食事に合う「午後ティー」の狙いは何だ?
海の見える夏のガーデンで蒼井優がケンタロウ特製・ココナツミルクカレーに舌鼓を打ち、「午後の紅茶・無糖プレーンティー」を飲む。楽しげなCMの裏には、実は大きな作戦が隠されているのである。
キリンビバレッジ・午後の紅茶は誰しも知る紅茶飲料のトップブランドだ。冷やすと濁るという紅茶の特製をいかにクリアするかなど大きな壁をいくつもクリアし、1986年に登場。以来、「午後ティー」の愛称でも親しまれ王座に君臨し続けている。
四半世紀近いその歴史の中で8回の製品リニューアルを繰り返し、時代の流れに対応してきたが、やはり一番人気は「ストレートティー」だという。それ以外にもバリエーションが楽しい「スペシャルシリーズ」が2006年から発売されたり、今年2月には特濃ミルクティー「エスプレッソティー」が発売からわずか2ヶ月半で100万ケースを売り上げたりと、相変わらずの人気を誇っている。
そんな午後の紅茶に登場した新顔が「無糖プレーンティー」だ。キャッチフレーズは「渇きに食事に」。英国・第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリアが行なった「アフタヌーン・ティー」を直訳した商品名に由来するゆったりした飲用シーンとは趣を異にした、新たな飲用習慣の提案である。
ゆったり味わう紅茶から、食事の時・ゴクゴク系は大きなポジショニングの変更である。前出の「エスプレッソティー」も、これまた人気のカロリーゼロなのにミルクたっぷりな「ヘルシーミルクティー」も、ほっと癒される系の飲用シーンを訴求しているといえる。では、なぜ、従来にないポジショニングで挑むのか。
そもそも、紅茶飲料を食事に合わせるという習慣を持っている人はどれくらいいるだろうか。海外ではレストランでアルコールを飲まないとアイスティーをドバドバとお代わりさせてくれる店も少なくない。しかし、日本で食事の時にわざわざ買って飲むとしたら、まぁ、サンドイッチにたまに合わせるくらいではないだろうか。
では、食事に合う飲料は何だろう。筆者の知人であるコンビニの店長によれば、弁当併買ナンバー1は緑茶飲料の伊藤園「お~いお茶」だという。また、それ以外にはウーロン茶飲料やブレンド茶が人気のようだ。つまり、紅茶でご飯を食べる人はあまりいないようなのだ。
キリンビバレッジの商品ラインナップを見てみると、緑茶飲料は「生茶」、ブレンド茶は「生茶 朝のうるおうブレンド茶」がある。ウーロン茶は「極烏(ごくう)」だ。各々のポジショニングと競争環境はどうだろうか。
生茶は2000年に先行する伊藤園「お~いお茶」に戦いを挑んでシェアを奪取。2位のポジションを確立したものの、2004年サントリー「伊右衛門」の登場で3位に転落。以来苦汁をなめている。その生茶は今年の製品リニューアルを行った。CMキャラクターに山Pこと山下智久を起用し、派生商品の「生茶 朝のうるおうブレンド茶」を上市。コカコーラ「爽健美茶」、アサヒ飲料「十六茶」にも同時に戦いを挑むという賭に出た。山下智久はCM「リフレッシュ担当/うるおい担当」篇で「ありふれた午後には」「渇いた朝には」と飲用シーンを語っている。つまり、「食事」のシーンは明言されていない。なぜなら、生茶は緑茶シェア第4位のコカコーラ「綾鷹」の猛追をかわしつつ、第2位の「伊右衛門」に何とか追いすがりたいところだ。その両ブランドは特に食事の飲用シーンを訴求していない。「お~いお茶」対抗はまだ先の話だ。では、ブレンド茶はといえば、圧倒的なシェアを誇る「爽健美茶」も、首位奪還を狙う「十六茶」も、今年は朝の飲用を訴求している。後発で独自訴求する手もあるが、まずは追随のシナリオを選んだのだ。故に、「食事」の訴求はできずにいる。
では、ウーロン茶はどうだろうか。残念ながら「極烏(ごくう)」はウーロン茶カテゴリーにおいては、カテゴリートップブランドのサントリーなどに対してシェアが取れていない状況にある。
「食事に」と訴求できるカテゴリーがないが、キリンビバレッジは、飲料市場が炭酸カテゴリー以外、緑茶、ミネラルウォーターなどが軒並みマイナス成長のなかで、伸長している紅茶カテゴリーのトップブランドを持っている。その外部環境の追い風と、午後の紅茶ブランドの強みを活かそうという戦略なのだ。
紅茶を食事に合わそうという方法論は、実は斬新なものではない。1990年に大塚食品が発売したストレート紅茶飲料「シンビーノ ジャワティーストレート」。
本木雅弘がスタイリッシュに踊るCMで語る台詞が、「どんな食事にも合う・合う」だ。さらに、翌91年には新CMで「ウーロン茶は去年だよ」と語っている。
つまり、ウーロン茶ではなく、紅茶飲料を食事の時に摂る新たな飲用習慣は、20年前に既に提案されていたのである。しかし、当の「ジャワティー」は、2009年には金城武が海外勤務の会社員を演じ、仕事の行き詰まり飲用と空を飛んだり恐竜と戦ったりする妄想でカタルシスを得るCMを展開している。つまり、訴求内容は「リフレッシュ感」がメインでもはや「食事」とは遠く離れているのだ。そのポジションを午後ティーは「無糖プレーンティー」ですっぽりと同質化したわけだ。
戦場に出て、そこで用いるのにピッタリな武器がなければ戦いを諦めるのか。しかし、的は待ってはくれない。また、せっかくのチャンスが到来していても、そこで手をこまねいていたら、勝利の女神は微笑まない。まずは手元にある武器でどう戦うか。そこで活かせる方法はないかを考えるだろう。
紅茶市場の伸長というチャンスに、自社には食事に合う飲料がなく、そのポジションを負わせられる製品はそれぞれ別の戦端を開いていたり、戦う戦力としては弱かったりという状況にあったキリンビバレッジ。そこで、「午後の紅茶」ブランドを使った新たな戦い方と考えたのが、今回の展開ではないかと考えられる。
どんなときにもベストな戦力・装備で戦えるということは希だ。制約条件の中で、どう工夫して戦うかというお手本として、この展開から学ぶものは大きい。
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