ブランド復活にかける「アサヒ・十六茶」の狙いは?
茶系飲料の中でも単一の茶葉ではなく、様々な素材から淹れたものは「ブレンド茶カテゴリー」と呼ばれる。その市場を開拓したのは「十六茶」である。Wikipediaによると、1985から年 シャンソン化粧品がティー・バッグタイプの「十六茶」を発売していたものを、93年からアサヒ飲料が発売元となり、缶・ペット容器入り飲料「お茶どうぞ」シリーズのサブブランドとしてとして発売。大ヒットとなり、97年には「十六茶」ブランドとして独立。99年に累計出荷数が1億箱を記録した。(アサヒ飲料ホームページより)
しかし、栄華は長くは続かなかった。日本コカ・コーラが「爽健美茶」を93年に茶系飲料である「茶流彩彩」のサブブランドとして発売を開始。十六茶の売上げをじわじわと浸食し始める。99年に大ヒットを記録し、茶流彩彩ブランドから独立した。(Wikipediaより)。シェアは完全に逆転し、現在、ブレンド茶カテゴリーの72%を爽健美茶が占めるに至り、一時期はコンビニエンスストアの棚から十六茶は駆逐されていた時期もあった。
飲料業界第一位の日本コカ・コーラは、紛れもなく業界リーダーだ。爽健美茶のポジションを築いたのはリーダーの戦略の王道、「同質化」である。下位のポジションにある企業のヒット商品の特性に、優れた開発力ですぐに追随。上市後、先行商品の存在をかき消すように、強大な販売力で市場を席巻する。スポーツ飲料カテゴリーにおける、大塚製薬の「ポカリスェット」に同質化戦略をしかけた「アクエリアス」も同社の製品である。
飲料は広告との相関関係が極めて強いのも特徴だ。リーダー企業は広告投下の資本力がある。また、量だけでなく広告表現も秀逸であった。
「爽やかに、健やかに、美しく」を意味する商品名を表現する、美しいCMキャラクターを用いたCMを連続投入した。95年の初代キャラクターは「こずえ」というモデル。(意外と知られていないのでサービスのトリビア・オフィシャルページ http://www.incent.jp/idea/model/kozue/index.html & 初代CM http://www.youtube.com/watch?v=50XHQ6wLY2o )以降、96年本上まなみ、97年未希、98年 小雪といずれも透明感のある美しい女性を連続投入して、ブランドイメージを確立に寄与した。
しかし、カテゴリーシェアを72%も取ってはもはや成長はない。故に、爽健美茶は賭に出た。2009年、初の男性キャラクターとして竹野内豊を起用。男性層への訴求を始めた。さらに、明確な男性向け商品である「爽健美茶・黒冴」をサブブランドとして上市。既顧客である女性層の離反が懸念されるが、それはより女性向けというポジショニングを明確にした「からだ巡茶」ですくい取る戦略だ。
競合が動いた時にはチャンスであるとアサヒ飲料は判断したのであろう。十六茶の製品リニューアルを決断した。
しかし、チャレンジャーはリーダーの10倍アタマを使わなくてはならない。同じような「男性向け」などといった、ターゲットセグメントを行わなかったのが特徴である。
ニュースリリースを見てみよう。
http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0119-2.html <朝の健康ブレンド茶!!「カフェインゼロ」と「十六素材のミネラル」のおいしさ> <朝ブレンド「アサヒ 十六茶」>
「カフェインゼロ」という訴求も実は爽健美茶の弱点を突いた差別化ポイントである。爽健美茶にはわずかながら、原材料由来のカフェインが含まれている。リーダーの弱みを突く戦術であるが、大きなポイントはそこではない。
性別ではなく、「用いられる時間」でセグメントを行い「朝」フォーカスしている。
<アサヒ飲料の調査によると「朝の健康的な水分補給」ニーズを背景に、お茶飲料の朝(6時~10時)の時間帯に飲まれる機会が他カテゴリーに比べ多いことが分かりました。また、「アサヒ 十六茶」においては、朝の購入比率が競合の茶系飲料に比較して高めという実態があります>とある。見事なチャレンジャーとしての戦略である。
2月16日の発売日に同時にリニューアルする製品がある。 <特定保健用食品『アサヒ 食事と一緒に十六茶』>である。
http://www.asahiinryo.co.jp/newsrelease/topics/2010/pick_0119-3.html
<食事と一緒に飲むことで糖の吸収をおだやかにすることから>という特性を持ち<同時にリニューアルする「アサヒ 十六茶」のパッケージと統一感のあるデザインを採用>したという。
朝に“朝ブレンド「アサヒ 十六茶」“。食事時、特に昼食に特保の“特定保健用食品『アサヒ 食事と一緒に十六茶』”。「時間軸」に注目したターゲットセグメントの切り取り方が秀逸だ。
その意志決定は、「昼食以降の、午後をバッサリ切り捨てる」という覚悟を物語っている。
この意志決定の凄絶さがわかるだろうか。
自らが切り開いた市場を力で勝るリーダーにもぎ取られた屈辱の日々。耐えること十余年。アサヒは反撃ののろしを上げたのだ。
「勝てるところを作って戦う」。十六茶の今後からは目が離せない。
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