緑じゃないぜ、大人だぜ!「アサヒ・グリーンコーラ」は何を狙う?
ちょっと謎な商品が登場した。アサヒ飲料の「グリーンコーラ」だ。その狙いを考察してみたい…のだが、今回は苦戦しそう!
<“大人炭酸シリーズ”第一弾! 素材派コーラ『アサヒ グリーンコーラ』新発売 植物由来原材料使用、着色料・カフェイン・保存料ゼロ>(アサヒ飲料4月26日ニュースリリース)
http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0426.html
名前だけを聞いたら、サッポロ飲料がファミリーマート限定で発売している白い「ホワイトコーラ」だったり、かつての変わり種ペプシ「ペプシしそ」だったり、液色がいわゆるコーラ色ではなく緑色なのかと思ったそうではなかった。
ニュースリリースによると<植物由来の原材料を使用しているという“自然”なイメージを訴求するために、商品名に「グリーン」という言葉を使用しました>とある。つまり、原材料に特徴はあるものの、フツーのコーラだ。いや、それは失礼か。<アサヒビールの黒ビール製造の技術を活用し、黒麦芽を使用することで、コーラ飲料の特徴である力強い味わいを実現しました>ともある。意外とこれは自信作なのかもしれない。
そう、実はニュースリリースに出ている時点で、これはすごいことなのだ。
アサヒ飲料は昨年もコーラを発売していた。サンクス限定の展開で「SIMPLE & QUALITY COLA」という名前だった。アサヒブランドの非アルコールコーラは20年ぶりだったという。
アルコール入りコーラなら、キリンの「コーラショック」がかなりヒットしたが、キリンビバレッジも実はそのコーラショック発売前に、非アルコールコーラを自販機限定で発売していた。その名も「KIRIN COLA」。缶には「ホップフレーバー」の使用が明記されており、今回のアサヒ・グリーンコーラ同様、ビール系飲料メーカーならではの技が用いられていた。
しかし、ビール系飲料メーカーのコーラはなぜか不幸な境遇にある。サッポロ「ホワイトコーラ」も、アサヒ「SIMPLE & QUALITY COLA」も、キリン「KIRIN COLA」も、全て自社のWebサイトにある「製品一覧」などには掲載されていない。なにやら隠し子めいた扱いなのである。
それか今回は、異例ともいえる発売1ヶ月前からのニュースリリースなのである。
だが、ちょっと待て。
製品の特徴である「植物由来原材料使用」や「黒麦芽使用」はともかく、「着色料・カフェイン・保存料ゼロ」や「大人」というキーワードのコーラを最近聞かなかっただろうか…?
これだ!
<コカ・コーラ ゼロフリー 4月26日(月)、全国で発売>(日本コカ・コーラ4月19日ニュースリリース)
http://www.cocacola.co.jp/corporate/news/news_20100419_01.html
昨日発売なので、今日、コンビニの店頭などに配荷されるであろう「コカ・コーラ ゼロフリー」。<オトナが夜のリラックスしたひとときを楽しむための飲み物><糖分ゼロ、保存料ゼロ、合成香料ゼロに加えて、カフェインもゼロ(=カフェインフリー)>という商品の特徴だ。
確かにコーラ飲料で独自性を出すのは難しい。
UCC(上島珈琲)は1990年に米Wet Planet社からライセンスの供与を受けてジョルトコーラ(JOLT COLA)を生産・販売した。「カフェイン2倍」を売り物に、コカ・コーラのさわやかさとは異なるその強烈な味わいで独自の世界観を構築し、CMも北野武を起用し、「ジョルト党」という大キャンペーンを展開した。しかし、一部のコアなファン層を形成したものの、一般にはなかなか受け入れられず、95年に味をマイルド化した。そこからブランドとしての迷走が始まり、2001年についにその幕を閉じたのである。
飲料メーカーがコーラ飲料に進出したい背景はよくわかる。
現在、清涼飲料市場は長引く不景気の影響で、全体として縮小傾向にある。浄水器で代替できるミネラルウォーター、自分で淹れられる茶系飲料が縮小。かろうじて微増しているのが、自分で作れない炭酸飲料カテゴリーなのだ。中でも、カロリーゼロに人気が集まる一方、炭酸飲料カテゴリーの4割はコーラ飲料が占める。
アサヒ飲料は炭酸カテゴリーの中では、透明炭酸飲料においてキリンレモンと人気を二分する三ツ矢サイダーを持っている。しかも、今月ようやく「大人のキリンレモン」で「ゼロ系」を上市したキリンに対し、「三ツ矢サイダー オールゼロ」のヒットなどでゼロ系には一歩リードをしている。次は「コーラ飲料に」という意図は考えられる。
業界でのポジションが上位のプレイヤーが下位のプレイヤーの商品とそっくりの商品を上市したら、それは「同質化」という戦略である。既にヒットしている商品に対して、優れた開発力で差異のない商品を作り上げる。強力な販売力で配荷し、先行商品を駆逐するという力業だ。飲料では古くはポカリスェットに対するアクエリアスの例がある。
しかし、下位のプレイヤーが上位の真似をすると、「模倣戦略」というものになる。
リーダー企業に市場を作らせ、自らは販促を行わない。製品価格を少し落として、「安いから、こっちでもいいか!」と消費者に手にとってもらい買わせるのだ。いわば、落ち穂拾いの戦略。従来の「隠し子的コーラ製品」はまさに、模倣戦略の展開であったといえる。
では、今回の「グリーンコーラ」の堂々のニュースリリースはどのような意図があるのだろうか。
日本のコーラ市場においては、絶対的なリーダーが「コカ・コーラ」。永遠のチャレンジャーで、常に差別化戦略で存在を市場にアピールし、戦いを挑んでいるのが「ペプシ」(サントリー食品)だ。アサヒ飲料は、「グリーンコーラ」で、コーラ飲料の2強の一部に食い込んで、チャレンジャーのポジションを獲得したいのだろうか。しかし、コカ・コーラとペプシを合わせれば、ほぼ9割近いシェアが形成されている所に割ってはいるのは容易ではない。
チャレンジャーとして差別化をかけてくるなら、第一に「味」という王道での勝負が考えられる。
「植物由来」で「自然さ」をアピールしつつ、三ツ矢サイダーで培った「フレッシュクオリティ製法」で香気成分を高めるという。「黒ビール製造の技術を活用した黒麦芽使用」と相まって、ビール系企業ならではの味の差別化をかけてくることも予想できる。なぜなら、キリンの「KIRIN COLA」も「ホップフレーバー使用」で、コカ・コーラのような刺激よりも「後味の良さ、さわやかさ」で一部にファンを持っていたからだ。恐らく、同様なに「刺激よりも、さわやかな香りと味わい」をもって「大人の」というような差別化をかけてくることが考えられる。
「大人」という文脈では、もう一つ注目すべきなのが「“大人炭酸シリーズ”第一弾!」という表現だ。シリーズである。前述の通り、透明炭酸飲料のトップブランドである「三ツ矢サイダー」を持っているアサヒだ。キリンは回復系アミノ酸であるオルニチンやクエン酸、ビタミンB6を添加して「大人のキリンレモン」を作った。アサヒがシリーズ展開の一環で後発ながら、「大人の三ツ矢サイダー」という同質化を仕掛けることも考えられる。
少々謎をはらむ商品であるが、この「グリーンコーラ」は、商品単体で考えるのではなく、“大人炭酸シリーズ”という展開全体で考えた方が良さそうだ。その意味からも、しばらくは目が離せない。