マクドナルドと吉野家の「面」と「点」
8月の月間全店売上高が過去最高を記録した日本マクドナルド。一方、牛丼戦争において「一人負け」と言われた吉野家は7日、新メニューで反撃ののろしを上げた。両者の戦略を比較してみよう。
9月8日の日本経済新聞・企業2面に「日本マクドナルド 8月売上高、最高に 513億円、新商品が好調」という記事が掲載された。同社の原田社長は記事中のインタビューで<「新製品の投入で新規顧客を取り込み、朝食メニューの値下げなどで次の来店につなげるという複合的なマーケティング戦略が奏功した」と語った>という。さらに注目のポイントは<「客単価は下がっておらず、低価格戦略で売上げを伸ばしているわけではない」と強調した>という点だ。
インタビューコメントの通り、マクドナルドの戦略は「複合的なマーケティング」がキモなのだ。但し、それは複雑な手法を駆使しているわけではない。実に基本に忠実なセオリーを愚直に実行しているといえる。
セグメンテーション(segmentation)、直訳すれば「区分」や「分割」を意味する。マーケティングにおいては、市場や顧客、自社の製品などを様々な切り口で同質なカタマリに区分し、魅力あるカタマリを見つける(=ターゲティング:targeting)ために行うことだ。そして、日本マクドナルドの戦略の基本は、セグメンテーション・ターゲティングを緻密に、巧みに行うことなのである。
マクドナルドのセグメントにはどのようなものがあるだろうか。例えば、価格・時間帯・客層・商品コンセプトなど様々な切り口が考えられる。
まずは価格。無料のコーヒーに始まり、100円・120円メニュー、200円の朝食セット、復刻版や改良版として定期的に投入される「照り焼き」や「月見」バーガーなど日本オリジナルメニューの中価格帯商品、クォーターパウンダー、ビッグアメリカキャンペーン商品などの高価格帯メニューなどが対応する。
次に時間帯。朝マック、ランチタイムのセット、午後のティータイムにはマックカフェ、お一人様向けの簡単な夕食ならチキンメニューなど、時間帯別にもオススメできる対応商品がある。
客層では、クォーターパウンダーで主にボリューム感を求める若年層を集客し、次にニッポンオールスターキャンペーンで懐かしの復活日本オリジナルメニューで往年のファンを呼び戻す。次にはビッグアメリカで再びボリューム感を求める顧客に訴求する。さらに、自社客のリピートを促進するだけでなく、その合間に無料コーヒーで新規顧客を集客することにも抜かりがない。
全外食企業の中では売上こそ「すき家」を運営するゼンショーに抜かれたものの、日本マクドナルドは押しも押されもせぬリーダー企業である。リーダー企業の戦い方の基本は「全方位戦略」だ。しかし、ダメな「全方位」は思いつき、散発的に様々なことに手を出す。それに対し、マクドナルドは緻密にセグメントを切り、それをスキマなく、モレ抜けなく「面」を自社の色に塗り込めていくのだ。その戦略と徹底力こそが力の源泉なのである。
9月2日、東京・赤羽の吉野家本社にて開かれたメディア向けの「新メニュー・牛鍋丼」製品発表会の冒頭。各メディアが伝えるところによると、同社の安部社長は硬い表情で、前年比15%ダウンという大変厳しい状況が今年に入って続いていると明言。「顧客からは『吉野家はどこへ行くんだろう』という声も聞かれた」と語ったという。
「どこへ行く」に象徴されるように、熾烈な牛丼戦争の渦中において、吉野家は価格やメニュー政策、キャンペーン展開において様々な係争を繰り返したと市場関係者はいう。しかし、今回の新メニューの投入において、吉野家は腹をくくって狙いを絞り、ブレないピンポイントな戦略に切り替えたことが見て取れる。
新メニューの「牛鍋丼」は、牛丼の具材である牛肉・タマネギに、しらたきと豆腐を加え、甘めの味付けのすき焼き風に仕上げた。注目は、牛肉以外の具材を用いることと、吉野家の一番のこだわりである「米国産ショートプレート部位」から、「米国産その他の部位+豪州産」へと牛肉の肉質を変更したことにある。その結果、280円という「定価」を実現した。今まで競合対抗で無理をして実現していた280円という価格を、新メニューの定価に据えた。それによって牛丼の380円の価格を守ることもできる。
新メニューによって、今後のメニュー戦略がどのようなものになるのかも予想できる。競合の松屋が豊富な定食メニューを展開しているのに対し、吉野家は定食メニューの開発が遅れ苦戦を余儀なくされた。しかし、吉野家は今後、定食メニューの開発よりも牛丼を頂点とした「牛肉系丼メニュー」で固めていくと思われる。10月7日には280円の「牛キムチクッパ」を投入する予定だという。割安な牛のバリエーションメニューですき家の280円牛丼に対抗。来店客にお試しクーポンなどで380円の牛丼を試す機会を確保し、自慢の肉質・味の違いを体感させて定着させる戦略だろう。380円はすき家のトッピングバリエーションの牛丼メニューとほぼ同価格だ。
「牛肉系丼メニュー」への絞り込みは、そのメニューを好む客層への絞り込みも意味している。幅広いメニューの松屋、トッピングの楽しさのすき家は女性層・ファミリー層の集客なども狙ってきた。吉野家もテーブル席設置店舗の展開などで、同様のターゲットの取り込みを図ったが、支持されるメニューもなかったことから空振りに終わっていた。恐らく、今後はメインの男性顧客層に絞り込んだ展開を行うと考えられる。
吉野家の今回の「腹の括り方」は、牛丼業界において、もはやリーダーは「すき家」「なか卯」を運営するゼンショーであり、自社はチャレンジャーのポジションであるという認識を自ら受入れたことにあるのだろう。恐らく、同社にとっては最も認めたくない事実であったことだろう。
チャレンジャーの戦い方の基本は「差別化戦略」である。差別化のための基本は「選択と集中」だ。「選択」とは「やらないことを決めること」でもある。ダメな差別化戦略は、「やるべきこと」を選択したつもりで、「やるべきでないこと」まで選択していることが多い。また、「集中」とは「選択した中から、ピンポイントに絞ること」である。同じくダメな例は、「選択しても集中できていない」という差別化戦略である。
吉野家は今回、メニュー開発やターゲット顧客の選定において、やらないことを決め、やるべきことをピンポイントに絞った「点」の戦略に切り替えたと思われる。あとはどれだけ、それをブレずに実行していけるかにかかっている。
外食冬の時代といわれる今日。「面」で成功しているマクドナルドも、「点」に切り替えた吉野家も、「徹底すること」が生き残りに欠かせない。それは外食産業だけの話ではないのは明らかだ。
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