改装は快走?迷走?・マクドナルド新型店舗の狙いは何だ?
これがマクドナルド?と目を疑うほどゆったりとしたオシャレな店内空間。クルーの制服もベレー帽をかぶっていて、今までとは全く違う。4月25日に都内12店舗でスタートしたマクドナルドの新型店舗だ。その狙いはいったい何だろうか?
<マクドナルドの“新世代店舗”は一部メニューを値上げ デザインは5タイプで展開>(oriconグルメ4月25日)
http://gourmet.oricon.co.jp/75675/full/
ネット上の反応を見てみると、期待を込めた声の他に、あまりに従来店と異なる店舗デザインに「マクドナルドじゃないみたい!」「いったい何になりたいんだ?」といった驚きを隠せない意見も散見される。
上記記事によると<フランス人デザイナーによる(店舗の)デザインは全部で5タイプ。今後は先行メニューの提供や独自性のある商品の展開するほか、価格の見直しを検討。(中略)一部メニューを10~50円程度値上げする>とのことだ。
記者会見で日本マクドナルドの原田CEOは(新たな店舗戦略にともない年内に433店舗を閉店させるが)、「まだ課題を残している店舗も633ある。これら店舗も3年以内に入れ替えていく」と発表したという。
次世代店舗の戦略意図の一端が、「取り扱いメニュー値上げ」の中でも「マックカフェメニュー」が対象外となっていることから伺える。「カフェ市場へのドメイン拡張」である。
コーヒーをプレミアムローストに変更し、味を大幅に向上させ、100円(後に120円)とは思えないその味わいに、アンケートによるオリコンの「買いたいコーヒー」として、ホット・アイスとも1位に輝いた。さらにそのコーヒーを無料提供するキャンペーンを断続的に展開。来店客数増に貢献すると同時に、「マクドナルドのコーヒー」の認知度や試用率も大幅に向上した。
さらに、新業態店舗として展開するも、なかなか勢いに乗れていなかった「マックカフェ」を、順次撤収し、カフェメニューにその名前だけを残してマクドナルド店舗本体に取り込んだのが昨年のことだ。一連の動きから、本格的にマクドナルドが「カフェ」にドメインを拡張したことが判る。
マクドナルドの主たるドメインは「ハンバーガーレストラン」だ。しかし、同社は同業のハンバーガー店だけを競合と見ていない。ニンテンドーDSを使ったゲームや情報配信、子ども向けの遊戯施設、古くから続く玩具付きメニュー(ハッピーセット)など、「家族で楽しく食事ができる店」という拡張ドメインでも戦っているのである。競合となるのはファミリーレストランだ。
しかし、その競合たるファミレスという業態自体が既に環境の変化について行けずに崩壊している。マクドナルドとして、次なる拡張ドメインをどこに設定しようかと模索していたのは間違いない。
日本のカフェ市場の大きな転換点は1996年であるといっていい。スターバックス日本進出の年だ。ドトール、ベローチェといった「低価格カフェ」が展開する、カウンターや狭小な席をメインとした店舗で、客の高回転率によって1杯180円という低価格でコーヒーを提供する新機軸は活況を呈し、すっかり旧来の喫茶店を駆逐した。しかし、消費者はもっとゆったりくつろげる店内で、旧来の喫茶店より手ごろな価格でコーヒーを楽しみたいという潜在需要があった。そこにはまったのが、コーヒーの味はもちろん、オシャレな店内空間も重要な「価値」として提供する、自宅、職場(学校)という場所以外の「サードプレイス(第三の場所)」という概念を持ち込んだスターバックスなのだ。
今日のカフェ市場を見ると、そのスターバックスの優位性は絶対ではなくなっている。後発のタリーズが同様な店舗コンセプトで展開し、スターバックス自身は出店数が多くなるにつれて、狭小な店舗も増え、ソファー席などは数えるほどになった。ドトールの上級ラインである「エクセルシオールカフェ」は大型のゆとりのある店内で顧客奪取を仕掛けている。
さらに、日本市場特有の需要として、フードの充実が求められている。昨今、「お一人様需要」が高まっており、女性のお一人様ディナーではカフェの利用が顕著であるが、その点においては、ドトールグループが一歩優位にあるように思われる。
カフェ市場の競合だけで考えると、若干の優劣はあるものの、概ね混戦の様相を呈している状況だ。しかし、「ゆとりのある店内」「フードの充実」という業界のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)を考えると、今回のマクドナルドの新世代店がピッタリそこに当てはまっていることが判る。しかも、既存のカフェ市場のプレイヤーに比べれば、圧倒的なコストリーダーであり、規模の経済によって、コストパフォーマンスのいい商品提供が可能なのである。クォーターパウンダーやBig Americaなどの高級路線バーガーが好評とはいえ、低価格路線とひたすらバランスをとり続けることが求められるハンバーガー業界から、客単価が高いカフェ市場に食指を伸ばしてドメイン拡張を図ったとしても不思議ではない。
とはいえ、閉鎖・入れ替え候補の数百店を全部一気に新世代店に転換するのはリスクが大きすぎる。
今回の展開は、まずはファストフードの聖地である渋谷を中心として一気に新世代店への転換を図って話題性を喚起・新世代店認知度を図りつつ、5タイプの店舗で反応を図る「実証実験」的な意味合いが強いのではないだろうか。以降、候補店舗のうち、客層と店舗規模などが適合したものを順次転換していくのだろう。
昨今の日本マクドナルドは客数と客単価のバランス、メニューの日米オリジナルバランス、地域別の価格設定だけでなく、メニュー価格の頻繁な見直しなど、店舗数から考えれば信じられないほど精緻な調整を繰り返している。筆者にはまるで巨大戦艦の舵を「ミリ単位」で調節しているように見える。
今回の新世代店への転換も、「信じられない!」と顧客が驚くほどの大胆さの裏側では、今後も緻密な調整が繰り返されていくに違いない。
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