« August 2010 | Main | October 2010 »

20 posts from September 2010

2010.09.30

ニンテンドー3DSの蹉跌?

 裸眼で3Dゲームが楽しめると期待が高まっていたニンテンドー3DS。9月29日14:00から幕張メッセで行われた「任天堂カンファレンス2010」で、その価格と発売時期が発表された直後に同社株価が急落するという事態を招いた。どこに蹉跌(つまづき)があったのだろうか。

 
<「3DS」発表直後、任天堂株価は急落>(9月29日 ITmediaニュース)
http://tinyurl.com/23omvql

 記事によれば、<同社の株価はこの1カ月ほど2万3000円台前半で推移していたが、発売日・価格の発表イベントが近づくにつれて2万3000円台後半に上昇。イベント当日は前日終値から280円高となる2万4180円で取引がスタートし、後場には2万4500円を突破した>と事前の期待の高さが株価にも反映されていたことがわかる。
 しかし、<、「来年2月26日発売、2万5000円」の情報が伝わった午後2時45分以降は一気に約1500円急落。結局、この日の終値は前日比890円安の2万3010円だった>と、<発売日が来年にずれ込むことで今期業績への影響が限定的なこと、携帯ゲーム機としては高価な希望小売価格が嫌われ、一気に売りが売りを呼ぶ事態に転じた>という結果となった。

 クリスマス商戦に間に合わないという業績への影響への懸念による株価への影響だけではない。市場のファンからも「(価格が)高い・(発売時期が)遅い」との大合唱が起きている。
  <『ニンテンドー3DS』、価格は2万5000円 2011年2月26日発売>(9月29日痛いニュース:2ちゃんねるまとめサイト)
 http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1549027.html

 ニンテンドーDSシリーズの価格はDS:15000円→DS Lite:16800円→DSi:18900円→ DSiLL:20,000円と徐々に値上がりしていたが、一気に5000円の価格上昇を受容できないファンが多かったということになる。

 Pricing(価格設定)には3つのCの視点が必要となる。Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)だ。
 顧客が「いくらまでなら払ってもいい」という価格をカスタマー・バリューという。その価格は多くのファンにとっては2万5千円は少々高すぎたということになる。競合と比べるとどうだろうか。ソニーのPSPは1万6800円だ。そのネットワーク対応型の次世代機として登場したPSP GOが2万6800円。イマイチ人気が出ず、購入者が少なかったのは価格が一因となっている。そのPSP GOと同等価格である。自社の視点ではどうか。原価がいくらで、それにどれだけ利益を乗せるかがポイントになるが、従来のニンテンドーの価格設定は、カスタマー・バリューを推定し、その価格に収まるように製品仕様を決定することで知られている。今回は3Dという技術ありきであったため、原価が高くなっているのかもしれないが、それが価格に転嫁されている点が「任天堂らしくない」というファンの指摘もある。

 もう一つの問題である発売時期はどうだろうか。何らかの技術的な要素からか、今まで業界筋にリークされていた11月という時期とかけ離れていることがファンの失望の原因である。「いつ」「いつまでに」というタイミングや時間軸に関わる要素は実は、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)や4P(Product・Price・Place・Promotion)というような、ポピュラーなマーケティングのフレームワークでは明示されない。しかし、その重要性は枚挙にいとまがない。その意味では、カンファレンスで衝撃の発表となってしまったことは、コミュニケーション(Promotion)の一要素である広報(PR)に失敗しているともいえる。

 では、このあと3DSはどうなるのだろうか。店頭での実売価格がいくらになるのかは、まだわからないが、発売前に定価が値下げされるということも予想できる。かつて、2006年にソニーがPS3の発売直前に2万円の値下げをした例がある。同様のことが起きないとは限らない。「5つの力分析」で検証してみよう。
 ・「買い手の交渉力」=エンドユーザーであるファンは「高い」の大合唱。本当に高くて買わない・買えないとしたら、流通(量販店)も売れないゲーム機に本腰の販売はしない。
 ・「売り手の交渉力」=ソフトの供給元であるサードパーティーの比率はWiiなどでは高くないが、カンファレンスではカプコン、コーエーテクモゲームス 、KONAMI、レベルファイブ、スクウェア・エニックスなど各社がプラットフォームとしての3DSには期待を寄せていた。しかし、上記のように価格が原因で売れないのであれば、シェアが取れないゲーム機にソフトは供給したくなくなる。
 ・「業界内の競争」=3Dの携帯ゲーム機という限定をすれば、競合となる存在はないが、携帯ゲーム機という業界定義をすれば、PSPだけでなく、自社のDSシリーズも競合だ。ユーザーが価格で購入を躊躇すれば、競合に敗れたことになる。
 ・「新規参入の脅威」=これはちょっと判らない。しかし、技術的な問題から参入障壁は高いと思われるため、脅威は低いと予想できる。
 ・「代替品の脅威」=携帯型ゲーム機の代替としては、昨今、iPhoneをはじめとしたスマートフォンの勢力が強大だ。携帯性に優れ、ソフトも安価なものが多いことから、脅威は強いといえるだろう。
 以上のことから考えると、3DSを取りまく5つの力のうち4つが強い状態である。そして、その力を弱めるためには、かつてのPS3同様に、価格値下げも選択肢の一つとして十分可能性が考えられるのである。

 果たしてニンテンドー3DSはどうなるのか。今後の動向に注目したい。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック


| | Comments (1) | TrackBack (0)

2010.09.29

ウルトラマンに仮面ライダーそして、侍。ダイドーの戦略は何だ?

 街角にあるダイドードリンコの自動販売機に入っている、ウルトラマンや怪獣、仮面ライダーを模した缶飲料を見たことがある人は多いだろう。「ウルトラコーラ」「ウルトラ大怪獣レモネード」「仮面ライダーサイダー」という商品だ。そして、今度は「侍」を発売するという。

 <復刻堂ヒーローズ缶シリーズに歴史の英雄達が登場!戦国と幕末の侍たちがデザインされた砂糖ゼロの本格エスプレッソ缶コーヒーが登場!「復刻堂 侍エスプレッソ【砂糖ゼロ】」>(9月14日・同社ニュースリリース)
 http://www.dydo.co.jp/corporate/news/2010/100914.htmlリリースによると9月27日から発売しているという。

 商品名にもなっている「復刻堂」は、同社が2004年から用いているブランドで、そもそもは甘いミルクコーヒーやサイダーなど、レトロな雰囲気を醸し出す懐かしい飲料や、「リボンシトロン」など、他社ブランドの絶版商品を復活させたラインナップである。その復刻堂にヒーローものが登場したのが2009年2月発売の「ウルトラマンサイダー」からである。
 確かにユニークな商品ではあるが、悪い言い方をすれば「キワモノ」であり、当たるか外れるかわからないリスクを売る立場で考えれば誰しも感じるだろう。しかし、他の飲料メーカーがそうした理由で手を出さない商品でも、ダイドードリンコにはそれができるのだ。
 昨今、缶や小型ペットボトル入り飲料の販路として重要性を増しているのはコンビニエンスストアだ。その店頭に商品が並ぶためには、コンビニチェーンのマーチャンダイザー(MD)が商品の取扱いを決め、各店フランチャイズのオーナーが本部に発注をするというプロセスを通らねばならない。その過程で、「これ、本当に売れるのか~?」と思われたらオシマイなのだ。
 ダイドードリンコという企業のユニークさの一つは、その販路にある。同社商品は実に9割が自動販売機での販売が占めており、コンビニへの依存度が極めて低いのだ。自社で企画して、自社の自販機に並べる。故に、自社が面白い、売れると思ったものをどんどん開発することができるのだ。ある意味、やりたい放題である。しかも、その自販機の台数たるや、全国に約29万台を有しているのだ。全国の飲料自販機は約250万台といわれている。そのうち、飲料業界第1位の日本コカ・コーラが約90万台、第2位のサントリーが40万台。それに継ぐ数である。キリンビバレッジやアサヒ飲料の保有台数が20万台前後ということを考えれば、ダイドードリンコの自販機のカバレッジがいかに高いかがわかるだろう。

 ダイドードリンコにとっては、自動販売機は店舗と同じであり、自販機の飲料見本は店舗の棚に相当する。コンビニで販売されるペットボトル飲料のボトルは、自販機とは異なる形状をしている。機械に入れるために形状を揃えたり、商品取り出しの落下に耐える強度が必要だったりという理由もあるが、むしろコンビニ棚でユニークなボトル形状で商品を目立たせるという意味合いが強い。また、季節限定商品などで、店舗関係者にアピールして棚を確保し、消費者の目に留まらせて購入させるのも常套手段だ。
 それが、ダイドードリンコにおいては、「目立つ商品を自販機に入れること」を意味する。復刻堂のなつかし商品だけでなく、ヒーローシリーズはいやでも目に留まる。販売チャネルの形態が商品作りの方向性に大きく影響しているのである。

 しかし、自販機の保有台数が多く、その依存度が高いことは昨今では大きな弱みともなっている。全国250万台の飲料自販機はもはや飽和しているといわれ、良好な立地の新規設置は難しい。さらに、飲料が大量に購入される建設現場に設置される自販機も、不況で現場が減少し縮小を余儀なくされている。同様に、ホワイトカラーの職場でも人員削減、オフィス縮小が進んで自販機が撤去されるような事態が起きている。
 そうした自販機逆風の環境下でも、販路を簡単に変更することはできない。なぜなら、販路=Placeはマーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)の中で、最も社外の利害関係者が関与する要素であるため、調整が難しく、変更するには時間がかかるのだ。「自販機の調子が悪いから、そちらのチェーンで扱ってください」とはとてもではないが、簡単にいかないのだ。そこで、同社は立地の条件に合わせて自販機をスクラップ&ビルドしたり、様々な機能を持たせた新型自販機へのリプレースを進めたりしている。

 自販機のコストはどうやって捻出するのか。そこも同社がユニークな点である。同社は飲料メーカーであるにも関わらず、生産設備を持っていない。OEM(相手先ブランド)方式で製品を供給する株式会社ニッセーなどに委託しているのだ。固定費を重くしない経営ポリシーである。さらに、自販機9割の売上げは、コンビニなどに比べればチャネルマージンを抑えることもでき、さらに商品代金は消費者がその場で支払うため、日銭で入ってくる。極めてキャッシュフローに優れているのである。そうしたファイナンス的なメリットを実現するためにも、ダイドードリンコは、何より「自動販売機で売れる」魅力的な商品を開発し続ける必要があるのだ。

 一消費者として、何気なく目に留まる面白い商品。しかし、その背後には企業としての様々な戦略や制約条件の中で勝ち残るための工夫が隠されているのである。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2010.09.28

GATSBY 対 uno:スタイリング剤ガチンコ勝負はどこへ行く!

 キムタクが出演するマンダム・GATSBYの新CMが9月20にオンエアされ、資生堂・unoも8月27日からオンエアしている新CMシリーズに9月27日、バージョンを1つ加えた。宿命のライバルが壮絶な火花を散らしている。

 GATSBY CM  http://www.gatsby.jp/tv/#/index/cm/collection
 FOG BARBER CM  http://www.shiseido.co.jp/uno/

 GATSBY「WATER WAX篇」。バックに流れている楽曲は、FalcoのRock Me Amadeus。84年公開の映画「アマデウス」の人気もあり、85年に大ヒットした名曲。英語とドイツ語がチャンポンのラップが今聴いても新鮮だ。そして、映像は色調をおさえ、ゆっくりとした動きでキムタクが女性を抱擁をする姿が流れる。スタイリッシュでセクシーで、ちょっとエロチックな雰囲気を醸し出すが、実は女性はキムタクの髪型を整えているというオチ。キメの台詞は「やっぱワックスでしょ」。
 対するunoはおなじみのイケメン四天王ともいうべき、妻夫木聡・瑛太・三浦春馬・小栗旬の4人組が、英国のバーのような理髪店で整髪する「FOG BARBER styling篇」。ウエストミンスター橋やマグダーレン教会などロンドンの観光名所を4人が駆け抜ける「RUN!!! 篇」。新バージョンは、バー風理髪店の4人の横に宮﨑あおいが登場する「WOMEN篇」。最後のテロップは「さよならWAX」。

 両CMのキメのコピーでもわかるように、相互にライバル商品を強烈に意識しているのは間違いない。しかし、ここに至る商品ラインナップはどちらも若干の蹉跌があり、今回の商品で修正をかけているのだ。

 髪にボリュームを持たせたり、流れを付けたりと、ワックスによる高い自由度で髪型を作り込むことが若年男性層の主流であった昨秋。ギャッツビーのムービングラバー、テクニカルデザインクレイ、パーフェクトホールドワックスなどの各シリーズで万全のラインナップを持つマンダムに、「作り込みすぎのヘアはもう古い」と自然なスタイル提案と共に、ベタつきのないミストタイプの「FOG BAR」で資生堂が戦いを挑んだ。イケメン四天王のCMだけでなく、FOG BAR専門営業部隊を社内に組織し、量販店などに積極的に売場提案を行い、店頭販売促進も強化した。有名ヘアサロンを巻き込んでのPR活動も行うなど、「コミュニケーション・ミックス」を最大化したのである。その甲斐あって、1ヵ月で1年分の販売目標240万本を売り切る大ヒットを記録。販売開始翌月にはマンダムを抜いて首位を奪取。日経MJヒット商品番付2009の西前頭4枚目にも列せられた。

 それに対して、マンダムは同様のミストタイプ、「ギャッツビー クイックムービングミスト」を今年2月に投入した。ボトルをひねると「カチッ」とプッシュノズルが頭を出すパッケージに工夫を凝らしたが、中味はベタつきを抑えたミストで、「何度でも直せる」というFOG BAR同様の訴求点。ヘアサロンのアーティストをWebサイトに登場させ使い方指南をさせるという、これも同様の手法を展開した。つまり、これは旧リーダー企業からの「同質化戦略」である。
 ギャッツビーの幅広いラインナップで販売店の棚で面展開のできるマンダムは、FOG BARと同質化したミストタイプの商品を消費者の手に取らせることも可能だ。そして、ヘアの作り込みが自由にできる反面、如何せん手がベタつき、洗髪も1度で足りないというユーザーの不満解消もできる。しかし、それは資生堂unoが当時の「ワックスにさよなら」といっていたコピーを体現することになる。

 資生堂が仕掛けたのは、チャレンジャーがリーダーに対して行う「理論の自縛化」である。リーダー企業が発信してきたのと矛盾するメッセージで、同質化できない差別化を図るのだ。有名な例では、かつてのキリンビールとアサヒビールがそれだ。「ラガービール」で、ビールの「コク」や「旨味」を訴求してきたキリンに対し、それに反する「ドライ」「キレ」という新たな価値観をアサヒが持ち込み、1987年に「スーパードライ」を発売。翌年、ビール各社同様、キリンも「ドライ戦争」に突入したが、消費者には受入れられず、首位の座を明け渡すことになったのである。
そこで開発されたのが、今回の「GATSBY WATER WAX」だ。同社のWebサイトにある商品説明では、<アクアラバー*配合で水のようになじみ、何度でも手直し可能。手も髪もベタつかず、簡単に洗い落とせる>とある。ワックスの持つ髪型の自由度そのままに、ミストの利点を実現したわけだ。そこで、CMのキメのコピー「やっぱワックスでしょ。」となるのである。

 一方、無敵とも思える「uno FOG BAR」にも弱点はある。ナチュラルなスタイルを訴求してはいるものの、「そうはいっても、もうちょっとホールド感が強くならないか?」というものだ。もっと髪型を遊びたい若年層に加え、髪の毛にボリュームを出したいという筆者のようなお年頃の層には切実な願いである。そこで発売されたのが、CMで「バリカタ新登場」と紹介される濃紺のボトル。「FOG BAR 万能ストロング」だ。使ってみると、確かに今までのラインナップでは一番整髪力が強かった赤ボトル以上に髪のまとまりや立ち上がりがいい。しかし、ごっつりと作り込むような髪型に向くほどではない。ナチュラルが売りの「FOG BAR」にとって、理論の自縛化を起こさないギリギリの線で、ワックスにユーザーが流出しないための調整をした結果だと思われる。
 CMの宮﨑あおい起用にも苦労が忍ばれる。発売当初より、ナチュラル仕上げなので、女性も使える商品であると訴求してきたが、狙いほど女性層の開拓が進んでいないと思われる。筆者が教鞭を執っている大学の授業で、FOG BAR使用者を挙手させてみると、男子学生への普及率はかなり高かったが、女子学生の使用者は数えるほどしかいなかった。そこで、CM「WOMEN篇」である。宮﨑あおいもバーのような理髪店「FOG BARBER」で、隣に座る瑛太を指差し、「彼と同じものを」とオーダーする。男女兼用であるというアピールだ。最後には「さよならワックス」のテロップに重ねて、すかさず「女子にも大人気」とアナウンスが入る。

 GATSBY 対 uno:スタイリング剤ガチンコ勝負は、お互いに弱みを克服しつつ、本来の強み、ポジションに立ち戻っての戦いとなった。しばらくは勝負の行方から目が離せない。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (6) | TrackBack (0)

2010.09.24

【おしらせ】ロボット開発と起業のヒミツが聴けるセミナー

H2_title_4


 ※弊社・金森マーケティング事務所が協力しているセミナーのおしらせです。

 アイロボット社CEO コリン・アングル プライベートセミナー
 ~アイロボット社起業における成功秘話と日米ロボット研究における違いについて~

 アイロボット社は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で最先端の人工知能(AI)研究を進めていた現CEOのコリン・アングルによって1990年に設立されたベンチャー企業です。日本においては「自動掃除機ルンバ」というお掃除ロボットが有名ですが、米国ではそれ以外にも、国防省に納入された地雷探査ロボットや、同時多発テロで被害を受けた世界貿易センタービルの瓦礫の中で活動した多目的作業用ロボット、その他、海洋調査ロボットやガレージや地下室など、作業場清掃ロボットなどが生み出されています。

 同社のユニークな点は、日本では「ロボット」といえば、鉄腕アトムやガンダムのような二本足歩行にこだわった開発が行われますが、その走行形態にはこだわらず、「“Dull,Dirty,Dangerous(退屈、不衛生、危険)”な仕事をロボットが実行することにより、人々をそんな仕事から解放する」ということを理念とした開発を行っています。その一つの発想の転換と商品化は、マーケティング的に考えても独自のポジショニングをバリュープロポジション(Value Proposition=競合にはなしえない自社ならではの提供価値)を明確にした正しい展開であるといえます。

 今回のセミナーでは、まず、日米のロボット開発に関する考え方の違いを、明治大学理工学部機械工学科専任准教授・黒田洋司氏を招聘して講演いただきます。黒田准教授は宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所共同研究員であり、JAXA MUSES-C(はやぶさ)プロジェクト、小惑星探査ロボット「ミネルバ」開発検討メンバーでもあります。

 セミナー最大のポイントは、何といってもアイロボット社CEO コリン・アングル自身が、設立20周年のタイミングで、 同社が成功した秘密を明かし、これから起業を目指す人たちに対して「成功するための提言」をすることです。
 私事ながら、金森は青山学院大学経済学部で「ベンチャービジネスとマーケティング」という科目を担当していることもあり、非常に興味大であり、この講演の協力をするに至った経緯もそこにあります。

 以下、セミナーの概要です。


 ■主催:明治大学 セールス・オンデマンド株式会社

 ■協力:明治大学ビジネススクール(MBS)起業部 インサイトナウ 金森マーケティング事務所

 ■場所:明治大学 リバティホール 地図は→こちら

 ■日時: 2010年10月7日(木) 19:30〜21:00 ※19:00 受付開始

 ■お申込締切: 2010年9月30日(木)まで ※定員を超えた場合は、締め切らせていただきます。

 ■受講料: 無料

 ■定員: 先着200名様


<プログラム>

 19:30〜19:50 明治大学理工学部 准教授 黒田洋司

          「日米ロボット研究の違いと二足歩行にこだわらない自律型ロボットの重要性」(仮)

 19:50〜20:30 アイロボット社CEO コリン・アングル

          「アイロボット社成功の秘密と、企業家が成功するための提言」(仮)

 20:30〜21:00
 
        質疑応答

<講師>

コリン・アングル

アイロボット社創設者、現CEO(最高経営責任者)
1990年、同じMIT(マサチューセッツ工科大学)人工知能研究室出身の、ロドニー・ブルックス、ヘレン・グレイナーと共にアイロボット社を設立。1997年には、コリン・アングルと彼のチームがNASAの依頼により火星探査ロボットをデザイン。その功績により、”NASA GROUP Achievement Award”を受賞。その後、アイロボット社は、家庭用ロボットと政府用ロボットという成長し続けるロボット産業において、「ルンバ」「パックボット」など、数々の実用的なロボットを生み出し、大ヒット。世界的規模の企業と成長した。
コリン・アングルの斬新なアイデアやリーダーシップは、アイロボット社の成長に多大な貢献をしたとし、多数の専門的な賞を受賞。ロボット業界の専門家として、テレビ、雑誌などにも多く出演。
アイロボット社の設立以来、20年。ロボット産業界をリードし続ける第一人者であり、これからもチャレンジを続ける開拓者として評価されている。


黒田洋司(くろだようじ)

明治大学理工学部機械工学科専任准教授、
宇宙航空研究開発機構【JAXA】宇宙科学研究所共同研究員、
JAXA MUSES-C(はやぶさ)プロジェクト、小惑星探査ロボット「ミネルバ」開発検討メンバー
1989年横浜国立大学工学部船舶海洋工学科卒業、1994年東京大学大学院工学系研究科 船舶海洋工学専攻博士課程後期終了、博士(工学)。海洋ロボットを研究する。その際、最先端のロボット研究を進めていたMIT(マサチューセッツ工科大学)を訪れ、より深いロボット研究を志す。1995年より明治大学専任講師。1996年より東京大学生産技術研究所研究員。1997年よりJAXA MUSES-C(はやぶさ)プロジェクトに参加、小惑星探査ロボット「ミネルバ」開発検討メンバーとなる。2004-2005年にはマサチューセッツ工科大学客員准教授を務め、2007年より明治大学理工学部機械工学科専任准教授として現在に至る。
今後、日本のロボット研究の中心を担っていく一人である。

主な研究分野:フィールドおよび宇宙ロボティクス。移動ロボットの自律移動制御、視覚情報処理(ロボットビジョン)など。応用分野としては惑星探査ロボット(ローバ)、火山や海洋における探査ロボット等。近年は都市環境で自律移動をするロボットの研究も精力的に行っている。


■申し込みはこちら → https://www.irobot-jp.com/event/seminar20101007/

ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (3) | TrackBack (0)

2010.09.22

「ペプシモンブラン」は不味いはず?~好例の変わり種・味予測~

 猛暑がようやく落ち着く気配を見せ、秋の味の話題もちらほら聞こえてきた。そして、季節の味覚の如く恒例ともなっている、毎年1~2回発売される変わり種ペプシ。この秋の新作は「栗」がテーマだ。

 <「ペプシモンブラン」季節限定発売 ― 人気のデザート「モンブラン」をモチーフにした、ペプシが新登場 ― >(9月21日サントリー ニュースリリース)
 http://www.suntory.co.jp/news/2010/10881.html

 栗のホッコリとした甘み。それを使ったスイーツ。その味を思うと思わずほほが緩む。ラ・プレシューズ、ラレーヌ、千疋屋などを筆頭に、「モンブラン」も大人気だ。
 が、しかし、「ペプシモンブラン」は不味いはずなのだ。いや、不味くなくてはならないのである。その理由を説明する前に、変わり種ペプシの歴史を辿ってみよう。

 変わり種ペプシは2007年夏、キュウリ味の「ペプシ・キューカンバー」で衝撃のデビューをしたと多くの人が認知している。キュウリ味というよりも、同じ瓜科のスイカの白い部分のような、薄甘く青臭いようなビミョー味がネット上で大きな話題となった。実際にはそれ以前にも、レッド、ゴールド、カーニバルなどの変わり種を投入してきたペプシ。だが、2007年頃、BlogやSNSなどでの口コミの情報量が増大したことも手伝って、それまでと一線を画す大きな話題となったのだ。
 以降、2008年夏、カクテルからヒントを得た「ペプシブルーハワイ」。こってりとパイナップル甘く、ビミョーな苦みを少し感じる味わいだった。同年冬は、乳性炭酸飲料風の「ペプシホワイト」。少し飲むと普通に美味しいのだが、やがてビミョーなケミカル臭が感じられ、小児用シロップ薬が思い出される気がした。2009年は「和」がテーマだったといい、夏は「ペプシしそ」。しその酎ハイを想起させるも、ホワイトに用いられていたケミカルさが強化された感が強かった。ホワイトとしそのケミカルさは、一部ドクターペッパーなどの味わいを好む人には好評であったが、多くの人は「1本飲み終えられない」と評した。
 ところが、その不味い味に変化が起きたのが同年秋。「ペプシあずき」。「甘過ぎ」「なぜ、しるこのような粉っぽさを感じる?」といった声も聞かれたが、「意外に美味しい」との票が多かった。さらに、今年5月に発売された「ペプシバオバブ」。「アフリカに生育する樹木“バオバブ”をモチーフにした」という謎なコンセプトとは裏腹に、そのフルーティーな味わいは「美味しい!」と多くの人が衝撃を受けていた。

 徐々においしさを増し、フツーに美味しくなった変わり種ペプシ。しかし、本来のその狙いはそれではダメなのだ。
 変わり種ペプシの戦略的目標が2009年10月に日経新聞関連のサイトに掲載されていた。当該記事のリンクは既に消滅しているが、要旨を以下に記す。記事タイトルは<「サントリー、ペプシPRへ話題作り シソ・アズキ…相次ぎ『奇策』」>。
 記事中でペプシブランドを運営するサントリー食品・食品事業部の石原圭子課長がインタビューに応え、<「2本目を買ってもらうことは期待していない」「限定品は味わいの驚きでブランドの新しさや楽しさを発信する手段。商品自体がペプシのPRになっている」>と言い切っている。

 ペプシの最大のライバルといえば、コカ・コーラだ。会社規模で考えれば、総合食品企業のペプシコは、コカ・コーラより遙かに規模が大きい。また、世界各各地の飲料市場でも、地域によってはペプシがコカ・コーラを上回るシェアを確保している例もある。しかし、日本市場では、ペプシを擁するサントリーは飲料業界第2位。第1位が日本コカ・コーラだ。両社の飲料全体でのシェアはサントリーが20%なのに対し、日本コカ・コーラが30%以上と、サントリーは大きな差を開けられている。両者の戦力の違いで大きいのは、自販機の保有台数である。日本コカ・コーラが、飲料販売の約4割を占める全国約240万台の自動販売機のうち、80万~90万台保有するのに対し、サントリーは44万台と劣勢なのだ。自販機での販売に劣るサントリーが注力するのは、昨今、自販機以上に重要な販売チャネルであるコンビニだ。自販機の飲料販売シェアはかつての50%から現在は35%まで低下している。それを奪っているのがコンビニなのだ。自販機は自社の都合で商品をラインナップできるのに対し、コンビニの棚を確保するには、チェーンの本部・マーチャンダイザー(MD)とフランチャイズオーナーが、「扱おう」という気にならなければならない。そして、その意志決定を大きく左右するのが商品の「話題性」なのである。

 変わり種ペプシの狙いは、その話題性喚起を、マス広告などを全く用いずに口コミで伝播させることにある。昨夜発表された「ペプシモンブラン」の話題は、既にいくつもBlogやSNS、Twitterに記載されている。この記事もその一つになる。話題性を喚起して、変わり種ペプシをコンビニの棚に並ばせる。多くの店は、その限定期間中、ペプシのNEXなどのレギュラー商品も棚のフェイス数を増やす。それこそが、狙いなのである。
 コカ・コーラに対するペプシ。日本コカ・コーラに対するサントリー。その構図はリーダー対チャレンジャーである。強大な力を持ち、全方位で戦うリーダーに対し、チャレンジャーは徹底して差別化を図る。リーダーがやらないこと、できないことを展開するのである。

 「スカッとさわやかコカ・コーラ」というキャッチコピーは実は登録商標されている。それだけに、「さわやかさ」はコカ・コーラにおいて重要なブランド資産なのである。故に、「変わり種コカ・コーラ」は絶対に発売しない。そこでチャレンジャーであるペプシが差別化をかけるのだ。
 それ故に、本来、変わり種ペプシは「さわやか」だったり「美味しい」だったりしてはいけないのである。「ビミョー」だったり、「不味い!」だったりすることが、差別化のキモなのだ。衝撃のキューカンバーの不味さで大成功し、ブルーハワイでそれを継承。ホワイトとしそでは、ビミョー程度にトーンダウンしたが、あずきで美味しくなりだして、バオバブでついに美味しさが完成してしまった。これはいけない。

 今回の「モンブラン」では、一気に本来のポジショニングに修正をかけてくる可能性が予想できる。バオバブとは打って変わって不味くなるのだ。「栗」ではなく、「モンブラン」というあたりが怪しい。あずきのような素材感ではなく、スイーツとしての甘みを極端に強調してくるのではないだろうか。もとより、変わり種のレギュレーションは、甘味料を使ったゼロ系飲料とは異なり、パンチの効いた砂糖・糖分の甘みが特徴だ。劇甘な気がする。そして、ビミョーなケミカルさも復活するかもしれない。

 以上のように、筆者は「ペプシモンブランは不味いはずだ!」と予想する。しかし、その味がどうであろうと、早々とこれだけ話題にしてしている時点で、サントリーの戦略にはまっていることだけは間違いないのである。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2010.09.21

ハンバーガー秋の陣:フレッシュネス&バーガーキング

ハンバーガー秋の陣:フレッシュネス&バーガーキング

 圧倒的なコストリーダー、マクドナルドが君臨するハンバーガー市場において、下位企業がその意地をかけた戦いを展開しはじめた。フレッシュネスバーガーとバーガーキングである。

 日経MJ9月20日フードビジネス面に「フレッシュネス、初のCM 健康志向訴え認知度向上」との記事が掲載された。11月5日から開始されるというCMは、大手ハンバーガーチェーンは<大半が商品やキャンペーン告知が目的。フレッシュネスのブランド認知に絞ったテレビCMは珍しい>(同記事)という。
 消費者の商品・ブランド認知から購入に至までの態度変容はAIDMAモデルで表すことが多い。Attention(認知)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(購買行動)である。
 記事によると、首都圏及び近畿圏におけるハンバーガーチェーンの認知度と利用率は、マクドナルド99.8%:97.5%、モスバーガー99.3%:85.8%、ロッテリア98.8%:79.8%であるのに対し、フレッシュネスバーガーは41.8%:24.8%に留まるという。業界第3位のロッテリアも店舗数は2009年2月時点で524店あるのに対し、フレッシュネスバーガーは189店と規模の差があるため利用率の低さはやむを得ない。しかし、今後300店体制を目指す戦略を打ち出している以上、まずは認知度の低さから解消していくのは急務であるということだろう。
 実際に、同社の戦略課題は明確だ。巨大マッシュルームを使った「ベジタブルマッシュルームバーガー」が人気を博すなど、ブランドを挙げてヘルシー志向の加速している。同社の特徴であった喫煙席も以前と比べて分煙化や縮小を進めているのも、健康志向の文脈であろう。記事でも<肉類を使わないパティ仕様の「ベジタブルバーガー」などに象徴される独自のブランドを訴えていく>とある。ターゲットを「ヘルシー志向層」と絞り込み、まずはAttention→Interestを強化。次いで、メニューや店舗の魅力で欲求(Desire)喚起集客し、利用率(Action)も改善していく。そうして、規模だけでは勝負できない上位チェーンに対して、まずはニッチャーとしてのポジションを堅固にするという戦略にかけているのだ。

 マス広告による集客と対照的な戦略をとっているのがバーガーキングだ。世界的にはマクドナルドに次ぐ第2位のポジションであるが、日本では2001年に一度は日本から撤退。2007年に再上陸するも、現在のところ店舗数は首都圏に35店あるのみだ。マス手法では効率が合わない。
 そこで同社が9月16日から開始したのが、<『WHOPPER®』おかわり自由の「“B”iking」 キャンペーン。である。
 (同社ニュースリリース)http://www.burgerkingjapan.co.jp/release/pdf/PressRelease1016_02.pdf

 同社の看板商品は“とてつもなくでかい”を意味する『WHOPPER』であるが、そのセットを<ご購入のお客様に限り、店内でバーガー類とサイドを全て召し上がっていただいた際に、量にご満足いただけなかった場合には、ご購入いただいたバーガーと同じ商品を、ご満足いただけるまでご提供させていただきます>(同リリース)というキャンペーンだ。
 キャンペーン開始と同時に各メディアの記者が体験しレポートをWebサイトに掲載した。

 <ハンバーガーおかわり自由に挑戦!残すと商品相当額お支払い…>(9月16日フジサンケイZAKZAK)
 http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20100916/dms1009161158000-n2.htm

 一般の来店客も挑戦しているようで、体験記なども含めてBlogやTwitterでも盛り上がりを見せている。AIDMAのAttention(認知)やInterest(興味)を口コミで促進しようという戦略であるが、その前提として市場のフォローの風を利用していることも見逃せない。
 バーガーキングは「直火焼き本格バーガー」が売りであるが、本格バーガーや高級バーバーはここ数年、静かなブームとなっており、ハワイ生まれの「クア・アイナ」などの歴史ある小規模チェーンから新規出店する単独店まで、数多くの店舗が参戦している。
 バーガーキングのもう一つの売りは、前述の<“とてつもなくでかい”を意味する『WHOPPER』>だ。本格バーガーは総じてサイズが大きめであるが、大型サイズを一般化し、ブームにしたのは、やはりマクドナルドの功績が大きいだろう。2007年に販売されていた「メガマック」に始まり、現在の看板である「クォーターパウンダー」にいたる大型メニューはマクドナルドがリードしてきたといえる。現在も「クォーターパウンダー200円キャンペーン」で、さらに市場拡大を図っているところだ。
 バーガーキングは市場のトレンドやリーダー企業の市場開拓にうまく乗って自社の需要を促進する、フォロアー的アプローチを極めてうまく展開しているといえる。それは、わずか35店舗という規模からすれば実に合理的だ。

 さらにバーガーキングは「おかわり自由」での注目を利用する二の矢三の矢を用意することも忘れてはいない。「WHOPPER」に次ぐ、日本オリジナルの戦略商品「グリルTeriyaki(テリヤキ)」を「おかわり自由」開始と同日に発売した。いやが上にも注目が集まる中で、マクドナルドを始め先行チェーンが何年も前から成功させている、日本市場における鉄板メニューである「テリヤキ」を投入する。これもフォロアー的アプローチとしては極めて正しく効率的だ。
 その翌日には、ランチタイム終了後の時間に、ドリンクを購入するとポテトやパイが無料でもらえるキャンペーンと、平日のランチセットが割引になるキャンペーンを展開するなど、かつてないペースで新施策を展開しはじめた。集めた注目をムダにしないという意図であるのは間違いない。

 業界リーダーとチャレンジャーの息をのむような戦いを見るのは楽しい。消費者としてもお得な話も多い。しかし、ニッチャーやフォロアーの知恵を絞った高い方にも、学ぶべき点は多い。特にその制約条件をどのように解消したり、活かしたりしているのかは注目のポイントなのだ。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2010.09.20

「伝える」「人を動かす」ということ~「身元の分かる被害者効果」から考える~

 9月17日にWIRED VISIONに非常に示唆に富んだ記事が掲載された。
 <統計よりも「1人のストーリー」が有効な理由>
 http://wiredvision.jp/news/201009/2010091722.html

 記事は<チリの鉱山で起きた事故は、人々の高い関心をひきつけている。一方で、パキスタンの洪水は、大規模な被害であるにもかかわらず十分な関心が喚起されていない。その背景についての考察>という書き出しで始まる。原題は「The Identifiable Victim Bias」。直訳すれば、「個人の被害者バイアス」とでもいうタイトルになるだろうか。<被害者が「特定可能な個人」である場合に、そうでない場合と比べて、はるかに強い反応を人々が見せる傾向にあることを示唆する>という「身元の分かる被害者効果」(identifiable victim effect)について述べられたものだ。

 記事には次のような例示がなされている。
 <マリ共和国のRokiaという名の1人の飢えた子どもの写真を見せられた人々は、驚くほどの気前の良さを示した。これに対し、アフリカ全土の飢餓に関する統計データのリストを見せられた2つ目のグループは、申し出た寄付金の平均額が50%低かった>
 <われわれは、ひとりの子供が井戸に落ちたら心配で目を離せないが、清浄な水が無いことで毎年何百万人もの人が死ぬことには関心を持たない>
 そして、<統計データの難点は、われわれの道義的感情に訴えかけないことだという。厳しい現実を数字で見せられても、われわれの心は動かない。人間の心は、そこまで規模の大きな苦しみを理解することができないのだ>と心理学者が解説している。

 連日報道される、地理の鉱山地下700メートルに閉じ込められた30数名の男達の姿。例示にある少女Rokia、そして井戸に落ちた一人の子ども。それらと、その映像や写真を見、話を聞いた者の間にあるものは何かといえば、「commitment(関与=ある物事に関係すること。かかわること)」だ。つまり、不幸にさらされたその姿や話を聞くことによって、この場合は「惻隠の情」が呼び起こされ、「関与」してしまっているのだ。そこにはもはや、合理的な判断だけでは割り切れない「感情」が成立してしまっている。
 例示のRokiaだけでなく、国際的なdonation(寄付)を募る広告において、無垢なるまなざしの子ども達のモノクロ写真は、もはや常套手段である。さらに写真に添えられた文章には、その子どもの生活の窮状や、その環境にも関わらず子どもが抱いている将来の夢などが書かれている。「背景情報」である。
 育英基金だったり、生活環境改善だったりと、募金の使い道は色々で、「特定の子ども向けの寄付はできません」などと注意書きがあるにも関わらず、多くの人がその子どものまなざしと、「背景情報」に心動かされて財布の紐をほどく。つまり、「関与」しているわけだ。

 「身元の分かる被害者効果」のような不合理性は、消費者行動の底流であると考えた方がいいだろう。もとより、我々は不合理な存在であり、非合理的な感情に支配された生き物なのであるのだと。
 消費者自身にとっては、「経済的な合理性」とは、一つの判断基準でしかない。その合理性が正しく判断できているとしてもだ。経済性以上の合理性が、その人の中に成立するのであれば、それが優先される。そして、その際の重要な要素が「自らが関与するにたり得る“関係性”が感じられるのか。その“背景情報”が存在するのか」である。

 統計的な情報ではなく、報道ではなく、消費者に何らかの行動を起こさせるためのメッセージ発信においては、commitment(関与)が得られる対象としてのポジションを獲得すること。そのための「背景情報」も併せて発信していくことなどが欠かせない。成功しているブランドほど、その歴史や背景がファンにきちんと伝わっている。ファンは積極的にそのブランドの「一部」たらんと、積極的な関与=購買行動を取る。謎めき、崇拝を集めるセレブレティーも存在するが、人々から愛されるセレブほど、生い立ちや人となりがファンに共有されている。つまり、commitment(関与)によって、「あなた」と「私」の関係に留まらず、「我々」の関係に昇華しているのである。

 記事では、二つのことを結論としている。一つは、<人間の感情は、そのような(大きな)規模の苦しみを理解できないかもしれない。それでも、苦しみが続くことに変わりはないのだ>と、「情報の受取手」として、情報処理能力と感性の両面を磨くことを訴えている。これは個々に留意したいところだ。
 もう一つが、「伝える側」は、パキスタンの洪水被害にあるような<災害の規模の大きさばかりを取り上げ、個人レベルの悲劇を伝えなかったことにある>というような過ちを犯さないことである。繰り返すが、人は経済的な合理性だけで動くわけではなく、「合理性」というものも絶対性はない。人を動かすためには、または、求める理解を促すためには、表面的な事実、客観情報だけではだめなのだ。人に関与を促す背景情報などの機微に踏み込むことも必要なのであると肝に銘じたい。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.17

ファミマの「おとな研究所」から学ぶべきこと

 ものすごく当たり前な話だが、「人は歳を取る」。その当たり前なことをきちんと認識して、対応することがビジネスにとっては極めて重要なことなのだ。

 9月17日の日経MJ総合小売り欄に「ファミマ、中高年に的 『おとな研究所』で需要調査 まず健康志向の弁当発売」という記事が掲載されていた。50~65歳の中高年層向けの商品・サービスを開発するための組織を社内に設け、著名人の協力も仰ぐようだ。そこにはプロデューサー・残間里江子、コラムニスト・泉麻人、バレーボール元日本代表・三屋裕子などのお歴々が名を連ねている。詳細はファミリーマートのニュースリリースにも記されている。
 <「おとなコンビニ研究所」新商品第1弾~club willbeとの共同開発商品3種類を発売~>
 http://www.family.co.jp/company/news_releases/2010/100914_1.html

 日経MJの記事では上田準二社長の<現在は来店客の約11%にとどまる50~65歳の比率を「」団塊世代が完全にリタイアする3、4年後には20%にまで高めたい>とする意気込みが伝えられていた。
 上田社長の戦略はぶれていない。今年5月28日の日経MJのコラム「消費 見所 カン所」に上田社長の記事があった。 同社は2007年に50代後半から60代前半をテーマにした「チーム団塊」を発足。3月からは<“コンビニ弁当の定番おかず”である揚げ物を入れず、旬の野菜類をふんだんに用いた団塊世代ターゲットの弁当『春のこだわり和風御膳』を発売するなど、中高年層へアプローチ>を強化しているとあった。そして記事は<63歳の上田社長はコンビニエンスストア大手の社長でただ一人の団塊世代。「この世代の感性が自分のこととしてわかるのは私だけ。それが当社の強み」>というインタビューで締めくくられていた。今回の施策もその発展型であることがわかる。

 しかし、だ。そもそも、コンビニの中高年層来店比率が低いのは問題ではないだろうか。
コンビニエンスストアが日本に登場した最初の年は諸説あるが、大手グループなら、1973年9月にファミリーマートは狭山市(埼玉)実験第1号店オープンさせ、セブンイレブンが1974年5月に江東区(東京)に1号店オープンさせている。以来、36~7年経っているわけだ。つまり、当時20歳の若者だった人も56~7歳になっている。コンビニといえば「若者」という客層が想起されるが、当時の若者も立派な中高年になっているのである。特に来店するための抵抗感やハードルがあるとは思えない。にもかかわらず、来店率が低いのはなぜだろう。

 同じく業態から来店者は「若者」と思ってしまいがちがファストフードはどうだろうか。
 統計的なデータがうまく探せなかったが、定性的な来店客の観察は店舗でできる。立地にもよるが、平日の午前中、ビジネスパーソンが慌ただしく朝マックを済ませた後ぐらいの時間帯には、三々五々集まってくるのは、新聞を読みコーヒーを飲んでゆったりするリタイア層とおぼしき60代後半以降の男性客だ。ランチタイムが終わった少し後。遅めの昼食やスイーツとコーヒーを60代以降のご婦人が目に付くのはモスバーガーである。
 日本のファストフードの黎明期はコンビニより少し早い。1970年にケンタッキーフライドチキンとドムドムハンバーガー、71年にマクドナルドとミスタードーナツ、1972年にはロッテリア・モスバーガーが相次いでオープンした(Wikipediaより)。70年に20歳の若者だった人は60歳。30歳で子どもを連れて来店していたママは70歳になっているわけだ。ファストフードを習慣的に利用するようになっている客層。もはやガッツリしたメニューを食べるわけではないが、飲み物や軽めのメニューがあれば、利用することに抵抗はない。ことに、モスバーガーは野菜などへのこだわりなど、健康志向を打ち出しているため利用しやすいだろう。

 ファミリーマートが力を入れるとしているのも、中高年のニーズをつかむ商品開発だ。もとより、コンビニという業態の利便性は高い。そこに欲しい物があるかどうかが問題なのだ。野菜や食品を多く扱う、いわゆる生鮮コンビニ。大きなスーパーまで出かけたくない、少量に小分けされた商品が購入したいとする高齢者が非常に多く利用し成功している。うまくニーズを捉えている好例である。

 新たに登場した業態。その利用客も時間の経過と共に、歳を重ねている。その変化をきちんと捉え、変化するニーズに応えることは、当たり前なようで実は難しい。日本市場はもはや少子高齢化が避けられない。新たなユーザーの確保以上に、既存顧客のニーズを捉えることが大切なのだ。

ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.16

ラーメン店の定番コショウGABANに学ぶB to Bマーケ

 ラーメン店など、飲食店のテーブルでおなじみのコショウ「GABAN」。その創業期の営業物語がポータルサイト・exciteのコラムで紹介されていた。そこにはB to Bマーケティングのキモが隠されていたのである。

 <飲食店のコショウはなぜGABAN?>(9月15日exciteコネタ)
 http://www.excite.co.jp/News/bit/E1284295853462.html

 GABANは株式会社ギャバンの登録商標である。同社は香辛料の輸入・製造販売
輸入食品販売を行っている会社であるとWebサイトに記載がある。2003年1月に味の素と業務提携契約を締結。04年8月にはハウス食品とも業務提携契約を締結し、そのハウスとの提携で07年6月には女優・黒木メイサがCMに出演した「GABANポテトチップス」も発売している。
 主力商品は、メタリックのシルバーとブルーに「GABAN」のロゴがカッコイイ、コショウだ。その缶をラーメン店などのテーブルに見ることは多いだろう。Exciteの記事ではなぜ、外食店に深く食い込むことができたのか、そのヒミツをメーカーに取材して書かれている。
 <「創業者は札幌ラーメン横丁を一軒一軒まわって、1缶ずつ販売した経緯があります。ブラックペッパーはラーメンに極めてマッチし、札幌ラーメンが全国に広がるのに合わせて、いつしかラーメン屋さんのカウンターになくてはならないものになっていったのです。また、ホテル・レストランのシェフを直接訪ね、品質の違いを説明するために、その場で缶を開けて香りを確かめてもらったり、簡単な料理をつくり納得してもらうよう手を尽くしました」>とある。

 B to BマーケティングにおいてはB to Cとマーケティングの4Pが大きく異なることが多い。Promotionは、CMなどの広告で行われることは少ない。まずは「人的販売」。営業担当者が動いてナンボの世界だ。ギャバンはそれを創業者自らが行ったのだ。さらに、Productも商品そのものの評価だけでなく、商品に関する提案やサポートやトレーニング、アフターサービスなどの付随機能も重要視される。料理を作って提案するなどの施策が奏功していることがわかる。そして、その営業がうまくいくか否かでPriceが大きく異なる。B to Cのようにメーカーが設定している定価や希望小売価格にはほとんど意味がない。「まずは見積から」の世界である故に、製品の価値をどのように伝え、高められているかがキモなのである。その意味ではPlace(チャネル・販路)の設計も重要だ。顧客が簡単に理解できるような商品なら、代理店などを使った営業でも構わないが、説明・説得な必須なようなら直営するしかない。ギャバンの場合、それが創業者自身による営業であったわけだ。

 B to Bでもう一つ重要なことは、DMU(Decision Making Unit:購買意志決定・関与者)を洗い出し、動かすことだ。ギャバンの創業者営業の話には、記事の続きがある。
<シェフのお墨付きを手に、そのレストランが取引する問屋を紹介してもらうことで、取扱店は少しずつ増加。この手法が、1980年代には中国料理店や焼肉店でも行われ、今のように全国のあらゆる飲食店で、GABANのコショウが見られるようになったという>とある。
 コショウなどの香辛料はメーカーから飲食店が仕入れる場合よりも、問屋が仲介する場合が多い。その場合、シェフ自身は仕入れを決める立場の人(=Decision maker)であるが、問屋はさらにまだギャバンを認知していないシェフに紹介してくれるという影響者(influencer)というDMUになる。シェフは「美味しい料理を作る」という関心事があり、問屋には「飲食店が喜んで仕入れてくれる商品を取りそろえたい」という関心事がある。DMUがどこにいる誰で、どんな関心事を持っているのかを把握することが重要なのだ。

 では、GABANはシェフ達にどのような商品として受入れられたのだろうか。ポジショニングの問題だ。B to Bの場合、B to Cと異なって、どのような要素を訴求すればいいかを二軸のポジショニングマップで検討するよりも、シンプルにして重要なことがある。Q・C・Dの3つの要素をどう訴求するかだ。Q=Quality(品質)、C=Cost(価格)、D=Delivery(納期)である。例えば、日本電産の永守社長は自社のスローガンとして、「確かな技術、値段は高め、しかし納期は半分」といっている。明確なポジショニングを示しているわけだ。
 では、GABANはどうだろうか。創業者が説得するだけあって、品質にはじしんがあるところだ。記事にも<1940年代後半から50年代にかけて、日本に流通するコショウの多くには、小麦粉やパン粉が混ざっていた。原因は原料不足。そこで創業者は、食事の洋風化が進めば香辛料の需要も増え、“混ざり物がないコショウは売れるはず”と考えた。そうして1954年、エイト食品(現ギャバン)が設立された>とある。まずは、品質ありきなのだ。価格と納期に関しては記述がないが、恐らくGABANは「品質は最高、価格は高め、納期は普通」のようなQCDのポジショニングなのではないだろうか。

 B to Bマーケティングは公開された事例がなく、他社から学べる機会が少ないという声がよく聞かれる。しかし、つぶさに観察すれば、ラーメン店のテーブルでも見つけることができる。そして、そのセオリーを愚直に踏襲することが成功の秘密であったりするのである。

ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

http://pingoo.jp/ping/

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2010.09.15

外来種・ハイアールはガラパゴス・日本を席巻するのか?

 中国家電最大手の海爾集団(ハイアール)の名が連日、日経新聞の紙面に登場している。「ガラパゴス」と揶揄される日本の家電市場で、その存在感を増している証左である。

 9月14日の日経企業2面に「中国ハイアール 日本で中・高級家電 中型冷蔵庫など1~2割安く」という見出しの記事が掲載された。従来、日本メーカーが手掛けていない、単身者向けの小型製品などを展開していた同社が、国内の主力市場であるファミリー向け製品に全面参入の予定であることを伝えている。大手家電メーカーやECサイトでもその名を見る機会が増えてきた「ハイアール」。記事にもあるように、冷蔵庫・洗濯機の世界最大の生産台数を誇る、白物家電では世界最大手企業である。「家電王国・日本」などという称号はもはや昔日。同社は成長著しい自国中国を中心にインド、さらに欧州にも販売拠点を広げ、ついに日本市場にも全面参入を表明したのである。

 国内市場が下手に大きく、そこで十分成長できてきたが故に、自国市場のニーズに対応した独自仕様で世界には通用しなくなってしまったとされる日本製品。絶海の孤島・ガラパゴス島になぞらえられ、ガラパゴス携帯を略して「ガラケー」などと揶揄する。
 その、本家ガラパゴス島のことを欧米人の多くは実は知らないとされているが、日本人もどれくらいの人が実態を知っているだろうか。地球環境問題と関連して、温暖化による海水温の上昇で海草が死滅し、食糧不足で海イグアナの体長が小さくなるなどの変化が起きている。さらに甚大な被害をもたらしているのは、多数の人間が島に入り込んだことによって、本来島に生育していなかった生物、外来種がはびこり、独自の生態系が破壊されつつあるという。・・・なにやら、日本市場と細部まで酷似しているようではないだろうか。

 日本の家電市場には、中国メーカーの製品が繁茂する余地はどこにあったのだろうか。
一つはやはり、環境の変化だ。上記記事の翌日、9月15日の日経新聞消費面のコラム「消費のなぜ」。「洗濯機『縦型』牽引 ドラム式との機能差縮小 値頃感増す」という見出しで掲載されている。ここ数年、洗濯槽が横に回る「ドラム式」が人気だったが、省水量型など機能向上と、何より価格の安さが人気で「縦型」が買われているという。購入層は、単身・少人数世帯やマンションなどの狭小住居世帯。さらに、ドラム式に装備されている「完全乾燥機能」をオーバースペックと感じている層などであるという。
 マクロ環境で考えれば、日本の人口は2005年から縮小に転じている。2015年までは世帯数は増加するが、そのほとんどが単身・少人数世帯である。さらに長引く不景気は財布の紐を引き締め、買い換えるたびにグレードアップするという、「すごろく型の消費」などはもはや過去の購買行動でしかない。
 日本向けのハイアールの家電は、日本向けのデザインや機能を搭載し、製品開発されるという。しかし、オーバースペックな開発はせず、「必要十分」というレベルで価格を抑え、コストパフォーマンスの良さで勝負をかけてくるはずだ。価格は安いが、そこそこ品質がいい「グッドバリュー戦略」。アパレルに例えるなら、ファーストリテイリングの「ジーユー(g.u.)」のような競争価格戦略のポジションだ。昨今の消費者の多くは「それでも十分」という購買意志決定をする。最高の品質・最高の価格という「プレミアム戦略」だけが支持される時代ではない。

 ECサイト最大手の楽天が、同サイトのヒット商品ジャンルを独自の切り口で集計した「楽天市場2009年ヒット商品番付」を2009年11月26日に発表した。前頭三枚目に「家電の二極化/高価・安価」がある。楽天は「価格破壊による安価化と消費者のこだわりによる高価格化の2極化が著しかった」と分析。安価については「メーカーの宣伝費や卸問屋の中間マージンを徹底的に削減したサードパーティモデルが堅調に推移」とし、高価は「高額ヘッドホンのヒット等、商品機能と消費者ニーズがマッチすると高価格でも売れるということが示された」という。この経済情勢では二極化のうち安価の方により拍車がかかることも想像に難くない。そして、白物家電においては、コストリーダーシップ戦略にモノを言わせることが可能な、世界最大のメーカー・ハイアール製品で占められるかもしれないのである。

 同9月15日の日経新聞企業2面には「住設大手、中国を買いたく 住生活G ハイアールと合弁 パナ電工 省エネ住宅を開発 マンション需要増に照準」という記事が掲載されている。INAX、トステム、サンウェーブなどからなる、住生活グループとハイアールの合弁は、サッシやトイレを爆発的に成長する中国で販売するための施策であるという。もはや成長余力のないこの日本市場、この島を出て大きな市場で戦う姿勢は頼もしい。しかし、私たちが日本で買いたい、もしくは買える商品が海外企業の製品ばかりになってしまったら、それはやはり寂しい気がする。

 企業が思っている以上に、日本の消費者心理は小さく縮んでいるのではないか。ガラパゴスのイグアナが身体を小さくしてしまったように、「身の丈消費」に動いているのではないだろうか。そんな消費者の姿や心理に、もう少し目をこらすべきだと思う。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.14

朝飲むウコン「モーニングレスキュー」の狙いと課題を読み解く

 「ウコンの力」のハウス食品から、朝に飲む「ウコンの力 モーニングレスキュー」が発売される。しかし、朝から一杯引っかける前に飲むのではないようだ。そのマーケティング的な狙いと課題を読み解いてみよう。

 <ハウス「ウコンの力 モーニングレスキュー」9月27日から全国のコンビニエンスストア・駅売店で発売~「ウコンの力」シリーズに、ペットボトル入りのウコンウォーター新登場!~>(9月13日・同社ニュースリリース)
 http://housefoods.jp/company/news/news2576.html

 タイトルにもあるように、ドリンク剤タイプの小型ボトルではなく、500ml入りペットボトルで、悪酔い防止ではなく、リリースにあるように<シトラスミックス味(無果汁)のハイポトニック飲料なので、朝からおいしく素早く水分補給ができます>と、いわゆるスポーツドリンクタイプの飲料であることがわかる。
 スポーツドリンクならば、大塚製薬の「ポカリスェット」や、日本コカ・コーラの「アクエリアス」の競合となるわけだが、特に水分吸収だけでなく、プラスアルファの機能性を訴求している点は「アクエリアス デイ スタート」が最大のライバルとなる。同商品は<カルシウムを1日の不足分170mg、ビタミンCを1日の必要分100mg配合>した<朝のコンディショニング飲料>(日本コカ・コーラ製品紹介Webサイトより)であるという。

 飲料の「喉の渇きをうるおす・水分を補給する」という中核価値を、スポーツドリンクは「スムーズな吸収」という実体価値で実現する。それに何らかの付随機能が付け加えられているのは、もはや製品カテゴリーが成熟期に達していることを表している。
 「ウコンの力 モーニングレスキュー」の付随機能は何だろうか。同社のリリース以上に日経新聞9月14日の消費面「New Face」の製品紹介の方が詳しい。
 <肝機能を高めるとされる「クルクミン」や3種のビタミン、4種のミネラルを配合>とある。そして、飲用シーンとしては<お酒を飲んだ翌日に水分補給を兼ねて飲む場合に適している>とある。「アクエリアス デイ スタート」同様に、付随機能をウリにした高水分吸収・スポーツドリンクタイプの飲料であるが、ポジショニングを明確にしていることがわかる。

 お酒を飲む前にはコンビニに寄って「ウコンの力」を飲むというのが、昨今、オトナの習慣になっているともいえるが、そもそも、なぜ、ウコンの力が夜の世界を離れて、朝の光の中に進出を企てたのであろうか。

 マクロ的な大きな理由は、「飲酒機会の減少」だ。Political(政治・規制)の影響要因では、2002年6月に道路交通法が改正され、飲酒運転が厳罰化された。Economical(経済的)影響要因では、何より長引くデフレ不況に2008年秋の世界的な経済危機がとどめを刺した。筆者の事務所は新橋にあるが、さすがの飲兵衛の街でも客足が途絶えがちで、各店の客の争奪戦が激化している状況だ。Social(社会的)影響としては、経済的な理由以外にも、若年層の飲酒離れも昨今よく指摘されるとおりである。つまり、飲酒をする機会も、飲酒をする消費者数も減少の一途を辿っている状況は、基本的には酒が飲まれなければ必要とされない「ウコンの力」にとっても危機的状況であるのは間違いない。

 そんなマクロ環境下で、競合環境はどうなっているのだろうか。Customer(市場の環境・顧客のニーズ)で考えれば、縮小する飲酒市場において、顧客を奪い合うCompetitor(競合)は、ロッテグループのロッテ健康産業が2009年11月からウコン飲料「飲みとも」の発売を開始した。タレント・みのもんたをキャラクターとして、ウコンの力の向こうを張る派手なCMを大量に投下して一気に消費者のアテンションを高めたことは記憶に新しい。さらに、ウコン系以外でも、味の素が得意のアミノ酸を使ったサプリメント「ノ・ミカタ」を、今年4月からドリンクタイプでも投入した。縮む市場に競合が参入し、コンビニ店頭では熾烈な戦いが繰り広げられることとなったのである。

 限られた市場のパイ、ターゲット顧客を獲得するために、ハウス食品は自社の技術を使って新たなウコン飲料を製品(Product)化したわけであるが、前掲の日経の紹介にある<お酒を飲んだ翌日に水分補給を兼ねて飲む>という製品価値を訴求している。商品名に「レスキュー」とあるので、お酒を飲んだ翌朝に、ビミョーに、もしくは激しくやっちゃった体調を何とかしたいとポカリやアクエリアスに手を伸ばすターゲットニーズの取り込みを狙っていることが明らかだ。
 そう考えると、価格(Price)の設定は絶妙だ。通常の500ml飲料は店頭販売で147円(税込み・自販機は150円)。それに対し、日経の記事では<オープン価格だが店頭想定は158円>とある。特保飲料であれば、花王「ヘルシア緑茶」が189円、サントリー「黒烏龍茶」が178円とプレミアムが上乗せされているのは珍しくない。それ以外で10円分のプレミアムは、例えば高濃度で酸素を溶かし込んでいるミネラルウォーターのアサヒ「スーパーH2O」や、コラーゲン入りヨーグルト飲料のサントリー「コラーゲンホワイト」などの例がある。つまり、特保のお墨付きではないが、何らかの期待効果を消費者が感じられる場合のプライシングだ。「レスキュー」して欲しい場合、10円程度のプレミアムは惜しくない。
 広告(Promotion)は、リリースで<SMAPの中居正広さんを起用したテレビコマーシャルを投下><大いにアピールしてまいります>とある。既存の契約タレントを使って効率的なプロモーションを展開し、既存製品との関連を明確にして信頼感を高めることもできるだろう。
 
 そうなると、最大の難所は販路・チャネル(Place)である。ハウス食品は飲料に関しては、1983年の発売以来、四半世紀を経たロングセラー商品である「六甲のおいしい水」を今年5月に53億円でアサヒ飲料に事業譲渡したばかりだ。縮小するミネラルウォーター市場と、他の飲料製品を扱っていないため事業効率が悪いという理由からだ。現在、「ウコンの力」がコンビニでは、いわゆる「エンド」といわれる棚に直角に据えられたコーナーに各種ドリンク剤などと共に置かれている。500mlペットボトル飲料だと、一般の飲料棚を確保するしかない。飲料棚の確保は熾烈な戦いだ。各飲料カテゴリーのトップブランドから優先されて置かれ、販売不振であればすぐに外される。特に新発売の次のロットの発注が各店舗オーナーからされることはまずない。それだけに、初期段階、そしてその後も棚の好位置を確保することが欠かせないのである。
 コンビニ以上に重要になると思われるのが、もう一つの販路である駅売店だ。エキナカの売店・コンビニ・自販機は圧倒的に朝の利用が多いという。そのためJR東日本管内で自販機と売店で飲料を展開するJR東日本ウォータービジネス社は、伊藤園「朝の茶事」、アサヒ飲料「WONDA朝のカフェオレ」など、飲料メーカーと共同で朝の需要に対応した商品を開発している。そのエキナカで売店を中心としてどれだけ需要を確保できるかが大きな課題となるだろう。

 人口減少、景気の低迷、消費者の行動や嗜好の変化。今日の日本の消費者市場は、様々な縮小要因が存在する。黙っていたら、自社の存在も縮小・消滅の渦に巻き込まれかねないのは誰しも同じ。自らの強みを活かして、どのように新たなチャンスを見つけていくのか。「ウコンの力 モーニングレスキュー」が、「ウコンの力」ブランドをレスキューできるのかに注目したい。

ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2010.09.13

アクアフレッシュ・YouTube CMで辿るその変遷

 「大人も子どもも、気になる虫歯」。小さな男の子と母親が仲良く微笑む映像。よくある歯磨きのCMの一コマは、「でも、特に気にして欲しいのは永久歯が生えたばかりの時」と続いた。子ども向けの歯磨きかと思っていると、最後に「子どもから大人まで、強く健康な歯へ」というキメのコピーに「アクアフレッシュ」と商品名。
 http://www.youtube.com/watch?v=c7CALZxU0TE

 ロングセラー商品は、その名の通り、ユーザーに買い続けてもらうことによって長寿を実現している商品だ。しかし、何の努力もせず生き長らえられるほど世の中は甘くない。プロダクト・ライフサイクルの延命するために、ロングセラー商品は、様々なバリエーションを出したり、新たな製品特性を取り込んだりという努力をしている。
 歯磨き粉のアクアフレッシュも新開発の成分を様々取り込んで性能アップをしている。だが、そもそも、「永久歯が生えたばかりの子どものため」や「子どもから大人まで」という商品だっただろうか?そこで、この製品の変遷をYouTubeにアップされているCMを探しながら辿ってみることにする。

 アクアフレッシュが世に出たのはWikipediaによれば、1981年のこと。正確には日本市場進出であり、英国ビーチャム製薬より商標権の貸与と技術提携を受けてサンスターが発売したとある。発売翌年の1982年のCMがYouTubeにアップされている。
 http://www.youtube.com/watch?v=2crIzVUu-As&feature=related

 「白は輝く歯のために、ブルーは澄んだ息のために・“歯と息、キラキラしてる?”」のコピーが懐かしい。当時は歯の表面構造が云々とか、歯磨き粉の成分がどうのとか、難しいことは抜きで、とにかく爽やかさを訴求していた。それに対して、アクアフレッシュの2トーンカラーは極めてわかりやすかった。
 爽やかさが支持されて、当時はティーンエイジャーの指名買いブランドであった。今日と異なり、家族の中で各々が好みや歯や歯肉の状態に合わせて自分用の歯磨き粉を使うような文化はなかったといっていい。確実に自社ブランドを購入させるためには、家族の中に強力なDMU(Decision Making Unit=購買関与者)を確保することが欠かせない。「歯磨き粉はアクアフレッシュじゃなけりゃ嫌だからね!」と娘に言われて母親がそれを選ぶという構造だ。

 その後、1980年代後半に、アクアフレッシュは赤い歯垢除去成分を加えて今日の3色となった。当時のCMをみてみよう。
 http://www.youtube.com/watch?v=I6SIP7MJ19Q&feature=related

 メインキャラクターは志穂美悦子(長渕剛夫人)だが、子ども役で小さな男の子のお姉さん役として登場する美少女も当時大人気となった。この配役にあるように、キーマンがティーンエイジのお姉ちゃん。ディシジョンメーカー(購買決定者)が母親。ついでに使わされるのが10歳未満の弟というようなDMU構造が典型的だったといえるだろう。

 80年代後半の構造は、そのまま1992年のCMにも踏襲されている。
 http://www.youtube.com/watch?v=zg3tlLJZX68

 キーマンのお姉さんは中高生ぐらい。ついでの弟の役も少し成長している。この頃、筆者の記憶ではアクアフレッシュはCMのキャラクターと同年代の女子中高生に最も支持された歯磨きブランドであったように思う。CMには最もどうでもいいような存在として父親が新たに登場しているが、以降の出番はない。

 CM表現に変化の兆しが現れたのは、1996年のこと。
 http://www.youtube.com/watch?v=-x8VwJPNbvA&NR=1

 お姉さん役の少女が再びローティーンとなり、第二子が妹となるという変化だけでなく、製品の効果をendorse(裏書き・裏付け)する赤・白・青の各々の成分を文字で表現し、その成分を擬人化した外国人を登場させている。
 製品を巡る大きな環境の変化としては、翌97年にサンスターとの契約が終了、「コンタック」等の医薬品で知られていたスミスクライン・ビーチャム製薬(当時の日本法人、現GSK日本法人)による販売に移行した。(Wikipediaより)
 97年以降のCMはYouTube上では発見できないが、典型的なパターンは同製品のWebサイトにある。「驚き、歯のサイエンス篇」「アクアフレッシュ・つやプラス篇」などがそれだ。外国人の登場。3色の色の背景には、歯を科学した効き目が隠されているという訴求パターンである。
 http://aquafresh.jp/index.html

 日本の歯磨き粉市場において、圧倒的なリーダー企業はライオンであり、それをサンスターが追うという状況が長く続いていて、第3位以下は大きく水をあけられている。アクアフレッシュはその後、2002年にGSKが「ポリデント」で知られるブロックドラッグを買収。これにより既にブロック社製品を販売していたアース製薬に販売委託する(Wikipediaより)という状況になった。
 アース製薬が販売する歯磨き粉は、他には知覚過敏用の「シュミテクト」があるものの、一般向け製品はない。また、オーラルケア用品としては、マウスウォッシュの「モンダミン」があるとはいえ、アース製薬というコーポレートブランドとオーラルケアとは距離感がある。故に、アクアフレッシュの過去の知名度・ブランド資産を活かしつつ、海外製品のイメージを強めるという方針に基づいた表現であると考えられる。

 冒頭に上げた、最新のCMで「特に永久歯が生えたばかりの時・子どもから大人まで」を訴求しているのも、アース製薬の製品ラインナップに他の歯磨き粉ブランドが存在していないためであることがわかる。派生商品のアクアフレッシュ「エクストラクリーン」で、より歯を白くしたいとこだわる層を取り込み、「プロテクト+」で、より歯を強くするという層に訴求する。では、本体ブランドをどのように活用するのか。
 本稿でYouTubeのCMの変遷を追ってきたが、例えば1980年代後半篇に登場した美少女は現在40歳ぐらいだろう。ちょうど子どもが「永久歯が生えたばかりの時」に該当するのではないだろうか。自らが親しんだ製品が機能強化され、子どもにもピッタリな製品であると再認識されたら、その家庭のメイン歯磨き粉としての座を確保できることだろう。

 ロングセラー商品は、派生商品を出すだけでは生き残ることはできない。環境の変化、ターゲットの変化に対応して、自らのポジショニングも巧みに変えてこそ、買い続けられるようになるのである。
 最後に同様の例として、花王のシャンプー「メリット」の例を見てみよう。製品の発売は1970年だが、CMの初代キャラクターは田中祐子だ。(荒木由美子説もあり)。アクアフレッシュ同様、1980年代のCM。
 http://www.youtube.com/watch?v=R6qriX_ZUCw&feature=related

 ターゲティングとポジショニングは、「若い女性のための・フケかゆみを防ぐシャンプー」である。発売以来40年。もはや、フケかゆみに悩む若い女性はいない。競合の若い女性向けシャンプーは最新の成分を配合し、目新しく華やかな広告で訴求している。そんな中でメリットシャンプーは、長い年月、市場で培われたネームバリューを「安心感」と置き換え、フケ・かゆみをおさえるという効能に、さらに地肌と髪の潤いを保つという効果を加えて「家族全員のためのシャンプー」というポジショニングに変化を遂げたのである。

 変わらなければ生き残ることはできない。ロングセラー商品から学ぶところは大きいだろう。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.09

マクドナルドと吉野家の「面」と「点」

 8月の月間全店売上高が過去最高を記録した日本マクドナルド。一方、牛丼戦争において「一人負け」と言われた吉野家は7日、新メニューで反撃ののろしを上げた。両者の戦略を比較してみよう。

 9月8日の日本経済新聞・企業2面に「日本マクドナルド 8月売上高、最高に 513億円、新商品が好調」という記事が掲載された。同社の原田社長は記事中のインタビューで<「新製品の投入で新規顧客を取り込み、朝食メニューの値下げなどで次の来店につなげるという複合的なマーケティング戦略が奏功した」と語った>という。さらに注目のポイントは<「客単価は下がっておらず、低価格戦略で売上げを伸ばしているわけではない」と強調した>という点だ。
 インタビューコメントの通り、マクドナルドの戦略は「複合的なマーケティング」がキモなのだ。但し、それは複雑な手法を駆使しているわけではない。実に基本に忠実なセオリーを愚直に実行しているといえる。

 セグメンテーション(segmentation)、直訳すれば「区分」や「分割」を意味する。マーケティングにおいては、市場や顧客、自社の製品などを様々な切り口で同質なカタマリに区分し、魅力あるカタマリを見つける(=ターゲティング:targeting)ために行うことだ。そして、日本マクドナルドの戦略の基本は、セグメンテーション・ターゲティングを緻密に、巧みに行うことなのである。

 マクドナルドのセグメントにはどのようなものがあるだろうか。例えば、価格・時間帯・客層・商品コンセプトなど様々な切り口が考えられる。
まずは価格。無料のコーヒーに始まり、100円・120円メニュー、200円の朝食セット、復刻版や改良版として定期的に投入される「照り焼き」や「月見」バーガーなど日本オリジナルメニューの中価格帯商品、クォーターパウンダー、ビッグアメリカキャンペーン商品などの高価格帯メニューなどが対応する。
 次に時間帯。朝マック、ランチタイムのセット、午後のティータイムにはマックカフェ、お一人様向けの簡単な夕食ならチキンメニューなど、時間帯別にもオススメできる対応商品がある。
 客層では、クォーターパウンダーで主にボリューム感を求める若年層を集客し、次にニッポンオールスターキャンペーンで懐かしの復活日本オリジナルメニューで往年のファンを呼び戻す。次にはビッグアメリカで再びボリューム感を求める顧客に訴求する。さらに、自社客のリピートを促進するだけでなく、その合間に無料コーヒーで新規顧客を集客することにも抜かりがない。

 全外食企業の中では売上こそ「すき家」を運営するゼンショーに抜かれたものの、日本マクドナルドは押しも押されもせぬリーダー企業である。リーダー企業の戦い方の基本は「全方位戦略」だ。しかし、ダメな「全方位」は思いつき、散発的に様々なことに手を出す。それに対し、マクドナルドは緻密にセグメントを切り、それをスキマなく、モレ抜けなく「面」を自社の色に塗り込めていくのだ。その戦略と徹底力こそが力の源泉なのである。

 9月2日、東京・赤羽の吉野家本社にて開かれたメディア向けの「新メニュー・牛鍋丼」製品発表会の冒頭。各メディアが伝えるところによると、同社の安部社長は硬い表情で、前年比15%ダウンという大変厳しい状況が今年に入って続いていると明言。「顧客からは『吉野家はどこへ行くんだろう』という声も聞かれた」と語ったという。
 「どこへ行く」に象徴されるように、熾烈な牛丼戦争の渦中において、吉野家は価格やメニュー政策、キャンペーン展開において様々な係争を繰り返したと市場関係者はいう。しかし、今回の新メニューの投入において、吉野家は腹をくくって狙いを絞り、ブレないピンポイントな戦略に切り替えたことが見て取れる。

 新メニューの「牛鍋丼」は、牛丼の具材である牛肉・タマネギに、しらたきと豆腐を加え、甘めの味付けのすき焼き風に仕上げた。注目は、牛肉以外の具材を用いることと、吉野家の一番のこだわりである「米国産ショートプレート部位」から、「米国産その他の部位+豪州産」へと牛肉の肉質を変更したことにある。その結果、280円という「定価」を実現した。今まで競合対抗で無理をして実現していた280円という価格を、新メニューの定価に据えた。それによって牛丼の380円の価格を守ることもできる。
 新メニューによって、今後のメニュー戦略がどのようなものになるのかも予想できる。競合の松屋が豊富な定食メニューを展開しているのに対し、吉野家は定食メニューの開発が遅れ苦戦を余儀なくされた。しかし、吉野家は今後、定食メニューの開発よりも牛丼を頂点とした「牛肉系丼メニュー」で固めていくと思われる。10月7日には280円の「牛キムチクッパ」を投入する予定だという。割安な牛のバリエーションメニューですき家の280円牛丼に対抗。来店客にお試しクーポンなどで380円の牛丼を試す機会を確保し、自慢の肉質・味の違いを体感させて定着させる戦略だろう。380円はすき家のトッピングバリエーションの牛丼メニューとほぼ同価格だ。
 「牛肉系丼メニュー」への絞り込みは、そのメニューを好む客層への絞り込みも意味している。幅広いメニューの松屋、トッピングの楽しさのすき家は女性層・ファミリー層の集客なども狙ってきた。吉野家もテーブル席設置店舗の展開などで、同様のターゲットの取り込みを図ったが、支持されるメニューもなかったことから空振りに終わっていた。恐らく、今後はメインの男性顧客層に絞り込んだ展開を行うと考えられる。

 吉野家の今回の「腹の括り方」は、牛丼業界において、もはやリーダーは「すき家」「なか卯」を運営するゼンショーであり、自社はチャレンジャーのポジションであるという認識を自ら受入れたことにあるのだろう。恐らく、同社にとっては最も認めたくない事実であったことだろう。
 チャレンジャーの戦い方の基本は「差別化戦略」である。差別化のための基本は「選択と集中」だ。「選択」とは「やらないことを決めること」でもある。ダメな差別化戦略は、「やるべきこと」を選択したつもりで、「やるべきでないこと」まで選択していることが多い。また、「集中」とは「選択した中から、ピンポイントに絞ること」である。同じくダメな例は、「選択しても集中できていない」という差別化戦略である。
 吉野家は今回、メニュー開発やターゲット顧客の選定において、やらないことを決め、やるべきことをピンポイントに絞った「点」の戦略に切り替えたと思われる。あとはどれだけ、それをブレずに実行していけるかにかかっている。

 外食冬の時代といわれる今日。「面」で成功しているマクドナルドも、「点」に切り替えた吉野家も、「徹底すること」が生き残りに欠かせない。それは外食産業だけの話ではないのは明らかだ。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.08

【おしらせ】 新連載がはじまりました

本日より2つの新連載がが始まりました。

■金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!

朝日新聞社が運営するWebサイトといえば、ニュースポータルサイト「アサヒコム(asahi.com)」が有名ですが、同じドメインで、朝日新聞社広告局が「ウェブ“広告月報”」を運営しています。企業トップや広告クリエーターのインタビュー、朝日新聞に掲載された広告キャンペーン事例、紙面調査の結果や海外論文紹介などのマーケティング情報が提供されています。

 その「ウェブ“広告月報”」で新連載を始めました。珍しく、執筆ではなく「インタビュアー」として、数々の「ロングセラー商品」を生み出したメーカーを直撃取材。そのヒミツに迫ります。かつて、日本実業出版社の季刊誌「ザッツ営業」(廃刊)で「定番のヒミツ」を連載していたしていた経験が活きています。旧連載では、文具の「モンブラン」から、「カップヌードル」、「カルピス」などを、得意の“勝手分析”(公開情報からフレームワーク分析を行う)で執筆していましたが、当時から気になっていた「広辞苑」を第1回として、岩波書店の編集部に取材に行くことができました!

<金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!第1回『広辞苑』 >
http://adv.asahi.com/modules/feature/index.php/kojien_0.html

 
■美容室が抱える経営解決の糸口・経営者が考えるべき「5つの領域」とは?

 美容業界(美容サロン)向けの専門誌「美容の経営プラン 」(株式会社女性モード社)で新連載の監修をしています。

 <美容室が抱える経営解決の糸口・経営者が考えるべき「5つの領域」とは? 第1回 収益構造を肌で感じる>
 http://www.j-mode.co.jp/magazine_plan.html (雑誌紹介ページ)

 理論+実践サロンの事例紹介で構成された内容を、全5回でお届けします。特定業界に向けた連載ですが、マーケティングや販売促進のセオリーがどの業界でも当てはまることを示す証左となっていると思います。

ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (1) | TrackBack (0)

なぜ、毎日事例分析を行っているのか?~「KKD」から「しくみ化」の時代へ

 9月7日の日経新聞企業2面に掲載された、一見、関連性のなさそうな2つの記事。そこには、一つの重要なキーワードが隠されている。そして、当Blogの「こだわり」につながる部分もそこにあるのだ。

 記事の一つは、日立製作所が新たに開発したシステムを紹介するもので、<日立、設計支援システム 役立ちそうな過去の開発事例表示>というタイトルが付けられている。モノ作りの現場において、<設計の各段階で、役立ちそうな過去の事例などをコンピューター画面に自動表示する>という機能だという。設計には1から10まで全て新規に設計を要するものだけでなく、ある程度、過去の設計をベースにして改変を加えることで完成できる「流用設計」というものがある。その際、設計中の<検索キーワードを抽出する技術と、検索した結果を業務との関連性で組み合わせる>という技術を用いて設計者の記憶に頼るのではなく、システムで効率化を促進するというものだ。
 もう一つの記事は、<外食新潮流(上)>というコラム。「1皿105円」という低価格戦略で絶好調の「あきんどスシロー」の事例を記事の最初に紹介。同社の<真の強みはその価格を実現できる店舗運営術にある>としている。店舗では<客が入店するたびに大人と子どもの人数をコンピューターに入力>すると、<時間帯別に投入すべきすしの量と種類が表示される>という。そして、<客の胃袋の状態に合わせ、効率的にすしが回転レーンに運ばれる>ことで、<回転すし店の平均的な廃棄率は4~5%>なのに対し<スシローの廃棄率は1.5%>と飛び抜けた効率化を実現している。そして、その<コスト余力がメニューの低価格化につながる>という方程式を完成させているという。
 設計の現場は、それこそ設計者の経験と知識がものをいう世界で、それをどのように組織的に共有していくのかということが課題となっていた。かくいう筆者もマーケティングともう一つの専門領域であるナレッジマネジメントの世界で10年以上、組織作りからITの活用までを通じて取り組んでいた。もう一方の外食・すしの世界においては、回転寿司は職人技だけではないが、客の顔色や様子を見て、何のネタを出そうかという加減は、やはりベテランの経験に依存するところが大きかっただろう。それをどのようにマニュアル化するかも大きなテーマだった。

 「KKD」といわれる言葉がある。「勘」と「経験」と「度胸」だ。昨今ではそれは前近代的と批判されることが少なくないが、実はビジネスパーソンの能力として欠かせない要素であることは間違いない。「勘」とは英訳すればintuiton=直感力だが、もっと創造的なinspirationと解釈してもいい。「経験」もexperienceと直訳するより、practicalなknowledgeと解釈した方がいいだろう。「度胸」はcourage、言い換えれば「胆力」だ。是非とも身につけ、日々実践したい能力であることに間違いはない。
 「KKD」に問題があるとすれば、それは個人の「暗黙知」である場合が多いということだ。「暗黙知」とは、一橋大名誉教授の野中郁次郎先生が「経験や勘に基づく知識のことで、言葉などで表現が難しいもの」と定義して、「文章化、図表化、数式化などによって説明、表現できる知識」である「形式知」と対比させた。
 設計者の記憶による効率的な流用設計。回転寿司のムダ・廃棄のないネタ出し。それらはベテランの暗黙知に支えられていたものを、ITの力を使って形式知化を飛び越して、業務設計に組み込んだのが2つの記事のキモである。
 個人の能力に頼らず「しくみ化」することが求められるのは、ビジネスの世界が全体として余裕を喪失しているに他ならない。デフレで市場の値下げ圧力は限界を超えて高まっている。スシローの勝因の一つ(あくまで一部ではあるが)は、廃棄率を2.5~3.5%引き下げたこと。その差分が勝負を分けるぐらい収益構造に余裕がないのが今日のビジネスの姿だ。設計も部品メーカーであれば、完成品メーカーからの購買価格の要求は極限まで厳しくなっているだろう。完成品メーカーなら、市場の要求そのものが厳しい。もはや「KKD」に依存している余力はどこにもないのだ。

 「マーケティングとは何か?」を定義する言葉は、ドラッカーやコトラーの有名な言葉もあるが、昨今は「売れ続けるしくみ作り」というこなれた言い方が定着してきた感がある。個人のスキルや、KKDで「売る」のではなく、誰がやっても、何度でも「売れ続ける」ことが重要であり、その「しくみを作る」ことこそがマーケティングであるという意味である。
 コトラー流の「モダンマーケティング」のセオリーでは、今日の複雑化・高度化した消費社会を解き明かすことができないともいわれる。しかし、ナレッジマネジメントの世界では形式知化と共有の重要性として「成功事例を模倣してもそれが再現される保証はないが、轍を踏めば確実に失敗が再現される」といわれている。成功を再現する可能性をできるだけ高め、轍を踏むことを回避する。そのために、筆者は成功事例、または失敗事例の分析を日々行っている。
厳しい時代、余裕がない時代こそ、マーケティングが重要な意味を持つのである。こんな時代だからこそ、日々、セオリーに従った分析のをお伝えしたいと思っている。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.07

吉野家「牛鍋丼」試食レポート

 本日、9月7日10時より全国発売が開始された、吉野家「牛鍋丼」。自社顧客の競合流出防止と、競合顧客吸引という、まさに社運をかけた新メニュー。人気の牛豚丼、豚生姜焼き定食などの豚メニューも販売を停止して「牛」にかける意気込みを見せている。果たしてその実力はいかほどか?

※発売前執筆の関連記事
 「吉野家「牛鍋丼」のチャレンジと課題を考察する」
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2010/09/post-f946.html

 発売開始後1時間半、11時30分の新橋店。吉野家の店内は普段より来店客が多いが、1階・2階ともまだ多少の空席がある状況。しかし、厨房には普段を上回るスタッフが投入されていると見え、12時過ぎに戦場と化すことを予感させる空気が漂っていた。指揮官たる店長は最前線に立ち、顧客の注文を聞き、厨房に指示を飛ばす。「牛鍋丼」の存在を意識せず、いつも通り「牛丼並」をオーダーし、心変わりして注文を変える客も多い。その指示を確実に伝達することか欠かせないようだ。食券方式ではない吉野家の弱点を店長がカバーする。多忙そうな様子ながら、来店客にはいつもの中国系スタッフが前面に出ている時より、格段にホスピタリティーが伝わっているように思われる。筆者は持ち帰りカウンターで「牛鍋丼・並」「牛丼・並」を注文した。来店客の牛鍋丼と牛丼注文比率は半々といったところだろうか。
 比較対象とするため、少し先の松屋に「牛めし・並」を購入するため訪れた。9月6日からスタートしている値引き・250円キャンペーンのためか、11時40分の時点で店舗には空席待ちで店内に列ができていた。持ち帰りカウンターに放り投げるように外国人スタッフが弁当を置き、厨房に戻っていく。来店客をさばくのに精一杯で、礼や接客的な配慮をする余裕が全くない様子が見て取れる。


Photo_3


 事務所にて持ち帰り弁当を広げる。写真左から、松屋「牛めし・並」、吉野家「牛丼・並」「牛鍋丼・並」。今回は肉の量などを計量することはせずに、できるだけできたてを素直に食べて、その印象から考察しようと考えた。

■見た目の印象
 見た目では容器の形状の差からか、松屋のものが最も肉量が多く見えた。当然、肉のみに注目すれば、牛鍋丼が最も少ない。しかし、予想したほどしらたきがその存在を主張していない。

■肉
 早速、試食に取りかかる。やはり気になる肉を味わってみる。吉野家の牛丼は、同社こだわりの米国産、そして牛丼に最も合うショートプレートという部位だけを用いている。さすがに脂肪分の入り方も適度で柔らかく美味しい。比較すると、松屋の肉はパサつき感があり、筋も感じる。主に豪州及びニュージーランド産だというが、肉質の違いは明らかだ。最後に吉野家の牛鍋丼の肉。米国産9割、豪州産1割を使用し、米国産もショートプレート以外の部位を用いているという。食感は松屋の肉質に近く、牛丼の肉の柔らかさはない。

■具材
 肉以外の具材に言及する。まずは注目の牛鍋丼。見た目もしらたきが目立っていなかったように、味や食感もそれほど主張するものではなかった。一切れの豆腐は箸休めというか、アクセントとしてはありだと思うが、それもさほどの存在感を示すものではない。タマネギの量もあまり多くない。故に、肉の量の少なさも相まって、具材全体として、若干ボリューム不足を感じる。肉以外の具材を増やすと「肉が少ない」と批判されるかもしれないが、新しいコンセプトの「牛鍋」なのであれば、その他具材をもう少し濃い目に味付けし、量を増やして主張させてもいいのではないかと思った。
 松屋・吉野家両社の牛丼に関しては、今回、タマネギについて思わぬ発見をした気がした。従来は、吉野家のタマネギは火が通りすぎでクタクタになっていて、食感や味わいが少なく、松屋のタマネギの方が美味しかった。それが、今回は写真でもわかるように、見事に逆転している。松屋は250円・値引きキャンペーン対応で大量仕込みをしていることが原因で、逆に吉野家は、定価で売る牛丼の状態を良くするべく、オペレーションを改善したのではないかと筆者は推測した。

■たれ(味付け)
 味付けは吉野家牛丼のタレの味を標準と考えると、牛鍋丼はそれより甘い味付けにして、「牛鍋」らしさを強調していると事前に報道されていた。その味は、食べ比べれば確かに甘いが、単独で食べればそれほど甘みを感じるわけではない。甘さより、意外にしっかりした味付けといった印象だ。9月2日に行われた吉野家本社でのメディア試食会で、多くの記者が「すき焼き風にもなるので、玉子がよく合う」と記事にしていた。確かにその通りで、夏期の持ち帰りでは玉子は購入できないのだが、それが非常に欲しくなった。味付け的にも、具材の少なさをカバーする意味でも。玉子の販売でプラス50円という、吉野家のクロスセル戦略は奏功するように思う。
 食べ比べてみると、昨年、伝統のタレの味を変更したという松屋の味付けが最も甘いのがわかる。甘い味付けと吉野家がいっている牛鍋丼よりさらに甘い。そして、味も濃い。しかし、松屋の店内で牛丼を食べている客は玉子を注文する比率はあまり多くない。味噌汁も付いていて、味も濃く、定価320円(キャンペーンで250円)で満足してしまうため、あえて追加コストを払わないということだろうか。味付けの差は、どのように顧客満足を図り、どのようなオーダーを獲得するかという設計にも関わっているのだろう。


 試食をしてみると、「牛鍋丼」は松屋の「牛めし」の定価である320円に対し、280円という価格なら、十分対抗できるのではないかと思えた。今回、すき家の店舗が新橋になかったので同時には試食できなかったが(店舗があっても筆者一人で4杯の試食は無理)、その280円という価格に対しても、味の好みで分かれるだけで、対抗は可能ではないかと思う。
吉野家の戦略の一つは、「自社客流出防止」だ。「もっと肉を多く」とか「とにかく味噌汁付きでなければイヤだ」という顧客以外には対応できるのではないだろうか。
 もう一つの狙いが「他社客吸引」である。それに関しては、この牛鍋丼の話題性があるうちは、「一度は食べてみよう」と集客することは可能であるし、味の評価も獲得できるだろう。しかし、牛鍋丼を支持して、これを食べるために通うというほどのインパクトはないだろう。何より、競合には牛丼のバリエーションや、丼以外の豊富なメニューがある。

 改めて食べ比べてみると、本論の「牛鍋丼」の味の評価以上に、「吉野家の牛丼のおいしさ」が際立つ結果になったように思う。そして、吉野家が「肉質」にこだわり、某庶民派経済評論家をはじめとする、吉野家のコアなファンがそれを支持する理由もわかる。だとすれば、吉野家復活の糸口は、牛鍋丼で他社客を吸引し、速やかに牛丼にスイッチさせることではないか。それも、今回、筆者が試食した牛丼のように、定価を前提に品質を維持・向上させて提供するようなオペレーションを実現する。そうすることによって、「やはり、牛丼といえば吉野家」というポジションを奪取するのだ。

 まずは、「牛鍋丼」によって、「一人負け」といわれた状態から反撃する材料は一つ用意できたように思う。しかし、メニュー一つで戦況が逆転するほど、牛丼戦争は甘い状態にはないのは確かだ。二の矢三の矢をどう用意するのか。それ以上に、大きな戦略の絵図をどう描くのか。今後に注目したい。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック


| | Comments (5) | TrackBack (0)

2010.09.06

INAXとTOTOのCM対決から見えてくるもの

 ふと、テレビを見ているとINAXとTOTOが印象的なCMを放映していた。両社の狙いはどこにあるのか?

 INAX(株式会社イナックス)とTOTO(トートー株式会社)は、かつては共に日本の陶磁器の売上高上位企業を独占していた森村グループに属していた企業であったが、2001年にはINAXがトステムと経営統合し、今日では強力なライバルの関係にある。両社は陶磁器の中でもトイレ、洗面器などの「衛生陶器」を主たる製品とし、その領域ではTOTOがシェア6割と日本№1の座に君臨している。また、同社はトイレにおいてはウォッシュレットを開発したほか、ユニットバスを始めて開発するなど、優れた新製品開発力を誇っている。一方、INAXも上海万博の日本産業館で「世界一トイレ」を展示して、高品質のアピールを行う一方、旧森村グループでタイル製造をしていた経緯から、独自の内装用建材の生産や、トステムと共同生産でユニットバスの20%のトップシェアを占めるなどTOTOを猛追している。

 INAXがTVで流しているのは、同社シャワートイレ製品のサービスサポートに関するものだ。
 <自主製品保守推進制度「INAX NEXT プログラム」について>
 http://www.inax.co.jp/aftersupport/safety/nextprogram/
 TVCMご紹介・SATIS「夜明け篇」30秒

 同商品には約10年経過すると「お知らせ表示」が点滅を始めるという。「長く安心してお使い頂くために」とアナウンス。「INAXでございます」とコールセンターのオペレーターの映像で、サービス品質を訴求する。キャッチコピーは「ロング・バリューという新しい価値」とある。
 INAXは「シャワートイレ」と称しているが、そもそもはTOTOが「ウォッシュレット」という商標で売り出し、1980年にちょっと不思議な女優・戸川純の「おしりだって洗ってほしい」というCMで一世を風靡したが、昨今では公衆トイレにも導入されるなど、すっかりコモデティー化している。コモデティー化・成熟期に入った商品は差別化が困難になるため商品の「付随機能」を訴求することとなる。サービスサポートは、それがなくとも商品の使用は可能だ。しかし、特に高齢者などにとって便座の加温機能などに異常があれば、低温やけどなどの障害を引き起こす危険がある。高齢化社会を見越しての訴求である。
 特に住宅設備メーカーにとって、この先の10年という期間がどのような意味を持つのかも見逃せない。日本の人口は2005年にマイナスに転じた。一方、世帯数は少人数・単身世帯化が進んで2015年に5,060万世帯まで増加し、その後減少に転じると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所調べ)。つまり、今、買われたシャワートイレの「お知らせ表示」が点滅を始める10年後には、次の商品の売り先は減少を始めているのである。「安心」を訴求し、さらに「安心感」を提供し続けて、10年後に買い換えの用がある際に指名買いをしてもらうことが欠かせないのである。
 INAXの戦略は、アンゾフの成長戦略のマトリックスで考えれば、上記の「安心感訴求」で、既存顧客に既存製品の価値を高めて提供する「市場深耕」と、上海万博に代表される、新しい市場に既存製品を提供する「新市場開拓」であることがわかる。それを、TOTOに現段階ではシェアが劣後するトイレで勝負をかけているのだ。

 一方のTOTOは、既存市場に新たな製品を提供する「新商品開発」で、この縮小する日本市場での生き残りをかけている。
 <TOTO新商品CM公開中!>
 http://www.toto.co.jp/News/fair2010summer/cm.htm

 注目は、女優・小林聡美、俳優・光石研が、双子の兄弟の子供と出演するキッチン(CRASSO)と浴室(sazana)のCMだ。両商品のCMは出演者の双子の兄弟が共通なだけでなく、歌のメロディーと体操のコンセプトが共通である。特にCMソングの旋律は強烈で、一度聞いたら耳を離れない。ちなみに、メロディーは全て半音上げ、ピアノの黒鍵だけで弾く音程になっている。ビミョーな音程、不思議なダンス。そして、真面目だけどどこか無表情で訴えかけるような小林聡美と光石研、双子の演技。いわゆるAIDMAのAttention(興味)とInterest(関心)を強制的に持っていくようなCMなのだ。
 もちろん、CMはMemory(記憶)に残すことはできても、それだけでDesire(欲求)を高めることも、Action(購買行動)まで持っていくこともできない。しかし、新築やリフォームに関心がない人に響かなくとも、関心層にリーチして製品特性をアピールすることができれば成功なのだ。トイレの便器に比べ、キッチンや浴室はまだ、機能訴求が十分可能な商品だからだ。その機能性で、限られた日本の住宅件数というパイの奪い合いに生き残りをかけているのである。

 黙っていても商品が売れたのはもう40年以上前の話だ。それどころか、商品の成熟化で20~30年前のマーケティングのテーマであった「差別化」さえ、困難になってきている。さらには市場自体が縮小を始めているのが今日の日本の姿なのである。座していては死を待つばかり。モノ作りもCM作りも、市場と顧客の姿をつぶさに見て、何を訴えかけるのかを明確にすることが真に欠かせない。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック


 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2010.09.04

吉野家「牛鍋丼」のチャレンジと課題を考察する

 9月7日(火)から吉野家が「牛鍋丼」並盛り280円を全国発売する。「一人負け」とまでいわれる牛丼戦争において、生き残りをかけた一手の決め手は?そして課題はどこにあるのか?

■「牛鍋丼」記者発表

 泥沼のような低価格競争を続ける牛丼戦争において、吉野家は新メニュー「牛鍋丼」に生き残りをかけた。9月2日午前、東京北区赤羽の吉野家本社において「牛鍋丼」の新製品発表会が行われた際、安部修仁代表取締役社長による「戦略新商品発表」のプレゼンテーションは、<前年比15%ダウンという大変厳しい状況が今年に入って続いていると明言>されたという(2010年9月2日Gigazine)

 【速報】吉野家が牛丼・豚丼よりもリーズナブルな新製品「牛鍋丼」を発表(同)
 http://tinyurl.com/2ddwj7w

 発表会の内容は各メディアで取り上げられているが、同Gigazineの記事は時系列で詳細にまとめられていて最も注目すべき点が多い。以下、同記事を中心に、他メディアの記事も織り交ぜて考察を進めよう。

■ポイントは肉以外の具材と少量化による原価率低減?

 発表会においても、記者からの質疑応答に<牛丼の値下げは利益につながらない、他社が値下げをしたからこちらも……という、いわゆる「値下げ競争」には否定的な見解>を従来通り示したという(同)。既に一連の牛丼戦争に関する報道で有名になった事実ではあるが、吉野家は「吉野家の味を維持するため」として米国産牛肉にこだわっているため、他社より牛肉の原材料費が1.5倍高いという構造的な問題を抱え込んでいる。故に、安易な値下げができないのである。 
 <牛鍋丼は、牛肉、タマネギ、豆腐、しらたきを甘辛く煮込んでごはんにかけたもの>(livedoor News・nikkei TRENDY net 9月3日)だという。
 同記事<新メニュー「牛鍋丼」に託した吉野家の“280円戦略”>
 http://tinyurl.com/23ohd3o
 上記によれば、記者向けの試食において、<運ばれて来たときの印象は、「ちょっと小さい気がする」。直径が牛丼より3ミリ短い専用のどんぶりを使っているという。見た目は牛丼に似ているが、よく見ると豆腐としらたきが目に付く(特にしらたきが幅を利かせている)。牛肉の量は52gと牛丼(67g)より少なく、ごはんも230gと牛丼(260g)より少ない>という。
 確かに原価率の高いであろう牛肉が、しらたきと豆腐に代替され、ごはんや全体量も少なければ原価率低減には貢献するだろう。

■真のポイントは、「牛肉の変更」?!

 Gigazineの記事にも<「牛鍋丼」が低価格でありながら利益率がいいのは、牛肉以外の具材を使用して原価を抑えたことが要因としてあるといいます>とあるが、最も重要なのはそれに続く部分である。<米国からの牛肉輸入の際に、これまでのように牛丼に適したピンポイントの種類の肉ではなく、牛丼用と別に甘辛く煮るのに適した牛鍋用の肉とに分けて輸入できるのが非常に効率がいいためだということです>とある。さらに、J-CASTニュースの9月2日の記事は<使用する肉は9割が米国産でオースラリア産1割>との発表があったことを伝えている。
 吉野家が米国産牛肉にこだわっているのは、いわゆる「サシ」といわれる牛肉の脂肪の入り方が最もよく、柔らかさが出るからだといわれてきた。それ故、某庶民派経済評論家に代表されるような、コアな吉野家ファンは他社とは全く味と食感、柔らかさが違うと圧倒的に支持をしてきたのである。
 もう少し、従来の吉野家の肉について言及すると、Wikipediaの吉野家に関する記述の一部が重要だ。<吉野家は必ずしも米国産牛肉にこだわっているわけでもなく、「“安い・美味い・早い”が実現できる牛肉(ショートプレート)を、他に安定供給してくれるところがあったら米国産牛肉ではなくてもいい」との見解を示している>とある。
 Gigazineの記事にある<牛丼に適したピンポイントの種類の肉>がショートプレートを意味しているのは明らかだ。だとすると、牛鍋丼の肉は、部位も産地も従来の吉野家がこだわってきた肉とは別物であることを意味し、その部分での原価率低減効果が大きいのではないかと思われる。

■「同等の肉」「異なるメニュー」というパラドクス

 「牛丼用こだわりの肉」は牛鍋丼には用いられない。とすると、すき家、松屋の牛丼用いられている主に豪州産の肉質と同等のものであったと仮定すれば、280円という同等の価格で、一方は肉がメインの牛丼、吉野家はその他具材も入った牛鍋丼という「同等の肉の土俵で異なるメニューによる勝負をする」という問題が生じる。
 <試験販売でも『牛丼』から『牛鍋丼』にシフトする消費者もあったがそれほど多くはなかった><『牛丼』とのカニバリが懸念されるというよりは、新規の顧客の掘り起こしに貢献してくれる商品である」>との安部社長のコメントをマイライフ手帳@ニュース9月3日の記事( http://tinyurl.com/2blwtf8 )が伝えている。
確かに、吉野家の牛丼をその肉質にまでこだわり、高くとも支持するという客層は(減少傾向にあるが)存在する。しかし、肉質にこだわらず、とにかく安価に牛肉を食べたい人は、すき家を選択することになるのではないか。だとすれば、自社からの顧客流出防止、他社顧客の吸引という期待効果は実現できるのだろうか。牛鍋丼に商機があるとすれば、その味自体が、牛丼か牛鍋丼かというメニューの違いを乗り越えて評価された場合だ。それは可能なのだろうか。

■「原点回帰」とはいうけれど

 この牛鍋丼のそもそものコンセプトは「原点回帰」にあるという。nikkei TRENDY netの記事には<明治・大正時代に、牛肉や野菜、豆腐などを甘辛く煮込んだ『牛鍋』の具をごはんに乗せたのが、牛丼の始まり。『牛鍋丼』はその原点に立ち返った“復刻版”商品」(吉野家・安部修仁社長)>とある。
 Gigazineの記事には記者発表で紹介されたCMを撮影した動画がYoutubeにある。
 吉野家TVCM「今、蘇る味」編( http://tinyurl.com/26xu5jo )
 キャッチコピーは「100年変わらない、うまさだけを。」である。
 「原点回帰」に関する評価はnikkei TRENDY netの記者の感想が印象的だ。
 <「牛肉の代わりにしらたきを食べている」と思うと悲しくなるが、「これこそ牛丼の原点!」と、その歴史を噛みしめるのもよい。また、肉は薄いものの、手ごろな価格ですきやき丼が食べられると考えれば、お得な気もする。>
 他メディアの記事においても、試食の感想は「価格の割には悪くない」=「コストパフォーマンス」は取れているという主旨の記述が目立つ。300円以下の安価なランチの選択肢としてはアリということなのだろう。ただ、「原点回帰」はあくまで苦境打開のための、吉野家としてのキーワードである。顧客が「回帰」したいわけではない。顧客にとっては<牛丼ばかり食べている人には新味のある選択肢になるだろう>(nikkei TRENDY net)と、新たな選択肢が提示されたにすぎない。競合、例えばすき家280円、松屋320円の牛丼に優位性のある魅力が評価されなければ、他社顧客の吸引という生き残りをかけた目的は達成できない。

■ちゃっかり「クロスセリング効果」も仕込まれている点に注目

 牛鍋丼が顧客支持を獲得したとすれば、吉野家にとって、さらなる収益向上のチャンスがあることも実は見逃せない。
 <結構濃いめの味付けだったので、卵がほしくなりスタッフさんに頼んで持ってきてもらいました。甘辛いタレの味がしっかりついた肉を溶き卵に浸して食べると、かなりすき焼きを食べているのに近い気分になりました><従来の牛丼より100円安いため、ちょっとリッチに卵をつけても罪悪感は薄いかもしれません>(Gigazine)
 nikkei TRENDY netも<生玉子を加えても350円>と、ついつい卵を追加オーダーしたくなる味付けに仕上げてあるようなのだ。280円の牛丼に「おろしポン酢」「高菜マヨ」などのトッピングでプラス100円を稼ぎ出すのがすき家の得意技だ。しかし、多くの顧客が生卵を追加して、何も加工も調理もせずにプラス70円が実現できるとすれば、吉野家のクロスセリングは極めて効率的だといえるだろう。

 マイライフ手帳@ニュースによれば、同記者会見で<10月7日から「キムチクッパ」を280円で全国発売することも合わせて発表した>という。メニュー開発に及び腰に見えていた吉野家も、ついに抜本的な原材料の変更という大なたをふるう改革に乗り出した。まずは、牛鍋丼で顧客支持が得られるかにかかっている。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2010.09.02

掃除機11万5,500円也。

 手元に自由にお金が11万円あったら、何に使うだろうか。夏休み前のタイミングだったら、「旅行費用」にと思うかもしれない。何かモノを買うとしたら、「家電」と考える人は多いだろう。しかし、「家電」の中で「掃除機」に11万円を使う人という人はいるだろうか。

 三洋電機が11万円(税別・税込み11万5,500円)の掃除機を発売するという。
 <空気までお掃除するクリーナー 0.08μm以上の微粒子をほぼ100%キャッチへ進化した空間清浄サイクロン「airsis(エアシス)」を発売>(9月1日同社ニュースリリース)
 http://jp.sanyo.com/news/2010/09/01-1.html

 「airsis(エアシス)」は同社が2007年から発売を始め、改良を重ね、性能を高めてきた「サイクロン型」の掃除機シリーズだ。紙パックを使わない「サイクロン型」の掃除機の普及率は現在40%にのぼるという。(同リリースより)
サイクロン型の効用は、吸気が紙パックを通過しないことから、パック内に溜まったゴミやホコリで吸引力が衰えることなく、その臭いを排気中に混入させないことにある。草分け的な存在としては、海外メーカーのダイソン社が有名だ。1990年代前半、紙パック式の安価な掃除機がほとんどであった日本市場に、独自の「サイクロンテクノロジー」で参入。「吸引力が衰えない、ただ一つの掃除機」というポジショニングで、7~8万円という当時としては信じられないような高価な価格を設定した。確かな吸引力をはじめとした性能と、メカニカルなデザインでファンをつかんでブランドを確立したダイソンに対し、日本メーカーもサイクロン型を採用して追撃を開始したのが2000年以降であった。

 高価なことで知られるダイソンの掃除機だが、その旗艦モデルである「DC26 モーターヘッド コンプリート」でさえ、同社のオンラインショップでの価格は税込み87,800円だ。エアシスの最新型はそれさえも軽く超える価格設定をしている。本当に売れるのだろうか。

 エアシスという商品のもたらす価値を「製品特性分析」で考えてみよう。
 掃除機の中核たる便益は、<部屋をきれいに掃除すること>だ。それを実現するために欠かせない実体価値が<ゴミやホコリを残さない強力な吸引力>である。中核的便益とは直接関わりはないが、製品価値を高める付随機能は、ダイソンなら<デザイン>である。
 では、エアシスの場合の<空気清浄機能>は、部屋をきれいに掃除することとは直接関係ないと考えれば、付随機能となる。しかし、そもそもの「きれいにする」ということのコンセプトが三洋電機の場合、独特なのだ。
 三洋電機のエアシスは<、お掃除の常識であった床面だけの掃除スタイルから、床も空気も掃除する“空間清浄スタイル”>(同)という独自価値を従来から訴求している。新発売される最新型では<0.08μm以上の微粒子までほぼ100%キャッチ><浮遊菌を99.9999%、浮遊ウイルスも99.999%除去>(同)という性能を実現している。

 独自のコンセプトも、それを評価してくれる人がいなければ、売れない。リリースでも<クリーナーの2010年度国内出荷台数は景気の低迷継続を予測し、前年並みの約520万台(前年比100%)を見込んでいます(当社推定)>としている。マクロ環境(PEST分析)におけるEconomicalな要素は明らかにネガティブだ。果たして需要はあるのか。
 景気の低迷は消費者の生活スタイルを変化させる。Socialな要素を考えれば、レジャーや外食なども内向きになり、屋内居住時間が増えていることが挙げられる。さらに健康問題では、ハウスダストアレルギーの問題は年々増大している。
 室内のアレルゲンを残さず吸引する強力なパワーはサイクロン型というTechnologicalで実現できた。しかし、そのパワーは同時に排気によって床面のホコリを巻き上げるという問題を発生させるという。(同社リリースより)

 3C分析のCustomer(市場の環境と顧客のニーズ)を考えれば、マクロ環境の変化の中で、アレルギーの発症を防止するために、徹底して室内を空気まできれいにするというニーズを持ったターゲット層が存在することがわかる。そして、Competitor(競合)は空気を「きれいにする」という機能までは訴求していない。そこで、Company(自社)は、「床だけでなく、空気まで部屋を丸ごときれいにする」というコンセプトで徹底してターゲットのニーズに応える戦略を徹底する。床面のホコリ巻き上げ問題は、<排気口より下部に設けたシャッターから出る空気のカーテン>(同)によって効率よく空気をきれいにするという。さらに、付随機能として、<掃除機がけが終わった後、空気清浄機のようにお部屋の空気を清浄する「空気清浄モード」>(同)までが装備されている。

 「11万円の掃除機」を全ての人に売ろうとしても、売れるものではない。しかし、それを切実に必要とするターゲット層とそのニーズを抽出し、ニーズギャップを解消してあるべき姿の実現を図る。その時、ターゲット顧客が「それなら払ってもいい」という価格(Customer Value)を算出した時に、11万円という価格設定(Pricing)に行き着いたのだろう。
 エアシスの月間生産計画は1万台だという。
 (2010年09月01日/Sakura Financial News http://news.livedoor.com/article/detail/4982017/
 三洋電機の読みがどこまで当たるか、注目してみたい。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2010.09.01

青汁はコカ・コーラの自販機に並ぶのか?

 「青汁」を販売する健康食品のキューサイを、コカ・コーラウエストが360億円を投じて完全子会社化するとの報道が8月31日に流れた。「コーラの自販機に青汁が並ぶのか?」という反応がネット上で散見されたが、その狙いはどこにあるのか?

 日本におけるコカ・コーラブランドを構成するしくみは、コーラ原液の供給と、製品企画・開発、広告といったマーケティングを行う日本コカ・コーラと、全国各地域で製品製造・販売を行うボトラー会社と関連会社で成立している。その中でもコカ・コーラウエストは、日本最大のボトリング会社である。関西から中国、九州に展開する営業エリアの広さや、社員数もコカ・コーラブランドに関わる全従業員2万3000人中、8,300人以上を抱えるなど規模の大きさは突出した存在だ。

 キューサイは、悪役俳優として有名な八名信夫が、しかめ面で「うーん、まずい。もう一杯」と言うCMで有名な「青汁」のメーカーだ。他にも「ヒアルロン酸コラーゲン」などの健康食品の通販や総菜宅配や農産物直販などにも業容を拡大しているという。

 メディアの報道によれば、記者会見でコカ・コーラウエストは「中長期的には健康飲料の開発などで相乗効果を発揮したい」と発表したという。(8月31日日経新聞)「事業面での連携策などは今後詰める方針」(同)とのことなので、すぐに自販機に「うーん、まずい」という飲料が並ぶわけではないかもしれない。しかし、買収の背景は明確だ。

 飲料業界のガリバーであるコカ・コーラウエストも、昨今、苦境にあえいでいる。09年12月期に上場来初の75億円の赤字を計上した。全国248万台の自販機のうち98万台を有することが飲料業界ナンバーワンに長期間君臨するコカ・コーラの力の源泉であるが、既に市場は飽和しているといわれている。特に景気の低迷によって建設現場が減少し、そこに設置される自販機も減少している影響なども大きく、今後の少子化・人口減少でさらに不透明感が増している。今のままでは明るい未来は描けない。記者会見コメントにある「相乗効果」に期待したわけだ。

 しかし、「相乗効果」や「シナジー」というキーワードは時に大いなる幻想に終わる事もある。
 世界最大のM&Aといわれたタイム・ワーナーとAOLは2000年に、いわゆる「バーチャルとリアルの融合」(←死語)を狙って合併。しかし、有効な成果を見いだせず、2009年にタイム・ワーナーがAOL部門の分離・スピンオフを決定するに至っている。

 コカ・コーラウエストとキューサイには、どのようなシナジーが期待できるのか。
 「健康飲料の開発などで相乗効果」という意味では、コカ・コーラウエストは単なるボトリング業務だけではなく、日本独自製品の開発を担うなどの役割も持っている。ボトリング会社による独自ブランドは、古くは1975年に、利根コカ・コーラが後に「ジョージア」ブランドに編入される「マックスコーヒー」を開発した事例もある。
こと「健康飲料」というカテゴリーにおいては、コカ・コーラは得意領域であるとは言い難い。厚生労働省が健康づくりのための食習慣改善のきっかけとしてお墨付きを与えている、いわゆる「特保」指定の飲料が、飲料各社の中でも特に少ない。そこで、キューサーの開発ノウハウに期待が寄せられることになる。
 一方、販売不振はボトリング会社として、生産設備が余剰になることを意味している。その設備を用いた効率的な生産や、圧倒的な規模の経済をいかした購買力を発揮することができる。つまり、「生産シナジー」が大きく期待できるのである。

 「健康飲料」が開発できた暁には、自販機だけでなく、コンビニなどコカ・コーラウエストの流通チャネルと物流網が活かせる。つまり「販売シナジー」だ。
 今まで両者が投資してきた資産も活きてくる。「投資シナジー」だ。「健康」とは若干距離のあったコカ・コーラブランド。街ナカの自販機利用者は9割が男性であると言われているが、その中で健康が気になるが、今までキューサイブランドと距離感のあった顧客層に製品を届けることができるようになる。両者の「ブランド資産」と「顧客資産」のシナジーである。

 キューサイ買収の報に、一部では「キューサイが救済された」などというダジャレ的反応も見受けられたが、キューサイの2009年の連結決算は287億円の売上高、営業利益24億円の堂々たるものであった。買収はコカ・コーラウエストからの熱いラブコールであったことが明らかだ。むしろ、同社の未来を救済したのはキューサイであるといえよう。

 こうして考えると、今すぐではないかもしれないが、コカ・コーラの自販機に「青汁」が並ぶのも、あり得る話だ。しかし、大丈夫。キューサイの青汁は昨今、「あのまずいキューサイの青汁が、粉末になって飲みやすくなりました」いくぶん穏やかな顔で八名信夫がCMしている。その日がいつになるのか、少し楽しみな気もしてきた。


ツイッターでこのテーマに関するつぶやきをする時には、こちらのボタンをクリック

| | Comments (1) | TrackBack (0)

« August 2010 | Main | October 2010 »