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16 posts from April 2010

2010.04.27

緑じゃないぜ、大人だぜ!「アサヒ・グリーンコーラ」は何を狙う?

 ちょっと謎な商品が登場した。アサヒ飲料の「グリーンコーラ」だ。その狙いを考察してみたい…のだが、今回は苦戦しそう!

  <“大人炭酸シリーズ”第一弾! 素材派コーラ『アサヒ グリーンコーラ』新発売 植物由来原材料使用、着色料・カフェイン・保存料ゼロ>(アサヒ飲料4月26日ニュースリリース)
 http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0426.html

 名前だけを聞いたら、サッポロ飲料がファミリーマート限定で発売している白い「ホワイトコーラ」だったり、かつての変わり種ペプシ「ペプシしそ」だったり、液色がいわゆるコーラ色ではなく緑色なのかと思ったそうではなかった。
ニュースリリースによると<植物由来の原材料を使用しているという“自然”なイメージを訴求するために、商品名に「グリーン」という言葉を使用しました>とある。つまり、原材料に特徴はあるものの、フツーのコーラだ。いや、それは失礼か。<アサヒビールの黒ビール製造の技術を活用し、黒麦芽を使用することで、コーラ飲料の特徴である力強い味わいを実現しました>ともある。意外とこれは自信作なのかもしれない。

 そう、実はニュースリリースに出ている時点で、これはすごいことなのだ。
 アサヒ飲料は昨年もコーラを発売していた。サンクス限定の展開で「SIMPLE & QUALITY COLA」という名前だった。アサヒブランドの非アルコールコーラは20年ぶりだったという。
 アルコール入りコーラなら、キリンの「コーラショック」がかなりヒットしたが、キリンビバレッジも実はそのコーラショック発売前に、非アルコールコーラを自販機限定で発売していた。その名も「KIRIN COLA」。缶には「ホップフレーバー」の使用が明記されており、今回のアサヒ・グリーンコーラ同様、ビール系飲料メーカーならではの技が用いられていた。
 しかし、ビール系飲料メーカーのコーラはなぜか不幸な境遇にある。サッポロ「ホワイトコーラ」も、アサヒ「SIMPLE & QUALITY COLA」も、キリン「KIRIN COLA」も、全て自社のWebサイトにある「製品一覧」などには掲載されていない。なにやら隠し子めいた扱いなのである。
 それか今回は、異例ともいえる発売1ヶ月前からのニュースリリースなのである。

 だが、ちょっと待て。
 製品の特徴である「植物由来原材料使用」や「黒麦芽使用」はともかく、「着色料・カフェイン・保存料ゼロ」や「大人」というキーワードのコーラを最近聞かなかっただろうか…?
 これだ!
 <コカ・コーラ ゼロフリー 4月26日(月)、全国で発売>(日本コカ・コーラ4月19日ニュースリリース)
 http://www.cocacola.co.jp/corporate/news/news_20100419_01.html

 昨日発売なので、今日、コンビニの店頭などに配荷されるであろう「コカ・コーラ ゼロフリー」。<オトナが夜のリラックスしたひとときを楽しむための飲み物><糖分ゼロ、保存料ゼロ、合成香料ゼロに加えて、カフェインもゼロ(=カフェインフリー)>という商品の特徴だ。

 確かにコーラ飲料で独自性を出すのは難しい。
 UCC(上島珈琲)は1990年に米Wet Planet社からライセンスの供与を受けてジョルトコーラ(JOLT COLA)を生産・販売した。「カフェイン2倍」を売り物に、コカ・コーラのさわやかさとは異なるその強烈な味わいで独自の世界観を構築し、CMも北野武を起用し、「ジョルト党」という大キャンペーンを展開した。しかし、一部のコアなファン層を形成したものの、一般にはなかなか受け入れられず、95年に味をマイルド化した。そこからブランドとしての迷走が始まり、2001年についにその幕を閉じたのである。

 飲料メーカーがコーラ飲料に進出したい背景はよくわかる。
 現在、清涼飲料市場は長引く不景気の影響で、全体として縮小傾向にある。浄水器で代替できるミネラルウォーター、自分で淹れられる茶系飲料が縮小。かろうじて微増しているのが、自分で作れない炭酸飲料カテゴリーなのだ。中でも、カロリーゼロに人気が集まる一方、炭酸飲料カテゴリーの4割はコーラ飲料が占める。
 アサヒ飲料は炭酸カテゴリーの中では、透明炭酸飲料においてキリンレモンと人気を二分する三ツ矢サイダーを持っている。しかも、今月ようやく「大人のキリンレモン」で「ゼロ系」を上市したキリンに対し、「三ツ矢サイダー オールゼロ」のヒットなどでゼロ系には一歩リードをしている。次は「コーラ飲料に」という意図は考えられる。

 業界でのポジションが上位のプレイヤーが下位のプレイヤーの商品とそっくりの商品を上市したら、それは「同質化」という戦略である。既にヒットしている商品に対して、優れた開発力で差異のない商品を作り上げる。強力な販売力で配荷し、先行商品を駆逐するという力業だ。飲料では古くはポカリスェットに対するアクエリアスの例がある。
 しかし、下位のプレイヤーが上位の真似をすると、「模倣戦略」というものになる。
 リーダー企業に市場を作らせ、自らは販促を行わない。製品価格を少し落として、「安いから、こっちでもいいか!」と消費者に手にとってもらい買わせるのだ。いわば、落ち穂拾いの戦略。従来の「隠し子的コーラ製品」はまさに、模倣戦略の展開であったといえる。

 では、今回の「グリーンコーラ」の堂々のニュースリリースはどのような意図があるのだろうか。

 日本のコーラ市場においては、絶対的なリーダーが「コカ・コーラ」。永遠のチャレンジャーで、常に差別化戦略で存在を市場にアピールし、戦いを挑んでいるのが「ペプシ」(サントリー食品)だ。アサヒ飲料は、「グリーンコーラ」で、コーラ飲料の2強の一部に食い込んで、チャレンジャーのポジションを獲得したいのだろうか。しかし、コカ・コーラとペプシを合わせれば、ほぼ9割近いシェアが形成されている所に割ってはいるのは容易ではない。
 
 チャレンジャーとして差別化をかけてくるなら、第一に「味」という王道での勝負が考えられる。
 「植物由来」で「自然さ」をアピールしつつ、三ツ矢サイダーで培った「フレッシュクオリティ製法」で香気成分を高めるという。「黒ビール製造の技術を活用した黒麦芽使用」と相まって、ビール系企業ならではの味の差別化をかけてくることも予想できる。なぜなら、キリンの「KIRIN COLA」も「ホップフレーバー使用」で、コカ・コーラのような刺激よりも「後味の良さ、さわやかさ」で一部にファンを持っていたからだ。恐らく、同様なに「刺激よりも、さわやかな香りと味わい」をもって「大人の」というような差別化をかけてくることが考えられる。

 「大人」という文脈では、もう一つ注目すべきなのが「“大人炭酸シリーズ”第一弾!」という表現だ。シリーズである。前述の通り、透明炭酸飲料のトップブランドである「三ツ矢サイダー」を持っているアサヒだ。キリンは回復系アミノ酸であるオルニチンやクエン酸、ビタミンB6を添加して「大人のキリンレモン」を作った。アサヒがシリーズ展開の一環で後発ながら、「大人の三ツ矢サイダー」という同質化を仕掛けることも考えられる。

 少々謎をはらむ商品であるが、この「グリーンコーラ」は、商品単体で考えるのではなく、“大人炭酸シリーズ”という展開全体で考えた方が良さそうだ。その意味からも、しばらくは目が離せない。

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2010.04.26

改装は快走?迷走?・マクドナルド新型店舗の狙いは何だ?

 これがマクドナルド?と目を疑うほどゆったりとしたオシャレな店内空間。クルーの制服もベレー帽をかぶっていて、今までとは全く違う。4月25日に都内12店舗でスタートしたマクドナルドの新型店舗だ。その狙いはいったい何だろうか?

 <マクドナルドの“新世代店舗”は一部メニューを値上げ デザインは5タイプで展開>(oriconグルメ4月25日)
 http://gourmet.oricon.co.jp/75675/full/

 ネット上の反応を見てみると、期待を込めた声の他に、あまりに従来店と異なる店舗デザインに「マクドナルドじゃないみたい!」「いったい何になりたいんだ?」といった驚きを隠せない意見も散見される。

 上記記事によると<フランス人デザイナーによる(店舗の)デザインは全部で5タイプ。今後は先行メニューの提供や独自性のある商品の展開するほか、価格の見直しを検討。(中略)一部メニューを10~50円程度値上げする>とのことだ。
 記者会見で日本マクドナルドの原田CEOは(新たな店舗戦略にともない年内に433店舗を閉店させるが)、「まだ課題を残している店舗も633ある。これら店舗も3年以内に入れ替えていく」と発表したという。

 次世代店舗の戦略意図の一端が、「取り扱いメニュー値上げ」の中でも「マックカフェメニュー」が対象外となっていることから伺える。「カフェ市場へのドメイン拡張」である。

 コーヒーをプレミアムローストに変更し、味を大幅に向上させ、100円(後に120円)とは思えないその味わいに、アンケートによるオリコンの「買いたいコーヒー」として、ホット・アイスとも1位に輝いた。さらにそのコーヒーを無料提供するキャンペーンを断続的に展開。来店客数増に貢献すると同時に、「マクドナルドのコーヒー」の認知度や試用率も大幅に向上した。
 さらに、新業態店舗として展開するも、なかなか勢いに乗れていなかった「マックカフェ」を、順次撤収し、カフェメニューにその名前だけを残してマクドナルド店舗本体に取り込んだのが昨年のことだ。一連の動きから、本格的にマクドナルドが「カフェ」にドメインを拡張したことが判る。

 マクドナルドの主たるドメインは「ハンバーガーレストラン」だ。しかし、同社は同業のハンバーガー店だけを競合と見ていない。ニンテンドーDSを使ったゲームや情報配信、子ども向けの遊戯施設、古くから続く玩具付きメニュー(ハッピーセット)など、「家族で楽しく食事ができる店」という拡張ドメインでも戦っているのである。競合となるのはファミリーレストランだ。
 しかし、その競合たるファミレスという業態自体が既に環境の変化について行けずに崩壊している。マクドナルドとして、次なる拡張ドメインをどこに設定しようかと模索していたのは間違いない。

 日本のカフェ市場の大きな転換点は1996年であるといっていい。スターバックス日本進出の年だ。ドトール、ベローチェといった「低価格カフェ」が展開する、カウンターや狭小な席をメインとした店舗で、客の高回転率によって1杯180円という低価格でコーヒーを提供する新機軸は活況を呈し、すっかり旧来の喫茶店を駆逐した。しかし、消費者はもっとゆったりくつろげる店内で、旧来の喫茶店より手ごろな価格でコーヒーを楽しみたいという潜在需要があった。そこにはまったのが、コーヒーの味はもちろん、オシャレな店内空間も重要な「価値」として提供する、自宅、職場(学校)という場所以外の「サードプレイス(第三の場所)」という概念を持ち込んだスターバックスなのだ。

 今日のカフェ市場を見ると、そのスターバックスの優位性は絶対ではなくなっている。後発のタリーズが同様な店舗コンセプトで展開し、スターバックス自身は出店数が多くなるにつれて、狭小な店舗も増え、ソファー席などは数えるほどになった。ドトールの上級ラインである「エクセルシオールカフェ」は大型のゆとりのある店内で顧客奪取を仕掛けている。
 さらに、日本市場特有の需要として、フードの充実が求められている。昨今、「お一人様需要」が高まっており、女性のお一人様ディナーではカフェの利用が顕著であるが、その点においては、ドトールグループが一歩優位にあるように思われる。

 カフェ市場の競合だけで考えると、若干の優劣はあるものの、概ね混戦の様相を呈している状況だ。しかし、「ゆとりのある店内」「フードの充実」という業界のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)を考えると、今回のマクドナルドの新世代店がピッタリそこに当てはまっていることが判る。しかも、既存のカフェ市場のプレイヤーに比べれば、圧倒的なコストリーダーであり、規模の経済によって、コストパフォーマンスのいい商品提供が可能なのである。クォーターパウンダーやBig Americaなどの高級路線バーガーが好評とはいえ、低価格路線とひたすらバランスをとり続けることが求められるハンバーガー業界から、客単価が高いカフェ市場に食指を伸ばしてドメイン拡張を図ったとしても不思議ではない。

 とはいえ、閉鎖・入れ替え候補の数百店を全部一気に新世代店に転換するのはリスクが大きすぎる。
 今回の展開は、まずはファストフードの聖地である渋谷を中心として一気に新世代店への転換を図って話題性を喚起・新世代店認知度を図りつつ、5タイプの店舗で反応を図る「実証実験」的な意味合いが強いのではないだろうか。以降、候補店舗のうち、客層と店舗規模などが適合したものを順次転換していくのだろう。

 昨今の日本マクドナルドは客数と客単価のバランス、メニューの日米オリジナルバランス、地域別の価格設定だけでなく、メニュー価格の頻繁な見直しなど、店舗数から考えれば信じられないほど精緻な調整を繰り返している。筆者にはまるで巨大戦艦の舵を「ミリ単位」で調節しているように見える。
 今回の新世代店への転換も、「信じられない!」と顧客が驚くほどの大胆さの裏側では、今後も緻密な調整が繰り返されていくに違いない。


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2010.04.23

「若者の焼きそば離れ」対応?エースコックが成功したワケ!

 エースコックのカップ焼きそば、「JANJANソースやきそば」が売れているという。カップ焼きそばの不動の3強といえば「日清焼きそばUFO」(日清食品)、「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」(明星食品)、「ペヤングソースやきそば」(まるか食品)であった。その一角に食い込み、切り崩すことに成功したのだ。その秘密は何だろうか。

 <若者にうけた? “縦型カップ焼きそば”売れ行き好調 ~販売個数TOP3に食い込む>(4月19日oriconグルメ)
 http://gourmet.oricon.co.jp/75478/full/
 日経POSデータによると、3月15日の発売週はトップの「焼きそばUFO」次ぐ販売個数。を記録。4月に入ってからも「 一平ちゃん夜店の焼そば」と競い合いTOP3に食い込む(同)という好調さだという。

 同商品はエースコックが2年の歳月を費やして開発した、「若者向けカップ焼きそば」であると、同社ホームページの開発ストーリーにあるが、そもそもの開発のきっかけは、「10~20代の食用率の低下」にあるという。

 商品の大きな2つの特徴は、「縦型容器」と「ソース練り込み麺」だ。
 まず、前者の容器については、カップ焼きそば市場30余年の歴史の中において、ほとんどの商品が角形、もしくは円形の平型容器を用いてきた。それに対して、若者の評価は「持ち運びが面倒」「容器が大きくて食べにくい」という不満を持っていた。例えば、従来の平たく大きな容器はデスクに置くとパソコンのキーボードを片付けなくてはならない。縦型にしたことで手軽に食べられ、何か作業などをしながらの「ながら食べ」にも対応できたという。
 味は食生活の変化から「濃い味を好む」若者の嗜好に対応した結果、従来のように味付けソースを添付するだけでなく、麺の中にソースを練り込んだのだという。

 「JANJANソースやきそば」は「10~20代の食用率の低下」に対応して、若者をターゲットに、「うける」商品を開発したということから、ちょっと考えると、よくある「若者の○○離れ」に歯止めをかけた成功例にも見える。
 「○○」は「車」「ビール」に始まりもはや枚挙にいとまがないくらいにメディアに取り上げられ、消費低迷の原因の一端のようにもいわれる。それに対してネットでは「まぁ~た始まった」という反論がなされる。今回も一部でそのような書き込みが散見される。
 しかし、「JANJANソースやきそば」の真の価値は全く異なるのだ。

 コンビニでカップ麺の棚の構成を思い出して欲しい。カップ焼きそばはどこに置かれているだろうか。多くの店で棚の下の方、最下段に置いてある。平たい形状のため、上から見下ろす方が視認性が高いためかもしれないが、腰をかがめて、手を伸ばそうという気持ちは起こしにくい。平たくて大きな容器の形状は食べるときにも、いかにも「焼きそば食べてます!」という風情を醸し出してしまって、女性には手を出しにくい。新規顧客を獲得しにくい状況にあるわけだ。
 試しに食べてみると、どうだろう。
 容量の主流は麺100gオーバーだ。最大サイズの「ペヤング ソースやきそば超大盛タイプ」に至っては237gである。それは、ボリューム感を求める顧客の要望を反映して、長い歴史の中で徐々に大型化していった経緯を反映している。食後に炭水化物で胃を満たしたとき独特の膨満感に苛まれることになる者も少なくない。具材はフリーズドライのキャベツ、鳥ひき肉、ごま、香辛料、紅しょうが、青のりなどが一般的だが、この青のりがクセ者で、食後の歯ブラシを欠かすと午後の職場で恥ずかしい思いをすることになる。つまり、慣れないものが食べると、少なからず後悔することが多くリピートしづらい商品なのだ。

 つまり、従来の商品はカップ焼きそばのユーザー層を固定化する形状であるわけだ。まるか食品の「ペヤング」という商品に代表されるように、カップ焼きそばは本来、「ヤング」がターゲットの商品であったのだ。それが、いつしか若者のニーズに合わなくなって、「若者が離れた」のではなく、「若者が手を出さなくなっていた」のである。

 「JANJANソースやきそば」の意義深いところは、ターゲット層とする若者の「ニーズギャップ」を徹底して解消したことだ。

 前述のPCを操作しながらの食用スタイルを実現したのもその一例。また、従来は容器の形状から、いかにも「焼きそば食べてます!」という風情を醸し出してしまっていたが、20代女性が「オフィスでも食べやすそう」というコメントをしている。商品容量は膨満感防止のために85gに抑え、しっかりとした味付けや具材に黒こしょうのスパイスを加え満足感を高めている。一方、歯に付くと敬遠されがちな青のりはあえて外しているう細かな工夫もこらしている。

 ユーザーが固定されていれば、加齢と共にボリュームや味についていけなくなった者が櫛の歯が欠けるようにぽろぽろとこぼれ落ちていく。それは、焼きそばだけではなく、高齢化社会においては多くの商材で同様な問題を引き起こす。それを埋める若者層の取り込みを、「若者のカップ焼きそば離れ」などという短絡思考でとらえ、真のニーズギャップを解決しなければ問題は解決しない。

 従来の常識を打ち破るチャレンジは<「トライアル、リピートともに順調」>(oricon)と同社がコメントするとおりの成功をおさめている。この事例から学ぶものは多いはずだ。

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2010.04.21

吉野家の実験的「模倣戦略」は、ありか・なしか?

 チーズ牛丼(並450円)、コーンマヨ牛丼(同430円)、辛みそネギたま牛丼。各種の具材がトッピングされた牛丼。しかし、それは「すき家」の話ではない。吉野家の新メニューだという。

 
<行けども行けども肉の山…サラリーマン“牛丼放浪記”>(4月17日・zakzak)
 http://tinyurl.com/yylysfs

 吉野家で4月13日からスタートした、肉の量を従来の大盛りの2倍にした「特大盛(とくだいもり)」・730円の試食レポートを中心とした上記記事で見逃せないのが、吉野家の実験店がある世田谷で展開されているという「トッピングメニュー」についてだ。

 トッピング牛丼はすき家の得意メニューである。業界最低価格の280円の牛丼に対し、各種トッピングがなされたメニューは380円~390円。いくら安くとも普通の牛丼ばかりでは飽きてしまうため、固定客が注文する。その価格差分がすき家の大きな収益源となっていると考えられる。
 対する吉野家は、「並」でも業界最高値の380円。しかし、それでも利益率は極めて低い。トッピングは手を出したいところだ。

 競合店と同様の商品を展開する戦略は、その企業の業界ポジションによって大きく意味合いが異なる。リーダー企業が下位の企業のヒット商品を模倣する場合、「同質化戦略」と呼ばれる。商品開発力と販売力に勝るリーダーが、ヒット商品と同等のものをすばやく開発し、市場に大量に投入して販売することで、先行する下位企業の商品を2位以下に追いやる戦略だ。有名な例では、スポーツ飲料の大塚製薬・ポカリスェットに同質化をかけた、日本コカ・コーラのアクエリアスがある。
 一方、下位の企業がリーダー企業の商品を模倣する場合、「フォロアーの模倣戦略」というものになる。リーダー企業の商品よりスペックを一段下げて低廉な価格を設定し、リーダー企業の商品にロイヤルティーを持っていない顧客や、価格感度の高い顧客を取り込む、いってみれば落ち穂拾い的戦略だ。

 では、吉野家の模倣的トッピングメニューは上記のどちらに当たるのか。
 商品開発に関しては、実際にメニューを展開していることから、それほど障壁が高くはない。しかし、吉野家には同質化をかけて、すき家のメニューを席巻してポジションを逆転するだけの販売力はない。
 だとすると、フォロアーに徹した模倣戦略かというと、それも成立していない。戦略が成立する条件はスペックダウンによって低廉な価格を設定してリーダーのおこぼれを取り込むことだ。リーダー企業であるすき家の価格の方が安ければ、顧客は流入してこない。

 吉野家における現在の再々の悩みは、「客数の減少」である。
 価格差によって、すき家、松屋へ「の顧客流出に歯止めがかかっていないのだ。では、トッピングメニューはどのような効果かあるかといえば、前述の通り、新規顧客の取り込みは難しい。自社顧客がメニューの幅の狭さに飽きて、他社に流出することを食い止める効果はあるかもしれないが、あくまで守りであって、攻めの戦略にはなり得ていないのだ。

 もう一つ、記事中に気になる記載がある。中心的な話題の特大盛りについてである。
 <牛丼の特大サイズは、実はゼンショーの「すき家」が先行していた。2007年10月から「メガ」サイズ(610円)を販売しているのだ。比較のため、都内のすき家へ>と、特大盛りの発表時に多くの人が「すき家のメガと何が違うんだ?」と思ったことを検証している。結果は<特大盛と量はだいたい同じだが、かなり汁だくなのが特徴>とある。
 ご飯対肉の比率が違って、吉野家の方が「肉がたくさん」という印象を筆者は持ったが、記事にあるように、それほど大きな差異があるとも思わなかった。その割には価格差が120円と大きい。やはりこれも、話の種に一度食べにくる人を多少取り込めても、大きな新規客獲得要因にはなっていないと言わざるを得ない。

 トッピングメニューにしても、特大盛りにしても、結局は通常の牛丼に具材をのせたり、肉の単純増量をしたりしているだけなので、商品的な差異は出しにくいのだ。そして、フォロアーに徹しようにも、材料の米国産牛肉へのこだわりから原価がどうしても高く、低廉な価格展開ができない。これでは、今までと全く構造が変わっていない。

 チャレンジャーとしてリーダーへの返り咲きは困難で、フォロアーにもなれないとすれば、独自の生存領域を確保した「ニッチャー」になるしかない。その点は、筆者が「プレミアム牛丼でニッチャーとなるべし」と以前に指摘した。
(過去記事参照:緊急提言:「牛丼戦争は停戦を、吉野家はプレミアム化せよ!」 http://tinyurl.com/y6gtng4 )

 ニッチャーの好例は、関東近辺で牛丼チェーンを展開している「神戸らんぷ亭」だ。同社はオリジナルメニューの「塩牛丼」を開発・販売している。すき家のトッピングも基本は醤油だれベースの通常の牛丼へ単純に具材を乗せたに過ぎない。塩牛丼はタレから全く別のものを用いている。
 吉野家に塩牛丼を模倣しろといっているのではない。神戸らんぷ亭は、塩牛丼のために通常の牛丼と別鍋でオペレーションをしているのと同様、メガ牛丼とあまり差異のない、単純な肉増量ではない「プレミアム牛丼」を別鍋で用意するオペレーションの展開を示唆したいのである。
 当然、オペレーション効率の低下は否めないだろう。しかし、規模を追わず、ニッチャーとしてポジションを確保する戦略を練り直す方が生き残りの可能性は高まるはずだ。
現状のような「単純トッピング」「単純増量」で価格優位性もない状態では、生き残りは難しいだろう。


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2010.04.20

「低価格で高品質」だけではない?・ちふれ化粧品成長のヒミツ

 ちふれ化粧品の成長が著しい。「2003年度の売上高は78億円でしたが、08年度は約1.5倍の120億円、09年度は130億円規模まで伸びそうです」と社長の松本氏がインタビューに応えている。

 <【トップ直撃】時代が必要とするものを作り続けていく 松井弘之氏>(フジサンケイZakZak:4月19日)
 http://tinyurl.com/y37urz9 

 「化粧品が高いのは、化粧品会社が努力していないからだと思います」代表取締役社長・松井弘之がひとこと言い放つ、「ちふれ化粧品」のCM。「その企業が努力しているかどうかは、価格に出ると思います」とも別バージョンでいう。CMで紹介されている同社の美白化粧水は1,155円だ。
 「SAVE WOMAN」キャンペーンで、女優・「りょう」をCMのタレントとして起用しコンセプトを伝える。さらに全国47都道府県のリアルなユーザーの生の声でCMを続々と作り続けている。

 同社の前身は低価格高品質の「100円化粧品」にチャレンジしていた企業であった。1962年のことである。67年に広告を一切掲載しない中立的な製品テストを行うことで有名な雑誌「暮しの手帖」に、大手メーカーの高額商品との比較記事を掲載。品質に大差がない結果出たことをきっかけに、日本最大の婦人団体「全国地域婦人団体連絡協議会」との組織的な販売斡旋を前提とした提携が決まり、同会の名称にちなんだ「ちふれ化粧品」としてスタートした。
 その際、製品の全成分の構成内容や比率を表示し、品質の透明性を保つことと、低価格販売のために広告宣伝費を極力抑制することを大方針としたという。(Wikipedia参照)

 同社設立の経緯からすれば、2003年のCM解禁は大きな方針転換であったことは間違いない。しかし、それは「やらねばならなかった改革」であったようだ。
 前掲(Zakzak)のインタビューで<「8年前、弊社の商品のイメージについて調査をしたことが大きな転機になりました。調査で分かった商品イメージは、『知っているけど使いたくない』『安かろう悪かろうの商品なのでは』とかなりネガティブな内容ばかりで…」>とそのきっかけが明かされている。
 イメージ改善はCMだけに止まらない。さらに、新たなイメージを浸透させるチャンスにおいて、ブランドのロゴを『ちふれ化粧品』から『CHIFURE』に変更したという。

 化粧品の口コミサイトを見ると、「低価格高品質」である点を評価する書き込みがほとんどだ。イメージ改革戦略が確かに成功をおさめ、同社の成長の原動力となっていることがわかる。

 同社は顧客支持を集める「低価格高品質」をどのように実現しているのか。広告宣伝費は上昇しているはずだ。それをどこで吸収しているのか。
 6年間で1.7倍に成長していることから考えれば、規模の経済と経験効果が働いているであろうことが推定できる。工場設備、研究開発、広告宣伝などの固定費は生産・販売数量が多くなれば、単価当たりの比率は低下する。工場や販売に関わる人件費は生産・販売数が多くなれば効率化され、経験効果としてコスト低減をもたらす。他にも原材料の調達や、配送コストなどもいずれも規模化することで高効率になる。
 バリューチェーンで考えれば、キーワードは「規模化」ということになるが、その実現がどれだけすごいことか、もう一歩踏み込んで考えてみればよくわかる。

 日本市場は少子高齢化が顕著だ。数年前から始まった、男性人口の減少に続いて、今年、女性人口も減少に転じたとニュースで報じられた。市場のパイが縮小するということは、当然のことながら、競合との顧客の取り合いになることを意味している。その市場環境においては、いかに市場と顧客の動向、ニーズに敏感に対応できるかが生死を分かつのだ。

 同社が方針転換をした2003年とはどのような時代であったのか。
 1991年のバブル公開以降、93年から2003年までは、いわゆる「失われた10年」と呼ばれる時代だ。景気が循環し、2002年2月から2007年10月までの69ヵ月は過去最大の景気拡大期間にあったが、実質GDP成長率は過去の好景気に比べ低調で「実感なき好景気」といわれていた。
 消費者はどう変化したのか。消費スタイルが「賢い消費」「堅実な消費」に向かったのだ。同社にとってはまさにフォローの風が吹いている時代だといっていい。

 顧客層の人口動態の変化も重要だ。
 40代半ばの筆者と同世代、もしくはもう少し上のもっともバブルを謳歌した世代の女性に聞くと、確かに同社の印象は「安い化粧品」とひとことで語られる。「学生時代にお金のなかった頃に使った。」「オトナの女の使う化粧品ではない。」などなど。
 高額なものが尊ばれ、価格の安さはともすれば購買を忌避する要因にもなった時代ならではの意見だ。しかし、その世代は年齢が上がり、もはや興味の対象は「アンチエイジング化粧品」に移行している。「うるさい世代」がターゲット年齢からいなくなったからこそ、本来の「低価格高品質」を訴求する最大のチャンスであったのは間違いない。

 市場環境・顧客の変化を捉え、従来自ら「禁じ手」としてきた方針を一気に転換して規模化を図る。その、舵を切ってアクセルを一気に踏み込む決断を下すのは、言うは易く行うは難しである。
 「化粧品が高いのは、化粧品会社が努力していないからだと思います」「その企業が努力しているかどうかは、価格に出ると思います」「努力」という言葉が繰り返し語られているが、その「努力」が実を結ぶのは、適切な経営判断に基づいて「低価格高品質化粧品市場」という独自のドメイン・戦いの土俵を築くことができたからである。
うち手をいくつもダラダラと積み重ねるのではなく、「決断」するタイミングで一気呵成に市場に攻め込むことの重要性を「ちふれ化粧品」の成功から学びたい。

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2010.04.19

思考実験:クラシエフーズの「ソーダの素」をどう売るか?

 ドラッグストアで面白い商品を見つけた。その商品が売れるか否か。売れそうにないのであれば、どうすれば売れるのかを思考実験として考えてみた。

 その商品はクラシエフーズの『メロンソーダの素』 『オレンヂソーダの素』。ひと言で言えば、いわゆる「粉末ソーダ」である。同社のニュースリリースを探してみると、2月25日に発表があり、<昭和30年代から40年代にかけて一世を風靡した粉末飲料「渡辺ジュースの素※」。クラシエフーズは当時の時代をしのばせるレトロなパッケージデザインと味わいで再現しました>とある。3月1日より発売されていたようだ。
 注意書きのある「渡辺ジュースの素」をWikipediaで調べてみると、1958年(昭和33年)に1袋5円、無果汁の「渡辺のジュースの素」の発売を開始し、テレビCFには榎本健一を起用するなど、粉末ジュースで一世を風靡したようだ。しかし、1969年(昭和44年)に日本国内で人工甘味料「チクロ」の使用が禁止されたことが経営に大きな影響を与え、その後1972年(昭和47年)、カネボウハリス株式会社(現クラシエフーズ)に吸収合併され今日に至っている。

 要するに、この商品は同社のリリースにもあるように、その商品の存在自体に昭和30年~40年代の歴史が凝縮された、なつかし製品なのだ。その懐かしさを更に高めるべく、商品パッケージの裏面には「昭和33年、東京タワー完成」や「昭和44年、アポロ11号月面着陸」などの昭和の出来事がイラストと共に記されている。

 さて、この商品が「売れるか?」と聞かれると、正直、このままでは難しいように思う。
 昭和40年生まれの筆者でも、「渡辺ジュースの素」はギリギリ記憶の圏内にあるかないかで、ターゲットのど真ん中ではないように思う。では、50代の人々がこの商品を回続けるかといえば、「なつかし商品」として手を1回は出しても継続購入は難しいだろう。同社のリリースによると、<家族で、また、子供や孫との団欒におすすめです>とあるが、やはりそれでは、「話のネタ」としての単発需要しか取り込めそうにない。

 では、一発屋のネタ商品ではなく「売れ続ける商品」となることはできるのだろうか。

 思考実験なので、マーケティングマネジメントに流れに従って、一つ一つ検証してみよう。
 まず、外部環境だ。長引く景気の低迷は飲料業界を直撃している。特に小型PETボトル飲料では、自分で淹れられる茶系、浄水器で代替できるミネラルウォーターのへこみが激しい。「水筒男子」やら、その中に浄水した水道水を入れる「水道男子」やらのネーミングまで登場している。一方、微増ではあるが伸長しているのが炭酸飲料だ。なぜなら、自分で作ることができないから。
 そのことから考えると、「粉末ソーダ」は、「浄水水道水派」が「たまには水だけじゃなくて、何かおいしいものが飲みたいなぁ」と思った時に用いる「自分で作れる炭酸飲料」としてのポジションを獲得できるのではないだろうか。それが、ターゲティングとポジショニングだ。

 節約のための水道水なので、何より「価格(Price)」が重要だ。同商品の価格は3袋入りで126円(税込み)。1回42円なら、割安感はある。が、実は1袋を120mlの水で溶くことを推奨されているので、350mlPETボトルに換算すると、同等の価格になってしまう。500mlPETだと、「飲みきれない」という人も多いことから、炭酸飲料としては1回350mlぐらいが適量かもしれない。だとすると、「商品(Product)」としては、1袋の容量をもっと増量することが価格とのバランスで求められる。

 そのほか、商品的には合成着色料、保存料不使用とあって非常によいことなのだが、カロリーを見ると1袋当たり59kcalある。上記のように容量3倍にするなら、単純に177kcalだ。これはちょっと躊躇する。炭酸飲料人気の秘密はゼロカロリーや低カロリーであることにもあるのだ。甘味料には砂糖が使われているとのことだが、昨今では無害で味がよく、低カロリーな甘味料もある。例えば、ステビアなどを用いて低カロリー化を図ることが求められる。

 「販売チャネル(Place)」はどうだろうか。同商品は現在、ドラッグストアやスーパーで販売されている。ここまで、容量3倍増や、甘味料の変更など、かなりの変更を考えてきたが、それらは全て自社内の努力でできることで実現可能性がないわけではない。しかし、例えば、チャネルをコンビニに拡大するというようなことが、実は一番難しい。なぜなら、チャネルは自社ではなく他社であり、コントロールしきれないからだ。
 クラシエフーズはコンビニチャネルに昨年もチャレンジした経緯がある。同じく粉末飲料の「香り発散スポーツウォーター・アロマアクティブ」という商品だ。バラ由来の香り成分を配合した男性向けのガム、「オトコ、香る。」の技術を応用し、ランニングブームで増加している女性ランナーをターゲットにした商品だ。狙いは良かったものの、実はあまり「香らなかった」という話もあってか、あえなく店頭から撤退した。
 そもそも、クラシエフーズが「粉末」で展開しているのは、店頭の「飲料棚」が確保できないからに他ならない。飲料メーカーでない同社が、そこに」入り込むのは極めて困難なのだ。過去の飲料の歴史を振り返れば、ハウス食品株が1983年に「六甲のおいしい水」を発売した際に大変な苦労をしている。ハウスは飲料メーカーではなく、食品メーカーだ。それ故、棚を確保することが困難で、主力商品のカレー売り場の横で「カレーと一緒に」とアピールしたり、ご飯を炊くための水として米売り場の横に置いたりと、徹底したクロスマーチャンダイジング策で普及を図ったのである。
 クラシエフーズの食品でもっとも知名度の高い商品は「フリスク」だろう。同商品はコンビニの商品棚の島の中でも注目度の高い「エンド」といわれる部分に置かれていることが多い。そこで、多少強引だが「清涼嗜好品」という括りで、複合什器を開発して、一緒に置いてもらえるような営業をかけてはどうだろうか。
 
 「プロモーション」はコストをかけられる大型商品ではないため、マス広告を大々的にうつことはあり得ない。まず、買わせる。継続的に買わせるということを考えるなら、やはりベタだが、プレミアムの設定だ。購入したら、オンパックシールのピンナンバー(商品貼り付けのシールにあるID番号)で、ネットで抽選できる。外れてもIDが蓄積されて数回ごとにダブルチャンスの抽選に参加できるなどの仕掛けが考えられる。

 ここまでのプランを見直すと、かなりの大手術で、元の商品、マーケティングプランが原形をとどめていないようにも思える。が、これは「思考実験」なのだ。
 「おくりびと」の脚本で有名な小山薫堂氏が著著の「考えないヒント」(幻冬舎新書)の中で次のように記している。<日々目に入るあらゆるものに勝手にテコ入れする。レストランでメニューを見たとき自分だったらこんなメニューは出さないのに、とかこんな書き方はしないのに、とか考える。その店にぴったりのメニューを考えてお客さんへの紹介の仕方や雑誌への売り込みの仕方まで考える>。

 「勝手にテコ入れ」の思考トレーニングとしては、マーケティングのフレームワークは最適だ。是非お試しいただきたい。
 

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2010.04.15

ブレてない!「世界のキッチンから」はポジショニングを貫く!

 「世界の母さんがつくる料理からインスピレーションをうけたレシピ」をコンセプトに、オリジナリティーあふれる飲料を期間限定で市場に投入し続けている「世界のキッチンから」。シリーズの中でも「とろとろ桃のフルーニュ」などは、何度も改良・再発売を繰り返し、もはや定番化している。
 そんな、「世界のキッチンから」に期待の新商品が加わった。4月13日発売の「世界のKitchenから ソルティ・ライム」だ。「メキシコのお母さんが塩とライムを料理に使用する知恵から作った」というのが今回のストーリーであるという。キリンビバレッジの商品概要ページにも<太陽の国メキシコのお母さんから学んだ、塩とライムの組み合わせ。まろやかで深い味わいの岩塩に、ライム果汁を加え、天然水ですっきりと割りました。汗ばむ季節に、体がよろこぶ爽やかなおいしさです>とある。

 パッケージには「乾いた体に」「岩塩をひとつまみ」とある。これから暑くなる季節に汗と一緒に失われる水分・塩分を補給するというのが今回のコンセプト。そこに「塩とライムの酸味は相性がいい!」ということで、「世界のキッチンらしさ」として「岩塩×ライム×天然水」という構図になったのだ。

 だがしかし、ちょっと待った。
 「乾いた体に」「汗と一緒に失われる水分・塩分を補給する」って、飲料のカテゴリーの中では「スポーツ飲料」ではないか?
 確かにこれまでも、同じ「世界のキッチンから」ブランドで、コーヒー系あり、乳酸飲料系や果実系ありと、既存のカテゴリーにとらわれない展開をしてきたので不自然ではないのだが、「なぜ、今、この時期に?」という疑問符は灯る。

 現在の飲料市場のトレンドは、強固な支持層を抱える缶コーヒー飲料にあまり大きな動きはないが、不景気の影響で自分で淹れられる茶系飲料や、浄水器で済むミネラルウォーターがへこんでいる。代わりに自分で作れない炭酸飲料が伸長している。さらに、昨今の炭酸飲料は「ゼロカロリー」という属性を手に入れたため、消費者の飲料でのカロリー摂取忌避の傾向が強まった。あおりを食ったのが、スポーツ飲料だ。
 スポーツ飲料は、スポーツ時などに身体から失われている水分を高効率で吸収させることに主眼を置いている。浸透圧を上げるために電解質(イオン)を加えているためカロリーもそれなりに増す。機能には優れるが、そのカロリーと甘みのある味が昨今の消費者にはウケていないのだ。

 「世界Kitchenから ソルティ・ライム」の味わいは、塩というよりは、薄い甘みの中から酸味が感じられる、スポーツ飲料的雰囲気なのだ。「乾いた体に」には確かに効きそうだ。だが、カロリーは100ml当たり30kcal。今回は「世界のキッチンから」お得意のスリムボトルではないので容量は500ml。1本で150kcalと、スポーツ飲料の代名詞・大塚製薬「ポカリスェット」の135kcalを1割上回る。

 では、今回の「世界のKitchenから ソルティ・ライム」は飲料のトレンドからはずれていて売れないのかといえば、全くそんなことはないだろう。

 スポーツ飲料のユーザーはスポーツ中やその後に飲用しているわけではない。むしろ、全体の8割近くがスポーツ時以外に飲んでいるのがわかったというのが、サントリー「DAKARA」の開発秘話として有名だ。(イノベーションの本質:野中 郁次郎・ 勝見 明 (著)日経BP社)
 さらに、もともと、「世界のキッチンから」のユーザーは「カロリーよりも味!」という嗜好を持っている。「とろとろ桃のフルーニュ」などは、何と、100mlあたり54kcalもあるのだ。コカ・コーラクラッシックでさえ45kcalなのに!
 つまり、「世界のKitchenから ソルティ・ライム」は、夏の暑い日にスポーツするわけでなく汗をかいた時に、さわやかにライムの酸味の味わいの中、水分・塩分をおいしく補給しようという人のためのものなのだ。まさに「岩塩×ライム×天然水」。

 飲料業界のトレンドなどどこ吹く風で、我が道を行く「世界のキッチンから」。それは、自ら築き上げてきた強固なファン層を抱えているからこそできることだ。しかし、逆にいえば、トレンドを気にしてカロリー低減のために独特の味わいを少しでも犠牲にしたら、顧客離れを引き起こす。故に、ブレないポジショニングを展開しているのである。

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2010.04.14

「10分1,000円」をどう活かすか?:理美容業界の未来を考える

 日経MJ・2010年4月11日3面コラム「底流を読む」に「成熟市場の生き抜き方・運営の工夫で成長軌道に」と題してカラオケ店「ヴァリック」と、理容室「キュービーネット」の事例が紹介されていた。キュービーネットは1,000円理容室「QBハウス」を展開している。

 記事には以下のような記載があった。
 <理美容の業界には「10分1000円の法則」がある。10分あたりの料金設定の目安であり、このラインを下回ればそれだけ価格競争が激しいことになる>

 つまり、QBハウスは記事にあるとおり<割安感を前面に出してはいるが、料金設定はこの法則に則っている>のである。<旧来の理容店がカットやシャンプー、ひげそり、それに軽妙な会話までをパッケージで売っていたものを、QBハウスはカットだけ売ることにした。施術時間を短くし、見た目の料金を安くした。無理して経費を絞り込んだわけではない>という。まさしくこれぞ、成熟市場、かつ、低成長経済下における「引き算の勝利の法則」であるといえる。

 記事にはないが、その意味からすると、QBハウスは「既存業界を圧迫する価格破壊者」のように指弾されているが、全くの言いがかりもいいところであるわけだ。その点は、コミュニケーション研究所の竹林篤実氏が同社発行のメルマガで解説している。
 <4月12日の数字:時間単価10分1000円の勝負/理美容業界の法則>
 http://tinyurl.com/y2t9r38
 <(QBハウスが)条例改正によって事業存続の危機に追い込まれているのだ。要するに1000円散髪には洗髪台がないから不潔である、よって洗髪台の設置を条例によって義務づけよ、という流れが各地で起こっている。ユーザー無視、何とも理不尽ないちゃもんだと思う>との指摘は正にその通りだ。

 むしろ、無謀な戦いを挑んでいるのは既存業者のように思える。
 筆者の事務所の近所でのこと。ある個人経営の理容店がある日、店の前に立て看板を出した。
 「当店なら、シャンプー付きで1,000円」。
 1ブロック先にあるQBハウスへの対抗策だが、シャンプーまでして10分は無理だ。客が全く取れないよりはいいだろうと覚悟を決めての「値下げ」であろう。
 しばらくすると、看板には新メニューが加わった。「総合整髪コース1,500円」。つまり、ひげそりからセットまでの、従来のフルパッケージで4,000円程度で提供していたものを半額以下に値引きしたことになる。確かに自宅兼用の店舗で家賃不要なら何とかやっていけるだろうが、売り上げは激減のはずだ。値下げのデフレスパイラルに自ら飛び込んだ形になる。何とか、もっとうまい方法はなかったのか。

 毛がなければ商売にならない業界で「不毛な争い」はやめて、その「10分1,000円の法則」をもっと有効活用してみてはどうかと思う。
 美容業界の方に伺ったところ、美容業界は「1分100円の法則」だという。要するに同じだ。そこで、気になる記事を見かけた。

 <前髪だけカットするために、美容院に行く?>(2010年4月13日 Excite Bit コネタ)
 http://www.excite.co.jp/News/bit/E1271064714855.html

 <おでこむき出しのボブヘア>であるという、ライターの田辺香氏が、<わざわざ美容院まで前髪だけを切りにいくという知人の話を聞いて、まさか! と驚いた>とある。
 その知人の美容室は<前髪のみのカット料金は525円。通常のカットが約4000円なので、妥当な価格かも>としている。1分100円なら、前髪カットは5分。フルサービスは40分で4,000円なのだろう。筆者の行きつけのサロンは前髪カットは1,050円らしい。フルサービスのカット料金は7,350円。10分と70分。まぁ、そんな感じだ。だとすれば、「法則」は正しいことになる。

 しかし、上記の記事では田辺氏行きつけの美容室の談では<「前髪だけを切りにくる人は、たしかに定期的にいますね」という。ただし、10年前くらいから、その割合は減ってきているそうで、近年では「月に一人いるか、いないか」だとか>という状況らしい。

 それって、恐ろしくもったいないことに感じてしまう。
 なぜなら、昨今人気の「森ガール」の髪型は「前髪パッツン」なのだ。しかも、ただのパッツンではダメなのだ。カット名人である筆者の担当美容師に聞くと、パッツンしながらも微妙にすいて、さらに両端は徐々に長く調節するそうだ。
 表現が至らないので別の美容室の作品だがサンプルをリンクする。こんな感じだ。
 http://h-cata.com/archives/50319900.html

 はっきり言って素人の手に負えるものではない。
 しかし、無謀にもみんな自分で何とかしようとするのだ。「前髪カット」でインターネットを検索すると、その方法を示すページや体験談が多数ヒットする。そして、失敗談も…。

 売り上げ=客数×客単価である。そして、客数には来店頻度も欠かせない。
 美容業界では、やはり不景気の影響で顧客の来店頻度が低下しているという。恐らく、理容業界もそうだろう。
 自分でパッツンして失敗して泣く。そんな顧客の不幸と、店を開けても手が美容師の空いている時間が長いというような店の不幸。それを解消するために、10分間1,000円の前髪やちょっとしたメンテナンスをもっと提供すべきではないだろうか。顧客との接触頻度が上がればそれだけビジネスチャンスも多くなる。シャンプー、トリートメントなどの商品のオススメをするもよし、ネイルやメイクなどのサービスを提供するもよし。顧客のその時々の状況や要望に応えるのだ。
 理容業界もそうだ。既存業界も10分1,000円で、メニューを細かく選べるようにして、顧客の要望に応えればいい。また、「今日はこれからデートなので、ひげ剃りを」とか、「汗をたくさんかいたからシャンプーして」などの要望にも応えられよう。

 ともすると原理原則を忘れて無謀な展開をしたり、もうけのチャンスを見失ったりしてしまう。10分1,000円や1分100円をもっと活用すればいい。
 しかし、理美容業界だけでなく、他の業界も「原理原則」を忘れたデフレ競争に走っているかも知れないのだ。他山の石としたいところである。

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2010.04.13

売れすぎアイス「ザクリッチ」の「桃ラー」との相似形

 売れすぎて生産が追いつかず、発売後わずか2週間で一時販売休止という未曾有の事態が発生したロッテのアイス「ザクリッチ」。その流行のワケを考えると、食の新しいトレンドがチラリと見えてくる。

 「ザクリッチ」は薄型三角形コーンの内側をパフ入りチョコレートでコーティングした、どこを食べても「ザクザク食感」が楽しめる「コーンアイスの常識を覆す次世代コーンアイス」だという。CMはタレントのアッキーナこと、南明奈が「ザクリッチ」をかたどった着ぐるみを着用。ザクザクとかじられるたびに肌が露出していく、ちょっとセクシーな表現である。

 ははぁ、アッキーナの色香に迷った男どもがつられて買って大人気なのか?…と思って、Blogを調べてみる。www.goo.ne.jpの「ブログ検索」で、約1,000件がヒットして、「売り切れ」「販売休止」などの話題が目に付く。ザクリッチの話題を取り上げているBlogは73%が女性のようだ。さらに詳細な「評判検索」を見ると、20代女性が約40%、10代女性が28%、20代男性が約10%だ。話題としては83%がポジティブな書き込みをしており、<ザクザク 美味しかった 良い 美味しい~ 美味しい 捨てがたい 嬉しい サクサク感 オススメ おいしいよ>といったキーワードが抽出される。書き込みを詳細に見ると、CMに対して「アッキーナが芸人みたい」とユーモラスさに注目が集まる一方、「ザクザクおいしそう」とアッキーナ関係なしに商品に注目が集まっていることもわかる。

 「次世代コーンアイス」という商品コンセプトの要は、商品名にもなっている「ザクザク食感」だが、正にそれが消費者のツボにはまってCMで一気に火が付いたという構図だ。
 しかし、消費者は、なぜにそんなにツボにはまったのだろうか。

 ものごとには「反動」や「反作用」というものがある。恐らく、流行においてもそうだ。
 ここ数年、食のキーワード、特に食感に関しては「とろける」「とろとろ」が顕著だった。ジュースにアイス、ケーキに豆腐、コロッケやカレーに至るまで、片っ端からとろけている。そのトレンドは筆者も以前、Blogにてレポートしたとおりだ。
 <「とろける」食感大流行のナゾにせまる?!> http://tinyurl.com/y7ru9w5
 確かに「とろとろ」は咀嚼能力の低下した現代人のニーズにマッチしているし、陰鬱な世の中において癒しを与えてもくれる。しかし、そろそろ刺激が欲しくなってくる頃ではないか。そんな環境下での「ザクザク人気」なのではないだろうか。

 Blogの書き込みにもう少し注目してみよう。
 書き込みのキーワードから「兆し」をつかむ、その名もkizasi.jpを見ると、発売開始後から急速に「ザクリッチ」のキーワードが頻出し、販売休止で一気にピークを迎えていることがわかる。新しいエントリーでは「買えなかった」などのキーワードが目立つが、販売休止前は「ざくざく」といった食感が並んでいる。

 ここで一つ注目なのが、kizasi.jpが書き込まれた語句の成分が類似していると自動分析している話題に「桃屋」が挙げられていることだ。言わずと知れた「桃ラー」こと、「桃屋の辛そうで辛くない少し辛いラー油」だ。売れすぎて生産が追いつかず、現在も品薄で店頭で欠品が相次いでいる。
似ている語句の成分は主に「売り切れ」などであるが、書き込みの中に「サクサク」といった食感を指摘するものが散見される。手に入らないという書き込みが多く希釈されてしまうが、食感も類似成分であることは間違いないだろう。
 「桃ラー」は、従来のただ油っぽいだけのラー油の概念を覆す、石垣島ラー油の流れをくむ「食べるラー油」である。味の決め手はフライドオニオン・ガーリックであり、サクサクとした食感である。ヱスビー食品が追随し、通称「エスラー」と呼ばれ、これまた欠品が相次いでいるが、そちらはさらにアーモンドを加えて食感を増している。

 「とろとろ」の反動である「さくさく」や「ザクザク」の食感が求められ始めた。それに答えるが如く、ツボにはまる商品がCMで一気に認知が広がり、大ヒット・品切れとなる。さらに注目が集まる。ザクリッチも桃ラーも同じ構図だ。CMもしっかりと食感訴求をしている。「ザクリッチ」ではアッキーナの着ぐるみが食べられる「ザクザク」の効果音がしつこいぐらいに。桃ラーはロックバンド「怒髪天」の増子直純が「ザクサクやたらと!うまっ!!」と叫んでいる。

 アイスとラー油という一見何のつながりもない食品が、売れすぎで欠品。その人気の秘密が食感であると、奇妙な相似形を見せているが、これは一つの小さなトレンドだと思う。
 次にはどんな「ザクザク食感」が登場するか楽しみだ。

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2010.04.12

マジックナンバー10%!アサヒ飲料「六甲のおいしい水」買収

 4月8日、アサヒ飲料がハウス食品の「六甲のおいしい水」事業を買収したと発表があった。その戦略的意図を考察してみよう。

 <アサヒ飲料株式会社による、ハウス食品株式会社のミネラルウォーター事業取得に関するお知らせ>(ニュースリリース)
 http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0408.html

 アサヒ飲料は4月6~7日に日経新聞カラー全面で、川原亜矢子をキャラクターに「ミネラルウォーターなのに、なんでミネラルの種類で選ばないんだろう」と、「富士山のバナジウム天然水」の広告を展開。テレビでも「毎日飲む水だから、私ならミネラルで選ぶ」とCMを投下して、商品リニューアルと共にブランドを強化している矢先である。

 そのそも、国内のミネラルウォーター市場はどうなっているかといえば、「微増」だという。同ニュースリリースで<清涼飲料市場内の構成比で約10%><輸入ミネラルウォーターの大幅な落ち込みにより前年に対し4%~5% 程度縮小したとみられるものの、国産ミネラルウォーターに限れば、前年並みから微増程度で推移しており、今後も拡大が期待される市場>であるという。
 では、その中でのシェアを見てみよう。富士グローバルネットワークが発表している2010年03月22日~2010年03月28日の小型PET容器ミネラルウォーターのコンビニPOSデータだ。
 つぶせる軽量PET容器が若年層に人気で大ヒットした、日本コカ・コーラの「いろはす」がトップの26.8%。飲料業界第2位のサントリーの「天然水(南アルプス)」18.4%。ダノン・キリンビバレッジの「ボルヴィック」が11.1%という状態だ。
 ニュースリリースによると、2009年の「六甲のおいしい水」の市場シェアは7%。一方、「富士山のバナジウム天然水」は3%であったという。合計10%。この数字が実に意義深いのだ。上記POSデータは小型容器のみなので単純には比較できないが、あえて乱暴にいえば、国内シェア第3位を狙えるポジションになる。しかも、トップシェアが26.8%という群雄割拠の様相である。

 ランチェスター戦略における「クープマンの目標値」で考えれば、「いろはす」のシェアにほぼ近い、26.1%が「市場影響シェア」という状態である。市場に影響をもたらす、一歩抜け出した状態を示すシェアであるが、2位以下であれば、トップを狙えるポジションであると同時に、トップなら逆転される可能性がある状態を示すのだ。
 一方、今回アサヒ飲料は目指した10%という数字は、10.9%という「市場認知シェア」に近い。生活者が自ら思い出せる(純粋想起)ギリギリのシェアであると同時に、競合から存在を意識されるボーダーラインだ。元々の六甲のおいしい水の7%はというと、6.8%の「市場存在シェア」、生活者が人からヒントを出されて思い出せる(助成想起)レベルのシェアであり、市場において、かろうじて存在が許されるレベルだ。「富士山のバナジウム天然水」の3%はそれにも満たない状態であった。
 事業買収によって、アサヒ飲料は2位以下でもトップを狙えるミネラルウォーター市場において、市場から認知され、存在が忘れられないというチャレンジャーのパスポートを手にすることができたのだ。

 少し話を拡大して考えてみよう。アサヒ飲料がそもそも、このタイミングで事業買収を使用とした意味だ。
 恐らく同社は、様々な市場の動向を、10%というシェアをマジックナンバーとして見ているのではないだろうか。事業そのものがシュリンクしていく市場であれば、投資には値しない。事実、同社自身がリリースで述べているように、国内のミネラルウォーター市場は<輸入ミネラルウォーターの大幅な落ち込みにより前年に対し4%~5% 程度縮小>している。節約志向を高める消費者は、マイボトルがすっかり定着し、水道水をポット型浄水器で浄水して飲む水道派も増加しているという。しかし、そのマイナスを国内産が補って<清涼飲料市場内の構成比で約10%>を保っている。にわかに市場自体が消滅することのない、消費者から「市場認知シェア」を与えられていると判断してのことだろう。

 もう一つ、アサヒ飲料が10%へのこだわりをもって、経営の舵を切った例がある。今を去る3年前、2007年のこと。「カルピスとの自動販売機事業の統合」である。日本には自動販売機が約200万台強が存在し、その中でもコカ・コーラが98万台を保有する圧倒的なリーダー企業となっている。その中で、当時、事業統合によってアサヒ飲料はグループで自動販売機22万台を保有する、約10%のシェアで第4位となることができたのだ。

 通常、業界内のポジションが下位、低シェアのプレイヤー同士の合併や統合は「弱者連合」などと揶揄され、効果が低いといわれることが多い。しかし、同社のように、その数字の意味するところを見据えて、戦略的な提携・統合を繰り返してチャレンジャーのポジションを確保することは極めて有効であるといえる。
 日本という市場全体は、もはや縮小が否めない。市場の片隅でフォロアーとしてそっと存在することは不可能であり、何とか規模を確保してチャレンジャーとなるか、独自のファン層を集めて生存領域を確保するニッチャーになるしかないのだ。

 アサヒ飲料のミネラルウォーター事業は、今後、「富士山のバナジウム天然水」と「六甲のおいしい水」という両ブランドをどのようにポートフォリオ上で調整していくかという舵取りが求められる。ニュースリリースによると、前者を「高付加価値型ミネラルウォーター」、後者をスーパーなど量販店を中心とした「生活水」と位置づけている。だとすると、前者を小型PETボトルに、後者を2l等の大型PETボトルに集約していくのかもしれない。
今後の同社の動きに注目したい。

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2010.04.09

iPadはなぜ499ドルなのか?

 米国で販売が開始されたiPad。世界で年間500万台が売れると予想されているというが、499ドルという価格はいかにして決定されているのだろうか。アップルの値付けの意図を考察してみよう。

 4月9日日経新聞3面総合欄に「iPad部品日本製影薄く 韓台勢が台頭 TDKの電池など採用わずか」という記事が掲載された。2008年発売のiPhone3Gでは、採用された部品の日本企業が11社ほど列挙された記事を見たが、わずか2年でのジャパンパッシングっぷりは何とも悲しい。
 ただ、そうした視点より筆者は「iPadの販売価格に占める部品コスト」という内訳に注目したい。

 最近は日経さんはリンクを張らせてくれないので、元ネタが同じ「インターネットウォッチ」から引用する。
 <iPadの16GBモデル、製造原価は推定259.60ドル~iSuppliが分解調査>(インターネットウォッチ4月8日)
 http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100408_359798.html

 <米調査会社のiSuppliは7日、Appleが発売したiPadを入手して分解調査した結果を発表した><iPadのWi-Fi版16GBモデルの推定部品コストは250.60ドル。これに製造コストを加えると、製造原価は259.60ドルと推定している><これらのコストにはハードウェアと製造コストしか含まれておらず、ソフトウェアやロイヤルティー、ライセンス費用などは含まれていない>(同)ということだ。

 499ドルの販売価格に対して粗利は約半分。上記に加えて流通コストやマーケティング費用なども含まれていないが、いずれにしてもオイシイ商売であるといえるだろう。しかし、その499ドルという価格はどのように決められたものなのだろうか。

  価格の決定には、環境分析のフレームワークである「3C」と同じ視点が必要だ。Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)である。
 価格戦略の基本は、自社で製品の生産にかかったコスト(固定費の償却分+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。最も自社としては考えやすく、赤字などになりにくい算出方法だと言える。iPadの場合、それが250.60ドルである。「自社視点・コストの積み上げ」では、その価格が顧客がにとって妥当と受け取られるかは保証の限りではなく、また、もっと高く買ってもらえるにも関わらず儲け損なうかもしれない。また、顧客は自社商品だけを購入検討対象としてくれるわけではないので、競合(Competitor)の視点が重要となる。

 iPadの競合を何と見るかが一つのカギになる。例えば、その形状や使われ方の一つからすると、電子書籍端末が上げられるだろう。Amazonの「Kindle 2」は359ドル。Barnes & Nobleの「nook」は259ドル。ソニーの「Reader Daily Edition」は399ドルと、いずれもiPadより大幅に安い。とすると、アップルはそれらを全く競合と見なしていないということになる。
 およそ400~500ドルという価格で考えれば、個人用の小型パソコンであるネットブックがちょうど同程度の価格である。では、アップルはiPadの競合をネットブックと見ているかといえば、恐らくそれは全く違うだろう。それは、次の顧客(Customer)の視点を考えればわかる。

 Customerの視点を端的に言えば、「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということだ。499ドルというネットブックと同等の価格で、それよりも遙かに優れたインターフェイスを持ち、気軽でスタイリッシュに使いこなせるiPad。比較対照してくれれば、その価値が理解しやすいといえるだろう。また、2007年の米国でのiPhone新発売時の販売価格は、4Gバイト品が499米ドル、8Gバイト品が599米ドルだった。それよりも遙かに液晶も大きくフラッシュメモリの容量も多い。非常にお買い得感があるといえるだろう。

 新商品を市場に投入する場合、価格戦略には大きく分けて2つ選択肢がある。一つはスキミング(Skimming)戦略。英語の意味通り、「上澄みをすくい取る」こと。高価格・高利益で短期間での投資回収を狙う。模倣困難性が高く、価格をあまり気にしないイノベーターの支持が得られそうな場合に取れる戦略である。もう一つがペネトレーション(Penetration)戦略。こちらも読んで字の如く、「(市場への)浸透」を狙うことで、低収益を覚悟して短期間でシェアを確保して市場を席巻する戦略である。
 iPadの商品性、アップルという企業を考えれば、上記のスキミング戦略をとることが十分可能である。確かに、粗利50%近い価格はオイシく、スキミング的に映る。しかし、それは調査会社のiSuppli社の「バラシ(分解)」によって初めてわかったこと。場合によっては、もっと高価格が付けられたかもしれない。それよりも、年間500万台という目標を考えれば、市場席巻を狙うペネトレーションを志向していることがわかるはずだ。
 「499ドル」という数字の切れは、消費者に少しでも安く感じさせようという顧客心理を考えた「端数表示」の手法だ。それからも、数を少しでも売るペネトレーション型であることがわかるだろう。

 ちなみに、iSuppli社はiPhoneもバラシをやっているが、それによると、製造原価は178.96ドルだという。発売以来増産を重ねて、規模の経済・経験効果で製造原価低減が図れていることがわかる。つまり、iPadの499ドルも「それいけ500万台!」に向けた価格設定だということだ。

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2010.04.08

ユニクロまさかの失速?復活のキーワードは?

 4月5日、3月のユニクロの既存店売上高が前年比16.4%減という発表。それを受けて東京株式市場でのファーストリテイリング株が急落。
まさかの失速の原因は何だ?復活のキーワードは何だ?

 <ファーストリテ株が急落、ユニクロ売上減は消費回復を象徴も( http://tinyurl.com/y8nauvg )>(4月5日ロイター)
 
 上記記事で、<3月既存店動向は、売上高だけではなく、客数も同10.7%減と2ケタ減少を記録。客単価は6.4%減となった。直営店を含めた売上高は同8.4%減ダイレクト販売を含む売上高も7.9%減と全社的にマイナス>と、ずっと右肩上がり「のぼり坂」を続けてきたユニクロに「まさか」の全面急ブレーキがかかったことを伝えている。

 筆者は2月24日に「競合をすべて撃沈させるユニクロUJの破壊力( http://tinyurl.com/yef23yj )」という記事を発表した。ファーストリテイリングはUJを中核として、グループ会社のg.u.,ユニクロ、キャビン傘下の女性向けブランドまであわせると、990円~4990円までの価格で、品質・デザイン共に極めて高いレベルのジーンズをラインナップした。それは、既存ジーンズブランドの全てをバリューラインの下に沈める一人勝ち体制が完成したことを意味すると分析した。

 しかし、今回のユニクロまさかの失速は、そのUJにあると、コア・コンセプト研究所の大西宏氏がBlog「大西 宏のマーケティング・エッセンス」で記している。
 <ユニクロはUJで自らも破壊してしまったのか( http://tinyurl.com/yd44px8 )>
 
 つまり、ユニクロはUJで他のジーンズブランドをことごとく撃破したと同時に、図らずもカジュアルファッションとしてのジーンズの魅力とジーンズマーケット自体も同時に破壊してきたのではないか。もしくは、UJの尖ったコマーシャル展開に反して、ジーンズにファッション性を人びとは求めていなかったのではないかという分析である。

  <激安ジーンズに揺れる老舗ブランド あの手この手で対抗策( http://tinyurl.com/yenychj )>(4月3日SankeiBiz)
 上記記事では、<リーバイ・ストラウスジャパン(東京都渋谷区)の平成21年11月期の売上高(単体)は、前期比27%減の171億円と大幅ダウン。「ボブソン」ブランドで知られたボブソン(岡山市)は昨年11月にジーンズ事業を企業再生会社に譲渡した>と、ユニクロに加え、大手流通の激安ジーンズによる、1~2万円台の商品を中心とする老舗ブランドの「破壊されっぷり」を明確に伝えている。

 ジーンズには「プレミアム」や「ビンテージ」というカテゴリも存在する。
 イタリアのブランド「ディーゼル(DIESEL)」など、2~3万円、高いものでは5万円もの価格帯の「プレミアムジーンズ」というカテゴリは、海外セレブも御用達のすっごいオシャレであることが価値だ。一方、えもいわれぬ雰囲気を醸し出すマニアな「ヴィンテージジーンズ」は一物一価でものによっては目が飛び出るような価格である。
 同記事では<同じジーンズでも「ビンテージもの」と呼ばれる高級品には根強い愛好家が多く、「販売は意外と落ちていない」(業界関係者)>(同)というコメントも伝えている。

 ユニクロが破壊したのは「フツーのジーンズ市場」だ。「価格」と「価値」の関係を表すバリューラインを高いレベルに設定し、競合を全て撃沈したUJだが、その「価値」とは「寝室と、ちょっとカッコイイ(もしくは、自分にぴったりな)ファッション性」である。価値基準が全く異なる「プレミアム」や「ビンテージ」には影響はない。 

 では、そのフツーのジーンズユーザーの実態はどうなのか。<リーバイ・ストラウスジャパンが今年1月に20~30代の男性250人を対象に行った調査によると、35・6%が「低価格ジーンズを持っている」と答えた>という。

 「35・6%」を高いと見るか、低いと見るか。
 筆者は前掲の記事で「すべての人々のクローゼットにUJが2~3本入っているようになるのかもしれない」と予測した。少なくとも筆者の予測は過大であったといえるだろう。

 ユニクロの誤算も正にそこにあったのではないだろうか。
 ユニクロの戦略の基本は「アップセリング(同種の商品の複数購入)」である。大ヒットしたヒートテックにしても、ブラトップにしても、一人複数枚。多い人では10枚以上を購入している。それが大ヒットの原動力だったのだ。そうでなければヒートテック5000万枚、ブラトップ900万枚の目標など立てられない。

 大西氏は<ジーンズにそういった(CMで訴求しているような)ファッション性を人びとは求めていなかったということかもしれません>と分析している。
 フツーのジーンズであれば、何も慌てて買うことはない。まして、1枚あれば十分用に足りる。複数枚買う理由がない。そんな判断が働いたのかもしれない。そこが誤算だったのではないか。

 では、ユニクロはこのままへこんでいるのかというと、筆者は全くそうは思っていない。
 前述の通り、ユニクロの価値パターンは「アップセリング」である。まとめ買いと買い増し。正にそれに最適な商品が発売されている。

 <冬がヒートテックなら、夏はこれです、ユニクロの高機能サマーインナー「シルキードライ / サラファイン」( http://tinyurl.com/ycaxmuc )>(同社ニュースリリース3月34日)
 とにかくサラサラで着心地のいい男性用の「シルキードライ」。女性用には夏のエアコンでも寒くなりすぎない機能の付いた「サラファイン」。これを一度着ると、「今までの綿や混紡のインナーは何だったんだ?」と思うほどの快適さだ。大手インナーウェアの商品は2000円以上だが、990円とこれまた激安だ。洗い替えも含めて1週間分、3~5枚は購入してしまうだろう。販売目標数も1700万枚であるという。

 ユニクロの勝ちパターンのもう一つのキーワードは「クロスセリング」である。関連商品の販売を意味し、ユニクロ得意の「ついで買い」を促進することだ。UJが意外にも集客・購買のキラー商品として機能しきれなかったことは、「ついで買い」の減少という連鎖的なマイナス現象も生んだはずだ。
 桜の季節ももう終わり。これから春本番の少し汗ばむ日もある暖かくなる季節に向けて、インナーを少し買い足そうかという消費者の購買を刺激することができれば、「シルキードライ / サラファイン」をキラー商品としたアップセリング、クロスセリングという勝ちパターンにはまれば、業績は早期に回復してくるのではないだろうか。


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2010.04.06

緊急提言:「牛丼戦争は停戦を、吉野家はプレミアム化せよ!」

 お腹にもたれるような料理ではないはずなのに、このところの業界の動きには食傷を感じざるを得ない牛丼業界。「牛丼戦争」はとうとう最終章を迎えた。しかし、誰も幸せにならない結末しか見えてこないのだ。

 <すき家と松屋、最安値250円に 吉野家つぶし“仁義なき牛丼戦争”>(msn産経ニュース2010.4.5)
 http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100405/biz1004051522009-n1.htm

 <「すき家」を展開するゼンショーは5日、全国の繁華街や都市部の店舗百数十店で、牛丼並盛りを通常の280円から250円に値引きするキャンペーンを4月9日~21日まで実施><松屋フーズも同日、牛めし並を通常の320円から250円に値引きするなどのキャンペーンを12日~23日まで実施><吉野家が7日~13日まで通常380円を270円に値引きするキャンペーンに対抗する>(同)

 つまり、吉野家渾身の値下げ攻勢は先行できる7日~8日の2日間しか効果を発揮しない。その後はすき家・松屋に客を奪われ、通常価格に戻った時点でさらに自社顧客からも割高に感じられて利用を控えられるというカンフルの反動が出るのは必定である。

 吉野家の不幸は、牛丼業界のリーダー企業へと復権する夢を捨て切れていないことだ。規模で上回られた時点で、もはやリーダーの座はすき家(ゼンショー)に奪われていたのは明白だ。規模に勝る相手に価格勝負を挑むことは戦略の定石からして明らかに得策ではない。リーダー企業は規模の経済・経験効果でコスト低減が図れ、コストリーダーシップ戦略をとることができるからだ。また、吉野家は「味へのこだわり」として、他社がニュージーランドや豪州産牛肉を使用するのに対し、仕入れ値1.5倍の米国産牛を用いている。バリューチェーン上の弱点を抱えた上でのコスト勝負はどう考えても無謀だとしかいいようない。

 競合が仕掛けてきた対抗キャンペーン展開エリアを見ると、その意図がよくわかる。松屋が全店、すき家が全国の繁華街や都市部の店舗百数十店だという。松屋は東京を中心として吉野家と商圏がかなりかぶる。すき家は中国・四国・九州・信越・北陸などに強い地盤を持っているため、吉野家との競合が強いエリアに絞って展開しているのがわかる。つまり、完全なる「吉野家つぶし」の構図であるわけだ。

 さらに、すき家の実施店が百数十店に絞り込んでいる店が見逃せない。全店舗数の1割程度に過ぎないのだ。ここに「牛丼一杯250円」という価格の意味合いが込められていると見て取れる。
 恐らく、すき家においてさえ、もはや牛丼は利益を生んでいないのだ。通常の280円でギリギリの線。スーパーが目玉商品であるトイレットペーパーや玉子などを安売りして客寄せをするように、280円という収支とんとんの価格で集客し、いざ、注文の時点や、リピートしたときに、380円~390円の各種具材がトッピングされている商品にアップグレードさせて利益を創出するのだ。松屋も同様に牛丼は客寄せで、収益は得意の定食やカレーメニューのバリエーションで上げているのだ。
 
 250円の牛丼では誰も儲からない。しかし、あえてそれをやるのは、「吉野家つぶし」である。前述の通り、すき家、松屋には収益化を図るメニューがある。吉野家にはほとんどなく、牛丼比率が極めて高い。

 筆者が「牛丼戦争停戦」を提唱するは、吉野家を守りたいからではない。誰も儲からない不幸な戦いの果ての「牛丼業界」を心配するからだ。
 ネット上の掲示板やSNS、BlogやTwitterの書き込みを見ると「さすがにやり過ぎ」「安すぎ怖い」などの声が目に付く。前掲の産経ニュースの記事では<消費者の節約志向で業界最安値争いは激化の一途だが、消費者にとっては“朗報”となりそうだ>と結んでいるが、そんなことはない。消費者の低価格志向は高まっているが、「食の安全」への関心がなくなったわけではない。恐らく、各社の250円牛丼の写真を撮ってネットにアップする者も出てくるだろう。そして「こんなに具材が減った」などとコメントされるのだ。減っているのが事実か否かはともかく、そうしたネガティブなイメージが伝播するリスクも抱え込むことになる。牛丼業界全体のイメージダウンは免れない。
 消費者の「牛丼離れ」が加速するかもしれない。それ故、牛丼戦争の停戦を訴えたいのである。

 このまま戦争が続いて、消費者の牛丼離れも起こったら、最初に倒れるのはやはり吉野家だろう。そうならないためにも、また、牛丼戦争停戦のためにも、同社には「プレミアム化」することを勧めたい。
 牛丼一筋111年。吉野家のブランド価値は今ならまだ生きている。「味へのこだわり」という米国産牛も、「さし(脂肪)」の付き方が豪州産とは違い柔らかいと評価するファンも多い。
 「吉野家は、こだわりの牛丼を500円で提供する」。低価格戦争から離脱して、そんな一種のプレミアム化路線に転換すべきなのだ。500円がプレミアか否かという議論もあるが、昨今の消費者のランチ予算は日常的には300円~500円に抑えたいという意向が強い。その上限をプレミアム価格として狙うのである。
 「安い・早い・うまい」というキャッチフレーズの「安い・早い」で利用する層をバッサリ切り捨てる。当然、規模を追うことはできない。故に、リーダー争いをやめて、プレミアム牛丼という「ニッチャー」としての独自の生存領域を確保するのである。是非、検討をお願いしたい。


※4月5日発売の「週刊プレイボーイ」P.37~39に牛丼戦争と吉野家の生き残りに関する記事が掲載されています。後半に筆者の取材コメントが掲載されています。また、近日中に「夕刊フジ」にも同様のテーマの特集で取材コメントが掲載されます。各メディアも牛丼戦争から目が離せなくなっています。

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2010.04.05

「大人のキリンレモン」と「キリン プラス-アイ」:ヒットの可能性と課題

 夏場に向けてこれから激しさを増す清涼飲料市場。その主戦場は「炭酸」「ゼロカロリー」となることは、昨今のトレンドから想像に難くない。その激戦地に明日・4月6日に参戦するのはサイダーの老舗ブランド「キリンレモン」の派生ブランドだ。大ヒットとなるか?その課題は何だろうか?

 飲料事情の昨今のトレンドは、長引く不景気の影響が顕著だ。「水筒男子」が茶葉で淹れて茶系飲料が落ち込み、「水道男子」が浄水器を使ってミネラルウォーターが代替されて落ち込んでいる。「○○男子」は冗談のようなネーミングだが、飲料に関しては消費者の実態を反映しているといえるだろう。その中で、自分で作ることができない「炭酸飲料カテゴリ」は落ち込みを免れ、伸長している。さらにすっかり定着した健康志向は、清涼飲料だけでなくアルコール類にまで「0(ゼロ)」ブームを拡大している。「炭酸」×「ゼロ」がヒットのキーワードである。

 そのトレンドにうまく乗ったのが、アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー オールゼロ」だ。同商品は09年5月末上市され、「糖質ゼロ」「カロリーゼロ」「保存料ゼロ」という「3つのゼロ」を実現。それでいて「三ツ矢サイダーならでは味」であるとして、同年約540万ケースの販売実績を記録して「三ツ矢サイダーブランド」全体の業績を大きく底上げした。

 透明炭酸飲料カテゴリの、もう一方の雄といえばキリンビバレッジの「キリンレモン」である。ところが、キリンレモンのラインナップには「ゼロ」がない。ブランドのターゲティングとポジショニングが「ゼロ」を上市するにはあまり整合性がとれない状態にあることにも起因しているのだろう。
 「家族品質だもん」。キリンレモンの現在のブランドスローガンだ。
 それを体現するかのように、現在のCMは小池徹平が小学生の男の子と一緒に冷蔵の前で「キリンレモンダンス」を楽しく踊っている。どう見ても大人向けではない。

 その「大人向け」で「ゼロ」商品として、いよいよ投入されたのが、名前もそのまんまの「大人のキリンレモン」である。

 キリンホールディングス横断の健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」の傘の下での展開となる。同プロジェクトは第一弾として、「大人の毎日の健康生活を応援する」として、ノンアルコールビール、ウコン飲料、ヨーグルトなどに「回復系アミノ酸・オルニチン」を投入した商品群を展開した。「大人のキリンレモン」もその一翼を担う。

 グループとしての展開であるが、キリンビバレッジとして「キリンレモン」への投入を決定したのは、単純に「キリンレモンブランド」の傘下で「大人の」を展開すれば、ブランドのポジショニングと不整合を起こしてしまうため、グループの展開は実にタイミングがよかったからだと考えられる。

 では、無事に「大人の」という訴求が無理なく展開できるようになったわけだが、「大人のキリンレモン」がヒット商品になるためにはどのような課題があるのだろうか。

 Product(製品)としては、カロリーがゼロかは定かではないが、糖類はゼロのようだ。しかし、ゼロというより眼目は<大人にうれしい健康成分「回復系アミノ酸オルニチン」「クエン酸」「ビタミンB6」を配合>(同社ニュースリリース)というところだろう。「ゼロで太らない」よりも「健康になれる炭酸」というのはUSP(Unique Selling Proposition:独自の売りのポイント)なのだ。「大人の」と「健康」がうまく結びつけば、ターゲットには魅力的になるかもしれない。その認知・理解が得られるかがキモだ。
少し気になるのが、<パッケージは、従来の炭酸飲料とは対照的に、落ち着いた大人向けのデザインに仕上げ、白ラベルと明朝体ロゴを使用することで、品質感を表現>(同)というところだ。「三ツ矢サイダーオールゼロ」は「三ツ矢サイダー」と極めて近いパッケージデザインで、両商品が店頭で並ぶと面展開が広がるメリットがある。キリンレモンブランドの商品と認知されにくいと思われるため、独自に複数フェイスを確保することが欠かせなくなる。

 ヒットのための一つの課題はPlace(販売チャネル)であることは間違いない。キリンビバレッジの自販機保有台数は20万台と23万台のアサヒ飲料に大きく劣後するものではない。しかし、自販機のリーダー企業である日本コカ・コーラの98万台などと比べれば、コンビニチャネルの重要性は極めて高い。コンビニチェーンのMD(マーチャンダイザー)に、取り扱いを決めてもらえることは間違いないだろう。次に、コンビニオーナーが自店のために発注し、多数フェイス棚を確保してくれるかが一つのキモだ。

 そのためにはPromotion(コミュニケーション・販促)をどのように展開するかが最大のポイントとなってくる。コンビニオーナーへの働きかけは、一つにはマージン施策がある。通常、飲料はファーストロットはぐっと仕切り値を下げて提供されるので、その時点ではある程度棚確保が可能だ。継続が難しい。ヒット前の商品に棚を割くには、「売れそう」とオーナーに思わせることが欠かせない。CMを大量に投下することは、消費者に対するアピールと同時に、チャネル関係者にもアピールしているのが通常だ。しかし、「大人のキリンレモン」は「家族品質だもん」のブランド本体との整合性を考えると、あまりCMを大量に投下するとは考えにくい。
 
 では、どのようなコミュニケーション戦略が展開されるのだろうか。それはキリンホールディングス「キリン プラス-アイ」プロジェクトの傘下商品ラインアップを見てみると、何となく想像ができる。キリンビバレッジ「大人のキリンレモン」以外には、キリンビール「休む日のAlc.0.00%」 、キリンビバレッジ「ウコン[ダブル]」、小岩井乳業「大人のヨーグルト」、キリン協和フーズ「Cayu~na(かゆ-菜)」だ。正直なところ、カテゴリトップブランドにはなれていない商品が多い。また、ノンアルコールビールの「休む日のAlc.0.00%」は普通にプロモートすれば、自社のトップブランド「キリンフリー」とのカニバリ(食い合い)は免れない。そうした「訳あり商品」ともいえる存在が、「回復系アミノ酸オルニチン」で連携を図ったとも見て取れる。
 つまり、コミュニケーションは販促は、「大人のキリンレモン」だけでなく、ここの商品ではなく、あくまで「キリン プラス-アイ」連合として展開されることになるだろう。つまり、「大人のキリンレモン」の正否は、プロジェクトの成否そのものに左右されることになると予想される。

 、「回復系アミノ酸オルニチン」は同じくグループ会社の「協和発酵バイオ株式会社」の開発によるものだという。グループ大団結のプロジェクトと、キリンレモンの大人戦略の行く末から、目が離せなくなってきた。

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2010.04.02

東京メトロの新戦略?「メトロが心をつないでいく。」…のは誰の心か?

 4月、2010年度のスタート。慣れないラッシュにもみくちゃにされた新入社員らしき若者が急ぎ足で行き交う地下鉄の構内。ふと壁を見れば、いくつかの新しいポスターが目にとまった。

 「メトロが心をつないでいく。」
 東京メトロの企業広告シリーズ「TOKYO HEART」のイメージキャラクターが宮﨑あおいから新垣結衣に交代している。車内ディスプレイの電子広告「Tokyo Metro Vision」でも繰り返し映像が流れている。
 ( http://www.tokyoheart.jp/ )
 映像を見ていて思うのが、昨年度までの宮﨑あおい時代と比べると、新垣結衣はメトロに乗って各地をめぐるだけでなく、そこで人々とふれあい、人々同士がふれあっている様子を伝えている。
 同社のニュースリリースによると、<2010年度は、東京で生活する人々にとって、“メトロが心をつないでいく存在でありたい”という想いを「TOKYO HEART」に込め、テレビCMや、東京の様々なシーンを紹介する駅貼りポスターを通じて展開していきます。>という。

 「またやろう。」
 ポスターといえば、毎月のことながら、マナーポスターも新しくなっている。車内でのマナー向上を呼びかけるポスターは、昨年度まではずっと「○○でやろう」と、家や、外や、後でやればいいことを車内でやって人に迷惑をかける困った人たちを取り上げていた。
それが今月は、けが人に、すっと席を譲る好青年を描いて、「またやろう」と呼びかけている。
 ( http://www.tokyometro.jp/anshin/kaiteki/poster/index.html )
 ニュースリリースでは<2010年度は「またやろう。」を共通フレーズに、地下鉄を気持ちよくご利用いただけるような心づかいをイラスト化することで、いつでも何度でも行っていただきたいマナーが広がるよう、呼びかけを行っています。>としている。
 「○○でやろう」は、思わずニヤッとしてしまう面白さがあったが、どこかしら「自分でも少しやってるかも!」と、しかられているというか、諭されているような受け取り方もしていた。「またやろう」はインパクトは少し弱いけれど、どこか清々しい。
 Twitterではポスターの感想がつぶやかれているが、好感度は高いようだ。
 http://tweetbuzz.jp/entry/18212374/twitpic.com/1ciiom

 新垣結衣が心をつないで、マナーポスターが清々しさを醸し出すようになっているのはなぜか。
 少し過大に解釈をして、東京メトロの経営ビジョン・経営戦略と見比べて考えてみる。
 http://www.tokyometro.jp/corporate/profile/management_plan/pdf/tmp2010.pdf

 上記資料を見ると、経営ビジョンとして掲げられている「東京を走らせる力」のページで東京メトログループのネットワークが書かれているが、鉄道以外の関連事業の多さに今更ながら少し驚く。「私たちの決意」の中では、鉄道事業の「安全」ともう一つの柱として、『お客様視点に立った質の高い「サービス」への対応』とある。少子高齢化という社会構造の変化とニーズの多様化に対する対応であるとしているが、この対象事業は明言されていない。しかし、経営戦略の「持続的な経営価値の向上を目指して」という中では、明確に「鉄道事業と関連事業のシナジー」が掲げられている。そして、「中期経営計画」の関連事業の項では、「流通事業」がシナジーを発揮すべき対象として積極的な展開を行う領域であるとしている。

 そうなのだ。少子高齢化はこれからどんどん加速する。となれば、黙っていれば乗客は減る。「関連事業」の重要性は増すばかりだ。
 流通事業では、東京メトロは表参道と池袋で改札外駅ナカ商業施設の「Echika(エチカ)」を展開する。JRなどと異なり、狭い駅構内での展開には無理があるが、乗降客の動線上にある商業施設は抜群の立地である。
 もう一つのチャレンジは、昨年11月にオープンさせた池袋の駅直結の商業ビル「Esola(エソラ)池袋」だ。同じようでエソラの位置づけはエチカとは異なる。駅直結とはいえ、乗降客の動線上にはないため、足を運ばさなければならないからだ。
 駅ナカビジネスで活況を呈するJRでも、実は駅ビルのルミネは成長に黄色信号が灯った。低廉な価格で人気を呼ぶH&Mなどのファストファッションに客を奪われているからだという。動線上にない、駅ソトの商業施設同士として競合関係が発生してしまうのだ。

 東京メトロが「心をつなぎたい」のは、何より乗客とメトロ自身なのだろう。より身近な存在として、その存在をアピールし、清々しく好感度を高め、乗降の際にはちょっと商業施設を利用してもらう。何か買い物の際には足を運んでもらう。そんな関係を築きたいに違いない。

 地下鉄の会社は、地下で電車を走らせる。それだけでは済まない時代。単なるインフラ。社会の裏方という存在ではなく、生活者との関係をアピールして距離を縮めなくてはならない。そんな意識がポスターやCMに現れているのだろう。

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2010.04.01

大ヒットのヒミツ・コクヨの「針なしステープラー」

 コクヨS&Tから発売されている「針なしステープラー」が大ヒット中だという。そのワケをマーケティング的に考えてみると、まさに「売れるべくして売れた商品」であることがわかる。

 <針なしで書類をとじるステープラーが大ヒット>(日経トレンディネット2010年4月1日)
 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/hit/20100329/1031336/
 記事によれば発売は2009年12月7日。以来、<当初の年間売り上げ目標1億円を発売からわずか2カ月で突破し、現在も順調に売り上げを伸ばしている>という。

 ステープラーとは、いわゆるホチキスのこと。「ホチキス」という名前は既に失効した登録商標でJIS規格上の名称が「ステープラ」。そして、通常「ホチキスの針」といわれているものは「ステープラ用つづり針」というわけだ。これ、豆知識。
 さて、「ホチキスと針」はマックス株式会社が最大のシェアを持っているが、それ以外のメーカでも概ね針を用いる同じようなメカニズムの製品を作っている。しかし、「針を使わないステープラー」というものがとりわけ斬新なアイディアで先進的な技術を使っているのかといえばそうではない。
 実は筆者は文具オタクでもあるのだが、初めて「針を使わないステープラー」というものに出会ったのは四半世紀近くも前のことだった。雑誌で外国製のそれを知ってどうしても欲しくなり、探し回って手に入れた覚えがある。

 では、コクヨの商品がどうして大ヒットをしたかといえば、文具オタクのココロを捕らえるのではなく、今日の環境に適合し、さらにオフィスワーカーが抱えるニーズギャップに実に見事に対応したからに他ならない。

 筆者がかつて手に入れたステープラーと紙を綴じるメカニズム自体は大きく変わらない。紙に切れ込みを入れて、紙同士を絡めて綴じるのだ。筆者が持っていたのは1つ穴タイプで、いわゆるホチキスの代替だ。しかしその割には綴じられる紙は3~4枚までとちょっと非力すぎで実用的ではなかった。
 コクヨの製品は2穴タイプで、何と、綴じ込みに使う切れ込みが、そのまま2穴ファイルの穴として利用できるのだ。つまり、ホチキスと2穴パンチを兼ねているという優れものなのである。このあたりのアイディア自体に既にうなるものがある。さらに、綴じ込み能力は業界最大(同社調べ)の10枚だという。

 商品としてのスジが極めていいのはヒットの最低条件だが、大ヒットのワケはそれだけではない。同社のホームページの説明と動画を見るとすぐに理解できるだろう。
 <針なしでとじる!?こうなっていた…秘密を動画で紹介!!>(接続後すぐに音が出ます)
 http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/sl-stapler/

 上記で同社は「環境・効率・安心」の3つの視点と不満解消から生まれた商品であるとしている。
 一目見ればメリットがわかる、前述の2穴パンチ兼用で、すぐにファイリングできるという点は「効率」の実現だ。
針を使っていないため、「分別不要」。「そのままシュレッダーにかけられる」という点もいわれれば激しく同意してしまう。オフィスを取り巻く外部環境として、「環境対応」と「情報セキュリティー」は大きな課題だ。いらない書類は即シュレッダーが基本である。しかし、環境対応のためには金属と紙は分別が必要だ。
 ホチキス止めした書類だと、専用のホチキス外しもあるが、見つからずに、つい指でガシガシと外そうとして爪が欠けたことはないだろうか。ネイルをきれいにする昨今の流行のなか、そんな危険性が排除できるのはありがたいだろう。その点を「安心」としてニーズギャップの解消を訴求している。

 いいことずくめのこの商品。気になるお値段だが、5,500円(税別)だという。その値段の設定がまたうまい。

 プライシングは原価コストに利益を積み上げる「自社視点」と、顧客がどれだけメリットや価値を感じて払ってもいいと考えるかという「顧客視点」、競合商品との価格比較による「競合視点」の3要素で考慮する必要がある。
 顧客視点で考えれば、是非使いたくなる便利さ満載であるだけでなく、分別の気遣いや、ホチキスの針外しの手間や時間がいらなくなるだけでなく、消耗品である針が不要になる。
 競合視点で考えれば、2穴パンチは個人用ではなく、作業台に置いてあるようなちょっとしっかりしたタイプは1,500円~2,500円ぐらいだろう。ホチキスも同様なものは1,000円くらいか。合計で2,500円~3,500円が競合の価格である。1,500円~2,500円ぐらいが顧客視点で考えたときの「プレミアム」となるわけだが、大ヒットしているのはそれが十分ペイできると顧客が判断しているからだ。
 自社視点で考えれば、筆者が四半世紀前に既に手にしていたことから、メカニズム的に何かコスト要因になるような特許を用いているわけではないだろう。だとすると、原価は自社で全てコントロールできる。故に、コクヨにとってはこの大ヒットはかなりオイシイ状態だといえるだろう。

 大ヒットでオイシイ思いを享受できているのは何故なのかというところが大切だ。
昔からある「枯れたメカニズム」を自社の工夫で、紙を綴る枚数を向上させる能力などを磨き上たこと。そして何より、昨今のオフィスとその外部環境の現状、そこで働く人々のニーズギャップを丹念にすくい取ったことが大ヒットのヒミツなのだ。
 売れるべくして売れた商品には、必ず明確なワケが存在するのである。

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