「40代女子」:絶賛すべき新刊雑誌GLOWのキャッチフレーズ
10月28日、出版不況といわれる中、女性ファッション雑誌では向かうところ敵なしの「宝島社」から、40代女性向け雑誌が創刊された。『GLOW』。通勤電車の車内吊りや新聞広告を見た人も多いだろう。雑誌のタイトルに添えられているキャッチフレーズは「ツヤっと輝く。40代女子力!」。広告のキャッチコピーは、「アラフォーって呼ばないで。私たちは、40代女子です。」だ。
巷やネット上では雑誌の内容以前に、「40代女子」という言葉にビビッドに反応した話題や議論が盛り上がっている。そこで今回は、「どうよ?」と考察してみたい。
結論を先に提示すると、「40代女子」という表現はすばらしい。絶賛に値する。
但し、筆者が言わんとするところは、新刊雑誌『GLOW』のキャッチフレーズとしての用い方においてである。
生物学的な「霊長類ヒト科ヒト目の雌」を表す日本語は「女性」である。他の表現としては「女」「女子」があるが、限定的には、前者は「成年女子。成熟して性的特徴があらわれた女性」を表し、後者は「女の子供。女児」を表す(共に広辞苑第6版)。つまり、『GLOW』のキャッチフレーズに関しては、日本語の本来的な意義と年代のギャップが論点となっているのである。
女性を何らかの属性に加えて別の単語で表現する例は、「森にいそうな女の子」をイメージさせる、ゆるく雰囲気のあるものを好む「森ガール」というファッションやライフスタイルを表す言葉が有名になった。その言葉から対比的に派生したのが、「山ガール」だ。「森ガール」は実際には森には行かないが、トレッキングや登山をファッショナブルに行う女性を「山ガール」と称して、女性登山人口の増加を関連業界が需要促進のために盛り上げている。
「女子」の語源をひもといてみると諸説あるが、マンガ、後にテレビドラマにもなった「ホタルノヒカリ」に求めることができる。マンガの連載は2004年から2009年まで。テレビドラマは2部に分かれ2007年と2010年の放映だ。ドラマでは綾瀬はるかが演じた同作品の主人公・干物女こと、雨宮蛍は、20代でありながら恋愛を放棄し、自宅でジャージ姿でビールを飲むことをこよなく愛する生活を送る。対照的に誰もが憧れるような女性として描かれている登場人物・三枝優華が「ステキ女子」と表現されている。作品における三枝優華の年齢設定は26歳である。
広告のキャッチフレーズで「アラフォーと呼ばないで。」と述べられている「アラフォー」は、そもそもが「アラサー」からの派生語である。「Around 30」。「2005年11月に創刊した女性雑誌『GISELe』(ジゼル・主婦の友社)が使い始めたのが始まりといわれる」とWikipediaに記載されているが、定義は英語の意味の「30歳前後」より少し幅広く「25歳以上34歳まで」であるとされている。前出「ホタルノヒカリ」のステキ女子・三枝優華はアラサーであるわけだ。
「アラフォー」は2008年に放映された、天海祐希主演のテレビドラマ「・Around40 〜注文の多いオンナたち〜」でタイトルに用いられ、ユーキャン新語・流行語大賞にて年間大賞となって定着した。35歳~44歳までをあらわす。
「アラフォー」と「40代女子」はどのような違いがあるのか。
年齢的には35歳~44歳に対して40歳~49歳と年齢が5歳上になるが、年代的な違いは何か。40歳と45歳を見てみよう。
アラフォー40歳の誕生は1970年。日本の高度成長期最後の年、大坂万博の開催年である。1986年にバブル景気に突入したころはまだ高校生になったばかり。大学在学中か社会に出て間もない頃にバブルは崩壊した。
同じアラフォーでも35歳は1975年生まれ。バブル崩壊の時はまだ16歳だ。大学を卒業した1997年は1994年の第11回新語・流行語大賞にもなった「就職氷河期」のまっただ中である。人生の中で好景気の記憶があまりない世代であるといわれている。
40代女子45歳の場合はどうか。1965年生まれで、73年の第一次オイルショックの時に、「トイレットペーパーがなくなる!」という買占め騒動や、街のネオンが消えた風景などがおぼろげな記憶にある。景気はその後2度ほど循環したが、大きな不況の波を実感することなく、大学生の頃、景気はバブルに突入。就職も売り手市場で引く手あまただった。バブルの徒花として咲いたディスコブームは次第に高級ディスコ、ウォーターフロント、社会現象にもなった「ジュリアナ」へと続き、身体の線を強調したボディコン服を着て、鳥の羽でできた「ジュリアナ扇」と呼ばれる扇子を振り回してお立ち台で踊る女性がメディアでも注目を集めた。
上記のように概ねアラフォー世代と40代女子世代は青年期の景気による体験において大きな差異がある。故に、『GLOW』はターゲット世代を40代として、「ツヤっと輝く」という言葉をキャッチフレーズの一部に用いているのだ。もちろん、ジュリアナのお立ち台で踊っていた人もその中に含まれる。
しかし、筆者が『GLOW』のキャッチフレーズを絶賛するのは、上記のターゲットが世代背景から「ツヤ」という言葉に飛びつくからというわけではない。
既述の如く評価は「40代女子」という部分である。いくら世代的にバブっていていたとしても、誰もがいまだに「ツヤ」に飛びつける年代ではない。「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」で有名な詩人・林芙美子が夭逝した1951年とは年代が違うが、生あるものにとって時の流れが厳しいことに変わりはない。
そんな現実をさらりと受け流して、「ツヤと輝く」べく生きている人もいる。創刊号の表紙には中央に大きく「私たち40代、輝きます宣言!」と書いてある。さらに小さく「好きに生きてこそ、一生女子」という言葉も添えられている。「一生輝いて、女子であり続けること」を宣言しているのだ。この宣言の如き覚悟がある人こそ、誰が年代と言葉のギャップがあると言おうが「女子」を名乗れるのである。表紙には「最強の40代女子登場!」として、代表選手としての小泉今日子(44歳)とYOU(46歳)が微笑んでいる。
世間に向かって「アラフォーのみなさーん!」と呼びかければ、定義されている35歳~44歳、とりわけ中心である28~42歳ぐらいの人は、「ああ、自分のことか」と思うだろう。しかし、「40代女子のみなさーん!」と呼びかけて、「ああ、自分のことか」と思える人がどれくらいいるだろう。その年代にして、自分を「女子である」と言い張れる人は、「ツヤと輝く」べく努力を怠らず、機会があれば宣言してしまいたい人であるはずだ。
だからといって、完全に該当する人だけをターゲットとしては、ボリュームが小さすぎる。小泉今日子とYOUの他に、記事には鈴木京香・大塚寧々・原田知世・桐島カレン・カヒミカリィなどが名を連ねている。それらに倣って「ツヤを磨こう」という層をコアターゲットとして、そこまでの不断の努力には自信はないが、「ツヤっと輝く、40代女子」に憧れる層をベースターゲットとして設定する。そして、「40代女子」「輝き」のキーワードに反応しない人はバッサリ切り捨てる呼びかけであるのだ。
「キーワードに反応しない人はバッサリ切り捨てる呼びかけ」。「排他的キャッチコピー」ともいう。
ファッション雑誌を多数発行して破竹の勢いの宝島社とはいえ、業界環境は雑誌の衰退が顕著であり、マクロ環境は不景気が続いている。そんな中で、広くあまねく受入れられる雑誌作りなどできるはずもない。ターゲットを先鋭化しているのである。
世の中には2種類の人間しかいない。「買ってくれる人か、買ってくれない人か」である。「誰からも愛されたい」と願っても、結局は誰からも愛されないが如く、「一人でも多くの人に振り向いてもらって買ってもらいたい」と思ってターゲットを幅広くしても売れないのだ。
「ツヤっと輝く、40代女子力!」。いいじゃないか。応援したい。
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