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2010.04.01

大ヒットのヒミツ・コクヨの「針なしステープラー」

 コクヨS&Tから発売されている「針なしステープラー」が大ヒット中だという。そのワケをマーケティング的に考えてみると、まさに「売れるべくして売れた商品」であることがわかる。

 <針なしで書類をとじるステープラーが大ヒット>(日経トレンディネット2010年4月1日)
 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/hit/20100329/1031336/
 記事によれば発売は2009年12月7日。以来、<当初の年間売り上げ目標1億円を発売からわずか2カ月で突破し、現在も順調に売り上げを伸ばしている>という。

 ステープラーとは、いわゆるホチキスのこと。「ホチキス」という名前は既に失効した登録商標でJIS規格上の名称が「ステープラ」。そして、通常「ホチキスの針」といわれているものは「ステープラ用つづり針」というわけだ。これ、豆知識。
 さて、「ホチキスと針」はマックス株式会社が最大のシェアを持っているが、それ以外のメーカでも概ね針を用いる同じようなメカニズムの製品を作っている。しかし、「針を使わないステープラー」というものがとりわけ斬新なアイディアで先進的な技術を使っているのかといえばそうではない。
 実は筆者は文具オタクでもあるのだが、初めて「針を使わないステープラー」というものに出会ったのは四半世紀近くも前のことだった。雑誌で外国製のそれを知ってどうしても欲しくなり、探し回って手に入れた覚えがある。

 では、コクヨの商品がどうして大ヒットをしたかといえば、文具オタクのココロを捕らえるのではなく、今日の環境に適合し、さらにオフィスワーカーが抱えるニーズギャップに実に見事に対応したからに他ならない。

 筆者がかつて手に入れたステープラーと紙を綴じるメカニズム自体は大きく変わらない。紙に切れ込みを入れて、紙同士を絡めて綴じるのだ。筆者が持っていたのは1つ穴タイプで、いわゆるホチキスの代替だ。しかしその割には綴じられる紙は3~4枚までとちょっと非力すぎで実用的ではなかった。
 コクヨの製品は2穴タイプで、何と、綴じ込みに使う切れ込みが、そのまま2穴ファイルの穴として利用できるのだ。つまり、ホチキスと2穴パンチを兼ねているという優れものなのである。このあたりのアイディア自体に既にうなるものがある。さらに、綴じ込み能力は業界最大(同社調べ)の10枚だという。

 商品としてのスジが極めていいのはヒットの最低条件だが、大ヒットのワケはそれだけではない。同社のホームページの説明と動画を見るとすぐに理解できるだろう。
 <針なしでとじる!?こうなっていた…秘密を動画で紹介!!>(接続後すぐに音が出ます)
 http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/sl-stapler/

 上記で同社は「環境・効率・安心」の3つの視点と不満解消から生まれた商品であるとしている。
 一目見ればメリットがわかる、前述の2穴パンチ兼用で、すぐにファイリングできるという点は「効率」の実現だ。
針を使っていないため、「分別不要」。「そのままシュレッダーにかけられる」という点もいわれれば激しく同意してしまう。オフィスを取り巻く外部環境として、「環境対応」と「情報セキュリティー」は大きな課題だ。いらない書類は即シュレッダーが基本である。しかし、環境対応のためには金属と紙は分別が必要だ。
 ホチキス止めした書類だと、専用のホチキス外しもあるが、見つからずに、つい指でガシガシと外そうとして爪が欠けたことはないだろうか。ネイルをきれいにする昨今の流行のなか、そんな危険性が排除できるのはありがたいだろう。その点を「安心」としてニーズギャップの解消を訴求している。

 いいことずくめのこの商品。気になるお値段だが、5,500円(税別)だという。その値段の設定がまたうまい。

 プライシングは原価コストに利益を積み上げる「自社視点」と、顧客がどれだけメリットや価値を感じて払ってもいいと考えるかという「顧客視点」、競合商品との価格比較による「競合視点」の3要素で考慮する必要がある。
 顧客視点で考えれば、是非使いたくなる便利さ満載であるだけでなく、分別の気遣いや、ホチキスの針外しの手間や時間がいらなくなるだけでなく、消耗品である針が不要になる。
 競合視点で考えれば、2穴パンチは個人用ではなく、作業台に置いてあるようなちょっとしっかりしたタイプは1,500円~2,500円ぐらいだろう。ホチキスも同様なものは1,000円くらいか。合計で2,500円~3,500円が競合の価格である。1,500円~2,500円ぐらいが顧客視点で考えたときの「プレミアム」となるわけだが、大ヒットしているのはそれが十分ペイできると顧客が判断しているからだ。
 自社視点で考えれば、筆者が四半世紀前に既に手にしていたことから、メカニズム的に何かコスト要因になるような特許を用いているわけではないだろう。だとすると、原価は自社で全てコントロールできる。故に、コクヨにとってはこの大ヒットはかなりオイシイ状態だといえるだろう。

 大ヒットでオイシイ思いを享受できているのは何故なのかというところが大切だ。
昔からある「枯れたメカニズム」を自社の工夫で、紙を綴る枚数を向上させる能力などを磨き上たこと。そして何より、昨今のオフィスとその外部環境の現状、そこで働く人々のニーズギャップを丹念にすくい取ったことが大ヒットのヒミツなのだ。
 売れるべくして売れた商品には、必ず明確なワケが存在するのである。

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Tracked on 2010.04.01 05:17 PM

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