「衰退期」から返り咲け!カラオケボックスの挑戦
成熟期~衰退期の商品・サービスをかかえて悩んでいる人も多いだろう。もう一度盛り返そうとしたら、まず何を考えればいいのか。
日経MJ12月4日。3面と17面にカラオケルームのシダックスの記事が掲載された。
一つは犬を同伴して入店できる「ワンだふるルーム」。既にシダックス全店の3分の1にあたる100店舗で導入されているという。もう一つが札幌市内にオープンした「Bar Room 101」という1回にバーを併設した新業態店である。
カラオケボックスの発祥は<1985年のことである。第一号店は貨物用のコンテナボックスを改造したものを岡山県内の郊外の幹線道路沿いに設置したものであった。>とWikipediaにある。以来20年以上が経過した。少しデータが古いが、2007年度の市場規模は4270億円で10年前比35%低下であるという。施設でみれば、ルーム数も129,400室と同10年前比8割の水準である。(全国カラオケ事業者協会)市場は成熟期を過ぎ衰退傾向が顕著だ。
ほんの少し明るい傾向もある。同、全国カラオケ事業者協会の発表では2008年のルームの数は、2008年3月末で約128,600ルームと減少率が緩和されたという。それは、業界各社の努力のたまものだといえるだろう。
昨年あたりから「歌わないカラオケボックスの利用のされ方」がメディアで何度か取り上げられている。
平日の昼間。場所はオフィス街にほど近い店舗。ある部屋では、何と、会議やプレゼンが行われている。今時の映像を映す液晶画面には、PCの入力端子が付いている。結構画面が大きいため、プレゼンにうってつけだ。飲み物を個室に持ってきてくれるサービスも便利だ。
ベッドタウンの店舗、平日の昼下がり。ある部屋では若い主婦グループがランチを取りながら歌わずに談笑している。連れてきているこどもは大はしゃぎで騒いでいる。黎明期のカラオケボックスには乾き物のフードしかなかったが、昨今のカラオケボックスはファミレス並のメニューが揃う。個室・防音なので子供が騒いでも安心だ。
日曜の昼間。楽器を持ち込んで練習をしているおやじバンドの面々。カラオケマシンだけでなく、音楽用のパワーアンプが設置されている。
そして今回の「犬同伴」。約9割が昼間の利用で<カラオケをしないで、おしゃべりだけを楽しんで帰るグループも目立つ>(日経MJ)という。ペット談義に花が咲いているわけだ。
「バー併設」の特徴は<カラオケ(ルーム)では提供しないメニューを用意><バーテンダーが常駐するほか、ダーツも楽しめる>(同)という。カラオケと別会計のため単独利用も可とのことだが、やはりバー施設でひとしきり楽しんでもらって、二次会ノリりでカラオケ利用を見込んでいると考えられる。
そもそもカラオケボックスとはどのような存在であるかを考えてみれば、<カラオケボックスは、独立性の高い空間で仲間内だけでのカラオケが楽しめるようにしてある娯楽施設である>とWikipediaで定義されている。つまり「中核価値」は「カラオケを歌う」ことである。それを実現する「実体価値」が「個室・防音」で、中核の実現に直接影響はないが魅力を高める要素である「付随機能」が「飲食の提供」である。
「価値構造の転換」が衰退期にあるカラオケボックス活性化のカギなのだ。「中核」をあえて外して「実態」の「個室・防音」を中核に高める。それを求めるニーズは市場にないか考える。記事では自身もミニチュアダックスの飼い主だというシダックスの担当者が語っている。<「街に犬を連れて入れる場所は少ない」と思っていた。それならば、大勢の人が集う場所であるカラオケルームで、その受け皿を作ることができないかと考えた>と。
子連れ主婦のおしゃべりの場としての利用も同様だ。「こども連れで周りを気にせず楽しく食事ができるところが少ない」というニーズギャップをカラオケボックスが吸引しているのだ。本来、付随機能である飲食は、「味とメニュー数」を確保することで、「食事とおしゃべり」という、求められる「中核」を実現する「実体」に昇格している。
「貸し会議室の料金は意外と高い」というニーズギャップを「個室」という実体を中核に昇格させてすくい取った「会議利用」への対応は、液晶画面のPC入力端子程度なので特に何かを付け加える必要もない。。
「音楽スタジオの利用料金が高い」というおやじバンドも「個室・防音」が中核で、音楽用パワーアンプを実体として付加して取り込んだのである。
バー併設は「一次会二次会をまとめてやってしまいたい」というニーズ対応だろう。カラオケしながらでも飲食はできる。一次会でガッツリ呑み喰いしてしまうより、バーでちょっと軽くの方が安上がりだし、面倒でない。既存のカラオケボックスの店舗に「付随機能」としてのバー設備を付け加えて提供できる効用である。
カラオケボックスの衰退からの返り咲きは、「価値構造の転換」という「引き算」と「足し算」である。中核として欠かすことができないと思いがちな「歌う」を取り去って考えてみる。すると、中核は何になるのか。「個室・防音」が昇格した。それに何を実体や付随機能として付け加えればいいのか。
一連の展開は全て、市場のニーズに注目して、大胆に発想の転換をして「引き算」「足し算」をした結果である。今後、市場の回復がどのように図られるのか、継続して注目したい。
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