縮む市場で東京モーターショーはどうあるべきか?
55年間の歴史の中で、今年は最小規模での開催になるという東京モーターショー。出展社数は前回2007年の241社から108社と55%以上の減少。会期も4日間短縮して13日間へと、約2割減である。かつての華やかなりし東京モーターショーからは考えられない事態である。多くのメディアが「世界的な景気低迷が背景」と報じるが原因はそれだけではないはずだ。
■縮む日本市場・失われた魅力
少子高齢化で日本の市場は間違いなく規模縮小を免れない。特に外国車勢にとってもはや魅力を喪失しているのは出展社の数が如実に示している。前回26社の出展数があったのに対し、今回はわずか2社のみ。その2社といえば、ドイツの改造車メーカー、アルピナと英国のスポーツカーメーカーのロータス。アルピナは主にドイツBMWをベース社として改造車を年間役850台製造しているが、その2割は日本向けだという。故に、今回の出展を見送らなかったのかもしれない。しかし、BMWそのものの姿を見ることは今回はできない。
では、外国車勢はどこに行くのか。こぞって今年4月の中国・上海モーターショーに出展したのだ。苦境にあえぐ米国の3大メーカー、ゼネラルモーターズ(GM)とフォード、クライスラーも展示規模を縮小することなく出展。メルセデスとBMWは出展面積を拡大。他にもポルシェ、フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニなどの東京モーターショーではおなじみだったキラ星のごときスーパーカーも上海に集結した。日本市場の終わりの始まりが見てとれる。
■もはやクルマは売れないのか?
縮小が確実な日本市場ではあるが、もいすゞ自動車など商用車メーカー以外は、さすがに日本車勢は出展を踏みとどまっている。しかし、ふと冷静に考えればこの先、本当にクルマは売れるのだろうかと不安にもなる。今年、「エコカー減税祭り」ともいうべき大フィーバーがあったが、それは新規ユーザーを発掘できたわけではない。地球にやさしい以上に自分の懐にやさしい、低燃費車への買い換えがほとんどである。景気の低迷で自動車の買い換え年数は8年以上に上っている。そこに減税をエサに買い換えを無理矢理喚起したのが実態であり、一過性の現象にすぎないのは明らかである。なかなか本格的な回復の兆しが見えない経済環境下では、買い換え年数はさらに伸びるとも予想できる。だとすれば、既にその購入の先食いをしてしまったとも考えられる。
■道具としてのクルマ
ネット上でクルマの購入に関して様々な書き込みが為されている様も見られる。女性がブログやSNSで軽自動車の購入に際して人気車種について述べているのだ。人気の的は、ダイハツ・ミラココア、スズキ・パレットとラパンだ。エコカー減税にも対応しているが、低価格で低燃費、取り回しがしやすく、デザインも女性のハートを捕らえているといえよう。とはいえ、その利用のされ方は都市部においては例えば、小さい子供のいる主婦や、地方での移動の足としてであり、道具の域を出ないのが実情だ。
■モーターショーの役割を再考する
モーターショーとは、即ちトレードショー、見本市である。見本商品を陳列して展覧に供し、商談を調えるのが本来の姿である。つまり、消費者の商品購入に至る態度変容モデルであるAIDMAで考えれば、最初のA=商品認知(Attention)から、最後のA=購買行動(Action)までを一気に進めるのが本来の姿だ。しかし、クルマの場合、何らかの興味(I=Interest)がなければ、モーターショーにそもそも足を運ばないし、その場で購入はせずにディーラーに行くことになるため、最後のAは含まれない。漠たる興味を欲求(D=Desire)に変えて、記憶(M=Memory)に残すところまでが主たる役割である。
■新規ユーザー掘り起こしはできているのか?
では、漠たる興味を持つ人を集客できているのだろうか。少なくとも、「道具としてのクルマ」を購入する人は、わざわざモーターショーに足を運ばないだろう。近所のディーラーを数店回れば十分だ。最も漠たる興味を持って欲しい層は誰かといえば、道具としてでも、買い換えでもない新規ユーザーであり、即ち若年層だ。
気になるデータがある。東京モーターショーのWebサイトにある来場者アンケートの結果を見ると、2003年の第37回ショーから前回の第39回ショーとの来場者年齢構成が比較できる。37回では低年(15〜29歳)が38.7%であったのに対し、39回は30.6%と8ポイント以上減少している。来場者平均年齢も35.0歳から37.2歳と上昇している。
「若者のクルマ離れ」などといわれているが、実態としては世代間の所得格差の拡大によって資金余力がなく、「買わない」のではなく「買えない」のが本当のところだろう。また、買えないことが、そもそもの興味を喪失させる大きな原因となっているのも間違いない。この根本的な問題解決は容易ではないが、少なくとも興味喚起の努力だけは欠かせないといえるだろう。
■「未成年無料化」はどうか?
主催者である日本自動車工業会は「特に将来の顧客層となる若者に自動車の魅力を訴えていくため、これまで小学生までだった入場無料の対象を中学生にまで広げる」という発表を行っている。これは一つの解決策ではある。しかし、中学3年生は15歳。免許を取ってドライバーになるまでには、まだまだ時間がかかる。恐らくはその時までに興味を失ってしまう。事実、若年層の免許取得率は低下している。
モーターショーだけで問題が解決するわけではないが、こと、モーターショー担うべき役割の側面から考えれば、前述のAIDMAでの認知(最初のA=Attention)のレベルから担わねばならないのだと思える。つまり、クルマに興味のなかった若年層を、無料で1日遊べるイベントとして来場させ、実際にクルマを見させ、触れさせ、多少なりとも興味を喚起するところまでを狙うのである。ディーラーになど足を運ぶ若者はいない。また、前述の通り、平均で8年以上、10年以上も乗り続けられているクルマが街にあふれている昨今、新車を見る機会さえ減っているのだ。まずは、そうした努力が欠かせないといえよう。
今回のモーターショーでは、それでも会期中の入場者数は100万人と従来並の目標を置いている。(会期を4日間延長した前回は142万5800人)。しかし、もしもその目標を下回ったり、もしくは来場者の内訳が低年(15〜29歳)比率の減少・平均年齢の上昇などという結果になったりしたら、本気で「未成年無料」なども検討する必要があるといえるだろう。