物学的な「霊長類ヒト科ヒト目の雌」を表す日本語は「女性」である。他の表現としては「女」「女子」があるが、限定的には、前者は「成年女子。成熟して性的特徴があらわれた女性」を表し、後者は「女の子供。女児」を表す(共に広辞苑第6版)。つまり、『GLOW』のキャッチフレーズに関しては、日本語の本来的な意義と年代のギャップが論点となっているのである。

 女性を何らかの属性に加えて別の単語で表現する例は、「森にいそうな女の子」をイメージさせる、ゆるく雰囲気のあるものを好む「森ガール」というファッションやライフスタイルを表す言葉が有名になった。その言葉から対比的に派生したのが、「山ガール」だ。「森ガール」は実際には森には行かないが、トレッキングや登山をファッショナブルに行う女性を「山ガール」と称して、女性登山人口の増加を関連業界が需要促進のために盛り上げている。
 「女子」の語源をひもといてみると諸説あるが、マンガ、後にテレビドラマにもなった「ホタルノヒカリ」に求めることができる。マンガの連載は2004年から2009年まで。テレビドラマは2部に分かれ2007年と2010年の放映だ。ドラマでは綾瀬はるかが演じた同作品の主人公・干物女こと、雨宮蛍は、20代でありながら恋愛を放棄し、自宅でジャージ姿でビールを飲むことをこよなく愛する生活を送る。対照的に誰もが憧れるような女性として描かれている登場人物・三枝優華が「ステキ女子」と表現されている。作品における三枝優華の年齢設定は26歳である。

 広告のキャッチフレーズで「アラフォーと呼ばないで。」と述べられている「アラフォー」は、そもそもが「アラサー」からの派生語である。「Around 30」。「2005年11月に創刊した女性雑誌『GISELe』(ジゼル・主婦の友社)が使い始めたのが始まりといわれる」とWikipediaに記載されているが、定義は英語の意味の「30歳前後」より少し幅広く「25歳以上34歳まで」であるとされている。前出「ホタルノヒカリ」のステキ女子・三枝優華はアラサーであるわけだ。
 「アラフォー」は2008年に放映された、天海祐希主演のテレビドラマ「・Around40 〜注文の多いオンナたち〜」でタイトルに用いられ、ユーキャン新語・流行語大賞にて年間大賞となって定着した。35歳~44歳までをあらわす。

 「アラフォー」と「40代女子」はどのような違いがあるのか。
 年齢的には35歳~44歳に対して40歳~49歳と年齢が5歳上になるが、年代的な違いは何か。40歳と45歳を見てみよう。
 アラフォー40歳の誕生は1970年。日本の高度成長期最後の年、大坂万博の開催年である。1986年にバブル景気に突入したころはまだ高校生になったばかり。大学在学中か社会に出て間もない頃にバブルは崩壊した。
同じアラフォーでも35歳は1975年生まれ。バブル崩壊の時はまだ16歳だ。大学を卒業した1997年は1994年の第11回新語・流行語大賞にもなった「就職氷河期」のまっただ中である。人生の中で好景気の記憶があまりない世代であるといわれている。
 40代女子45歳の場合はどうか。1965年生まれで、73年の第一次オイルショックの時に、「トイレットペーパーがなくなる!」という買占め騒動や、街のネオンが消えた風景などがおぼろげな記憶にある。景気はその後2度ほど循環したが、大きな不況の波を実感することなく、大学生の頃、景気はバブルに突入。就職も売り手市場で引く手あまただった。バブルの徒花として咲いたディスコブームは次第に高級ディスコ、ウォーターフロント、社会現象にもなった「ジュリアナ」へと続き、身体の線を強調したボディコン服を着て、鳥の羽でできた「ジュリアナ扇」と呼ばれる扇子を振り回してお立ち台で踊る女性がメディアでも注目を集めた。
 上記のように概ねアラフォー世代と40代女子世代は青年期の景気による体験において大きな差異がある。故に、『GLOW』はターゲット世代を40代として、「ツヤっと輝く」という言葉をキャッチフレーズの一部に用いているのだ。もちろん、ジュリアナのお立ち台で踊っていた人もその中に含まれる。

 しかし、筆者が『GLOW』のキャッチフレーズを絶賛するのは、上記のターゲットが世代背景から「ツヤ」という言葉に飛びつくからというわけではない。
 既述の如く評価は「40代女子」という部分である。いくら世代的にバブっていていたとしても、誰もがいまだに「ツヤ」に飛びつける年代ではない。「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」で有名な詩人・林芙美子が夭逝した1951年とは年代が違うが、生あるものにとって時の流れが厳しいことに変わりはない。
 そんな現実をさらりと受け流して、「ツヤと輝く」べく生きている人もいる。創刊号の表紙には中央に大きく「私たち40代、輝きます宣言!」と書いてある。さらに小さく「好きに生きてこそ、一生女子」という言葉も添えられている。「一生輝いて、女子であり続けること」を宣言しているのだ。この宣言の如き覚悟がある人こそ、誰が年代と言葉のギャップがあると言おうが「女子」を名乗れるのである。表紙には「最強の40代女子登場!」として、代表選手としての小泉今日子(44歳)とYOU(46歳)が微笑んでいる。

 世間に向かって「アラフォーのみなさーん!」と呼びかければ、定義されている35歳~44歳、とりわけ中心である28~42歳ぐらいの人は、「ああ、自分のことか」と思うだろう。しかし、「40代女子のみなさーん!」と呼びかけて、「ああ、自分のことか」と思える人がどれくらいいるだろう。その年代にして、自分を「女子である」と言い張れる人は、「ツヤと輝く」べく努力を怠らず、機会があれば宣言してしまいたい人であるはずだ。
 だからといって、完全に該当する人だけをターゲットとしては、ボリュームが小さすぎる。小泉今日子とYOUの他に、記事には鈴木京香・大塚寧々・原田知世・桐島カレン・カヒミカリィなどが名を連ねている。それらに倣って「ツヤを磨こう」という層をコアターゲットとして、そこまでの不断の努力には自信はないが、「ツヤっと輝く、40代女子」に憧れる層をベースターゲットとして設定する。そして、「40代女子」「輝き」のキーワードに反応しない人はバッサリ切り捨てる呼びかけであるのだ。

 「キーワードに反応しない人はバッサリ切り捨てる呼びかけ」。「排他的キャッチコピー」ともいう。
ファッション雑誌を多数発行して破竹の勢いの宝島社とはいえ、業界環境は雑誌の衰退が顕著であり、マクロ環境は不景気が続いている。そんな中で、広くあまねく受入れられる雑誌作りなどできるはずもない。ターゲットを先鋭化しているのである。
 世の中には2種類の人間しかいない。「買ってくれる人か、買ってくれない人か」である。「誰からも愛されたい」と願っても、結局は誰からも愛されないが如く、「一人でも多くの人に振り向いてもらって買ってもらいたい」と思ってターゲットを幅広くしても売れないのだ。

 「ツヤっと輝く、40代女子力!」。いいじゃないか。応援したい。


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2010.10.27

バンダイが放つ「のだめ化粧品」の狙いは何だ?


 玩具のバンダイが化粧品?しかも、キャラクターが「のだめ」?…。いくつも疑問符が頭に浮かんでしまう記事が日経MJ10月26日のファッション&リビング欄に掲載された。しかし、そこには同社の戦略と願いが込められているように思われる。

 記事のタイトルは「不慣れでも使いやすく バンダイ 化粧品新シリーズ」とある。「メークに不慣れでも使いやすい点をアピール」とキャプションが添えられた商品パッケージ写真に描かれているのは、まごう事なき「のだめ」だ。上野樹里と玉木宏が主演し、テレビドラマから後に映画までされて大人気になった『のだめカンタービレ』。二ノ宮知子が描く原作漫画の主人公「のだめ」こと「野田恵」と、作品中にのだめ手製の着ぐるみとして登場する「マングース」の絵が描かれている。

 日経MJの記事はバンダイが19日にリリースした内容が元になっている。ネット上では毎日新聞配信のYahoo!ニュースで確認できる。
 <バンダイ、「クレアボーテ お悩み解消コスメシリーズ」を発売>
 http://tinyurl.com/24ruszo
 記事では<『お悩み解消コスメシリーズ』は、女性がもつメークへの様々な悩みを解消する新しいコスメシリーズです。人気マンガ「のだめカンタービレ」の主人公である野田恵(通称:のだめ)をイメージキャラクターとして、のだめのようにお化粧に慣れない女性や苦手な女性でも簡単に、上手にメークが出来るように開発された商品です>としている。商品の第一弾は、昨今のメークのキモであるアイメークには欠かせないながら、失敗すると痛い目を見るアイライナーとマスカラの使い勝手と仕上がりの良さを高めた商品だという。

 「何でバンダイが?」と思うところだが、リリースにあるように、バンダイには「クレアボーテ(Creer Beaute)」という化粧品ブランドが存在する。( http://www.creerbeaute.co.jp/
ラインナップはメーク品と入浴剤、リップクリームやハンドクリームで、何らかのキャラクターとコラボしている。特に注目は11月15日発売予定の「お悩み解消シリーズ」に先行して販売されている2つの有名キャラクターシリーズだ。
 10月15日から発売されているのが「峰不二子コスメ」。いわずと知れた『ルパン三世』の永遠のヒロインがキャラクターとなっている。ブランドのコピーには「強さ・美しさをコンセプトに、機能性と不二子のイメージを融合。使うたびに、不二子から強さと美しさをもらえるコスメシリーズです。」とある。2種のマスカラ、アイライナー、2種のリップグロスがラインナップされている。

 10月に「峰不二子」、11月に「のだめ」と、矢継ぎ早に展開されているが、「クレアボーテ」は2006年に同社新規事業室に設置され、F1層(20代~30代前半女性)ターゲットの化粧品を開発してきた歴史がある。そして、コスメのクチコミサイトでも何度もNo1.を獲得している「ベルサイユのばら」シリーズを3年前に世に送り出した。

 「ベルサイユのばら」シリーズの商品には、現在はアイライナーとマスカラ、スキンケアマスクと入浴剤がある。特にマスカラ、アイライナーは、お姉様フェミニン系の「Ray」、大人オトメ系の「bea’s UP」、ギャル系の「小悪魔ageha」と現在でも幅広いファッション誌で紹介されている。
 同シリーズの特徴は何といっても商品パッケージで、「ベルばら」の通称で誰もが漫画・アニメのキャラクターがデカデカと描いてある。池田理代子の描く人物の特徴である、誇張されたまつげや目元、強い目力(めぢから)が、マスカラやアイライナーの威力を無言で訴えかけている。

 化粧品の機能性や成分を全面に打ち出すのではなく、キャラクターによって「こんな風になれる!」と訴えかける手法の競合商品も存在している。

 2007年から商品展開を行っている「美肌一族」。2006年に商品に先行して携帯小説を配信。さらに2008年には小説を元にしたコミックの発売や、テレビアニメを放送するなどのクロスメディアで展開し話題を獲得して商品認知と販売に成功した。販売しているのは2005年7月設立の「株式会社ラブラボ」。社長はファッション誌JJの読者モデル&ライター出身だ。
 「美肌一族」は「美肌」だけに、スキンケア商品が中心で、「クレアボーテ」のラインナップとは一部被っているが全面競合ではない。クロスメディアのカギともなったアニメ化を、バンダイのガールズトイ事業部にある成人女性向け商品の企画チーム「バンダイフィル」と組んで実現させたという経緯(日経トレンディネット2008年11月18日)があるからかもしれない。

 キャラクターで訴えかけるパッケージの化粧品で完全競合となるのは、文政8年(1825年)依頼の歴史を持つ老舗、「株式会社伊勢半」の「ヒロインメイク」シリーズだ。「ベルばら」や「美肌一族」同様、目元を強調し、金髪巻き毛などの懐かしき昭和の少女漫画のヒロインを彷彿とさせるキャラクターが全面に押し出されている。有名キャラクターではないものの、商品のキャッチコピーがキャラクターと同じくらいに目立ち、効果を挙げている。「もっと天まで届け!マスカラ」「泣き顔美しいアイライナー」「唇よ咲け!リキッドルージュ」「揺るがぬ美肌 マット化粧下地」…などなど。ラインナップはアイメークを中心にメークアップ用品とベースメークまでと幅広い。同社社史を見ると、発売は2005年かというから、ほぼ同時期に展開された競合ではあるが最古参であるようだ。

 競合環境が激しい、目元ぱっちり少女漫画キャラクター化粧品。展開されているのはセルフ販売のドラッグストアやコンビニで目にとまり、手に取らせるインパクトが重要なため、見た目も似てきてしまっている。そこで、バンダイは今回、ターゲットをずらすことを狙ったのだと思われる。
 化粧品購入価格は低価格傾向を強めている。大手化粧品メーカも1000円未満の「3桁コスメ」への参入が相次いでいる。そこで、少女漫画ばりに目元をキメるアイメークにこだわる年齢層の少し上を狙って、「峰不二子」を投入したのではないか。
 それ以上に期待していると思われるのが、今回の「のだめ」だ。あえて、「ベルサイユのばら」という作品名や、「峰不二子」というキャラクター名をにしなかったのは、「のだめカンタービレ」がそれらほどメジャーでなかったり、「のだめ」のキャラクターのインパクトが弱かったりということではないだろう。もっと、作品やキャラクターへの思い入れや同一化以上に、「お悩み解消」という消費者に課題解決を訴えたかったのだろう。
 確かに作品中で主人公の、のだめこと、野田恵が化粧をしてひどい仕上がりになるシーンがある。しかし、そのいわれを知らなくとも、化粧に自信のない層や、まだ慣れていない若年層などはターゲットになり得る。
 リリース記事によると、<クレアボーテのホームページでは、動画でメイク方法をご覧いただけます>(現在は準備中)とあり、至れり尽くせりの構えを見せている。うまくターゲットを顧客化し、ファン化できれば、さらなるラインナップを拡充してクロスセリングを図ることも大いに期待できる、なぜなら、「ベルばら」や競合商品のターゲットは、もともとメークに関心があり、より効果的に(しかも安価に)仕上げたいと願う人々だ。「のだめ」のターゲットは自信がなかったり、慣れていなかったりする人であるため、囲い込みがしやすいといえるだろう。

 そもそも、バンダイが化粧品に参入する狙い。そして、さらにターゲットを拡大して取り込もうとする狙いは、同社のホールディングカンパニーであるバンダイナムコホールディングスの連結決算から見えてくる。全面的な減収減益で、営業利益は-90%を超えている。玩具もゲーム・アミューズメントも苦戦している。今後も少子化は加速し、本業への影響は免れない。キャラクターやコンテンツを活用するというシナジーを活かし、新たな顧客と接点を作り、新たな領域のビジネスを展開することが欠かせないのである。
 バンダイの化粧品事業「クレアボーテ」はまだ、本体の中にある。このブランドが成長して、分社するぐらいの成功を見せるのか、今回の「のだめ」の化粧品だけでなく、今後にも注目してみたい。

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2010.10.26

ガリガリ君とサーティワンアイスクリームで考える販売チャネルとターゲット

 暑かった今年の夏、アイスの需要も爆発的に高まった。大定番商品・赤城乳業「ガリガリ君」は、1日の生産100万本といわれる能力(Wikipediaより)を持ってしても生産が追いつかず、店頭から姿を消した。これは一つの伝説になるであろう。同じくアイスの定番ブランドではあるが、店舗販売にこだわるサーティワンアイスクリームもこの夏、7月に全国1,000店舗の展開という記録を達成した。

■誕生と成長

 ガリガリ君は、1981年に赤城乳業が世に送り出した。当初の販売チャネルであった駄菓子屋やら、当時台頭し始めたコンビニエンスストアをメインに切り替えて専用期間限定フレーバーの投入をしたことも奏功。売上げは順調伸び、1994年に販売本数6600万本を達成した。しかし、その後、競合の出現や若年女性層からのガリガリ君キャラクターの嫌忌により売上げが鈍化することとなった。
 サーティワンアイスクリームが日本に上陸したのはガリガリ君よりもだいぶ早い年代であり、1973年のことだ。米国のバスキン・ロビンス社と不二家の合弁である。83年にサーティワンアイスクリームは店舗の全国展開を達成し、店舗数は200店になった。その後は生産設備の整備や安全性向上、ブランド向上、JASDAQ上場、フランチャイズ契約のしくみ見直しといった内部固めに入り、2002年までに100店舗を増やすに留まるという成長の踊り場を迎えている。

■第二の成長

 ガリガリ君は2000年に不評のキャラクターデザインを改良。それを機に「ガリガリ君」の商品名を連呼するCMを投入し、販売チャネルや地域の拡大に勢いを付け、シーズンごとにフレーバーを出す戦略で年間商材となった。最大の年間量は2億5500万本で2008年に記録した。「日本一売れているアイス」の座を獲得したのは、2000年当時の施策をきっかけとし、その後もきめ細やかなプロモーション展開や生産体制の充実を行ったことによるものだ。
 2002年に全国400店だったサーティワンアイスクリームは、その後2006年まで、毎年100店舗を順調に出店し800店舗を数えるようになり、その後2年毎に100店の出展を重ね、2010年に1,000店舗を達成した。

■サーティワンアイスクリームの店舗数躍進の理由

 ここまでの記述は「ガリガリ君」に関してはWikipediaを参考にした( http://tinyurl.com/2ccnlb )。もう一方のサーティワンアイスクリームに関しては、同社ホームページの企業情報の沿革を参考にした( http://tinyurl.com/27529cx )。
ガリガリ君の販売量躍進のヒミツはわかったが、(もっとよく知りたければ、リンク先のWikipediaの記述を確認されたい)、サーティワンアイスクリームの店舗数が急増した理由がわからない。と、思って調べてみると、エキサイトのコラムに情報があった。
 <サーティワンアイスクリームが増えている?!>(10月19日・exciteコネタ)
 http://tinyurl.com/23jsybp
 上記記事によれば、<イオンさんやヨーカドーさんの中に出店できるようになったことで急速に店舗数を増やすことができた>とある。サーティワンアイスクリームはもともとFC(フランチャイズ)メインの出店戦略で、直営は10店舗しかない。それまでと全く異なるFC出店戦略の策定とその契約獲得がターニングポイントだったのである。

■ターゲットは誰なのか

 ガリガリ君は今日、おとなから子どもまで幅広い顧客層から愛され、購入されている。麻生太郎元首相もファンと公言しているし、美食で有名な俳優の中尾彬が、「日本一美味しいスイーツ」と評していることも有名だ。
 では、1000店のサーティワンアイスクリームの店頭でアイスを買っているのは誰なのだろう。前出のexciteコネタの記事によれば、<20~30年前に、女子中学生か女子高生のお客様が中心の店>だったのが、昨今は<お子さんがいる主婦の方にも人気で、そのほか年配の方や男性なども増えております>と担当者がコメントしている。
 アイスといえば「こどもの食べ物」という先入観にとらわれず、あくまで幅広い年代に受入れられるような工夫をしてきたことが、ガリガリ君の2億5500万本達成のヒミツであることは間違いない。また、サーティワンアイスクリームも「女子中・高生向けのお店」ではなく、「子連れ主婦」をターゲットとしてイオンやヨーカドーなどのスーパーにFCを広げたことが1000店達成のポイントである。
 ガリガリ君とサーティワンアイスクリームのターゲット拡大には、一つ重要な示唆がある。それは「顧客は歳を取る」ということだ。
 80年代前半にガリガリ君はコンビニをメインの販売チャネルとした。1975年にセブンイレブン第1号店が誕生したコンビニ業界も、80年代前半はまだ「若者中心」であったが、今日ではオトナ・中年・熟年の買い物スポットだ。麻生元首相はわからないが、美食の中尾彬氏も行くだろう。同年代男性もしかりだ。その層をファンとしてしっかりつかんでいることが成功のポイントである。
 同様に、サーティワンアイスクリームの店舗に通った花の女子中・高生も「子連れ主婦」になる。単独の路面店にわざわざ立ち寄るのは面倒でもあり、現役女子中・高生の中に割って入る抵抗感もあるかもしれない。そうしたかつての顧客層を振り向かせるにはスーパーのFC店は絶好の接点である。

■そのターゲットでいいのか?

 幅広いターゲットに拡張することは、販売量確保と少子化対応という意味からも理にかなっている。ガリガリ君の場合は、従来からコンビニエンスストアをメインの販売チャネルとしていたため、そこで歳を重ねていくファンをがっちりと確保すればよかった。しかし、サーティワンアイスクリームは新たに、かつての顧客である子連れ主婦との接点としての店舗を設けた。そのターゲットが正しいのか検証が必要だったはずだ。

 ターゲットの検証には「6R」という考え方を用いる。
 「6R」とは、Realistic Scale, Rate of Growth, Reach, Rival, Rank, Ripple Effect,という検証ポイントの頭文字6つのRを表している。以下、その検証をしてみよう。

 ・Realistic Scale(規模はあるのか?)=300店までの順調な出店を支えてきた顧客基盤である。黙っていれば店舗から足は遠のくが、呼び戻すことができれば十分な規模はある。

 ・Rate of Growth(成長性は?)=少子化は女子中・高生の減少も意味している。しかし、オトナになっていく少女達を次々に取り込めれば成長性はある。

 ・Reach(到達可能か?)=exciteコネタには<アイスクリームとしてブランド力ついた>との担当者コメントがある。オトナになったかつての顧客にとって忘却の彼方にあるブランドではなく、近くにあれば、入りやすければ足を運んでもらえるという勝算があったと思われる。

 ・Rival(競争関係は?)=フードコートのあるスーパーにはアイスを扱っている店もあるだろうが、専業で常時31種類(実は32種類)ものアイスを揃えている魅力ある競合はないだろう。十分に競合優位がある。

 ・Rank(優先順位は?)=こどもと一緒の主婦であれば、そのこどもに食べさせることによって販売量が多くなることが期待できるだけでなく、こどもへの「刷り込み効果」が期待できる。優先順位は高い。

 ・Ripple Effect(波及効果は?)=家族を見回せば、あまり接点のなかったお父さんがいる。休日に一緒に買い物に行ったなら、家族で食べるというシーンも想定できる。その効果を期待して、新業態店の展開も09年から始まっている。「あみプレミアム・アウトレット」(茨城県稲敷郡)にアイスクリームを使ったスイーツと、ドリンク・メニューを豊富に揃え、ゆったりとしたテーブル席を備えた「カフェ サーティワン」を出店した。平日のスーパーに加えて、休日のアウトレットモールやショッピングセンターという接点構築を計画しているのだろう。

 どちらもメジャーブランドであり、同じアイスでありながら商品と販売形態の違いから一見関連がなさそうなガリガリ君とサーティワンアイスクリーム。しかし、両者の歴史をひもとき、戦略を考察してみれば、ヒットするヒミツが見えてくる。どちらも顧客をよく見て、その変化を捉え、最適な接点を構築していることがポイントなのである。


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2010.10.25

価格競争過熱・「DVDレンタル業界」の「明日はどっちだ?」

 ノーガードの殴り合いのような、果てしない値下げ合戦。…といっても、巷を賑わせている「牛丼戦争」の話ではない。「DVDレンタル市場」の話だ。

 日経新聞10月21日企業2面コラム「市場分析」の記事。タイトルなどに「DVDレンタル市場縮小加速 CCC・ゲオ 価格競争過熱 映像配信普及も逆風に」などの文字がちりばめられている。業界シェア4割で首位のTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、シェア2割で2位のゲオによる価格競争の影響で貸出枚数は増加するものの、減収減益の「利益なき繁忙」に陥っているようだ。発端は昨夏、ゲオショップが全店で旧作のレンタル料金を従来の半額、100円にするという値下げをしかけたことだ。CCCもゲオとの競合店が多い20道県で追随した。記事には「相手が値上げするまでやめない」とまでいう恐ろしい両社のコメントが掲載されている。
 両者の昨年度決算報告(2010年3月)を見ると、CCCはグループ事業のうち、TSUTAYA事業を除いて全セグメントで増益を確保しているが、本業が重く足を引っ張っている。対するゲオは得意のローコストオペレーションが奏功してか、ゲオショップの属するメディア事業も増益は確保したが、売上高は減少し、今期も回復していない。

 DVDレンタル業界はどこへ行くのか。今年9月には米国最大のチェーン、ブロック・バスターが経営破綻した。各メディアでの第一報は、「映画などのインターネット配信に代替された」と原因を伝えたが、上記の日経の記事は宅配レンタルと無人貸出機の影響を示唆し、米国での店舗での貸出率は4割に低下としている。日本の状況も対比的に記事中に散見できる。09年の国内DVDレンタル市場は対前年比15%減であり、人口減とネットの無料配信(YouTubeやニコニコ動画などか?)などに流れたことが背景としている。しかし、日本では好立地や生活スタイルの違いから依然店舗が9割であるという。

 成長戦略を考える「アンゾフのマトリックス」で考えれば、既存顧客を深掘りする「市場浸透」の施策の一つをTSUTAYAが行っていることを、10月22日の日経MJ3面「着眼着想」のコーナーで伝えている。「DVDレンタル“発掘良品” 映画通100人、名作を掘り起こす」とタイトルにある。1970~80年代の映画作品を中心に、廃盤などで姿を消した名作を、社内外の映画通が掘り起こして貸し出すサービスを始め、独自性を打ち出す取り組みをしている。それが奏功し、「発掘良品」とされた作品は新作並みの貸出稼働率を上げるほか、従来以上にない中高年のリピート促進に貢献しているという。単価アップが望めない以上、在庫回転率を高めて収益を上げることが求められる。既存顧客にいかに新たな価値を提供して、利用頻度を高めてもらうか。「発掘良品」はその一つの解である。しかし、さらなる深掘りのために知恵を絞ることが必要だ。

 ゲオの決算報告を(2010年3月)を見ると、今期同社は事業セグメントの再編を行ったことがわかる。「小売サービス事業」として、ゲオショップ、EC事業、宅配レンタル、中古衣料、総合リサイクル。「アミューズメント事業」として、複合アミューズメント、ゲームセンター、フィットネス、複合カフェである。(それ以外に不動産事業もある)。詳細は不明であるが、自社顧客に同一事業内、もしくは事業をまたいだ商品・サービスの利用を促進するための体制作りであることが推測できる。即ち、アンゾフのマトリックスにおける、既存顧客に新商品を提供・利用させる「新商品開発」である。
 既存の商品、メイン商品が低利益なら、他の事業で収益を稼ぎ出す。利益のでない牛丼戦争において「すき家」を運営する「ゼンショー」が「牛丼チェーン」というドメインを拡張して、「手軽に利用できる外食事業」というドメインで成功している例に似ている。ゲオの「小売サービス事業」と「アミューズメント事業」は、いわば「日常的なちょっとした楽しさを提供する事業」というドメインで、自社グループの顧客に提供すべき商品・サービスを開発しているのではないか。

 体制作りはCCCのお家芸でもある。新たな顧客に自社商品を提供する。古くはTSUTAYA入会時に個人情報使用のpermission(許諾)を取得し、他社の販売促進DM(ダイレクトメール)の発送代行を行うサービスがある。自社の顧客DB(データベース)を利用し、従来の「個人顧客(B to C)」ではなく、新たな顧客層である企業顧客(B to B)にサービス利用費用という新たな商品を販売する「新市場開拓」である。
 その延長線上にあるのが、今日同社が最も力を入れている事業の一つである、「Tポイントカード」だ。自社及び提携企業で顧客を囲い込んで相互に送客をして利用促進を図るその取り組みは、相互に新たな顧客に自社商品を提供する「新市場開拓」である。

 ゲオの「新商品開発」による、自社顧客のグループ内回遊の収益向上策。CCCのDM事業におけるやTポイントカードによる「新市場開発」でグループの収益を確保する一方、本業のレンタル事業においては、「発掘良品」のような既存の深掘りを行って低価格戦争を乗り切る「我慢」をしているのが、DVDレンタル業界の今日の風景であるといえるだろう。それは、映画・映像コンテンツによる配信のインフラ整備、顧客側のデバイス(端末)の普及という、今日の姿と環境が激変するまで続くかもしれない。

 21日の日経新聞の事では米国のような劇的な市場の構造変化は起きないとの見方と同時に、CCCが5年後を目処に映像配信を300億までに育てたいとしている旨を示し、シャープの端末に来春から映像配信を開始する予定を紹介している。
 環境激変の時はいつやってくるのか。意外と近いかもしれないし、まだしばらく先かもしれない。記事ではその時まで、店舗事業との両立が課題と締めくくっているが、それは両社にとって、息を止めてノーガードで殴り合いを続けなければならないことを意味している。


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2010.10.21

カルビーが小売店運営に進出するワケは何だ?

 日経新聞10月21日企業2面に「カルビー、小売店運営 3年で15店、限定品など販売 ニーズ探り開発に活用」という3段19行の比較的小さな記事が掲載された。しかし、これは単なる「アンテナショップ開店」というだけでない、大きな動きが感じられる。

 記事によれば、カルビーは<アンテナ店としての役割を担う>という店舗を<来年に都内で1号店を開業し、3年内に繁華街や商業施設に約15店を出店><京都などの地方都市も計画>という計画を持っているようだ。
 店舗規模としては<広さ平均50~70平方メートル>であるというが、<1店当り売上げは初年度は1億円を見込む>ということなので、かなりアグレッシブな計画であることがわかる。

 店舗規模をイメージするなら、コンビニエンスストアの平均店舗面積は134.7平方メートル(商業統計より)ので、だいたいその半分くらいの規模であると考えればいい。
同じくコンビニと比較するなら、1平方メートルあたりの月間売上高は 7万7,000円(中小企業庁・中小企業の経営指標の業界平均)であるのに対し、1億円÷12ヶ月÷60平方メートル(50~70の平均)=138,889円と、約倍近い売上げを見込んでいることになる。

 その高売上げを支えるのは、<北海道だけで限定販売するスナック菓子「じゃがポックル」など約25種類の地域限定商品を中心に売る。店舗ごとの限定品を開発するほか、全国のスーパーなどで売る新商品を発売前に並べる。店内調理したポテトやドリンクも提供する>という品揃えであるという。
 「現地でしか買えない」「本来、まだ買えない」という商品を買い求めようとする購入客は、情報感度が高いく、商品カテゴリに関心度が高い層であることは間違いない。そうした顧客の購買行動、商品の売れ行き、意見の収集をすることがまさにアンテナショップとしての役割である。
 もう1つポイントになるのは「店内調理したポテト」という点で、その材料の生芋はカルビーの子会社で、ジャガイモの安定供給を図るために1980年に分離独立した、原料部門のカルビーポテト株式会社が担うと思われる。同社は菓子原料だけでなく1996年より小売向け青果用ジャガイモの販売も開始しており、袋詰のパッケージに「カルビー」と書かれたジャガイモがスーパーで目にされることもあるはずだ。
 生イモに近い、店内調理メニューまで販売することで菓子に加工される前のイモの味わいなどに関する顧客の声を収集し、広範に製品開発のヒントを収集しようという意図も見える。

 カルビーが狙っているのは、「情報収集機能」だけではない。「情報発信機能」も重要視しているのは間違いない。
 アンテナショップに集まる、情報感度が高いく、商品カテゴリに関心度が高い層は「口コミの中核」ともなる。mixiやFacebook、Twitter、もしくはBlogによる口コミ情報発信が期待できる。店内調理されるジャガイモメニューを通じて、カルビーの「原材料へのこだわり」も訴求されるであろうが、それが話題になれば、ブランドへの好感度が増すだろう。地域限定商品が話題になれば、当該地域の販売に機寄与するだけでなく、お土産需要も喚起されることになる。また、発売前商品が話題になれば、発売前の期待醸成というCM以上の告知効果も期待できる。そもそ、昨今はCMの注目度も低下していることから、口コミの期待が高まるのは当然だ。また、数多く発売される新商品を一つ一つCMに注力していくより、事前に口コミで話題になった商品に後追いでCM投下量を増やした方が効率的だ。

 もう1つ狙いがあるはずだ。それは、販売チャネル対策である。コンビニやスーパーなど、大手流通グループの店舗ではPB(プライベートブランド)商品が棚の占有率を高めている。自社商品がPB商品に棚を奪われる脅威にさらされている。棚を確保するためには、まずは消費者に購入してもらい、売れ筋から外れないことと、それ以前に、CMの投下によって「盛り上がり感」を出して、チャネルの仕入れ担当者にアピールすることだ。スナック菓子では、競合の湖池屋が阿部サダヲが演じる異色のCM、「コイケ先生」シリーズで「湖池屋のポテトチップス」を訴求している。それを追って、カルビーも女優・蒼井優、プロレス選手・タイガーマスク、お笑いコンビ・ジャルジャルらをキャラクターとして、ポテトチップスを食べる瞬間の表情をハイスピードカメラ(高速度カメラ)でとらえた「ハイスピード・パリ!」シリーズを放映している。いずれも新商品ではなく、」ポテトチップスという基本商品でブランドアピールをしているのは、チャネルへのアピールという側面が高いといえるだろう。

 CMでチャネルへのアピールはできても、前述の通り、昨今消費者のCMへの関心度低下は否めない。そこで、ネットでの口コミ拡大による消費者の指名買いに期待が高まる。
 15という店舗数は、単なるアンテナショップとしてはかなり大規模であるといえるだろう。ともすれば、数を多くすることは通常の販売チャネルのでの購入とカニバリ(共食い)を引き起こし、チャネルからの反発を起こしかねない。しかし、口コミの規模拡大を狙うのであれば、消費者の接触ポイントを拡大する必要がある。そのギリギリのラインが15店舗という判断なのではないだろうか。また、「京都」という都市は、修学旅行の若者を中心として主要ターゲット層と効率的に接触できる選択であるといえるだろう。

 15店舗という規模のアンテナショップを、コンビニの倍近い1平方メートル当り138,889円の売上げで運営しようという意図は、カルビーが「ニーズ発掘機能」と「口コミ発信機能」という情報の受発信拠点を、CMなどのマーケティング・コミュニケーション予算に全額アドオンして運営するのではなく、自主独立して機能する「しくみ」として位置づけようという意図も感じられる。

 日経新聞の小さな記事から推測すると、カルビーは急速に変化する消費者のニーズ、販売チャネルの環境、コミュニケーションの効果・効率といった大きな問題に今回の施策でチャレンジしようとしていると思われる。開業日を迎えてこの目で見られる日が待ち遠しい。


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2010.10.20

【おしらせ】 雑誌掲載とセミナー開催

本日はおしらせです。

■「Think!・2010年秋号35号」(東洋経済)に寄稿しました!

 『実践的フレームワーク活用術――ビジネスの基本としての「型」を習得して「技」に昇華する』という記事を執筆しました。6ページ、薬6,000字の原稿です。
 今まで当Blogも含めて各所に執筆してきた原稿の加筆修正も含めて、「フレームワークを学ぶ意味と使用上の留意点」「代表的なフレームワークとヒット商品分析による活用事例」の2つのテーマにポイントを絞ってまとめました。
 雑誌は10月18日(月)に店頭に配本されています。是非、ご覧ください。

  実践的ビジネストレーニング誌 『Think!』 2010年秋号35号  特集:成熟社会を勝ち抜く問題解決力2.0
  定価:1,890円(税込)
  http://www.toyokeizai.net/shop/magazine/think/


■セミナーを開催します!

 過去、何度も開催し、毎回ご好評をいただいているセミナーを、最新事例を加えて再度開催します。

 新版・たった3時間でマーケティングがわかる!つかえる!
 マーケティングのフレームワークで読み解く「あれがヒットしたワケ」「なぜか顧客が離れないヒミツ」
 

 フレームワークは書籍で読んだだけでは身につきません。
 また、身近な事例・商品を興味を持って分析することによって、より深く理解することができるようになります。
 金森オリジナルの実際のヒット商品・マーケティング事例を元にした、コネタ、ショートケースを用いてインタラクティブレクチャーと、一部グループワークでフレームワークを3時間背習得するセミナーです。

 ・開催日:11月17日(水)・25日(木)・各日18:30~21:30(両日とも内容は同一です)
 ・会 場:最寄り駅・東京メトロ・半蔵門駅
 ・参加費:10,500円(税込)
  ※東洋経済「Think!」コラボレーションセミナーのため、同誌年4冊の購入券付き!
  ※参加アンケートにお答えいただける「モニター参加」は8,400円(税込)に値引き!

 詳細とお申し込みは ↓ まで!

 ■11月17日(水)クラス https://www.insightnow.jp/communities/id/88 
 ■11月25日(木)クラス https://www.insightnow.jp/communities/id/89

 ご参加をお待ちしています!


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2010.10.18

成熟期の「食べるラー油」市場はどう動く?

 記事によれば、桃屋の通称「桃ラー」は<認知度高くい首位維持>とあり、それを追撃すべく発売されたヱスビー食品の「エスラー」は<風味引き立つ工夫>で2位。各々の販売シェアは22.7%・24.3%と僅差で常に入れ替わりがあり得る状況だ。その他のブランドは3位にフードレーベル「やみつきラー油」7.2%、桃宝食品「味わい具だくさんラー油」3.2%と2桁シェアを獲得しているブランドはない。

 「クープマンの目標値」で考えれば、激戦の競争状況から一歩抜け出した状態である「市場場影響シェア」は26.1%とされている。桃屋、ヱスビー共にこのシェアに近く、3位以下から確実に飛び出していることを裏付けている。さらに、両社のシェアを合計すれば47%となり、「安定的トップシェア」の41.7%を超えており、断然の二強体制であることもわかる。

 桃屋によって静かに発売された商品が09年10月のCM投入で一気に火が付き、生産が追いつかず店頭欠品が相次ぐ状態となった。欠乏感が煽られ、当時普及期にあったTwitterでも情報が飛び交って口コミが拡大してさらなる人気が加速した。そのブームを追って製品を投入したヱスビーの商品も市場の需要に飲み込まれて、供給不足が続くとなったのである。つまり、実際には市場に商品を大量に投入すべく生産量を増やせば、さらなるシェアアップは可能でいずれかのブランドが市場を席巻することも可能であったわけだ。しかし、記事では<スーパーでの9月の売上げデータでは前月比で若干落ち込む動きも出ている>とあり、<生産設備の増強に向けては難しい舵取りを迫られそうだ>とまとめている。

 昨今はネット環境の普及によって、口コミ力は増しており、「食べるラー油」に限らず需要が爆発的に高まる事例が散見される。また、前述の通り、渇望感から商品を探し回る人が出てくると、その現象がテレビ等のマスメディアでも取り上げられてさらに社会的現象にまで発展する。しかし、その動きに合わせてうっかりとメーカーは生産ラインを増やたら、体制が整った途端に浮気な消費者の興味が他に移り生産ラインは低稼働率。商品は余って安売り対象にしかならないというような事態も考えられるのだ。その意味では、品不足からフォロアー的なブランドが1桁シェアで乱立する状態を招いてはいるが、桃屋、ヱスビーとも冷静で慎重な判断が奏功しているといえるだろう。

 「食べるラー油」は、普及論的に考えれば、現在、Late majority(後期多数採用者)が採用する成熟期の段階にあるといえる。
 まず、早い段階で「食べるラー油」に注目し、購入・試食して口コミの核となった人は、E.M.ロジャースの「普及論」によれば、市場に2.5%存在するといわれるInnovator(革新的採用者)である。とにかく、まず新しいものに反応して試してみる特性を持っている人だ。
 次に、そのInnovatorの口コミで「これは確かに採用するに値する」とイノベーションを価値を評価して採用する層が動く。市場に13.5%存在するといわれる、Early adaptor(初期少数採用者)である。「食べるラー油」に関しては、この層が最も貪欲に店頭で商品を探したり、口コミを増大させたりした層であろう。そしてそれが、ヱスビーが後発商品を上市した時期と重なったと思われる。
 通常、この後ろに控えているのはEarly adaptorの行動を見極めて自らもそれに倣って採用するEarly majority(前期多数採用者)の16%であるが、両社の間にはChasmといわれる普及の「溝」が存在する場合ある。あまりに品物がない店頭を渡り歩く情熱は、比較的新しい者に興味を持ってはいるが、「普通の人」であるEarly majorityにはない。
 その「溝」を超えさせたのは、ヱスビーが店頭に商品を供給したことと、さらにそれでも不足した商品の代替として、外食やコンビニが市場に投入した「食べるラー油を使ったメニュー」だ。ともすれば「幻の商品」ともなりがちな「食べるラー油」を多くの人が体験した。そして、さらに後続のフォロアーメーカーが商品を続々と上市する。桃屋、ヱスビーのブランドではないが、桃屋、ヱスビー製を既に先行したて購入・体験した人や、「食べるラー油メニュー」を体験した人の話を聞いているために、他ブランドを代替的に購入することに大きな抵抗は生まれない。そして、市場に34%存在するといわれるLate majority(後期多数採用者)にまで普及し、市場は「成熟期」にいたる。

 日経MJの記事ではタイトルに<ブーム続く>とあるものの、文中に<前月比で若干落ち込む動きも出ている>という情報もあるように、需要がこのまま伸びて行くとは思われない。むしろ、どこまで踏みとどまるかだろう。ブームが継続しているのは、「食べるラー油の次」が登場していないことが大きい。次は「ご当地系調味料だ!」「生七味だ!」などといわれてはいるが、いずれもブレイクはしていない。

  Late majorityの次に控えているのは極めて保守的で頑固、なかなか新しいものを採用しないLaggard(遅延採用者)といわれる層で市場に16%存在するといわれている。正直なところ、この層が動き始める頃には、市場の流行がもう他に移っている。つまり、衰退期になるわけだ。いつ、その境界を越えるかは、次のヒット商品の登場しだいであり、故に、<生産設備の増強に向けては難しい舵取りを迫られそうだ>ということになるのだ。
 しかし、次のヒット商品が登場して衰退期に入っても、完全に「食べるラー油」が消えてしまうことにはならないだろう。成熟期から衰退期にいたる過程で力の弱い競合は市場から撤退していく。生き残った企業・ブランドは生産の効率化などによって、定番化を進めるのである。

 ブームがいつまで続くのか。次の商品の登場を楽しみにしつつ、その境目と、その時の市場の動きに目をこらしてみたい。


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2010.10.17

2つのフレームワークで見る「クリーニング業界」のこれから

 市場環境を分析する際に、何のフレームワークを用いればよいか悩むことがあるだろう。筆者のオススメとしては、まずは自分の得意なフレームワークで一度分析してみることだ。その結果、よくわからなかった所があれば、最も適したフレームワークを判断してもう一度分析をしてみるといい。
昨今、変化が激しい「クリーニング業界」を例に考えてみよう。


 「クリーニング業界」が現在どれくらい厳しい状況にあるのか、魅力はあるのかというテーマで分析をしてみるとしよう。その場合、業界内の力関係を5つに分けて分析する「5つの力分析(Five forces analysis)」が最適だ。

 クリーニング業界の現状がどのようになっているのかは、次のニュースにファクト情報が多数掲載されている。
<縮むクリーニング市場、ピークの6割減 高機能アイロンは商機>(10.17・msn産経ニュース)
 http://tinyurl.com/26t3vv3

 <2009年に家庭で支出した衣類のクリーニング代は約8000円で、ピークの1992年と比べて約6割減ったことが、総務省の家計調査で分かった。クリーニング市場の規模は推計で約8200億円から約4300億円に縮小、事業者数も減っている>という状況であるという。これだけ読めば、一見して「オイシクない業界」であることがわかるが、その原因を分析してみよう。

 記事には<家計調査によると、2人以上の世帯の09年のクリーニング代は、前年比8.1%減の8131円で、ピークの92年(1万9243円)から17年連続で減少>という記述がある。消費者の購買(利用)が大きく減少しているのである。
 「5つの力分析」では、上記は「買い手の交渉力」という要素となる。基本的には消費者が業界内の企業(ブランド)に対してどの程度スイッチしやすく、価格などへの交渉や敏感さを持つかを表す。スイッチしやすければ、力は「強い」。買い先が限られているなら「弱い」。この場合は、そもそも需要がなくなり利用しなくなるので「強い」と解釈できる。

 なくなった需要はどこへ行ったのか。この場合は、その業界の商品(サービス)を利用しなくても他で用に足りる存在がどれくらい強力かという「代替品の脅威」という要素となる。
 記事では<長引く不況で節約志向が強まり、自分で洗濯する家庭が増えたことが主因。商機とみた家電メーカーは、高機能の洗濯機やアイロンを相次ぎ投入、売れ行きも好調><服装のカジュアル化や「形状記憶」シャツの普及も一因とみられる>とある。
クリーニングに準ずる仕上げができる洗濯機やアイロン、衣類。そもそも、きちっと仕上げなくていいカジュアル衣料やファストファッションに代表される使い捨て傾向が強力な代替品であることがわかる。

 msn産経ニュースの記事からわかることは以上であるが、もう少しファクトを集めてみよう。だいぶ前の数字だが2006年のクリーニングの業界紙に以下のような記事がある。
  <後継者がいない変わる業界構造>(全国ドライクリーニング新聞社・06年12月10日)
 http://www.zendora.co.jp/002/post_515.html

  <クリーニング業の経営実態調査では、経営者の高齢化も明らかになっている>という詳細の数字はリンク先本文にあるが、結果的に<個人経営の今後の活路として、「専門店化・高級店化」を考えるところも多いが、一方で「転廃業」「取次店化」に向かうところもある>とある。つまり、一部を除いて「零細個人経営店」から「大手寡占化」に向かっていることがわかる。
 上記は「業界内の競争」という要素だ。クリーニング業界内にどのようなプレイヤーがいて、どのような戦いをしているのかを考えるのだが、ファクトを整理すると、大手寡占化によって、恐らく大手間の価格競争が激化し、大手も厳しく中小零細は生き残りの危機にある競争状態であると推測できる。つまり競争は「激しい」。

 次に「新規参入の脅威」という要素を考えてみよう。クリーニング業界は設備産業であり参入障壁が大きい。大手寡占化しており、価格競争激化で魅力も失われていることを考えると、今さら参入を狙う企業が少ないため、脅威は「小さい」。但し、零細店が大手参加の取次店に転換した「クリーニング取次業界」で考えれば、ちょっとした店舗の空きスペースがあれば参入できるため、脅威は小さくない。自分が分析している業界の定義を間違えないことが肝要だ。

 最後の「売り手の交渉力」という要素。事業を行うための原材料や機材、人的資源などの確保をする相手がどの程度強い力を持っているかである。Wikipediaに次のような記述がある。
 <クリーニング業はドライクリーニング用の石油系溶剤をはじめ、乾燥用ボイラーの燃料、包装用ビニール、配達用の自動車燃料など石油に依存した産業であり、原油高騰の影響を受けやすい>
 http://tinyurl.com/2fsocdb
 08年の石油価格高騰では悲鳴を上げた業界の一つではあるが、リーマンショックで大幅に原油価格が下落し、10~11年の展望も価格上昇のテンポは緩やかだろうといわれている。故に、売り手の交渉力の中で最も大きな要素が安定しているため「弱い」といえるだろう。

 業界の「5つの力」を見ると、「業界内の競争」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」の3つが強い状況だ。他の「新規参入の脅威」「売り手の交渉力」は弱いが、前の3つが致命的に作用している厳しい状況であることがわかる。

 これだけでも十分現状は把握できるが、今後、この業界がどのようになっていくかはわかりにくい。そもそも、「5つの力分析」は、ある時点の業界の状況を「スクリーンショット」のように切り取って見ることが得意なフレームワークなのである。

 もっと大局的に考えるために、「マクロ環境分析」を行ってみよう。フレームワークは「PEST分析」を用いる。Political(政治的な影響要因と規制事項)、Economical(経済環境)、Social(社会情勢)、Technological(技術的成熟度)という4つの影響項目のうち、どのような事項が自社に大きな影響を及ぼす要素となるのか洗い出し、それがプラスに働くのか、マイナスに働くのかを見極めるのである。

 Politicalな要素は、現在不確実であるが、予断を許さない。
  <業界構造が変わる転換の一年に>(全国ドライクリーニング新聞社・10年01月10日)
 http://www.zendora.co.jp/002/post_898.html

 <間違いではないが誤解を招く「禁止溶剤」という報道の風評被害を皮切りに、街中のユニットが減り納期や料金も変わる。廃業を選ぶ個人店も出る。当然、メーカーも変化が迫られる>という記述は報道の後に掲載された、以下の記事に代表されるような内容に関するものだ。
 <全国3万2000の8割が廃業?クリーニング業界大騒動>
 http://diamond.jp/articles/-/2342

 要旨としては「クリーニングに用いる溶剤には石油系、塩素系、フッ素系の3種類があるが、クリーニング店・工場のおよそ8割が石油系を使用しているといわれている。しかし、本来石油系溶剤は、都市計画法が定める工業系地域にクリーニング店・工場を造った場合しか使用できないと建築基準法で定められている。長年行政が看過してきたが09年7月に大手向上2社が行政指導を受けた」ということに端を発する。

 「5つの力分析」の「買い手の交渉力」に大きな影響を与えたEconomicalな要素は、長引くデフレ不況に代表される景況感だ。景気は一時期要理好転したとはいわれたものの、全く消費者には自覚できないままに、 <9月29日に発表された日銀短観(9月調査)では、日本経済は回復過程の中で景気の増勢が一時的に顕著に低下する踊り場局面に入ったと考えられます。」(野村證券/マーケットアウトルック/日本市場/経済指標より http://tinyurl.com/2vyathf )>などとも伝えられている。急速な円高も加わり、さらに不透明感も増している。可処分所得も減少することから消費者の財布の紐はさらに固く引き締められ、クリーニング代への配分はますます低下するであろうことがわかる。

 Socialの要素は「業界内の競争」に影響を与えた、業界紙のタイトルにもある「後継者がいない変わる業界構造」は、そもそ、少子高齢化に起因している。人口減少傾向に歯止めはかからないことはわかっている。後継者だけではなく、顧客も減少する。特に、団塊の世代がまもなく完全リタイアする。クリーニング不要な服装に変わっていくことも想像に難くない。前述のように、ファストファッションの隆盛は増すばかり。2005年に始められた「クールビズ」以降、カジュアル化も進む一方だ。

 Technologicalの要素は、「5つの力分析」で述べたとおりだが、「高機能の洗濯機やアイロン」「形状記憶シャツ」だけでなく、他にも洗濯機でクリーニング同様に仕上げられる洗剤・柔軟剤や、ワイシャツどころかスーツにまで過程で丸洗いできる製品が登場している。そうした製品はさらに登場し、普及していくだろう。

 「PEST分析」の結果を「5つの力分析」に重ねてみれば、クリーニング業界は、より厳しい環境にあり、その苦境の根は深く、この先も中・長期的に回復する要素が見られないということになる。
 大切なのは、上記のように一つのフレームワークで簡単に結論を出してしまうのではなく、必要に応じて複数のフレームワークでその特性を活かしながら多面的に結論を導き出すことである。しかし、それよりも大切なのは、「では、どうする?」という「結論」を出す姿勢だ。

 しかしながら、今回の「クリーニング業界を今後どうするか?」はいかにも難しい。
 正直なところ、筆者は価格競争を演じている大手クリーニング業者の今後のシナリオは描く自信はない。価格はもはや下げようがないところまできている。その状況下で価値・付加価値を上げることの難しさだ。
 一方、「大切な衣料をメンテナンスするために、高額なクリーニング代も厭わない」という層も存在する。例えば、「三越日本橋本店・暮らしのサロン」のクリーニングサービス。溶剤を用いない「ウォータークリーニング」による仕上げは、「スーツ 税込6,300円から、ダウンジャケット 税込6,300円から、ジャケット 税込4,275円から」。広く一般に受入れられる価格ではないが、「ニッチャー」のポジションを確立することも生き残り方法の一つだ。前掲の「全国ドライクリーニング新聞社」の記事にも<個人経営の今後の活路として、「専門店化・高級店化」>があるという。

 別の考え方もある。米国生まれの「Wash and Fold Service」。シャツなどだけでなく、下着、靴下やシーツまでを「洗ってたたむ」という衣類メンテナンスというより、家事の基本を提供するのだ。日本でも提供企業が登場している。提供価値の軸を変えてみることも解決の手段である。

 今回は「クリーニング業界」を題材に「5つの力」と「PEST」のフレームワークを用いて分析を行った。「モレ抜けなく分析すること」と「意味合いを出すこと」の例となれば幸いだ。


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2010.10.15

絶滅危惧種?衰退期の「スーツ市場」で、どう生き残るか?!

 この記事を読んでいるのが男性であれば、どのような服装をしているだろうか。金曜日ということもあってか、通勤時間帯もカジュアルな服装が目についた。「カジュアルフライデーか」と思いつつ、その言葉自体が死語になりつつあることに気がついた。

 スーツ姿がすっかり減ったわけだ。何しろ、この12年で「メンズスーツ市場」は半減したという。
  <服が売れない……メンズスーツ市場は12年前の半分以下>(10月6日Business Media 誠)
 http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1010/06/news067.html

 矢野経済研究所が10月5日に発表した、「国内アパレル市場に関する調査結果」が元になっている記事によれば、アパレル市場は<1991年のピーク時には約13兆円あった同市場の規模は、約20年間で3割ほど縮小した>というが、その中でも<紳士服市場の1割を占めるメンズスーツ市場は、前年比19.5%減の2330億6500万円となり、1997年に5335億円あった同市場は12年間で半減したことになる>とある。

 ピークであった12年前を思い出してみれば、1990年代後半からインターネット、通信、ITの技術的発展によって、米国で、次いで日本でもベンチャー企業が台頭を始め、いわゆるドットコムバブルとかITバブルとかいわれた現象が拡大していった時期である。どこの大学生かと思うような服装の人がフェラーリに乗ったネットベンチャーの社長だったりしていた。カジュアルウェアがビジネスの世界で拡大した時期であったといえるだろう。
 そもそも「casual」という単語の意味は服装においては「略式の」と「普段着の」との両方の意味があるが、当時のネットベンチャー文化は発祥の米国西海岸式に倣ってか後者の「普段着」的なスタイルが主であった。
 その後の男性ビジネスパーソンの服装に大きな影響を与えたのは、小泉政権下の2005年に始められた「クールビズ」だ。内閣総理大臣・小泉純一郎のアドバイスのもと、小池百合子環境大臣の肝いりで始まった施策は、当初は室温上限を28度として、その室温の中で効率的に働くことが出来る軽装全般を指していた。つまり、「casual」の意味を「略式の」と捉える主旨が強かった。しかし、アパレル各社がそのチャンスを見逃すはずもなく、単にスーツ姿からネクタイを外しただけのスタイルが「ダサイ」「日曜日のお父さんスタイル」的に捉えられる風潮があった。さらには環境省主催のクールビズのお手本的「ファッションショー」まで開催された。衣服の買い換えによる日本の経済効果は1000億円以上と試算されている。(出所:Wikipedia)

 スーツを脱ぎ捨て、「カジュアル」になった男性ビジネスパーソンたち。ふと気がつけば世界的にもスーツを着ない民族になっているようだ。

  <職場でのスーツ着用率、日本は世界で10位=調査>(8月5日・ロイター)  
 http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-16655720100805?sp=true

 記事では<調査は計1万2500人を対象に実施。職場での服装に関する意識の違いを調べるため、仕事にスーツやきちんとした格好で行くかどうか>などを質問したところ、<職場でのスーツ着用率が最も高いのはインドで、日本は10位だった>という。トップのインドは58%で、米国は37%、日本は35%だという。
 
 既に日本のスーツ族は「絶滅危惧種」であり、「スーツ」は前世紀の遺物となりつつあるのか。そうでなくとも、日本の人口は少子高齢化が進み、団塊の世代の完全リタイア後にはスーツ市場はますますプロダクトライフサイクルの「衰退期」の坂を転がり落ちていくことになる。
 しかし、日本にビジネスシーンから「スーツ姿」が完全に消え去ることは、恐らくない。市場は極端に縮小したパイの食い合いになるのである。

 1993年から2003年が「失われた10年」と呼ばれていた日本経済は、2008年においても長引くデフレ不況から抜け出せないでいた。そこに米国発の「リーマンショック」が直撃した。いつの間にかメディアに記される文字は「失われた20年」と書き換わっており、まだしばらくは出口が見えないことを予感させた。
 不景気の中、手っ取り早く消費者の歓心を買うには「価格訴求」に限る。大手流通や紳士服専業量販各社は1万円を切るスーツをこぞって発売した。折しも「超・就職氷河期」に突入し、スーツ1着では活動が終えられないリクルート学生や、お小遣いが極限まで削られたお父さんたちに歓迎され、激安スーツは売れに売れた。しかし、2010年に入って潮目が変わったようだ。

  <9800円スーツ売れ残り 百貨店「安売り戦略」に異変>(J-CASTニュース・5月17日)
 http://www.j-cast.com/2010/05/17066679.html?p=1

  記事では< 松屋銀座で9800円スーツがセール初日に完売した2009年から一転、10年はセールから1週間経っても売れ残っているという。代わりに売れているのが高級生地を使った3、4万円台のスーツだ>などと、百貨店担当者の「客単価上昇、景気が多少戻ってきた感じ」というコメント共に<消費者が価格重視から品質志向にシフトしているようだ>と伝えている。

 紳士服量販店も高価格帯を狙いにきた。10月15日の日経MJファッション&リビング欄に「はるやま、記事厚めのスーツ 海外企業と開発」という記事が掲載された。中高年の富裕層を狙い、流行の軽くて薄いイタリアメーカーの記事ではなく、中高年から根強い支持のある英国生地を用いて61,950円などのスーツを売り出すという。決して高級スーツの価格ではないが、レディーメイドでもあり、廉価なイメージのある紳士服量販店の商品としては高額だといえる。
 しかし、今日の潮流は、前出のJ-CASTニュースの記事が指摘するように、「高額品」が支持されているのではなく、「品質志向」へのシフトであることがポイントなのだ。

 少し前の放送だが、日経スペシャル「ガイアの夜明け」5月18日の放送では、『銀座デパート最終戦争~百貨店は新しい価値を作り出せるか?~ 』というテーマが放映された。
  http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber/preview100518.html

  「銀座スーツ戦争 松屋銀座の大勝負」という話題では、百貨店紳士服苦境の中、09年に対前年比160%という記録をたたき出した松屋のバイヤー、宮崎俊一氏が仕掛ける有名なスーツ販売催事「銀座の男市」の仕掛けが紹介された。同催事では目玉商品として、完全ハンドメードで3万5000円という常識破りのスーツが人気を博する。それこそがまさに、「品質志向」を示すものである。

 商品の「価格」と「価値」の関係は、「安かろう悪かろう」から、「高くて高品質」まで、概ね正比例を示す。それを「バリューライン」という。バブル経済華やかなりし頃は、「高くて高品質」がもてはやされ、ともすれば、「価格が高いこと」自体が価値ともされて、「高くてそこそこの品質」や「高くて品質が低い」ものまでが売れた。今日ではあり得ない話だ。さらに、今日では「価格なりの品質」であるバリューライン上の商品も売れなくなっている。それが、J-CASTニュースが伝えた9,800円スーツが売れ残る理由である。
 大手流通も1万円以下スーツが売れなくなることを黙ってみているわけではない。
 イオンは跳んでもはねても快適に着られるストレッチ製法で、水を被っても平気な撥水加工まで施してあるスーツを7,800円で発売している。「イオン アクションストレッチスーツ」。その商品特性を見事に表現したCMも大量に投下されている。
 http://www.youtube.com/watch?v=tIZOhEnL6Yw (YouTube動画)

 「高価で高い品質」の商品で勝負する戦略を「プレミアム戦略」という。「安さに徹して品質も低くする」戦略は「エコノミー戦略」という。バリューライン上の高低両端のポジションだ。「銀座の男市」に代表されるのは、「中価格で高い品質」を実現する「高価値戦略」。7,800円で機能てんこ盛りのイオンのスーツは「低い価格で中程度の品質」に高める「グッドバリュー戦略」である。共に、バリューラインを超えたポジションを実現しているのである。

 バリューライン上の究極のポジションは「低価格で高価格品と同等の品質」を実現する「スーパーバリュー戦略」である。しかし、その実現は容易ではない。
 少子高齢化と服装のカジュアル化で市場のパイの縮小が続く紳士スーツ市場。生き残りのためには、その困難なポジションをスーパーや量販店という本来の廉価市場のプレイヤーと、百貨店などの高額品市場のプレイヤーが共に狙いに行くことは間違いない。まさに生き残りのための知恵と力比べが続くのである。


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2010.10.13

ミルク入り登場?ブレンド茶戦線異状あり

 アサヒ飲料のニュースリリース。「ミルクを加えたクリーミーな十六茶!」が発売されるという。いわゆる「ミルクティー」ではない。十六茶は複数の茶葉や原料で淹れた「ブレンド茶」というカテゴリーの商品である。1993年の発売以来17年を経て、十六茶がミルクと邂逅することとなった背景は何だろうか。

 アサヒ飲料ニュースリリース http://tinyurl.com/2dyslw8

 リリースでは、「穀物由来の香ばしい香りと、ミルクのクリーミーな味わいがマッチ」とある。「紅茶の香りとミルクのマッチングは大好きだけど、香ばしいのは何だかちょっと抵抗あるなぁ…」と思ってTwitterでツイート(つぶやき)してみた。するとフォロアーの方から、「スタバのほうじ茶ラテを思い出しました。ミスマッチですが、オーダーしている人は結構見かけました。私も試飲しましたが、意外とイケます。」とのレスポンスが。うーん、確かにそう考えればアリかもしれない。しかし、ブランド本体から商品を派生させる「ブランドエクステンション」は失敗すると本体ブランド価値を棄損するという影響がある。

 ブレンド茶カテゴリーの歴史を振り返ってみよう。

 カテゴリーを最初に開拓したのは、十六茶だ。 最初の発売年とされている93年とは、 シャンソン化粧品が1985から年ティー・バッグタイプの「十六茶」を発売していたものを、アサヒ飲料缶・ペット容器入り飲料「お茶どうぞ」シリーズのサブブランドとしてとして発売した年だ。大ヒットとなり、97年には「十六茶」ブランドとして独立。99年に累計出荷数が1億箱を記録したという。(Wikipedia及びアサヒ飲料ホームページを参照)
 しかし、飲料業界のリーダー企業、日本コカ・コーラが同質化戦略を仕掛けてきた。「爽健美茶」を93年に茶系飲料「茶流彩彩」のサブブランドとして発売を開始。十六茶の売上げをじわじわと浸食し、99年の大ヒットを経て単独ブランドとして独立した。(Wikipediaより)。シェアは完全に逆転し、ブレンド茶カテゴリーの約7割を爽健美茶が占めるに至ったのである。さらに日本コカ・コーラは2006年5月に「からだ巡茶」を発売。ブレンド茶カテゴリーを無敵の2トップ体制で盤石なものにしたのである。

 チャレンジャーが現れたのは2008年5月のこと。キリンビバレッジから12種の素材をブレンドした「潤る茶」が発売された。CMキャラクターに人気絶頂の仲間由紀恵を起用し、力を入れた。さらに翌年、ミネラル(カリウム)・ビタミンC、さらにコラーゲンといういかにもカラダが潤いそうな原料を加えパッケージを改訂。CMも大量に投下した。しかし、検討空しく、2010年4月、発売中止となった。

 再びカテゴリーの戦いが激化したのは潤る茶が静かに市場から姿を消した同年同月。まずは、アサヒ飲料が十六茶でカテゴリー首位奪還をしけた。爽健美茶に対する明確な差別化を図りリニューアル。パジャマ姿の新垣結衣をCMに起用し、「朝ブレンド・カフェイン0」とパッケージに明記したのだ。原料由来で若干カフェインを含有する爽健美茶の弱点を突いたのである。
 そこに割って入ったのが、キリンビバレッジだ。まさかの「生茶」ブランドをエクステンションしたブレンド茶を投入。ジャニーズのNEWS・山下智久が「どっちの生がいい?」と問いかけるのは従来の緑茶ともう一方こそが、潤る茶の弔い合戦とばかりにコラーゲンを投入した「生茶 朝のうるおうブレンド茶」なのだ。

 生茶も踏み出した「ブランドエクステンション」に話を戻そう。
 派生商品に既存ブランドを冠して、知名度や信頼性が得られやすい状態で上市する。生き残りの厳しい市場での生存確率を高める手法でもある。特に新商品を絶えず発売してブランドそのものを存続させることが求められる食品や飲料の世界では、常套手段であるともいえる。ブレンド茶カテゴリーでは、爽健美茶が2007年から期間限定商品を年に数種発売する戦略をとっている。そして、2009年8月の「爽健美茶 黒冴」発売で本格的にブランドエクステンションに乗り出したといえる。期間限定商品ではなく、継続したブランドに育成すべくCMも大量に投下した。そして、何と、そのターゲットは男性なのだ。
 「爽やかに、健やかに、美しく」を意味する商品名。美しい女性CMキャラクターを用いたCMを連続投入して築き上げたブランド。それを、男性向けに共用する。
 ブランドエクステンションで従来と異なるターゲットを設定した場合、既存ターゲットの離反が懸念される。烏龍茶成分を主とした「黒冴」は、「爽健美茶」ブランドの認知度と信頼性で、これまた激戦区である烏龍茶カテゴリーユーザーを吸引することができる。反面、危険な賭けでもある。賭けに打って出られたのは、そもそも爽健美茶のユーザー層が男性にも拡大していたことと、女性ターゲットを自社後発のからだ巡茶がしっかり囲い込めるように成長していたからだと思われる。

 生茶をブランドエクステンションした、「生茶 朝のうるおうブレンド茶」は、CM大量投下、山下智久の語るメッセージ、「どっちの生がいい?」は裏返せば「どちらも生茶である」というendorsement(裏書き・保証)の成果か、市場に受入れられ売れ行き好調のようだ。

 では、ミルクを加えたクリーミーな十六茶であるところの、「ラテブレンド 十六茶」はどうだろうか。
 茶葉+ミルクといえば、紅茶のミルクティーが一般的であり、現在各社がしのぎを削っているカテゴリーだ。ヒットのポイントは、糖類ゼロで低カロリー化したことによる。そして、その主たるターゲットは男性層だ。紅茶カテゴリーでヒット商品が乏しかったアサヒ飲料は木村拓哉をキャラクターに起用した「TeaO(テオ)」がヒット中だ。ミルクティー以外はカロリーもゼロ化しており、「甘い紅茶で癒される」と男性層を中心に売れ行き好調である。
 筆者のような中高年男性にとっては、「低カロリーで甘いミルクティー」は癒しにもなって、受入れやすい。しかし、保守的な嗜好からは「ブレンド茶の香ばしさや独特の風味とミルクは合うのか?」と疑問を抱いてしまう。
しかし、ブレンド茶カテゴリーは女性層の支持が高い。十六茶ブランドは認知度・信頼性も十分だ。そこで、女性をメインターゲットとして茶葉+ミルクの文脈で「ラテブレンド 十六茶」が誕生したのではないかと思われる。

 「ラテブレンド 十六茶」の発売は11月2日だという。果たして、ブランドエクステンションは成功するのか。女性層の反応を見つつ、オジサンも試してみようと思う。
どのような味なのかまだわからないが、もしかしたら今年2月2日に新発売され、1ヶ月で年間販売目標の半分を売り切ったという「キリン 午後の紅茶 エスプレッソティー」のようなメガヒットになるかもしれない。


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2010.10.11

得意技と必殺技・パナソニック対タニタの「活動計」対決!

 痩せたい!モテたい!このメタボなお腹を何とかしたい!健康志向の高まりという社会の流れに加えて08年4月からの「メタボ検診」の法制化以来、「ダイエット」は老若男女・全国民的な関心事になっている。そこに健康志向という新た軸を加えた対決が始まっている。

 そのそも「ダイエット」の本来の意味は「美容・健康保持のために食事の量・種類を制限すること(広辞苑第6版)」である。しかし、昨今は広義の日本語として痩身目的の運動までを含めて用いる場合が多い。また、結構ブームの一例としては、来年11年2月開催予定の東京マラソンは定員3万2,000人に対して29万4,469人が応募と、実に倍率有9.2倍にも及んだという。
 「マラソンまでは無理だけど、せめてウォーキングから…」という層も中高年だけでなく女性にも拡大している。漫然と歩くだけでなく、目標を決めて成果を確認するツールとして「歩数計」の販売も拡大し、少し古いデータだが<2007年の歩数計の販売台数は540万台程度と、2年前の2005年に比べて1.4倍拡大した>(SMBCコンサルティング)という。
 さらに機器は進化し次なる主戦場は「活動量計」に移行すると予想される。

 日経新聞10月7日新製品欄・「新製品バトル」のコーナーにタニタとパナソニックの活動量計の比較が掲載されていた。そもそも「活動量計」とは、歩数計が歩行した歩数を計測することを基本とし、それによるカロリー消費量などを計算・表示する機能を有するものをいう。それに対して活動量計は、特定の運動・特定の時間だけでなく家事や仕事などのあらゆる日常活動における動きを計測し、消費カロリー量を算出してくれるのだ。
 マラソンに挑戦しようという超健康志向アクティブ層はいうに及ばず、ウォーキングという軽い運動すら継続の自信を持てない人も多い。だからといって、諦めるわけにはいかない。そんな層にとっては歩数計と活動量計の違いは大きい。ダイエットのためにはとにもかくにも、『摂取カロリー < 消費カロリー』の状態を継続するしかない。日常の活動全体の中で、目標達成に足りない消費分知ることができるからだ。そうすれば、消費を補う運動をするなり、摂取する食事量を制限するなりと手立てができる。格段にダイエットの成功率が高まる(と、思うことができる)。

 さて、パナソニックとタニタの活動量計は両社の戦略ポジションを如実に表した製品となっている。
 記事で紹介されているパナソニックの「デイカロリEW-NK30」のウリは、「ダイエット目標設定」。<減らしたい体重を入力すると、一定期間で目標を達成するのに必要な1日の消費カロリーが自動で設定される。目標設定まであと何キロカロリーの消費が必要で、そのためには時速何キロで何歩歩くなど具体的なアドバイスがある>(日経記事より)という。実売価格で4,000円前後と、手ごろな価格に設定されている。
 一方のタニタの新製品は「カロリズムスマートAM-121」。前機種の容量を40%縮小するなどの改良を加えたというが、何よりのウリはタニタの独自技術にある。記事中には記述が小さいが、<消費カロリーや脂肪燃焼量のほか、安静時の代謝などを計測・表示する>という。ぼーっと座っている時も、寝ている時も、「基礎代謝」によってカロリーを消費している。つまり、1日分丸ごとの消費カロリーを元に、『摂取カロリー < 消費カロリー』を実現すべくトライできるのだ。そのメカニズムはタニタのホームページ( http://tinyurl.com/24vymmn )に詳しいが、それこそが、タニタならではのUSP(Unique Selling Proposition=競合が実現し得ない自社独自の提供価値)である。実売価格は競合のパナソニック製と比べて倍の8,000円前後である。

 ダイエットに関しては、タニタは計測器メーカーとして体重計、体脂肪計、体組成計、血圧計、歩数計などの専門。特に体脂肪計はシェア№1だ。それだけではない。自社の社員食堂のメニューをまとめた『体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食』(1200円、大和書房)が、2,010年1月末の発売から約2か月で、8万5000部を販売。「ダイエットのサポートといえばタニタ」というニッチな領域でのブランド価値を高めている。

 ダイエット計測機器、活動計の精度のスペシャストに対する家電業界のリーダー企業、パナソニックの戦略は、リーダー企業の定石「同質化戦略」である。松下電器時代、とかく「マネシタ電器」と揶揄されたように、下位メーカーが開発・上市してヒットし始めた商品をスピードに勝る開発力を活かして迅速に模倣。強大な販売力であっという間に市場を席巻するのが『得意技』であった。単に模倣するだけではない。同等の製品を規模の経済をで低価格で商品化する「コストリーダーシップ戦略」の典型でもある。
 追われる立場となるタニタの戦略は、「コストリーダーシップ戦略」に対抗する「差別化戦略」に徹することだ。原材料の調達力やチャネル支配力に依存する販売量に劣るため、コストでは勝負できない。価格を下げるのではなく、機能を高めることで差別化を図るのである。つまり、リーダーが真似できない『必殺技』で対抗するのだ。

 パナソニックの「デイカロリEW-NK30」は恐らく、記事にあるような「アドバイス機能」を前面に出して、手軽に、しかしアクティブにダイエットに取り組もうという層を狙った展開を行うと思われる。手頃で試しやすい価格もそれを狙った設定であり、リーダー企業だからこそ実現できるものだろう。
 一方のタニタの「カロリズムスマートAM-121」はパナソニックの倍の価格妥当性をいかに消費者に納得させるかがキモとなるだろう。そのためには、「安静時代の謝機能測定」とその重要性を訴求し、それを必要とするターゲット層を絞り込み、活用方法の説明、メッセージを展開することにかかっているといえるだろう。

 同種のカテゴリーで全く異なるポジションの企業が、「得意技」と「必殺技」で戦う活動量計市場。パナソニック対タニタからは目が離せない。さらに、9月から医療機器メーカーでありながら一般向けには体温計・血圧計などで有名なテルモも市場に参戦した。どのような戦い方のでるのかも楽しみである。


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2010.10.06

「和魂洋才」の心を持った「ハイブリッド・イグアナ」誕生?

 アジア最大級の家電・IT見本市「CEATEC JAPAN2010」が5日から幕張メッセで開幕したが、「アップル対抗」をあらわにしたともいえる、電子書籍端末やスマートフォンが実に面白い動きを見せている。

 電子書籍の配信からスタートする、シャープのグラウド事業“GALAPAGOS(ガラパゴス)”の専用端末。商品名が「自虐的」とも揶揄されるが、シャープは広報の発表で<常に新鮮なユーザー体験をもたらすサービスと端末の「進化」の象徴として、イギリスの地質学者・生物学者のチャールズ・ダーウィンの「進化論」で有名なガラパゴス諸島に由来」>していると発表している。

 Twitter上ではかつてのシャープのキャッチフレーズ「目の付け所がシャープでしょ」をもじって、「目の付け所がガラパゴス」ともツイート(つぶやき)されていたが、言い得て妙というか、それこそがこの商品の本質を突いている。ガラパゴス島の生物は、島の外来種に必死に対抗して生きている。外来種とはアップルのことに他ならない。
 シリーズには2つのサイズが用意されていて、「5.5型モバイルタイプ」と「10.8型ホームタイプ」である。アップルのiPadは持ち歩くには大きく、かといって、3.5インチのiPhoneのサイズではちょっと(筆者の年代では非常に)つらい。5.5型のモバイルタイプは、いってみれば、文庫本サイズともいうべき大きさで、混んだ日本の通勤電車で使用するにはもってこい。狭い島国の地の利を活かした展開であるといえるだろう。

 コンテンツの配信方式も、驚くべき提携が発表された。10月5日の日経新聞。
 <シャープ・CCC提携 TSUTAYAのノウハウ活用 電子書籍や映画20万点>
 記事によれば、両者は合弁会社を11月にシャープ49%、CCC51%出資して設立。ガラパゴス向けにまず12月から電子書籍3万冊を、来年3月以降マンガ、映像、音楽、ゲームなど配信を拡大するとある。
 米国ではコンテンツ配信はアップルがアップルストアで独占支配している。その陰で、米国最大のレンタルビデオチェーン、ブロックバスターがレンタル需要の落ち込みで、9月22日にニューヨークの連邦破産裁判所に連邦破産法第11章(チャプター11)の適用申請をした。シャープとCCCの提携は米国と極めて好対照であるといえるだろう。

 日本人は元来、外部のものを取り入れて、自国の文化や思想・技術と融合させるのが得意である。岡倉天心は「和魂洋才」、伝統的な精神を忘れずに西洋の文化を学び、調和を図れと説いた。また、聖徳太子も「憲法十七条」で「和を以て貴しとなす」と説いた。「カドを立てるな」と誤読されがちな言葉だが、本来は、派閥・党派に偏らず、互いに睦まじく話し合いをして合意すれは、道理にかないものごとが成しとげられるようになるという意味だ。
 シャープのGALAPAGOSは、アップルの端末を日本の事情に合わせて最適化しつつ、メディア配信の覇権を握るのではなく、相互メリットのある提携関係を構築して市場を拡大しようという動きであると読み取れる。極めて、良き日本的な展開であるといえるだろう。

 一方、より、南の絶海の孤島「ガラパゴス島」的な展開を見せているのがスマートフォンだ。

 iPhone一人勝ちを許すまじと、Android OSを中心とした後続スマートフォン勢が世界的に猛追をかけているが、日本市場でもまた、特徴的な動きが始まっている。
 10月5日の日経新聞の記事だ。
 <なじみの機能搭載 赤外線・メール入力… auの新スマートフォン iPhone対抗>
 記事には11月に発売されると発表されたAndroid OSの新機種「IS03」に関して、タッチパネル式液晶画面採用は当然ながら、<「おサイフケータイ」やワンセグなど日本でなじみの機能を使えるようにし、世界規格の米アップル製人気機種「iPhone(アイフォーン)」に対抗する>とある。加えて、<メールの文字入力も従来の携帯電話向けソフトを活用><音楽配信の「LISMO!」などを刷新>と<(一般的な)携帯とスマートフォンの長所を1台に融合させた」(田中孝司専務)>との自信をにじませている。
 auだけではない。かなりの投下量(GRP)で繰り返されているdocomoのスマートフォン・XperiaのCM。渡辺謙とダースベーダーの対談でも、「信じられない。あなたがデコメだなんて」 との台詞に、すかさず「スマートフォンでも、iモードのメールアドレスが使える! 」とのテロップが被る。

 ガラパゴス島では外来種に島固有の生物が追われて生息域が狭められてしまっている。それに追い打ちをかける地球規模の環境変化で、特に海イグアナが主食とする海草が海底から姿を消しつつある。飢えた海イグアナは陸に上がり、本来別種である陸イグアナの生息域に進出した。陸イグアナはサボテンや実や花が落ちてくるのを静かに待って暮らしているのだが、そこに海底を自由に動き回るためのかぎ爪を持った海イグアナが進出してきた。海イグアナは自由にサボテンに登り、実や花を食べる。群れの雄を追い出し、雌と交雑して、やがて海でも陸でも自由に活動できる「ハイブリッド・イグアナ」が誕生するようになった。

 日本の従来の携帯電話。世界の中では日本独自仕様であるが故にガラパゴス携帯、「ガラケー」と揶揄されたが、今、外来種に終われて「ハイブリッド」が誕生しているように思われる。スマートフォンにケータイの機能を搭載し、利便性を高めているのだ。生き残るために。
 ただ、ハイブリッドには、少々心配なことがある。イグアナに限らず、多くの種で交雑は起こる。しかし、その多くには生殖能力がなく一代限りとなる。ハイブリッドイグアナも現在の所、生殖機能が備わっているかは不明であるという。スマートフォン戦争の「徒花」になる可能性もある。

 「進化論」のダーウィンの言葉としてネット上でよく誤用される言葉がある。
 「強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでもない。変化に対応した者が生き残ったのだ」。いかにもダーウィンが語った風な言葉だが、「種の起源」にその一説はないという。
 その説を引用するなら「生物の進化は、すべての生物は変異を持ち、変異のうちの一部は親から子へ伝えられ、その変異の中には生存と繁殖に有利さをもたらす物がある(略)そして限られた資源を生物個体同士が争い、存在し続けるための努力を繰り返すことによって起こる自然選択によって引き起こされる」。  

 「変化に対応した者が生き残ったのだ」と、予めあるべき変化を予想できるほど、昨今の技術の進化や世界の変化は簡単ではない。故に、「存在し続けるための努力を繰り返すこと」が欠かせないのであり、幾多の失敗の積み重ねから、「変異のうちの一部は親から子へ伝えられ、その変異の中には生存と繁殖に有利さをもたらす物がある」ことを見極めることが大切なのだ。
 その意味からすると、今回の「和魂洋才」的なGALAPAGOSの取り組みも、スマートフォン+ガラケーハイブリッドも「「存在し続けるための努力」の一つだ。結果を楽しみに見守りたい。 


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2010.10.05

【おしらせ】USTREAMライブ中継する「ブランドエナジーセミナー」 【開催間近】

世界最大のブランド・データベースBAVで予測する、グローバルブランドの明日。
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※金森が以前勤務していた電通ワンダーマンの兄弟会社・電通ヤング&ルビカムが、ブランドセミナーをUSTREAMライブ中継します。
 当日は私はセミナー会場の聴講席に場に陣取り、そこからTwitterでUst.にアクセスします。
 是非、多くの方からのアクセスをお待ちしています!!


■セミナー概要

世界同時不況による消費行動の変化。Web、モバイルなど、ソーシャルメディアの浸透により、消費者へのコミュニケーション手法はグローバルに加速度的に変化しています。私たちは、世界最大のブランド・データベースBAV(BrandAsset Valuator)を駆使することにより、ブランドのとるべき針路を診断・分析。普通じゃできない発想からクライアントのビジネスを加速させるソリューションを提案いたします。


■USTREAMライブ動画

 http://www.ustream.tv/user/DentsuYR


■Twitter

 ハッシュタグ: #BAV2010


■開催日時

 日時:2010年10月7日(木) 13:30~15:30


■主催

 電通ヤング・アンド・ルビカム(株)


■当日スケジュール

 13:30-14:00  1)「大胆予測、2010年代の日本経済で成功するブランド」(仮題)

  週刊ダイヤモンド編集部 副編集長 深澤献氏


 14:00-14:30  2)「グローバル消費者の構造変化とこれからのブランディングのあり方」

  電通ヤング・アンド・ルビカム(株) マーケティング室長 矢井宏長 氏


 14:30-15:00  3) 「2010年代のエナジーブランドを予測する」

  対談形式 矢井宏長氏 & 深澤献氏

 15:00-15:15  4)Q&A

 15:15-15:30  5)「ディスカッションまとめ」

  矢井宏長氏


*プログラム内容、スケジュール、講師はやむを得ない事情で予告なく変更する場合がございます。予めご了承ください。


では、Ust.でお会いしましょう!!


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吉野家「牛キムチクッパ」発売延期はなぜ?(試食レポート付き)

吉野家「牛キムチクッパ」発売延期はなぜ?(試食レポート付き)

 各メディアによると、吉野家は4日、9月7日に発売した「牛鍋丼」の販売数が1千万食を超えたと発表した。一方で、すき家・松屋との牛丼低価格戦争離脱のための、もう一つの戦略商品「牛キムチクッパ」を約1ヶ月発売延期し、11月目処としたという。その理由と影響は何だろうか。

 何度も繰り返される牛丼値下げ合戦は、先月7日から吉野家が280円の「牛鍋丼」を発売したことによって、新たなステージに突入した。吉野家の新商品を牽制する意味で、すき家が「秋の感謝祭」として、並盛・250円という低価格キャンペーンを実施。松屋も、8月に引き続き、異例の2ヶ月連続で9月もキャンペーンを実施した。吉野家の今後も命運をかけた「牛鍋丼」の出鼻をくじく作戦だった。
 しかし、軍配は吉野家に上がった。1ヶ月で販売数1千万食を達成。メディアによれば、来店客の約6割が注文しているという。「低価格で他社に流れた自社顧客を取り戻し、メニューの新規性で他社客を取り込む」吉野家の戦略骨子は当面達成できていると判断できるだろう。自社に戻ってきた顧客は、牛鍋丼だけでなく、牛丼にも回帰している。筆者もそうであり、店内を見回しても牛丼注文者も数多い。それが4割の数字をたたき出しているのだろう。

 今後も他社は、相変わらず定価280円~320円。頻繁に最低価格の250円キャンペーン構成を続けると思われる。なぜなら、そもそもその価格レンジは、不景気の折、ランチ予算を300円~500円に抑えたいとする人が多く、コンビニ弁当などが割高だと敬遠されはじめる動きがある中で、牛丼チェーンがその層の吸引に成功しているからだ。コンビニで300円で買えるものは、大型のカップ麺と昆布などの安い具のおにぎり1個でしかない。とても寂しい。300円前後の牛丼が人気になるのは自然な流れなのだ。

 他社の攻勢をしのぐためにも、吉野家は280円メニューを1枚看板のままにしておくことはできない。そのための新メニュー第2弾「牛キムチクッパ」なのだ。しかし、各メディアは<「牛鍋丼が予想を上回る反響があり、 第2弾については準備に万全を期す必要があると判断した」>と同社の発表を掲載している。

 新メニューの展開は、現場オペレーションに大きな負荷がかかる。そのため、牛鍋丼の発売に際し、豚丼などの豚系メニューは現在も販売を休止している。しかし、従来、メニューの貧弱さが指摘され、それが顧客囲い込みの弱さの現況であるとの指摘も強いため、新メニューの展開も急ぎたいところだ。
 それだけではない。牛鍋丼の肉は、従来吉野家がこだわってきた「米国産・ショートプレート部位」とは別部位の米国産牛9割と豪州産1割のブレンドである。故に、その原材料の価格低下を図るためにも「使用量を高める」=「販売数を増やす」ことが欠かせない。「規模化」である。そのためには、牛鍋丼が大人気であるといっても、新メニューも加えて販売数を加速したいはずだ。

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 発売延期の原因の糸口を探るために、筆者は「牛キムチクッパ」の先行販売店で試食をしてみた。

 吉野家は新メニュー上市の前に、いくつかの店舗で先行販売によるテストを行うのが常である。場所は東京墨田区・錦糸町北口店。「牛キムチクッパ 新登場 280円」の店頭のぼりが深夜23時の夜にも鮮やかである。店内が8割客で埋まっており、注文の割合は牛鍋丼4割・牛丼3割・牛キムチクッパ2割・その他(ナゼか牛シャケ定食など)1割というところ。熱心な牛丼ファンや、新たに取り込まれた牛鍋丼ファンが多いのか、新メニューに躊躇する客が多いのか、牛キムチクッパは出ていない。
 注文をしてみると、「牛キムチクッパ“だけ”でいいですか?」と聞かれる。どうやら、半熟玉子のトッピングがお勧めらしい。このあたりは、牛鍋丼も生玉子を併せるとよりすき焼き風になるという設計と同じで、「アドオン・セリング(追加販売)」を狙っていることがわかる。が、辞退。
 店に客数は多いのに、新メニューも遅滞なく、というより驚くほど早く提供された。さりげないトッピングのお勧め。スムーズな配膳と、「準備に万全を期す」理由は店内オペレーションではないようだ。


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 試食をしてみる。ナメてかかると驚くほど辛く、本格派な雰囲気を醸し出している。具材は牛肉、白菜キムチ、タマネギ。牛肉は牛丼・牛鍋丼と同じ下味が付いていることがわかる。キムチもサイドオーダーのものと共通な気がする。タマネギも牛丼系と共通だろう。それらをうまく辛みのスープで合わせて「キムチクッパ」に仕上げてある。味は十分合格点だ。というより、美味い。
 が、ここから先は個人差による評価が大きくなると思われるが、吉野家メニューでかねてから問題になる「量」が気になった。
 全体量は何グラムあるかわからないのだが、全体がスープに浸っており、スプーンで食べるようになっているため、サラサラとすぐに食べきってしまう。辛みが強いので一気食いは無理だが、それにしても、他の丼を食べるよりはあっさり終わる。
 次に気になる店は肉だ。「肉が少ない」も、良く指摘されるところだが、しらたきと焼き豆腐で肉量を抑えた牛鍋丼よりも少なく感じる。肉質は「牛鍋丼」はショートプレート部位ではないので、若干柔らかさに欠ける部分も気になったが、「牛キムチクッパ」はむしろ、サシ(脂)がうまく入った、牛丼用肉のような柔らかさを感じた。その柔らかさ故に、軽やかに咀嚼・嚥下され口腔をサラリと通り抜けてしまう。
 結構辛いので、決定的に物足りなさを感じることはないのだが、280円で「並・トッピングなし」で食するには若干のボリューム不足を感じた。

 「準備に万全を期す」というその意味が、筆者の感じたボリューム感の問題を先行販売店で試食した来店客の様子から感じ取った結果であったとしたら、これからのチャレンジはかなり大変なものになるだろう。大規模チェーン店のメニューは厳密な原価計算のもと、設計されている。「それでは少々量を増やそうか」とはできない。
 しかし、明るい材料もある。何といっても、計画を上回る「1千万食越え」を達成しているのだ。原価低減を規模の経済によって図れる可能性もある。また、他の報道では、連結子会社のステーキの「どん」なども原材料低減とコスト圧縮で黒字化を達成したという。特に、同じく牛肉を扱う「どん」が好調になり客数が伸び、吉野家と原材料の共通購入を図れる部分が多くなれば、それだけ仕入れ原価低減が図れる。ゼンショーもステーキを扱う「ココス」などの連結子会社と共同で牛一頭買いをして原価低減を図っている。吉野家も「ショートプレート部位」だけにこだわらないメニューを開発した以上、調達部分の見直しが可能となり、安くてボリュームのある牛肉を使えるようになるかもしれない。

 広報の発表では、牛キムチクッパの発売が正式に何日になるかは明かされていない。拙速より巧遅を尊び、万全の準備で美味しくてたっぷり食べられる、低価格牛丼に十分対抗できる第2の戦略商品としての発売を待ちたいと思う。


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2010.10.04

「“チョイ高”商品」売れ行き好調のワケは何だ?

 「女も食するスイーツといふものを、男もしてみむとてするなり」と紀貫之の土佐日記さながらに、今日、仕事帰りの男性がコンビニでスイーツを購入していく姿は珍しくない。一方、オヤジの牙城であったロードサイドの紳士服チェーンの店内でも、若者の姿が散見されるようになり、あまつさえ妙齢の女子フレッシャーの姿さえある。
上記のような客層拡大が変化の第一弾とすると、さらなる第二の変化が起きている。取扱商品のうち「チョイ高」というアッパーミドルクラス価格帯の商品が登場し、売れ筋になっているのだ。一体どういうことなのだろうか?

 コンビニスイーツの流行と男子ファンの増殖の理由はさほど不思議ではない。
 まぁ、簡単にいえば、不景気でいろいろなコトに疲れたココロを癒すには、甘味が一番であり、スイーツなどというオシャレな言葉も誕生した。さりとて、たまのハレの日でもなければ高級店での購入はままならない。一方、コンビニ各社はタスポ効果に沸く頃から、翌年の反動は目に見えていた。代替となる稼ぎ頭が欲しい。そこでスイーツブームに目を付けたわけだ。
 専門店だと敷居が高いがコンビニなら購入のハードルも低い。男も買える。海外ではカフェやレストランで豪快にケーキを食する男性をいくらでも目にすることができるし、日本男子はアルコール離れだの草食化だのといわれる今日、食べない理由がない。そして、ケの日(日常)需要や男性需要を巡り各社は商品開発にしのぎを削り、市場が形成されたのである。

 紳士服チェーンの若年層と女性顧客増加もさほど難しい話ではない。
 その動きが顕在化しはじめたのは、従来ロードサイドにあった店が都市部・街ナカに進出してきた頃からだ。ロードサイド時代は沿道にのぼりを立て、新聞チラシを大量にばらまき、店内にはダサイ音楽がかかっているというオヤジの巣窟のような存在として昔は若者の目には映っていたことだろう。
 それらの紳士服各社は若者向けデザインのスーツを19800円・29800円などの「2プライス」で販売する展開をはじめた。中国での大量生産をし、価格を低減するだけではなく、デザインや縫製の細部にも徹底してこだわる。最上級のものではないがイタリア産生地なども用いるようにした。女性用のスーツも展開した。デフレ時代に「安い価格で中くらいの品質の商品を提供する」という「グッドバリュー戦略」は的中し、若者だけでなく30~40代も取り込んで大成功した。そのデザイン・モノ作りのノウハウを本体にフィードバックしたのだ。昨今はさらに撥水性や伸縮性などの機能も盛り込んだ。
 男女の若年顧客層増加も時流に合っていた。バブル期のように百貨店で1着購入して就職活動を行うのではなく、1着目も低価格であること。長引く活動期間で夏物などの2着目も必要であるからには、低価格と丈夫で動きやすい機能性は必須要素である。その要件に紳士服チェーン店はミートしていたのだ。

 さて、コンビニスイーツも紳士服チェーン店も、年齢や性別という属性・セグメントを拡大したわけであるが、昨今の流行は「チョイ高」であるという。「低価格で最高の品質を提供する」という「スーパーバリュー戦略」は理想であるが、そうしたプライシングやポジショニングを実現するのは極めて困難だ。目指したのは、「中くらいの価格だが、(最高の価格に匹敵する)最高の品質を提供する」である「高価値戦略」である。
 例えば、コンビニスイーツをブラインドで試食した人は、口々に「専門店と区別が付かない」という。しかし、価格は300円近いものも少なくない。紳士スーツはこだわりの高級素材と縫製。価格は7~8万円を超えるものも多い。しかし、売れているという。

 今年の4月~5月頃にマスコミに頻出した「節約疲れ」というキーワード。ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングが、売上高、営業利益で中間期として過去最高を更新した2010年2月中間連結決算の翌月、失速傾向を見せた。さらに、日本百貨店協会が各社の売上げ下げ止まりや高額品に動きが見え始めたことなどを発表したことから、各メディアがこぞって取り上げたキーワードだ。
 今日、「節約疲れ」のキーワードはほとんど目にしない。いつまで経っても消えない景気の二番底懸念や、本格的な浮上は見られない。不安定な政権、円高、それにともなう産業空洞化と雇用の不安。今年の前半、世間の多くが節約に疲れていたのは事実かも知れないが、そのキーワードは、もはや世間の記憶からも消え失せつつある。

 では、「節約に疲れた人々」ではないとしたら、「チョイ高」を購入している人は誰なのか?
 スイーツにしろ、紳士服にしろ、とにかく高級な専門店を利用するのが正しいという志向は、バブル崩壊以降きれいさっぱりなくいなった。失われた「10年」のキーワードは「華美な消費」の反動でもある「賢い消費」であった。そして失われた「20年」に突入している今日。かつて「賢い」であった行動は、もはや「アタリマエ」になっている。「華美を廃し、きちんと考えて購買行動をしている」。そんなことを誇れば、「そんなのアタリマエじゃないの。アンタ、バカなの?」といわれること必定だ。ハレの日とケの日は峻別され、ケの日の消費も厳選される。

 だがしかし、である。
 売る側(に、荷担しているマーケターといわれる我々も含めて)は、まだまだ、生活者、購買顧客、を細かく見る。セグメントするということを怠っているのではないだろうか。
 「バブルだ。みんなが高いものを欲しがっているから、それを作って売ろう。」
 「バブル崩壊だ。デフレだ。みんながお金がなくて、安いものを欲しがっているから、それを作って売ろう。」
 ちがう。

 日本の消費者は、ある意味「洗面器の中の水」のような行動をとる。傾けば一方にざーっと寄る。反対に傾けば、もう一方にざーっと寄る。華美なバブル消費と清貧なデフレ消費とを行き来したこの20年間の消費。水面から底まで、全ての水=消費者が同様の動きをしていたのは、「一億人の国民が全て中流であるという幻想」に浸っていた時代だ。人と同じものを求め、手に入れて満足し、差別化よりもむしろ同じであることを好む。高度成長期からバブル経済の前まで。いや、バブル期も、こぞって「華美な消費」という流れが水面から水底まであった。

 では、今、日本という洗面器の中の水はどのような状態にあるのか。
 昨今の経済状況のなか、高級専門店で「価格も高くて価値も高い=高価値戦略」の商品を購入する人は少なくなっている。本当に「価格も安いが、価値の低いもの=エコノミー」の商品しか購入できない層も少なくない。その環境で、「安い価格で中くらいの品質の商品を提供する」という「グッドバリュー戦略」がウケるのはアタリマエだ。ケの日にはスイーツはコンビニで。普段使いのスーツなら紳士服チェーン店で購入する。
 しかし、その中にも、少なからず「もう少しいいものが欲しい!」という層が存在し、購入する能力(購買力)を有している層も確実にいるのだ。ケの日に高級スイーツや普段使いに高級スーツを専門店で買うようなことはしない「賢い消費」は身についている。かといって、もう少しいいものが欲しい。もう少しこだわりたい。そんな層が、洗面器の波立つ表層の下にはいたのだ。

 今日、洗面器の海の中にも実は複雑な流れができている。その流れを細かく読む。それは、マーケティングでいう、市場の細分化=セグメンテーションなのである。その巧拙が、ヒット商品として日の目を見るかにかかっている。底流の動きを浮かび上がらせ、その層のKBF(Key Buying Factor=購入理由)にミートするものを開発することができた企業が成功を享受するのである。


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