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2010.05.22

アサヒビールの挑戦:若者は「氷点下のビール」に振り向くのか?

 氷点下の温度帯(-2℃から0℃)の『アサヒスーパードライ』を飲めるバーが銀座にオープンした。それは「ビール離れ」といわれる若者向けの取り組みだという。

 氷点下の『スーパードライ』を体感できる!『アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR』(同社ニュースリリース)
 http://www.asahibeer.co.jp/news/2010/0520_2.html

 「氷点下」という温度に行き着いたのも、同社が若者対策を模索しての結果である。
 通常、スーパードライの飲用推奨温度は4℃~8℃程度。しかし、<0℃で『アサヒスーパードライ』をお飲みいただいた場合、特に20代の若い層を中心に、ブランドの特長である「味のキレ」「シャープさ」「のどごし」などを強くお感じになる方が多くいらっしゃることが明らかになりました。(アサヒビール調べ)>(同)とのことである。
 これからの暑い季節、キンキンに冷えたスーパードライがノドを駆け抜けていく感触を想像しただけで、思わずノドがゴクリと鳴ってしまいそうだ。いや、本来の筆者なら想像している暇があるなら、5月21日のオープン日に駆けつけていたはずだ。禁酒中の身が恨めしい…。

■若者好みの味は0℃?

 未知の領域・0℃にキンキンに冷えた味わいに興味は湧くが、考えてみれば、そんなに冷たかったら味わいもないのでは?と思が、そこは「若者対策」。オジサンの好みに構ってはいられないのだろう。
だが、若者はなぜに、0℃のスーパードライの味を好むのか。
恐らく、それを好むのではない。普通の温度の味が「嫌い」なのではないか。なぜって、それは「苦いから」。
 飲み会の乾杯準備で「みんな、生でいいよね?」はもはや禁句だ。刺身を食べながら、「カシスグレープ」を飲んでいるからといって、「それって…」などというなど言語道断。若者と飲みに行く際の最低限のマナーである。それほどまでに若者はビールを飲まない。もう10年もすれば、ビール派の方がマイノリティーになっているかもいしれないという勢いだ。
 そここそが、アサヒビールの危機感なのだ。正直なところ、「味わってくれなくていい!のど越しさえ楽しんでくれて、それがクセになるなら!」という思いなのだろう。0℃でクセになり、家飲みで通常の4℃〜8℃を飲んでも気にならなくなるような成長過程を期待しているのだろう。

■毒が効かない村雨兄弟

 懐かしの横山光輝の漫画「伊賀の影丸」に、「村雨兄弟」というキャラクターがいる。毒の使い手となるために、幼少の頃から毒を少ずつ飲まされて育ち、毒に対する耐性を身につけているのだ。
 さて、初めてビールを飲んだときのことを覚えているだろうか。「その時、何歳でしたか?」とは聞かない。「お酒は二十歳から」だから当然だ。そして、その時の感触を覚えているだろうか。「うっぇ~苦っが~い!!」と、結構、衝撃的ではなかっただろうか。
それがしばらくすると、あら不思議。平気で飲めるようになって、オイシイと思うようになる。それを仕込むのは親だったり、先輩だったり、上司だったりと様々であるが、ともかく村雨兄弟の如く、少しずつ耐性を付けて立派な毒使いならぬ、ビール飲みになるのが人の成長でもある。

■ビール修行と憧れの崩壊

 斯様に、いっぱしのビール飲みになるには「修行」がいる。
 しかし、昨今、ムリに勧めれば「アルハラ(アルコールハラスメント)」と指弾される。(確かにムリはよくない!)かつて自分が受けたような「指導」などはできない。また、めっきり世代を超えた飲みの機会も減少している。
 指導や修行だけではない。ビールを飲むということは、ある種の「あこがれ」に背中を押されて、自主的に手を伸ばす(自習?自主練習?)ことも少なくない。しかし、昨今の若者に、ビールを「飲んでみたい!」と手を伸ばす動機は起きているだろうか。飲んでちょっと苦いように感じても「みんな、あんなに美味しそうに飲んでいるんだから、きっと自分が間違いなんだ!」と自己催眠にかけてさらに手を伸ばしてみたくなるだろうか。
そう。「苦い」と思っても、「これがオトナの味なんだ」と「修行」する動機が起きないのではないだろうか。ムリに苦さを我慢して「オトナ」になろうと思うほど、昨今の若者には「オトナ」の姿は憧れるほど魅力的に映っていないだろうから。そうして、「ビール修行」の伝統文化は崩壊していったのだ。

■アサヒビールが開けていた「パンドラの箱」

 0℃のスーパードライは、味よりものど越しが強調される温度。その「味わい」にフォーカスしてみれば、そのスッキリ加減は「新ジャンル」を想起させないだろうか。
 長引くデフレ不況は、居酒屋の景色をすっかり一変してしまった。280円や380円の低価格均一価格居酒屋の隆盛である。それらの店で出されるのは、仕入れ値の安い「第3のビール」などの「新ジャンル」が多い。
 アサヒビールは、新ジャンルが主力のスーパードライを侵食しないように、長く飲食店向けの「樽生」はスーパードライだけに特化し、新ジャンルを封印していた。しかし、大勢には逆らえず、新ジャンルの「クリアアサヒ」を苦渋の果てに解禁している。
 0℃のスーパードライを体験した若者のみならず、オジサンが、そののど越しを楽しんだ後に、通常温度のスーパードライに移行したり、戻ったりするだろうかという不安がよぎる。確かに0℃のスーパードライは美味いだろう。しかし、その後、「やっぱり、安い第3のビールで十分じゃないか?」と思われないかと考えるのは穿ちすぎだろうか?

■「モノ」ではなく「コト」としてのビール

 では、『アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR』は成果を期待できないのかといえば、全くそんなことはないだろう。
 ビールを飲むということは、単に「アルコールを摂取する」「酔っ払う」ためではない。まして、外食で飲用するということは、単に「モノ」としてビールを求めるのではなく、楽しい「コト」として対価を払っているのだ。
 ビールは単に「のどの渇きを癒す」ための「モノ」ではない。「楽しいコト」の「触媒」である場合が多い。0℃のスーパードライにびっくりすることは、楽しいコトに他ならない。
 ビールの飲用は「文化」である。若者に「文化」を伝え、さらにはオジサンにも、価格に変えがたい「楽しいコト」を思い出させるために、『アサヒスーパードライ エクストラコールドBAR』には大いに期待したいところだ。(禁酒をいつ破ろうかとソワソワしながら…)

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