地元の牛丼戦争局地戦から見え隠れするもの
筆者の自宅駅前で牛丼戦争のちょっとした局地戦が展開されている。JRの快速も止まる駅なのだが、裏口ともいうべき栄えていない方の改札を出たあたりが戦場だ。
元々は大通りを隔てた所に吉野家の狭小店舗があっただけだったが、改札からも真っ直ぐに見渡せる好立地の空き店舗に突如、松屋が進出してきた。今回の牛丼戦争が始まる少し前のことだ。好立地と入りやすくゆったりした店舗が奏功し、女性客も含めて多くの客を吸引した。
そこに今年、すき家が参戦してきた。松屋の裏、大通りを隔てて吉野家の向かいという立地だ。
現在の各社の価格は、牛丼並で松屋は320円、吉野家380円、すき家280円である。
地元で三つ巴が始まった牛丼戦争局地戦で、先に仕掛けたのは松屋だった。「店舗限定価格280円」というキャンペーンを始めたのだ。明らかに新規進出してきたすき家への顧客流出防止策として、同じ280円に揃えたわけだ。
しかし、ついにその店舗限定価格も終了することになった。3月10日までだという。そして、店舗前の期間終了告知のポスターの横に掲出されたのが、「松屋は全品味噌汁付き」というPOPである。吉野家は50円、すき家は70円で味噌汁は別売りだ。松屋は元の320円という価格に戻っても味噌汁がついていて、「セットなら結局お得です」という訴求なのだ。
「たかが味噌汁」とあなどることはできない。先月吉野家が始めた新メニュー「牛なべ定食・500円」をめぐってネットでは「定食という割には味噌汁が付いていない!」と多くの書き込みがあった。牛丼系のメニューには味噌汁が欠かせないと考える人は少なくないということだ。
しかし、松屋は自ら仕掛けた値引きをなぜ、終了させることになったのか。それは、同社の業績を見ると納得がいく。
運営会社・松屋フーズのWebサイトで 2010年3月期 (2009年4月~2010年3月)業績の2月速報が発表されている。 http://www.matsuyafoods.co.jp/ir/monthly.html
そこで、同時に前年、前々年の業績も比較することができる。
それを見ると、今期前半までの客数減少に歯止めをかけることができたものの、売り上げ99.5%、客単価92%と、牛丼戦争激化以降の今期下期が特にひどい状況だ。もはや、値引きは継続できない。
各社にとって「牛丼」、もしくは「牛丼・並」という価格の標準であるメニューはどのような意味を持つのか考え直してみる必要がありそうだ。
牛丼店にとって最も標準的であり象徴的なメニューであることは間違いない。それだけに、その価格が各社の看板となる。
しかし、メニュー開発の遅れた吉野家以外は、もっと高額で稼げるメニューを松屋もすき家も持っている。松屋の各種定食メニューの豊富さは定評がある。ざっと価格は500円台後半から600円台。すき家の得意技は、おろしポン酢牛丼、キムチ牛丼、3種のチーズ牛丼、わさび山かけ牛丼、ねぎ玉牛丼といったトッピング牛丼メニューだ。価格は360円~380円とただの牛丼より約100円高くなる。
そう考えると、「牛丼・並」というメニューは、「ロスリーダー」なのではないかと考えられるのだ。いわゆる「目玉商品」。スーパーでいうところの特売品の牛乳や卵だ。それを目当てに買いに来る客に利益率の高い他の商品を併売させてマージンミックスを図るのである。
本当のロスリーダー商品は赤字覚悟の場合が多いので、さすがに牛丼チェーンではそれはできない。しかし、利益カスカスでも、客数を増やすために設定している価格であることは間違いない。
商売はまずは売り上げを作ることだ。売り上げ=客数×客単価×リピート率。まずは客を吸引し、来店頻度を上げる。毎日「牛丼・並」では飽きるので、高単価メニューやトッピングを注文してくれるようにさせる。それが、牛丼低価格戦争で生き残る唯一の方法なのだ。
売り上げと客単価の減少で耐えきれなくなった松屋。しかし、「全品味噌汁付き」で割安さをアピールして、顧客流出を阻止しようと懸命だ。離反せずにリピートしてくれれば、高単価な定食利用も望めるだろう。
一方のすき家は牛丼・並280円をロスリーダーにして集客し、リピーターにはトッピングを注文させる明解な戦略だ。その戦略を掲げて、さらに新規出店ラッシュをかけるすき家の月次の業績を見てみよう。
http://www.zensho.co.jp/jp/ir/results/monthly.html
客数の増加は昨年末から、15~18%とかなりの伸びを示している。新規出店が既存店を補って全店売上高は伸びている。客単価減は87%と松屋フーズよりひどい状況だ。このままだと売り上げは上がるが利益が出ない構図だ。高単価メニュー、トッピング強化を図りたい背景が明確に見える。
吉野家は新メニューの「牛なべ定食」や、牛丼・豚丼とお新香やサラダ、キムチをセットにしたメニューを展開し始めているが、集客するためのロスリーダー的価格設定商品がないことや、収益化を図る高単価メニューがないことで非常に厳しい状況であることがわかる。月次の業績を見てみよう。
http://www.yoshinoya-holdings.com/ir/report/yoshinoya.html
客単価は維持できていたのが急速に悪化し、競合のキャンペーン時に客数もがくっと減っている様が伺える。やはり、一人負けのトレンドに入っていく恐れが否めない。
地元の松屋のキャンペーンポスターから、3社の業績まで拡大して考えてみたが、やはりこの業界は商売の基本である売り上げ=客数×客単価×リピート率に忠実な戦い方をしているのがわかる。
しかし、競合は同業ばかりではない。長引く不景気は消費者の外食抑制、ランチ価格圧縮傾向が強まっている。 地元では競合となり得る立ち食いそば店も参戦し、格安セットメニューを繰り出してきている。
生き残りをかけた戦いにまだ出口は見えない。
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