売れない時代の「ヒット」は「素振り」から?
ある飲料の新発売から約1ヶ月。取扱をやめたのか、店頭に商品がないコンビニチェーンも現れた。同じチェーンでも扱っていない店舗もある。恐らくはオーナーが本部に発注しなかったのだ。
コンビニエンスストアにおいて、飲料は「いくつ棚が取れるか」が最初の勝負である。そのため、新商品の初回発注分は仕切り値を下げて店に有利な条件で発注できるよう、メーカーの営業は配慮する。店舗も「新商品なら」と最低でも2~3フェイスは確保してくれる。
当り前な話だが、店に並んでも消費者が手に取って購入しなければ売れ残る。売れ行きが悪ければコンビニは情け容赦なく棚から商品を外す。飲料棚は特に熾烈な戦場である。
上記のように、店頭を見る限り苦戦しているのでは?と思われる商品は、伊藤園の「緑茶で健康 ビタミンカテキンウォーター」。 新製品発表の同社ニュースリリースには<製品1本(500ml)当たり、自然抽出した天然の緑茶カテキンを250mg、ビタミンCを1000mg含有しています。当社が培ってきた抽出技術によって、緑茶本来の香りやおいしさを引き出し、また、香ばしいハト麦をブレンドすることで、緑茶の渋み成分であるカテキンを豊富に含有しながら、すっきりとごくごく飲める味わいに仕上げました>とある。
発売時に飲んでみたが、カテキンの苦みは感じられず、パッケージにも「香ばしいハトムギブレンド」と表記されているように、香ばしい後味がとてもいい。
しかし、筆者のようなコンビニウォッチャーでマーケティングオタクな人でなければ、この商品をそもそも手に取っただろうかと思う。ネットを検索してみると、この商品の話題をBlogなどに書いている人は、いずれも新商品レビュー、特に飲料に一家言ありそうな人々ばかりだ。そして、筆者同様な疑問を呈している人も少なくない。
この商品、パッケージにも「無糖緑茶」と書いてあるし、飲んでみれば緑茶よりもハト麦茶の印象が強いが、紛う事なき「お茶」である。何故、「ウォーター」なのだろうかと思う。実は筆者は、飲む前には薄~いお茶風味の水をイメージして怖々飲んだのだ。
もう一つ疑問なのは、「ビタミンカテキン」と、どっちが売りなのかがわからない点だ。「両方摂れてカラダにいいです」ということかもしれないが、そのカテキンの含有量が250mgとまたビミョーに感じる。
商品名の一部である「カテキンウォーター」という言葉から、花王の「ヘルシアウォーター」を連想する人も多いだろう。だとすると、「ビタミンカテキンウォーター」は伊藤園が仕掛けた対抗商品であると考えることもできる。ヘルシアウォーターは189円(税込)。カテキン含有量570mgと倍以上だが、高濃度カテキンの代償として、ヘルシアウォーターはどうにも苦みが後味として残る。お茶のおいしい味わいと香りで、そこそこカテキンが摂れてビタミンも入っている。しかも値段は147円(税込)。そんな比較優位を狙ったのではないだろうか。
飲料の世界では、ターゲット商品からスペックを1ランク落として価格を抑える戦略が昨今活発だ。サントリーの「黒烏龍茶」を狙って、アサヒ飲料が「食事の脂にこの1本」をぶつけている。厚労省から「特保」の指定を取得せずに、350mlで170円の黒烏龍茶に対して同じような効能を「感じさせる」て500ml・150円で売る。景気の低迷が長引き、生活費の低減を図る消費者が多い中、狙いは明確だ。
「緑茶で健康 ビタミンカテキンウォーター」は、どんなニーズを持った、どんなターゲットに対して、どんなポジショニングを示したかったのだろう。消費者のどんなKBF(Key Buying Factor=購入のカギ)に対応したかったのだろう。
マーケティングの基本は何と言ってもSTP(Segmentation・Targeting・Positioning)だ。そのためには、顧客のニーズを徹底して深掘りしなければならない。
<消費財メーカーを対象にした「ヒット商品開発調査」で、売り上げが各社の予想通りもしくは予想以上だった新製品の割合を「ヒット確率」として聞いたところ、1割8分と2割を切る低水準にとどまった>日経新聞が2月9日朝刊15面で使えている。特に<最も多かったのは「5分以下」で44.9%>だという。
飲料市場は1000開発して、ヒットするのは3つという「千三つ」とよくいわれる。成熟市場においては「ヒット率」は低下せざるを得ない。
しかし、だからこそ、「ヒット」を打つために打席に立つ前の素振りが大事なのだ。
顧客をしっかり見て、その声なき声に耳を傾け、ニーズ持っているのは誰か。そのニーズは詳しくはどのようなものかを徹底して深掘りすることを愚直に続けるしかないのだと思うのである。
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