アサヒ Vs. キリン・オトナの炭酸戦略比較!
景気低迷によって伸び悩む飲料業界唯一の光明、炭酸飲料カテゴリー。さらなる市場活性化のためにアサヒ飲料は「オトナ」を狙って、アサヒ飲料が仕掛けた「大人炭酸シリーズ」。まさかの氷室京介TV-CM出演、まさかのコーラカテゴリー参入という驚異の2段重ねで世間をあっと言わせた「グリーンコーラ」。それに続く第2弾が投入される。迎え撃つのは・・・
「素材派コーラ」というキャッチフレーズで「アサヒ グリーンコーラ」が新発売されたのは4月のこと。植物由来原材料使用、着色料・カフェイン・保存料ゼロがウリだが、カロリーはゼロではない。自然な甘みの果糖を使用した味が好評だ。
同社Webサイトでグリーンコーラの横で長らく謎のベールに包まれていた「大人炭酸」の第2弾は辛口ジンジャーの「アサヒ ドライスパークリング」。13日の発売だという。今回も「大人、はじける。」のキャッチコピーでライブばりに氷室京介が派手なアクションをキメるというから必見だ。しかし、注目はCMばかりではない。今度は<甘さを控えめにし、辛口ジンジャーの味わいと強めの炭酸で刺激を高めた炭酸飲料で、カロリーゼロ、糖類ゼロです>とよりオトナな味わいに仕上げているようだ。
それを迎え撃つのはキリンビバレッジである。同じオトナ狙いで「大人のキリンレモン」を4月に発売。そして今月、「キリン メッツ ワイルドチャージ」が発売された。
グリーンコーラ&ドライスパークリング Vs. 大人のキリンレモン&メッツ ワイルドチャージというこのタッグマッチ、双方の必殺技にはそれぞれ特徴があるようだ。
まず、グリーンコーラ&ドライスパークリングのアサヒ飲料組は、<黒ビール製造の技術を活用し、黒麦芽を使用することで、コーラ飲料の特徴である力強い味わいを実現>と<プロのバーテンダーを中心に飲食業界において高い認知度と支持を得ている炭酸飲料『ウィルキンソン ジンジャエール』で得たノウハウによって、辛口ジンジャーの刺激のある味わいを実現>と、アルコール飲料メーカーグループらしい「味」での一本勝負だ。
対する大人のキリンレモン&メッツ ワイルドチャージのキリンビバレッジ組みは<健康成分「回復系アミノ酸オルニチン、クエン酸、ビタミンB6」配合の元気炭酸>と<元気系アミノ酸アルギニン・ビタミンB6配合>という元気回復成分配合で勝負する。
双方の戦い方はブランドの用い方も特徴的だ。アサヒ飲料は全くの新ブランドで挑戦。キリンビバレッジは80年以上の歴史を持つ「キリンレモン」ブランドと、アメリカンテイストを演出して1979年に登場した「メッツ」ブランドを投入している。
ターゲットは「オトナ」といっても実際には幅広い。双方の差異はターゲット設定にも現れているようだ。
アサヒ飲料のニュースリリースによると<ここ数年で20-30代の炭酸飲料の飲用比率が上昇し、嗜好品として炭酸飲料を楽しむ方が増えてきていることが分かりました。この傾向から、大人が満足できるような新しい価値を提案する炭酸飲料商品を“大人炭酸シリーズ”として発売することにしました>とシリーズ展開の意図を発表している。
一方のキリンビバレッジはメッツ ワイルドチャージのニュースリリースにおいて、<炭酸飲料市場は近年伸長を続けており、ここ3年間では特に「ゼロ」タイプが拡大し、30~40代の大人層の飲用が大幅に増加しています。また、30~40代男性の健康に対する意識において、「カロリー」「疲労回復」に関心が高いことが分かりました>としている。
つまり、アサヒよりキリンの方がターゲット年齢が10歳ほど上。30~40代といえば「中年」と言われるのに抵抗を覚え始めることから、言われても抵抗がなくなる頃までのお年頃。少々疲れも隠せなくなる年代だ。そこで、単なるゼロカロリーではなく、アミノ酸配合なのだろう。
また、ブランドの使い方も定番ブランドで安心感、新ブランドで新規性というアプローチは他の市場でも事例がある。ガム市場におけるロッテとキャドバリーの戦い方だ。「柔らかな噛み心地」で若年層に圧倒的な支持を得ることに成功したロッテがフィッツで、「ミントの味が長持ちする」というガムらしい価値観を、従来の顧客層の上の年代である30代男性に向けて投入したのが「Fit’s LINK(フィッツリンク)」だ。全く同様のコンセプトの製品をキャドバリー・ジャパンは新ブランド「ストライド」で18~34歳の男女と若年層を含むロッテより若いターゲットに投入した。どうしても年代が上がるとブランド的な冒険はしなくなる。また、若年層の流行の後追いになる。そんな消費者の特性を考慮した戦略意図がガム市場、飲料市場で取られているのだと考えられる。
ただ、一つだけ「ねじれ現象」的に見えるのが、CMのキャラクターだ。20~30代狙いのアサヒ飲料の氷室京介に対して、30~40代狙いのキリンビバレッジはEXILEだ。
1981年、布袋寅泰等とBOØWYを結成、1988年からソロ活動以来、日本ロック界の帝王として君臨し続ける氷室京介。そのファン層は広く20代もカバーするが圧倒的に30~40代の支持が高い。(※2)これは20~30代をメインターゲットとしつつ、御年50歳になる帝王・氷室の年齢を感じさせないカッコよさで、その上の40歳代までを取り込もうという意図を感じさせる。
一方のEXILEは、筆者を含むターゲット層である40代の認識ではリーダーのHIROは「ZOOの人」であり、CM・「JR東日本 SKI SKI(1991年)の人」ではないだろうか。(←古いか?)。キリンレモンのMAKIDAI、TAKAHIROは、残念ながら、ちょっと馴染みが薄くなるのが否めない。とはいえ、疲労回復アミノ酸配合飲料を本当に中年が飲んでいたら様にならない。EXILEに引っ張られて若年層も飲用することから(事実、筆者が教鞭を執る青学では学生の飲用率が高い!)、それにつられるメインターゲット層も抵抗なく手を伸ばすことを期待してのことだろうか。
様々な点で似て非なる両社の「オトナ狙いの炭酸飲料」だが、ここはひとつ、スカッとオトナの味わいを感じたいときはアサヒ飲料、ちょっと疲労回復を兼ねたい時にはキリンビバレッジの製品を飲んで、暑い夏を乗り切るとしようか。両者のマーケティング戦略の違いがどのように雌雄を決することにつながるのか楽しみにしながら・・・。
※< >内の記述は各企業のニュースリリースより
※2 2006年時点でのソース:ORICON http://www.oricon.co.jp/news/rankmusic/39892/
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