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2010.07.22

舘ひろし「本格<辛口麦>」が奪い取るもの

 「いつかはこの味にたどりつくと思っていた」。キリンの第3のビール「本格<辛口麦>」のキャッチコピーだ。たどりついた先にあるものは何だったのか。

 「本格<辛口麦>」のCMキャラクターは舘ひろしだ。
「キリンラガー」は菅原文太、江口洋介、黒谷友香。「一番搾り」はイチロー。「淡麗生」は佐藤浩市。「淡麗グリーンラベル」は嵐の大野智、相葉雅紀、松本潤。「コクの時間」は松たか子&原田芳雄。「のどごし生」は、「ぐっさん」こと山口智充。キリンビールのCMキャラクターを眺めるときら星の如き個性的なスターの名前が並ぶ。各々のタレントは各製品がターゲットに持ってもらいたいイメージを体現する存在として設定されている。だとすれば、「本格<辛口麦>」は舘ひろしでどのようなターゲットに、そのようなポジショニングを示そうとしているのだろうか。

 タレントからひもとく前に、同社のニュースリリースで見てみよう。
  <今まで新ジャンル市場になかった“本格辛口”という価値を持った商品><飲みごたえがありながらキレが実感できる、新しい価値を持った新商品>として5月26日に製品発表がされている。
 見逃せないのが開発の背景となる市場環境と顧客ニーズのとらえ方だ。<昨今の景気動向の影響を受けて新ジャンルカテゴリーは拡大を続けており、当社の調査によると、ビールと新ジャンルを併飲する方が増えています>とある。そして、ターゲットは<新ジャンル(第3のビール)ユーザー:特に40代から50代男性のミドル・ヘビーユーザー>であるという。

 昨今の景気低迷のあおりを受けて可処分所得、もしくは小遣いが圧迫されて、「晩酌はいつもビール」というわけにいかずに、安価な第3のビールを取り混ぜてローテーションを組むようになったお父さんたち。そんな彼らの切なるニーズは、「第3のビールでもビールらしい『飲みごたえがありながらキレが実感できる』商品が欲しい!」だ。
 第3のビールといえば、同社のヒット商品である「のどごし生」に代表されるような、苦みを抑えたのどごし重視の強いクセのないスッキリ滑らかな味だ。それは発泡酒の「淡麗生」の系譜でもある。

 では、そもそもの苦みを抑え甘みなどのクセを抑えた味わいのルーツはどこにあるかといえば、1988年にビール業界全体を巻き込んで勃発した「ドライ戦争」の産物である。前年に日本のビールの常識を変えた「キレのある辛口ビール」=「アサヒ スーパードライ」が発売され、市場を席巻。それに追随せんと各メーカーはこぞってキレ=ドライを訴求した商品を上市した。しかし、結局はスーパードライを超えるものはなく、アサヒ一人勝ちの時代へと突入していくことになる。

 一方で、スーパードライによって不動の1位を獲得したアサヒは、発泡酒や第3のビールが登場しても、同等の価値=キレを前面に出した商品を出せないというジレンマを抱え込むことになる。なぜなら、看板商品のスーパードライとカニバリ(共食い)を起こすことになるからだ。そこから、キレで負けたキリンの復讐劇が始まる。ビール首位の座を明け渡したキリンは「淡麗」や「のどごし」などのキーワードで「キレ」に相当する価値を訴求。市場全体におけるビールカテゴリーのシェア低下、第3のビール伸長の流れに乗ってビール系飲料全体におけるシェア巻き返しを図ったのである。

 つまり、今回の「本格<辛口麦>」は、第3のビールによるキリンのスーパードライ切り崩しの最終形であると考えられるのだ。

 一方で、アサヒビールのスーパードライにおける課題意識は、「ユーザーの若返り」にあるように思われる。もちろん、既存顧客の囲い込みも忘れてはいない。各種のスーパードライやビールグッズがもらえる”「うまい!をカタチに!」プロジェクト”を長期間展開しているのはその現れだ。一方で、この夏・銀座で話題のアサヒビールが運営する店、氷点下の温度帯(-2℃~0℃)のスーパードライを体感できる!「アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR」は若者狙いである。キンキンに冷やして苦みを消し去り、昨今のビール離れをした若者に飲用習慣を付けようというものだ。

 若者対策はCMのキャラクターにも表れる。福山雅治。1969年生まれの41歳ながら、とても40代には見えない若々しさで若年層にも人気。一方で、大河ドラマ「龍馬伝」の好演で年代を問わない支持を集めている。つまり、従来ターゲットである中高年と、課題ターゲットである若者の両方にリーチすることを狙ったキャスティングなのだ。

 舘ひろしに話を戻そう。
 「スーパードライ」キラーとしての「本格<辛口麦>」だとすると、舘ひろしの果たす役割は何なのか。
 舘ひろしは1950年生まれ。今年還暦・60歳である。そんな彼がエネルギッシュにドラムを叩いて歌う姿は視聴者にどう映るのか。
 若年層にとっての舘ひろしは、2007年にドラマ「パパとムスメの7日間」で、女子高生の娘と心と体が入れ替わってしまったパパとしてオトメなしぐさを怪演。2009年「ダンディ・ダディ?〜恋愛小説家・伊崎龍之介〜」で娘の恋愛にヤキモキするパパを演じるなど、パパキャラのイメージが広がっているかもしれない。だとすれば、今回の姿は意外な感じかもしれない。しかし、若年層はあくまでターゲット外だ。
 ターゲットの40代にとっては、何といっても西部警察に始まり、柴田恭兵とのコンビ、鷹山敏樹巡査長役で定着したカッコイイ刑事のイメージだろう。スマート中年・福山雅治よりも、還暦・舘ひろしのドラマー姿に「アニキ、やるなぁ」と共感する層もあるだろう。
 50代となると少々別のイメージが想起されるようだ。俳優・岩城滉一とともに結成していた、原宿・表参道を拠点にした硬派バイクチームにして「クールス」の総括。矢沢永吉の当時のバンド「キャロル」の親衛隊であった。そのバイクチームから生まれたバンド「クールス」のリーダーとしてとしてデビューした。1975年のことだ。いつの世もやんちゃなキャラクターは強烈なファンとアンチを生む。40代以上に50代では、「相変わらずやるなぁ」と共感する層とそうでない層は分かれそうだ。

 「本格<辛口麦>」は第3のビールという、本来カテゴリー違いながら、「スーパードライ」の顧客を奪取しようというチャレンジャーである。チャレンジャーは力が勝るリーダーに対して正面から戦いを挑むのは得策ではない。リーダーのスキを突き、局地戦で戦うのだ。
 キリンはアサヒがスーパードライの若年層対策に乗り出すスキを突いて、本丸の中高年層を狙いに来た。そして、そこには経済的な理由から、「ビールと第3を併用する」層がいることを見抜いて同質化を図る商品として「本格<辛口麦>」を投入。CMキャラクターは万人受けするようになった福山雅治に対してアクの強い舘ひろしを起用。
 つまり、リーダーであるスーパードライの牙城である中高年ターゲット層の中から、商品の経済性とキャラクターへの共感の両方を評価する層を切り取る狙いで展開しているのだ。

 CMにはもう一つオマケのターゲットを奪取しようという意図が隠されている。舘ひろしが歌う「嵐を呼ぶ男2010」は、1957年に公開された石原裕次郎主演の映画であり、その主題歌だ。舘ひろしは石原プロ所属。現在の社長である渡哲也も1966年のリメイク版で主演していることから、舘ひろしが演じるのに不思議はないが、往年の裕次郎ファンには懐かしいことこの上ないだろう。ビール消費者層としてはメインから外れる年代ではあるものの、60代~70代の一部も取り込もうという意図が見える。

 チャレンジャーが生き残り、成功する条件はセグメント化が巧みであることだ。リーダーのスキを突き、勝てるところを見つけて小さく、細かく勝てるところを切り取っていく。
 果たして「本格<辛口麦>」が、舘ひろしがどこまでターゲットを切り取れるか。一方、スーパードライが、福山雅治がどこまで顧客層を守れるか。目が離せない。

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Comments

興味深い内容でした。

アサヒは「エクストラコールド」で飲み方提案、ビールの領域を拡げ、比較的広範囲なターゲティングをしている。
一方、キリンは低価格製品で、NO1ブランドのスーパードライをたたこうとしている。まさしく、リーダー戦略とチャレンジャー戦略の一騎打ち。かつてリーダーだったキリンが何の抵抗もなくチャレンジャー戦略をとる辺りはやや寂しいが・・・

この戦いで低迷しているビールカテゴリーがどうなるか?
夏商戦後を見てみたいと感じました。

Posted by: 白戸次郎 | 2010.07.23 12:05 PM

なかなか面白い分析ですね、確かに。

また裕次郎の名曲を使う辺りが何とも、オヤジ世代にはガツンとしたインパクトが有ったと思います。

Posted by: お洒落ライフ・筆者 | 2010.08.18 09:56 AM

毎日・神奈川版の情報ですが、「40代を中心に好調な売れ行き」だそうです。
http://tinyurl.com/2bg9cnh (8月18日)

とりあえずはキリンの作戦通りの滑り出しですね。

Posted by: 金森 | 2010.08.18 02:20 PM

8月18日の毎日・神奈川版の情報ですが、「40代を中心に好調な売れ行き」だそうです。
とりあえずはキリンの作戦通りの滑り出しですね。

Posted by: 金森 | 2010.08.18 02:21 PM

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