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2010.05.18

伸びるミツカン「納豆事業」のヒミツとは?

 納豆が伸びるといっても、糸を引いているわけでも、粘ついているのでもない。ミツカンの納豆事業のシェアが伸びているというのだ。そのヒミツを探ってみよう。

 <納豆販売戦線に異状あり ミツカンがタカノ追い上げ>(5月18日livedoorニュース/J-CASTニュース)
 http://news.livedoor.com/article/detail/4775354/

 納豆市場の業界内シェアはここ5年で様変わりしている。2005年時点では、タカノフーズ25.6%、ミツカングループ10.8%という状況であった(富士経済グループ調べ)。但し、この業界は、業界第3位以下は全てシェアが1桁台であり、10位以下の合計が31.4%を占めていることだ。
 業界内の動きでは、同05年に7%のシェアを持っていた「くめ・クオリティ・プロダクツ」が前出の記事にもあるように、09年9月に倒産。ミツカンに吸収される。現在では<ミツカンはくめ納豆の事業を吸収後、業界シェアを5%ほど上げ、現在は約20%。最大手、タカノフーズの約30%を急激に追い上げている>(同)という状態だ。
 05年に比べ、くめの吸収前のミツカンも、タカノフーズもシェアが向上しているのは、記事にある<原料の大豆価格が比較的高止まりしており、地方に乱立している小規模業者の廃業も続いている>という記述と符合する。つまり、中小・零細がひしめき合っていた業界に寡占化の波が訪れたのだ。

 業界2強の各々のシェアとポジションはどのような意味を持つのだろうか。
 業界トップが約30%というシェアの場合、「クープマンの目標値」にある「市場影響シェア(26.1%)」に近い。市場に影響をもたらすシェアを獲得しており、一歩抜け出した状態を示している。しかし、2位以下がこのシェアであれば、トップを狙えるポジションにあると解釈できるが、トップがこのシェアであると逆転される可能性あるという意味になる。ミツカンの猛追は、一気にトップを奪う狙いがあると解釈できる。

 納豆市場でトップのポジションを虎視眈々と狙うミツカンの強さのヒミツは、同社の事業の歴史を振り返るとよくわかる。
 ミツカンのメイン事業は当然ながら納豆ではない。「酢」だ。その事業のもう一つの柱とすべく、納豆事業に1997年に参入している。実は、その前に「豆腐事業」に参入を検討した時期があると、筆者は業界関係者から聞いたことがある。しかし、酢における醸造、発酵を管理する技術と、豆腐作りの技術にはシナジーが働かず断念したと聞いた。そこから、発酵技術を用いる納豆事業に進出したとのことである。
 タカノフーズは1932年(昭和7年)に豆腐作りで創業し、1942年に納豆の生産・販売を始めたと社史にあるが、それは大豆という「原料」を用いた「生産シナジー」を活かしたと解釈できる。一方のミツカンは、豆腐を断念し、「発酵」という技術を用いた「生産シナジー」を発揮する道を選んだ。同じ納豆にたどり着いた両社の原点は大きく異なるのである。

 両社の原点の違いは戦略にも現れる。
 タカノフーズは納豆の大規模生産のパイオニアでもある。高度成長期、チェーンストアの出店ラッシュに対応して生産体制を増強してきた同社であるが、まだ需要に追いつかないという状況を解消するため、昭和47年1972年に日産20万食体制、1975年に50万食体制段階的に強化を図ってきた。
 一方のミツカンは、酢の醸造という大規模生産のもう一方の柱として、その規模も活かせるという理由から納豆を選んだ経緯からすれば、はじめから「規模」を追うことは事業計画に組み込まれたことであると解釈できる。そのため、アグレッシブにシェア獲得に向けた動きを見せるのである。

 ミツカンの納豆事業における大きなエポックとなったのが2000年の「におわなっとう」の発売である。事業参入から2年、さらなる成長を目指して競合と差別化ができる要素を模索していたという。その時、消費者の立場で考えたところ「納豆は好きだけれど、においが気になる」というニーズギャップがあるのではと思い至ったという(同社ホームページより)。酢の醸造発酵で培った「菌」の技術で試行錯誤し、1年間かけ、2万個の納豆菌の中から「においの元を作らない菌」を発見した。(同)そして現在、同社は「納豆菌」の保有数では、日本一(Wikipediaの記述)を誇るに至っているという。

 「経営戦略」と「マーケティング」の違いは何か?と尋ねられることがよくある。様々な解釈があるが、一つは「視点の違い」だと筆者は説明することがある。
 ミツカンの例で考えれば、企業としてのさらなる発展のため、もう一つの柱となる事業を構築しようと納豆事業を立ち上げた。それには、成長戦略として「生産シナジー」が図れるという内部要素があったからだ。いってみれば、それらは全て「自社の視点」である。
 それが、「競合との差別化を図る」という、これも自社の視点であるが、「顧客のニーズギャップ」に注目して解を得ている。つまり、この時点で「顧客視点」への転換が図られているのである。

 マーケティング視点、顧客視点を中心とした開発は、同社にさらなるエポックメーキングな商品を誕生させることとなった。2008年発売の『金のつぶ「あらっ便利!」』がそれだ。

 ミツカンは顧客の声を調査して、「納豆のパックのフィルムやカラシなどの小袋が開けづらかったり、開ける際に手が汚れたり、開けた後の始末に困るなどでイライラした経験がある」という人が9割に上ることを明らかにした。そこで、同社は調味料メーカーとしての技術を応用し、タレにとろみをつけ、つまんで混ぜられるようにするという、「コロンブスの卵」的な解決策を見いだしたのである。
 パッケージを開ける時のイライラなど、普通に考えれば「しかたがないこと」と思ってしまうことだが、「便利になりました」と提案されれば、試してみよと購入の手を伸ばす理由になる。顧客のニーズギャップに注目して、「購入棄却理由」を払拭し、「購入理由(KBF=Key Buying Factor)」に転換していくことは、まさにマーケティングの真骨頂だといえるだろう。

 納豆市場のトップシェアを狙うミツカンの強さのヒミツ。それは、一つは、自社の技術や生産体制という「生産シナジー」を活かし、「規模化」を前提とした「経営戦略」。もう一つが、「顧客視点」に徹底して踏み込んだ「マーケティング戦略」。その二つがシームレスで絶妙なバランスを構築していることにあるといえるだろう。

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