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2009.12.07

牛丼戦争最終章・苛烈な「すき家」の戦略を読み解く

 牛丼戦争が最終章を迎えたようだ。ついにすき家は牛丼並盛りの価格を280円に値下げした。松屋が11月末にタレの改良と共に渾身の320円という値下げに踏み切ったばかりだ。すき家の勝算はいかに?

 すき家を経営するゼンショーの戦略を読み解くには、「3C分析」のフレームワークで考えると分りやすい。

 まず、Customer=「市場の環境、顧客のニーズ」である。いうまでもなく市場はデフレ現象を起こしており、モノの価格低下は留まるところを知らない。消費者は生活防衛のため消費を切り詰めている。2008年11月のオリコン調べでは、社会人の平日のランチ予算は49%が500円以下に抑えられているという。(400~500円未満・17.3%、300~400円未満・13.8%、200~300円未満・9.0%、200円未満・8.9%)。

 次にCompetitor=「競合の動き」である。昨今の牛丼チェーンの競合は、同業の戦いばかりではない。前述の通り、ランチ予算低減の動きをすくい取ろうと、スーパーは200円台の弁当を投入している。かつては200円台であった牛丼も、BSE騒動の影響で原材料確保が難しくなって300円台の後半にずるずると価格が上昇してしまった。消費者は200円台の記憶があり、デフレ環境下のランチ市場全体でみれば、本来「安さ」が魅力であった牛丼の価格は相対的に割高になってしまった。そして、顧客離れが起きていると、12月7日の日経新聞本紙の記事でも指摘があるとおりだ。
 では、牛丼チェーン業界内の競合の動きはどうか。吉野家は値下げに動けていない。セットメニューでの割安感を訴求する戦略を展開しているが、牛丼単価はそのままだ。松屋は動いた。11月末に、「松屋史上最高のタレできました」とする製品改良と共に、牛丼並盛り380円を320円とする渾身の値下げを行ったのである。

 最後にCompany=「自社の活かすべき強み・克服すべき弱み」をみてみよう。動けない吉野家、渾身の値下げを行った松屋に対して、すき家はあっさりと値下げに踏み切った。すき家(ゼンショー)の強みは、バリューチェーン上の「調達」にある。日経新聞にも記載されているとおり、吉野家・松屋の米国産牛に対してすき家は豪州産を使用している。米国産は豪州産の1.5倍の価格なのだ。

 単純に考えれば、以上のように、この勝負は調達の段階で終わっているように感じられるが、すき家(ゼンショー)の狙いはもっと深いと筆者は考える。

 昨今の流通における「値下げ競争」は凄まじいものがある。11月のボージョレ・ヌーヴォー解禁日、今年はペットボトル入りボージョレー・ヌーヴォーが登場し話題になったのは記憶に新しい。最も激しい戦いは西友、イオン、ドンキホーテの3社が最低価格をめぐって対抗値下げを繰り返し、半日毎に価格改定を行ったことだ。
 ワインに先立ち、同じプレイヤーが低価格ジーンズでも値下げ合戦を展開した。ユニクロと同じファーストリテイリングが経営するジーユーが990円ジーンズを発売すると、対抗すべく、各社はそれを下回る価格でジーンズを投入し、さらに値下げを繰り返した。

 その様子に対して、ファーストリテイリングの柳井 会長兼社長は冷ややかにコメントしている。 <非常に危険だと感じているのは、われわれが990円ジーンズを売るのは、企業として儲かっており、それだけ余裕があるからですよ。でも、ほかの余裕がない企業が990円のものばかり売ると、自分で自分の首を絞めるようなことになってしまう。これは経営判断として、非常に危険だと思います>(東洋経済オンライン12月 4日)
 ファーストリテイリングはユニクロやジーユー全体で顧客に対してトータルに価値提供をしている。さらに、自社も様々な利益率の商品を組み合わせて売るマージンミックスで利益を確保する。<企業として利益を上げてお客様を増やしていこうということよりも、単純に宣伝効果だけを狙う企業>(同)とは違うとの指摘だ。

 では、再び牛丼チェーン業界に視点を戻そう。渾身の値下げを行った松屋はどうか。松屋は牛丼チェーン業界の中でも最も多彩なメニューを誇っており、牛丼を値下げしても、まだまだマージンミックスを図ることは可能だ。しかし、牛丼依存率が低いため、更なる対抗値下げには踏み切らないとも考えられる。
 吉野家はどうか。カレーなども投入したが、何といっても牛丼依存率が高い。故に、値下げは難しい。今後の同社の主戦場は、「2010年代半ばまでに1千店出店」の計画があるというとおり、国内よりも中国市場に軸足を移すものと考えられる。

 では、すき家の戦略の真骨頂はどこにあるのか。日経新聞が伝えるところによると、<コメもブレンド米からコシヒカリに変更し、質も向上させる>とある。農林水産省から公表された平成21年産米穀小売価格調査の概要(21年10月分)によれば、コシヒカリの卸価格は下落傾向にある。同社にはフォローの風である。そして、値下げしながら品実改良をするという、一気にシェアを奪取する構えであると考えられる。規模の経済と経験効果を発揮して、ペネトレーションプライシングを実現するのだ。
 ペネトレーションプライシングは「市場浸透価格」と訳され、とにかく低価格・低収益率に耐えて市場のシェアを広げる価格戦略である。収支トントン、場合によっては戦略的赤字も辞さない。規模化することで、店舗什器などの設備費、広告宣伝費、メニューなどの開発費という固定比率を低減する。さらに、顧客の回転率を上げて、単位時間あたりの従業員の人件費率も効率化する。固定費・変動費率の低減によって利益を創出する戦略である。

 200円台の価格を実現したことによって、牛丼チェーン業界以外の低価格ランチ市場でも覇権を狙っているのは確実だ。しかし、その前に、すき家は既に店舗数で吉野家を追い抜いていることもあり、第一のターゲットが吉野家であることは間違いない。
 最終章に突入した牛丼戦争から目が離せない。

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