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2009.10.24

牛丼戦争 水に落ちた犬は打て? 容赦ないゼンショーの攻撃

 牛丼の「すき家」のCMを見ていて、鳥肌が立ったのは筆者だけだろうか。

 「う~ん、うまい」「うんまーい!」「おいしいねぇ」。牛丼を食べる人々の言葉の間に「きょうも330円」「あしたも330円」「いつでも330円」とのナレーションとテロップ。そして「牛丼新時代」と締めくくる。

 ゼンショーが運営する「すき家」の店舗数が「吉野家」を抜いて牛丼チェーンのトップに躍り出たのが2008年9月末の時点だ。「いつの間に?」とネットでも大きな話題になったのは記憶に新しい。
 その1ヶ月前にも話題が盛り上がっていた。「キン肉マン」とのコラボレーションだ。マンガ連載開始29(=肉)周年を記念した「キン肉マン祭り」をゼンショー傘下の「すき家」「なか卯」合同で展開した。キン肉マンの読者・視聴者世代からは、「キン肉マンが吉野家を裏切った!」と大きな反響があった。マンガの中に「吉野屋(←家ではない)」が登場し、アニメの中では「牛丼一筋300年、早いの、美味いの、安いの~」と、吉野家を連想させる表現があったからだ。
 さらなる話題もすき家がさらう。今年4月には「値下げで価格に敏感な消費者の来店を促す」として、牛丼の価格を下げ、現在の価格である330円とした。吉野家には対抗値下げができない理由があった。米国産の牛肉を主に使用しているため、すき家が主に使用する豪州産よりも仕入れ単価が約1.5倍高いのだ。

 一連のゼンショーの動きを見ると、かつてのリーダー企業である吉野家の力の源泉を、一つ一つ潰していることが分る。マーケティングの4P、即ちProduct(製品)、Price(価格)、Place(販路)、Promotion(広告・プロモーション)。順不同だが、プロモーションでは、キン肉マン=吉野家のイメージを壊し自社に取り込んだ。次に販路を吉野家を上回る数にした。さらに圧倒的な価格優位性を構築したのである。製品=牛丼の味に関しては、ここでは論じない。各自の判断に委ねることとしたい。

 現在、吉野家が行っているキャンペーンは、「今だけ!ヨシギュー祭り」。期間中牛丼1杯を食べる毎にもらえるサービス券3枚が貯まると、1杯無料で食べられるというしくみだ。4杯分の平均単価にすれば、285円と随分オトクになるのだが、あくまで4杯食べればの話。そして、期間限定。それに対してすき家は「いつでも330円」と、吉野家のキャンペーンの無力化を図っている。

 CMをよく見るとさらに戦慄すべき部分が見てとれる。
 「牛丼新時代」の一つ前のカットに、カウンターで牛丼を頬張るサラリーマン氏が女性店員に「いつも頑張っているねぇ」と声をかける。店員は笑顔で「ありがとうございます!」と応える。一見何のことはないやりとりだが、あえてこのシーンを入れた意図を考えてみる。
 店員のイメージでは、吉野家はイタイ過去がある。「テラ豚丼騒動」だ。店員が厨房で非常識な山盛りの「テラ豚丼」を作ってニコニコ動画に投稿し、その映像に不衛生な部分もあったことからネットで大いに物議を醸したのである。
 すき家は「牛丼新時代」の要素として「元気なサービス」を挙げる。「すき家に来ると元気になれる。クルーの笑顔が今日もお店でお待ちしています」とアピールする。(同社ホームページより)。
 マーケティングの4Pだけでなく、人的要因が重要であるということから、もう一つのP=Personを加えることがある。その部分まで吉野家対抗として持ち出していると考えるのは穿ちすぎであろうか。

 「水に落ちた犬は打て」は中国の作家・思想家の魯迅(1881~1936)の言葉である。簡単に要約しよう。
 勇敢な拳闘士同士であれば、礼を尽くし、地に倒れた敵を打ちはしない。相手はみずから恥じ悔いて、再び手向かいしないか、あるいは堂々と復讐に立ち向かってくるからだ。しかし、犬は水に落としてもあっという間に何度でも挑んでくる。もう出てきて人に咬みつくことはあるまいと思うのは大きな間違いである。(『フェアプレイ』はまだ早い」・『魯迅文集3』・ちくま文庫)
 競合に敗れた同社を犬呼ばわりする主旨ではない。厳しい経済競争において、「再び手向かいしない」ことも「堂々と」リターンマッチを宣言することもない。犬ではないが、何度でも、すぐに相手に咬みつきに行くのが原則だろう。
 だとすれば、リーダーの座についたら、水に落ちた相手は「打つ」のである。それも徹底して。

 しかし、その徹底することを躊躇する気持ちも一片は涌くだろう。「ここまでやっては消費者の反感を買わないだろうか」と。しかし、ゼンショーに迷いはない。吉野家ホールディングスは今期、最終損益も赤字に転落するとの見込みを発表した。まさに水に落ちた状態である。
 何気ないCMではあるが、その苛烈さを極めた意味合いが透けて見えて、筆者は背筋が寒くなったのである。

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