足し算・かけ算・引き算:新型洗剤の潜在力をチェックする!
花王の「スタイルフィット」「アタックNeo(ネオ)」、P&Gの「さらさ」など、昨今ニュータイプともいうべき衣類用洗濯洗剤の登場が相次いでいる。洗剤は普段なにげなく使っているコモデティー品の代表格といってもいい。それらは長く進化を止めているようにも見えるが、そのままで生き残っていられるほど現代の市場環境は甘くはない。では、ニュータイプ洗剤は進化の過程でどのような力を獲得していったのだろうか。
まず、商品における「進化」とは何かを考えてみよう、「進化」とは広辞苑によれば「生物が世代を経るにつれて次第に変化し、元の種との差異を増大して多様な種を生じてゆくこと」とある。「生物」ではなく、消費者から選ばれ、買われなければ生き残れない「商品」で考えれば、「元の種との差異を増大」は、選ばれるために商品の「価値構造」を変化させ、価値を高めることに他ならない。
■洗濯石けんから粉末洗剤へ
衣類の洗濯には、古くは天然油脂を原料とする、いわゆる「石けん」が用いられていた。
洗濯石けんを用いることによる「中核的価値」は「衣類の汚れが落とせる」である。特に、水洗いでは落とすことのできない皮脂などの、水に溶けない汚れを落とすには欠かせない存在である。
洗濯石けんは、電機洗濯機の普及によって洗濯が人力から機械化されたと共に、より水に溶けやすい性質を持つ、「洗濯用粉末洗剤」にその座を明け渡すことになった。洗剤は「汚れが落とせる」という中核的価値を実現する欠かせない要素である「実体価値」に、「よりきれいにする」「より白くする」という要素を付け加えることになった。漂白剤による汚れの分解と、蛍光剤による増白である。
■コンパクト洗剤が実現した価値
次の変化は1987年に起きた。世界に先駆けて日本で開発された、「コンパクト洗剤」である。それまでの洗剤に比べ容量で1/4、重量で1/1.6という画期的な小型化を図ることができた。コンパクト化で増大した価値は、中核的価値に影響を直接及ぼすものではないが、それによって商品の魅力がより高まる要素である「付随機能」である。今までかさばって邪魔だった洗剤の大きな箱が占拠していたスペースが節約できた。さらに、空き箱のゴミも減る。使用量が少ないため、洗濯機から排出される汚水が環境に与える負荷も低減できるという要素である。
■液体洗剤の普及がもたらした価値
経済産業省によると、衣料用洗剤のうち液体のシェアは2003年には15%(販売金額ベース)であったが、節水型のドラム式洗濯機の普及で2009年に入って40%へと上昇したという。販売数量の伸びによって、規模の経済が働いたためか、メーカー各社から従来よりも低価格な設定の商品が発売されたことも普及を促進したと思われる。欧米に比べて液体洗剤シフトが日本で遅れたのはやはり、「液体はいいけど高い」という消費者の判断があったからだ。では、その消費者が感じている液体洗剤の価値は何かといえば、粉末洗剤の「粉が飛び散る」「溶け残る」「洗剤の自動投入口に残る」といった問題点を解消し、「汚れのひどい所に部分的に塗る」という新たな使い方ができることである。つまり、それらは、「汚れが落とせる」という中核的価値を実現するのに欠かせない要素である「実体価値」を強化していることになる。製品の価値構造において、中核的価値により近い部分に要素が付け加わったり、強化したりということが実現すると、それは消費者に大きなメリットをもたらすため大ヒットにつながる場合が多い。洗濯機が新しくなり、価格も安くなった液体洗剤を使った消費者は手放せなくなり、普及が大きく加速したのだ。来年には粉末と液体はシェアが逆転すると業界は見ているようだ。
■液体洗剤の勝負のしどころ
粉末の問題点を解消した液体洗剤であるが、実は主成分である界面活性剤が液体であるため、実体価値である、「よりきれいにする」「より白くする」を実現するための酵素剤、キレート剤、酸素系漂白剤などが、水に溶けて安定しているものが少なく入れにくいという弱点が存在したという。そのため各社の勝負は、いかに実体価値を高めるかに注がれることになり、「輝く白さ」や「色柄ものの鮮やかさ」などの仕上がりを競い合うようになったのだ。
■「足し算」の花王・スタイルフィット
上記の「よりきれいにする」「より白くする」という実体価値は、各社の努力で一通り実現されたようであるが、そうなると、再び付随機能での勝負が始まる。もともと、製品の価値構造は、中核的価値から一番遠い付随機能を付加する方が一番バリエーションも多くやりやすいといえる。多くの製品がコモデティー化すると、カラーバリエーションに走るのはこのためだ。例えば、ノートパソコンが何色であっても、ドキュメントの作成やインターネットの利用という、中核的価値には何の影響も及ぼさない。しかし、もはや差別化は色ぐらいでしか図れないため、在庫リスクの上昇というデメリットを承知で各社はカラーバリエーション展開をしているのだ。
液体洗剤の付随機能として、花王は「香り」に注目した。米国製の柔軟仕上げ剤「ダウニー」は、仕上がってからも強烈に香りが残る。従来の日本製にはないそうした要素が若年層や若い主婦に受けて、主にECサイトを中心として大人気となった。そこで花王は、2009年6月のスタイルフィットの製品リニューアル時に、セット商品の柔軟仕上げ剤と共に「香り」の要素をさらに強調するようになった。
■「かけ算」の花王・アタックNeo(ネオ)
花王のチャレンジはスタイルフィットのような、付随機能の足し算だけでは終わっていない。2009年6月に新CIを定め、環境宣言を掲げたのと時を同じくして、そのポリシーをそのまま製品化したかのようなアタックNeo(ネオ)を発表。8月末から発売を開始した。同製品は、液体洗剤を従来の2.5倍という高濃度に圧縮し、少量でも、抜群の洗浄力を発揮するという。そして一番の眼目は、繊維に残りにくく、すばやく泡切れするという新洗浄成分の特徴を活かし、従来すすぎを2回していた洗濯のしかたを、すすぎ1回ですむようにしたことだ。
濃縮度を上げて使用量を減少させたのは、粉末時代のコンパクト洗剤と同じく、環境負荷軽減に役立つが、さらにすすぎ1回は水と電気の使用量を削減できるという効果がある。当然、水道代、電気代の低減できるため財布にもやさしい。さらに、すすぎ1回、10分間という時間も短縮でき家事の負荷軽減も実現する。それは、洗剤の「汚れが落とせる」という中核価値の実現を支える、実体価値を何倍にも高める「かけ算」であるといってもいいだろう。
■「引き算」の P&G・「さらさ」
P&Gはたぐいまれなるマーケティング力によって、世界の様々な市場において圧倒的な力を誇っているが、こと日本の衣料用洗剤市場では花王、ライオンに次ぐ3番手と後塵を拝している。従来、米国を始め世界市場での成功商品を日本に持ち込む展開をしていたが、今回は満を持して、同社の力の源泉である綿密なマーケティング調査を経て、日本専用商品を投入したのである。その名も「さらさ」と日本語である。
膨大な消費者調査を行ったという同社が発見した日本の消費者ニーズは以下のようなものだ。(7月29日付け・同社ニュースリリースより)<全体の約3割が「本当に欲しいと思う洗剤に出会っていない」と感じていることが明らかになりました(P&G調べ)。この約3割のお客様は、「蛍光剤、漂白剤、着色料が入っていない洗剤を使いたい」という思いがより強く、「今ある洗剤では自分にとって必要ない成分まで入っている気がする」というものでした>。そして、蛍光剤・漂白剤・着色料を無添加を実現した製品に仕上げたという。
これは、従来の「よりきれいにする」「より白くする」という実体価値の大転換である。新たな製品コンセプトを考える際には、中核・実体・付随機能という価値の要素に何かを付け加えることも重要であるが、何かの要素を削除したり、書き換えたりという「引き算」も重要なのだ。引き算のニーズを持っている顕在化したターゲット層は3割であるが、ロハス(LOHAS)の意識も高まっていることから、潜在的なターゲット層はもっと多そうだ。同社は「サステナビリティ(持続可能な社会)の実現」を掲げている。花王が新CIを体現した商品を投入したのと同じく、日本市場専用に開発されたこの商品にかける意気込みが伝わってくる気がする。
以上のように、洗濯洗剤の歴史と最近の傾向をひもといて、価値構造の変化を検証してみた。繰り返すが、「進化」とは、「元の種との差異を増大して多様な種を生じてゆくこと」であり、商品においては「価値構造を変化させ、価値を高めること」を意味する。どんな商品も進化なくして生き残ることはできない。常に、消費者からどのような価値構造が求められているのかに留意することが肝要である。
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