自販機戦国時代 コカ・コーラの電子マネー戦略を考える
街を歩けば視界に2台や3台が必ず目に入る飲料の自販機。推計で全国に約220万台※が設置されているという。しかし、その増減を見ると、ここ数年は変化がなく飽和状態であることが分る。そんな市場環境の中で、日本コカ・コーラとJR東日本は「JR東日本の営業エリア内でコカ・コーラシステムが設置している自販機のSuica対応の本格展開を開始した、と発表した」(10月6日、さくらフィナンシャルニュース)という。
※10月6日日経新聞掲載の各社保有台数の積み上げでは324万台と試算
■従来の自販機戦略は「面の戦略」
飲料業界第1位の日本コカ・コーラの自販機は98万台で、保有数もダントツで業界第1位だ。同日、「伊藤園、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社に出資」(日本経済新聞)という報道があった。14億円を投じたという、その狙いは伊藤園の主力商品「お~いお茶」などを、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社の持つ3万台の自販機に入れることである。伊藤園の保有台数はこれまで13万台であった。
同様な展開は、8月12日に発表された、サッポロホールディングスによるポッカコーポレーションへの20%出資である。100億円といわれるこの投資の狙いは、サッポロの自販機設置台数は3万台に留まっていたが、ポッカの持つ9万台に対して製品供給し、営業基盤を強化することにある。
こうした展開の例は実は古くからある。独立系自販機専業オペレーション会社のジャパンビバレッジ。聞き覚えがない会社かもしれないが、女子レスリングの浜口京子選手が所属している会社である。同社は旧ユニマット時代に1998年4月に日本たばこ(JT)の資本を受け入れている。そのため、飲料各社の製品を自社の自販機に混載する形式で設置しているものの、JT製品が常に一定の割合で入れられている。
つまり、自販機の戦いは「面の戦い」であり、いかに自社製品を扱う自販機の台数を確保するかが勝つための絶対法則なのである。しかし、面展開を拡大するのであれば、新規設置をすればいいのではという考え方もあるだろう。ところが、冒頭でも触れたように、自販機市場は既に飽和状態であり、物理的に考えれば、もはや好立地に空きはない。せいぜいが新しくできたコインパーキングの入り口付近に、小銭の両替機代わりに設置させてもらうのがせいぜいなのである。
■変わる競争ルール
面での戦いは、喉の渇きを癒したいという消費者の目にいかに触れるかが勝負という言い方もできる。自販機で飲料を購入する際、消費者の商品選択基準はあまり厳しいものではない。何となく茶系がいいとか、炭酸がいいとか、はたまたミネラルウォーターがいいとかの希望はあるものの、欲しいメーカーの商品を探してそれが入っている自販機を探すようなことはしない。故に、面をおさえることに意味があるのである。
しかし、面さえおさえれば勝てるという時代でもなくなってきた。一つは商業施設・機器メーカーの株式会社フジタカ(京都府長岡京市)どが展開する「低価格自販機」の存在だ。同社が展開する「ハッピーベンダー」は、自販機オーナーに飲料の仕入れ・補充・現金回収を全て任せ、商品は賞味期限が短かったり、パッケージが旧デザインだったりというものなどをディスカウントでオーナーが仕入れて低価格で販売するというしくみだ。飲料は高くて100円、50円の缶コーヒーなども珍しくない。そうしたディスカウント自販機は全国で4万台に上るという。同じ消費者の視界に低価格販売機が入れば、そちらが選択されることになるだろう。
もう一つは、駅ナカという圧倒的な好立地で、しかもメーカー資本などが入っていないため、完全混載型で各社の売れ筋商品だけを取りそろえる、JR東日本ウォータービジネスの展開する自販機である。「acure(アキュア)」というブランドで駅ナカで1万台を展開する同社は、伊藤園やサントリーなどと「朝」をテーマにしたオリジナル商品も展開している。オフィスや学校に向かう朝の通勤・通学途上に、街中の自販機に接触する以前に購入させてしまおうという導線を考えた戦略である。
さらにもう一つあげれば、前項で述べたメーカー各社の資本提携による、複数社商品の混載が進むことだ。提携は保有する商品の強み弱みを補完する意味合いもあるため、自販機に搭載される商品の魅力は弥が上にも向上する。単一メーカーでは、例えばコカ・コーラは炭酸とコーヒーは圧倒的に強くても、緑茶系飲料は、伊藤園「お~いお茶」、サントリー「伊右衛門」、キリン「生茶」の3強を切り崩せていない。スポーツ飲料はリーダーの戦略で大塚製薬の「ポカリスェット」に同質化をかけて「アクエリアス」を展開しているが、500ml未満の容量ではNo.1シェアを取れていない。つまり、単独メーカーでのフルラインナップは、複数社による提携や、独立資本による混載には品揃えでれる誤する可能性があるのだ。
以上の要に、市場環境や業界ルールが変われば、いかに強大な力を持ったコカ・コーラでも守勢に回ることを余儀なくされる可能性も出てきたのだ。
■縮む市場での勝ち残り戦略
自販機市場だけでなく、全産業に共通したことであるが、少子高齢化の進行は劇的なマーケット縮小を意味する。縮む市場においては、規模はそのまま弱みになる。築き上げてきた資産が負債化するのである。飲料販路としては、自販機が約40%のシェアを占めている。チャネル間の戦いも無視できない。コンビニは約25%のシェアである。そうした環境の中で、いかに自社のシェアを維持できるかを考えた時、日本コカ・コーラは電子マネー対応強化に踏み切ったのではないだろうか。
自販機の利用に対する不満をあげるとすれば、何があるだろうか。一つは「小銭」であろう。電子マネーの発達した昨今、買い物をしてジャラジャラと小銭が返されて財布がパンパンになるようなことは自販機ぐらいではないだろうか。にもかかわらず、相も変わらず、自販機には「新札使えます」とのシールがあるだけだ。千円札が夏目漱石から野口英世に変わったのは2003年のこと。もう6年間も何の変化が自販機にはないのだ。
もう一つの不満をあげれば、コンビニチャネルと比べると価格に差があったり、自由度がないことだろう。例えば清涼飲料はコンビニでは税込み147円、自販機では150円と釣り銭の関係で一物二価となっている。また、コンビニではキャンペーン的に税込み126円などの値引き販売もなされている。自販機の価格硬直性がどうしても際立ってしまう。こうした問題は、電子マネー対応で解決ができる。電子マネー決済の場合の価格と硬貨支払いでの二重価格にはなるが、多くの人が1枚や2枚は電子マネーを持っていると考えれば、そちらを利用するだろう。
日本コカ・コーラはこうした市場環境の変化の中で、まずは顧客の支払いに対する不満の軽減と、低価格機やコンビニチャネルとの価格競争に柔軟に対応できるインフラづくりとしてSuica対応を決断したのだと推測できる。
また、同社はキャンペーンによる魅力づくりにも腐心しているようだ<2009年11月2日(月)からは、コカ・コーラ自販機でSuicaを利用して飲料を購入した人を対象にプレゼントがあたる、共同プロモーションを実施する>(さくらフィナンシャルニュース)多分に他社自販機だけでなく、コンビニとのチャネル競争を意識した展開であろう。
今後の展開としては、<2009年12月までに首都圏を中心に約1万台のコカ・コーラ自販機へ対応を拡大、更に2010年12月末までに3万台のコカ・コーラ自販機へ対応を広げていく。また2011年以降も継続的な導入を実施していくという>(同)
同社の取り組みは、他社にも大きな影響を与えるだろう。自販機という、普段あまり注目されにくい世界でも、勝ち残りをかけた激しい戦いが始まったのである。
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