売れない時代に売る力
日経MJ8月31日に掲載された2つの記事。同紙の編集者と編集委員の意見を読み解くと、「売れない時代」における製品開発担当マーケターの苦悩と問題点が見えてきた。
第3面のコラム「底流を読む」は今回「売れない時代に売る力」というサブタイトルが付いていたが、そこで例示されている2つのケースが気になった。
一つはコンビニエンスストアなどで、「お弁当やデザートの新製品作りで、女子大生が開発の現場まで入り込んでいるケース」というもの。本来、コンビニの主力商品であるおにぎりや弁当の開発部隊は充実しているはず。それが何を作っていいのかわからないので素人に頼ってしまっていることについて、「話題づくりならともかく、本丸の一部を明け渡していいのか」と憂慮している。
同記事でも「消費者目線が大切なのは否定しない」としている。「お客様の声」はVOC(Voice Of Customer)と称してその活用が近年重要視されてきた。コンタクトセンターやインターネットを通じて顧客の声を収集する接点は増加し、その声を長時間録音したり、テキストデータとして収納するストレージも価格低下で容易になっている。テキストマイニングなどの分析技術も発達している。しかし、あえて誤解を恐れずにいうなら、その活用の大原則が忘れられているように思えるのだ。
活用の大原則。それは「顧客の声は、製品サービスの改善には有用であるが、全く新しいものの開発には限界がある」ということだ。顧客は全く似たことも考えたこともないものを欲することはできないという、極めて当り前な前提がそこにあるからだ。
「顧客ニーズ」とは、顧客が思い描く「理想とする状態」と「現実」の間にあるギャップである。直接的には、それは不便であるとか、不満であるといった「不」の付く言葉で表わされる。故に、そこから「改善」を考えるのは比較的容易だ。
しかし、そこから全く新しい、消費者の持つギャップを解消する対象物=ウォンツを創り出すには、マーケターの解釈や発想力でジャンプをさせなければならないのである。それを消費者自身に任せていることを、編集者は憂慮しているのだ。
解釈や発想力によるジャンプと同様に、売りの現場で欠かせないのは、「売る側の意志」である。
もう一つ指摘されている事例がその欠落を示している。ある生協の店頭で「本日ポイント10倍」というかけ声がエンドレステープで連呼されていたという。「化って欲しい商品を連呼するならわかるが、これではまるでポイントを売っているようなもの」としている。まさに、「何を欲しがっているのかわからないけど、とりあえず10倍付けするから何か買っていって!」という状態だ。コラムは「売ってみせますという気概が欲しい」と締めくくられている。
しかし、「消費者ニーズ」がわからず、「売る側の意志」が空回りしている状態が同紙の一面記事の一部から伺える。「家電量販6社仕入れのプロ予測」という記事で、「録画できるTV売れ筋大本命」「2位除菌・空気清浄機」など、少し景気のいい感じの見出しが躍る。
その中の囲み記事で2名の編集者がバイヤーの意見を伝えている。その一つで気になるのが「一般に上位モデルには、使わずに終わるような機能も目立つ。もっとシンプルで、なおかつ基本性能の高い製品が必要」とメーカーに「機能を絞れ」と注文を付けている。
家電だけでなく、昨今は携帯電話が使わない、ユーザーが使いこなせない機能満載の代表例ではないだろうか。一部の高級車も同様だ。
消費者の心が見えない。わからない。わからないので不安になって、なんでも付け加えてしまう。金やモノで心は買えないとわかっていても、その見えない心をつかみたくて異性に貢ぐ心境と同じといっては言いすぎだろうか。
ひたすら「足し算」することをやめて、そろそろ「引き算」でものを考えることも必要なのだ。
例えば、携帯電話の高度な機能を全て取り去って、一つだけ付け加えて欲しい付随機能を挙げるとしたら、筆者の場合「目覚まし機能」である。
メールとブラウジングは欠かせない。しかし、通話は待ち合わせの時や緊急時以外めったに使わない。通話記録を見れば、週に数回しか使っていない。それ以上に、毎日確実に使うのがアラームだ。だが、実際にはアラームを操作するのは結構階層が深くて使いにくい。ダイヤルにセキュリティーロックをかけていると、その解除をしてから操作することになる。うっかりマナーモードにしていると鳴らない。携帯本体の機能から独立して操作できる目覚まし機能。その話をすると、多くの人が賛同してくれる。
機能満載から、引き算をしまくって、ユーザーの不満解消をするちょっとした足し算を行う。そんなことも「売れない時代に売る」工夫として欠かせないのだろう。
「売れない時代に売る力」。それは、消費者に頼りすぎることでも、消費者のココロを忘れてひたすら機能追加することでも実現することはできない。マーケターの発想力と売る意志が今、売れない時代にこそ試されているのである。
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