新生「ナルミヤ」の愚直なSTP・4Pと「ファストリ」の凄み
業績不振にあえいでいた、ジュニア服メーカーのナルミヤ(ナルミヤ・インターナショナル)の新ブランドが好調だという。その復活のヒミツを見れば、愚直なまでにマーケティングの基本を踏襲し、それを精緻に実行していることが判る。一方、ユニクロの生産手法を導入した、ファーストリテイリング傘下、キャビンのブランドでは、ありがちなマーケティングの間違いを、間違いでなくしてしまうという驚異の展開が行われている。
「中村君」「中村君」と、街ゆくローティーンの女の子たちが口々にいうその名前は、どこの人気者男子かアイドルかといぶかったが、ナルミヤのブランド「エンジェルブルー」のキャラクターの名前であったと知ったのが2000年代半ばのことだった。
2009年に入ってから業績予想の下方修正を繰り返し、大幅な赤字を記録した同社は、当時「不況による生活者の生活防衛」を主たる原因としていた。しかし、真の原因は他にあったようだ。
日経MJ4月30日、「新生ナルミヤのブランド改革」と題された記事にある。90年代~2000年前半のナルミヤ全盛期に「中村君」などを愛用していたティーンのユーザー。そのDMU(Decision Making Unit=購買決定関与者)である親は「DCブランド」で育ったバブル世代。現在の親世代は、バブル以降に厳しい選択眼を磨いて、様々なブランドや価格帯をうまく組み合わせて着こなす世代。つまり、不振のワケは、経済環境の変化だけでなく、顧客層と顧客のKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)の変化にあったのだ。
記事にある「ブランド改革」の実態は、極めてマーケティングの基本である「ターゲティング」「ポジショニング」の明確化と、その上での最適な「マーケティングミックス(4P)」の実行である。
新生3ブランドは「アナスイ・ミニ」「ラブトキシック」「リンジィ」。
アナスイ・ミニは従来通り百貨店で販売するが、万人受けするキャラクターものなどとは全く異なる。ブランドカラーの紫は着る者を選ぶ。つまり、Place(販売チャネル)とPrice(価格)は従来と大きな変化はないが、ポジショニングを明確にして、ターゲットを絞り込んだのである。
「ラブトキシック」のPlaceは従来と異なるショッピングセンター(SC)向けで、従来の百貨店向け商品の1/3にPriceを抑えたという。販売チャネルの違いは新たなターゲットへのアプローチを意味している。そのターゲットへ示すポジショニングは、「SCで手ごろな価格で買える、オシャレなナルミヤの服」というものだ。
「リンジィ」のPlaceは百貨店だが、Priceは低価格に抑えたという。「アナスイ」の服は伊勢丹独占契約なので、恐らく他社の店舗への展開で、百貨店ルートの中でも棲み分けをしているのだろう。ターゲットも異なる。あえて衣料品不振の百貨店を販路としたのは、「百貨店なのに手頃に買える」というポジショニングで展開するためだ。
08年から再建と改革を推進する同社岩本社長のコメントが意義深い。
「ブランドビジネスは(店舗などの販路を)広げるだけ寿命が縮まる」。
つまり、大きなカタマリでターゲットを狙うのではなく、「細かく狙って確実に勝つ」という。ニッチターゲティングの神髄を展開しているのである。事実、各ブランドの店舗数は10~30店舗に抑えているという。
しかし、Promotionは大胆にPlaceの展開の狭さを補う展開している。書店で販売される「ムック本」にブランドの付録を付け、そこからインターネット店舗へと誘導しているのだ。専門雑誌やムック本は「ニッチ媒体」である。これもまた、従来の「絞らない幅広のターゲティング」と真逆な展開を行っていることが判るだろう。
一方、同日同紙のコラム「着眼着想」に掲載された、ファーストリテイリング傘下、婦人服・キャビンのブランドである「ザジ」の「100%美脚パンツ」という商品は、マーケティングの常識を大きく覆すものだ。
記事によると、脚を長く見せるための素材の選択、立体パターン(型紙)、縫製など、「現時点で可能な美脚効果の工夫は100%盛り込んだ」という。それをストレートに伝える商品名なのだ。その狙いは「従来の、“○○歳代向け”といった顧客の年齢別の美脚パンツではなく、“万人に対応できるパンツ”」であるという。
「ターゲットを狭めず、幅広い年代の女性向けとすることが開発の大前提だった」と記事にあるが、この凄まじい狙いの意味が理解できるだろうか。「脚をキレイに見せたい」という願いは年齢に関わるものではない。しかし、個人差も大きいが、年代別の体型の変化は否めない。それを「万人」としているのだ。
キャビンがファーストリテイリングの完全子会社になって3年。記事では「ユニクロ流の開発手法の浸透ぶりを示す商品」とある。つまり、ユニクロを支えているので有名な「匠の技」なくしては実現できなかったのだ。
「ターゲットを狭くしたら、十分な市場のパイが獲得できなくなってしまう」。そんな議論に未だに遭遇することがある。しかし、ナルミヤの「中村君」のように、全ての人に受け入れられる商品はもはや成立しにくくなっているのだ。同社がブランド再生で展開しているような、細かく、緻密なターゲティングとそれに従うマーケティング設計が欠かせないのが昨今なのである。
「市場のどこを狙おうか、パイを切り取ろうか」と考えることは、誰でも自由にできる。しかし、狙うことと、実際にターゲット顧客を取り込むこと、顧客に振り向いて購入してもらえることの間には大きな溝があるのが現実なのだ。
ターゲットを大きく取ろう。できれば、万人を取り込もう。
そんなことを考えたときには、自社には果たしてユニクロのような「匠の技」があるのかをもう一度見直してみるのもいいかもしれない。
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