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14 posts from September 2009

2009.09.30

縮む市場で東京モーターショーはどうあるべきか?

 55年間の歴史の中で、今年は最小規模での開催になるという東京モーターショー。出展社数は前回2007年の241社から108社と55%以上の減少。会期も4日間短縮して13日間へと、約2割減である。かつての華やかなりし東京モーターショーからは考えられない事態である。多くのメディアが「世界的な景気低迷が背景」と報じるが原因はそれだけではないはずだ。

■縮む日本市場・失われた魅力

 少子高齢化で日本の市場は間違いなく規模縮小を免れない。特に外国車勢にとってもはや魅力を喪失しているのは出展社の数が如実に示している。前回26社の出展数があったのに対し、今回はわずか2社のみ。その2社といえば、ドイツの改造車メーカー、アルピナと英国のスポーツカーメーカーのロータス。アルピナは主にドイツBMWをベース社として改造車を年間役850台製造しているが、その2割は日本向けだという。故に、今回の出展を見送らなかったのかもしれない。しかし、BMWそのものの姿を見ることは今回はできない。
 では、外国車勢はどこに行くのか。こぞって今年4月の中国・上海モーターショーに出展したのだ。苦境にあえぐ米国の3大メーカー、ゼネラルモーターズ(GM)とフォード、クライスラーも展示規模を縮小することなく出展。メルセデスとBMWは出展面積を拡大。他にもポルシェ、フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニなどの東京モーターショーではおなじみだったキラ星のごときスーパーカーも上海に集結した。日本市場の終わりの始まりが見てとれる。

■もはやクルマは売れないのか?

 縮小が確実な日本市場ではあるが、もいすゞ自動車など商用車メーカー以外は、さすがに日本車勢は出展を踏みとどまっている。しかし、ふと冷静に考えればこの先、本当にクルマは売れるのだろうかと不安にもなる。今年、「エコカー減税祭り」ともいうべき大フィーバーがあったが、それは新規ユーザーを発掘できたわけではない。地球にやさしい以上に自分の懐にやさしい、低燃費車への買い換えがほとんどである。景気の低迷で自動車の買い換え年数は8年以上に上っている。そこに減税をエサに買い換えを無理矢理喚起したのが実態であり、一過性の現象にすぎないのは明らかである。なかなか本格的な回復の兆しが見えない経済環境下では、買い換え年数はさらに伸びるとも予想できる。だとすれば、既にその購入の先食いをしてしまったとも考えられる。

■道具としてのクルマ

 ネット上でクルマの購入に関して様々な書き込みが為されている様も見られる。女性がブログやSNSで軽自動車の購入に際して人気車種について述べているのだ。人気の的は、ダイハツ・ミラココア、スズキ・パレットとラパンだ。エコカー減税にも対応しているが、低価格で低燃費、取り回しがしやすく、デザインも女性のハートを捕らえているといえよう。とはいえ、その利用のされ方は都市部においては例えば、小さい子供のいる主婦や、地方での移動の足としてであり、道具の域を出ないのが実情だ。

■モーターショーの役割を再考する

 モーターショーとは、即ちトレードショー、見本市である。見本商品を陳列して展覧に供し、商談を調えるのが本来の姿である。つまり、消費者の商品購入に至る態度変容モデルであるAIDMAで考えれば、最初のA=商品認知(Attention)から、最後のA=購買行動(Action)までを一気に進めるのが本来の姿だ。しかし、クルマの場合、何らかの興味(I=Interest)がなければ、モーターショーにそもそも足を運ばないし、その場で購入はせずにディーラーに行くことになるため、最後のAは含まれない。漠たる興味を欲求(D=Desire)に変えて、記憶(M=Memory)に残すところまでが主たる役割である。

■新規ユーザー掘り起こしはできているのか?

 では、漠たる興味を持つ人を集客できているのだろうか。少なくとも、「道具としてのクルマ」を購入する人は、わざわざモーターショーに足を運ばないだろう。近所のディーラーを数店回れば十分だ。最も漠たる興味を持って欲しい層は誰かといえば、道具としてでも、買い換えでもない新規ユーザーであり、即ち若年層だ。
 気になるデータがある。東京モーターショーのWebサイトにある来場者アンケートの結果を見ると、2003年の第37回ショーから前回の第39回ショーとの来場者年齢構成が比較できる。37回では低年(15〜29歳)が38.7%であったのに対し、39回は30.6%と8ポイント以上減少している。来場者平均年齢も35.0歳から37.2歳と上昇している。
 「若者のクルマ離れ」などといわれているが、実態としては世代間の所得格差の拡大によって資金余力がなく、「買わない」のではなく「買えない」のが本当のところだろう。また、買えないことが、そもそもの興味を喪失させる大きな原因となっているのも間違いない。この根本的な問題解決は容易ではないが、少なくとも興味喚起の努力だけは欠かせないといえるだろう。

■「未成年無料化」はどうか?

 主催者である日本自動車工業会は「特に将来の顧客層となる若者に自動車の魅力を訴えていくため、これまで小学生までだった入場無料の対象を中学生にまで広げる」という発表を行っている。これは一つの解決策ではある。しかし、中学3年生は15歳。免許を取ってドライバーになるまでには、まだまだ時間がかかる。恐らくはその時までに興味を失ってしまう。事実、若年層の免許取得率は低下している。
 モーターショーだけで問題が解決するわけではないが、こと、モーターショー担うべき役割の側面から考えれば、前述のAIDMAでの認知(最初のA=Attention)のレベルから担わねばならないのだと思える。つまり、クルマに興味のなかった若年層を、無料で1日遊べるイベントとして来場させ、実際にクルマを見させ、触れさせ、多少なりとも興味を喚起するところまでを狙うのである。ディーラーになど足を運ぶ若者はいない。また、前述の通り、平均で8年以上、10年以上も乗り続けられているクルマが街にあふれている昨今、新車を見る機会さえ減っているのだ。まずは、そうした努力が欠かせないといえよう。
 今回のモーターショーでは、それでも会期中の入場者数は100万人と従来並の目標を置いている。(会期を4日間延長した前回は142万5800人)。しかし、もしもその目標を下回ったり、もしくは来場者の内訳が低年(15〜29歳)比率の減少・平均年齢の上昇などという結果になったりしたら、本気で「未成年無料」なども検討する必要があるといえるだろう。

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2009.09.29

サッポロのノンアルコールビールはナゼ独自路線を狙うのか?

 大手4社のノンアルコールビール、もしくはアルコール0.00%ビールテイスト飲料が、明日明後日の9月中に出そろう。メディアが伝える試飲リポートからサッポロの製品「スーパークリア」だけが異彩を放つ戦略をとっていることがわかる。その背景を読み解いてみたい。

<0%ノンアルコールビール戦争! 大手4社の製品を飲み比べ(日経トレンディネット)>
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20090902/1028546/?P=1

<香りも味も全然違う!大手4社の「アルコール0.00%ビール」を飲み比べ(東京ウォーカー)>
http://news.walkerplus.com/2009/0926/2/

 2003年に道路交通法改正による、飲酒運転の罰則強化を受けてサントリーの「ファインブリュー」を皮切りに大手ビール会社が続々とビールテイスト飲料を発売。市場を形成しはじめた。しかし、酒税法上では酒とは扱われない1%未満とはいえ、アルコールを含有している各製品は、「飲みたいけど飲めない!」というドライバーなどのニーズには応えきれていなかった。そのニーズをがっちりとすくい取るべく、世界初のアルコール0.00%を実現し大ブレイクしたのが、2009年4月発売の「キリンフリー」である。

 大手4社そろい踏みとなる今秋、ディフェンディング・チャンピオンである「キリンフリー」の味はといえば、各メディアから「最もビールらしい味わい」と好評である。対する「アサヒ ポイントゼロ」は、さすがアサヒ、のどごしの爽快感がピカイチらしい。そして、「サントリー ファインゼロ」は「スッキリよりも味わい系」だという。

 キリン、アサヒ、サントリーの3製品は、いずれも「いかにビールにそっくりな味を再現できるか!」という前提条件の下に、各々が特徴を出そうと競い合っていることが分る。そりゃそうだ。ドライバーの「飲みたいけど飲めない!車だから!」とか、ドクターストップがかかっている病人の「飲みたいけど飲めない!命が惜しいから!」という、「アルコールが完全にゼロでもビールの味が味わいたい!」という切なるニーズに応えることが、このカテゴリーの「中核的価値」であることは間違いないのだから。そして、それを実現するための「実体価値」として、各社は独自の味わいやのどごしを工夫しているのだ。

 しかし、そんな競争ルールや価値構造にサッポロはあっさり背を向けているらしいのだ。 「サッポロ スーパークリア」はそもそも、原材料に麦芽もホップも使っていないという。サントリーなどは「麦芽を同社の従来商品の1.3倍使い、アロマホップを100%使用した」(東京ウォーカー)と大きく張り込んでいるのに、「サッポロは麦芽エキスを使用し、原材料名の筆頭も水溶性食物繊維(同)」だというから驚きである。その原材料の違いで「カロリーは他社製品の1/2~1/3程度の6kcal(100ml中)でプリン体も低い(同)」という特性を実現しているのである。つまり、この製品の中核的価値は「ビール風味の健康飲料」なのだ。そのビール風味を実現する実体価値は、麦芽エキスで「あっさりさらさらとした口当たりで、ビールの風味はするが、ビールの泡立ちやのどごしはない。ビールの代替物としては物足りないけれど、甘味のないスッキリした炭酸飲料を求める人には飲みやすい味わい(トレンディネット)」を実現している。そして、ビール風であるかどうかに関係なく、健康飲料としての魅力を高める「付随機能」として、「低カロリー・低プリン体・食物繊維」という健康3点セットがモレなくついてくるのである。

 サッポロだけが大手4社の中で明らかにターゲットも、ポジショニングも異なる展開をしているがそのワケはナゼだろうか。

 サッポロがビール類課税出荷量のシェアで、サントリーに抜かれ4位転落をしたのは2008年第1四半期のこと。結局昨年は通期でも3位返り咲きができず、業界のポジションとしては「フォロアー」となっている。シェアの低下は店頭の棚確保が難しくなるというマイナスのスパイラルを生む。
 定番の「「ヱビス」はサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」と真っ向勝負の最中だ。一方、ビール系の中では唯一の成長カテゴリーである第3のビール。「ビールと紛う味の良さ」と評判の「麦とホップ」を育成したいが、イオンとセブン&アイ系列の店頭にはサントリー製のPB商品が棚を占拠しはじめた。ディスカウント店では韓国製の第3のビールの侵攻が始まっている。ここでも予断を許さない。
 そして、大手4社そろい踏みとなったノンアルコールビール。ノンアルコールでも同じビール系飲料の棚に入れられるとすれば、同じ土俵で勝負をするのではなく、製品特性とターゲット設定をずらして「独自の生存領域確保」を狙う「ニッチャー戦略」をとっているのではないだろうか。
 フォロアーのポジションに甘んじたくはない。しかし、全てのカテゴリーでチャレンジして、万が一にも総崩れになることは避けたい。そんな戦略が全面戦争の戦端がまもなく開かれる、ノンアルコールビール市場における「サッポロ スーパークリア」の展開から伝わってくるのである。
 発売は9月30日。まずは味わってみようではないか。

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2009.09.28

地産地消のお手本・チチヤス「生産者限定牛乳」

 全国的には「チチヤス」といえば「ヨーグルト」が思い出されるチチヤス株式会社は、広島県廿日市市に本社を置く牛乳・乳製品の製造販売業者である。同社が広島地区で展開している「生産者限定牛乳」は、まさに地産地消のお手本であるといえる。

 チチヤスという名前でヨーグルトが思い出されるのも無理からぬことで、同社は1917年(大正6年)に日本で初めてヨーグルトを発売した企業なのだ。また、その後ガラスビンで販売されていた製品を今日のプラスチック容器に変更したのも、また同社である。

 そんな、ヨーグルトで有名なチチヤスは実は牛乳にもしっかりこだわっている。廿日市市の本社工場にはチチヤス牧場という観光牧場が併設されており、そこで乳牛の育成も行って、生産もしっかりやっているのである。
 そうしたこだわりが結実したのが、2008年に発売された「11人の生産者限定牛乳」。(現在は「生産者限定牛乳」と名前を変更して販売。)廿日市市佐伯・吉和地区、安芸高田市美土里地区の同社契約酪農家から、直接集乳した広島産原乳を使用し生産。広島地区限定で販売している。
 通常は生乳は一県単位の指定法人によって一元集荷し、全県の乳を一つの酪農関係団体が一元集荷をして複数の乳業者に販売する「一元集荷多元販売方式」がとられている。それは生産者にとっては効率化と価格の安定という恩恵をもたらすが、多数の生産者の生乳が一元化されるということは、生産者の顔が見えなくなることを意味している。食の安全が叫ばれて久しいが、2008年はまさに、中国製乳製品でのメラミン混入事件が発生するなど、トレーサビリティーに対する要望が極めて高まった時期でもある。
 同社のWebサイトには、現在は10人の生産者の姿とその生産に関するこだわりを語る、生の声が掲載されている。発売当初は商品パッケージにも11人の生産者の言葉が印刷されていたという。牛乳において、まず、これ以上の安心感はないだろう。殊に、地域限定の販売であれば、「廿日市市佐伯・吉和地区、安芸高田市美土里地区」といわれれば、「ああ、あの辺りか」と土地勘も働き、さらに身近に感じるはずだ。まさに、地産地消のお手本である。

 しかし、消費者への安心感を提供する「生産者限定」は結構なことなのだが、牛乳の場合、実はさらっとひとことで片付けられるほど簡単なことではない。それは昭和30年代後半に構築された「一元集荷多元販売方式」という、業界のサプライチェーンから離脱することを意味しているからだ。指定法人が一元的に集荷した生乳を仕入れるという、サプライチェーンの最初の部分を、自社で10軒の生産者から多元的に集荷するという、自社のバリューチェーンに組み込むという組み替えを行ったのである。当然、その手間はかなりのものになる。しかし、それによって生産者の顔が見える、トレーサビリティーの確保という代え難い付加価値を生んだのだ。

 この製品のもう一つの素晴らしい点は、商品パッケージにある。地産地消の取り組みというと、どうしても地方の手作り感たっぷりなイメージが否めないが、「生産者限定牛乳」はプレミアム製品ならではの洗練されたデザインが施されている。ダークグリーンという牛乳のパッケージではあまり使用されない落ち着いたカラーに、ゴールドのラインにゴールドの文字が全体花を添える。そして、マスコットの「チー坊」があしらわれて、全体的に可愛い雰囲気の同社製品ラインとの整合性も図られている。この秀逸なデザインは、2007年のヨーグルトに続いて2年連続でグッドデザイン賞を受賞するという快挙ももたらしたのである。全国に誇れる地元だけで手に入る商品という価値を付加した、このデザインの要素も地産地消のお手本としては大きな要素といえるだろう。

 
 

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2009.09.19

湖池屋CM「コイケ先生」こと阿部サダヲは誰に語りかけている?

阿部サダヲが若手中学校教師「コイケ先生」を演じる、湖池屋ポテトチップスのCM。商品の「味」には全く言及せず、ひたすらアドリブの効いた独特の世界観を醸し出している。その意図は何だろうか。

昨年から始まった「コイケ先生シリーズCM」も現在、第5弾が放映されている。昨年は放送批評懇談会主催のギャラクシー賞CM部門で優秀賞を受賞するなど快進撃を続けているのだ。
同社のCMといえば、「ヒーヒーおばあちゃん」のカラムーチョや、「ポリンキー劇場・三角形の秘密はね」のポリンキー、「ドンタコスったらドンタコス!」のドンタコス、「スコーンスコーンコイケヤスコーン~♪」のスコーンなど、ユニークなCMは枚挙にいとまがない。一連のCMと商品の連携は、同社の開発したユニークな商品をさらにユニークなCMで告知して盛り上げるという構図になっており、括弧書きしたように、そのCM内容もキャッチコピーやフレーズが極めてわかりやすくて印象的だ。
しかし、「コイケ先生」は少々様相が違うように思われる。

商品はド定番商品のポテトチップスだ。1962年に湖池屋が全国で初めて量産化に成功した由緒正しい商品であるが、もはや独自性も新規性もないことは明らかである。CMの「コイケ先生」は、従来のオリジナルキャラクターで目をひいたり、印象的なコピーやフレーズで話題をさらうものでもない。コイケ先生を中心とした生徒や教師同士のやりとりを見て、少し考えさせてニヤリと笑わせるタイプの内容だ。からっと分りやすいというより、どちらかというと少々ネチっこくてクセになるCMだと言える。つまり、「コイケ先生」シリーズは、従来と全く異なる商品とCMの連携パターンを展開しているのである。

スナック業界で考えれば、リーダー企業は「カルビー」であろう。板橋区、北区と同じく東京の城北地区に本拠を置く両社であるが、両社の売上げ規模は桁が一つ違う。
湖池屋の戦いは、即ちカルビーとの戦いでもある。コンビニやスーパーの棚では常に両社の商品が競うように並べられる。特にコンビニなどの狭小店舗では、うっかりすると棚自体を失いかねない。そのため、チャレンジャーらしく商品でも、CMでも常にユニークさを前面に出して差別化戦略を徹底しているのだ。

では、「コイケ先生」もカルビーとの戦いのために展開しているのかと考えると、店舗の棚を見ると実はそうではないことに気がつく。
今日、コンビニやスーパーの棚を席巻しているのはプライベートブランド(PB)商である。安さを武器に棚を我が物顔で大半占領し、哀れ、湖池屋の商品は隅に追いやられている。まさしく、敵はPB商品なのである。

PB商品対抗のために、「コイケ先生」は消費者にアピールしているのかといえば、実はそれだけでもない。カルビーに比べて二番手メーカーである湖池屋は、うっかりすると本当に店舗の棚から追いやられる危機に瀕している。では、棚を失わないためにはどうしたらいいのか。もちろん消費者が購入してくれることは重要だが、そのためにもまず、棚に並ばねばならない。まずは、小売業者のマーチャンダイザー(MD)が発注してくれることが必須である。また、コンビニであれば、チェーンのMDが仕入れた商品一覧が並ぶ仕入れ端末に表示された画面から、さらに店主に選ばれなければならない。
MDもCM展開している商品であれば、消費者からの支持もあると考え発注する気になるだろう。店主もついつい、発注画面をポチッと押す気になるだろう。しかし、定番商品なので、ブームを作って大量に仕入れてもらえるようなことはない。長くチャネル関係者の記憶にネチっこく残って、常に発注してもらえるような効果がCMにも求められるのである。

CM対象になっているポテトチップスのラインナップにも工夫している。独特の味が人気の「マヨポテト」でシリーズが始まった。続いて2作品は定番の「うす塩」を取り上げたが、それ以降は独特のカットを施した「リッチカット」、湖池屋ポテチの真骨頂である「のり塩」、最新のCMは「コンソメ」などを取り上げている。
PB商品のフレーバーはほとんどが「うす塩」か、一部で「しょう油」があるぐらいである。つまり、PB商品にないフレーバーを中心にアピールしてチャネルの棚を確保しようという狙いが伺えるのである。

CMは消費者のみに向けられたものではない。阿部サダヲ扮する「コイケ先生」は流通関係者にも語りかけているのだ。PB商品対抗のために、チャネルプロモーションの重要性がどんどん増している。それはCMの有り様まで変えていっているのである。

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2009.09.18

カップ麺、ビールにメガネにダイヤモンド!無料配布・成功の秘訣とは?

企業の販売促進策として、商品の無料配付が盛んに行われている。最近の傾向は少量サンプルの「試供品」ではなく、商品現物を配付する太っ腹な企画が目につく。そんなんで採算会うの?と思う方も多いだろう。そこで、無料配付の成功の秘訣を考えてみたい。

今日、9月18日、東京・渋谷で過去最大の無料配布イベント『9.18 HAPPY BIRTHDAY カップヌードル in SHIBUYA 2009』を開催する。『カップヌードル』誕生38周年・シリーズ統計で約280億食販売の記念として、『カップヌードル』『カップヌードル シーフードヌードル』『カップヌードル カレー』の3種類各1万個、計3万個が無料配付されるという。
3万個という太っ腹な数字に目を奪われがちだが、38周年、280億食というちょっと中途半端な数字が気にならないだろうか。なんで40周年とか300億食じゃないの?と。
同社の狙いは比較的わかりやすい。同社は「新・うまい! カップヌードル」をコンセプトに上記3製品の具材を改良している。つまり、無料配付イベントは、大規模な試食キャンペーンであるのだ。ことにカップ麺は大手流通グループのプライベートブランド(PB)商品の攻勢によって、食品メーカーのナショナルブランド(NB)商品をしばらく口にしていない消費者も増えていることから、是非とも改良した味を試させて、顧客を奪還したいという狙いが隠されていると推測できるのである。

1万個配付といえば、今夏、7月23日に六本木で行われた、イオンのPB商品の第3のビール「トップバリュ 麦の薫り」の無料配付が記憶に新しい。350ミリリットル缶100円、500ミリリットル缶145円という価格、しかもサントリーが生産するその商品の味はNB品に全く遜色がないとしてビール業界に激震を走らせた。
その味はメディアでも「確かにオイシイ」と前評判が高かった。しかし、あまりの価格の安さから、「本当にオイシイのか~?」といぶかる消費者が多かったのも事実。その不審感を一度飲ませて払拭するのがイベントの眼目であることは間違いない。

前述のカップ麺や第3のビールなどの飲料は、一度試させて味を納得させれば、それ以後頻繁に反復購入させることができるという効果が期待できる。その意味では、消費者の購買に至る態度変容モデル「AMTUL」で説明ができる。
最もポピュラーな態度変容モデルは「AIDMA」である。それは、A(Attention:注意喚起)→I(Interest:興味喚起)→D(Desire:欲求喚起)→M(Memory:記憶)→A(Action:購買)と、初回の購入までの過程に注目している。それに対してAMTULはA(Attention:注意喚起)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)という、反復利用とファン化までを目標に据えている点が大きく異なる。
AMTULで重要なのは、まず「試す」点だ。試用させるためには「値引き」などの方法もあるが、やはり無料に勝るものはない。つまり、無料配付で成果を出す秘訣の一つは、商材が試させれば納得感が得やすいもので、消費者が納得さえすれば、その後反復利用が見込めるものであることが挙げられる。


しかし、購入頻度が低い商品でも無料配付での販売促進を実行している例もある。
昨日、9月17日に原宿でメガネの無料配付が行われた。配付数こそ1000個と先の例よりケタ一つ少ないが、原宿の明治通りに大行列ができ、その列は最長550メートルになったという。
配付されたのは度付きで4990円相当の商品だというが、メディアの報道によれば「タダだからカラフルな遊べる色のフレームを選んでもいいかも」といった消費者の声もあったという。(東京ウォーカー)その意見を考えれば、昨今メガネの使用者は一つのメガネをかけたきりでいるわけでなく、複数のメガネを掛け替える人も多いことから、無料で「遊べるメガネ」を一つ作らせて以後の反復購入を狙うとも解釈できる。しかし、この場合、あくまで知名度向上のためのイベントであると考えた方が自然だろう。
無料配付を行ったのはアイウェアショップ「JINS(ジンズ)」。旧社名は「JIN's GLOBAL STANDARD」。代官山の店舗など値段に似合わぬオシャレな店と品揃えと隠れた人気を誇っていたが、店名も変え、全国各地に多店舗展開をしていることから、ここは一つ、その名を知らしめる起爆剤が欲しいところだったといえるだろう。
今回のイベントは<イベント内容の告知は9/14(月)からWEBのみで行い、CMでは“原宿で何かが起こる”というWEBへの誘導のみ。たった3日間でこれだけの大行列となった。(東京ウォーカー)>という。
Web見て集まった人々が、無料配付のメガネを手にした後はBlogやSNSにその商品の感想を記すことは想像に難くない。つまり、一番の狙いは「ネット上でのクチコミ」であろう。
電通が提唱している態度変容モデル「AISAS」といいうものがある。A(Attention:注意喚起)→I(Interest:興味喚起)→S(Search:検索)→A(Action:購買)→S(Share:共有)と、ネットを中心とした購入前後の情報探索から共有までを表わしたモデルだ。ここで注目すべきは、ネット時代に消費者が何か気になった時にはまず「検索」して、その後、購入など何らかのアクションをした後には、ネットに書き込みをして情報をシェアする点である。メガネ無料配付はまさにこのモデルで設計されているように思われる。

上記の通り、無料配付は当然のことながら、配ればいいというものではない。どのような効果を期待して、どのように消費者を動かすか、AMTULなりAISASなりでしっかりと設計しておくことが重要なのである。

但し、その設計においても、「ターゲットは誰なのか?」を明確にするべきことは言うまでもない。「無料配付」という施策で集まってくるのはどのような人々なのか。それが、以降、自社の顧客として反復購入してくれる可能性がある人なのか、もしくは、クチコミの媒介としてふさわしい人たちなのかを見極めるのは重要である。
その意味では、今年6月1日に行われたフランスの老舗ジュエラー「モーブッサン(MAUBOUSSIN)」の「5,000円相当のダイヤ先着5,000名無料配付」の事例を他山の石とすべきだろう。「ダイヤモンドがタダ!」というインパクトで多数の人々が押し寄せて大混乱になったが、その後、同店の顧客として定着した人は多いとは思えず、また、ネット上のクチコミもネガティブなものが多かったように見受けられる。
消費者の態度変容の設計以前に「ターゲットの見極め」が成功のためにはまず第一条件なことも忘れてはならない。

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2009.09.17

チャレンジ・「顧客起点で自販機ビジネスを変える!」

JR東日本の駅ナカで1万台の飲料自販機を展開している「(株)JR東日本ウォータービジネス」。同社はこの秋「自販機イノベーション宣言」なる取り組みを開始した。その活動と狙いは一体何だろう。

販売チャネルの構築は、顧客がその商品を購入する際にどんなニーズを持っているかを考え、それに応えることが基本である。
では、飲料を購入しようとした場合の顧客ニーズはなんだろうか。飲料に求めるのは「喉の渇きをいやせること」である。そのニーズにいかにすばやく対応するかが肝要であるが、例えばスーパーマーケットでしか売られていなかったとしたら、レジの長い列に並んで買うなど全くニーズに対応できないことになる。故に、買い置きを前提とした2リットルの大型ペットボトル入り飲料ならともかく、すぐ飲むことを前提とした500ml以下の飲料は「いつでも開いているコンビニ」や、「どこにでもある自販機」がチャネルとして展開されているのである。

しかし、ウォータービジネス社はあえてその自販機ビジネスの有り様に問題提起をしている。同社の資料によると、自販機は現在全国に約240万台が展開されているという。しかし、ここ何年も台数は頭打ちの飽和状態が続いており、清涼飲料販売シェアが90年代の50%弱から約35%にまで低下しているという。そのシェアを奪っているのはコンビニエンスストアである。
同社は問題を自販機が「単一ブランド機」が主流であることと指摘している。自販機は飲料メーカーが自社製品の販路確保のために展開し、メーカー系の「オペレーター」といわれる担当者が商品の補給などを中心にして、設置した自販機をフルメンテナンスしている。当然、各メーカー系の自販機は、自社商品一色となる。

自販機で飲料を購入する時のことを思い出してみよう。街中で複数のメーカーの自販機が並んでおいてある場合などは、「どの自販機から買おうか」と考えることはあるだろう。しかし、喉の渇きを覚えてふと、目についた一台の自販機で飲料を購入しようとした時、茶系飲料にしようか、炭酸にしようかと一瞬考えはするものの、悩んだりはしないはずだ。なぜなら、選択肢がないからである。
メーカーにとって自社商品が同一カテゴリーに複数の商品を展開することは、自社商品内のカニバリ(共食い)を招くことになる。故に、まったくポジショニングがかぶる商品が同一自販機に展開されることはなく、消費者は知らず知らず、選択肢が与えられていない状況になっているのである。
一方、コンビニエンスストアで飲料を購入する場合、弁当や菓子、その他商品を買った時の「ついで買い」が多いだろう。弁当の場合まず、どの弁当にしようかなと選んで買う。その後、飲料も飲料の棚の前で「どれにしようかな」と選んで買う。それはまさしく「買い物」である。しかるに、自販機での購入は「買い物」ではなく「補給」といった風情にしかならない。

自販機にもジャパンビバレッジなどのベンダーが複数メーカーの商品を混載して展開している例もある。オフィスに設置されたジャパンビバレッジの自販機は、ベンダー系のオペレーターが「入れて欲しい飲料があったらリクエストしてくださいね~」と実に親切に対応してくれる。しかし、それらの自販機は好立地に展開できていないという現状がある。

ウォータービジネス社は同社の駅ナカ自販機を「acure(アキュア)」というブランドに統一し、「顧客起点での自販機流通の再構築」を目指しているという。駅ナカという好立地で、「ブランドミックス機」を展開し、顧客にまず、選択肢を提供する。複数メーカーの売れ筋商品が並んだ同社の自販機の品揃えを前にすると、確かにどれにしようか迷う。選択の自由を感じる。
さらに同社は、伊藤園と共同開発した緑茶飲料「朝の茶事」やアサヒ飲料との共同開発による「ワンダ朝のカフェオレ」など、通勤通学途上で購入する商品を顧客に提案する展開も行っているのである。
品揃えや新商品の提供だけではなく、顧客の「不便」の解消にも努めている。かつての100円ワンコインで飲料が買えた時代ならともかく、現在の150円や130円という飲料の価格では、購入する時には小銭がつきものだ。ちょうどピッタリの小銭があるとは限らない。うっかり千円札で購入しようものなら、大量の釣り銭で財布は瞬く間にパンパンになってしまう。電子マネーが普及している今日において、小銭に悩むのは自販機ぐらいではないだろうか。しかし、自販機の電子マネー対応は遅れている。
そこで同社は駅ナカの立地を活かして電子マネー「Suica」対応をいち早く進めた。

「自販機イノベーション宣言」以前に、同社は既に上記の取り組みの成果が出ているようだ。自販機ビジネス頭打ちの中で、同社の自販機は台数ベースで1万台の横ばいにも関わらず、総売上高は対2005年比で136%増だという。

そんな同社の取り組みの一つをJR品川駅の同社自販機で目にした。ハウス食品の「ウコンの力」が自販機に入っていたのだ。「朝の茶事」や「ワンダ朝のカフェオレ」といったオリジナル商品に代表されるように、同社は今まで主に「朝」の購入時点を狙う展開だ。つまり、顧客に朝の飲料購入時に「帰りに飲む時には忘れずに!」と提案しているのだろう。自販機でウコンの力を扱っている例は珍しい。顧客起点で提供商品を選択している同社ならではの展開であるといえるだろう。

「自販機イノベーション宣言」が今後、さらにどのような展開になっていくのか、興味深くウォッチしてみたい。

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2009.09.15

カップヌードル カレーの「肉変更」で意地を貫き通した日清食品

9月14日より、「カップヌードル カレー」の肉が「カレー専用コロ・チャー」に変更された。カップヌードルのふにゃっとした肉、「ダイスミンチ」から、コロッとしたチャーシュー「コロ・チャー」への変更、シーフードヌードルへの「貝柱」追加投入に続く具材強化は、代表的3ブランドで完成した。
しかし、その狙いはそもそもなんだったのだろう。

「新・うまい! カップヌードル」をコンセプトにした一連の取り組みが始まったのは、今年の4月のこと。しかし、その1年前、2008年にカップヌードルは一度、消費者から手痛い洗礼を受けたのである。
小麦をはじめとした食料高が世界に蔓延し、日本市場もその直撃を受けた。麺を扱う日清食品はまさにその爆心地にいたといっていい。苦渋の決断の末、主力商品のカップヌードルの卸値を15円値上げした。結果的に流通マージンが上乗せされ、店頭小売価格は30円の値上げとなった。
その結果、値上げ前月比-52%という、売上げ半減に陥ったのである。

カスタマーバリューという、顧客が「これくらいなら払ってもいい」という相場感は、カップ麺の場合、あるネット調査によれば70%が150円までで、そのうち30%が100円までと回答した。カップヌードルは値上げによって150円の上限を超えてしまったのだ。

価格設定の代表的な観点は大きく3つある。前述の顧客が払ってくれる価格を想定した「カスタマーバリュー志向」の価格設定と、自社の原価(固定費+変動費)にいくら利益を利益を積み増そうかと考える「原価志向」の価格設定。そして、競合の価格設定を考慮した「競合志向」の価格設定である。
実際にはどれか一つで設定することは危険で、3つの価格設定を考慮して最終決定を下すのであるが、カップヌードルの値上げは「原価志向」が優先された結果、顧客の離反を招いたと解釈できる。

しかし、日清食品の英断はここからなのだ。
食料の原材料高騰が一服し、社内では再び値下げをしようかという議論もあったようだ。
しかし、同社はあえて値段は据え置きで、具材強化という方法で顧客に対する提供価値を強化する道を選んだのである。

カップヌードルの肉を「ダイスミンチ」から「コロチャー」に変更すると発表した当初、同製品のファンからは「カップヌードルらしさが失われる」と多数の反発があった。しかし、あえて断行した結果、実際の商品発売後は、反対意見はきれいに消えて称賛の声が高まっている。続く、シーフードヌードルの「貝柱投入」も好評だ。
今回のカップヌードル カレーの肉はリリースによれば<「コロ・チャー」をカレーで煮込んだような味付けにしたカップヌードルカレー専用の新具材>だという。恐らく、これも好評をもって受け入れられるだろう。

日清食品の英断は、価格設定において「競合価格」を強く意識して、自社の価値を高めたことだ。ネット調査にある30%の「100円まで」しか払いたくない層をバッチリ取り込むように、スーパーのプライベートブランド(PB)商品のカップ麺は88円、98円である。いくら頑張ってもそれと勝負はできない。
かといって、ムリをして70%の150円という意見に合わせて、再度値下げするより、顧客の「カスタマーバリュー」を引き上げることを狙って具材を強化し、それが奏功したのである。まさに、意地を貫き通すチャレンジが成果をあげたといえる。

価格設定は、マーケティングの4Pのうち、最も重要かつ、センシティブな要素だといえる。製品を作る(Product)、チャネル(Place)を構築し維持する、広告を展開(Promotion)する。これらは全て「コスト要因」である。故に、利益を上げる唯一の要素、価格設定(Price)を誤れば、全てオシマイなのだ。
その価格設定で意地を貫き通して製品改良を続けた日清は、誠に見事だといえるだろう。天晴れ。


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2009.09.13

「職人Blog」と「たけしの言葉」が教えてくれること

町の時計店の店主で時計修理職人でもある人物が記しているBlogがある。
「正ちゃんの時計修理blog( http://pub.ne.jp/takaraya/ )」という。
町で長きに渡って商いをしてきた時計店の3代目店主が、閉店後に顧客から預かった時計を修理する。修理は日に1~3つの時計を扱う。その修理の過程と作業の様子が、時に自分の感想やプライベートのことなどを交えつつ、唯々、淡々と綴られているのである。

朝日新聞にも取り上げられた。
<お宝の時計なおします@たからや>
http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000000909020002
関西の朝日テレビ「おはようコールABC」でも取り上げられた。
<唯一無二!町の時計屋さん>
http://www.asahi.co.jp/call/maru/main.html

記事によれば、安価な時計を使い捨てる風潮と、大手量販店の進出で、町の時計店は立ち行かなくなると感じ、数年前に技術を学んで修理をはじめたという。
Blogをはじめたのは新しい顧客を獲得しようとしてではない。
<ブログを始めたのは、客から「修理した時計の写真が見たい」と言われたのがきっかけだ。自分の修理の記録にもなると、次第に日々の作業を細かく書き込むようになった(asahi.com)>とのことだ。

真摯な姿勢を見せることで、大量消費という時代の流れや、「安い」「便利」という量販店の攻勢を跳ね返す、「職人としての信頼感」が作り上げられたのである。

町の小さな時計商であり、一人の修理職人でしかない人物が信頼を得て、今では全国から修理の依頼が舞い込むという。「インターネットの時代ならではの成功談」としても解釈できるが、注目すべきはそこだけではない。
店の仕事が終わってから取り組む修理の仕事はさらに集中力を要し、終えた時にはヘトヘトになるという。さらに、その様子をBlogに書き込むのもさらに労を要する。しかし、それらをコツコツと毎日行っている。成功はインターネットというツールの力だけではなく、本人の努力があってこそなのだ。

しかし、もう少し考えてみれば、日々の努力を重ねることは容易ではない。それが実現できているのは、職人魂だったり、職人のこだわりがなせる業なのだろうかとも思う。そして、職人ならぬ我々には実現できないことなのだろうかと。

タレントであり映画監督の北野武氏の言葉がある。
「やるべきことを普通にやる それでいいんじゃないですか? こだわりってそういうことでしょ」

「正ちゃんの時計修理blog」をもう一度見直してみる。
やはり、実に淡々と修理の様子が綴られていることがわかる。目の前に修理を依頼された時計がある。自分には習得した技術がある。その技術で顧客が満足するように修理を施す。
それがBlogという「こだわり」の形になったのだろう。

北野武氏はこうも言う。
「未来というのは結局この一瞬一瞬の積み重ねなんだ。この今の延長に未来がある。遠い未来もこの瞬間の積み重ねなんだよな」

日々淡々と、修理の仕事をこなし、Blogを更新する。それらの積み重ねが、メディアに取り上げられたり、Blogを通じて全国に知られたりして、修理依頼が増える。全ては積重ねの結果なのだ。

「できることを日々淡々と積重ねること」。当り前でも、なかなかできないことの大切さを、時計修理職人のBlogは教えてくれる。

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2009.09.11

競合を突き放す「990円ジーンズ」ジーユー・低価格戦略のヒミツ

今年3月、「990円ジーンズ」で衝撃の低価格路線強化を発表したファーストリテイリング傘下のカジュアル衣料品ブランド「ジーユー(g.u.)」。990円ジーンズは日経MJヒット商品番付2009年上期版にもランクインするほどの大ヒットとなったが、流通各社が同等の990円から、さらなる低価格な808円などで巻き返しを図ってきた。
しかし、ジーユーはこの秋の新商品発表でそれらを余裕で突き放す戦略を発表したのである。その狙いと力の源泉はなんだろうか。

990円ジーンズは、今年3月の衝撃のデビューから半年。当初の販売目標であった50万本を倍の100万本に上方修正し、それすらも「目標達成は確実」と同社はメディアに発表している。
市場で大好評を得ているのは、節約志向・低価格志向を強める消費者のココロをとらえているのは間違いないが、そのプライシングの大胆さがウケたのは間違いない。ジーユーブランドのデビュー以来3年間は、言ってみれば鳴かず飛ばずの状態であった。その理由は「ユニクロの価格の概ね2/3」という中途半端なプライシングにあったのだ。
それを、今年3月に「全商品の8割をユニクロの半額以下にする」という大胆な価格改定を行った。その象徴的な存在が990円ジーンズだったのだ。

消費者の低価格志向は当面留まる気配はない。そのため、流通各社も手をこまねいているわけにいかず、対抗的に目玉商品として同等価格のジーンズを相次いで投入してきた。ザ・プライス:980円、ダイエー:808円、イオン:880円。イオンはジーユーと同じ100万本の販売目標を掲げている。
価格比較をすると、一見ジーユーが早くも劣後するポジションに追い込まれているように思えるが、そうなのだろうか。各社と同ブランドの戦略をもう少し深く読み解いてみよう

それを読み解く一つのキーワードが「価格弾力性」。
商品価格の変動に対する需要の変化の大小を示すものであり、価格が下がれば売上げが急増し、上がれば激減する商品は「価格弾力性が高い」といい、その変化が少ないものは「価格弾力性が低い」ということになる。
通常、米などの生活必需品は価格弾力性が低い。同じ食品でも毎日一定量を消費する米と違い、嗜好品的な意味合いの強い飲料などの価格弾力性は高い。また、食品と異なり、保存がきき買いだめができるトイレットペーパーやボックスティッシュなども価格弾力性は高いタイプの商品である。
では、ジーンズはといえば、今日のカジュアルウェアとしては欠かすことができない存在であるが、多少古くなってもはき続けることはできる。従来の5,000円~1万円近くする商品であれば、昨今の景気低迷期には手が出しづらいが、安くなっていればついつい欲しくなる。ということは、価格弾力性が高い商品であることがわかる。

価格弾力性が高い商品は、価格を低下させれば大量の販売が見込める。大量生産・販売すれば、商品1つあたりの固定費率を低減できる「規模の経済」と、変動費率を低減できる「経験効果」が効き、より低価格化が可能となる。これが、各社の戦略の基本である。

価格弾力性の高い商品は、前述の商品の例を見るとわかるとおり、スーパーやドラッグストアなどで「目玉商品」として設定されているものが多い。
目玉商品の設定とは、採算度外視で集客し、他商品の購買を促進することで収益化を図る戦略である。目玉商品を「ロスリーダー」、その価格設定を「ロスリーダープライシング」という。
各社の対応を見ると、イオントップバリュでは880円ワイシャツやネクタイなど、880円衣料を強化しているが、ジーンズとワイシャツ&ネクタイはコーディネートしないし、ダイエーは808円ジーンズと関連する商品は見受けられない。同様にザ・プライスもその後の展開が見えない。とすると、各社の1,000円未満ジーンズの展開は前述の「ロスリーダー」であり、超低価格衣料への本格参入にはまだ踏み込んでいないのではないかと考えられる。

対するジーユーは、「全商品の1/3が990円」「(秋冬物にもかかわらず)トップスとボトムをコーディネートして全身で5,000円以下」と全体としての安さを強調し、競合を突き放す。
安いだけではない。もはや最高品質といっても過言ではないユニクロの品質基準を守る、「ユニクロ生産管理チーム」が常に製品の品質やシルエットを改良しているという。同チームにはユニクロの海外生産拠点で厳しく現地指導を行っている熟練アパレル職人で構成される「匠(たくみ)」チームも参画しているということから本気ぶりがうかがえる。
アパレルのバリューチェーンは大別すると、【商品企画】→【原材料(生地)調達】→【縫製】→【流通】→【販売】という流れになる。
ユニクロ、ジーユーを展開するファーストリテイリングはSPA(衣料品の製造小売り)という業態に早期に転換し成長の軌道に乗った。流通各社もバリューチェーンの最適化に取り組んでいるが、既存業態のしがらみもあって、ファーストリテイリングに追随することは難しいだろう。

一定以上の品質も担保しつつ、低価格を徹底。さらに、商品展開の幅の広さでユーザーのクロスセリング(複数購入)を図ってしっかりと収益を確保する。あまりの低価格さにジーユーの展開はラディカリズム(過激主義)的に映るが、ユニクロとの2枚看板としてファーストリテイリングのポジションをより強固にする戦略に支えられているのである。


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2009.09.10

デザインの力:エステー「消臭プラグ」

商品を手に取って「デザインがいい」などという評価することがある。それは競合商品をチェックする企画担当者や、流通でを仕入担当するバイヤーなどだけではない。一消費者として日常的に口にするセリフではないだろうか。しかし、その「デザイン」をどの程度の価値として評価しているのだろうか。それが嗜好性の高いアパレルなどでなく、日用品だとしたら。

家庭向け消臭・防虫剤・除湿剤などの家庭雑貨製造のエステー。旧社名エステー化学から社名変更をして2年が経過した。同社の変革はその商品の形状にも現れる。ニュースリリースによれば、“デザイン革命”として、<既存商品を見直し、コア商品すべてに対して全面モデルチェンジを行うことで、新規ユーザーの獲得、マーケット拡大を図っていく>という。

では、その成果はどれほどのものか、発表された”デザイン革命”の第一弾商品を見てみよう。
<「自動でシュパッと消臭プラグ」と「消臭プラグ」>
http://www.st-c.co.jp/topics/2009/000294.html

なんともシンプルにしてやさしいデザインに仕上がっている。商品本体だけではない。その商品パッケージも秀逸な仕上がりである。
それもそのはず。デザインを手がけたのは、デザインオフィスnendoの佐藤オオキ氏である。同氏は日本国内だけでなくイタリア・ミラノにも拠点を構え、建築、インテリア、プロダクト、グラフィックデザインといった多岐にわたるデザインを手がける世界的デザイナーである。

本来、「消臭プラグ」にはどんな価値が備わっているべきなのか。
商品としては、部屋に置いて一定期間ごとにミストを自動で噴霧して気持ちのいい空気を創り出すということが中核たる価値である。その商品特性としては、部屋の隅々までミストを拡散させるためには部屋の中央や目立つところに置くことが望ましいだろう。しかし、自動タイプであるか否かは問わず、今までの消臭・芳香剤の商品形状やパッケージを見ると、それが部屋の中央に鎮座ましましているのはありがたくないデザインであったといえる。仕方なしに部屋の隅や物陰にひっそりと隠すように置くことになる。

何故、部屋に消臭・芳香剤を置くのかをさらに突き詰めて考えてみると、「快適な気分になりたいから」なのだ。部屋の空気が快適になっても、その快適のもとがダッサくってイヤな感じなら快適さは半減だ。
つまり、中核たる価値を「気持ちのいい空気を創り出す」ではなく、「気持ちのいい空間を作り出す」と考えれば、「気持ちのいいデザイン」は、あればうれしい付随的な機能、オマケではなく、中核たる価値を実現するために欠かせない、実体としての価値なのである。
別の言い方をすれば、「消臭・芳香剤として、優れた消臭効果、いい香りの商品を開発しました」はモノのスペックとしての「工場品質」を実現したにすぎない。人が感じ取る価値そのものである「知覚品質」を実現するなら、「快適を演出する気持ちのいい存在」を構成するデザインも本来欠かせないのである。

そうして考えると、日用品をはじめとして、我々が日々手にするモノや目にするモノの中で、まだまだデザインに手を入れるべきモノがあるのではないかと思う。
エステーの“デザイン革命”はまだまだ始まったばかりだ。
是非、これからも「デザインの力」をみせて欲しい。

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2009.09.04

感嘆すべきファーストリテイリングの強固な成長戦略

2010年までに売上高1兆円、経常利益1500億円達成の目標を既に発表していたファーストリテイリングが、新たにその10年後2020年に売上高5兆円、経常利益を1兆円を目標とすることを発表した。その背景には、徐々に形を明確にしてきた同社の成長戦略が見える。

ファーストリテイリングがどのような戦略を描いているのか、成長戦略のオプションを考える「アンゾフのマトリックス」で同社の展開を分析してみよう。

マトリクスは、縦軸に既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのかという市場の軸をとり、横軸に既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかという製品の軸をとる。
次にその掛け合わせで、既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新製品を新市場に展開する「(狭義の)多角化」の4象限を作る。

既存の市場を深掘りする「市場深耕」を実現するためには、既存顧客の購入頻度を増やすことや、購買量を増やすことを実現する必要がある。そのために、使用用途を拡大したり、購買接点を増大させることが求められる。
ファーストリテイリングの中核事業であるユニクロで考えると、この分野の重点施策が目につく。まず、使用用途の拡大は、カジュアル一辺倒であったデザインをデザイナーのジル・サンダーとの契約で一気にファッション性を高める方針に転換した。「おしゃれ着としても着られるユニクロ」である。さらに、この秋冬向けに投入された合成皮革の「ネオレザー」は、本革にも劣らぬ質感であり、流行りのライダースなどのデザインもおさえられている。ホワイトカラーの展開もあり、かなりのオシャレさに仕上がっているのである。
購買接点の増大は、店舗の急速なスクラップ&ビルドである。ロードサイド店を販売効率の悪いものからどんどん閉店し、都市部に大型店を新規に作ったり、フラッグシップの銀座店を大幅増床するなどの展開も顕著だ。また、駅ナカや駅ビルなどの小規模店舗も購買接点のスキマを埋めるために機能させている。

「新市場開拓」では、新たな顧客属性を開拓するという新市場と、物理的に他の地域に展開するという新市場の2通りの意味がある。
全社では、ユニクロはブラトップなどに代表される女性向け商品比率を増やし、それが大成功して女性顧客を大幅に増やし囲い込んでいる。
もう一方の他の地域への展開は、中国などアジアでの出店加速を中心に、欧米でもパリやモスクワなどの主要都市に新規出店を拡大している。少子高齢化で縮む国内市場だけに留まることなく新市場を開拓し成長の原動力とする構えである。今月、ウォルト・ディズニーとのライセンス契約が発表されたが、それも、ユニクロの知名度がまだ低い地域での武器とするためと解釈することができる。

「新商品開発」は、本来の意味は次々と新商品を既存市場に投入していく展開を意味するが、あえて広義にとらえてみたい。中核事業であるユニクロのブランドを活かしたり、それを補完したりするために別の事業や別のブランドを投入したりテコ入れしたりすることをこの象限に当てはめてみる。
まず、「g.u.(ジーユー)」ブランドだ。今年、990円ジーンズに代表されるように、価格全体をユニクロの2分の1~3分1に抑制するという、さらなる低価格路線でテコ入れした。この低価格商品の投入は、ファーストリテイリンググループに新たな顧客を呼び込むという効果以上に、新商品による顧客囲い込みの意味合いが強いといえるだろう。前述の「ファッション性の強化」はもう一方でどうしても価格の上昇がどこかでおさえられなくなるはずだ。じわじわと商品単価が上昇した時に、ユニクロの離反顧客をジーユーで救いとろいという展開であろう。
もう一つの新商品開発は「靴」だ。「FOOTPARK(フットパーク)」や「AIR・KICK(エアキック)」などを買収したが、イマイチグループ内での相乗効果が出ていなかった。それを今秋「ユニクロシューズ」を立ち上げるという。9月5日現在、詳細はまだ発表されていないが、中核であるユニクロブランドに引き込むことで事業をテコ入れしつつ、ユニクロ顧客に靴という新商品を提供しようとする動きであることは間違いない。
かつて柳井会長は「顧客に全身をユニクロでコーディネートさせようとは考えていない」と述べていたが、ファッション性を高め、靴までアイテムを増やしたことで、全身コーディネートさせる方針に転換したとも考えられる。

「狭義の多角化」は、今まで接点のなかった市場や顧客に、新しいものを売ろうというのだから当然リスクは一番高くなる。ファーストリテイリングで考えれば、2007年12月に完全子会社化した婦人服専門チェーンの「キャビン」の展開はそれにあたるだろう。「ZAZIE(ザジ)」「 enracine(アンラシーネ)」 などのブランドを展開しているが、今まではファーストリテイリングのグループ内での相乗効果がうまく発揮できていなかったといえるだろう。そこで、テコ入れ策として、ユニクロと生産拠点や素材を一部共通化した。それによって商品の平均単価を20~30%下げることに成功したという。また、10月2日にオープンする銀座のユニクロ旗艦店にザジ、アランシーネの両ブランドの店舗も開設し販売拠点も強化する。
ファーストリテイリングは今までH&Mやフォエバー21などのファストファッションと一線を画していた。しかし、この動きはユニクロという中核事業の生産設備や素材を活かした「生産シナジー」で、ファストファッションへの狭義の多角化に乗り出したと解釈することもできるだろう。

以上のように、ファーストリテイリングの成長戦略は抜けモレなく、まさにマップをびっじりうめるが如く展開していることがわかる。それも、ここ1年ほどの間に完成計に近づいているのである。それゆけ1兆円。その次5兆円の構えだ。

しかし、残る課題もある。
ニューヨーク生まれのファッションブランド「Theory (セオリー)」。パリ生まれのブランド「COMPTOIR DES COTONNIERS(コントワー・デ・コトニエ)」。フランスのランジェリーブランド「PRINCESSE TAM.TAM (プリンセス タム・タム)」。これらの完全子会社化していない一部出資子会社であるファッション性の高い事業はまだ、グループ内でどのような位置づけになるか定まっていないように感じられる。
成長のマトリックスでは、中核事業のユニクロを最大限活用しつつ、その力を強化していくことに力点が置かれている。その意味からすると、上記の女性向けハイファッション事業群ともいうべき展開はシナジーを発揮しやすいとはいえない。しかし、もしかすると思いもよらぬ一手を考えているのかもしれない。
この課題も忘れずにウォッチし続けてみたい。

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2009.09.03

1億本突破!「い・ろ・は・す」はナゼ売れるのか?

コカ・コーラシステムが販売するミネラルウォーターが絶好調で売れているという。確かに特徴のある商品だが、ナゼ、それほどまでに売れるのか?

9月2日、新聞のカラー全面で『あなたと「い・ろ・は・す」が世界を変えはじめました』と題する広告が掲載された。それは同製品の販売1億本突破のお礼であり、「環境にいい」というポジショニングを裏付ける、CO2の削減効果の算出の報告でもあった。

同製品の売れ行きはメディアも報じている。
<「い・ろ・は・す」絶好調!発売後97日で1億本を突破(東京ウォーカー)>
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090902-00000002-tkwalk-ent

ナゼ、これほどまでに売れるのか?環境にいいから?・・・それだけで売れるほど単純なものではない。

はじめに外部環境の影響を考えてみよう。CO2の削減に対する世界的な取り組みが進行している。社会的にもまさに継続性のある環境不可の低い生活をしようという、商品名の由来にもなっているLOHASに注目が集まり、実践も進んでいる。

ミネラルウォーターの市場を考えてみよう。取水地を国内とする製品以外にも、海外勢が多数存在する。取水地から日本まで輸送するために消費される環境負荷「ウォーターマイレージ」を考えれば、国内勢は圧倒的に環境アピール効果が高い。
国内勢の競合に対しても、「い・ろ・は・す」は独自の技術でわずか12gという省資源ペットボトルを実現している。
つまり、エコやLOHASを訴求するには、自社の技術を活かして絶対的に有利なポジションを獲得していることがわかる。

しかし、環境に適応したいい商品(Product)であるというだけで売れるほど世の中は甘くはない。
売れている理由は、コカ・コーラシステムの圧倒的な販売力がバックボーンとなっていることは間違いない。コカ・コーラの力の源泉は、全国に約100万台を展開する自動販売機。街に出れば、そこかしこにあるコカ・コーラの自販機に数フェイス並んでいる「い・ろ・は・す」が目につくだろう。マーケティングミックスの4つのP(Product・Price・Place・Promotion)の一つである、Praise(販路)の強さが売れている理由の一つだ。

価格的には特に安売りをしているわけではない。しかし、上記リンク先の東京ウォーカーの記事に購入者の声が載っている。「520mlという容量にお得感がある」と、競合より増量して割安感で勝負しているのである。Price(価格)も売れる原動力になっている。

Promotionも広告がよくできている。「飲み終わったらクシャッとつぶせる」という製品特性を表わすため、見事なまでにひねり絞られたボトルの上から、緑の葉っぱが顔を出している表現。エコ気分満点である。その効果があって、東京ウォーカーの記事にも「子どもが喜んでボトルをつぶし、資源回収に出してくれる」との声がある。製品や価格だけでない、情緒的な価値も消費者に評価されているのである。

と、ここまでで十分成功要因が挙げられているように見えるが、それだけが大ヒットの理由だろうか。商品が売れるためには、マーケティングミックスの4つのPの整合性が欠かせない。しかし、それ以前に魅力あるターゲットを取り込むことができていることと、そのターゲットから評価されるポジショニングが獲得できていることが重要なのである。

もう一度、振り返って考えてみる。
本当に環境負荷軽減、エコを考えるなら、例え国内取水であっても水道水を浄水して飲んだ方が輸送の環境負荷はかからない。省資源やリサイクルしやすいペットボトルは素晴らしいが、マイボトルを用いてペットボトルを消費しなければ、環境負荷は発生しない。
環境負荷だけではない。マイボトルで浄水した水道水を飲んだ方が、「増量でお得」よりも、もっと自分の財布にやさしい。最近急増している「マイボトル派」なら、そんなことをすぐに考えつくだろう。

「い・ろ・は・す」のポジショニングを二軸のマップで描いてみれば、縦軸がお得感、横軸が環境負荷軽減への貢献となるだろう。「増量でお得で、一番省資源でリサイクルに適したボトル」はミネラルウォーター同士の競合環境では一番有利になる。しかし、「マイボトル」とは比べるべくもない。

しかし、筆者も「マイボトル派」で、SIGのボトルにブリタで浄水した水道水を入れて持ちあるっている。だが、正直白状してしまうと、面倒でなかなか実施に踏み切るまでには時間がかかった。実際にはそんな人は多いはずだ。
「い・ろ・は・す」の売れる理由。それは、「マイボトルほど面倒なことはしたくない。けれど、環境負荷軽減に関してはやはり気になる」というターゲット層が多いからだ。無理なエコは続かない。何より「LOHAS」は「ムリせず継続できること」を重視するものでもあるのだ。その意味で、ターゲット層のニーズをズバリとらえたポジショニングを実現しているのだ。

では、急増中の「マイボトル派」がさらに増えたら、ターゲットの成長性はなくなってしまうのかといえば、その点でも優位だ。マイボトルを何本も持ち歩けないし、時には忘れたり、荷物が多くて持てないこともある。そんな時には「マイボトル派」も「い・ろ・は・す」を選択することになる。

マクロ環境・競争環境・ターゲットとポジショニング・4Pがきれいに整合した「い・ろ・は・す」の快進撃はまだまだ続くだろう。「それゆけ、次は2億本」というところか。

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2009.09.02

イケメン四天王が狙う資生堂・uno FOG BARのターゲット

妻夫木聡・瑛太・三浦春馬・小栗旬というイケメン四天王がCMで活躍する新発売のスタイリング剤、uno FOG BAR。この商品の販売促進(Promotion)を中心としたマーケティングミックスが実によくできている。

商品のターゲットは恐らく20代前半がメインだとすれば、このCMが往年のビートルズへの見事なオマージュになっているのは分らないかもしれない。だが、それを知らなくともスタイリッシュな映像には間違いなく目を引きつけられるはずだ。惜しげもなくタレントを1つのCMに投入するのがお家芸ともなっている資生堂ではあるが、この4人が集合しているのは何とも豪華で目が離せない。
つまり、AIDMAのAttention(注意喚起)はバッチリだ。

「ワックスにさよなら」という、製品(Product)の本質を突いたコピーもいい。
つまるところ、男性がヘアスタイルを気にするようになったここ四半世紀のスタイリング剤は、髪のホールド感とサラサラ感、そして近年はそこにいかに動きを出すかにのチャレンジである。
ヘアジェルはホールド感抜群であるが直線的に固まってしまう。ムースは自然な仕上がりだがホールドが弱い。スプレーは髪全体が面で固まってしまう。
そんな不満を解消すべく数年前に登場したのがワックスだ。よく伸びる粘着性の素材を髪になじませれば、適度に動きを付けてしっかりホールドできる。しかも、何度でも手ぐしでスタイルを直すこともできる。しかし、如何せんベタベタ感は否めなかった。
「シュッシュッ」という擬音でスプレーよりも大まかな霧を噴き出す様を表現し、イケメンたちが、サラサラ感を残しつつ、自由な形にしっかりホールドした髪を何度でも直せる様子を演じる。「おっ、よさそうかも」と思わせる、AIDMAのInterest(興味喚起)もバッチリである。

この商品の販売促進にはWebサイトにかなり力が入れられている。
新しい使い方と製品特性を理解させるのが欠かせない商品であるため、それをしっかり伝えるために、ヘアスタイリストが実演したり、使い勝手の良さを語ったりしている。興味を持たせてから、実際に「これなら欲しい」と思わせるAIDMAのDesire(欲求喚起)への橋渡しをしっかり担っているのだ。

Webサイトには自分の顔の画像を撮影してアップすると、はめ込み合成で自分が主人公になるオリジナルCMを作れるスペシャルサイトがある。作ったCM動画をメールで人に知らせて共有することもできる。能動的に知人や仲間内へのクチコミ発信者にすればもはや商品を忘れない。AIDMAのMemory(記憶)達成である。やがて店頭で手にして、AIDMAのAction(購買)に至るという設計なのだ。

非常に良くできた製品(Product)を、優れた販売促進(Promotion)が後押しするという構造であるが、さらにそれ以前にターゲティングの絶妙さがWeb サイトでよくわかる。
一見男性向けであるこの商品が、女性が使用するとどんなスタイリングに使えるかというコンテンツがしっかり存在しているのである。

この製品は、メインターゲットは男性であろう。しかし、明確にサブターゲットとして女性を設定している、つまり「ターゲット2倍化作戦」をとっているのだ。
しっかりスタイルが決められて、しかも動きが出せて、何度でも直せるという製品特性は、確かに女性のスタイリングにも最適だ。その製品特性を活かした展開なのである。

女性自らが認知して、試して、購入するというパターンももちろんあるだろう。だが、それ以上に男性からのオススメが発生するように設計がなされているのではないだろうか。
イケメン四天王のCMで女性のAttentionも獲得しておく。そこにWebサイトで製品にInterestを持った男性から「これ、いいかも!」と紹介させるというコミュニケーション設計だ。
オリジナルCM動画も「オレ、こんなの作ったから見てみて!」と男性から女性へのアプローチさせるのにピッタリなツールとして仕掛けているとも考えられる。
女性に勧めた男性はもちろん、購入意志を固める。もしくは既に購入済みである。勧められた女性もCMで認知しているし、店頭で見てみれば、赤・白・水色と3タイプのきれいな商品パッケージは女性にも魅力的に映る。

ターゲットユーザーの従来商品に対するニーズギャップが解消できるたら、それでさらなるターゲットを拡大することができないか考えてみることが極めて重要だ。男性に加え、女性も取り込めれば、最大、ターゲットは2倍である。
ターゲティング→ポジショニング→マーケティングミックスと一通り完成させれば終わりではない。貪欲に、もっと狙えるターゲットはないかと考えることの重要性を一連の展開は教えてくれている。

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2009.09.01

売れない時代に売る力

日経MJ8月31日に掲載された2つの記事。同紙の編集者と編集委員の意見を読み解くと、「売れない時代」における製品開発担当マーケターの苦悩と問題点が見えてきた。

第3面のコラム「底流を読む」は今回「売れない時代に売る力」というサブタイトルが付いていたが、そこで例示されている2つのケースが気になった。
一つはコンビニエンスストアなどで、「お弁当やデザートの新製品作りで、女子大生が開発の現場まで入り込んでいるケース」というもの。本来、コンビニの主力商品であるおにぎりや弁当の開発部隊は充実しているはず。それが何を作っていいのかわからないので素人に頼ってしまっていることについて、「話題づくりならともかく、本丸の一部を明け渡していいのか」と憂慮している。

同記事でも「消費者目線が大切なのは否定しない」としている。「お客様の声」はVOC(Voice Of Customer)と称してその活用が近年重要視されてきた。コンタクトセンターやインターネットを通じて顧客の声を収集する接点は増加し、その声を長時間録音したり、テキストデータとして収納するストレージも価格低下で容易になっている。テキストマイニングなどの分析技術も発達している。しかし、あえて誤解を恐れずにいうなら、その活用の大原則が忘れられているように思えるのだ。

活用の大原則。それは「顧客の声は、製品サービスの改善には有用であるが、全く新しいものの開発には限界がある」ということだ。顧客は全く似たことも考えたこともないものを欲することはできないという、極めて当り前な前提がそこにあるからだ。

「顧客ニーズ」とは、顧客が思い描く「理想とする状態」と「現実」の間にあるギャップである。直接的には、それは不便であるとか、不満であるといった「不」の付く言葉で表わされる。故に、そこから「改善」を考えるのは比較的容易だ。
しかし、そこから全く新しい、消費者の持つギャップを解消する対象物=ウォンツを創り出すには、マーケターの解釈や発想力でジャンプをさせなければならないのである。それを消費者自身に任せていることを、編集者は憂慮しているのだ。

解釈や発想力によるジャンプと同様に、売りの現場で欠かせないのは、「売る側の意志」である。
もう一つ指摘されている事例がその欠落を示している。ある生協の店頭で「本日ポイント10倍」というかけ声がエンドレステープで連呼されていたという。「化って欲しい商品を連呼するならわかるが、これではまるでポイントを売っているようなもの」としている。まさに、「何を欲しがっているのかわからないけど、とりあえず10倍付けするから何か買っていって!」という状態だ。コラムは「売ってみせますという気概が欲しい」と締めくくられている。

しかし、「消費者ニーズ」がわからず、「売る側の意志」が空回りしている状態が同紙の一面記事の一部から伺える。「家電量販6社仕入れのプロ予測」という記事で、「録画できるTV売れ筋大本命」「2位除菌・空気清浄機」など、少し景気のいい感じの見出しが躍る。
その中の囲み記事で2名の編集者がバイヤーの意見を伝えている。その一つで気になるのが「一般に上位モデルには、使わずに終わるような機能も目立つ。もっとシンプルで、なおかつ基本性能の高い製品が必要」とメーカーに「機能を絞れ」と注文を付けている。

家電だけでなく、昨今は携帯電話が使わない、ユーザーが使いこなせない機能満載の代表例ではないだろうか。一部の高級車も同様だ。
消費者の心が見えない。わからない。わからないので不安になって、なんでも付け加えてしまう。金やモノで心は買えないとわかっていても、その見えない心をつかみたくて異性に貢ぐ心境と同じといっては言いすぎだろうか。

ひたすら「足し算」することをやめて、そろそろ「引き算」でものを考えることも必要なのだ。
例えば、携帯電話の高度な機能を全て取り去って、一つだけ付け加えて欲しい付随機能を挙げるとしたら、筆者の場合「目覚まし機能」である。
メールとブラウジングは欠かせない。しかし、通話は待ち合わせの時や緊急時以外めったに使わない。通話記録を見れば、週に数回しか使っていない。それ以上に、毎日確実に使うのがアラームだ。だが、実際にはアラームを操作するのは結構階層が深くて使いにくい。ダイヤルにセキュリティーロックをかけていると、その解除をしてから操作することになる。うっかりマナーモードにしていると鳴らない。携帯本体の機能から独立して操作できる目覚まし機能。その話をすると、多くの人が賛同してくれる。
機能満載から、引き算をしまくって、ユーザーの不満解消をするちょっとした足し算を行う。そんなことも「売れない時代に売る」工夫として欠かせないのだろう。

「売れない時代に売る力」。それは、消費者に頼りすぎることでも、消費者のココロを忘れてひたすら機能追加することでも実現することはできない。マーケターの発想力と売る意志が今、売れない時代にこそ試されているのである。

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