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2010.04.12

マジックナンバー10%!アサヒ飲料「六甲のおいしい水」買収

 4月8日、アサヒ飲料がハウス食品の「六甲のおいしい水」事業を買収したと発表があった。その戦略的意図を考察してみよう。

 <アサヒ飲料株式会社による、ハウス食品株式会社のミネラルウォーター事業取得に関するお知らせ>(ニュースリリース)
 http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0408.html

 アサヒ飲料は4月6~7日に日経新聞カラー全面で、川原亜矢子をキャラクターに「ミネラルウォーターなのに、なんでミネラルの種類で選ばないんだろう」と、「富士山のバナジウム天然水」の広告を展開。テレビでも「毎日飲む水だから、私ならミネラルで選ぶ」とCMを投下して、商品リニューアルと共にブランドを強化している矢先である。

 そのそも、国内のミネラルウォーター市場はどうなっているかといえば、「微増」だという。同ニュースリリースで<清涼飲料市場内の構成比で約10%><輸入ミネラルウォーターの大幅な落ち込みにより前年に対し4%~5% 程度縮小したとみられるものの、国産ミネラルウォーターに限れば、前年並みから微増程度で推移しており、今後も拡大が期待される市場>であるという。
 では、その中でのシェアを見てみよう。富士グローバルネットワークが発表している2010年03月22日~2010年03月28日の小型PET容器ミネラルウォーターのコンビニPOSデータだ。
 つぶせる軽量PET容器が若年層に人気で大ヒットした、日本コカ・コーラの「いろはす」がトップの26.8%。飲料業界第2位のサントリーの「天然水(南アルプス)」18.4%。ダノン・キリンビバレッジの「ボルヴィック」が11.1%という状態だ。
 ニュースリリースによると、2009年の「六甲のおいしい水」の市場シェアは7%。一方、「富士山のバナジウム天然水」は3%であったという。合計10%。この数字が実に意義深いのだ。上記POSデータは小型容器のみなので単純には比較できないが、あえて乱暴にいえば、国内シェア第3位を狙えるポジションになる。しかも、トップシェアが26.8%という群雄割拠の様相である。

 ランチェスター戦略における「クープマンの目標値」で考えれば、「いろはす」のシェアにほぼ近い、26.1%が「市場影響シェア」という状態である。市場に影響をもたらす、一歩抜け出した状態を示すシェアであるが、2位以下であれば、トップを狙えるポジションであると同時に、トップなら逆転される可能性がある状態を示すのだ。
 一方、今回アサヒ飲料は目指した10%という数字は、10.9%という「市場認知シェア」に近い。生活者が自ら思い出せる(純粋想起)ギリギリのシェアであると同時に、競合から存在を意識されるボーダーラインだ。元々の六甲のおいしい水の7%はというと、6.8%の「市場存在シェア」、生活者が人からヒントを出されて思い出せる(助成想起)レベルのシェアであり、市場において、かろうじて存在が許されるレベルだ。「富士山のバナジウム天然水」の3%はそれにも満たない状態であった。
 事業買収によって、アサヒ飲料は2位以下でもトップを狙えるミネラルウォーター市場において、市場から認知され、存在が忘れられないというチャレンジャーのパスポートを手にすることができたのだ。

 少し話を拡大して考えてみよう。アサヒ飲料がそもそも、このタイミングで事業買収を使用とした意味だ。
 恐らく同社は、様々な市場の動向を、10%というシェアをマジックナンバーとして見ているのではないだろうか。事業そのものがシュリンクしていく市場であれば、投資には値しない。事実、同社自身がリリースで述べているように、国内のミネラルウォーター市場は<輸入ミネラルウォーターの大幅な落ち込みにより前年に対し4%~5% 程度縮小>している。節約志向を高める消費者は、マイボトルがすっかり定着し、水道水をポット型浄水器で浄水して飲む水道派も増加しているという。しかし、そのマイナスを国内産が補って<清涼飲料市場内の構成比で約10%>を保っている。にわかに市場自体が消滅することのない、消費者から「市場認知シェア」を与えられていると判断してのことだろう。

 もう一つ、アサヒ飲料が10%へのこだわりをもって、経営の舵を切った例がある。今を去る3年前、2007年のこと。「カルピスとの自動販売機事業の統合」である。日本には自動販売機が約200万台強が存在し、その中でもコカ・コーラが98万台を保有する圧倒的なリーダー企業となっている。その中で、当時、事業統合によってアサヒ飲料はグループで自動販売機22万台を保有する、約10%のシェアで第4位となることができたのだ。

 通常、業界内のポジションが下位、低シェアのプレイヤー同士の合併や統合は「弱者連合」などと揶揄され、効果が低いといわれることが多い。しかし、同社のように、その数字の意味するところを見据えて、戦略的な提携・統合を繰り返してチャレンジャーのポジションを確保することは極めて有効であるといえる。
 日本という市場全体は、もはや縮小が否めない。市場の片隅でフォロアーとしてそっと存在することは不可能であり、何とか規模を確保してチャレンジャーとなるか、独自のファン層を集めて生存領域を確保するニッチャーになるしかないのだ。

 アサヒ飲料のミネラルウォーター事業は、今後、「富士山のバナジウム天然水」と「六甲のおいしい水」という両ブランドをどのようにポートフォリオ上で調整していくかという舵取りが求められる。ニュースリリースによると、前者を「高付加価値型ミネラルウォーター」、後者をスーパーなど量販店を中心とした「生活水」と位置づけている。だとすると、前者を小型PETボトルに、後者を2l等の大型PETボトルに集約していくのかもしれない。
今後の同社の動きに注目したい。

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