日本マクドナルドのメニューとキャンペーンに見る「勝ちパターン」
外食産業苦境のなか、日本マクドナルドは2008年12月期の全店合計売上高は5183億1600万円を達成。外食産業としては日本でははじめて5000億円を突破。さらに翌09年12月期では営業利益は前年同期比24.0%増の242億円、最終利益は3.4%増の128億円となり、上場以来最高益だという。
好業績の中でも店舗を433店閉鎖するなど効率性を追求しつつ、強大な購買力を発揮するというバリューチェーン、サプライチェーンが好業績を支えるのは確かだ。しかし、コストコントロールだけでは売り上げは上がらない。同社の強さのヒミツの一つは、「売りを支える勝ちパターンの確立」にあることは間違いない。
商売の基本は、どこまでいっても「売り上げ=単価×客数」である。日本マクドナルドはその基本を愚直なまでに実践していることが強さの源泉であるともいえる。
業績を押し上げるためには高単価メニューの販売が有効だ。現在展開中の「Big America」キャンペーンでは、「テキサスバーガー」などが数量限定になるまでの話題となり、4月上旬までを目処に再登場という人気メニューになっている。
大型サイズである「Big America」シリーズのバーガーの原型は2008年11月からスタートした「クォーターパウンダー」である。「日本のハンバーガーよ、もう遊びは終わりだ」と強力なメッセージで米国から上陸。北島康介のビッグマウスが炸裂するCMも話題を呼んだ。その約半年後の09年7月には安室奈美恵をキャラクターにし、Tシャツや缶バッチをプレミアムにした「日本バラ色計画」を展開した。
実はこの「クォーターパウンダー」と「Big America」は同じ高単価大型バーガーでも、客層が微妙に違う。Web上の書き込みなどを見ていると、後者の方が年齢が高い、中年層が反応しているのがわかる。一説によると、クォーターパウンダーの前の「メガマック」を最も食べたのは30~40歳代の男性であるというが、クォーターパウンダーも同様の傾向があったのかもしれない。しかし、派手な登場キャンペーンや「日本バラ色計画」では、少々手が出しにくかったのは否めない。
「Big America」キャンペーンにおいては、ターゲット年齢層を意識させることを極力避けているように思える。つまり、高単価メニューで客単価を高めつつ、客層を拡大することによって、客数を増して売り上げを最大化する狙いである。
しかし、高単価・大型バーガーだけに頼ると「そんなに食べられない」「アメリカ式だけだとちょっと・・・」とついて行けない人が出てくる。1971年に誕生した日本マクドナルドにとっては、中高年も重要な顧客層なのだ。
「クォーターパウンダー」「日本バラ色計画」の次には、チキンタツタやグラコロなどの懐かしの日本オリジナルメニューを復活させた「NIPPON ALL STARS」キャンペーンを展開。今回の「Big America」キャンペーンの次には、4月5日から「マクドナルドの日本(ニッポン)の味」キャンペーンを開始するという。
( http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2010/promotion/promo0329.html :同社ニュースリリース)。
「NIPPON ALL STARS」キャンペーンでは、「ジェームズ」なる謎の外人を使った、イマイチ狙いのよくわからない販促キャンペーンも展開していたが、今回は「味」で勝負のようだ。大人気の「チキンタツタ」は単純なリバイバルだが、 「NEW てりたま モチモチバンズ」はバンズに米粉を用いて食感を高め、「NEW ゴマえびフィレオ ごまごまバンズ」は黒ごまと白ごまペーストを練りこんだバンズを使用するという。これらのメニューはターゲットを中高年とするだけでなく、価格も中価格帯で展開するなど、高価格メニューへの偏りを是正して客離れを防ぐ狙いも見える。
価格帯を適切に展開して客数を維持するには100円・120円マックの存在も欠かせない。その人気メニューである「マックチキン」を4月2日から期間限定で復活させるという。( http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2010/promotion/promo0326.html :同社ニュースリリース)低価格メニューファンの吸引による客数増と、もう1品の次いで買いでの客単価増を狙っているのだ。
客数増と客単価増といえば、ドリンクメニューからも目が離せない。「カフェラテ」「キャラメルラテ」などのコーヒーのバリエーションを展開する「マックカフェ」の取り扱い店舗も徐々に増えつつ、春~夏に向けて「アイスキャラメルラテ」「アイスカフェモカ」などのコールドメニューも増やしている。ターゲットとなるのはマクドナルドの従来顧客もさることながら、昨年繰り返し展開した「無料コーヒー」で吸引した顧客層がベースとなっていることは想像に難くない。景気の低迷で割高なカフェ利用がためらわれるなか、街頭で「無料です」と引き込まれてコーヒーを試してみれば、確かにうまい。120円なら無料でなくともまた来ようということになる。今まで接点のなかった層を取り込んで客数増。次に「マックカフェ」メニューを投入して、「コーヒーより少し高いけど、普通のカフェよりは安いから」と注文を誘って客単価増である。
商売の基本は、どこまでいっても「売り上げ=単価×客数」。その基本を徹底し、メニューとキャンペーン展開によって、微妙にコントロールする。巨大戦艦をミリ単位で操縦するが如きマクドナルドの戦略には脱帽だ。