「宮﨑あおい」の全方位戦略・一眼デジカメ「オリンパス ペン」
モノクロームのスローモーション映像の中、宮﨑あおいがカメラを構えて微笑む。オリンパスのデジタル一眼カメラ「オリンパス ペン EP-1」のCM。現在テレビに大量投下中だ。デジタルカメラとして復活した往年の名機「ペン」の戦略はどんなものだろうか?
「オリンパス ペン」というカメラの名前にノスタルジーを覚えるのは、中高年のカメラマニアだ。「Since1959」とCMのコピーにもあるように、初登場は1959年、高度成長期前期である。当時のカメラは高価なライカが憧れの的であったが、その40分の1、6,000円という価格を実現。さらにまだまだフィルムが高かったため、35ミリフィルムの1枚のサイズの中に2枚撮影できる「ハーフサイズ」を確立した画期的なカメラであったのだ。
その後も様々な改良が重ねられ、1963年には世界初、世界唯一のハーフサイズの一眼カメラとしてリニューアルした。それが今回のデジタルカメラ化されたペンのコンセプトとなっているのだ。
上記の通り、中高年にとっては思い出深いカメラで、一度は手に取った人も多いはずだ。40代の筆者がカメラ少年だったとき、まだ中古機が多く出回っており、それを愛機としていた仲間も多かった。まず、今回のターゲットの一つはその層であることは間違いない。
イメージキャラクターとして宮﨑あおいを起用しているのが絶妙だといえる。
宮﨑あおいの趣味が写真であることを知るファンは多い。兄で俳優の宮崎将と、世界の経済格差問題を描いたフォトエッセー「たりないピース」、環境問題を描いた「Love,Peace & Green たりないピース2」を記すなど活動も本格的だ。2007年~2008年にオリンパスのデジタル一眼カメラE-410/510にも起用されているのでその流れであるが、実際に写真活動を行っている女優が推奨するという演出はにくい限りである。
宮﨑あおいは4歳の子役からのデビューであるが、2005年、社会現象を引き起こした大ヒット映画「NANA」の主演で一気に注目を集めた。2006年、NHKテレビ小説「純情きらり」の出演で家庭にも広く顔が知れ渡り、翌2007年、大河ドラマ「篤姫」の主演によって誰もが彼女を知ることとなる。
そんな彼女のファン層は幅広いことが特徴だ。
テレビ小説、大河ドラマでの高い認知で中高年にも好感度を得ており、その一部は往年のオリンパス ペンファンともかぶる。
家庭によく知られた顔で、実は写真の腕もなかなか。そんな彼女の推奨するデジタルになった「ペンEP-1」をもう一度手にしてみませんか、というメッセージが伝わってくる。
一方、女性の支持も高い。女性向けマンガが原作の「NANA」の主演だけでなく、「篤姫」の役どころは多くの女性の共感を得た。
女性をターゲットとした時、「ペン」のスペックはさらにピッタリとマッチする。「ペン EP-1」はレンズ交換型デジタルカメラとしては世界最小・最軽量である。しかも、初心者にも使いやすい直感的な操作を実現しているのだ。女性向けデジタル一眼カメラとしてはパナソニックの「LUMIX G1」シリーズが先行しているが、そのサイズより大幅に小さく軽い。また、ボディーカラーのホワイトは明らかに女性向けであると考えられる。
通常、女性と中高年を中心とした男性という、相反する2つの層を狙ったターゲティングはあまり例がない。双方のKBF(Key Buying Factor=購入要因)が異なるからだ。
例えば、カメラで考えれば、男性なら「本格的な性能」「信頼のブランド」「写りの良さ」「ステータス」などであろう。女性なら「使いやすさ」「軽くて小さい」「みんなが使っている」「可愛くてオシャレ」などとなるだろう。その結果、両者向けのプロダクトは別々に設計されることとなる。
「ペンEP-1」はその両者を一気に狙う全方位戦略をとっているのが特徴だ。そしてそれを可能にしているのが、そのスペックと来歴。そして、キャラクターの宮﨑あおいなのである。
小さいけれど本格派。それは高度成長期のスター「オリンパス ペン」が確立したポジショニングそのものだ。それをデジタル化したのが「EP-1」となれば、男性ターゲットの納得感は高い。
一方、最新の技術で誰にでも使いやすくなっており、特徴である軽量・コンパクトさは、女性にも受け入れられる。オシャレなボディーカラーも設定した。
イメージキャラクターを務めるのは、男女問わない人気を誇る、写真をよくわかっている女優。そんな彼女は各々のターゲットに対して満足は間違いないというエンドーサー(endorser=保証人)として機能する。
選択と集中という言葉がある。また、モノをきちんと売りたければ、ターゲットをしっかりと絞り込むのは鉄則だ。「二兎を追う者は一兎をも得ず」という故事来歴は誰もが知っている。しかし、それらは絶対の法則ではない。ターゲットのKBFにマッチした要素が確立できれば、全方位戦略や二面作戦を敢行すべきであるだろう。
現在、大量に投下されている宮﨑あおいのCMが、いかに効果を発揮して、その戦略があたるのか。「オリンパス ペン EP-1」の売れ行きを見守ってみたい。
但し、筆者は他社の一眼デジタルカメラを購入してしまったばかりなので、EP-1をついつい、衝動買いしないように自制しながらではあるが。
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