カメラのキタムラの「レンタル」事業は1粒で3度オイシイ!
カメラの「キタムラ」がデジタル一眼レフのレンタルサービスを10月22日から開始した。
<キタムラ、全国76店舗で“デジイチ”や交換レンズのレンタルを開始>
http://news.walkerplus.com/2009/1031/9/
東京ウォーカーの記事によれば、 <ターゲットは30~60歳の男女>であるといい、数店舗での試行サービスを経て<「大切なイベントで使いたい」「レンズなど目的商品を試してから購入したい」>というニーズに応え、全国展開に踏み切ったという。
同社のレンタル事業の担当者が<「単にインターネットを使ったレンタルサービスではなく、全国の店舗を受け取りや返却の窓口にしました。近くの店舗を利用できて、店員から使い方のレクチャーが受けられる“専門店の強み”を活かしたサービスになっています」>とコメントしている。
サービスの概要は<レンタル期間は当日~13泊14日。料金設定は市場価格の10分の1~20分の1程度>である。事業としては<初年度の売り上げ目標は1億円。来年1月には実施店を全国1000店舗に拡大し、5年後には10億円を目指す>という。
「カメラ屋さんがカメラを売らないで、貸しちゃってどうすんの?不景気に対応して販売からレンタルに業態転換するのか?」と思われるかもしれないが、同社の狙いは確かだ。
不景気で消費者は高額商品の購入を抑制する。反面、各種のレンタルサービスは活況を呈している。同社の新事業は、まずはそこに勝機を見いだしたのだ。
しかし、狙いはそこだけではない。同社はハードの販売以上にDPE(プリント)を収益の柱としている。
写真を撮るという習慣は、デジカメの普及によって大きく変質した。フィルム代がいらなくなったことから撮影数は爆発的に増えているが、プリント数が激減しているのだ。DPE店に出さず、家のプリンタで出力するか、パソコンにデータを転送する。もしくは大容量になっているカメラのメディアに貯めっぱなしになっていることも少なくない。
キタムラの店内を見ると、ズラリと並んだセルフサービスのプリントマシンが目に入る。そこで、多くの人が楽しげに自分が撮影した写真を選んで、プリントしているのだ。そして、家庭用プリンタでは真似できないきれいさに仕上がる。
レンタルを受けに店に来た時に、その光景は顧客の頭にインプットされる。そして、返却に来た時に、「プリントしてみよう!」と思うのである。カメラ店というより、DPE店という業態でトップシェアを持つキタムラの姿を考えれば、レンタルサービスは黙って待っていてもプリント客が増えない時代の、強力な需要創造策であることがわかるのだ。
もちろん、カメラの販売にも貢献する。同社の商品価格は決して高くはない。しかし、とにかく価格勝負の大型量販店とい比べれば、必ずしも最安値を実現はできていない。
レンタルサービスは「近くの店舗」で「店員から使い方のレクチャー」を受けて、気になるカメラを「試して」「納得して」から、顧客が実際に購入してくれるという効果も期待できるのである。
1粒で3度オイシイキタムラのレンタル事業をフレームワークで考えてみよう。
消費者の態度変容モデルはAIDMAが有名だ。A(Attention:注目)→I(Interest:関心)→D(Desire:欲求)→M(Memory:記憶)→A(Action:行動)である。それに替えてAMTULというモデルを用いる場合もある。A(Awareness:認知)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)だ。
AIDMAは消費者が商品を認知してから購入に至るまでをプロセスとしてとらえているが、AMTULは試用を経て購入し、反復購入させるまでをとらえたモデルである。
キタムラの場合はレンタルサービスを認知(Awareness)させるとともに、店頭でプリントサービスも認知させ、記憶(Memory)させる。レンタルサービスでカメラを試用(Trial)させ、納得した人には購入してもらう。プリントも利用してもらう。そして、プリントの仕上がりを気に入ってもらって、頻繁に使ってもらい(Usage)、同社のファンにする(Loyal)という戦略である。
「カメラ店がカメラ売らなくてどうすんの?」と短絡的に考えては同社の戦略は見えてこない。実は、時代に合わせた深謀遠慮があり、1粒で3度オイシイ設計になっているのである。