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19 posts from June 2010

2010.06.30

好転する景況感?デフレ不況の果ての「価値観の変化」を見逃すな!

 スーパーのPB(プライベートブランド)商品、ユニクロ、そしてカルティエ・フェラガモ・ディオールなどの高級ブランド商品。一見何の関係もないようなこれらの商品から、消費者の新たな価値観を探ってみたい。

■低価格志向から転じる小売業

 日経MJ6月30日に2009年度小売業調査の結果が掲載された。その中で、第3面に気になる動きが掲載された。「低価格戦略 変化の兆し」との見出しがある。<景況感の回復を受け、低価格一辺倒を見直そうとしている>と、流通各社の動きを報じている。特に、消費者の価格意識の変化に対する各社の読みは、<「低価格志向が強まっている」と見る企業は66.3%で、前回(80.6%)より大幅に少なくなった>という。それを反映して、<09年度は47.3%が積極的に価格を引き下げたのに対し、10年度に同じ方針を掲げる割合は30.6%にとどまった>という。
 デフレ時代の寵児、PB商品にも今後変化が現れることになる。価格が下げ止まるとはいえ、NB(ナショナルブランド)の価格低下によって優位性が揺らぐPB商品。各社は今後の開発方針として、機能は<「不要な機能を省く」が12.1%だったのに対し、「新しい価値を付加」は32.7%>、品質は<「過剰な品質は見直す」4.7%を原材料を吟味45.5%が上回った>(※紙面図表)としている。明らかに「価格据え置き・価格を上回る価値を創出」という方向性を示している。

■ユニクロの基本戦略と消費者の要望

 消費者の購買意識の変化はユニクロに対する要望にも現れている。
 株式会社ORIMOによる「~ユニクロとWEB キャンペーンについての調査~」の結果(6月25日ニュースリリース)
 http://www.orimo-r.com//admin/upload_2/1277508850.pdf

  ユニクロを知っている20-59 歳の男女各500名の同社モニターに対するモバイルリサーチにおいて、「今後ユニクロに期待すること」を複数回答で聞いたところ、<トップは
「品質向上(74.4%)」で圧倒的となった。次いで、「低価格化(57.3%)」、「インターネット販売(22.3%)」の順となった>という。つまり、17%以上の差を付けて、「価格より品質」が求められる結果となったわけだ。

 ユニクロといえば、際だった安さで注目を集めたのは確かだが、同時に「品質」へのこだわりは徹底している。汗の吸収に優れたドライ感が売り物の「ドライカノコポロ」はユニクロの夏の定番だが、クローゼットに購入年の異なるユニクロのポロシャツがあれば、是非並べてみるといい。着心地の向上とシルエットの変遷に合わせるために、デザインは細部にわたり改良が加えられている。「機能性」へのこだわりも凄まじい。冬のヒートテック、夏のブラトップも機能性高めるため、毎年進化を繰り返している。
 それらは、消費者に対して「価格を上回る価値を創出」するための飽くなき挑戦なのである。ユニクロに対する要望が、「価格よりも品質」であることは、その戦略がまさに消費者の価値観にミートしていることを表しているのだ。

■熾烈さを増すバリューラインをめぐる戦い

 通常、価格の高いものは価値も高い。価格が安いものは価値も低い。価格と価値が正比例する関係を「バリューライン」よぶ。
 価格に対して価値が低いものは当然消費者の支持を得ることはできず、売れない。そのため、バリューライン上に「低級品」「中級品」「高級品」というような価格帯が並んで相場が形成される。しかし、価格競争を制するためにはバリューラインを上回るポジションを取る必要がある。スーパーのPBが支持されたのは、「低価格だが、中級品(普及品)と同等の価値」であるからだ。ユニクロも、低価格にもかかわらず、「品質だけならもはや対抗できない」と大手アパレル幹部が漏らすように、大きくバリューラインを超えたポジションを取っていることが好調の原動力となっているのである。

 しかし、消費者の要望は一層厳しくなっている。日経MJは、景況感が好転しつつあるため、値下げ圧力が弱回ってきたという論調だが、だからといって、値段を上げれば売れなくなる。あくまで「据え置き」で、「質の向上」が求められているのである。つまり、バリューラインの標準ラインが引き上げられたことを意味しているのである。もはや今まで通りでは、バリューラインの水面下に沈んで消費者の支持が得られなくなる。売れなくなるのである。
 ユニクロは既に手を打っている。2009年、デザイナーのジル・サンダーとの契約によって、ユニクロの新ブランド「+J」を秋に発売。他商品も同氏の監修によってデザイン性を高めている。つまり、従来の「品質」「機能」に「ファッション性」という価値を加えたのである。
 同様に、小売り各社はその消費者の要望に対応するため、PB品でも「価値向上」を図ろうとしているのだ。

■「高級ブランド」復活に見る「価値」の基準

 「価値向上」が生き残りの必須条件であるのが時代の流れだが、「価値」とは漠然とした基準であることは確かだ。人によって「価値」のとらえ方が異なる。何を、どこまで実現するべきか、迷う。

 一つ、面白い現象が報じられている。「高級ブランド」の復活である。それは、単なる「景況感の回復」によるものではなく、よく見れば消費者の意識変化を表しているといえる。

  <高級ブランドに回復の兆し 「カルティエ」2ケタ増、「ディオール」も>(6月27日・J-CASTニュース)
 http://www.j-cast.com/2010/06/27069347.html

 <「カルティエ」は日本での売上高が2ケタ増となり、「フェラガモ」や「ディオール」も好調>と報じられている。また、<百貨店でも高級ブランドに回復の兆し>という。一方で、<「ルイ・ヴィトン」や伊「フェンディ」などを展開するモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH)の場合、2010年1~3月の国内売上高が前年同期比7%減>と回復はまだら模様である。
 その差はどこから来ているのか。
 <若者の取り込みに成功したブランドは回復し、そうでないブランドは厳しい><「若者が重視するのはブランド名よりもデザインです。若者好みのキラキラした素材を使い、若者が『かわいい』と思うブランドは売れているし、逆に『かわいい』という言葉が出てこないブランドはダメだと思います」>と 電通総研消費者研究センターの四元正弘・消費の未来研究部長が解説している。

 従来、ブランド品の価値は、「そのブランドであること」だった。少なくともバブル経済華やかなりし頃を最盛期として、ごく最近までその傾向が大きく変わることはなかったはずだ。それが、『「ブランド名」ではなく、「デザイン」であり、“自分が”「かわいい」と思うことが価値』となっているのだ。これは大きな価値観の変化だといえるだろう。

■ターゲットの価値観にミートさせる!

 消費者が「自分の価値観」を重要視する。それはブランド品などの高関与度商品だけの話ではないだろう。「購買」という行為全般に対する意識変化だと考えた方がいい。
 インターネットの普及による「情報の非対称性」、つまり「売り手と買い手の情報格差」がなくなって、我々は「賢い消費者」になった。闇雲にモノを買う、売り手のいいなりに買うというようなことをしないよう、「賢い消費」を心がけるようになった。それは価値観の変化だ。
 デフレ不況、世界的な経済危機を経験し、今度は我々は「自らの価値観に合った購買」を心がけるという、価値観の変化が起きているのだろう。
 そこで重要なのが「自らの」というところだ。
 顧客がどのような人で、どのような価値観を持っているのか。つまり、「ターゲットを明確にして、そのニーズに愚直に応える」ことが求められているのだ。
 ユニクロやスーパーなどのように幅広い顧客を持った企業に、ターゲットを明確にするのは難しいという論もあるかもしれない。しかし、オンワードや、レナウンなどのメーカー、またはZARAやフォエバー21のような海外ファストファッションではなく、ユニクロを選ぶ。例えば、ザ・プライスのようなディスカウントスーパーでも、成城石井のような高級スーパーでもなく、西友に来る。その品揃えの中でPBを利用する。それらは、立派にターゲットセグメント化されている顧客である。その来店客の姿にどのような顧客像を見出すか。どのようなニーズを汲み取るかが求められるのである。

 景気の変動ととともに、消費環境は大きく変化している。それに伴い、消費者の意識も変化する。景気が本当に好転するかは定かではないが、一足先に消費者の価値観の変化が現れているのは確かなようだ。
 激動する環境下で生き残れる者は、最も良く変化に対応できる者であるという。この変化の兆しを見逃すことなく、自らを進化させていくことが企業に求められているのである。

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2010.06.28

「検索」の進化とユーザーニーズの変化に学ぶ「当たり前」なコト

 「検索」。それはナレッジワーカーのビジネスシーンだけでなく、もはや日々の生活で欠かせない行為となっている。その検索についての示唆に富んだ2つの記事がメディアに掲載されていた。

  <速さよりも「検索しやすさ」を重視する人が増加?―検索エンジンに関する定期リサーチ(11)>(6月22日japan.internet.com)
 http://japan.internet.com/wmnews/20100622/4.html

 インターネットコムとメディアインタラクティブ(アイリサーチ)による定期調査の結果、昨年の調査結果における重視点が<「精度」と「スピード」>であったのに対し、<検索のスピードや結果画面の見やすさよりも、検索の精度や検索しやすさを重視する人が増えていることをうかがわせる結果となった>としている。具体的には<、「入力補助機能など、あいまいな記憶でも検索できる」が31.3%から4.2ポイント増加したが、「検索結果が表示されるまでのスピードが速い」49.0%が3.5ポイント減少、さらに「検索結果の表示画面が見やすい」が34.7%が10ポイントと大幅に減少した>ということだ。

 わずか1年でユーザーの評価点が大きく変化するのは、それだけ検索技術の進化の速さを物語っていることになる。Googleの入力アシスト機能や「もしかして?」などは本当に便利であり、ありがたい存在だ。
 では、「精度」と「スピード」が必要なくなったのかというと、そうではない。テキトーな候補リストを表示されたり、表示に時間がかかったりしたらイライラして二度と使わなくなるのは間違いない。つまり、それは「アタリマエ」になってしまったのだ。

 検索サービスの「中核価値」は、「知りたいことが探せること」だ。それをどのように実現してくれるのかといえば、「正確」に、「早く」、そして「結果を見やすく表示」してくれることが「実体価値」として求められる。さらに、ありがたい機能として「入力補助機能」や「もしかして?」という付随機能が存在する。
 しかし、アンケートの結果から考えると、今日においては「中核」として求められるのは、上記の「正確」から「見やすい結果表示」までがワンセットになっているのだ。さらに、本来「付随機能」であったものが、欠かすことができない「実体価値」に格上げされている。
 例えばコンピューターは「計算」が主たる機能であったが、ワープロが開発され、インターネットが普及してからは「ドキュメントの作成」「インターネットの利用」までがセットで中核となったのと同じだ。ユーザーから求められる提供価値の変化に気づき、対応していくことが欠かせない。

 それ以上に重要なのが、ユーザーの「本質的なニーズ」は何かということだ。
 日経MJ6月28日総合面のコラム「IT新事情」に「検索依存からの脱却」という記事が掲載された。記事中で今年5月に刊行された「グーグル秘録(ケン・オーレッタ・著  土方 奈美 ・翻訳:文藝春秋)」の主旨が紹介され、<グーグルが最も恐れている存在は競合の検索エンジンではなく世界最大のSNS・フェースブックであることがわかる>としている。それは、<「検索」の価値を根本から脅かす存在としてソーシャルメディアを捉えているからだ>という。記事のサブタイトルにも「価値生む人のつながり」とあるが、その「人つながり」は「ソーシャルグラフ」と呼ばれ、<活性化すると情報の波及スピードは検索エンジンよりも確実に速くなる>とある。
 しかし、問題はここでも「速さ」ではない。<ソーシャルメディアは潜在的な欲求を喚起できる可能性がある>としている。「人つながり」の中でのレコメンデーション(推奨)を指しているのである。

 「人つながり」の「推奨」がなぜ、それほど効果的で、検索エンジンにとって脅威なのか。
 実は理由は簡単。「人は、検索なんかしたくないから」だ。

 人は検索エンジンに興味があるのではない。興味があるのはその「結果」だ。さらに、リスト化された一覧に興味があるのではなく、その先にある自分の知りたいこと、欲しい情報に興味があるのである。
 検索をするのは、何らか「知りたいことがわからない」という、「ニーズ」が存在する。 それを満たす「ウォンツ」、つまり「道具」が「検索エンジン」なのだ。「こんなたくさんの情報が、あっという間に表示される!」という感動を覚えたこともあるが、それはもはや昔日。自分に必要な情報にさっさと辿り着き、それが確かに有用であるという確証が得られることが大切なのだ。それを実現してくれるのは「検索」である必要はなく、むしろ「信頼のおける人の書き込み」の方が有用である場合も少なくない。

 「ニーズ」と「ウォンツ」の取り違え。顧客ニーズによりよく応えようと、自社の製品・サービスに磨きをかける。しかし、その努力に邁進するあまり、本質的なニーズを忘れ、思いもよらぬ「代替品」となる存在に顧客を奪われる。そんな例が過去から現在に至るまで多数繰り返されてきた。古くはハーバード大学大学院教授・セオドア・レビットが1960年にハーバードビジネスレビューに発表した論文『マーケティング・マイオピア(Marketing Myopia:マーケティング近視眼)』で指摘している。米国の鉄道会社の衰退は顧客ニーズの変化に気づかず、自動車やトラックや航空機という輸送の代替品にその座を奪われたという例だ。

 高度進化した検索エンジンに対するユーザーのニーズは刻一刻と変化し、さらなる高度化を求める。しかし、その一方でGoogleすら脅かすソーシャルメディアの「人つながり」が代替としての存在感を増す。この一連の変化は「検索」やインターネットの世界だけのことではない。顧客ニーズと競合環境の変化を見極めるべき事例として注目すべきである。

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2010.06.25

あなたは何を売っていますか?:キタムラの新サービスに学ぶ

 「ブライダル専用フォトブック発売」。日経MJ6月25日9面に掲載されたベタ記事だ。6月、ジューン・ブライドの季節。発売元はカメラ・プリント店とあまり珍しくもない記事に見える。だが、その裏に隠されている「世の中の動き」と「企業の戦略」には深いものがあるのだ。

 記事のタイトルは<ブライダル用フォトブック キタムラ>だ。<利用するカップルの要望に合わせて、専任のデザイナーが画像を加工・編集し、フォトブックを作成する>という。提供するのは「株式会社キタムラ」。東証2部上場・関連会社店舗まで含めると1200店を有するカメラ・プリントの最大手企業である。同サービスは、結婚式場同様の仕上がりを、もっと利用者が自由に、安価に利用できるようにと開始したものだ。

 「フォトブック」は同社が近年最も力を入れている事業である。フジフイルムなども参入している事業であるが、同社はスピードタイプや携帯カメラ専用ミニタイプ、大判やワンコインタイプなどの様々なバリエーションを展開し、2010年度40億円の売上げを目指しているという。今回の「ブライダル用フォトブック」もその1バリエーションであるというわけだ。

 なぜ、フォトブックに力を入れるのか。それは、同社会長兼CEOの言葉に明らかだ。

 <(記録メディアにフィルム時代で撮影した)一生分が入るわけですから、消費者はそのうちに印刷しようと思いながら、そのまま印刷しなくなる“癖”がつく。それは、シャッターを切ってその場で映像を見て満足するという習慣の始まりと私はとらえています。  北村 正志 キタムラ会長兼CEO(最高経営責任者)>(日経NB on-line)

 デジカメ、または携帯で撮影した写真をいつ、プリントしたか記憶にあるだろうか。少なくとも筆者は思い出せない。フィルム代がかからなくなって、さらにはメディアの価格もどんどん安くなり、撮影枚数は増大の一途を辿っている。しかし、誰もそれをプリントしない。
 会長の言葉にあるように、PCのハードディスクは1TB(テラバイト)という、まさに一生分の画像を蓄積できる容量が1万円台で手に入る。いや、カメラや携帯からPCにデータを移すことすらしない人も少なくない。SDカードは容量が2GB、もしくはSD-HC規格なら16GBのものがカメラには入れられている。そして、カメラの液晶も大型化・高解像度になっており、蓄積されたデータをそのまま見て楽しむことが十分できるようになっている。アルバムを数十冊持ち歩いているようなものだ。

「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を空けたいのだ」。ハーバード大学大学院の教授セオドア・レビットの有名な言葉だが、実は正確には次のような言葉である。「昨年度、4分の1インチのドリルが100万個売れた。これは、人が4分の1インチのドリルを欲したからでなくて、4分の1インチの穴を欲したからである」と、レオ・マックギブナという人物の言葉をレビット教授が引用した一節である。(レビットのマーケティング思考法・ダイヤモンド社)  
 上記の言葉は「ニーズ」と「ウォンツ」の関係をもっとも端的に説明した言葉である。顧客は何か実現したい理想の状態を求めている。それが「ニーズ」だ。そして、実現できていない現状を解決する「対象物」として求められるのが「ウォンツ」である。

 人はなぜ、写真を撮るのか。多くの場合、「想い出や記録を残したい」からだ。それが、ニーズである。その「想い出」や「記録」を留めるための媒体が、従来は写真を焼き付ける感光紙である印画紙であり、それを形にするのがプリントサービスであったわけだ。つまり、誰しも印画紙が欲しかったり、プリントサービスを受けたかったりしたわけではない。当たり前な話だ。
 その当たり前な話が前提で、ビジネスを行っていたのがプリント店である。
 テクノロジーの変化は時に劇的に業界構造を変化させる。その変化に耐えられず、多くの企業がプリントサービスから撤退や廃業をした。そうした企業を積極的にM&Aして成長したのがキタムラなのだ。

 キタムラの戦略は明確だ。顧客の「想い出や記録に残す」というニーズは、プリントしなくともPCやカメラ・携帯の液晶画面で閲覧するという形で実現できる。つまり、従来の印画紙が提供していた、「閲覧する」という価値を液晶画面が代替したのである。しかし、見るには見られるが、液晶画面で1枚1枚見るのは味気ない。画像管理ソフトを使っても、手に取ってみることはできない。そうした、新たなニーズに対応するのがフォトブックなのだ。フォトブックというより心地よい「形」で「閲覧する」ことを実現したのである。さらに、それをどのような形で手にしたいのかという要望に応えるため様々なバリエーションを展開しているのだ。そして、その撮影した画像自体をプロの手で加工・編集するという付加価値をさらに高めたのが今回の「ブライダル専用フォトブック」なのである。

 「自らが売っているものは何なのか?」
 明らかな衰退期の業界で果敢な挑戦を続けるキタムラの展開は、自らの「売り物」が何なのかを明確に見据えたところから始まっている。
  業界構造が、ある日突然変化することはどの業界でもあり得る。そして、それは自社でコントロールすることはできない。自社でできることは、顧客のニーズに再度目を向けて、それをどのように別の形でよりよく実現できるかを愚直に考え、実行することだ。キタムラの展開から大いに学べるだろう。

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【好評終了】<大好評:バージョンアップ開催> 『あれがヒットしたワケ』をフレームワークで読み解くセミナー!

※ご好評のうちに終了致しました。次回開催をお楽しみにお待ちください。

 今回で4度目。数々のヒット商品のヒミツをフレームワークを用いたグループワークで読み解くセミナーを、ヒット商品事例を最新事例にバージョンアップして開催します。

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マーケティングは学問ではありません。時代の流れ、人々のココロの移り変わりに対応し、日々変化していく「ビジネスの総合格闘技」です。
「モノが売れなくなった」と言われて久しい昨今、さらに景気後退が経済全体と、生活者の消費マインド低下に追い打ちをかけています。
しかし、そんな時代だからこそ、今一度基本となる「型」と、「マーケティングの全体像」を見直してしてみませんか。
厳しい時代でもヒット商品は存在します。あんな商品、こんなサービスも見直してみれば、「売れる理由」が厳然と存在しているのです。
また、売れなかった商品、サービスも、見落としていたウイークポイントが見えてきます。
それを読み解くのが「フレームワーク」です。フレームワークは単なる「型」ではなく、成功確率を高め、失敗を回避するために先達が積み重ねてきた「技」なのです。
それを最新の事例にあてはめてグループワークで分析していきましょう。

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■こんな人にオススメ!


「マーケティングを学んだけど、具体的に理解できない!」・・・というビジネスパーソンの方。

「社内の知見だけでは、商品企画の発想に限界を感じる!」・・・という製品企画担当の方。

「マーケティング部門に勤務しているが、今まで我流でやってきたので、正しいやり方か自信がない!」・・・というマーケティング担当の方。

「気合いと根性は負けないが、勘と度胸だけでは、うまく“提案型営業”ができずに限界を感じている!」・・・という営業担当の方。

身近なヒット商品を使って、マーケティングを「使いこなす」能力を身につけませんか?

■こんな商品の「ヒミツ」を解き明かします

以下のテーマを、グループワークやインタラクティブレクチャーで行うことを予定し
ています。

 ・定番商品を再活性化させるリニューアル「ミツカン 金のつぶ納豆」
 ・消費者の潜在需要を掘り起こし「花王メリット さらさらミルク」
 ・「爽健美茶」は誰を狙っているのか?
 ・マクドナルドのターゲット、実は誰なんだ?
 ・「ヘルシアスパークリング」の魅力にせまる!
 ・洗濯洗剤・花王「スタイルフィット」&「アタックNeo」Vs. P&G「さらさ」!
 ・「黒烏龍茶」はなぜ売れるのか?
 ・トマトソースと煮豆の意外な共通点?
 ・ファーストリテイリングの価格戦略のヒミツ?
 ・ロッテのフィッツに「フニャン」となってしまうワケ?
 ・フェニックスのアンダーウエアの狙いは何だ?
 ・プレミアム緑茶「綾鷹」に何が起こったのか?
 ・永谷園「生姜部」の狙いは何だ?

※テーマや予告無く変更する場合がございます。
また、進行上、省略するテーマが発生する場合もありますのでご了承ください。


■開催日程

 6月29日(火) 14:30~18:30

■開催場所

 日本橋:TKP東京駅日本橋ビジネスセンター(場所は詳細情報参照)

■参加費用

 ・通常価格                : 15,800円(税込)
 (↓各種割引価格あり)
 ・モニター特別価格           : 9,800円(税込)
 ・インタビュー掲載ご了承価格    : 7,800円(税込)

※参加者には6/5発売「図解 よくわかるこれからのマーケティング:同文舘出版」を進呈(セミナー副読本)

■主催

 クイックウィンズ株式会社(ビジネスメディア・インサイトナウ)

<詳細はこちら↓>
 https://www.insightnow.jp/communities/application/78


参加をお待ちしています!!

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2010.06.24

食事に合う「午後ティー」の狙いは何だ?

 海の見える夏のガーデンで蒼井優がケンタロウ特製・ココナツミルクカレーに舌鼓を打ち、「午後の紅茶・無糖プレーンティー」を飲む。楽しげなCMの裏には、実は大きな作戦が隠されているのである。

 キリンビバレッジ・午後の紅茶は誰しも知る紅茶飲料のトップブランドだ。冷やすと濁るという紅茶の特製をいかにクリアするかなど大きな壁をいくつもクリアし、1986年に登場。以来、「午後ティー」の愛称でも親しまれ王座に君臨し続けている。
 四半世紀近いその歴史の中で8回の製品リニューアルを繰り返し、時代の流れに対応してきたが、やはり一番人気は「ストレートティー」だという。それ以外にもバリエーションが楽しい「スペシャルシリーズ」が2006年から発売されたり、今年2月には特濃ミルクティー「エスプレッソティー」が発売からわずか2ヶ月半で100万ケースを売り上げたりと、相変わらずの人気を誇っている。

 そんな午後の紅茶に登場した新顔が「無糖プレーンティー」だ。キャッチフレーズは「渇きに食事に」。英国・第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリアが行なった「アフタヌーン・ティー」を直訳した商品名に由来するゆったりした飲用シーンとは趣を異にした、新たな飲用習慣の提案である。
 ゆったり味わう紅茶から、食事の時・ゴクゴク系は大きなポジショニングの変更である。前出の「エスプレッソティー」も、これまた人気のカロリーゼロなのにミルクたっぷりな「ヘルシーミルクティー」も、ほっと癒される系の飲用シーンを訴求しているといえる。では、なぜ、従来にないポジショニングで挑むのか。

 そもそも、紅茶飲料を食事に合わせるという習慣を持っている人はどれくらいいるだろうか。海外ではレストランでアルコールを飲まないとアイスティーをドバドバとお代わりさせてくれる店も少なくない。しかし、日本で食事の時にわざわざ買って飲むとしたら、まぁ、サンドイッチにたまに合わせるくらいではないだろうか。
 では、食事に合う飲料は何だろう。筆者の知人であるコンビニの店長によれば、弁当併買ナンバー1は緑茶飲料の伊藤園「お~いお茶」だという。また、それ以外にはウーロン茶飲料やブレンド茶が人気のようだ。つまり、紅茶でご飯を食べる人はあまりいないようなのだ。

 キリンビバレッジの商品ラインナップを見てみると、緑茶飲料は「生茶」、ブレンド茶は「生茶 朝のうるおうブレンド茶」がある。ウーロン茶は「極烏(ごくう)」だ。各々のポジショニングと競争環境はどうだろうか。
 生茶は2000年に先行する伊藤園「お~いお茶」に戦いを挑んでシェアを奪取。2位のポジションを確立したものの、2004年サントリー「伊右衛門」の登場で3位に転落。以来苦汁をなめている。その生茶は今年の製品リニューアルを行った。CMキャラクターに山Pこと山下智久を起用し、派生商品の「生茶 朝のうるおうブレンド茶」を上市。コカコーラ「爽健美茶」、アサヒ飲料「十六茶」にも同時に戦いを挑むという賭に出た。山下智久はCM「リフレッシュ担当/うるおい担当」篇で「ありふれた午後には」「渇いた朝には」と飲用シーンを語っている。つまり、「食事」のシーンは明言されていない。なぜなら、生茶は緑茶シェア第4位のコカコーラ「綾鷹」の猛追をかわしつつ、第2位の「伊右衛門」に何とか追いすがりたいところだ。その両ブランドは特に食事の飲用シーンを訴求していない。「お~いお茶」対抗はまだ先の話だ。では、ブレンド茶はといえば、圧倒的なシェアを誇る「爽健美茶」も、首位奪還を狙う「十六茶」も、今年は朝の飲用を訴求している。後発で独自訴求する手もあるが、まずは追随のシナリオを選んだのだ。故に、「食事」の訴求はできずにいる。
 では、ウーロン茶はどうだろうか。残念ながら「極烏(ごくう)」はウーロン茶カテゴリーにおいては、カテゴリートップブランドのサントリーなどに対してシェアが取れていない状況にある。

 「食事に」と訴求できるカテゴリーがないが、キリンビバレッジは、飲料市場が炭酸カテゴリー以外、緑茶、ミネラルウォーターなどが軒並みマイナス成長のなかで、伸長している紅茶カテゴリーのトップブランドを持っている。その外部環境の追い風と、午後の紅茶ブランドの強みを活かそうという戦略なのだ。

 紅茶を食事に合わそうという方法論は、実は斬新なものではない。1990年に大塚食品が発売したストレート紅茶飲料「シンビーノ ジャワティーストレート」。
 本木雅弘がスタイリッシュに踊るCMで語る台詞が、「どんな食事にも合う・合う」だ。さらに、翌91年には新CMで「ウーロン茶は去年だよ」と語っている。
 つまり、ウーロン茶ではなく、紅茶飲料を食事の時に摂る新たな飲用習慣は、20年前に既に提案されていたのである。しかし、当の「ジャワティー」は、2009年には金城武が海外勤務の会社員を演じ、仕事の行き詰まり飲用と空を飛んだり恐竜と戦ったりする妄想でカタルシスを得るCMを展開している。つまり、訴求内容は「リフレッシュ感」がメインでもはや「食事」とは遠く離れているのだ。そのポジションを午後ティーは「無糖プレーンティー」ですっぽりと同質化したわけだ。

 戦場に出て、そこで用いるのにピッタリな武器がなければ戦いを諦めるのか。しかし、的は待ってはくれない。また、せっかくのチャンスが到来していても、そこで手をこまねいていたら、勝利の女神は微笑まない。まずは手元にある武器でどう戦うか。そこで活かせる方法はないかを考えるだろう。
 紅茶市場の伸長というチャンスに、自社には食事に合う飲料がなく、そのポジションを負わせられる製品はそれぞれ別の戦端を開いていたり、戦う戦力としては弱かったりという状況にあったキリンビバレッジ。そこで、「午後の紅茶」ブランドを使った新たな戦い方と考えたのが、今回の展開ではないかと考えられる。
 どんなときにもベストな戦力・装備で戦えるということは希だ。制約条件の中で、どう工夫して戦うかというお手本として、この展開から学ぶものは大きい。


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2010.06.22

全くスキなし!チキン覇権を狙うマクドナルドの精緻な展開!

 マクドナルドがチキンメニュー強化に動いた。「ケンタッキーに対抗」とメディアや消費者は受け止めているようだが、マクドナルドの狙いは遙かに上をいっているように思われる。
 
 <マクドナルドはチキンでもNo.1を目指します(中略)7月2日(金)より全国のマクドナルドで順次販売開始>(6月20日・日本マクドナルド・ニュースリリース)
 http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2010/promotion/promo0621a.html

 上記リリースによれば、<これまでマクドナルドでは、2008年の「QUARTER POUNDER」、2009年の「マックカフェ」、2010年の「Big America」など、独自性のある商品を投入することにより、お客様の期待を超える価値を提供してまいりました。そしてこのたび、2010年度下半期の戦略的商品として、チキンを主役にした新商品を、自信を持って投入いたします>と、満を持しての発売であることがわかる。

 ところが、「チキンでもNo.1を目指します」とは控えめな発表であることが、新製品発表会での原田社長の発言から垣間見えたのである。

<マックが「チキン」新メニュー発表 「クォーターパウンダー」超え狙う>(J-CASTニュース6月20日)
 http://www.j-cast.com/2010/06/20069165.html?p=all

 同記事にあるように、原田社長は<チキン市場3950億円のうち、マクドナルドは640億円。すでに16.3%のトップシェアを持っているが、まだマクドナルド=チキンという認知がされていない層がある>と述べている。つまり、現在でもケンタッキーなどを上回る1位の座を占めているのだが、誰しもが認める揺るぎないものにすることが目標だということなのだ。

 既に1位であるにも関わらず、さらに上を目指すのは資本市場における企業の使命であるが、ともすればgreed(貪欲)が指弾される世の中になりつつある。しかし、同社の戦略は理にかなっているのだ。
 原田社長のコメントにある16.3%というシェアを、クープマンの目標値で考えてみれば、多数のプレイヤーがひしめき合っていて、いずれも安定的なシェアを占めることができていない状態を示す「並列的競争シェア」におけるトップシェアの数=19.3%にも届いていない。この状態では、トップといえどもいつ逆転されるかわからない状態だ。となると、一刻も早く、頭一つ抜け出した市場ポジションを取りたい。それが、市場影響シェア=26.1%という状態である。
 つまり、今回のチキンメニュー攻勢で、マクドナルドは一気にシェアを10%押し上げようという狙いなのである。

 シェア10%アップ達成のシナリオをどのように描いているのかを推測してみよう。
 原田社長の発言にある「640億円16.3%」の状態から10%押し上げる。メニュー平均単価300円とすれば、チキンメニュー約1億3000万食を販売することになる。

 1億3000万食に向けて初速を付けるためのプロモーションが1000万人試食キャンペーンだ。
 <チキンの美味しさをお楽しみいただく1000万人のお試しキャンペーンにチャレンジ>
 http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2010/promotion/promo0621b.html

 6月4日から開始されたキャンペーンでは、各種の新メニューを一口サイズのお試しで手を変え品を変えて提供し、7月1日には商品のチキンを丸々1本配布するという太っ腹な展開を用意しているという。その様子と味の感想をTwitterでつぶやいている人も多く、好評のほどがうかがい知れる。
 1000万人のサンプル効果をちょっと乱暴に試算してみる。体験者の35%が購入。体験者が5人に対して口コミをして、そこから25%の購入が発生。さらに再購入を1~12回する人が35%~10%程度に分布するという楽観シナリオで考える。すると、1億3千万食のうち、サンプルと口コミ効果で達成率50%強のところまで持っていくことができる。初速は十分得られるだろう。残り半分は、通常のテレビCMやクーポン等のプロモーションが担うことになる。

 チキンでも覇権を狙うマクドナルドであるが、それは原田社長によると<「原動力は客単価よりも客数の向上。チキンでさらに新規顧客を獲得したい」>(同J-CASTニュース)と、客数増が目標であるとしている。そして、その目標は大型メニューであるクォーターパウンダーの登場期を上回るという。

 マクドナルドの基本戦略は、筆者はクォーターパウンダーやビッグアメリカ等の高単価メニューと、客数を稼ぐ100円メニューやコーヒー無料などの展開を交互に投入し、売上=客数×客単価のコントロールを絶妙に行うことにあると考えている。時折、復刻版や改良版の「照り焼き」や「月見」バーガーなど日本オリジナルメニューを投入し、「中価格帯」を補完するのもその調整の一つだ。
 しかし、今回のチキンは「客数獲得」と「高利益」を狙うオールマイティーなメニューであることが、原田社長の<「他のメニューよりは粗利は高い」>(同)というコメントから伺える。100円メニューを廃し、メニュー単価を最大50円引き上げた新型店舗の投入で、利益率向上を狙うマクドナルドの戦略とも符合しているのである。

 チキンでの覇権を一気に狙い、壮大な目標数をクリアするための大規模キャンペーンを展開。さらにその背後には、客数増と利益率向上を同時達成しようという狙いも用意するという展開が今回のキャンペーンの全容だ。毎度のことながらスキのない展開を魅せてくれるマクドナルドなのである。

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2010.06.21

うふふガールズで大丸さんがほしいトコ、Kaede Sakuraでイオンさんがねらうコト

■本日は弊社スタッフの書き下ろし記事をお届けします。

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西幡 治美 (にしはた・はるみ)

有限会社金森マーケティング事務所
コピーライター・プランナー

大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。広告制作会社、大手アパレルメーカー販売促進担当を経て現職。
スポーツ分野から農業まで、幅広い分野で販売促進提案から商品開発のプランニングまでを行う。

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うふふガールズで大丸さんがほしいトコ、
Kaede Sakuraでイオンさんがねらうコト


うふふガールズで大丸さんがほしいトコ、
Kaede Sakuraでイオンさんがねらうコト

 京都は今、盆地だけじゃなくて、「おもてなし」もアツい。
 この春オープンした大丸京都の「うふふガールズ」、そして6月オープンのAEON MALL京都。大規模店舗の業績不振が言われて久しいが、時代は変わっても経営者達の試行錯誤は、変わらずおもしろい。

 ご存知の通り、ここ数年のデパート商戦は悲しき下降線の一途。
 お歳暮、中元、クリスマス。記念日、誕生日、冠婚葬祭。ハレと密接に結びつき、その地位を確立してきたかつての百貨店は、いまや活気があるのはデパ地下あたりと催事場の名物特集。ケの日を必死にアピって食いつなぐという、ヤバい日々を送っている。
 けれども顧客の「わざわざ行くのがめんどくさい」不満を解消し駅と同化した店舗や、合併などで巨大化し、より多くの顧客ニーズを満たせるようになった所は、けっこう頑張っていたりする。
 その一方で、東京有楽町では西武が、京都河原町では阪急が相次いで閉店を余儀なくされたり(どっちも目先の欲にかられデパ地下を無くし「自滅」した感が否めないが…阪急の地下、スキだったけどな)北海道丸井今井が民事再生法適用になったりと、業界の冷え込みはとっても厳しい。

Daimaru006_3 そんな中、生まれも育ちも京都の私は、4月にオープンした大丸百貨店(京都で言う所の大丸さん)「うふふガールズ」 (以下、UG)と、駅前にできたAEON MALL京都に行ってみた。どちらも大評判と言われる両店、どこらへんがすごいのだろう??
 心斎橋大丸に続いて展開されたこの企画。ターゲットはおしゃれ意識が高く、お財布の自由度も高いF1女子。が、彼女達は百貨店離れして久しい。まぁそれは他の百貨店とて同じ事、独り占めできるチャンスでもあるのだ…というわけで。
 低価格、イメージチェンジした売り場が全館改装に伴い大々的に設定されたUG。
なんと店の顔ともいうべき1階やら入り口付近やら、床にも壁にもUGのカワイイロゴが。ピンクのキリン、うきうきした心を躍らせるディスプレイに、従来のデパートの重さはない。
 裏玄関からいきなり始まるUGエリアは1階、2階にわたっているが、改装に伴ってテナントの入れ替えや配置換えがされ、フロアは全体的にUGの雰囲気に。改装前にはアニエスbがあったり、セレクトショップのトゥモローランドがあったりした所だ。心斎橋の雰囲気とは異なり、落ち着いたナチュカジ系が多い(大規模SPAのコレクトポイントも)。部分的に以前の明るさや雰囲気を残しつつ、デパートらしからぬ「ゆるさ」もいい感じに醸している。3足千円の靴下が、とっても雰囲気のいい壁面にあったり、ガラスケース越しにのぞいていたアクセが、表にさらっと置かれて手に取れたり。海外ファストファッションに見られるような「安いけどそれなり」な物ではなく、百貨店という「お墨付き」がありつつも、価格は有名セレクトショップより親切というポジショニングでの展開は嬉しいかぎりだ。
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 また、表玄関のかつてシャネルやティファニーが幅を利かせていた「ええ場所」は“日常寄り(UG寄り)”の雑貨やアクセ売り場や、時期のテーマに即したエントランス展示に代わり「デパートなんか、どこ行っても同じやん」的装いが払拭されている。
 私が行ったのは平日の昼間だったが、UGはちゃんとにぎわっていた。気楽に手に取りやすいディスプレイを囲むお客さんは実に様々。学生さん、おつとめ女子、ここまではターゲティングビンゴ!さらには恋人同士、母子2世代、母子婆3世代、母子夫の家族までがフツーに滞在していた。なんという嬉しい誤算であろうか…デパートの女性服飾売り場といえば、男子にとっては居心地が悪い、女子好みの売り場はお母さんが気に入らない雰囲気の服ばかり…な気がするが、彼らは特にそんな事もなさそう。心斎橋UGとはちょっと違う客層も囲い込んでいる大丸京都UG。この居心地の良さは何なのか?
 実は大丸京都はとっても変な形をしている。でべそみたいな地形に無理矢理建っていて、「お買い物導線」が多分1本につながらない。大丸さんの悩みの種だったのではないかと思うが、その分断具合が今回ばかりはいい感じに旅館の「離れ」みたいで、女子の牙城に良い意味で「なりきらない」雰囲気作りに一役買っているように思う。「でべそで良かった」とさえ、思う関係者もいるかもしれない。苦悩の連続だった「でべそ」、大逆転。限られた状況下で、今までに無かった客層の居場所を確保する事ができたわけだ!さらに京都女子は日常着?仕事着?遊び着に明確なラインがない(着回し得意)ことも、幅広い世代が集える一因で、それを見越したブランド誘致が功を奏したのだと思う。
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 不利と言われる上層階に居を移したハイブランドの店も、同じ階層に集める事で上質な空間を作り出している。老舗お茶やさんからの「出前お茶」が呼べたりして、かつて「見世の間」で、贔屓達をもてなした時代のように濃厚なおもてなしを展開されている。きっとお客さん達はUGとは別なので、きっちり住み分ける事でお互いが気分良くお買い物を楽しめるようになったのではないかと思う。
また、今回の改装でUG以外にも大丸は工夫している。
 一見売上に直接関係ない空間や設えを大きく増やした。香りや音の演出や、エントランス動画やディスプレイ。売り場の壁面オブジェや間接照明、什器の演出も結構上等。大丸東京で目立っていた靴売り場の大きなソファでの試し履きコーナーは老いも若きも「姫気分」になるし、通路が広くなって歩きやすい。ゆっくり、「買い物」自体を楽しむ(買わなくても、いい気分)工夫がとっても増えたのだ。特に、最近多くのデパートで免税店みたいな表示が幅を利かせて、なんだか「せわしない」気分であんまりいい感じがしなかった案内表示が、すごく少ない! その代わりに可愛い「イラスト」や「ディスプレイ」が至る所に設置され、文字が無くても「目当てを見つけやすい」工夫がされているのだが、私はとってもユニバーサルかつ優雅な工夫を感じていい気分になった。まだ改装されていない部分も、この方向性で統一されたら素敵だな?、と思う。UG世代はこうして店が育て上げ、いつかハイエンド商品を求める世代に成長していくだろうし、上質な空間作りは目の肥えたUG世代の親に直球で響く。UGの成功はひいては百貨店全体の成功につながる、大丸的には「結局財布を握ってはるんは女子ですぇ。皆がメンズ館に躍起になってはる間に、囲っときましょ」というわけで、他百貨店がどんな手を打ってくるか、はたまた三越伊勢丹大阪開店で来年以降おこるであろう関西百貨店戦国時代がお客である私としてはとっても楽しみになってきたのである。

 さて、そんな素敵な4月に続き、6月も梅雨だけどとっても素敵だ。
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 京都駅から徒歩5分という超好立地に巨大複合施設AEON MALL京都(以下イオン)がオープンした。
 八条口は一時「京都の表玄関をこっちにしよう」という動きもあったものの、長らく商業施設不毛地帯で微妙な人の流れだったのだが、イオン出店で確実に人の流れが変わった。
 明らかに人が増え、活気づいている。かといって表の伊勢丹方面が閑古鳥かというと、そんな感じもしない。いつも通りの人通りで系統もおなじ感じ。しかしイオンはにぎわい、八条通りは活気づいていた。
 大規模モール系に不慣れな私ではあるが、お上り気分で出かけてみる。イオン内は未だ着工中の部分があるにも関わらず、そして平日にも関わらず「京都の平日にこんなに人がいたのか!」と思わせるような盛況ぶりがここでも展開されているのである。
 京都は景観保護の問題で建物高の制限や外壁に使える色の制限等があり、多少の違いはあるものの、作りは全国にあるイオンモールと同じ。
 衣食住全てが揃い、日常も非日常もいっぺんに満足できる施設作りがなされている。ちょっと違うのが、超ターミナル駅前という土地柄。最寄り駅は京都駅、しかも徒歩5分。言ってみれば東京駅から丸ビルに行く位の時間でイオンに到着する!(街の規模は違うが驚き具合は伝わるかしら、皇居の手間にイオンがある感じ)ガイドリーフレットにも「イオンモールKYOTOへは、電車が便利です」とある。各所からのアクセス時間が明記され、「なるほど…大体の標的居住エリアはここらへんか」と思わせる地域は、京都は勿論大阪・滋賀・奈良と、がっちり近隣他府県ベッドタウンまで広範囲。
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 周知の通りイオンの狙う顧客層はずばり「全部」だ。老若男女、ケの日やちょっとしたハレの日、あれこれかなえてくれる「日常の中心」になるべく、多くのニーズを満たす工夫が至る所になされている…と書くと「あれもこれもで、結局顧客との濃厚な関係が築けないのでは?」と思ってしまいそうな所だが、そこはイオン。モールを練り歩いて気づいたのだが、実に巧妙な各フロア展開が成されている。
 イオン京都はシネコンやホールを有する大きめ施設。Kaede、Sakuraとされた2つの棟はMiyakoという橋でつながって展開されている。私はこれまた平日に1階から4階までを見て回ったのだが、見ているうちに何階にいるのか分からなくなってくる事がしばしばあった。(平日なのでイベント系が無い、事もあるかもしれないが)そう、階ごとの特色が無い。百貨店では「○階、■■のフロア」などとして明確に階での棲み分けを計っている事が多いが、イオンはその真逆、色んなショップが各階に存在する。例えば1階では、靴下屋さんの横がお菓子屋さんだったり、子供服の向かいが電気屋だったりと、多彩。なぜだろう?と回遊するうち、実はこれこそがミソで、各階とも実に便利にできている事がわかってきた。イオンのターゲットである全世代を狙うなら、「各階に全部」が無いと駄目なのだ。老若男女の好みに分かれたショップ展開が、イオンをイオンたらしめている。
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 例えば、お母さんが幼い子供の写真を撮りに撮影スタジオに行きたいと言う。折角なのでおニューの子供服を物色してから撮影、という流れの間、お父さんは隣の家電ショップで新製品チェック。子供服を買ってくれた両親は孫の写真を楽しみに、オシャレな老眼をあつらえに移動。撮影をぐずる子供は「終わったらおもちゃ買ってあげるから」の甘い誘惑に妥協し泣き止んで笑顔。
 集合場所は吹き抜けにあるモニュメントが見える休憩コーナー。
 「では1時間後に!」
 …というわけだ。広い店内、各階で別行動をしても上下移動をしなければ探しやすいし、全世代、性別を問わず興味が持てる店の豊富さで誰かがふてくされる事も少ないだろう。だから皆で出かけやすい、皆が好きな場所になりうる。
 百貨店のような「住み分け」はイオンでは不適当、あえての「バラバラ」が実は家族を「がっちり」まとめる秘訣なのだった…。そうか、だから京都駅ナカも駅チカも、いつも通りだったというわけか。全ての層をターゲット、としながらもしっかり独自のポジショニングを取る事で新たな顧客を呼び込んだイオンに心で拍手を送る。すごいぞイオン。あんたなら新参者は100年位は村八分、な、京都でもやって行ける…。

 長い時代を生き抜いて来た老舗のおもてなしは、デパート、ショッピングモールと姿を変えてもやっぱり健在。
その土地土地や、狙う顧客に合わせた「お客様を思う心遣い」が隅々まで届く事が、スピード化や合理化といった味気ない事ばかり要求される現代にあってもやっぱり大切なのだ。
万人に使えるステレオタイプの挨拶や、押し付けがましい接客をこれでもか、とぶつけ続ける一昔前の「お客様志向」から脱却し、それぞれが狙うターゲットの抱える心理を読み解き、展開する商戦はとても興味深い。
 あれこれ考えず、休日になったら純粋に両店を満喫したくなる、そんな思いがつのる突撃調査だった。

 余談だが、私が幼少時の至福を感じてやまなかった屋上遊園、ファミリー食堂(これが本気で美味しいのですよ!近い方は試してみて!)、エレベーターガール、そして「アンモナイトの化石階段(今はモニュメントとして存続)を含めた六芒星のしつらい」が大丸さんには今もちゃんとある。パンダの募金箱も、ペットボトルキャップ収集箱に姿を変え、サクラパンダと名前を変え、玄関で待っていた。改装に伴い、どんどん合理化する百貨店業界にあって、これらを維持して行く事はとっても大変な事だと思われるが、私はとても嬉しかったし、同じように考えている人は多いだろうと思うので、追記しておきます。(新店舗にも往年のモチーフは受け継がれている)ありがとう大丸さん。

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2010.06.18

「デパクロ」の功罪と百貨店の明日

 日経MJの「2010年上期ヒット商品番付」が発表された。大型ヒット商品の不作で東の横綱不在という寂しい結果の番付表。その東前頭3枚目に「デパクロ」が列せられた。「デパート+ユニクロ」を意味し、<フォエバー21なども含め低価格衣料品店が百貨店に相次ぎ進出し集客>※1とある。その百貨店はどこへ行こうとしているのだろうか。

 「小売りの王様」といわれる百貨店の苦境は、日経新聞、日経MJの記事には連日何かしらが掲載されているような状況が続いている。そして、今のところその出口は見えない。しかし、いくつかの模索する動き中で特徴が見えてきた。

■「デパクロ」は救世主たり得るか?

 上記番付の「デパクロ」。<4月に新宿高島屋店(東京・渋谷)やそごう川口店(埼玉県川口市)に開業した百貨店(デパート)内の「ユニクロ」が盛況>と記事※2にある。同時に番付表の寸評にも名が挙がっているフォエバー21に関しては、<米フォエバー21が開業した松坂屋銀座店(東京・中央)は5月の売上高が4.4%増えた。フォエバー21目当ての客が食品売り場などに流れるといった波及効果も生まれた>としている。

 では、「デパクロ」は今後、百貨店復活の目玉になり得るのかといえば、別の日の日経MJの記事※3から、どうやらそうではない様相が見えてくる。
 <フォエバー21とともに婦人靴や雑貨の集客の目玉>として松坂屋銀座店に誘致された<神戸レザークロス(神戸市)が本館2階で手掛ける「エスペランサマーケット」。SHIBUYA109(東京・渋谷)内の人気6ブランドを複合した新業態で、ファストファッションを意識した試みが詰まっている>という。しかし、<出店から1ヶ月半で「フォエバーの来店客が回遊してくるとの見込みは甘かった」>という結果だという。

■相乗効果が出ない「デパクロ」?

 食品売り場などへの回遊効果はあるものの、元々の狙いであった、衣料品や靴・雑貨への波及効果はない。低廉なファストファッションだけを求めるのではなく、例えばインナー・軽衣料はファストを購入した客が、アウター・重衣料は百貨店の通常売り場の商品を求めるという相乗効果を期待していたはずだが、その見込みは外れている。従来の売り場・商品だけでなく、ファストファッションとの親和性が高いはずの109銘柄のブランドにも流入せず、衣料品売り場をパスして食品売り場に流れてしまう状況は予想外だっただろう。
 松坂屋とフォエバー21の契約に関しては、店舗建て替えまでの期間限定賃貸契約である。賃貸契約故に、フォエバーの売上げは松坂屋の売上げとは別立てだ。復活の切り札にはなり得ていないのだ。

■相乗効果が出ないワケ

 企業が顧客から収益を上げる方法を大別すると、1つは「アップセリング」である。
 「同種の商品の買い換え・買い増し」で購入点数を増加させて売上げ・利益を増すわけだ。とりわけこの手法が得意なのがユニクロである。同種の商品のカラーバリエーションやデザインパターンで1顧客に数点から十数点を売る。そうでなければ、ブラトップ1200万枚、ヒートテック5000万枚の販売目標は立てられない。フォエバー21などのファストファッションは同商品のバリエーションではないが、店内での自社ブランド商品を複数買わせる意味でアップセリング型であると考えてもいいだろう。
 つまり、「デパクロ」は特性として、ユニクロやファストファッション売り場でアップセリングをして、そこで完結してしまうため、他の衣料品への波及効果が出にくいのである。

■自助努力による相乗効果創出

 もう1つの顧客から収益を上げる方法が「クロスセリング」である。これは、「関連商品の販売」によって売上げ・利益を増すのだ。前述のフォエバー21などのファストファッションの来店客が食品売り場に流れて売上げが上がるということも、百貨店全体としてはクロスセリングが達成できているわけだが、どこまでそれを狙ってやったのかは疑問だ。本来的には、衣料・雑貨売り場での回遊によるクロスセリングを図るべきであり、衣料品売り場をパスして食品売り場に流れることが続くなら、ファストとのカニバリ(食い合い)が顕在化する懸念も考えられる。
 その意味では、衣料・雑貨売り場での新たな回遊ルートを構築する動きが、松坂屋と同じJ・フロントリテイリング傘下の大丸で始まっている。 
 その一つが、大丸心斎橋店と京都店で展開されている「うふふガールズ」だ。従来顧客でない若年女性向けの複合ブランドによる売り場展開が、従来にない商品構成と売り方でターゲット年齢にとどまらない幅広い女性層の支持を集めて活況を呈しているという。
 もう一つが小規模インディーズ系デザイナーズブランドを扱うセレクトショップの誘致だ。※4上記「うふふ」と同じ大丸心斎橋店の<北館に2月、古着風や民族衣装風など個性的な品揃えで異彩を放つ店が開業した。近年のインディーズを扱うセレクトショップの出世頭、ステュディオス(東京・渋谷)の心斎橋店だ>という。その取り組みは<メジャーブランドだけではいつ飽きられるかわからない>(MDマネージャー)という若年層対策の問題意識からである。
 百貨店自らが売り場を作る。さらにはメジャーなブランドに場所貸しをするだけでなく、成長させる。そうした「売り場の魅力作り」という基本ともいう取り組みによって、従来にない顧客を取り込み、ファン化して売り場内の買い回りを促進して「クロスセリング」を達成させることが欠かせないのである。

■顧客の囲い込みはどうか?

 もう1つ、顧客から収益を上げる方法がある。いわゆる「顧客の囲い込み」を中心とした、「アフターマーケティング」である。顧客との関係性を構築して、商品を購入した後のサービスの提供などによって、収益を上げるのである。
 <三越日本橋本店(東京・中央)にサービス関連の専門コーナーが誕生した。「暮らしのサロン」という名称で、衣料品の寸法直し、クリーニング、家事の支援、金融相談の4店を1カ所に集めた。買い物ついでに立ち寄れる利便性が受け、売上高は計画を大きく上回っている>※5という。しかし、<価格は決して安くはない。クリーニングのスーツは6300円、ジャケットは4275円から。食事の宅配1セット(朝・夕食)2940円>だ。利用顧客は、同店の主要顧客層である中高年であり、<物を大切にする傾向が追い風>と見ている。そして、<商品を売るだけではなく、生活全般に関わる>との狙いであるという。
 決して安くはないサービスを利用してくれる大切な顧客に対し、モノを売るのではなく、コトとしてのサービス提供によって、より強固な囲い込みを図りつつ「アフターマーケティング」による収益を上げる。
ホスピタリティーは百貨店本来の得意技であるはずだ。重要顧客ベースを堅持し、収益を上げる方法として、「物売りの呪縛」を解き放って、サービスに目を向けた取り組みの比重を上げるのは非常に重要なことであると考えられる。

 このままでは誰も、特に若年層が足を運ばなくなるという危機を脱し、話題を創出する上では「デパクロ」は大いに貢献したといえるだろう。しかし、百貨店の事業全体に対する波及効果や、将来にわたる貢献については疑問符が灯り続ける。そうした、他人頼みよりも、自社での展開や発掘、顧客層への厚い働きかけで収益を改善する取り組みが重要なのだといえるだろう。
 まだまだトンネルの出口は遠いかもしれないが、自助努力で見えてきた明りに向かって邁進し、百貨店には輝きを取り戻して欲しいと願う。
 
※1:日経MJ2010年6月16日1面
※2:同2面
※3:同2010年6月9日6面
※4:同2010年6月11日1面
※5:同2010年6月9日5面

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2010.06.16

「顧客を起点に」~豊田章男社長とドラッカーの言葉

 日経新聞6月16日版・企業面に「トヨタ再出発 試練の1年を超えて-上」という特集連載記事が掲載された。サブタイトルとして「顧客が起点 本社主導転換」「1000万台より1000万人が求める車」などの言葉が並んでいる。
トヨタ自動車創業家出身の豊田章男氏が社長に就任してまもなく1年が経過する。品質問題によって巨額赤字を計上し、「税金を納められない、どん底からのスタートだ」と09年6月の就任後初の記者会見で発言。本年5月に「やっとスタートラインにつくことができた。今年度が新しいトヨタの再出発の年」と黒字転換の記者会見で発言した1年間を振り返っての記事である。

 様々なトヨタの取り組みと今後を紹介する記事中で最も重要なのが、サブタイトルにもなっている<「1000万台を目標とせず、1000万人の顧客が求めるクルマを提供する」と成長の優先順位を変える>という豊田社長の言葉である。

 マーケティングとは何か?という問いに対し、筆者はドラッカーの言葉を引用することにしている。
 マーケティングの役割は、販売を不要にすることである。
マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、おのずから売れるようにすることである。
 The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits her and sells itself. Ideally, marketing should result in a customer who is ready to buy.(ドラッカー 365の金・ P.F.ドラッカー・上田 惇生 (著) ダイヤモンド社)

 補足するとドラッガーの言う「販売」とは、とにかく闇雲にモノを作って売り込んだり、無理な安売りをしたり、無駄な広告を大量に投下したりという状態を表わしている。そんなことをするよりも、まずは顧客を知り、顧客の望むものを提供できるようにすれば、おのずとモノは売れていくのだという論である。

 豊田社長は今年3月のインタビューで「年600万台を超えたありからスピードが急に上がり、人材育成の時間が十分に取れなくなった」と発言した記事にある。振り返ってみれば、モノ作りの基本たる人材育成だけでなく、ドラッカーの指摘するような無理はなかっただろうか。

 筆者はマーケティングの巨星の一人としてレスター・ワンダーマン(Lester Wunderman)を敬愛している。タイム誌の「20世紀の3大広告人」の1人として選ばれた、「ダイレクトマーケティングの父」と呼ばれる人物である。彼は「主人公は商品ではなく、顧客である。(The Consumer , not the Product must be the hero.)」という、「顧客起点」「顧客中心主義」を端的に表した言葉を述べている。(翔泳社『ワンダーマンの売る広告』)

 「1000万台」という「目標」ではなく、「顧客起点」「顧客中心」のモノ作りと本来の販売という、本来の「目的」に回帰するのがトヨタの新たな成長戦略だ。それは、豊田社長は5月の決算発表会見での「新たな成長戦略にかじを切る」という言葉意味するところである。

 「カイゼン」などで、モノ作りのお手本とされたトヨタであるが、そのモノ作りの品質神話も「再出発」の中で再構築を図っている状況だ。その神話の復活にも是非とも期待したい。
 それ以上に、トヨタの成功は産業界の多くの企業が学び、真似をするということから考えれば、是非とも「新たなる成長戦略」としての、「顧客起点のお手本」という神話を構築することに期待したい。そして、トヨタの完全復活が多くの日本企業に活力を与えてくれることを切に願いたい。

※注釈ない場合も豊田社長の発言は全て記事より引用

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2010.06.14

ソニーα「背景をぼかす」のとってもシャープな切り口!!

 「背景をぼかす。心が動きだす。」などのキャッチコピーで展開する、ソニーαのCM。「背景ぼかしコントロール搭載」を徹底訴求している。その戦略は実にシャープなのである。
 
 浅野忠信が屋久島の自然を旅し、北川景子が故郷の神戸を訪れるCMシリーズを展開する デジタル一眼カメラ・ソニーαNX-5・NX-3。同機種はデジタル一眼カメラの中でも新世代といわれる「ミラーレス」カテゴリに属している。
 「ミラーレス」の特徴は、レンズ交換が可能でありながら、光学ファインダーを取り除いて液晶ファインダーに特化したことによる形容/コンパクトさである。フィルムカメラ時代から一眼カメラの特徴であったレンズ上の突起部分がなくなり、見た目はレンズの大きさを除けばコンパクトデジカメとほとんど変わらない形状となっている。
 ミラーレス一眼カメラは、そのサイズや、液晶で見たままを撮影できるという気軽さから、コンパクトデジカメからの買い換え、一眼カメラエントリー層の需要を取り込んでヒットしている。競合状況としては、宮﨑あおいのCMと、往年のフィルムカメラの名ブランドを冠して若い女性と中高年男性の両方に大ヒットした「オリンパス・ペン E-P1」。樋口可南子が女性向けで使いやすさを徹底訴求するCMを展開する「パナソニック・LUMIX G2」などの強豪揃いである。

 強豪ひしめくカテゴリで、αがCMで繰り返し訴求しているのは、前述の「背景ぼかしコントロール」だ。被写体だけにピントを合わせ、背景をぼかすという「プロっぽい」写真が手軽に取れることが売り物である。

 実はこの撮影方法、ちょっと写真をかじった人間であれば、そんなに難しくない。中・高と写真部にも属していた筆者が解説すると、基本はレンズの絞りを開き、シャッター速度を速めること。つまり、ピントが合う範囲・被写界深度を浅くすることで、狙った部分と前後に距離がある場所はぼけることになる。しかし、全自動のカメラではなかなかそれはできない。簡単にやるなら、人物写真ならズームを望遠にして、さらに被写体の背景を遠くにすれば結構いい具合にぼける。だが、うまくそんな状況設定をするのは難しかったりする。
 「面倒な手間をかけずに、いつでも“プロっぽい写真”を撮りたい!」という、多くの人のニーズに応えたのが「背景ぼかしコントロール」なのだ。カメラを映したいものに向け、液晶画面横の「コントロールホイール」を回せば、好みのぼけ具合が無段階で調節できる。あとはシャッターを押すだけである。確かに仕上がりはプロっぽくなる。北川景子バージョンのコピーである「背景をぼかす。心が動きだす。胸が高鳴る。」になってしまうわけだ。「ちょっといい写真を撮ってみたい」と思うエントリー層のハートをわしづかみすること間違いなしだ。

 しかし、この「背景ぼかし」の機能は、αのだけのオリジナル機能ではない。例えば、筆者も所有している「キャノン・EOS Kiss X3」。ミラーレスではなく従来型の光学ファインダタイプではあるが、エントリーモデルの一つだ。撮影モードを選んで、おおよそのぼけ具合を段階的に設定できる。しかし、少々手間がかかることと、液晶ファインダーでそのぼけ効果を見ながら撮影できるわけではないので、本当の初心者が使いこなすことは難しいだろう。
 つまり、ソニーαは、多くの初心者がやってみたかったことを、とにかく手軽に実現できることに注力しているのだ。そして、その1点をCMで、浅野忠信と北川景子実演させて、繰り返し繰り返し訴求している。それ以外の機能は全くいっていない。「軽量コンパクト」とか「使いやすい」という、当たり前なことは、もちろんひと言も言っていない。その「ぼけ」という訴求点の絞り込み方が極めてシャープなのだ。

 この初心者に使いやすい「背景ぼかしコントロール」の実現は、ソニーファンにとっても、「やったな!」と思わずうなるポイントがある。
 ソニーのいくつものハードウエアに搭載されているユニークな機能の一つが「ジョグダイヤル」だ。
 古くは1980年代半ばにソニーのベータマックス型ビデオデッキの特徴として、ホイールをクルクルと回してテープのコマ送りをしたり録画予約ができたりする機能と採用された。以来、「ソニーといえはジョグダイヤル」的な機能として市場に認知され、パソコンVAIO、PDA、電子辞書、ウォークマン、ミニコンポ、カーナビなどに採用。携帯電話では今は亡きツーカー向けの端末にサイドジョグとして搭載されて「クルクルピッピ♪」のコピーで親しまれた。

 昨今、ダイヤル型のコントロール装置は他社の機器でも採用しているものがあったり、ソニー製のハードウエアでも必ず付いているという状況ではなくなったりしている。しかし、直感的な操作・使いやすさが求められるシーンでお家芸を投入して、ここ一番の勝負をかけているのは、「自社ならではの提供価値=Value Proposition」の示し方として秀逸だといえるだろう。

 競合が厳しい市場に参入するなら、「訴求ポイントを徹底して絞り込む」「ターゲットニーズの実現に、“自社ならではの提供価値”を用いる」ことが重要だ。ソニーのソニーαNX-5・NX-3の展開は極めてシャープなのである。

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書籍を出しました!:よくわかるこれからのマーケティング

図解 よくわかるこれからのマーケティング (同文舘出版)

Yokuwakaru


 Amazonや大手書店から順次、6月5日(土)より配本されています。

 環境分析→STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)→4Pの「マーケティングマネジメント」の流れに沿って、フレームワークやセオリー、そして実際の事例を102項目で詳説。

 単なる「用語解説」にとどまらない、全部読めばマーケティングが「わかる」ではなく、「使える」状態になることを目指して執筆しました。特に、「書いてあることはわかるんだけど、実際の場合がイメージできない」というマーケティング本にあり待ちな状態にならないよう、当Blogで紹介したような、現実の企業のマーケティング活動における展開事例を豊富に盛り込みました。また、フレームワークやセオリーも、「一般にはこう言われてるけど、実際は…」という大胆な記述も随所にちりばめました。

 全10章のうち、最終章の「これからのマーケティング」はコトラー先生流を離れて、かなり「金森節」が「炸裂した章でもあります。

 基礎からしっかり学びたい人も、もう一度学び直したい人も。そして、新しいマーケティングの切り口や、マーケティングネタを仕入れたい人も、是非。

■Amazonでのご注文はこちらから → http://tinyurl.com/24fvnpw 

 ・・・ちなみに、本書は同文舘出版の「よくわかるこれからの」シリーズで、シリーズは100項目でまとめるルールなのですが、金森が「うっかり102項目書いてしまいました!」というところを、出版社と担当の方が受容してくれたものです。
 なので、「2項目分お得!」です。是非。

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2010.06.11

ピンポイントを狙う「エキナカ・フレーバーティー」戦略

 エキナカ専用のフレーバーティー飲料が6月15日に発売される。JR東日本管内、1万台の自販機限定という極めてニッチな展開は、実はピンポイントにターゲットを絞るお手本的な展開であるのだ。

 ある商品のマーケティングの全権を任され、「とにかく少しでも販売実績を上げるように」と命じられたら、まず何をするだろうか。製品を改良しようか、価格改定をしようか、販売チャネルを拡大しようか、広告を斬新にしようか…あれこれと施策を考えるだろう。しかし、しばし考えた後に、選択肢の多さと決め手のなさに呆然とするのではないだろうか。

 迷うことなく、しかも成果を上げるためには「勝てる」ところを見つけて集中することだ。つまり、セグメンテーションとターゲティングである。 マーケティングにおいて、極めて基本中の基本であるが、実はピンポイントに絞り込んで、そこに集中して施策を展開することは勇気がいる。いや、自分自身は納得のいく絞り込みプランを作ったとしても、とかく周囲の人や上司から「そんなに絞り込んだら売れなくなるじゃないか!」と言われて挫けそうになるのだ。
 
 新発売される「エキナカ専用のフレーバーティー」は、JR東日本ウォータービジネスが運営するエキナカ飲料自販機acure(アキュア)で展開される。商品名は「FAUCHONマスカットティー」。アサヒ飲料との共同開発で、高級紅茶ブランドのFAUCHONの名を冠し、「夏にふさわしい華やかなマスカット果汁の味わい」が特徴だという。
※ http://news.livedoor.com/article/detail/4819550/ (livedoor news / PR TIMES 6月10日)

 この商品はズバリ、「都市部在住の通勤通学女性客・さわやかな朝にプレミアム感の高い飲料で1日をスタートしたいという価値観を持っている人」というようなターゲット像を持っているといえるだろう。単なる性・年齢というデモグラフィックなセグメント軸だけでない、価値観や行動までを考慮した極めて絞り込んだターゲティングである。
 絞り込んでも外さないのは、JR東日本ウォータービジネスが自社の特徴に合わせたターゲット評価に基づいた検討をしているからに違いない。

 ターゲット評価の「5R」という考え方がある。
 「Realistic Scale(市場規模)、Rate of Growth(成長性)、Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果)、Reach(到達可能性)、Rival(競合状況)」の5つのRで、ターゲットとしての魅力度と適切性を検討するのである。
 「FAUCHONマスカットティー」この商品のターゲッティング戦略を以下で検証してみよう。

 まず、「Realistic Scale(市場規模)」と「Rate of Growth(成長性)」。紅茶飲料は昨今、「炭酸飲料の一人勝ち」といわれている飲料市場において、成長と市場規模の拡大が見られるカテゴリーだ。特にフレーバーティーは景気の低迷によって、ミネラルウォーターや緑茶飲料が浄水器や自分で淹れることで代替され、市場縮小している中、伸びている貴重な存在であり、女性の支持が高い。
 「Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果)」。同社のオリジナル小型ボトル飲料は130円~150円といずれも割高なのが特徴であるが、「FAUCHONマスカットティー」も275mlの小型ペットボトルで130円と若干高めの価格設定だ。これは、値引き・低価格化する飲料業界における逆張り戦略である。同社は「アンチデフレ」という戦略を掲げているが、そのためにはエキナカという値崩れの心配のない立地で、かつ、通勤客・有職女性を中心とした、コストコンシャスでない可処分所得が比較的高い、価値観を重視するターゲットをまず確保することが欠かせない。そのターゲットの支持を得て、効果地製品のラインアップを増やして波及効果を狙っているのである。
 「Reach(到達可能性)」。通常の街ナカ自販機は男性ユーザーが90%だといわれている。対して、エキナカは女性比率が35%だ。街ナカに比べれば極めて効率的な到達環境にあるといえる。
 「Rival(競合状況)」。フレーバーティーの人気商品といえば、今日では伊藤園の「Teas' Tea NEW YORK.」の名がまず挙がるだろう。であれば、あえてその横に「FAUCHONマスカットティー」を置く戦略が効果的だ。「Teas' Tea NEW YORK.」は現在「ベルガモット&オレンジ」と「フレッシュアップル」を展開している。同種のフレーバーでバッティングすることなく、ラインナップを広くとることで魅力を高めることができる。それも実は、JR東日本ウォータービジネスの自販機の商品構成にヒミツがある。同社は業界で唯一、売れ筋商品をメーカーにこだわらない完全な混載で販売する「ブランドミックス」をとっている。その戦略のおかげで競合を回避し、さらに魅力を高めることができているのだ。

 ターゲットを絞ることは、その適切性が検証できればちっとも怖いことはない。むしろ、絞らずに漠然とした「評価される=売れる」期待だけで展開する方が遙かにリスクが高いのだ。
顧客の多様化・ニーズの多様化というキーワードが用いられるようになって、もう10年、20年が過ぎようとしている。しかし、未だに絞りきれない展開が散見される。「マスが命」と思われがちな飲料の新たな展開から学ぶべきところも大きいだろう。

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2010.06.10

美容サロンが展開する、顧客向け「FREE」が意味するもの

 「お願いしまぁ~す!」。美容サロンの若いスタッフが来店促進のビラを配布する、おなじみの駅前や街中の風景だ。新規顧客の来店ばかりを狙っているように見える美容業界で、従来にない再来店促進の施策を始めたサロンがある。東証一部上場企業でもある大手、株式会社田谷だ。

 TAYA、TAYA&CO.、TAYA blue label、TAYA INTERNATIONALなどを展開する株式会社田谷は、日経MJの5月28日の記事によると従来にない再来店促進策を6月上旬から展開するようだ。
 <施術後2週間、髪形を無料診断、田谷、リピーター呼び込む>
 記事によれば、同社の主力であるTAYAの全国114店舗で、パーマやカラーの施術後、ヘアスタイルを無料で診断するサービスを開始し、髪形が好みに合っていなければ、パーマなどの再施術をするという。

 それだけなら何も珍しいことではない。筆者もカラーを利用していたときに、色の入り方がどうにも気に入らなくて通っているサロンでやり直してもらったこともある。しかし、あくまでそれは「クレーム対応」のような消極的サービスに過ぎない。
 記事にある、<パーマやカラーは髪になじむまでに時間がかかるため、施術から数日後の状態をチェックすることでより効果的なアドバイスができる>というコメントにあるように、同社のサービスは、再施術や再来店を積極的に呼び込んでいる点に特徴がある。しかもそれは再施術だけではない。<新しい髪形の効果的なセットの仕方などの相談>や<「外出する前にシャンプーとブローで髪形を整えてほしい」といった要望にも対応する>というサービスまで、施術後2週間以内なら提供するのだという。

 冒頭に記した美容サロンにおなじみの、新規顧客獲得施策とは一線を画すこの取り組みには大きな意義がある。
 長引く景気の低迷は、消費者の節約志向を加速させ、「贅沢」なものだけでなく「不要不急」の需要を根こそぎ低迷させた。美容サロン業界はその直撃を受けた業種の一つだといえるだろう。顧客数そのものが大きく減る以上に、来店・利用頻度が低迷。髪を整えに来る間隔が長くなることが業界全体を冷え込ませているのである。上場企業である株式会社田屋の22年3月期の決算短信を見てみると、大幅な減収減益になっていることがわかる。

 業績が落ち込んだときにどうするのか。極めて当たり前な話だが、「利益=売上げ-コスト」である。昨今、コスト削減の努力にはどの企業も血の出る思いで取り組んでいる。しかし、コスト削減の努力にも限界がある。とすれば、売上げそのものを回復させることが欠かせない。「売り上げ=客数×客単価×リピート率」である。田谷の施策は美容業界にありがちな、穴の空いたバケツで水を汲むような新規顧客獲得に偏重した施策を改める狙いがあるのである。

 消費者が商品・サービスを認知してから購買行動を起こすまでの態度変容を表すモデルとしてはAIDMAが有名だ。A(Attention:注目)→I(Interest:関心)→D(Desire:欲求)→M(Memory:記憶)→A(Action:行動)である。しかし、AIDMAの問題点は、基本的に1回1回の購買までしかとらえていないことだ。初回購入までの設計を行うのであれば十分だが、リピート促進の施策を組み込めない。また、有料・無料のどちらの場合もあり得るが、初回の購入が「お試し」であった場合、再購入させ、さらにロイヤル顧客化するまでのプロセスをカバーしていないのである。
 その問題を解決するには、AMTULというモデルを用いるとよい。A(Awareness:認知)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)である。

 田谷の展開をAMTULで考えてみよう。
 A→M→Tまでの新規来店促進施策は通常とあまり変わらないかもしれない。しかし、その後の再来店促進の施策を前提にするなら、「2週間無料相談&再施術・ヘアセットサービス」などを打ち出して新規獲得にも貢献することも可能だろう。そうして、顧客としては「お試し(T)」的に初回利用をする。そして、その場で「2週間無料相談&再施術・ヘアセットサービス」の説明を受ける。仕上がりに問題がなかったとしても無料であれば、相談とセットを試そうと思う顧客は多いだろう。通常のサロンに比べれば、顧客との接触頻度は倍に上がる。接触のたびに微に入り細を穿つような施術・相談・サービスを繰り返すことによって、U→Lという段階を経て顧客のロイヤルティーを獲得することができるのである。

 通信販売業界などでは「RFM」という指標が用いられている。
 R:Recency=最新購買日:どれくらい最近に購入しているか、F:Frequency=累計購買回数:どのくらいの頻度で購入しているか、M:Monetary=累計購買金額:全部でいくら購入しているかである。RFMはそれらをポイント化して、顧客がどれくらい自社の利益に貢献してくれているかを把握する顧客管理手法である。
 田屋の再来店施策は、無料サービスの利用であるため、正確には上記のR:Recencyにはならないが、来店間隔を短くする効果を上げているのは間違いない。結果として、F:Frequency、M:Monetaryを高めることにもなる。無料サービスでかかる費用といえば、若干の整髪剤のコストぐらいで、多くは技術料だ。顧客が引きも切らず来店し、スタッフの手が空かない状態であれば無料客は収益低下につながるが、昨今そんな状況ではないだろう、手が空いているスタッフをどんどん使ってサービスを提供し、顧客を再来店させるべきなのだ。

 来店頻度を高め、スタッフやサロンとの関係性を深めれば、さらにオイシイ状態を作り出すことができる。
 来店して、カットをする。それが最低限の取引だ。相談に応じ、アドバイスをすることによって、ちょっと冒険してみようかという気に顧客がなる。パーマやカラーの利用を獲得できる。さらにヘッドスパの利用を促進することができたり、一般のドラッグストアでは販売していないシャンプーやトリートメントなどの物販の可能性も高まったりする。つまり、関連商品の販売である「クロスセリング」によって、1顧客、1来店における売上げとだけでなく、利益率向上を図ることもできるのだ。田谷株式会社の決算短信を見ると、売上げ以上に営業利益が大きくへこんでいる。それをカバーする狙いも当然あるのだろう。

 この事例は、美容サロンの再来店促進による売上げ・利益回復施策というだけの意味合いではない。もはや日本市場の縮小傾向は人口動態から明らかだ。真っ新な新規顧客が呼び込めるというのはもはや幻想に過ぎない。果てしない競合との顧客の取り合いが繰り返される世界になっているのだ。しかも、景気が回復したとしても消費者の購買欲求が元の水準に戻ることはないといわれている。であれば、顧客をいかにケアして囲い込み、利用促進の提案を行うかは全業種共通の課題となってくるのである。

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2010.06.08

その先のトレンドを読め!ゼロ系飲料の栄華は続くか?

 炭酸飲料、特に「ゼロ系」といわれる糖類やカロリーがゼロの飲料が好調だ。一部のメディアでは「飲料の勝ち組」と持ち上げている。しかし、その売れ行きはいつまで続くのか。

 <ゼロ飲料が勝ち組に浮上、夏を前に飲料市場に大異変>(livedoorニュース・ZAKZAK 6月7日 )
 http://news.livedoor.com/article/detail/4813050/

 上記の報道では、飲料の中の「勝ち組」としてゼロ系炭酸飲料、特に「透明炭酸」、即ち「サイダー」をあげ、一方の「負け組」をミネラルウォーターとしている。そして、その象徴として<キリンビバレッジは4月6日、糖類ゼロの炭酸飲料「大人のキリンレモン」を発売し、ゼロ飲料市場に進出してきた。その2日後、ハウス食品がミネラルウォーターの「六甲のおいしい水」事業をアサヒ飲料に売却し、撤退すると発表している>という業界内の動きをあげている。

 確かに上記は業界内のマクロ的な動きをとらえている。さらにその要因として消費者の行動を加味するとわかりやすいだろう。
 景気の低迷による節約志向の高まりから、ミネラルウォーターは代替として水道水を浄水器で浄水すれば事足りるため、低迷しているのだ。業界筋によれば、売上げがプラスなのは若年層の支持を集めるコカ・コーラの「いろはす」だけであるという。その代わりに、「ブリタ」などのポット型浄水器が売上げ好調で、それを用いてマイボトルを持ち歩く「水筒男子」やら、浄水器を愛用する「水道男子」やらという人々が登場した。同様の理由で、自分で淹れられる緑茶飲料も低迷中だ。

 そもそも、炭酸飲料がプラスに転じたのは、「炭酸=高カロリーで身体に悪い」という常識を打ち破る「ゼロ」が登場したためだ。記事中で<ブームの火付け役は、2006年3月にサントリー食品(現サントリーフーズ)が発売したカロリーゼロの「ペプシネックス」だ>と指摘しているとおりである。

 記事中で流通担当アナリストのコメントとして、かつての緑茶飲料は乱売合戦で市場がマイナスになった。そして、<緑茶の二の舞になったのがミネラルウォーター。急成長を遂げているゼロ飲料も、同じコースをたどるのではないか>とコメントしている。
 筆者としては、前述の通り、ミネラルウォーターと緑茶飲料の低迷は、乱売合戦というよりは主因は消費者による代替だと考えているが、ゼロ系炭酸飲料も今のままで右肩上がりを続けるワケではないことには賛同できる。

 「乱売合戦」の影響といえば確かにそれにあたるのだろう。炭酸飲料に限らず、ゼロ系飲料には大きな懸念がある。「ゼロ」が氾濫しすぎて、「何ゼロ?」だかわからなくなっているのだ。同じ「ゼロ」でも、それが示すものが「糖質」だったり「カロリー」だったりする。また、厚生労働省所管の健康増進法の栄養表示基準の示す「ゼロ」は、完全なノンカロリーや糖分ゼロではなく許容値範囲があることも問題視され始めている。
 そのような、「ゼロ」のわかりにくさの問題以外にも、「ゼロの氾濫」による「消費者の飽き」も懸念される。過ぎたるは及ばざるがごとしだ。「こんなに美味しくてゼロでカラダにいい!」という驚き、喜びをなくしてしまっては、消費が鈍化するのは否めない。

 では、今後「ゼロ系飲料」はどこへ行くのか?
 勝負を分けるのは、「ターゲットを明確にする」ことと、単なるゼロに「足し算」や「引き算」をうまく行って差別化をすることだ。

 記事に登場した「大人のキリンレモン」はその名の通り、「大人」をターゲットに据えている。従来、「キリンレモン」は「家族品質」をキーワードに、子どもを中心として家族全員に愛されるブランドを目指していた。しかし、競争環境の激化と少子高齢化のマクロ環境の変化を受けて、ターゲットを鮮明化したのである。
 5月25日に発売され、氷室京介のCMをガンガン流しているアサヒ飲料の「グリーンコーラ」も、同社が仕掛ける「大人炭酸」シリーズの第1弾だ。続く第2弾は、恐らくジンジャーエールが控えている。

 上記の両商品は同時に、「足し算」によるポジショニングの明確化を図った商品でもある。
 「大人のキリンレモン」は、「回復系アミノ酸オルニチン」を投入し、オトナの元気を応援する。アサヒ飲料の「グリーンコーラ」は、着色料・保存料・カフェインが「ゼロ」だが、あえて糖質やカロリーをゼロにしてはいない。糖類に果糖・ぶどう糖液・砂糖を用いて自然な甘みに仕上げている。どちらも既存の商品カテゴリーに、独自性を示す要素を「足し算」して差別化を図っているのだ。

 一方、「引き算」を行っているのが日本コカ・コーラの「コカ・コーラ ゼロフリー」だ。
 <オトナが夜のリラックスしたひとときを楽しむための飲み物><糖分ゼロ、保存料ゼロ、合成香料ゼロに加えて、カフェインもゼロ(=カフェインフリー)>という徹底ぶりだ。「カフェインまでなくしたらコーラじゃない?」とも思ってしまうが、それでいてコーラらしい味わいを失っていないという驚きを与えてくれる。さすが炭酸飲料、コーラ飲料のリーダーといえるだろう。

 競争が激しくなれば、当然、差別化ができないものは淘汰される。
 しかし、その中でターゲットとポジショニングを明確にして製品特性を際立たせることができたものは生き残ることができる。「勝ち組」という「ゼロ系炭酸飲料」に淘汰も確かに波がやってくるかもしれない。だが、消費者にとって魅力を明確に示せて、支持を得られた商品は残っていくという変化が今後予想されるのである。
 

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2010.06.07

弱みを強みにする・チャレンジャーの「企業資産の負債化」作戦

 競争が厳しい市場に参入し、ある程度のシェアを確保しようとした場合、どのような手段をとるだろうか。特に、後発で物量作戦を展開できない、チャレンジャーのポジションとしての参入であったとしたら…。

 チャレンジャーの戦略の基本は「差別化」である。大きな力を持って先行するリーダー企業に対し、何らかの差別化要素を市場に示し、まだリーダーが掘り起こせていない潜在客を獲得し、さらにリーダーの顧客を奪取する。その際、具体的な打ち手としては「マーケティングミックスの4P(Product・Price・Place・Promotion)」での差別化を図ることとなる。

 競合する企業数の多さにインターネットの比較サイトの存在も相まって、厳しい競争が展開されている業種の一つに「高速バス業界」があげられる。同業界は、2001年の規制緩和で参入が相次ぎ、現在は生き残り時代に突入している。価格競争も凄まじく、東京~大阪の新幹線のぞみの運賃14,050円の4分の1程度を基準に数百円単位の競争が繰り広げられている。当然、Priceだけでは勝負ができない。ゆったりしたシートサイズと、カーテンでプライベートが確保できる座席などを装備したバスというProductでの差別化も激しい。

 そんな競争環境の中、奇策ともいうべき、「東京~大阪500円ワンコイン」という脅威の価格で勝負する新興バス会社の「平成エンタープライズ」がある。
 同社の狙いは、1日限定10席をワンコインという価格で提供することによって注目を集め、ワンコイン席の予約が可能ではないかと、高速バスを利用する際にまず同社の予約サイトに来訪させることを目的としている。つまり、Promotionとしての差別化である。
 (過去記事参照:『「奇策」を「ただの奇策」で終わらせないキャンペーン設計とは?』 http://tinyurl.com/29h6lsh )

 その、平成エンタープライズが、さらなる差別化策の展開を開始した。
 日経MJ6月6日の記事に「夜行バス乗客用待合室 東京に来月、大阪・名古屋にも 着替えや仮眠も可能に」との記事が掲載された。同社の新サービスについてである。
 記事によると、「VIPラウンジ」と名付けられた待合室は、バス乗り場から徒歩1分のオフィスビルに場所を確保し、着替え・仮眠だけでなく常時接続されたインターネットやドリンクバーも無料で利用できるという。

 「高速バス」という製品の提供価値は、新幹線との比較で「安く移動できる」ということが「中核価値」になっている。そして、安い移動でも快適に実現できるかという「実体価値」が差別化要素としての勝負のしどころとなっていたのだ。しかしそれも、シートを3列にした、前後の間隔を広くとることなどの要素もスペース上限界がある。カーテンなどの遮蔽生の向上も、個室にするわけにはいかないのでやはり限界がある。故に、「安く移動する」という中核価値には直接影響はないが、魅力と高める「付随機能」としての「快適なラウンジ」が新たな差別化策となったのである。

 同社の展開は記事にあるように、「オフィスビルの空室率が高止まりしている現状ではツアーバス各社にとって、都市部に待合室を確保する好機」を活かしたものだ。待合室を持つ運行会社が少なく、今までは雨天時には傘を差してバスを待つという状況だったことを考えれば大きな差別化ポイントとして機能することは間違いない。
 しかし、この待合室の確保は、後発である平成エンタープライズ社にとって、さらに大きな意味がある。

 「エイビスの車をお使いください。カウンターにお並びいただく列は、ずっと短くなっております」。米国のレンタカー会社の広告コピー例だ。業界№2を標榜するエイビスは、1位のハーツが追従しようにも追従できない戦略で攻撃している。すなわち、顧客数が少ないということは、すぐにチェックインできる最大の武器であったのである。
 エイビスの例は、「企業資産の負債化」の戦略という。チャレンジャーが構築・蓄積してきた競争優位を無効にし、負債化する。(逆転の競争戦略:山田秀夫・生産性出版より抜粋)
 平成エンタープライズのVIPラウンジの展開も同様の展開を行っているのである。

 例えば新宿であれば、同社のバス乗り場は西口の「エルタワー前」だ。駅近くではあるが、待合室はなかった。新宿西口を知っている人なら、多くの高速バスが発着するヨドバシカメラ前の「新宿高速バスターミナル」の光景を思い浮かべるだろう。しかし、同社は後発参入故、発着場所を好立地には確保できない。他の拠点でも同様の状況だ。
 好立地の発着場所を確保できない代わりに、待合場所を提供する。時間が近づけば、徒歩1分の距離を係員が先導し移動する。顧客にとって、何の不満もない。快適なむしろラウンジが快適であれば、満足感が高まる。一方の先行業者は、コストをかけて好立地の発着場所を確保しているため、今さらプラスアルファの投資はしにくい。つまり、そのスキを突いた戦略なのである。

 チャレンジャーはリーダーの何倍も知恵を使わなければ生き残れない。ましてや、後発の不利を抱えているのであれば。顧客ニーズを深掘りするだけでなく、競合のスキにも常に目を光らせておくことが大切なのだ。

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2010.06.04

Twitterより:今週のつぶやき抜粋(カナモリのアンテナ)

カナモリのツイッター・アカウントhttp://twitter.com/vermilion07

ツイッターへの書き込み(つぶやき)は、Blog記事にする前の段階でメモ的に行っていることが多いのですが、記事にならない情報が大半です。でも、どんな情報がカナモリのアンテナに引っかかってきたのか、共有することは意味があるのかなと思いました。「フローの情報」として流れ去ってしまう前に、TwitterからBlogに転載してみます。
あくまで試行なので、継続するかわかりませんが…。


※短縮URLのリンク先はメディアの関連記事、メーカーのニュースリリースです。
※ドメインがtwitpic.comのものは、カナモリが撮影した写真です。

【ニュース:新商品・キャンペーン】

■ローソン、105円総菜に「焼サバ」:価格据え置き・切り身1.2倍に増量。総菜市場本格進出をにらみつつ、個食需要も取り込む構えと見た http://tinyurl.com/23s789v
6月4日

■森永乳のキャンペーン「妄想するだけで100万円がもらえるチャンス!?贅沢軍資金」 http://tinyurl.com/2d9c7mn サントリーBoss贅沢微糖のCM「贅沢だ~」を実現するための実弾を投入という感じ。総額1000万なら凝ったCMより安い。でもインパクトは?
6月4日

■日経MJ、アサヒ・グリーンコーラが初登場で売上2位との事。カフェイン、着色料保存料ゼロだが、果糖を使い自然な甘味で差別化。「ゼロ」の子もデティー化で、「どんなゼロか?」が勝負に。
6月4日

■6月7日発売、「カップヌードル ミートキング」。 http://tinyurl.com/27v7syc その「肉」は、「コロチャー」に代替されて、一部のファンから惜しまれて去った、「謎肉」こと「ダイスミンチ」かもしれない。日清製コープのPBにじっと実を潜めていたとされる謎肉が、遂に復活か?
6月4日

■7月6日発売予定の「いろはす・みかん」。 http://tinyurl.com/27fstx7 ミネラルウォーターいろはすのフレーバー版。136円の価格設定が絶妙。ボルヴィックのフレーバー版より安く、20ml多い。景気の低迷でミネラルウォーターが軒並みマイナス成長の中、「いろはす」は唯一のプラス。フレーバーでさらなる躍進へ。
6月4日

■ユニクロ、ネットで自由に商品をデコれるサービス「ユニクロ・デザインツール」開始。
http://tinyurl.com/26xulbz 自社商品の画一性に対する若者のアンチテーゼを積極的に取り込み、さらにネットで公開させて口コミ促進し、そのデザインを他人に流用させて拡大を図るなど、ネットの特性を押さえた秀逸な展開
6月1日

■カゴメの「やさいしぼり」の新商品は、蜂蜜たっぷりのレモネードと合わせたとの事。
http://tinyurl.com/2djpayz 絞っただけじゃない、自らのルール変更は、絶対売るという意地か?でも、ミックスの仕方が「世界のKitchenから」っぽい。
6月1日


【タウンウォッチ】

■遅ればせながら、今月の東京メトロのマナーポスター。昨年までの「○○でやろう」より、爽やかだけど、インパクト不足は否めない。マナーポスターらしいといえるが、1970年代以来のニヤリとさせるユーモアが薄らぐのは少し悲しい。 http://twitpic.com/1toyc6
6月3日

■事務所近くの小料理屋。昼定食が1000円程度と費用対効果がイマイチで足が遠退き、6年ぶり。当時は昼に2.5回転の繁盛だったが、今は12時15分過ぎにかろうじて満席。2回転目はなく、40分にはガラガラ。サラリーマン諸氏は遠くても駅近くの価格競争激戦区に行く。1つのデフレ不況の風景。
6月3日

■今日から「クールビズ」期間。クールかはともかく、言われなくても皆、すっかりカジュアル。環境省が旗振り、カッチリした高い服要らず社会が全般に受け、景気の低迷と相まってより加速。ネクタイメーカーが苦戦する。PEST分析のPESの要素
6月1日

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2010.06.03

団塊・ファミリーマート上田社長のターゲティング戦略

 コンビニエンスストアの業績不振が止まらない。最新の統計である2010年4月度をみると、天候不順の影響もあって既存店ベースの来店客数は10億4,410万人(前年同月比-1.8%)と10ヶ月連続のマイナス。また既存店ベースの平均客単価は562.9円(前年同月比-1.9%)と17ヶ月連続のマイナス。既存店ベースの売上高は5,877億円(前年同月比-3.7%)と11ヶ月連続のマイナスだという。(日本フランチャイズチェーン協会調べ)

コンビニ逆境の中、日経MJ5月28日のコラム「消費 見所 カン所」にファミリーマート・上田社長のインタビュー記事が掲載された。
 インタビューの1つめのポイントは、「お客様には節約志向へのストレスと、嫌気が出始めている」という発言だ。昨今よく言われるようになった、「消費者の節約疲れ」である。その商機をとらえて、同社は価格が少し高めのチルド飲料やパンを投入し好業績を得ているという。しかし、上田社長は「消費の潮目が変わったわけではない」と明言。そして「低単価と高付加価値のバランス」が重要であるとして、弁当を2つの価格帯で展開しているという。

 事実、「コンビニ弁当」に消費者の節約志向の影響が直撃しているのだ。日経新聞6月2日の消費面に「コンビニ調査 節約志向で手作り、弁当購入減少」という記事が掲載された。同記事によると、リーマンショック以前の2年と比べ、消費者は調査に対し「減った」と「増えた」の差分を見ると、1割以上の大幅マイナスになったという。

 マイナスはどこかで補わなければならない。そのためにはマイナスの影響が軽微なセグメントを探すことが欠かせない。ファミリーマートはそこに手を打っているようだ。
 「スイーツ」が活況を呈している。日経MJ6月2日に掲載された記事「スイーツの予算 半数“1回300円” 民間調査」によると、いつの間に日本人はこんなにスイーツ好きになのか?と思う結果が掲載されている。回答者の約9割(女性91%・男性85%)が甘い物好きで、週1回以上食べる人は全体の約6割にのぼったという。そして、自分のための購入価格帯は首位の53%が300円以内とし、購入場所は専門店、スーパーが59%・58%と2強だが、10~20代ではコンビニが60%以上でトップという結果だ。さらに、商品選択基準は洋菓子派は「見た目」や「ボリューム」を重視するという。

 この記事から、ファミリーマートの「あの話題のスイーツ」を思い出せたスイーツ好きもいるだろう。ファミリーマートのオリジナルスイーツブランド「Sweets+」の「ホイップクリームオニ盛プリン」だ。同商品は、通常のカップスイーツの1.5倍のホイップクリームを載せ、「オニ盛り」と名付けた圧倒的なボリューム感が好評で発売以来、同社のカップスイーツ部門で売り上げ1位だという。価格は先の調査で示された消費者の需要価格である300円をさらに下回る230円であり、買いやすさも強調している。
 節約志向で、昼食、弁当に関わる費用は低減したい。特に所得が低く、しかもその上昇が抑制されている若年層ほどその傾向は強いだろう。しかし、「節約疲れ」と認識しているかはともかく、節約だけでは何とも寂しい。自分にスイーツのごほうびくらいは欲しい。その時、コンビニでボリュームたっぷりで買いやすい価格の商品があれば手が伸びるだろう。その消費者のココロをうまくとらえているのだ。

 一方、別の年齢層をターゲットとした施策もしっかりと展開している。それが、インタビュー記事にある、上田社長の発言の2つめのポイントにつながる。
 3月からファミリーマートの店内ポスターやCMには俳優の小林薫が出演している。小林薫は58才。実際には少し若いが、リタイヤ・団塊世代層を象徴している。「よく見るとコンビニはいろいろなことをやっている」「ファミマって、ありだと思う」という台詞は、同世代の吸引を狙っているのだ。
 インタビュー記事では、全人口の2割を超す60歳以がファミリーマートの来店客に占める割合はわずか2%であるという。上田社長は「手つかずのマーケット」をどう取り組むかも大きな課題であるとしている。
 大きなマイナスに直面している弁当も、この層を狙って手を打っている。
 同社は2007年に50代後半から60代前半をテーマにした「チーム団塊」を発足。3月からは<“コンビニ弁当の定番おかず”である揚げ物を入れず、旬の野菜類をふんだんに用いた団塊世代ターゲットの弁当『春のこだわり和風御膳』を発売するなど、中高年層へアプローチ>を強化している。
 (オリコングルメ3月9日 http://gourmet.oricon.co.jp/74123/full/ )
 団塊世代であれば、若年層ほど就労や所得不足の問題や、給与の減少などの影響は総じて少なく、可処分所得も多い。弁当一つにしても、低予算ギリギリの選択や、節約のための手作りにこだわるのではなく、いわゆる「アクティブシニア」なら、「手間なく、カラダにいいもの」であれば受容する余地は大きいはずだ。
 この団塊ターゲットこそファミリーマートの真骨頂といえるかもしれない。上田社長のインタビュー記事では、<63歳の上田社長はコンビニエンスストア大手の社長でただ一人の団塊世代。「この世代の感性が自分のこととしてわかるのは私だけ。それが当社の強み」>としている。

 環境の大きなトレンドは、それを前提条件として受入れるしかない。昨今のマクロ環境は、高齢化に向かう人口動態、長引く不況と消費者の節約志向という経済環境、有効な打開策を示せず空転する政局。いわゆるPEST分析で見ても明るい要素はない。
 しかし、厳しい厳しいと嘆いていても、何も変わらない。特に自社ではコントロール不能な外部環境はそれを是として受入れて、対策を考えるしかないのだ。そして、その中で「ちょっとした市場の変化」をとらえて施策を立案する。さらに、市場全体を一律に見るのではなく、細かくセグメント化して「少しでも有望なターゲット」を発見して働きかけることが求められるのである。

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2010.06.02

消費の新しいカタチ「コト・コト交換」という動きを考えてみる

 1990年代から若者やファミリー層を中心に広がった「フリーマーケット」。最近では、フリマと略されることが多い。略されるのはそれだけ人々の口に上る機会が多いからだ。すっかり世の中に定着した。さらにその進化形ともいえるべき動きから見えてきたものを考えてみよう。

 フリーマーケットのフリーは本来「free」ではない。確かに無料ではないが、自由な感じなのだが、「flea」、蚤(ノミ)だ。つまり、蚤の市だ。<もともとノミのわいたような古着が主な商品として扱われていたことに由来するとか、ノミのようにどこからともなく人や物がわき出てくる様子を表現したなど言われているが、語源は定かではない>とWikipediaに記述がある。それが、<蚤の市という呼び名は、「蚤」の持っている不潔感なイメージから、歴史のある古物市ではガラクタ市、ボロ市(世田谷区など)といった名称が使われ、最近の若者・ファミリー向けの大規模イベントとして開催されるものは、フリーマーケットというケースが多い>という変遷を経て、今日では楽しいイベントとなったのだ。

 なぜ、フリマが楽しいかといえば、本来は品物を現金に換える手段、商行為であるものが、前述の通り「イベント化」しているからだ。出展者との会話や駆け引きが、掘り出し物を求めたり、必要なものだが新品を買うにはちょっと勿体ないものを手に入れたりという本来の目的と同等かそれ以上の価値を持つようになっているからだ。
 つまり、フリマとは、モノを手に入れるための消費という意味合い以上に、「コト消費」としての側面が強いのである。

 「コト消費」とは、本来、商品の所有よりも娯楽性・体験性・物語性などに価値を求める消費行動を指し、物品の購入ではなく、旅行や外食、エンターテイメントなどへの消費支出を意味する。

 長引く景気の低迷でコト消費も沈滞している。その中で昨今の傾向は、単純に無形のサービス・商品である「コト」を購入するというよりも、「モノを手に入れる際に、同時に体験するコトを重要視して購入するする」という傾向が強まっているように見える。つまり「モノ消費のコト消費化」である。そして、フリマ人気の定着はその一端を示すのではないかと考えられるのである。

 「モノ消費のコト消費化」のさらに顕著な例が昨今見て取れる。
 2009年秋からスタートした「Pass The Baton」は、クリエイターや著名人の愛用品やリメイク品を売っていくというコンセプトで立ち上がった。「売る」のではなく次の人に「バトンを渡していく」ということが、リサイクルを意味している。現在では一般でも出品ができるが、一つのルールがある。モノを通して、持ち主個人が持っていた価値観を次の所有者と共有するような仕組みを前提にしていることだ。具体的には出品者が自分写真にプロフィールに加え、出品するモノ持つストーリーを添えて登録・発信する。その情報を通して購入者が出品者の人となり、価値観や思いを共有するというものである。つまり、単なるモノではなく、それにまつわるコトを購入する。もしくは、モノ以上にコトが重要視されて取引されていくという仕組みなのだ。
※Pass The Baton → http://www.pass-the-baton.com/

 さらに、「コト」が重要視される取引が人気を集めている。「xChange(エクスチェンジ)」という。
古着やアクセサリーなど、自分が使わなくなったモノ持ち寄って、自分の気に入ったモノを持ち帰るという「物々交換」のようなイベントなのだ。但し、単なる不要品交換会と異なるのは、持ち寄った品物一点一点に付ける「エピソード・タグ」の存在だ。その品物に込められた思い出、取扱注意方法、次に着てくれる人へのメッセージ等をタグに書き込む。<エピソード・タグを読みながら物色するのも、xChangeの楽しみの一つです。>と主催者は語る。
 つまり、主催者は<古くて新しい「物々交換」>としているが、実体は「品物にまつわる“コトとコト”の交換」。つまり、「コト・コト交換」であるといえるだろう。
※xChange  → http://letsxchange.jp/
※xChange体験記:いらないモノを持ち寄って交換する「xChange」にチャレンジしてみた!(Web R25) 
 http://tinyurl.com/3aaygez

 モノがあふれた市場の飽和状態にあるといわれて久しい。1987年に登場し、1990年の流行語大賞にも名を連ねた「バブル景気」が1991年2月に崩壊し、以後の失われた10年の中で「モノからコトへ」が新たな消費のキーワードであるとして、各企業が様々な取り組みや商品開発の試行してきた。しかし、考えてみれば、それらの多くは「モノ」を「コト」に単に置き換えただけの消費喚起でしかなかったのではないだろうか。
 「Pass The Baton」は商品にまつわる持ち主のプロフィールやストーリーと価値観が、付随価値を超えて商品の中核価値と同等以上に重要視され取引されている。「xChange」では、さらに商品にまつわるエピソードが、通貨を媒介としない「価値」そのものとして交換されている。
 「消費者の意識の変化」というキーワードも耳に慣れてしまっているが、より鮮明化した「モノ以上のコトの価値」と「コト・コト交換」は従来と本質的に異なった動きであるといえよう。しかし、画一的な価値観で図れないため、企業としては取り込みにくい動きであるともいえる。しばらくは静観するしかないかもしれないが、目を離すことができないのは間違いないだろう。


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2010.06.01

値下げ&無料時代の逆張り:ANAの高価値戦略に学ぶ

 牛丼、居酒屋に代表されるように、「チキンレース」ともいうべき果てしなき値下げ合戦が各種業界で展開されている。また、マネタイズ(収益化)のメドすら怪しいような無料サービスも散見される。そんな環境下で、「無料サービスを有料化」して好評を得ている全日空空輸(ANA)の例を考えてみたい。

 日経MJ5月28日のコラム「着眼 着想」で、全日空空輸の機内サービス「ANA My Choice」が取り上げられていた。<「高級」に満足感 快適な空の旅>というサブタイトルが記されている。
 記事によると、昨年12月にプレミアムクラスなどで提供される食事・酒類をエコノミー席で販売する同サービスが開始され、4月から国内線エコノミー席での飲み物の無料サービス終了と時を同じくしてサービスを拡充したという。取り扱う商品はスターバックスのコーヒー、千疋屋のみかんジュース、自社開発のオニオングラタンスープなど20品目。ジュースとスープは共に1日700~1000個を販売する人気商品だという。

 無料サービス終了に際しては、ネット上でも「ジュースぐらいは飲みたい」とか、「あのスープが飲めなくなるのか」と惜しむ声や不満を呈する意見も多く見受けられた。しかし、現在ではそれを上回る高評価を獲得しているということなのだろう。
 では、そのポイントはどこにあるのだろうか。

 有料サービス開始にあたって、担当者たちは取扱商品のチョイスのため、新幹線の車内販売、コンビニ、百貨店を見て回ったと記事にある。販売するアイテムだけでなく、特に新幹線のワゴン販売という存在からはヒントを得たのではないだろうか。
 考えてみれば、新幹線ではグリーン車でも当然の如く飲料や酒類、食事は有料だ。東海道新幹線で使い捨てのおしぼりが提供されるぐらいである。つまり、航空会社の無料サービスは慣例に過ぎないのだ。海外の航空会社は早くから有料化しており、堂々と料金を取って販売する。乗客も当然のように対価を払って購入する。

 記事には機内サービスの企画担当者のコメントがある。「コスト削減効果はもちろんあるが、顧客満足の向上が当初の目的だった」(同紙より)という。
 再生段階にあるフラッグキャリアだけでなく、航空会社が苦境に立たされているのはもはや誰しも知るところである。「コスト削減やむなし」との認識が顧客側にも広がっているのは確かだが、その中で、削減するだけでなく「満足を高める」ことを志向する活動に意味があるのだ。

 ポイントは、従来無料だったものを優良にするにあたって、「誰に、(どこ・どのようなシーンで)どのような便益を提供するのか」をしっかりと考えたことではないだろうか。
 同社は顧客のニーズを定量的に把握している。「ANAの調査によると、お金を払ってでも自分好みのサービスを選びたい人は6~7割いた」(同記事)という。それはどのような人だったのだろうか。

 記事では「出張客や家族客に支持されている」とある。家族客は多くは旅行目的だろう。せっかくの「ハレの日」には、特別な体験をしたい。無料提供がなくなったのは仕方がないとするなら、同じものを有償で手に入れるより、いいものが欲しいと思うのではないか。 
 出張客には、やたらと出張慣れしている人と、たまの出張の人がいる。慣れている人は、従来でも提供されるまで待つ無料飲料に期待せずに、PETボトルを持ち込んでマイペースに飲む人も少なくなかった。なぜなら、出張で機内で過ごすのはごく当たり前の日常、「ケの日」であるからだ。たまの出張の人にとっては、家族客と同じく機内体験は「ハレの日」だ。同じ理由で高級有償サービスがうれしい。

 担当者は「コンビニと差別化するために価値ある商品を選んだ」(同記事)と語っている。自分で持ち込む以上の「価値」をしっかりと提供していることが大きなポイントであり、顧客満足につながっているのである。

 「機内」という特殊な空間とシチュエーションにおいてではあるが、従来の常識をもう一度見直し、顧客の立場で「価値」を自らに問い直して、「有償高級化」という昨今の世の流れに逆行して成功したANAの展開からは学ぶべきところが大きいといえるだろう。

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