感嘆すべきファーストリテイリングの強固な成長戦略
2010年までに売上高1兆円、経常利益1500億円達成の目標を既に発表していたファーストリテイリングが、新たにその10年後2020年に売上高5兆円、経常利益を1兆円を目標とすることを発表した。その背景には、徐々に形を明確にしてきた同社の成長戦略が見える。
ファーストリテイリングがどのような戦略を描いているのか、成長戦略のオプションを考える「アンゾフのマトリックス」で同社の展開を分析してみよう。
マトリクスは、縦軸に既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのかという市場の軸をとり、横軸に既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかという製品の軸をとる。
次にその掛け合わせで、既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新製品を新市場に展開する「(狭義の)多角化」の4象限を作る。
既存の市場を深掘りする「市場深耕」を実現するためには、既存顧客の購入頻度を増やすことや、購買量を増やすことを実現する必要がある。そのために、使用用途を拡大したり、購買接点を増大させることが求められる。
ファーストリテイリングの中核事業であるユニクロで考えると、この分野の重点施策が目につく。まず、使用用途の拡大は、カジュアル一辺倒であったデザインをデザイナーのジル・サンダーとの契約で一気にファッション性を高める方針に転換した。「おしゃれ着としても着られるユニクロ」である。さらに、この秋冬向けに投入された合成皮革の「ネオレザー」は、本革にも劣らぬ質感であり、流行りのライダースなどのデザインもおさえられている。ホワイトカラーの展開もあり、かなりのオシャレさに仕上がっているのである。
購買接点の増大は、店舗の急速なスクラップ&ビルドである。ロードサイド店を販売効率の悪いものからどんどん閉店し、都市部に大型店を新規に作ったり、フラッグシップの銀座店を大幅増床するなどの展開も顕著だ。また、駅ナカや駅ビルなどの小規模店舗も購買接点のスキマを埋めるために機能させている。
「新市場開拓」では、新たな顧客属性を開拓するという新市場と、物理的に他の地域に展開するという新市場の2通りの意味がある。
全社では、ユニクロはブラトップなどに代表される女性向け商品比率を増やし、それが大成功して女性顧客を大幅に増やし囲い込んでいる。
もう一方の他の地域への展開は、中国などアジアでの出店加速を中心に、欧米でもパリやモスクワなどの主要都市に新規出店を拡大している。少子高齢化で縮む国内市場だけに留まることなく新市場を開拓し成長の原動力とする構えである。今月、ウォルト・ディズニーとのライセンス契約が発表されたが、それも、ユニクロの知名度がまだ低い地域での武器とするためと解釈することができる。
「新商品開発」は、本来の意味は次々と新商品を既存市場に投入していく展開を意味するが、あえて広義にとらえてみたい。中核事業であるユニクロのブランドを活かしたり、それを補完したりするために別の事業や別のブランドを投入したりテコ入れしたりすることをこの象限に当てはめてみる。
まず、「g.u.(ジーユー)」ブランドだ。今年、990円ジーンズに代表されるように、価格全体をユニクロの2分の1~3分1に抑制するという、さらなる低価格路線でテコ入れした。この低価格商品の投入は、ファーストリテイリンググループに新たな顧客を呼び込むという効果以上に、新商品による顧客囲い込みの意味合いが強いといえるだろう。前述の「ファッション性の強化」はもう一方でどうしても価格の上昇がどこかでおさえられなくなるはずだ。じわじわと商品単価が上昇した時に、ユニクロの離反顧客をジーユーで救いとろいという展開であろう。
もう一つの新商品開発は「靴」だ。「FOOTPARK(フットパーク)」や「AIR・KICK(エアキック)」などを買収したが、イマイチグループ内での相乗効果が出ていなかった。それを今秋「ユニクロシューズ」を立ち上げるという。9月5日現在、詳細はまだ発表されていないが、中核であるユニクロブランドに引き込むことで事業をテコ入れしつつ、ユニクロ顧客に靴という新商品を提供しようとする動きであることは間違いない。
かつて柳井会長は「顧客に全身をユニクロでコーディネートさせようとは考えていない」と述べていたが、ファッション性を高め、靴までアイテムを増やしたことで、全身コーディネートさせる方針に転換したとも考えられる。
「狭義の多角化」は、今まで接点のなかった市場や顧客に、新しいものを売ろうというのだから当然リスクは一番高くなる。ファーストリテイリングで考えれば、2007年12月に完全子会社化した婦人服専門チェーンの「キャビン」の展開はそれにあたるだろう。「ZAZIE(ザジ)」「 enracine(アンラシーネ)」 などのブランドを展開しているが、今まではファーストリテイリングのグループ内での相乗効果がうまく発揮できていなかったといえるだろう。そこで、テコ入れ策として、ユニクロと生産拠点や素材を一部共通化した。それによって商品の平均単価を20~30%下げることに成功したという。また、10月2日にオープンする銀座のユニクロ旗艦店にザジ、アランシーネの両ブランドの店舗も開設し販売拠点も強化する。
ファーストリテイリングは今までH&Mやフォエバー21などのファストファッションと一線を画していた。しかし、この動きはユニクロという中核事業の生産設備や素材を活かした「生産シナジー」で、ファストファッションへの狭義の多角化に乗り出したと解釈することもできるだろう。
以上のように、ファーストリテイリングの成長戦略は抜けモレなく、まさにマップをびっじりうめるが如く展開していることがわかる。それも、ここ1年ほどの間に完成計に近づいているのである。それゆけ1兆円。その次5兆円の構えだ。
しかし、残る課題もある。
ニューヨーク生まれのファッションブランド「Theory (セオリー)」。パリ生まれのブランド「COMPTOIR DES COTONNIERS(コントワー・デ・コトニエ)」。フランスのランジェリーブランド「PRINCESSE TAM.TAM (プリンセス タム・タム)」。これらの完全子会社化していない一部出資子会社であるファッション性の高い事業はまだ、グループ内でどのような位置づけになるか定まっていないように感じられる。
成長のマトリックスでは、中核事業のユニクロを最大限活用しつつ、その力を強化していくことに力点が置かれている。その意味からすると、上記の女性向けハイファッション事業群ともいうべき展開はシナジーを発揮しやすいとはいえない。しかし、もしかすると思いもよらぬ一手を考えているのかもしれない。
この課題も忘れずにウォッチし続けてみたい。
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I am thrilled you took the time and wrote this :D
Posted by: metropolitan insurance | 2010.12.01 10:25 AM
Il semble que vous soyez un expert dans ce domaine, vos remarques sont tres interessantes, merci. - Daniel
Posted by: rachat de credit | 2011.01.19 05:36 PM