iPadに喰われる市場?と、SONYとASUSの抵抗?
日経新聞7月1日の・新製品面。今週の「新製品バトル」のコーナーは、小型ノートパソコン対決だった。通勤途中でいやでも目に入る大量の交通広告展開をしている「バイオP」。「立ったまま操作しやすく」との見出しで紹介されている。一方は「ASUS EeePC 1008KR」。「大胆な色、デザインを重視」とある。この戦いが示しているのは何だろうか。
モノにも寿命がある。商品が市場に登場して認知され、先進的な顧客を獲得する。顧客の裾野を広げ、シェアを増大させる。幅広い顧客層をめぐって競合製品が激しいシェア争いを繰り広げるようになり、やがて代替的な製品カテゴリが登場し、顧客が乗り換えてゆき消滅にいたる。「プロダクトライフサイクル」における「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」である。
そのプロダクトライフサイクルを足早に駆け抜け、早くも「衰退期」にさしかかろうとしている製品カテゴリがある。「ネットブック」だ。
2007年に「199ドルパソコン」と呼ばれ登場した「ASUS Eee PC」が開拓した、低価格でメールやブラウジングを主たる用途としたパソコンの市場だ。インターネット回線環境の整備を背景に、インターネット上で各種のサービスを利用できるWebサービスとともに一気に普及。上位のフルスペックのノートパソコン市場とカニバリ(共食い)をしながらも勢いが止まらず、ほとんどのメーカーが低収益性を気にしながら嫌々参入したという経緯もある。また、日本市場においてはイー・モバイルが移動体通信の端末と加入権、2年間の利用をセットにして、ネットブックを100円で販売するというプロモーションを展開したことでも普及をさらに加速させた。
そのネットブックの強力な代替品となるのが、iPhoneをはじめとしたスマートフォンと、さらに強力なライバルとして登場したiPadである。
iPadの登場に際して、米Apple社のSteve Jobs最高経営責任者は「Windowsパソコン――宇宙が消滅するまで技術世界の中心になるだろう、と米Microsoft社が主張してきた製品――について、すでに終わっているも同然で、iPadのような製品が取って代わっていると述べた※」という。
※2010年6月1日Wall Street Journal主催した『D Conference』にて
http://wiredvision.jp/news/201006/2010060320.html
筆者は個人的には「宇宙が消滅するまで」かどうかはともかく、仕事で使うときの効率を考えればフルスペックのノートパソコンを手放す気は全くない。しかし、2台ほど所有しているネットブックはほとんど使わなくなってしまったのも事実。そして、iPadの購入は見送ったものの、何らか、しっくりくるスマートフォンがないか常に物色している状態だ。
そんな環境下で、日経に取り上げられた2機種のネットブックの売りは、「立ったまま操作」と「大胆な色、デザイン」である。「立ったまま操作」のバイオPは2008年冬の登場以来のフルモデルチェンジで、前型は「軽い・小さい・美しい」というキャッチコピーで登場した。その流れを汲んで、ポップなカラーバリエーション展開は非常に目を惹く。それ以上にASUS EeePC 1008KRが華美なのだ。評者が「液晶を閉じて小脇に抱えるとパソコンには見えないデザイン」とコメントしている。
デザインやカラーバリエーションは、ノートパソコンの中核的な価値である「ネットの使用・ドキュメントの作成」を支えるものでは全くない。中核を実現する実体価値である「スペック=サイズ・重さ、バッテリーの持ち、丈夫さ」などとも関係ない。明らかな付随機能だ。
その意味ではバイオPの「立って使える」を支える、「加速度センサー」による「縦横画面自動切り替え」「Web画面の自動送り」などの機能も中核を支えるものではない付随機能である。
プロダクトライフサイクルが成熟期に達すると、競争が激しくなり中核や実体では差別化が困難になり、付随機能での勝負が繰り広げられるようになる。昨今のパソコンの「カラーバリエーション化」がまさにそれだ。バリエーションを増やすほど、生産効率は低下し、在庫リスクは増す。しかし、そこでしか差別化できないため、各メーカーがこぞって展開する。
ネットブックはさらにライフサイクルが進んで、既に衰退期だ。通常、衰退期においては「生産性の向上」が課題で、バリエーションをそぎ落とす。そして、遅延採用者(ラガード)を落ち穂拾い的に獲得していくのが定石だ。
あえてそこでソニーとASUSは勝負をかけたのだろう。ASUS EeePC 1008KRは明らかに女性限定でターゲティングをしている。だが、全ての女性に受入れられるよりは、さらにエッジを効かせたデザインに仕上げている。バイオPの「立ったまま」は、ソニーファンに向けてiPadではなく、あえてバイオを選択するための機能だ。
スマートフォンやiPadが市場の多くの人に普及するキャズム(溝)を超えたのか否かは議論が分かれるところだ。まだ、超えていないのだとしたら、ソニーとASUSの賭けは奏功するだろう。もし、超えていたとしても漫然とネットブック市場の消滅に付き合うのではなく、獲得できる層をかき集めるという意味があるだろう。
自社ではコントロールできない市場カテゴリのライフサイクルの中で、どのように戦うのかという事例として継続して注目したい。
« 好転する景況感?デフレ不況の果ての「価値観の変化」を見逃すな! | Main | 「揚げないチキン」のKFCの深謀遠慮? »
« 好転する景況感?デフレ不況の果ての「価値観の変化」を見逃すな! | Main | 「揚げないチキン」のKFCの深謀遠慮? »
Comments