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2010.06.16

「顧客を起点に」~豊田章男社長とドラッカーの言葉

 日経新聞6月16日版・企業面に「トヨタ再出発 試練の1年を超えて-上」という特集連載記事が掲載された。サブタイトルとして「顧客が起点 本社主導転換」「1000万台より1000万人が求める車」などの言葉が並んでいる。
トヨタ自動車創業家出身の豊田章男氏が社長に就任してまもなく1年が経過する。品質問題によって巨額赤字を計上し、「税金を納められない、どん底からのスタートだ」と09年6月の就任後初の記者会見で発言。本年5月に「やっとスタートラインにつくことができた。今年度が新しいトヨタの再出発の年」と黒字転換の記者会見で発言した1年間を振り返っての記事である。

 様々なトヨタの取り組みと今後を紹介する記事中で最も重要なのが、サブタイトルにもなっている<「1000万台を目標とせず、1000万人の顧客が求めるクルマを提供する」と成長の優先順位を変える>という豊田社長の言葉である。

 マーケティングとは何か?という問いに対し、筆者はドラッカーの言葉を引用することにしている。
 マーケティングの役割は、販売を不要にすることである。
マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、おのずから売れるようにすることである。
 The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits her and sells itself. Ideally, marketing should result in a customer who is ready to buy.(ドラッカー 365の金・ P.F.ドラッカー・上田 惇生 (著) ダイヤモンド社)

 補足するとドラッガーの言う「販売」とは、とにかく闇雲にモノを作って売り込んだり、無理な安売りをしたり、無駄な広告を大量に投下したりという状態を表わしている。そんなことをするよりも、まずは顧客を知り、顧客の望むものを提供できるようにすれば、おのずとモノは売れていくのだという論である。

 豊田社長は今年3月のインタビューで「年600万台を超えたありからスピードが急に上がり、人材育成の時間が十分に取れなくなった」と発言した記事にある。振り返ってみれば、モノ作りの基本たる人材育成だけでなく、ドラッカーの指摘するような無理はなかっただろうか。

 筆者はマーケティングの巨星の一人としてレスター・ワンダーマン(Lester Wunderman)を敬愛している。タイム誌の「20世紀の3大広告人」の1人として選ばれた、「ダイレクトマーケティングの父」と呼ばれる人物である。彼は「主人公は商品ではなく、顧客である。(The Consumer , not the Product must be the hero.)」という、「顧客起点」「顧客中心主義」を端的に表した言葉を述べている。(翔泳社『ワンダーマンの売る広告』)

 「1000万台」という「目標」ではなく、「顧客起点」「顧客中心」のモノ作りと本来の販売という、本来の「目的」に回帰するのがトヨタの新たな成長戦略だ。それは、豊田社長は5月の決算発表会見での「新たな成長戦略にかじを切る」という言葉意味するところである。

 「カイゼン」などで、モノ作りのお手本とされたトヨタであるが、そのモノ作りの品質神話も「再出発」の中で再構築を図っている状況だ。その神話の復活にも是非とも期待したい。
 それ以上に、トヨタの成功は産業界の多くの企業が学び、真似をするということから考えれば、是非とも「新たなる成長戦略」としての、「顧客起点のお手本」という神話を構築することに期待したい。そして、トヨタの完全復活が多くの日本企業に活力を与えてくれることを切に願いたい。

※注釈ない場合も豊田社長の発言は全て記事より引用

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