売上げ2倍増・アセロラドリンクのヒットの裏にあるものは?
「ニチレイ アセロラ」シリーズが売れている。サントリーのニュースリリースによれば、<年間販売計画を300万ケースから500万ケースに上方修正します>という。前年度の販売実績は237万ケース。実に2倍以上の伸長だ。そのヒミツは何だろうか。
<「ニチレイ アセロラ」シリーズ販売好調 ― 年間販売計画を300万ケースから500万ケースに上方修正 ―>(8月3日サントリーニュースリリース)
http://www.suntory.co.jp/news/2010/10835.html
「♪たたたた太陽 前向きたいよう~ ビタビタしたら ミンミンするよ~♪」
一度聞いたら耳に残って離れない歌。女優・仲里依紗とタレント・光浦靖子という組み合わせを中心に7人の女性が愉快な「アセロラ体操」を踊る大人気CM。商品のヒットに寄与しているのは間違いない。しかし、CMだけで売れるほど世の中甘くはない。大躍進のカギは何だったのだろうか。
マーケティング的に見れば、CMはマーケティング・ミックス(4P)のPromotionだ。それ以外の要素を見てみよう。
まずは4Pの一つ、Product(商品)。アセロラドリンクは「ニチレイ」のブランドが示すとおり、同グループのニチレイフーズが販売をしていた。それを2009年7月にアセロラ飲料事業からの撤退・事業譲渡し、12月よりサントリー食品が販売を開始した。
サントリーに移管されたことを機に、製品の全面リニューアルと新商品がラインナップに加わることとなった。新商品の「ニチレイ アセロラリフレッシュ」は、低カロリーでゴクゴク飲めるスッキリ系飲料であり、飲料のトレンドに合った商品をサントリーとして上市させたことがわかる。加えて、既存の「ニチレイ アセロラドリンク」「ニチレイ アセロラビタミンC」もパッケージを一新させた。旧パッケージは赤に白抜きで、アルファベット表記の商品ロゴと、デザイン化されたアセロラのシルエットが記載されていた。それをカタカナ表記、アセロラは実物の果実と葉をイラスト表示している。オシャレなパッケージから、ある意味ベタなパッケージに変更したわけだ。
売上げ伸張に寄与しているのは、サントリーのチャネル支配力にあるのは間違いない。4Pの一つPlace(販路)である。
飲料はアセロラ以外に持っていなかったニチレイフーズに対して、サントリーはバッチリチャネルをおさえている。いくら商品を作ってCMを流しても、店に商品が並ばなければ消費者が手に取ることはできない。その点、サントリーなら販売店の棚をおさえる力がある。また、サントリーが全国に40万台強保有している自動販売機も強力なチャネルになる。
4P最後のPであるPrice(価格)に変更はない。しかし、重要な変化がProductとプロモーションを見直してみるとわかる。
ニチレイ時代のオシャレな旧パッケージは、裏面に「恋する国から」というコピーが記載されていた。さらに、「恋はしたい。愛はされたい。」「生まれつき美人なんていない。」など、「恋する格言」が全62パターン掲載されているという凝った作りであった。ニチレイ時代のWebサイト(現在はクローズ:flash動画がYoutubeにアップされている)も特徴的だ。「恋する国から」をテーマに、外国人の恋人二人をモノクロで表現するなど、オトナなトーンでまとめられている。ニチレイはターゲットをズバリ、若い女としていたことは間違いない。
対して、サントリーはわかりやすさを前面に出したベタなパッケージに変更した。そしてCMは「アセロラ体操」だ。それもキャラクターとして起用している仲里依紗は20歳、光浦靖子は39歳。幅広い年代を狙っていることがわかる。
この手のCMは「まねされてナンボ」の側面が大きい。大ヒットしたガム、ロッテ・Fit’sの「フィッツダンス」の例でも明らかだ。同商品がYoutubeでダンスコンテストを展開し、大きな口コミ効果を挙げた例が有名だが、アセロラも自社サイトでユーザーの体操動画を募集。子どもから若者、職場の仲間と幅広い年代が参加している。メインターゲットの女性だけでなく、その子どもや友人・知人にまで飲用者が広がることを示唆しているといえるだろう。
マーケティングはCMなどのPromotionの目立った部分だけがどうしても目に付く。そして、販売好調などのニュースと結びつけて考えてしまうことになる。しかし、CMだけでは商品は売れない。
今回のアセロラドリンクは、サントリーに移管されたことを機に、ターゲットを拡大した。それに伴い、パッケージやCMを改定し、さらにサントリーならではの営業力販売店の棚をおさえ、自販機に商品を投入した。さらに、飲料事業者ならではの開発力で、トレンドにあった商品も開発し、追加発売した。その結果が、「対前年2倍以上」の成果となって現れているのである。
「マーケティングとは何か」をひと言うと、「売れ続ける仕組み作り」という表現がよく用いられる。「売る」という行為ではなく、市場のトレンドなどの環境変化を捉え、適切なターゲットを設定し、4Pを最適に組み合わせて「仕組み」を作ることがマーケティングなのだ。
サントリーによる「ニチレイ アセロラ」のヒットは、そのひとつの好例であるといえるだろう。
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Comments
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飲料事業は価格競争が激しく、飲料メーカー以外は厳しい領域である。ニチレイも年々下がるアセロラドリンクをサントリーに譲渡、原料供給で利益をとる方向に転換。この考えは見事に成功したようだ。やはり、餅は餅屋、ブログにあるように、チャネル支配力が圧倒的にサントリーの方が大きい。
サントリーとしては、ポートフォリオ上アセロラの健康感を最大減に活かし、プロダクトラインをどう拡大していくか?アセロラ買収の意味が問われると思う。
Posted by: 白戸次郎 | 2010.08.03 10:56 PM