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22 posts from October 2009

2009.10.31

カメラのキタムラの「レンタル」事業は1粒で3度オイシイ!

 カメラの「キタムラ」がデジタル一眼レフのレンタルサービスを10月22日から開始した。
<キタムラ、全国76店舗で“デジイチ”や交換レンズのレンタルを開始>
http://news.walkerplus.com/2009/1031/9/

 東京ウォーカーの記事によれば、 <ターゲットは30~60歳の男女>であるといい、数店舗での試行サービスを経て<「大切なイベントで使いたい」「レンズなど目的商品を試してから購入したい」>というニーズに応え、全国展開に踏み切ったという。
 同社のレンタル事業の担当者が<「単にインターネットを使ったレンタルサービスではなく、全国の店舗を受け取りや返却の窓口にしました。近くの店舗を利用できて、店員から使い方のレクチャーが受けられる“専門店の強み”を活かしたサービスになっています」>とコメントしている。

 サービスの概要は<レンタル期間は当日~13泊14日。料金設定は市場価格の10分の1~20分の1程度>である。事業としては<初年度の売り上げ目標は1億円。来年1月には実施店を全国1000店舗に拡大し、5年後には10億円を目指す>という。

 「カメラ屋さんがカメラを売らないで、貸しちゃってどうすんの?不景気に対応して販売からレンタルに業態転換するのか?」と思われるかもしれないが、同社の狙いは確かだ。
 不景気で消費者は高額商品の購入を抑制する。反面、各種のレンタルサービスは活況を呈している。同社の新事業は、まずはそこに勝機を見いだしたのだ。

 しかし、狙いはそこだけではない。同社はハードの販売以上にDPE(プリント)を収益の柱としている。
 写真を撮るという習慣は、デジカメの普及によって大きく変質した。フィルム代がいらなくなったことから撮影数は爆発的に増えているが、プリント数が激減しているのだ。DPE店に出さず、家のプリンタで出力するか、パソコンにデータを転送する。もしくは大容量になっているカメラのメディアに貯めっぱなしになっていることも少なくない。

 キタムラの店内を見ると、ズラリと並んだセルフサービスのプリントマシンが目に入る。そこで、多くの人が楽しげに自分が撮影した写真を選んで、プリントしているのだ。そして、家庭用プリンタでは真似できないきれいさに仕上がる。
 レンタルを受けに店に来た時に、その光景は顧客の頭にインプットされる。そして、返却に来た時に、「プリントしてみよう!」と思うのである。カメラ店というより、DPE店という業態でトップシェアを持つキタムラの姿を考えれば、レンタルサービスは黙って待っていてもプリント客が増えない時代の、強力な需要創造策であることがわかるのだ。

 もちろん、カメラの販売にも貢献する。同社の商品価格は決して高くはない。しかし、とにかく価格勝負の大型量販店とい比べれば、必ずしも最安値を実現はできていない。
 レンタルサービスは「近くの店舗」で「店員から使い方のレクチャー」を受けて、気になるカメラを「試して」「納得して」から、顧客が実際に購入してくれるという効果も期待できるのである。

 1粒で3度オイシイキタムラのレンタル事業をフレームワークで考えてみよう。

 消費者の態度変容モデルはAIDMAが有名だ。A(Attention:注目)→I(Interest:関心)→D(Desire:欲求)→M(Memory:記憶)→A(Action:行動)である。それに替えてAMTULというモデルを用いる場合もある。A(Awareness:認知)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)だ。
 AIDMAは消費者が商品を認知してから購入に至るまでをプロセスとしてとらえているが、AMTULは試用を経て購入し、反復購入させるまでをとらえたモデルである。

 キタムラの場合はレンタルサービスを認知(Awareness)させるとともに、店頭でプリントサービスも認知させ、記憶(Memory)させる。レンタルサービスでカメラを試用(Trial)させ、納得した人には購入してもらう。プリントも利用してもらう。そして、プリントの仕上がりを気に入ってもらって、頻繁に使ってもらい(Usage)、同社のファンにする(Loyal)という戦略である。

 「カメラ店がカメラ売らなくてどうすんの?」と短絡的に考えては同社の戦略は見えてこない。実は、時代に合わせた深謀遠慮があり、1粒で3度オイシイ設計になっているのである。

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2009.10.28

とってもビミョーな「コカ・コーラ プラス」を展開する理由は何だ?

 食物繊維入りのコーラの発売である。「コカ・コーラ プラス ファイバー」。

「コカ・コーラ プラス」は<「健康的でスタイリッシュに毎日を過ごすための、ちょっとした“plus”をくれるブランド」>だという。(日本コカ・コーラWebサイトより)
 製品第1弾として今年1月に発売されたのが、レモンフレーバーで「ビタミンC配合」の「コカ・コーラ プラスビタミン」。前年に発売された「ノーカロリー コカ・コーラ プラスビタミン」を原型としたものである。
 それを「コカ・コーラ プラス」という独立したブランドとして立ち上げたのは、<消費者から特に支持の高かった“栄養素をプラスする”という発想を一歩進め>(同)る狙いがあるという。そして<“美容”や“健康”に敏感な20~30代の女性>というターゲッティングをし、<健康的でスタイリッシュに毎日を過ごすための、ちょっとした“plus”をくれる>というポジショニングを設定している。

 今年1月の「コカ・コーラ プラス」のブランド立ち上げに対して、「コーラなのに健康に良い?」と当時ネット上で突っ込みの書き込みも散見されたが、続く第2弾として6月はに緑茶フレーバーで「カテキン配合」「コカ・コーラ プラス カテキン」の発売を敢行。そして、第3弾として10月26日に「食物繊維配合」の「コカ・コーラ プラス ファイバー」が発売され、27日にはコンビニなどの店頭に一斉に並んた。

 今回「プラス」するテーマとして「食物繊維」がなぜ、選ばれたのかという理由は正式発表されていないのだが薄々想像ができる。
 流通関係者からPOS情報の話を聞いた。「プラス カテキン」は、実際には男性の購入者の方が多かったというのである。
 花王の「ヘルシア緑茶」で「カテキンが何とかしてくれる!(このオナカを)」という暗黙の認識が主に男性の間で広まった。しかし、「苦いヘルシア緑茶を飲む”修行”は無理」。「ヘルシアスパークリングは350mlで189円と値段も高い!」という意見が多いのも事実だ。
そんな背景から「プラス カテキン」は「ゼロカロリーでカテキンってことは、このコーラでも(このオナカを)何とかなるに違いないっ!」という、ビミョーでハンパな男性層(筆者を含む)を引き寄せてしまったに違いない。
 そんな(ハンパな)男性層を振り払うべく、「まさか食物繊維はオトコどもは関心を示すまい」とふんで、今回の「プラス」のテーマは選ばれたように思うのである。

 しかし、そもそも、コカ・コーラがこのブランドでやりたいことって、一体何だろうと考えてみる。
 まずは、現物を知らねばと(筆者はターゲットではないながら)飲んでみた。特定のフレーバーが添加されているという情報はなかったし、確かに食物繊維に味はないだろう。しかし、通常のコカ・コーラゼロとも異なる味わい。ビタミンやカテキンとも共通する、オイシイ!とも、マズイ!とも断定できないビミョーな味が踏襲されていると感じだ。今回は添加されているファイバーの影響なのか、何やら歯の上に薄い膜が張る感じがするのは気のせいだろうか。

 ともあれ、「プラス カテキン」は従来の「コーラで健康?」というポジショニングとその「味」のビミョーさで、今回も早くもネットで話題になり始めている。話題性という意味では成功しているといっていいだろう。

 そう、「コカ・コーラ プラス」ブランドの狙いは「話題づくり」ではないかと考えられるのだ。

 コカ・コーラの競合といえばペプシである。ペプシは「変わり種ペプシ」が毎年初夏と晩秋の風物詩として定番化し、毎回コンスタントに大きな反響を呼ぶようになった。今年も「しそ」に続いて今月20日に発売された「あずき」が大反響である。
 日本のコーラ市場で80%という強大なシェアを持つコカ・コーラは無敵のリーダーだ。リーダーの戦いは常に全力で相手をたたきつぶす勢いで展開される(独禁法に引っかからない程度に)。そして、リーダーはチャレンジャーと同じようなポジショニングをとったり製品を開発してぶつけたりすることによって、その存在をかき消す戦術を得意とする。「同質化」という。それ故に、日本コカ・コーラとしては「変わり種ペプシ」にも話題をかき消すような製品をぶつけたいはずなのだ。

 しかし、こと、「変わり種」に関してはコカ・コーラは思い切ったことができないのである。なぜなら、「理論の自縛化」にかかっているからだ。古くは「すかっと爽やかコカ・コーラ」に代表されるようなイメージはコカ・コーラの大切な資産である。それを、キワモノで壊すことはできない。また、コーラらしからぬ、コーラの色とは異なる液色の飲料を「コーラ」と称することもできない。
 「理論の自縛化」とは、リーダーが今まで発信してきたメッセージと矛盾するようなアピールを行うことによって、リーダーの得意技である「同質化」を封じるチャレンジャーならではの必殺技だ。ペプシブランドを日本で展開するサントリー食品は、「(変わり種ペプシは)2本目を買ってもらおうとは思っていない」と言い切る。それはチャレンジャーならではの割り切った大胆な話題づくりに特化した作戦なのである。

 日本コカ・コーラは「話題になりさえばいい!」と割り切った展開はできない。故に、話題づくりにも<健康的でスタイリッシュに毎日を過ごすため>というような大義名分が必要なのだ。
 さらに、80%ものシェアを取っているため、新製品が話題になっても「結局は自社ユーザーが買っているだけ」ということでは意味がない。コカ・コーラは男性ユーザーが多い。特にコカ・コーラゼロは男性をメインターゲットとしている。取り込めていない女性を取り込むため、<“美容”や“健康”に敏感な20~30代の女性>というターゲット設定をしているに違いない。それ故、意に反して男性が群がってきて「ゼロ」とカニバリを起こした「カテキン」はさっさと市場から撤退させたのだ。

 チャレンジャーはリーダーから潰されてしまわないように、リーダーの100倍知恵をつかえとよくいわれる。しかし、リーダーもリーダーなりに気を遣わなくてはいけないことがたくさんあって大変なのである。

 以上の分析は、日本コカ・コーラのニュースリリース、流通関係者からのヒアリング、インターネット上の書き込みから推測したものだ。その正否はわからない。しかし、こうしてまた一人インターネット上で話題にする人間がいるのは日本コカ・コーラの戦略が一つの成功を納めたことになるのだろう。

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2009.10.26

熱い思いは伝わるか? モーターショーから垣間見えるものとは?

<「開発目標は、ドリフト性能世界一です」>そんな開発リーダーのコメントが報じられた、コンセプトカーとして東京モーターショーに出展中のトヨタ「FT-86 Concept」。そこには、どんな狙いが隠されているのだろうか。

<トヨタ「FT-86 Concept」、新ハチロクの開発目標はドリフト性能世界一>(日経トレンディーネット)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20091023/1029817/?P=1

 「FT-86」に付けられた「ハチロク」はトヨタが1983年に発売したスポーツカー「カローラレビン」「スプリンタートレノ」の車両型式番号「AE86」が原型だ。大ヒットマンガ『頭文字D』の中でドリフト走行のテクニックがピカイチの主人公が乗る無敵のクルマでもある。

 うーん、ハチロクで「ドリフト性能世界一」とはまさにマンガの世界・・・と思うと同時に、「誰がターゲットなの?」とも思った。開発リーダーのコメントは続く。
<「ゴルフのスコアで100を切れるくらいの運動能力がある人ならドリフトが決められる、そんなクルマを目指しているんですよ」>
 「ゴルフのスコアで100」・・・やっぱりオジサン、往年のファンがターゲットであるようだ。その狙いを開発者はズバリ語っている。
<メインターゲットは40~50代の男性。つまり80年代の若いころに、かつての「ハチロク」に乗っていた、あるいは憧れていた人々だ。「目指すのは、オヤジがカッコよく見えるクルマ。運転するお父さんを見て、息子が自分も乗ってみたい、運転したいという憧れや夢を抱くクルマにしたい」>

 「若者のクルマ離れ」といわれて久しい。若年層の就業環境や収入の問題も大きな要因であるため一概には言えないが、若年層の興味・関心がクルマから他のことに移行しているのも事実。
 しかし、既に興味・関心を失っている層に「クルマはステキだ!クルマは素晴らしい!」と言っても耳を貸してもらえるものではない。例えば、「陶芸」に興味がない人にその美しさや文化的な意義を説いても無駄なのと同じだ。故に「将を射んとせばまず馬を射よ」。まず、脈のあるオジサンを取り込んで、一子相伝でその魅力を教え込ませようという戦法なのだ。開発者の願いは<オジサンたちの楽しそうな姿から、若い人にも関心が広がってほしいと考えている>ということである。

 世界的に見れば、新興国の需要は活発化している。また、インドネシアでの二輪車の生産が急増しているということは、それは四輪車の先行指標であり、さらに需要が高まる新興国も控えていることを意味している。しかし、そこで求められているのは、低廉で利益率の決して高くないクルマである。
 国内は少子化によってマーケット縮小は如何ともしがたい。しかし、それよりも急速な若年層の「クルマ離れ」によるマーケットの縮小は何としても避けたいところだろう。ましてや、業界最多のシェアを持つリーダー企業は最もその影響を受ける。

 トヨタは「若年層の親狙い」よりも、さらに壮大な戦略も展開している。
<レクサスLFA開発者に聞く、3750万円のスーパーカー誕生のワケ>(前掲)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20091022/1029799/?P=1

 3750万円といえば、フェラーリのトップクラスとも比肩する価格であり、超富裕層ターゲット向けのクルマである。しかし、限定500台・採算度外視で作られたこのクルマの狙いはそこだけではない。
 <LFAの使命は、クルマがもたらす官能・感動の領域を極限まで追求して、レクサスのブランドイメージのさらなる浸透を図ること>とトヨタの旗艦ブランドへの貢献もさることながら、<そして未来を担う子供たちに、クルマの素晴らしさを伝えるメッセンジャーとなってほしいという意図も込めている>という。
 若き日に前出の「ハチロク」に乗ったり、あこがれたりしたオジサンたちは、もっと小さかった頃にはキラ星のごとき「スーパーカー」にドキドキしていた。そのドキドキを今の子供たちにも伝えようというメーカーとしての夢と意志が込められているのだ。

 トヨタは、ハイブリッドや電気自動車、エコカーの開発と同時に、こうしたガソリンエンジンのスポーツカーも開発するという、全方位型の展開をする。それは自動車業界のリーダー企業ならではの戦い方だ。
 体力に劣るチャレンジャー企業であるホンダは、フラッグシップスポーツ「NSX」後継車の開発を既に中止している。しかし、「次世代にクルマの魅力を伝えたい」という熱い思いは同じだ。それ故、集中戦略に徹し、思いをハイブリッドの上で結晶化させた。

<ホンダ「CR-Z CONCEPT 2009」、ほぼそのままの形で来年2月市販化>(前掲)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20091022/1029804/?P=1

 ホンダは「ハイブリッドスポーツ」というコンセプトを世に問うている。正直言って、カッコイイ。記事によると、展示ブースの上に「コンセプトカーのデザインのまま、世に出せないか。」という挑戦的なコピー掲げられているが、これがこのまま街を走り回ったらさぞやドキドキするだろう。
 同社のデザイン担当者はハイブリッドスポーツの使命を語る。<「次世代につながるスポーツカー像や、その楽しみを提案していくのが目的です。今のままでは、スポーツカーというジャンルが世の中から取り残されて、一部のマニアしか目を向けなくなってしまう。子どもができてミニバンに乗る前に、一般の人たちもこういったクルマを楽しんで欲しい、そのためのCR-Zです」>。

 出展社数半減、外国勢参加は2社のみで、開催期間も短縮と、どこか寂しさだが感じられる今年の東京モーターショー。それだけに、メーカーからの熱い思いがとりわけ鮮明に伝わってくる。その思いが次世代に伝わることを願ってやまない。

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2009.10.25

そして吉野家は中国に渡る

 吉野家ホールディングスの中核事業である牛丼の吉野家が、今後中国市場を成長の基盤とするようだ。

<吉野家が中国1千店の野望 13億人の“胃袋”争奪戦>
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/091024/biz0910241800005-n1.htm

 MSN産経ニュースが報じるところでは<同社は、平成3年に香港に1号店をオープンし、9月末までに沿岸部を中心に218店を出店。21年2月期の販売額は約170億円に達した。さらに「2010年代半ばまでに1千店」の計画を掲げ、店舗網の拡大を急ぐ>という。

 吉野家の日本国内の店舗数は今年9月末の時点で1,077店。少子高齢化が進む国内で座して死を待つことはできず、巨大マーケットである中国市場を目指す企業は少なくない。
 主だったところでは、<牛めしの松屋フーズは9月末に上海に1号店をオープン。今後3年かけて上海で10店の展開を目指す><上海を中心に41店を展開するイタリアンレストランのサイゼリヤは、来年8月までに新たに40~50店を新規出店する計画>だという。しかし、吉野家の進出ピッチは突出して急速である。

 その背景には止むにやまれぬ国内事象がある。<「さまざまな販売施策を講じても、売り上げを押し上げる効果はない」>3億円の最終損益見込みを発表した<8日の21年8月中間決算発表で、安部社長はため息を漏らした>という。

 成長戦略のオプションを考える「アンゾフのマトリックス」で同社の展開を分析してみよう。縦軸に既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのかという市場の軸をとり、横軸に既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかという製品の軸をとる。
 次にその掛け合わせでマトリックスを作る。
 既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、新製品を新市場に展開する「多角化」の4象限である。但し、新たな商品で新たな市場を狙う「多角化」は、何か自社内にシナジーを発揮できる要素がない限りリスクが大きすぎるため避けるべき選択肢だといえる。

 「市場深耕」を実現するためには、既存顧客の購入頻度を増やすことや、購買量を増やすことを実現する必要がある。中核事業の吉野家においては、業界内の価格競争に劣後し、さらに「牛丼一本」にこだわった結果メニュー開発が遅れたという経緯もある。さらに、使用する牛肉が米国産であることから、狂牛病騒動以来、敬遠する顧客も少なくない。頼みの綱は、現在展開をしている「3倍食べれば1杯無料」といったキャンペーンでの顧客のつなぎ止めだろうか。

 「新製品開発」は次々と新商品を既存市場に投入していく展開を意味するが、フードチェーンで考えれば、異種の業態のチェーンを拡大して顧客に複数ブランドを利用させることになるだろう。
 吉野家ホールディングスのグループ展開では、2009年2月期の時点で中核の「牛丼関連事業セグメント」の売上げが約6割に上る。次に大きいのが、テイクアウト鮨の「京樽」、江戸前鮨専門店「すし三崎丸」、回転鮨「海鮮三崎港」「うおえもん」などを展開する「寿司関連事業セグメント」で約18%を占める。他にも讃岐うどんの「はなまるうどん」やカレーうどんの「千吉」などの人気店も擁するがセグメントとしては大きくはない。(以上、同社IR情報より)
 加えて、傘下の「ステーキのどん」が食中毒問題で約8億円の営業赤字に陥ったり、子会社のアール・ワンが運営するラーメン事業「びっくりラーメン」が業績不振で事業売却もできずに廃業するなど、赤字決算にいたる足を引っぱる要因として作用している。
 つまり、吉野家ホールディングスの中核事業はあくまで「吉野家」であり、「新製品開発」はあまりうまくいっていないといえるのだ。

 「新市場開拓」では、新たな顧客属性を開拓するという新市場と、物理的に他の地域に展開するという新市場の2通りの意味がある。前者の新たな「顧客属性」で考えれば、同社の顧客はファストフード客やファミリーであり、いわゆる「高級店セグメント」に伸長することは難しい。また、そのセグメントは経済停滞の中、例えば「レストランひらまつ」など、よほど運営ノウハウのある企業以外は苦戦を強いられている。
 となると、吉野家ホールディングスに残された選択肢は、中核事業の「牛丼」で、国外などの物理的に他の地域、新市場に展開する以外に残されていないことになる。

 MSN産経ニュースによれば<外食産業総合調査研究センターによると、20年の国内外食市場は前年比0・5%減の24兆4315億円と、ピークの9年から16%も縮小した。人口減少による先細りは避けられず、市場規模の日中逆転は時間の問題だ>という。それに対して中国市場で吉野家は<一店舗当たりの来店客数は、日本の平均的な店舗の1・6~1・7倍に上り、繁盛店では2~3倍の集客力を誇る>と大繁盛だ。
 顧客の評判もよく< 牛丼並み盛の価格は13~15元(約173~199円)。5~6元で食事ができる現地の飲食店に比べ割高だが、「経済成長による所得増で割高感が薄れ、来店客数の増加につながっている」(同社)という。中国でもヨシギューは“安い”に変わりつつある>という。

 マクドナルドが日本市場の登場したのは、筆者が小学生のころである。決して安くはなかったように覚えているが、店自体の珍しさと、新しい味覚ですぐに魅了された。中国市場での吉野家もそんな存在になるのではないだろうか。
 MSN産経ニュースは<日本の国民食となった“ヨシギュー”が次に狙うのは中国人民食だ>と分析した。
 企業は永続的な成長を続けることが求められる。ましてや、上場企業であればそれは課せられた使命だ。国内での苦戦と縮む市場での成長を断念し、新たな市場での急成長を遂げるという同社の果敢なるチャレンジにエールを贈りたい。


■関連記事
<牛丼戦争 水に落ちた犬は打て? 容赦ないゼンショーの攻撃>
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2009/10/post-0323.html

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2009.10.24

牛丼戦争 水に落ちた犬は打て? 容赦ないゼンショーの攻撃

 牛丼の「すき家」のCMを見ていて、鳥肌が立ったのは筆者だけだろうか。

 「う~ん、うまい」「うんまーい!」「おいしいねぇ」。牛丼を食べる人々の言葉の間に「きょうも330円」「あしたも330円」「いつでも330円」とのナレーションとテロップ。そして「牛丼新時代」と締めくくる。

 ゼンショーが運営する「すき家」の店舗数が「吉野家」を抜いて牛丼チェーンのトップに躍り出たのが2008年9月末の時点だ。「いつの間に?」とネットでも大きな話題になったのは記憶に新しい。
 その1ヶ月前にも話題が盛り上がっていた。「キン肉マン」とのコラボレーションだ。マンガ連載開始29(=肉)周年を記念した「キン肉マン祭り」をゼンショー傘下の「すき家」「なか卯」合同で展開した。キン肉マンの読者・視聴者世代からは、「キン肉マンが吉野家を裏切った!」と大きな反響があった。マンガの中に「吉野屋(←家ではない)」が登場し、アニメの中では「牛丼一筋300年、早いの、美味いの、安いの~」と、吉野家を連想させる表現があったからだ。
 さらなる話題もすき家がさらう。今年4月には「値下げで価格に敏感な消費者の来店を促す」として、牛丼の価格を下げ、現在の価格である330円とした。吉野家には対抗値下げができない理由があった。米国産の牛肉を主に使用しているため、すき家が主に使用する豪州産よりも仕入れ単価が約1.5倍高いのだ。

 一連のゼンショーの動きを見ると、かつてのリーダー企業である吉野家の力の源泉を、一つ一つ潰していることが分る。マーケティングの4P、即ちProduct(製品)、Price(価格)、Place(販路)、Promotion(広告・プロモーション)。順不同だが、プロモーションでは、キン肉マン=吉野家のイメージを壊し自社に取り込んだ。次に販路を吉野家を上回る数にした。さらに圧倒的な価格優位性を構築したのである。製品=牛丼の味に関しては、ここでは論じない。各自の判断に委ねることとしたい。

 現在、吉野家が行っているキャンペーンは、「今だけ!ヨシギュー祭り」。期間中牛丼1杯を食べる毎にもらえるサービス券3枚が貯まると、1杯無料で食べられるというしくみだ。4杯分の平均単価にすれば、285円と随分オトクになるのだが、あくまで4杯食べればの話。そして、期間限定。それに対してすき家は「いつでも330円」と、吉野家のキャンペーンの無力化を図っている。

 CMをよく見るとさらに戦慄すべき部分が見てとれる。
 「牛丼新時代」の一つ前のカットに、カウンターで牛丼を頬張るサラリーマン氏が女性店員に「いつも頑張っているねぇ」と声をかける。店員は笑顔で「ありがとうございます!」と応える。一見何のことはないやりとりだが、あえてこのシーンを入れた意図を考えてみる。
 店員のイメージでは、吉野家はイタイ過去がある。「テラ豚丼騒動」だ。店員が厨房で非常識な山盛りの「テラ豚丼」を作ってニコニコ動画に投稿し、その映像に不衛生な部分もあったことからネットで大いに物議を醸したのである。
 すき家は「牛丼新時代」の要素として「元気なサービス」を挙げる。「すき家に来ると元気になれる。クルーの笑顔が今日もお店でお待ちしています」とアピールする。(同社ホームページより)。
 マーケティングの4Pだけでなく、人的要因が重要であるということから、もう一つのP=Personを加えることがある。その部分まで吉野家対抗として持ち出していると考えるのは穿ちすぎであろうか。

 「水に落ちた犬は打て」は中国の作家・思想家の魯迅(1881~1936)の言葉である。簡単に要約しよう。
 勇敢な拳闘士同士であれば、礼を尽くし、地に倒れた敵を打ちはしない。相手はみずから恥じ悔いて、再び手向かいしないか、あるいは堂々と復讐に立ち向かってくるからだ。しかし、犬は水に落としてもあっという間に何度でも挑んでくる。もう出てきて人に咬みつくことはあるまいと思うのは大きな間違いである。(『フェアプレイ』はまだ早い」・『魯迅文集3』・ちくま文庫)
 競合に敗れた同社を犬呼ばわりする主旨ではない。厳しい経済競争において、「再び手向かいしない」ことも「堂々と」リターンマッチを宣言することもない。犬ではないが、何度でも、すぐに相手に咬みつきに行くのが原則だろう。
 だとすれば、リーダーの座についたら、水に落ちた相手は「打つ」のである。それも徹底して。

 しかし、その徹底することを躊躇する気持ちも一片は涌くだろう。「ここまでやっては消費者の反感を買わないだろうか」と。しかし、ゼンショーに迷いはない。吉野家ホールディングスは今期、最終損益も赤字に転落するとの見込みを発表した。まさに水に落ちた状態である。
 何気ないCMではあるが、その苛烈さを極めた意味合いが透けて見えて、筆者は背筋が寒くなったのである。

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2009.10.23

明日から始める! 初めての自転車通勤(1)

■メディアに掲載された弊社スタッフの執筆記事を当Blogでも随時紹介していきます。

Business Media 誠 連載記事

最近運動不足が気になる。でも忙しくてジムに行く時間もない……そんな悩めるビジネスパーソンにお勧めなのが「自転車通勤」だ。とはいえ、身の回りに経験者がいないとまずは装備を揃えるところから不安なもの。本連載では「初めての自転車通勤」をガッチリフォロー&応援していきます!

著者プロフィール:西幡治美(にしはた・はるみ)

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金森マーケティング事務所の体育会系コピーライター&プランナー。スポーツ市場の販促やプランニングを得意とする。

まずは体験してユーザーの立場に自分をおく事から商品や企画を始めたい性質(タチ)。根性系の自転車レースやトレイルランに好んで出場するが、大抵はレースの制限時間と格闘、誰よりも長くレースを楽しんでい ることが多い。

「いつ取材されてもいいように」とおしゃれなコーディネイトを考えるため、毎回遠征は大荷物。めったにないくせに「表彰式用のウエア」までいつも用意している。「スカートをはいてランニングを始めたのは私だ」と言い張っているが……。
(Photography by Sho Fujisaki)


今だからこそ! 自転車通勤のススメ

 日毎に深まる秋。秋といえば、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋……そしてスポーツの秋ではないだろうか。

 運動は素晴らしい。シェイプアップに、筋肉増強、快食快眠、ストレス発散。いいこと尽くしではあるのだが、仕事に励む熱心なビジネスマンにどうしても足りないのは、そう、時間だ。この記事を読んでいる皆さんは、いつもどのようにして運動する時間を確保されているのだろうか。

 不景気なのに多忙を極め、ストレスがたまる日々。気分転換や減量のためにスポーツを始めたいと思っている人は多いはず。不規則な食生活で、キツくなるのはスーツのボタン、気になりっぱなしなのは体脂肪。秋の運動会でかっこいいスタイルを披露しようと一念発起してジムに通い始めてみたものの、ジムの開いている時間に間に合わない。疲れ果ててプールではなくベッドに飛び込みたくなる誘惑。シューズやウエア一式を通勤かばんに詰め込んで、お気に入りのかばんがパンパンに膨れるのはイヤ、という人も多いだろう。そんなあなたに是非お勧めしたいのが、自転車通勤だ。

 老いも若きも自転車ブームと呼ばれて久しい昨今。ロードバイクにクロスカントリー、ダウンヒル、シクロにピスト、小径、折りたたみ……。多種多様な自転車が店頭や雑誌、Webサイトにはあふれている。ファッショナブルなメッセンジャー達が華麗に駆け抜ける姿に交じって、最近では通勤中とおぼしき方々が、思い思いのスポーツバイクにまたがる姿も多く目にするようになった。

 自転車はとても身体と環境にいい乗り物だ。エンジンは自分自身。渋滞で動かない道路も、指一本動かす事さえためらわれる満員電車も、毎夜駆け込む最終電車も関係ない。

 移り変わる季節を肌で感じ、五感を駆使して走る楽しみを味わえるばかりではなく、定期的に身体を動かすことによって身に付く筋肉が姿勢を支え、スーツの似合う美しい肉体が作られていくのだ。まさに一石ニ鳥、良い事だらけ。スポーツする時間さえない!と嘆く時間があったなら、ペダルをまわそう。まさしくそれは自転車通勤を始める絶好の機会だと言える。

 しかしそうは言っても、最初の一歩がなかなか踏み出せない人は多い。まず「自転車の違いが分からない」「いったいどこに買いにいけばカッコいい自転車が手に入る?」と疑問に思う方も多いだろう。

 本企画の目的は、初めて自転車通勤を始めることにした方々を応援することにある。以下、準備・購入・実走と各ステップに合わせて、自転車通勤を目指す読者のお手伝いをしていきたい。

→ママチャリはなぜ疲れやすいのか (続きはこちら:Business Media 誠

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2009.10.22

明日から始める! 初めての自転車通勤(3)

■メディアに掲載された弊社スタッフの執筆記事を当Blogでも随時紹介していきます。

Business Media 誠 連載記事

著者プロフィール:西幡治美(にしはた・はるみ)

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金森マーケティング事務所の体育会系コピーライター&プランナー。スポーツ市場の販促やプランニングを得意とする。

まずは体験してユーザーの立場に自分をおく事から商品や企画を始めたい性質(タチ)。根性系の自転車レースやトレイルランに好んで出場するが、大抵はレースの制限時間と格闘、誰よりも長くレースを楽しんでい ることが多い。

「いつ取材されてもいいように」とおしゃれなコーディネイトを考えるため、毎回遠征は大荷物。めったにないくせに「表彰式用のウエア」までいつも用意している。「スカートをはいてランニングを始めたのは私だ」と言い張っているが……。
(Photography by Sho Fujisaki)


自転車通勤って実際のところどうやるの? みんなはどうしてるの?

 「最近運動不足が気になる」「時間がないけど体を動かしたい」――そんな人にオススメなのが、最近人気が高まっている自転車通勤だ。本連載1回目では自転車通勤のメリットを、2回目では自転車選びのポイントとオススメショップについてお話しした。


明日から始める! 初めての自転車通勤(1)

明日から始める! 初めての自転車通勤(2)


 自転車で会社まで通えば自転車通勤。言葉にすればそれだけのことなのだが、実際に始めるとなるとそれなりに大変なことだ。自転車通勤を楽しく続けるために、始める前にちょっとした準備をしておこう。

 念願の自転車を買ったら、いきなり自転車で出社するのではなく、まずは休日に会社までツーリングしてみることをおすすめしたい。自分のルートを作って試走しておけば、本番で慌てない。通い慣れた通勤路とはいえ、公共交通や自動車で行くのと、自転車で走るのとではまるで別の道。自転車通勤をする前に、おおよそのルートを決定し、確認しておくといい。

 もう1つ大事なのが、走り始める前の、装備のチェックだ。安全のために必ず身につけたいものや、自転車に装着するものなど、自転車通勤に必要なものをきちんとそろえよう。


装備をチェック!――その1  (続きはこちら:Business Media 誠

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「トイデジ」の流行の理由とそこから学ぶもの

 微妙なボケ味とビビッドなカラーバランスの写真が仕上がる「トイカメラ」。ロシア製のLOMO、中国製のHOLGAなどがその代表格だ。そして今、その流行はデジカメにも波及し、トイカメラのデジカメ版「トイデジ」が若者に大人気だという。

<若い世代に人気急上昇!“トイデジ”ってなんだ?>
http://news.walkerplus.com/2009/1022/10/

 東京ウォーカーの紹介によれば、Vivitar社の「Vivicam5050」(1万4800円)が人気の火付け役だという。上記リンク先には撮影画像も掲載されているが、ビビッドな色調のものなど仕上がりは確かにトイカメラそのものである。高校時代写真部で、カメラオタクでもある筆者にとってはデジカメ化してしまうより、プリントされるまでどんな仕上がりになるか分らないドキドキ感もあった方がよいのではと思う。しかし、その場で見られるデジカメ版の方が手軽で、しかもフィルムなど光材がかからない分経済的でもある。一部に熱狂的なファンがいたトイカメラの裾野が一気に広がったのはやはりデジタル化のおかげであろう。

 そもそも、トイカメラやトイデジがなぜ、流行るのか。それは、昨今のデジカメ技術の進化に対するアンチテーゼに他ならない。

 最近のデジカメ、特にコンパクトデジカメはすごい。例えば、ソニーのCyber-shot。売り物は高度な「顔検出機能」である。人間の顔を確実に検出してそこにピントを合わせる。複数の人間がいても、各々の顔をしっかりととらえる。また、大人と子供の顔を判別して、子供の顔を優先的に写りをよくしたり、優先したい人の顔を記憶させて、そちらにピントを合わせたりすることもできるのだ。シャッターは「笑顔検出機能」で、人物が笑った時に自動で切れる。まさにカメラにお任せ。
 付属品のParty-shotを組み合わせれば、パーティーの時や家族団らんの時などにCyber-shotを乗せてテーブルなどに置いておけば、あとはカメラが勝手に室内の人物を探して、そこにいる人々の自然な表情を自動撮影するのである。まさに、カメラマン・人間いらずである。

 そうしたデジカメの自動化の進化は、「写すこと」ではなく、「映ること」へと楽しみ方そのものを変質させてしまっている。一方、「写す」ことを楽しみたい層が「一眼デジカメ」へと走り、それが女性にも波及して「カメラ女子」というセグメントを形成し始めているのも事実である。

 では、一眼デジカメで写すことを楽しむことと、トイデジを楽しむことは同じ意味かといえば、その本質は大きく異なる。

 デジカメの価値構造を考えてみよう。デジカメの中核的価値は「キレイにデジタルで画像が残せる」ことである。それを実現する実体的価値は「ボディーの薄さ・コンパクトさ」、または「光学レンズの性能」などだ。さらに中核的価値とは直接関係しないが、あれば魅力を高める付随機能が「そのままBlogやSNSに画像をアップできる」とか、「プリント機能が付いている」といったものだ。
 プロダクト・ライフサイクルで考えれば、製品の市場が成熟化するに従って、製品を構成する価値の要素が、「中核」から次第に「実体」「付随機能」へとどんどん本質的でない部分でしか差別化ができなくなってくるのが常である。

 内閣府の消費動向調査によれば、2009年においてはデジタルカメラ普及率(2人以上の世帯)は69.2%に上る。デジカメの出荷台数は2006年に過去最高の942万4000台を記録した。高機能化でさらなる普及や買い換えを促進したいところであるが、そろそろ頭打ちの閉塞感は否めない。携帯電話にも一部のビジネス機以外にはモレなくカメラが搭載されているが、携帯電話は人口普及率で88.5%に到達している。その数字まで入れれば、今日はまさに、一人複数台のデジカメを所有しているということになる。まさにプロダクトライフサイクルは完全なる成熟期だ。

 そんな中で、Cyber-shotの「顔検出」や「笑顔検出」は、実体的価値を高めた例といえる。それによって、「被写体をよりきれいに・よりいい表情で残す」ことができ、中核的価値を高めているからだ。消費者から支持される差別化ポイントたり得る。
 しかし、そんな高度な機能をいくつも開発して付加していくことは困難だ。この後は、付随機能としてカメラのカラーバリエーションを増やしていくことなどしかできないのではないか。

 トイデジの流行が意味するもの。それは、人気の秘密の、「デジタルで思いもかけないような仕上がりの写真が撮れること」である。つまり、デジカメの中核的価値である「キレイにデジタルで画像が残せる」とは全く異なる。トイデジはデジカメであってデジカメではないのだ。

 誰もが当り前に思う「中核価値」が、時代の流れの中では消費者ニーズとは乖離してしまうこともあり得るのだ。全ての消費者を一律に見るのではなく、ニーズギャップを抱えているセグメントを見つけて、そのセグメントの求める価値を実現することで、新たな市場を開拓することができる。
 トイデジを買った若者は、既にデジカメを1台や2台持っているだろう。しかし、単に「きれいに写す」という価値に飽き足りなくなっているというニーズギャップを抱えていた。それに応えたのがトイデジなのである。
 この流行の意味するところからの学びは大きいといえよう。

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2009.10.21

「ペプシあずき」が美味しすぎて(マーケティング的に)心配だ!

「ペプシあずき」が美味しすぎて(マーケティング的に)心配だ!

 3年ほど前から好例になっている季節限定の「変わり種ペプシ」。キュウリ味の「ペプシアイスキューカンバー」「ブルーハワイ」「ホワイト」、そして今年の夏は「ペプシしそ」であった。「和素材」がテーマだという今年の第2弾は「あずき」が昨日、10月20日に店頭に並んだ。

 実は 当Blogでは10月1日に<「ペプシあずき」の味を大胆予測する!>という記事を掲載していた。歴代の変わり種ペプシの味から考察して、<「ブルーハワイ」以来の甘さ強め路線は継承し、さらに「ホワイト」のように甘みの中のクセを取り去って、「しそ」の「和素材」路線で勝負すると考えられる。甘さと「あずき」は「しそ」以上に相性も良さそうだ>として、<今回の変わり種コーラ、「ペプシあずき」の味は、歴代の中でも飛び抜けて「オイシイ!」はずであると、期待が高まる>と結論づけた。

 果たして、その味は・・・。大当たり!であった。

 実にオイシイのである。あずき色の液色ではあるが、汁粉のようににごった色ではない。しかし、蓋を開けた時点で既にあずきの香りが広がってくる。一口飲むと、強い甘みを感じつつ、その香りが口腔から鼻腔に抜ける。紛れもなくあずきである。予想通り、変わり種ペプシにありがちであった、微妙な苦みは全くない。そして、驚いたことに、「しそ」では比較的強く感じられ、「ホワイト」でも微妙に感じられたケミカルっぽさが全く感じられないのである。飲料のケミカルっぽさとは、一般には理解しにくいかもしれないが、「ドクターペッパー的な」といえば伝わるだろうか。ちなみに、筆者はドクターペッパー好きであり、ケミカルっぽさも嫌いではない。故に、今回の「ペプシあずき」は、予想的中ではあるが、ちょっと物足りないというか、拍子抜けするほど、素直なおいしさだと感じたのだ。

 しかし、おいしいが故に心配である。

 変わり種ペプシの戦略的な目的とは何か。当Blogではブルーハワイの時から記事に取り上げているが、その目的は一貫してペプシのチャレンジャーとしての基本であると解釈している。日本のコーラ市場においてはコカ・コーラは80%のシェアを握る圧倒的なリーダーである。ペプシは市場に「新しいことを常にペプシはやっているんだ!」とメッセージを発信しなければ、消費者からいつ忘れ去られてもおかしくない。そのための最もラディカルな施策が変わり種ペプシなのである。

 日本においてペプシブランドを展開するサントリー食品の担当課長の貴重なインタビュー記事が日経ネットBizPlusに掲載されていた。
<「サントリー、ペプシPRへ話題作り シソ・アズキ…相次ぎ『奇策』」>
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/eigyo/rensai/ss.cfm?i=20091008e6000e6

 記事中でサントリー食品食品事業部の石原圭子課長はインタビューに応え、<「2本目を買ってもらうことは期待していない」「限定品は味わいの驚きでブランドの新しさや楽しさを発信する手段。商品自体がペプシのPRになっている」>と言い切っている。
 さらに記事では開発の苦労も伝えている。<奇抜さが売り物の商品。開発はアイデア頼みと思いきや、そうではない。着想から商品化までの期間は実に2年。一般的な清涼飲料の半年から1年よりはるかに長い。毎回40種類もの風味を「季節感」や「意外性」といった観点からふるいにかけ、1つに絞り込む>という。

 差別化戦略のために、とにかく意外性にこだわることが重要とのことだが、しかし、今回のあずきは素直においしすぎないだろうか。「普通においしくてビックリ」という意外性を狙っているのだろうか。

 変わり種ペプシは2007年の「アイスキューカンバー」の前年、2006年には5月16日にスパイシーな「レッド」、7月4日にトロピカルフルーツ味の「カーニバル」、10月10日にジンジャー味の「ゴールド」と矢継ぎ早に商品を投入したこともある。しかし、記事にあるような、今年であれば「和素材」のようなテーマを設定した展開は2007年からであるようだ。だとすると、今回のあずきが第5弾ということになる。

 同記事にはサントリー食品の白井省三社長のコメントもある<「限定品がペプシブランドに親しむ『入り口』になってくれれば」>とのことだ。第5弾となった「ペプシあずき」は、意外性としては「素直においしい」という演出をして、ペプシの存在をアピールするだけでなく、より「親しみ」に重きを置いているということだろうか。
 今年4月にサントリー食品としてグループを再編した時に、「飲料全体でのシェアはサントリー20%に対し、日本コカ・コーラが30%以上」という状況からの巻き返しを宣言した。そして、チャレンジャーらしく「勝てるところから取っていく」として、好調な「」ペプシネックス」のさらなる強化の方針を打ち出していた。

 意外なほどおいしい「ペプシあずき」。それは、変わり種ペプシの役割が、ブランド認知だけでなく、白井社長のコメントにあるような、主力商品の入り口としての機能に変わってきたことを表わしているのかもしれない。だとすれば、チャレンジャー・ペプシは、リーダーであるコカ・コーラに今後、よりアグレッシブに挑んでいくことを予感させる。

 なにやら、ハラハラする展開が見えてきて喉が渇いたので、昨日に続いて2本目となる「ペプシあずき」を飲みながら、そんなことを考えてみた。

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2009.10.20

コンビニの商品価格から学んだこと

 「値段がバラバラなんですよね~」。それは弊社スタッフの何気ないひと言から始まった。

 グリコ乳業の「スイートオレンジ」。一般的な濃縮還元オレンジジュースながら、完熟オレンジに熊本・鹿児島県産の温州みかんのストレート果汁をブレンドしたという味わいは、果汁好きにはたまらない逸品だ。それでいて、今時うれしいお値段84円(税込み)。

 コストパフォーマンスの良さでも愛飲していたというスタッフは、あるときJR品川駅のコンビニ、ニューデイズでグリコ・スイートオレンジを購入したところ、価格が105円(税込み)であった。スタッフは「値上げした!」と口をとがらせた。
 後日、ところは関西。あるコンビニで再びスイートオレンジ購入たところ、そこでは84円の値段がついていたという。これは関西価格なのか?

 価格設定の方法の一つに「需要志向」の価格設定というものがある。顧客がその製品にいくらまでなら払ってくれるかを予想して値付けをするものだ。さらに細かく見れば、その中に「需要価値価格設定」という方法もある。「需要価値価格設定」は市場セグメントごとに価格を変化させる方法だ。セグメント軸としては、学割や子供料金、シルバー割引といった顧客属性や、飛行機の早割などの販売時期、休日料金や深夜割増などの提供時間帯、S席・A席や自由席・予約席・グリーン席などの提供場所などである。
 わかりやすい例を挙げるなら、日本マクドナルドでが2007年6月から導入した「地域別価格設定」が地域というセグメント軸を使った代表例だといえるだろう。「いくらまで払っていいか」と感じる「需要志向」の感覚の差異を綿密にシミュレーションするのである。

 さて、「地域別価格設定」で、関西なら84円、東京では105円の価格になっているのかといえば、実はそうではなかった。都内数店のコンビニで再度価格調査をすると、84円であった。さては、ニューデイズは値付けを間違えたか?と、現地調査のために品川駅に向かった。

 果たして、そこでナゾが解けた。
 品川駅には、改札内と改札外に各々ニューデイズがある。その2店舗とも価格は105円。しかし、購入してまじまじと見ると、84円の商品パッケージと何か少し違う気がする。
 容量が違っていたのだ。84円の商品は内容量270ml、105円は320ml。パッケージデザインも微妙に違っていた。
 コンビニの中でニューデイズだけが容量の大きなタイプを扱っているのは、特に改札内などの狭小な店舗において、「坪単価」を上げ売上げ全体を高めることを狙っていると思われる。商品パッケージのサイズはどちらのタイプも底面が57mm ×57mmで、高さだけが異なっていて270mlは121mm、320mlが137mmである。棚の同じ幅で高単価にすることができるのだ。
 
 グリコ・スイートオレンジの価格の謎解きはここまでだが、さらに考えを進めると、食品メーカーが「量目調整」という方法によって実質値上げを図る理由がよく分った。
 食料の原材料高で値上げが相次いだ昨夏、ウィンナーソーセージの定番・日本ハムのシャウエッセンは内容量を減らした実質値上げをした。しかし、店頭価格277円から271円と、見かけ上6円の値下げをした結果、売り上げが9%上昇したという。
 筆者とスタッフは両名とも商売柄、観察眼には自信がある方だ。・・・と思っていた。しかし、それでもグリコ・スイートオレンジの2つのタイプの違いはほとんど気付かなかった。このケースでは270mlだと約3.2円/ml、だと約3.0円/mlと単価的にオトクになっているので問題はないが、例えば、320ml・105円が、価格はそのままで容量を270mlに減らされたとしたらどれぐらいの人が気付くだろうか。しかも、両タイプのデザインも同じだったとしたら。
 量目調整は消費者に値上げを感じさせないため、反発が出にくいうまいやり方であるといえる。グリコ乳業がそんなことをするとは思えないが、どこでそんな事例が潜んでいるとも限らない。消費者が「賢くあること」が求められる時代である。さらなる観察眼、分析眼を養う精進が必要だと思った次第だ。

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2009.10.19

明日から始める! 初めての自転車通勤 リンク一覧

明日から始める! 初めての自転車通勤 written by 西幡 治美

連載一覧ページを作成しました。
入り口は、左ナビゲーションにリンクを設定してあります。

■明日から始める! 初めての自転車通勤(1)

■明日から始める! 初めての自転車通勤(2) 

■明日から始める! 初めての自転車通勤(3)

■明日から始める! 初めての自転車通勤(最終回)

最終回のリンク先(Biz誠)では、金森も自転車通勤者のモデルとして登場しています!

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トレンド調査:「とろける」食感大流行のナゾにせまる?!

 なにやら最近とろけている。
 いや、筆者がとろけるような、あま~い生活を送っているのではない。食べ物の話だ。

 東京ウォーカーが一つのヒット商品を紹介していた。
 <冷夏でもバカ売れ!アイス「パルム」その人気の理由とは?>
 http://news.walkerplus.com/2009/1016/5/
 人気の秘密は<なめらかな口どけのチョコレートとリッチなミルク感>であるといい、プレミアムアイスクリームと同様のクリーム・脱脂濃縮乳を使い、急速冷凍することで氷の結晶の細かい、なめらかなアイス>を実現し、アイスクリームを包むチョコレートは<体温と同じ温度で溶けるようにコントロールされており、口に入れた時になめらかに溶ける仕組み>に仕上げたという。パッケージにも「なめらかな口どけ、上質の証」と明記されている。

 「なめらかな口どけ」という表現よりももっと直截な「とろける○○」という食品を昨今、随分目にしないだろうか。しばらく前は、アサヒ飲料のバヤリース「とろけるマンゴー」や「とろけるモモ」ぐらいだったように思う。
 その後アサヒ飲料は「バナナ」や「フルーツミックス」の「とろける」を発売し、ちょっととろけそうにない「レモン」まで、片っ端からとろかした。

 しかし、世間ではそれを上回る勢いで「とろける現象」が進行していたようだ。Googleで「とろける 食品」というキーワードで検索すれば出るわ出るわ。そのまま商品名にもなっているSB食品の「とろけるカレー(ハヤシ、シチュー)」を筆頭に、レアチーズケーキ、杏仁豆腐、湯葉豆腐、カニクリーミーコロッケなどなど・・・。ふと気になって我が家の冷蔵庫を見てみれば、しっかりSB食品の「とろけるカレー」のルーが入っていた。気付かぬうちにも「とろける」は忍び寄っていたのである。

 そもそも、この「とろける」は食感を表わす言葉である。食感は<味や匂いなど化学的刺激であるフレーバーに対し、堅さや粘性・付着性はテクスチャとも呼ばれる(Wikipedia)>だという。味覚は現在では<生理学的には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5つが基本味に位置づけられる(同)>が、言葉としては食感を表わす言葉は日本語において極めて多様であることが知られている。

 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所 早川文代氏の2006年の論文「テクスチャー(食感)を表わす多彩な日本語」が興味深い。
 http://www.mame.or.jp/library/pdf_z/052/MJ052-08-TK.pdf

 2003年の調査では、日本語のテクスチャーを表わす語彙は455語が収集できたという。中国語の3倍、フランス語は226語、フィンランドは71語だというから、その多様性は驚くものがある。
 同論文でさらに興味深い点を列記すると、日本語は擬音・擬態語が多いという特徴があるものの、70%が擬音・擬態語であったこと。さらにその中でも「粘り」の表現が多いこと。特に、”にちゃにちゃ””ねばねば””ねっとり”など、「に」「ね」ではじまる粘りの表現と、”ぷりぷり””ぷるぷる”と「ぷ」ではじまる弾性の表現が多いことなどである。
 もう一つ見逃せないのが、テクスチャーには時代での変化と年代による違いがあるという論述である。1964年の調査との比較で、”もちもち””ぷるぷる””ジューシー”な今回現れた新しい用語であるという。特に”ぷるぷる”が様々なゲル状のデザートが登場したこととの関係を指摘している。また、”ぷにぷに””シュワシュワ”などは低年齢層の認知度が高いという。グミや炭酸飲料などの食用・飲用経験が背景にあるとの指摘だ。また、”口どけがよい””もっちり”も低年齢層の認知が高いが、これは商品名や広告宣伝の影響を指摘しているという。

 「口どけがよい」がさらに、発音しやすい「とろとろ」という擬態語に変形して、「とろける」になって、さらにそれが商品名となり、広告宣伝で表示・連呼されさらに増殖しているというのが今日の「とろける」大流行の現状ではないだろうか。

 しかし、それにしてもなぜ、人は「とろける」にそれまでに惹かれるのであろうか。

 食品の柔らかさに関しては、現代において低下する一方の「食事の咀嚼回数」との関係が深そうだ。
 斉藤 滋・著「料理別咀嚼回数ガイド」風人社(2002年)によれば、時代の変遷と共にその激減さがよく分る。1回の食事あたり、弥生時代:3990回、鎌倉時代:2654回、江戸時代:1465回、戦前:1420回、現代:620回だという。さすがに弥生時代の食べ物は固そうで比べるべくもないが、戦前の数字を見れば、ここ60年で6割減っていることがわかる。簡単に言えば、我々はもはや「固い食べ物に耐えられないカラダ(アゴ)」になってしまっているのではないだろうか。こんなことを書くと、歯医者さんあたりがさらに頭を悩ませそうだが、この流れは止めようもないように思う。若年層の柔らかいもの嗜好だけではなく、高齢化が進む世の中では、固いものは敬遠されがちである。老いも若きも「とろけるLOVE!」なトレンドなのである。

 さらに、咀嚼というフィジカルな理由だけではないようにも思われる。再びGoogleで検索をしてみる。「とろける」で、検索結果が約 2,590,000 件出てくる。
 少し論理が飛躍するが、「癒し」で検索する。約 51,000,000 件と、いかに癒しが求められているのか分る数字が表示されるが、続けて「癒し とろける」だと約 1,090,000件が表示される。「癒し」と、「とろける」という言葉は親和性が高いといえるだろう。
 とろける飲料を飲んで「ホッ」。とろけるシチューを食べて「ほ~つ」。その他食品も口中で柔らかく解けていったり、崩れて広がっていったりする食感で「ほっ」と癒されているのが現代人の食の風景であり、現代人のメンタリティーなのではないだろうか。

  日経MJが2009年10月14日の誌面で同社の産業地域研究所の調査データを掲載した。
 (概要: http://www.nikkei.co.jp/rim/trend/contents/09_10stress.html )
 <景気低迷や雇用環境の悪化に加え、職場や家庭の人間関係など、現代社会ではストレスを避けて生きることはできない。実際、今回の調査でも、若者・女性を中心とした半数以上が「強いストレスを感じている」と答えている>ということだ。そして、<ストレスの高い人のストレス解消法を探っていくと、「睡眠」「飲食」「たわいないおしゃべり」など、比較的単純でストレートな方法で憂さ晴らしをしていることがわかった>という。

 ストレスを感じている人は半数を超え、時々感じる人まで含めれば、100%近くに上るというこのストレス社会。調査結果は<ストレス解消に新たな商機>とされているが、まさに、誰もがストレスを感じて癒しを求めている時に、「飲食によるストレス解消」を狙って「とろける」「とろとろ」な飲料や食品が展開されているのである。
 このトレンドは当分、続くことになるであろう。

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2009.10.16

原宿ファストファッション戦争はどこへ行く?

■変わるアパレル市場

 日経新聞10月16日の16面に2つの記事が並んでいる。「百貨店6社が最終赤字」「百貨店アパレル4社2社減益、2社赤字」。百貨店の苦境は繰り返し報道されているが、その百貨店を主要な販路とする大手アパレル4社もレナウンとサンエー・インターナショナルは赤字。残る2社のオンワードと東京スタイルも9割減益という惨憺たる決算である。
 百貨店と高級衣料は長く蜜月の関係が続いたが、百貨店は共倒れを避けるため各社ともユニクロを店内に引き入れている。9日には高島屋が2010年春に新宿店にユニクロを導入すると発表し、その規模は都心部のユニクロとしては最大規模になるという。前掲の記事中では「低価格衣料のシェアが高まっている」としているが、もはやその勢いが留まることはないだろう。昔日のように誰もが高級衣料にあこがれることはなく、むしろそれはニッチな市場としてのみ存続するに違いない。

■市場を創造したファストファッション

 では、今日のアパレル市場におけるメインストリームはどこかといえば、記事では「低価格衣料」という言葉が使われているが、昨今ではすっかりその言葉も定着した「ファストファッション」だろう。ファストファッションはなぜ、今日隆盛を誇っているのか。世界的な景気の低迷によって高級衣料から低価格なファストファッションへの顧客層が流れたという見方もあるが、それ以上に大きな要因がある。それは、ファストファッションは従来ファッションへの関心が高くなかった層に対しても、お金をかけずにトレンドファッションが手に入るという魅力を提供し、顧客層の裾野を広げ、自ら市場を創造したのである。

■ファストファッション業界は戦争をしているのか?

 そのファストファッションの御三家といえば、スウェーデンのH&M、スペインのZARA、イギリスのTOPSHOPであるといわれている。昨年のH&Mの日本初上陸での大行列も記憶に新しいが、2009年はさらに新勢力の上陸も相次いだ。
 その中心地として、ファッションの街といわれる原宿であり、そこではファストファッションの大激戦が繰り広げられているとメディアは繰り返し報じている。しかし、実際には意外と顧客層が異なり、棲み分けができているのではないかと筆者は思っている。

■我が道を行くZARA?

 原宿のファストファッションブランドは多くは明治通りに並んでいる。唯一ZARAは、明治通り沿いではなく、少し明治神宮寄りの表参道沿いにある。物理的に距離を置いているだけでなく、ファストファッションの中でもZARAが最も特異な存在なのではないだろうか。ZARAは流行と同期しない独自のファッションづくりをしているといわれ、常に他品初少量生産した商品を高回転で店頭に並べていく。日本国内での店舗展開も最も早く、11月には渋谷に50店目を開業するという。価格的にも少し高めであるため、例えば筆者が教鞭を執っている青山学院大学などで、若年層から好きなブランド名を聞いても、その名が挙がることはまれだ。

■フォエバー21

 では、どのブランドが青学生から支持されているかといえば、女子学生を中心にフォエバー21の名がまず挙がる。「全身コーディネートして1万円」という価格の安さが人気の秘密である。但し、実際にその商品を見ると確かに価格なりの品質であり、40代も半ばを迎える筆者は袖を通す気にはなれなかった。「オッサン向けに商売しているわけじゃねーんだよ」と言われれば、まさにその通りでゴメンナサイである。店内には若い子ばっかであるため、品質よりも価格が重視されているのは確かで、ニーズにはピッタリマッチしているのだろう。

■H&M

 フォエバー21に隣接したH&Mの店内に入ると年齢層がぐっと上昇する。20代男女や小さな子供を連れた家族、筆者と同年代の人もちらほらいる。価格帯は少々上昇するが、それでもまだ、全身コーディネートして2万円程度ではないだろうか。品質はフォエバー21よりは少し良いように思う。1店1万円を超える商品はめったになく、もしかすると「安いから、まぁいいっか!」と筆者も1枚ぐらいは買ってしまいそうになる。

■トップショップ

 H&Mにほど近いラフォーレ原宿にはトップショップが入っている。男性用はトップマンという名前だ。価格はぐっと上昇し、ジャケットやコートのような重衣料は2万円を超える。トップショップは2006年9月に日本に進出してきた老舗といえる存在だが、ファストファッションの中では相対的に高価格帯に位置するようになってしまった。その分、品質はあくまでファストファッションの中でという限定条件付きながら、他よりも高い。ファッション性も筆者個人の趣味の中では一番良いように思った。危うく赤いフード付きにコート24,000円をお買い上げするところであった。

■ファストファッション3社の棲み分け

 各店の様子は上記の通りであるが、各店はまさに棲み分けの状態であるといえる。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の二軸を取る「バリューライン」で表現してみる。ファストファッション業界が前提なので、「価値」は「ファッション性」は高いことは大前提なので、あえて「品質」とする。安くてそれなりの価値のもの=「エコノミー戦略」。これはフォエバー21だ。中間価格で、中間的な価値のもの=「中価値戦略」これがH&M。高くて価値の高いもの=「プレミアム戦略」これがトップショップである。つまり、各店はバリューライン上で棲み分けをしているのである。

■ファストファッションを脅かすユニクロ

 バリューラインを下回ると、それは価格に対して価値が低いということになるため、当然消費者の支持が得られるなくなる。逆に、そのバリューラインを超える存在は、バリューライン上のプレイヤーに攻撃をかけられる。バリューライン上で棲み分けているファストファッション勢を脅かす一番の強敵は、言わずと知れたユニクロである。世界規模で見れば、例えばH&Mは売上げが1兆円越えでファーストリテイリングの倍であるが、ユニクロの卓越した品質へのこだわりはバリューラインの遥か上を行く。かつてはファッション性を高めることよりも品質を優先していたユニクロであるが、ジル・サンダーをデザイン監修に迎えるなど完全にファストファッションへの対抗姿勢を明確にしている。海外から進出してきたという珍しさが醒めたころ、ユニクロがファッション性をアピールして顧客層を切り取っていくかもしれない。

■ユニクロに次ぐ勝ち組「ポイント」

 ユニクロに次ぐアパレルの勝ち組として、経済紙でもその社名をしばしば目にするようになった株式会社ポイント。同社の展開するブランドを7つ集めた複合店舗「コレクトポイント」が4月に明治通り沿いを渋谷方向に進んだ神宮前6丁目にオープンした。店内に入ると、ファストファッションの、特にフォエバー21、H&Mとの違いが大きく感じられる。ゆったりしているのである。天井が高い。商品が並べられているだけでなく、店内装飾がある。通路も広く、ゆっくりと買い物ができる。ふと、「ああ、洋服を買う時ってこんな感じだよな」と思う。ファストファッションの店舗では、「買い物」というよりは「補給」という感じでモノを買っているように人々が見えた。複数ブランドが同一店内にあるため、その幅広さも楽しい。価格はファストファッション価格である。品質はあくまでファストファッションのバリューライン上にあるのと変わらないと思う。しかし、本当に買い物の好きな人や、服が好きな人はこっちで買うだろうなとも思う。ポイントも海外ファストファッション勢から徐々に顧客を切り取って行くに違いないと思う。

■老舗の風格GAP

 ラフォーレ原宿の前にはGAPがある。ファストファッション勢としてはとらえられていないが、H&Mやユニクロが採用しているSPA(製造小売り)という方式を最初に取り入れたのがGAPだ。コレクトポイント以上に店内はゆとりがある。価格は高くないが、品質はファストファッションのバリューラインを超えているように思える。そして何より、店内で初めて店員から声をかけられ、「接客」されたことに驚く。衣料品の購入時の接客には賛否両論あるが、ずっとファストファッションの店舗を見て、「品出し」だけに忙しく追われている店員を見ると、接客されるのも悪くないと思う。ある程度の年齢層より上には、ファストファッション店からGAPに来るとホッとする気分がするのではないだろうか。GAP回帰現象ももうしばらくすると見られるかもしれない。


 今回は、あくまで主観的に原宿ファストファッション戦争といわれる現場を見て、今後を考えてみた。世は栄枯盛衰。かつての花形であった百貨店と高級アパレルブランドの低迷が示すように、大流行のファストファッションもやがては変化の波にさらされていくはずだ。その変化をものにするのだどんなプレーヤーか、目が離せない。


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2009.10.15

ブレてない! ロッテ・フィッツのプロモーション!

 「かむ~とフニャン、フニャン・・・」パパイヤ鈴木振り付けの「フィッツダンス」が大人気なロッテのガム「フィッツ」のCMが装いも新たに帰ってきた!しかも、その狙いは寸分もブレていない見事な内容なのであった!

 今年春に売り出され、バカ売れすぎて、一時は3つのフレーバーのうち1つが店頭から姿を消すという未曾有の大ヒットを飛ばした「ロッテのフィッツ」。日経MJのヒット商品番付にも取り上げられた。
 今回のCMも「たむらぱん」の楽しいボーカルに乗せて、今回も佐々木希と佐藤健がフニャフニャと「フィッツダンス」を踊る。ちょっとダンスの難易度が上がっているのに気付く。それだけではなく、バックダンサーが変わっている。山本ひかる、西内まりやはそのままだが、前回マネキンやペットの犬に扮して見事なダンスを披露していた、ビヨンセのモノマネでブレイクした渡辺直美の姿が消えていることにも気付く。代わりに着ぐるみが・・・。お~っと、渡辺直美の扱いは着ぐるみレベルだったのかと思いつつも、その着ぐるみである、ゆるキャラのチョイスの渋さに思わず唸る。

 今回のCMの一つのミソは、地方別であることだ。佐々木希が秋田、佐藤健が奈良で踊る。各々、バックには「たんぽ小町ちゃん」と「まんとくん」が踊っている。

 秋田の「たんぽ小町ちゃん」。はぁ?誰ですかそれはと思ってしまうのだが、もしかして地元では有名なのだろうか。全国区で秋田のご当地キャラといえば、「超神ネイガー」しかあり得ないと思うのだが。
 知らない人のために説明しよう。超神ネイガーとは、「海を、山を、秋田を守る、秋田発・地産地消ヒーロー」だ。とは、 主人公のアキタ・ケン(秋田県在住・農業)が、豪石(ごうしゃく)!のかけ声と共に謎の石の力によってネイガーに変身するのである。(詳しくはこちら→http://homepage1.nifty.com/nexus/neiger/)・・・失礼。ちょっと、筆者の趣味が入ってしまった。

 一方の「まんとくん」は全国区であるといえよう。2010年に開かれる平城遷都1300年祭のマスコットキャラクター「せんとくん」に対抗して市民団体が作ったキャラクターである。平城遷都1300年記念事業協会が作った「せんとくん」ではなく、あえて「まんとくん」を出演させている。

 実は「たんぽ小町ちゃん」「まんとくん」。というチョイスこそが大正解なのである。

 フィッツはそもそも、ガムを噛まなくなった若者向けに開発された商品である。若者は言う。「何か、ガムって固くね?」。そのニーズギャップに応えやわらかな食感にこだわって製品を作り上げた。キャッチコピーは「噛むとフニャン」。そしてダンスがフニャフニャ踊る「フィッツダンス」だ。全てがフニャンで整合している。

 CMのキャラクターはどうか。もし、秋田編で佐々木希の後ろで「ネイガー」が「豪石!」とキビキビ踊っていたら台無しだ。「たんぽ小町ちゃん」のゆるさがちょうどいい。
 もし、奈良編で佐藤健の後ろで「せんとくん」が頭から鹿の角を生やして踊っていたら、きもちわ(以下略)。「まんとくん」のゆるさがちょうどいい。
 この整合性。ブレのなさが素晴らしいではないか。

 前回のCMと連動したYoutubeでのダンスコンテストも今回はさらに工夫がしてある。「フィッツダンス」を踊る姿を自ら動画撮影し、アップする。その閲覧回数を競い合うしくみであるが、今回は都道府県選抜方式になっている。CMで前回は佐々木希であれば、曲の冒頭が「の~ぞの~ぞのぞみ~」と名前を言っていた部分が「あ~きあ~きあきた~」と地名になっている。同様に全国の県名でダンスが始まる。全国一律より、まず、地域勝ち上がりで盛り上がるという寸法だ。全国大会ではさらに盛り上がるだろう。CMと連動した、「盛り上げ」の仕掛けが見事である。

 たかがガムというなかれ。ガム離れした若者を巻き込むには、これぐらいの仕掛けがなければうまくいかない。その中で、少しでもコンセプトがブレればおもしろさが半減することは必定である。遊んでいるようで、しっかり計算し尽くされているこのプロモーション、見事というほかない。

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2009.10.14

ファストリ・柳井会長の「無敵宣言」を読み解く

 2期連続で増収増益、8年ぶりに最高益を書き換え、「一人勝ち」といわれるファーストリテイリング。今月8日に前期連結決算を発表したあとに、東証で記者に囲まれコメントした柳井ファーストリテイリング会長兼社長の言葉は、事実上の「無敵宣言」と解釈できる。

 日経MJが10月12日に報じた中で、特に2つのコメントが目を引く。その一つめ。
 <-低価格品が増えるなかで価格政策は。「(高価格帯から低価格帯まで)全プライスをやっていく。(ジル・サンダー氏がデザインした)プラスジェイの価格は1,000円かもう少し上がっている。でも価値はこれまでと同等かそれ以上。顧客から見た価格は相対的に上がっていない。」>

 「バリューライン」という考え方がある。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の二軸を取る。すると、「安くてそれなりの価値のもの=エコノミー」「中間価格で、中間的な価値のもの=中価値」「高くて価値の高いもの=プレミアム」という比例関係が出来上がる。これがバリューラインだ。
 勝てる価格設定をしたい場合、このバリューラインを超えるポジションをとる必要がある。「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」「中価格なのに高価値と同等の価値=高価値」「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」となる。
 柳井会長兼社長は、今年3月に行われた傘下のジーユーの戦略説明会で以下のような説明をしている。「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」と。
 ユニクロはかつて「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」
の戦略をとっていた。それを、990円ジーンズのジーユーを「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」の戦略として展開し、ユニクロは「中価格なのに高価値と同等の価値=高価値」の戦略へと移行させる。つまり、全体として価格帯を引き上げることを暗に表明していたと解釈できる。しかし、8日の発言では「顧客から見た価格は相対的に上がっていない」という。つまりユニクロは、相変わらず「スーパーバリュー」のポジションにあるとしているのだ。
 どういうことかといえば、「価格」の軸はそのままに、「価値」の軸の意味合いが変わっているのだ。ユニクロの価値といえば、第一に「品質」だ。さらに近年、ヒートテックに代表される新素材が実現した「機能性」も加わった。それに、ジル・サンダーのデザインへの参画に象徴されるように「ファッション性」までが加わったのである。

 価格に対するファッション性の高さは、H&M、フォエバー21などの海外ファストファッションの特徴である。しかし、ファストと称される通り、1シーズン使い捨て的な品質であることは否めない。ユニクロが品質や機能性だけでなく、ファッション性までを価値の軸に取り込んだということは、国内に押し寄せる海外ファストファッション勢をものともせず、さらなる一人勝ちを続ける意欲を示しているといえる。国内だけではない。今年、一層注力する方針を明確にした海外展開においても無敵のスーパーバリュー戦略で勝っていく自信を示しているのだ。

 もう一つの発言も興味深い。
 <(低価格品でいうとファストリ傘下のジーユーが)990円のジーンズを発売した時は新しい価値創造があった。(他社が出した)880円や850円の商品は価値を生んでおらず(そんな状況だと)最後は無料になるのでは」>
 ジーユーに対抗し流通各社のジーンズの値下げが相次いでいる。ザ・プライス:980円、ダイエー:808円、イオン:880円、西友は3月に1,430円で発売したが、ついに10月1日から850円ジーンズを投入した。
 西友は親会社のウォールマートが展開している英国のグループ会社が開発した衣料品のプライベートブランド、Georgeでカジュアル衣料も比較的充実している。しかし、他社を見ると格安ジーンズとコーディネートするようなラインナップはあまり見受けられない。ジーンズだけが突出して安いのは、ジーンズをロスリーダー(目玉商品)にし、ジーンズ単体では収益は出ないものの、それで集客を図ろうという戦略であるとも考えられる。
 つまり、柳井会長兼社長の「最後は無料になるのでは」とは、集客のために無料配付しているのと変わらないとの指摘であると考えられる。それに対して、ジーユーは、全商品の1/3を990円で構成し、秋冬物にもかかわらずトップスとボトムをコーディネートして全身で5,000円以下で揃えられるというラインナップを誇る。低価格で提供してもしっかりと収益を上げられる。顧客は安価に、そこそこの品質・オシャレ感なものを揃えられるというWin-winな価値の共有ができているのである。それは、6月2日に「ケタ違い宣言」として、事実上の最安値宣言を行ったジーユーによって、ファーストリテイリングが低価格帯で盤石のポジションを築いたことを意味しているのである。

 しかし、その発言の続きが、狙いは低価格での覇権を握ることだけではないことを示している。
 <-デフレ不況についてはどう見るか。「消費者は毎日990円のジーンズばかりはいても楽しくない。日によって3,990円のジーンズでも1万円を超えるジーンズもはきたいだろう。990円に集約されるわけではない」>
 1990年代後半、ユニクロがまさに成長の軌道に乗ろうとしている時に、柳井会長兼社長は「顧客に全身をユニクロでコーディネートさせようとは考えていない」と述べていた。だが、現在は前述の通り、価値の軸にファッション性を取り込んでユニクロで全身コーディネートしてもしっかりオシャレに仕上がるようになった。ジーユーも低価格で全身を、そこそこではあるがオシャレにコーディネートできる。しかし、柳井会長兼社長は顧客にはユニクロ、ジーユーという単一ブランドでコーディネートさせるわけではなく、どちらも取り入れて利用させようという意向であることが読み取れる。

 だとすると、990円はジーユー、3,990円はユニクロであるが、1万円を超えるのは何だろうということが気になる。それは現在は実際に1万円のジーンズを扱っているわけではないが、恐らく10月2日にリニューアルオープンした銀座のユニクロ旗艦店に出店した、傘下のキャビンが展開する「ZAZIE(ザジ)」「 enracine(アンラシーネ)」などを意味しているのだろう。今までグループ内での相乗効果がうまく発揮できていなかったが、ユニクロと生産拠点や素材を一部共通化するというテコ入れで、商品の平均単価を20~30%下げることに成功した。今後は両ブランドも含めて顧客を囲い込んでいこうという意向を示した発言であると解釈できる。

 さらに、先の「(高価格帯から低価格帯まで)全プライスをやっていく」は、ジル・サンダーのプラスジェイだけでなく、現在のところ手つかずになって相乗効果が生まれていない、より高価格帯の婦人衣料ブランドへのテコ入れも意味しているかもしれない。グループ内にはまだ、ブランド資産が眠っている。ニューヨーク生まれのファッションブランド「Theory (セオリー)」。パリ生まれのブランド「COMPTOIR DES COTONNIERS(コントワー・デ・コトニエ)」。フランスのランジェリーブランド「PRINCESSE TAM.TAM (プリンセス タム・タム)」。これらが動き出せば、本当に「(高価格帯から低価格帯まで)全プライス」をおさえたことになる。容易なことではないが、2020年度のグループ売上高を5兆円にするという目標達成のためには、縮む国内市場だけでなく海外展開が欠かせないのと同時に、ユニクロ一本勝負ではなく、複数ブランドでのポートフォリオ展開が欠かせないからだ。

 柳井会長兼社長の短い発言からも、同グループの戦略にブレがないことと、自信のほどが伺える。向かうところ敵なしの、事実上の「無敵宣言」である。


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2009.10.12

電卓化するパソコンはどこへいく?

 ネットブックといわれる低価格ノートPCのシェア上昇が止まらない。パソコン市場はこの先どこへ行くというのだろうか。

 日本のネットブック市場に顕著な変化が現れた。かつてはASUS、エイサーといった台湾勢の牙城であったネットブック市場に東芝が割って入り、16.7%のトップシェアを奪取した。個別の機種別でも、東芝 DynaBook(PAUX23JNL)が12.6%、 ソニーVAIO-W(VPCW119XJ)が6.7%、富士通LOOX-M(FMVLMD15)が6.4%と上位を独占している。(デジタル生活応援サイトBCNランキングより)

 日本勢の転機は2009年4月の夏モデル発表時からだ。上記のランキング上位の機種を見てもDynaBook、VAIO、LOOXと各社の第一ブランドの名前が並んでいる。他にもNECのLaVie、シャープのMebiusなどの名前が並んでいる。それまで各社は、低価格なネットブックに第一ブランドの名前を冠すると、通常のノートPCが売れなくなるという理由から、独自の名前を付けていた。しかし、低価格化の波、ネットブックの台頭は顕著であり、もはや高価なPCだけに依存することは叶わないと見て、パンドラの箱を開けたのであった。

 世界的にもその流れは顕著だ。米ディスプレイサーチの調べでは、2009年第2四半期において、売上げが前年比で上昇しているのはネットブックだけであり、そのシェアはポータブルPCカテゴリの11.7%であると報じていた。しかし、平均価格は-29%と大きく下落している。価格が下落しながらもシェアの上場は続くと見られており、2010年末には21.5%に上ると見られている。(デジタル家電情報総合サイト・Digital Freakより)

 1965年生まれの筆者にとって、これはかつて見た風景と重なる。
 1964年、東京オリンピックの年が日本の電卓元年といわれている。シャープ(早川電機)がオールトランジスタ式の電卓 CS-10Aを発売。価格は535,000円で当時の車1台分ぐらいだという。1966年には日本計算器販売がBusicom 161を発売、価格は298,000円。 電卓市場に価格破壊の第1波をもたらした。1969年、シャープが世界初のLSI電卓「QT-8D」を99,800円で発売。10万円を切り、爆発的なヒットとなる。1971年、立石電機(現オムロン)が5万円を下回る電卓を発売し「オムロンショック」を起こす。1972年カシオ カシオミニ発売。12,800円。 電卓の価格破壊は進み、1975年には5,000円を下回るようになった。(出典:Wikipedia)

 普段はPCのデスクトップアクセサリや、携帯電話にも計算機能が組み込まれているため、電卓がなくとも用に足りてしまうが、帳簿や家計簿の整理をしようとふと探すと見あたらなかったり、壊れていたりする。買いにでかければ、文房具店や量販店の片隅のコーナーで、ビニールの袋に入れられて、壁から吊されて売られている。かつて高嶺の花であった電卓という存在からは考えられない姿である。まさに、今日、パソコンも同じような存在になりつつあるのだといえる。
 電卓の機能的進化は、Wikipediaの記述によれば1973年頃までの小型化、低電力化による電池駆動化、76年の太陽電池搭載や、79年頃、実用上必要な小型薄型化の完了など、70年代に既に終了している。

 ノートパソコンも同様だ。ノートパソコンを購入するにあたって、消費者が手に入れたいと考える「中核となる価値」は、パソコンに基本である、文書の作成とブラウジングやメールができること。それを「持ち運んで便利に使える」ことだ。そして、その「中核」を実現するための製品の「実体」は、「小さくて、軽くて持ち運びに便利」なことである。パワーポイントの複雑なプレゼンテーションをつくるのは少々厳しいが、それらの必要な機能は既にネットブックで十分事足りてしまう。となると、次の段階は、それがなくとも「中核となる価値」は損なわれないが、あればより魅力的な製品となる要素としての「付随機能」での勝負となる。例えば、ノートパソコン全般でカラーバリエーション化が進んでいる。パソコンが何色であっても中核価値には影響がないが、在庫リスクをおしてでも消費者に訴えかける魅力は既にそれぐらいしかなくなっているのである。そのカラーバリエーション化は既にネットブックにも波及しており、各社、様々な色展開をしている。

 付随機能まで差別化要素を失えば、次に来るのはさらなる価格競争である。パソコンがビニール袋に入れられて、壁からぶら下げられて売られる日も遠くはないかもしれない。
 そんな中で、各社の生き残りの工夫が見てとれる。付随機能の強化でギリギリいっぱいいっぱい頑張っているのがヒューレット・パッカードだろう。HP Mini 110 シリーズでデザイナーコラボレーションをシリーズ展開している。2009年1月にニューヨークの中国系ファッションデザイナー、ヴィヴィアン・タムとコラボして、筐体やキーボードまでも全部が真っ赤で、天板に鮮やかな芍薬の花が大きく描かれたモデルを発売した。10月にはその第2弾として、オランダのプロダクトデザイナー、トード・ボーンチェが得意の動植物の陰影を用いたボタニカル(植物)デザインの真っ白なモデルを発売開始した。
 シャープはMebiusの夏モデルにタッチパッド部分に既に光センサー液晶を搭載。さまざまな情報や画像を表示したり、タッチ操作や手書き文字入力したりできるようにした。タッチパットが従来型でも用に足りるが、新技術で付随機能の強化を図ったのである。

 低価格という制約がない、本来のノートパソコンは実体価値の強化を図り始めた。ソニーはVAIOの秋モデルとして、新シリーズ「X」を発表。薄さ1.4cm、重さ約655グラムという極端な薄型・軽量化の方向性を示した。「小さくて、軽くて持ち運びに便利」という実体価値に真正面から取り組んだ結果だ。パナソニックのLet's noteの新作は、超高速なSSDとCPUを搭載し、駆動時間は最長16時間という脅威のモデルを投入してきた。ネットブックが6台以上購入できる高額な価格設定であるが、実体価値をこれ以上ないまでに高め、同じ土俵で戦わないという強い決意であると考えられる。

 筆者はノートパソコンとの付き合いは、NECのバックライトすらないラップトップ初号機のNT9800から始まって、既に20年を超えている。どうか、パソコンが電卓のようなビニール袋売りの存在にならないようにと願いながら、各社の知恵の搾り合いとガマン比べにエールを送り続けたいと思っている。


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2009.10.08

渋谷駅に『立ち食いどん兵衛』登場 その意図は何だ?

 渋谷駅山手線内回りホームに、リニューアル発売された「日清のどん兵衛」うどんシリーズをその場で食べられる『立ち食いどん兵衛』が登場した。

<渋谷駅に「どん兵衛」の立ち食いアドスタンドがオープン>(アメーバニュース)
http://news.livedoor.com/article/detail/4383049/
 日本レストランエンタプライズとジェイアール東日本企画が共同で出店している広告ラッピングカフェ「アドスタンド」が行う、10月1日から25日までの期間限定展開である。

 「日清のどん兵衛」はぶっといのどごしの『ぶっとうどん』にリニューアルした。そのリニューアルをアピールするため、巨大どん兵衛オブジェを渋谷109前に設置したという。
 だが、どれぐらい「ぶっとい」のかといえば、従来比約120%のめんの厚みだという。が、なかなか120%といわれてもピントこない。そこで、駅のホームで体感させようというしくみである。

 渋谷でカップ麺といえば、今年9月18日に開催された過去最大・カップヌードル3万個が無料配布されたイベント『9.18 HAPPY BIRTHDAY カップヌードル in SHIBUYA 2009』が思い起こされる。無料配付に人だかりし、現場はかなりの混乱をきたした。しかし、今回は200円、しっかり有料だ。
 但し、この200円という価格、駅で食べる麺類といえば立ち食いそば屋うどんであるが、カップ麺とはいえ、純粋に価格で比較すればかなりオトクであるとも考えられる。

 「アドスタンド」では、過去に角川メディアハウス発行のフリーペーパー「シネコンウォーカー」がスポンサーとなり、毎月1本、映画をテーマにした「Cinema Cafe」を展開していた。映画情報を提供し、映画グッズを販売するほか、JR東日本グループで駅弁などを手がける、日本レストランエンタプライズが自家製「たまごドック」と4種類のホットドックを中心に、コーヒーや各種ソフトドリンク、ポップコーンなどを販売していた。映画館メニューの定番である

 そのアドスタンドが、大変身したのが今回の『立ち食いどん兵衛』だ。<外観は、「どん兵衛」の広告の世界を反映、店内では「どん兵衛」の商品の特徴を紹介。また、映像でCMも放映し「どん兵衛」の世界を体感できるようになっている>(同)という。

 忙しく人が往来する駅のホームに、ふと和む映画の拠点があるのも悪くない。しかし、ちょっと小腹が空いたり、ササッと軽食を済ましたい時に『立ち食いどん兵衛』はうれしい存在ではないだろうか。たぶん、映画グッズとサンドイッチがあるよりうれしい人も多いだろう。カップヌードルへの反応の高さから考えても、カップ麺の消費者としての往来する人々の親和性も高そうだ。

 日清はぶっといのどごしの『ぶっとうどん』には、並々ならぬ自信を持ているのではないだろうか。一度試させて味を納得させれば、それ以後、反復購入させることができると。

 消費者の購買に至る態度変容モデル「AMTUL」というものがある。A(Attention:注意喚起)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)である。
 AMTULで重要なのは、まず「試す」点である。しかし、反応が出やすいカップ麺では無料配付したら、また、混乱するかもしれない。無料でもらってそれまでというリスクもどうしてもついて回る。
 それならば、関心を持って一度、身銭を切って試して(Trial)もらう方が、以降のU(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)へと至る可能性が高い。また、その段階を進ませるだけの自信があったのではないだろうか。

 昨今の新製品における問題は、一度試させる「接点」が消費者との間に、昨今は構築しにくくなっている点である。店頭では流通のプライベートブランド(PB)商品が台頭し、新製品といえどもナショナルブランド(NB商品)は埋もれがちであり、価格的にもアピールに欠けることになる。故に、PBとの競合にさらされない場所で体験し、気に入ってもらって、指名買いのポジションを獲得しようという意図が『立ち食いどん兵衛』にはあるのだろう。
 思わぬシチュエーションで接触し、街で食べるには安価な価格で試せて、食べながら映像で「どん兵衛」の世界を体感するなど楽しめれば、その評価もさらに何割増し価になるのではないだろうか。

 黙っていれば、PBの圧力が日増しに高まるNB。突如駅に出現した「どん兵衛」の立ち食いアドスタンドは、メーカーの必死の展開を表わしているともいえるだろう。

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2009.10.07

自販機戦国時代 コカ・コーラの電子マネー戦略を考える

 街を歩けば視界に2台や3台が必ず目に入る飲料の自販機。推計で全国に約220万台※が設置されているという。しかし、その増減を見ると、ここ数年は変化がなく飽和状態であることが分る。そんな市場環境の中で、日本コカ・コーラとJR東日本は「JR東日本の営業エリア内でコカ・コーラシステムが設置している自販機のSuica対応の本格展開を開始した、と発表した」(10月6日、さくらフィナンシャルニュース)という。
※10月6日日経新聞掲載の各社保有台数の積み上げでは324万台と試算

■従来の自販機戦略は「面の戦略」

 飲料業界第1位の日本コカ・コーラの自販機は98万台で、保有数もダントツで業界第1位だ。同日、「伊藤園、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社に出資」(日本経済新聞)という報道があった。14億円を投じたという、その狙いは伊藤園の主力商品「お~いお茶」などを、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社の持つ3万台の自販機に入れることである。伊藤園の保有台数はこれまで13万台であった。
 同様な展開は、8月12日に発表された、サッポロホールディングスによるポッカコーポレーションへの20%出資である。100億円といわれるこの投資の狙いは、サッポロの自販機設置台数は3万台に留まっていたが、ポッカの持つ9万台に対して製品供給し、営業基盤を強化することにある。
 こうした展開の例は実は古くからある。独立系自販機専業オペレーション会社のジャパンビバレッジ。聞き覚えがない会社かもしれないが、女子レスリングの浜口京子選手が所属している会社である。同社は旧ユニマット時代に1998年4月に日本たばこ(JT)の資本を受け入れている。そのため、飲料各社の製品を自社の自販機に混載する形式で設置しているものの、JT製品が常に一定の割合で入れられている。
 つまり、自販機の戦いは「面の戦い」であり、いかに自社製品を扱う自販機の台数を確保するかが勝つための絶対法則なのである。しかし、面展開を拡大するのであれば、新規設置をすればいいのではという考え方もあるだろう。ところが、冒頭でも触れたように、自販機市場は既に飽和状態であり、物理的に考えれば、もはや好立地に空きはない。せいぜいが新しくできたコインパーキングの入り口付近に、小銭の両替機代わりに設置させてもらうのがせいぜいなのである。

■変わる競争ルール

 面での戦いは、喉の渇きを癒したいという消費者の目にいかに触れるかが勝負という言い方もできる。自販機で飲料を購入する際、消費者の商品選択基準はあまり厳しいものではない。何となく茶系がいいとか、炭酸がいいとか、はたまたミネラルウォーターがいいとかの希望はあるものの、欲しいメーカーの商品を探してそれが入っている自販機を探すようなことはしない。故に、面をおさえることに意味があるのである。
 しかし、面さえおさえれば勝てるという時代でもなくなってきた。一つは商業施設・機器メーカーの株式会社フジタカ(京都府長岡京市)どが展開する「低価格自販機」の存在だ。同社が展開する「ハッピーベンダー」は、自販機オーナーに飲料の仕入れ・補充・現金回収を全て任せ、商品は賞味期限が短かったり、パッケージが旧デザインだったりというものなどをディスカウントでオーナーが仕入れて低価格で販売するというしくみだ。飲料は高くて100円、50円の缶コーヒーなども珍しくない。そうしたディスカウント自販機は全国で4万台に上るという。同じ消費者の視界に低価格販売機が入れば、そちらが選択されることになるだろう。
 もう一つは、駅ナカという圧倒的な好立地で、しかもメーカー資本などが入っていないため、完全混載型で各社の売れ筋商品だけを取りそろえる、JR東日本ウォータービジネスの展開する自販機である。「acure(アキュア)」というブランドで駅ナカで1万台を展開する同社は、伊藤園やサントリーなどと「朝」をテーマにしたオリジナル商品も展開している。オフィスや学校に向かう朝の通勤・通学途上に、街中の自販機に接触する以前に購入させてしまおうという導線を考えた戦略である。
 さらにもう一つあげれば、前項で述べたメーカー各社の資本提携による、複数社商品の混載が進むことだ。提携は保有する商品の強み弱みを補完する意味合いもあるため、自販機に搭載される商品の魅力は弥が上にも向上する。単一メーカーでは、例えばコカ・コーラは炭酸とコーヒーは圧倒的に強くても、緑茶系飲料は、伊藤園「お~いお茶」、サントリー「伊右衛門」、キリン「生茶」の3強を切り崩せていない。スポーツ飲料はリーダーの戦略で大塚製薬の「ポカリスェット」に同質化をかけて「アクエリアス」を展開しているが、500ml未満の容量ではNo.1シェアを取れていない。つまり、単独メーカーでのフルラインナップは、複数社による提携や、独立資本による混載には品揃えでれる誤する可能性があるのだ。
 以上の要に、市場環境や業界ルールが変われば、いかに強大な力を持ったコカ・コーラでも守勢に回ることを余儀なくされる可能性も出てきたのだ。

■縮む市場での勝ち残り戦略
 
 自販機市場だけでなく、全産業に共通したことであるが、少子高齢化の進行は劇的なマーケット縮小を意味する。縮む市場においては、規模はそのまま弱みになる。築き上げてきた資産が負債化するのである。飲料販路としては、自販機が約40%のシェアを占めている。チャネル間の戦いも無視できない。コンビニは約25%のシェアである。そうした環境の中で、いかに自社のシェアを維持できるかを考えた時、日本コカ・コーラは電子マネー対応強化に踏み切ったのではないだろうか。
 自販機の利用に対する不満をあげるとすれば、何があるだろうか。一つは「小銭」であろう。電子マネーの発達した昨今、買い物をしてジャラジャラと小銭が返されて財布がパンパンになるようなことは自販機ぐらいではないだろうか。にもかかわらず、相も変わらず、自販機には「新札使えます」とのシールがあるだけだ。千円札が夏目漱石から野口英世に変わったのは2003年のこと。もう6年間も何の変化が自販機にはないのだ。
 もう一つの不満をあげれば、コンビニチャネルと比べると価格に差があったり、自由度がないことだろう。例えば清涼飲料はコンビニでは税込み147円、自販機では150円と釣り銭の関係で一物二価となっている。また、コンビニではキャンペーン的に税込み126円などの値引き販売もなされている。自販機の価格硬直性がどうしても際立ってしまう。こうした問題は、電子マネー対応で解決ができる。電子マネー決済の場合の価格と硬貨支払いでの二重価格にはなるが、多くの人が1枚や2枚は電子マネーを持っていると考えれば、そちらを利用するだろう。

 日本コカ・コーラはこうした市場環境の変化の中で、まずは顧客の支払いに対する不満の軽減と、低価格機やコンビニチャネルとの価格競争に柔軟に対応できるインフラづくりとしてSuica対応を決断したのだと推測できる。
 また、同社はキャンペーンによる魅力づくりにも腐心しているようだ<2009年11月2日(月)からは、コカ・コーラ自販機でSuicaを利用して飲料を購入した人を対象にプレゼントがあたる、共同プロモーションを実施する>(さくらフィナンシャルニュース)多分に他社自販機だけでなく、コンビニとのチャネル競争を意識した展開であろう。
 今後の展開としては、<2009年12月までに首都圏を中心に約1万台のコカ・コーラ自販機へ対応を拡大、更に2010年12月末までに3万台のコカ・コーラ自販機へ対応を広げていく。また2011年以降も継続的な導入を実施していくという>(同)

 同社の取り組みは、他社にも大きな影響を与えるだろう。自販機という、普段あまり注目されにくい世界でも、勝ち残りをかけた激しい戦いが始まったのである。

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2009.10.06

これぞケータイの決定版?

 高度多機能化してユーザーを置き去りにしているかのようなケータイの進化に、アンチテーゼともいうべきコンセプトモデルが、幕張メッセで開催されている「CEATEC JAPAN 2009」に出品されている。

 筆者はかつてはケータイオタクであった。10ヶ月の機種変NG期間が明けるのを待ち、ドキドキしながら新モデルを選ぶのが楽しかった。どんどん進化する機能と高度化するスペックに「もう、デジカメいらねぇな!」とか、「パソコンも持ち歩かなくていいんじゃね?」とか純粋に感動していた。
 いつの頃からだろう。胸がときめかなくなったのは。使いこなせない機能が増えていき、常に持ち歩くケータイの中にそれらが存在していることに得体の知れない気持ち悪さを感じるようになり、うっかり間違って操作してしまって現れる慇懃な「ヒツジの執事」にちょっとうんざりし・・・。歳とったかな・・・とふと、あきらめにも似た悲しみを感じつつ、「シンプルなケータイが欲しい」と考えるようになってしまった。
 求めるシンプルなケータイを探すうちに、ふと気付く。合格点が出せるシンプルなケータイにはナゼか、「1・2・3」という大きな数字の書いてあるボタンがついている。「らくらくホン」である。ああ、やはり自分はジジイになってしまったのかと嘆く。

 えいっ!と、キャリアを変えてしまうのなら、まだ解決策はあるのだ。auのiidaブランドなどかなりいいセンいっている。さすが、かつてのデザインプロジェクトを継承したブランドだけのことはある。デザインプロジェクトはケータイの本質をとらえていた。 
 『考えてみると、ケータイは使っている時間より、ただいっしょに「過ごしている」時間の方が長いのかもしれない。人とケータイが共有する、すべての時間を「デザインする」こと。それがauの考える「ユーザー・インターフェイス」。』(au:2007年「ケータイがケータイし忘れたもの展」)。
そうなのだ、そんなケータイが欲しいのだ。

 と、思っていたら、ドコモもようやくやってくれた。「ヒノキの間伐材を使った携帯電話」だという。
<ヒノキ香る「木製」携帯 ドコモ開発、間伐材を利用>
http://www.asahi.com/digital/mobile/TKY200910030321.html

 まるっとしたデザイン。木目も鮮やかな、一目見ただけで「触りたいっ!」と感じさせる温もり感。それだけでなく、ヒノキと聞けば「嗅いでみたい!」と、ケータイをクンクンするのはどうかとも思うが、そんな誘惑に駆られずにはいられない。
 アサヒコムの記事中を見る、木材の劣化を防ぐために、オリンパスの木材圧縮技術を使ったとある。

 オリンパスのその技術を調べてみると、何と、既に2006年に開発・発表しているのだ。
<オリンパス、木材の三次元圧縮成形加工技術を開発>
http://www.olympus.co.jp/jp/news/2006b/nr060925woodj.cfm

 そして、デジタルカメラに応用して、木材を筐体に用いた試作品を発表している。いつでも肌身離さず持ち歩く存在としては、カメラよりもケータイに用いた方が断然いいと思うのだが、オリンパスはその技術を開発した背景とその思想も発表している。素晴らしい考え方なので、少し長くなるが引用したい。

<「効率・利便性・安価」を追求した画一的な大量生産・大量消費でモノの飽和状態が進む中、モノに対するこだわり、愛着が失われつつあります。
このような時代においてオリンパスは、人がモノに対して情緒的価値を持てるモノづくりとは何かを考えてきました。
その一つの回答が、今回開発した自然素材である「木」を使った三次元圧縮成形加工技術であり、この技術により本来「木」が持っている天然の色・つや・木目の美しさの表現、電子機器の外装・筐体に使うことができる薄さと硬さを両立しました。>
 
 技術の進歩によって様々な製品において、スペックの差異がなくなった。ここからさらにスペックを拡張させようとすれば生活者の求めていないレベル、ついていけないレベルにまで先走ってしまうのは携帯電話だけのことではない。
 ブランド論の大家、デビッド・A・アーカーが著した「ブランド・エクイティ戦略」(ダイヤモンド社)を読み返してみると、そこに世の「コモディティー化」を脱するキーワードがある。「知覚品質」という考え方である。
 「知覚品質」とは「顧客が認めている、“その製品ならでは”の価値」である。スペックを重視する「工業的な品質」は当然、「客観的に測定可能な品質」であるが、それに対してアーカーの提唱する「知覚品質」は、目に見えない「顧客の頭の中の主観的な評価」である。言い換えれば、その顧客なりの“対価を支払う理由”である。

 ドコモのニュースリリースを見ると、「木製ケータイ」が多くの人の知覚品質をとらえるに十分な存在であることが分る。

<国産間伐材を使用した携帯電話試作機「TOUCH WOOD」を開発>
http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/page/090924_02.html

<本端末の開発コンセプトは、本物感、唯一感、環境思想の3つより成り立っております。>とのことだが、本物感とは、オリンパスの技術でフェイクではない、ポリカーボネイト樹脂やABS樹脂を超える十分な硬度を持つ本物の木材を用いたことだ。
 唯一感とは<1台ごとに異なる美しい木目と色合いが実現され、自分だけの、思い入れ、愛着が生まれます>とのことである。木材は無塗装なので、筆者が期待したような触覚・嗅覚・視覚を通じた本物感と安らぎを与えてくれるだろう。
 環境思想とは、間伐材の活用を指している。<林業を活性化させることで、山・川・海の環境整備の促進>に寄与せんとの思想だ。<使用されているヒノキは、坂本 龍一氏を中心に森林の整備・保全を呼びかける団体「more trees」の管理する四万十原産の間伐材を採用>しているという。その「more trees」なる団体は、<世界の森林を救うためのプロジェクト。“もっと木を”というシンプルで力強いメッセージをもとに、森とともに生きることの重要さを>世界に発信しているという。自分もその思想に共感し、参画しているという意識は悪くない。

 イメージモックアップの画面は、何やらタッチスクリーンになっているように思われるが、どんな機能であるかはほとんど興味がない。唯々、ずっと持って、触れていて満足できるケータイであって欲しいと願う。それが「究極のケータイ」ではないだろうか。そんなケータイが出品されている「CEATEC JAPAN 2009」は「アジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展」であるという。「最先端」も本当に先っぽに行き着くと、こんなカタチになる。情緒的価値や知覚品質が重要になるという証左であろう。

 おっと、ただ、気になるのがドコモのニュースリリースでは、モックアップの上に、「SH-04Aをベースに試作した実機」というのがある。これは、いかにも「従来の携帯電話」然としていて面白くない。

 「ドコモさーん!、本番は、是非、丸っこい方でオネガイしま~す!!」

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2009.10.04

失敗から学んだ「長崎ちゃんぽんリンガーハット」の大きな賭け!

 長崎の名物料理「長崎ちゃんぽん」を全国展開するリンガーハット。昨今の不景気の中で客足を維持したい外食産業が軒並み低価格戦略に舵を切る中、同社は逆張りの値上げ戦略に転換した。その勝算はどこにあるのだろうか。

 リンガーハットの値上げは3年ぶりのことである。当時、世界中で食糧価格が高騰し、小麦をはじめとした穀物価格は最高値を記録していた。その原材料価格の上昇を定価に転嫁し、2006年9月、レギュラーちゃんぽんの値段が税込み399円から450円に引き上げられた。リンガーハットの多くの店舗はカウンターにスツールというファストフードスタイルであるが、399円というファストフードらしい手ごろな価格も人気の一因であったのは間違いない。それが10%以上の値上げで400円台中盤の価格になったのだ。結果として客数は激しく落ち込み、その回復に同社は大変な苦労をすることになった。

 では、今度の値上げは大丈夫なのだろうか?

 価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。自社視点(Company)・競合視点(Competitor)・顧客視点(Customer)の3つである。

 2006年の値上げを考えてみよう。
 小麦などの原材料費の高騰は、生産原価の上昇を表わしている。価格設定における自社視点を、「原価志向」の価格設定といい、生産にかかったコスト(固定費の償却分+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。一定の利益を確保するためには、値上げやむなしという考え方になる。
 もう一つの競合視点を「競争志向」の価格設定という。競合となり得る商品を特定し、競合と全く同じ価格にするのか、その上下、何パーセントぐらいに設定する考え方である。では、「長崎ちゃんぽん」の競合は何かと考えてみる。同じ「中華系の麺類=ラーメン」と仮定しよう。ラーメンの平均的な価格は、「その地域のタクシーの初乗りと同等」などといわれているため競合視点で考えれば、値上げしてもまだまだ競争力は保てると判断できる。
 しかし、問題は3つめの顧客視点だ。「需要志向」の価格設定という。端的に言えば、この視点は「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということである。この部分が欠落していたために、2006年の値上げによって顧客離反が相次いだと解釈できる。

 2006年以降も小麦の相場は上昇を続けた。政府の売渡価格は2007年4月に1.3%、同年10月に10%、2008年4月は30%、10月は10%値上げした。その間はリンガーハットはさらなる顧客離反を回避するため、原価を価格に転嫁することをせずに踏ん張ったのである。

 しかし、相場は2008年夏から下落し、2008年6月~2009年1月の平均買付価格は、2007年12月~2008年7月より30.5%下がったのである。では、なぜこの時期に値上げなのだろうか。値上げ幅は、販売価格を40~100円にあげるという。2006年の値上げと同等かそれ以上である。

 メディアの伝えるところによると、<米浜和英社長は「値下げでの集客には限界がある。時代に逆行するかもしれないが、国産野菜本来のおいしさを届けたい」と説明>とある。(毎日新聞 2009年10月1日 西部朝刊)。不景気で財布の紐が固くなった消費者に対して、外食産業は雪崩を打って値下げ戦略をとった。しかし、それは血みどろの消耗戦を意味するものでもある。リンガーハットはそれに対して「逆張り」の戦略を展開するのである。確かに、原材料価格を見ると、麺に使う小麦だけでなく、ちゃんぽんの重要な具材である野菜も、日照不足など各地で天候不順が続き高騰を続けている。原材料費全体が下がっているわけではない。しかし、それを単純に値上げするだけでないことが今回のキモなのだ。

 リンガーハットは<ちゃんぽんと皿うどんの食材の野菜すべてを国産にする(中略)「国産野菜のおいしさと安全性」を訴える「付加価値戦略」への転換>(同紙)であるとの発表している。
 食の安全・安心に対する関心は相変わらず高い。それに応えて、同社は<キャベツやもやしなど年間1万2400トンの野菜を食材に使用し、タマネギやニンジンなど2400トンは輸入していたが、今後はすべて国産に切り替える。国産野菜を安定的に確保するため、国内15道県・約40産地の農家と契約した>(同紙)と、単純な値上げではなく、自社のバリューチェーンを大きく転換している。それによって、「需要志向」の価格設定における、「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」という要素で欠かせない「食の安心・安全」という、ある意味、プライスレスな価値を訴求しているのだ。

 細かく見てみると、なかなか芸の細かいプライシングであることが分る。国産化だけでなく、さらに野菜の量を1人前当たり25グラム増量するという。野菜高騰の折、消費者にとってはうれしい限りであるが、それに対する値上げは、<長崎ちゃんぽんの値段は東日本が500円(従来450円)、西日本490円(同)、東京都内23区550円(同)>であるという。これは日本マクドナルドでが2007年6月から導入した「地域別価格設定」と同じだ。地域によって「いくらまで払っていいか」と感じる「需要志向」の感覚の差異を綿密に検討したものだと思われる。
 さらに、<野菜の量が2倍の「野菜たっぷりちゃんぽん」(全地区650円)も新たに発売する>(同紙)という。650円といえば、なかなかの高額メニューである。高価格のメニューで利幅を稼ぐ「マージンミックス」の手法であるが、そこはしっかり全国的に見てもほぼ、ラーメンの価格の上限におさえる、「競争志向」の価格設定も意識していると考えられるのである。

 では、値上げの反応はどうか、同社の「リンガーハット西新宿店」に値上げから2日目の10月2日に行ってみた。12時過ぎには比較的広い店内のカウンターは満席となった。値上げによる顧客離反は今のところ見受けられない。
 「皿うど~ん」「ちゃんぽ~ん」という、来店客の食券を読み上げて厨房に伝える店員の声が響く。その中に、かなりの割合で「野菜たっぷり~」との声が混じる。およそ3~4割はあるのではないだろうか。マージンミックスも成功しているようだ。
 筆者の目の前にも「野菜たっぷりちゃんぽん」が置かれた。麺とスープの上にうずたかく野菜が積み立てられていて大迫力である。「喰いきれるかな・・・」と思いつつトライすると、あら不思議。温野菜の成果である。しっかり胃袋に収まる。野菜をたっぷり食べた!という強烈な満足感。とっても健康にいい気分満点である。また、時々食べに来ようとリピート意欲もしっかり湧いた。

 前回の値上げによる失敗を教訓として、今回は顧客ニーズと、顧客への提供価値を考えぬいたのだと感じられた。どうか、今回の戦略がうまくいくようにと心の中でエールを贈りつつ、店を出た筆者であった。(満腹になった腹を抱え、したたる汗をハンカチでぬぐいながら)。

 

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2009.10.02

足し算・かけ算・引き算:新型洗剤の潜在力をチェックする!

 花王の「スタイルフィット」「アタックNeo(ネオ)」、P&Gの「さらさ」など、昨今ニュータイプともいうべき衣類用洗濯洗剤の登場が相次いでいる。洗剤は普段なにげなく使っているコモデティー品の代表格といってもいい。それらは長く進化を止めているようにも見えるが、そのままで生き残っていられるほど現代の市場環境は甘くはない。では、ニュータイプ洗剤は進化の過程でどのような力を獲得していったのだろうか。
 
 まず、商品における「進化」とは何かを考えてみよう、「進化」とは広辞苑によれば「生物が世代を経るにつれて次第に変化し、元の種との差異を増大して多様な種を生じてゆくこと」とある。「生物」ではなく、消費者から選ばれ、買われなければ生き残れない「商品」で考えれば、「元の種との差異を増大」は、選ばれるために商品の「価値構造」を変化させ、価値を高めることに他ならない。

■洗濯石けんから粉末洗剤へ

 衣類の洗濯には、古くは天然油脂を原料とする、いわゆる「石けん」が用いられていた。
洗濯石けんを用いることによる「中核的価値」は「衣類の汚れが落とせる」である。特に、水洗いでは落とすことのできない皮脂などの、水に溶けない汚れを落とすには欠かせない存在である。
 洗濯石けんは、電機洗濯機の普及によって洗濯が人力から機械化されたと共に、より水に溶けやすい性質を持つ、「洗濯用粉末洗剤」にその座を明け渡すことになった。洗剤は「汚れが落とせる」という中核的価値を実現する欠かせない要素である「実体価値」に、「よりきれいにする」「より白くする」という要素を付け加えることになった。漂白剤による汚れの分解と、蛍光剤による増白である。

■コンパクト洗剤が実現した価値

 次の変化は1987年に起きた。世界に先駆けて日本で開発された、「コンパクト洗剤」である。それまでの洗剤に比べ容量で1/4、重量で1/1.6という画期的な小型化を図ることができた。コンパクト化で増大した価値は、中核的価値に影響を直接及ぼすものではないが、それによって商品の魅力がより高まる要素である「付随機能」である。今までかさばって邪魔だった洗剤の大きな箱が占拠していたスペースが節約できた。さらに、空き箱のゴミも減る。使用量が少ないため、洗濯機から排出される汚水が環境に与える負荷も低減できるという要素である。

■液体洗剤の普及がもたらした価値

 経済産業省によると、衣料用洗剤のうち液体のシェアは2003年には15%(販売金額ベース)であったが、節水型のドラム式洗濯機の普及で2009年に入って40%へと上昇したという。販売数量の伸びによって、規模の経済が働いたためか、メーカー各社から従来よりも低価格な設定の商品が発売されたことも普及を促進したと思われる。欧米に比べて液体洗剤シフトが日本で遅れたのはやはり、「液体はいいけど高い」という消費者の判断があったからだ。では、その消費者が感じている液体洗剤の価値は何かといえば、粉末洗剤の「粉が飛び散る」「溶け残る」「洗剤の自動投入口に残る」といった問題点を解消し、「汚れのひどい所に部分的に塗る」という新たな使い方ができることである。つまり、それらは、「汚れが落とせる」という中核的価値を実現するのに欠かせない要素である「実体価値」を強化していることになる。製品の価値構造において、中核的価値により近い部分に要素が付け加わったり、強化したりということが実現すると、それは消費者に大きなメリットをもたらすため大ヒットにつながる場合が多い。洗濯機が新しくなり、価格も安くなった液体洗剤を使った消費者は手放せなくなり、普及が大きく加速したのだ。来年には粉末と液体はシェアが逆転すると業界は見ているようだ。

■液体洗剤の勝負のしどころ

 粉末の問題点を解消した液体洗剤であるが、実は主成分である界面活性剤が液体であるため、実体価値である、「よりきれいにする」「より白くする」を実現するための酵素剤、キレート剤、酸素系漂白剤などが、水に溶けて安定しているものが少なく入れにくいという弱点が存在したという。そのため各社の勝負は、いかに実体価値を高めるかに注がれることになり、「輝く白さ」や「色柄ものの鮮やかさ」などの仕上がりを競い合うようになったのだ。

■「足し算」の花王・スタイルフィット

 上記の「よりきれいにする」「より白くする」という実体価値は、各社の努力で一通り実現されたようであるが、そうなると、再び付随機能での勝負が始まる。もともと、製品の価値構造は、中核的価値から一番遠い付随機能を付加する方が一番バリエーションも多くやりやすいといえる。多くの製品がコモデティー化すると、カラーバリエーションに走るのはこのためだ。例えば、ノートパソコンが何色であっても、ドキュメントの作成やインターネットの利用という、中核的価値には何の影響も及ぼさない。しかし、もはや差別化は色ぐらいでしか図れないため、在庫リスクの上昇というデメリットを承知で各社はカラーバリエーション展開をしているのだ。
 液体洗剤の付随機能として、花王は「香り」に注目した。米国製の柔軟仕上げ剤「ダウニー」は、仕上がってからも強烈に香りが残る。従来の日本製にはないそうした要素が若年層や若い主婦に受けて、主にECサイトを中心として大人気となった。そこで花王は、2009年6月のスタイルフィットの製品リニューアル時に、セット商品の柔軟仕上げ剤と共に「香り」の要素をさらに強調するようになった。

■「かけ算」の花王・アタックNeo(ネオ)

 花王のチャレンジはスタイルフィットのような、付随機能の足し算だけでは終わっていない。2009年6月に新CIを定め、環境宣言を掲げたのと時を同じくして、そのポリシーをそのまま製品化したかのようなアタックNeo(ネオ)を発表。8月末から発売を開始した。同製品は、液体洗剤を従来の2.5倍という高濃度に圧縮し、少量でも、抜群の洗浄力を発揮するという。そして一番の眼目は、繊維に残りにくく、すばやく泡切れするという新洗浄成分の特徴を活かし、従来すすぎを2回していた洗濯のしかたを、すすぎ1回ですむようにしたことだ。
 濃縮度を上げて使用量を減少させたのは、粉末時代のコンパクト洗剤と同じく、環境負荷軽減に役立つが、さらにすすぎ1回は水と電気の使用量を削減できるという効果がある。当然、水道代、電気代の低減できるため財布にもやさしい。さらに、すすぎ1回、10分間という時間も短縮でき家事の負荷軽減も実現する。それは、洗剤の「汚れが落とせる」という中核価値の実現を支える、実体価値を何倍にも高める「かけ算」であるといってもいいだろう。

■「引き算」の P&G・「さらさ」

 P&Gはたぐいまれなるマーケティング力によって、世界の様々な市場において圧倒的な力を誇っているが、こと日本の衣料用洗剤市場では花王、ライオンに次ぐ3番手と後塵を拝している。従来、米国を始め世界市場での成功商品を日本に持ち込む展開をしていたが、今回は満を持して、同社の力の源泉である綿密なマーケティング調査を経て、日本専用商品を投入したのである。その名も「さらさ」と日本語である。
 膨大な消費者調査を行ったという同社が発見した日本の消費者ニーズは以下のようなものだ。(7月29日付け・同社ニュースリリースより)<全体の約3割が「本当に欲しいと思う洗剤に出会っていない」と感じていることが明らかになりました(P&G調べ)。この約3割のお客様は、「蛍光剤、漂白剤、着色料が入っていない洗剤を使いたい」という思いがより強く、「今ある洗剤では自分にとって必要ない成分まで入っている気がする」というものでした>。そして、蛍光剤・漂白剤・着色料を無添加を実現した製品に仕上げたという。
 これは、従来の「よりきれいにする」「より白くする」という実体価値の大転換である。新たな製品コンセプトを考える際には、中核・実体・付随機能という価値の要素に何かを付け加えることも重要であるが、何かの要素を削除したり、書き換えたりという「引き算」も重要なのだ。引き算のニーズを持っている顕在化したターゲット層は3割であるが、ロハス(LOHAS)の意識も高まっていることから、潜在的なターゲット層はもっと多そうだ。同社は「サステナビリティ(持続可能な社会)の実現」を掲げている。花王が新CIを体現した商品を投入したのと同じく、日本市場専用に開発されたこの商品にかける意気込みが伝わってくる気がする。

以上のように、洗濯洗剤の歴史と最近の傾向をひもといて、価値構造の変化を検証してみた。繰り返すが、「進化」とは、「元の種との差異を増大して多様な種を生じてゆくこと」であり、商品においては「価値構造を変化させ、価値を高めること」を意味する。どんな商品も進化なくして生き残ることはできない。常に、消費者からどのような価値構造が求められているのかに留意することが肝要である。

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2009.10.01

「ペプシあずき」の味を大胆予測する!

 3年ほど前から好例となっている期間限定の「変わり種ペプシ」。10月20日に、今度は「あずき」味が発売されると報道され、ネット上ではブログやSNSで早くも大きな話題になっている。その戦略の意味合いから考察して、一足お先に、そのお味を予測してみたい。

 変わり種ペプシが大きな話題となってブレイクしたのは2007年夏、キュウリ味の「ペプシアイスキューカンバー」からであるといっていいだろう。どこか青臭く、うす甘い味わいは「オイシイ!」というよりは不思議・・・というか、何ともオソロシイ味であった。その味にネット上は阿鼻叫喚の巷と化した・・・というのは大げさであるが、ちょうどブログやSNSのユーザーがうなぎ登りの時期であったことも手伝ってかなりの話題になったのは事実だ。
 翌2008年夏は同名のカクテルの青を模した「ペプシブルーハワイ」。パイナップル風味は随分と甘味が強く感じられ、キューカンバーほどではないものの、クセは強かった。続いて同年、秋口から冬にかけて登場したヨーグルト味の「ペプシホワイト」は、甘みの強い傾向はそのままに、随分とクセがなくなって、普通にオイシく飲める味に仕上がっていた。
 そして、今年夏のしそ風味の「ペプシしそ」。甘さの強い傾向は引き継がれた。しその香りと甘みが合うと感じるか否かで好みが分かれたが、多くのファンを獲得したのも事実であり、メディアによると「約30万ケースを売り上げた」とのことである。

 ペプシが変わり種コーラを出すのは、チャレンジャーの戦略の基本・差別化戦略である。リーダーであるコカ・コーラが「すかっと爽やか(ちょっと古い表現)」というポジションからは言えないメッセージを発信する。「理論の自縛化」という戦術で、リーダー企業が同じ手を打ってくる「同質化」を回避する戦略である。「目新しいことを常にペプシはやっているんだ!」とのメッセージだ。そもそも、今日当り前になっていて、コカ・コーラからもすっかり同質化されているが、コーラにレモンフレーバーを導入したのはペプシが最初であり、変わり種コーラはその極端な発展形であると考えることもできるのである。

 さて、「ペプシあずき」の販売目標は20万ケースであると報じられていたが、「しそ」の30万ケースも含めて、それは一体どれくらいインパクトのある数字なのかを考えてみる。ペプシを販売するサントリーが2009年に目標としている、全ペプシブランドの目標販売数は3000万ケースである。(2009年1月20日リリース「2009年サントリー食品事業方針」より)。つまり、数字的には全体の1%程度を稼ぐにすぎないのだが、その戦略的な意味合いは大きいと考えられる。

 マーケティングの4P的に考えてみよう。製品(Product)は、見た目から変わったインパクトのある商品だ。それがどのようなところで活きるのか。価格(Price)は、通常の商品と変わらない。広告宣伝(Promotion)はどうかというと、変わり種コーラに関する広告宣伝はマスメディアでも、インターネット広告でもほとんどなされていない。もっぱら、ニュースリリースからのクチコミで勝手に盛り上がる。(当記事も含めて)。これほど安上がりなプロモーションはない。

 では、販路(Place)はどうか。ここがキモだ。
 日本コカ・コーラの力の源泉は自販機である。飲料販売の約4割を占める自動販売機を同社は国内に80万~90万台擁する。対して、サントリーは44万台と劣勢を余儀なくされている。残る戦場はコンビニだ。コンビニで最も重要なのは「棚を取ること」。しかも、数多く、有利な場所をおさえるのが、自販機と異なって競合製品と比較購入される状況においては欠かせない。
 棚に並ぶまでにはコンビニ本部のバイヤーが取扱を決め、フランチャイズのオーナーが発注する際に棚に並べる数を決める。飲料において、棚を取るには、「ボトルネックに景品を付ける」「キャンペーン値引き価格の設定」という販促施策がよく用いられる。オーナーが「それなら他のものより売れるだろう」と期待するからだ。
 それ以外には、純粋に「話題の新製品」であることがあげられる。それも、「期間限定」であれば、発注が得やすい。定番レギュラー商品から派生した期間限定商品の場合、定番レギュラー商品も同時に棚に並べられることが多い。つまり、変わり種コーラという存在があれば、コンビニという戦場でそれ自体で有利な棚を確保し、さらにペプシネックスなどの定番レギュラー商品の棚も確保できる。これが最大の効果が期待である。

 では、その有利な棚確保ができるためにもう一度製品(Product)を見直してみたい。いよいよ「味」についてである。過去の例でいえば、販売実績は公表されていないながら、最も長期間、棚確保に成功した変わり種コーラは「ペプシホワイト」であろう。登場時には各店で3~4フェイス。その後も昨年内は1~2フェイスが確保されていた。期間限定といってもずいぶん長く置かれ、売れ続けたのはやはり、「味」の要素が強かったと思われる。歴代の変わり種の中では最も素直な味、よく仕上がった乳性炭酸飲料であったといえるだろう。
 とすると、今回の「ペプシあずき」は、「ブルーハワイ」以来の甘さ強め路線は継承し、さらに「ホワイト」のように甘みの中のクセを取り去って、「しそ」の「和素材」路線で勝負すると考えられる。甘さと「あずき」は「しそ」以上に相性も良さそうだ。製品(Product)の一要素である、商品パッケージを見ると、「着物の地模様のようなデザインを採用し、商品ロゴを縦書きにすることで和の世界を表現した」とのことで、製品コンセプトとの整合もいい。
 以上のように考えると、今回の変わり種コーラ、「ペプシあずき」の味は、歴代の中でも飛び抜けて「オイシイ!」はずであると、期待が高まる。・・・のだが、実態はどうだろうか。結果は発売日の10月20日。
 

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