ユニクロ無敵伝説が完成・「+J」で問いかける新しい価値
今年3月17日、ファーストリテイリングがデザイナーのジル・サンダーとの契約を発表し、ファッション界に激震が走った。「JIL SANDER」ブランド辞任後の彼女の動向が注目されていた中、コンサルティング会社「JS CONSULTING社」を立ち上げての契約であった。その独自のコレクション「+J(プラスジェイ)」がいよいよ姿を現した。
実に22年ぶりにメンズノンノを買った。この秋冬のワードローブをチェックしようということではない。特集記事「ユニクロ×Ms.ジル・サンダーが、世界を変える」をチェックしたかったからだ。
「世界を変える」なんて大げさな・・・と思っていたが、少なくともユニクロは大変身する。いや、世間のファッションの価値観も大転換するかもしれない。
6ページ、6パターンの着こなしが紹介されていたが、洗練されて繊細、かつ上質でミニマルなデザインは間違いなくジル・サンダーの手によるもの。「design without decorathion(装飾のなきデザイン)」のコンセプト通りである。
ジル・サンダーブランドは99年にプラダグループに買収されたが、素材の品実に対する考えの対立でジルが辞任。03年に復帰するも、翌年再び不調和で辞任している。
「品質へのこだわり」という点では恐らく、ファーストリテイリングとの契約は最も正しい選択肢であったといえるだろう。ユニクロがロードサイド店として展開していた時代の認識のままの人にはオカシナ話に聞こえるかもしれないが、現在のユニクロの品質へのこだわりは凄まじい。大手アパレルメーカー幹部も品質だけで勝負したら負けると漏らしていた。
そこにジル・サンダーのデザインである。
2008年に「JIL SANDER」ブランドはオンワード傘下となっており、その名前は使えないため「+J」というブランドが今回立ち上げられた。
そのブランドネームが記された製品タグには「Open the Future」と記された、ジル・サンダーからのメッセージが寄せられている。メンズノンノの記事から引用する。
「私が考える服とは、誰にとっても快適で美しく、高価ではなくてもシンプルさの中に贅沢さが存在するものです。私にとって高品質と低価格の両立、つまりあらゆる人々に高品質なファッションを提供することは新しいチャレンジです」。
まさしく、これこそが「+J」ブランドのコンセプトであり、両社の契約の意義であるといえよう。
雑誌に紹介されたラインナップは、ジャケット類(ミリタリージャケット、ダウン、ピークドラペル)・12,900円、 ニット・12,900円、カーディガン・14,900円、シャツ・3,990円、パンツ類(スラックス、ジーンズ)・4,990円、カットソー・1,990円といったところ。
従来のユニクロのラインナップと比べれば少々高価格帯ということにはなるだろう。また、昨今、ユニクロは確かに品質も上がったが値段も高くなったとの声も聞こえる。
しかし、それには柳井会長は既に答えを出している。990円ジーンズで一気に知名度が向上し、日経MJの2009年度上期ヒット商品番付入りもした「g.u.(ジーユー)」。3月10日の990円ジーンズ発表の記者会見で、柳井会長は次のように述べた。
「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」。
価格と価値の正比例した関係を「バリューライン」と呼び、市場の相場はその上に形成されていく。そして、そのバリューラインを上回る価値を提供できたものが顧客の支持を集めることができるのだ。
「まあまあの品質で低価格のもの」つまり、「品質」×「価値」の軸で考えた時の「グッドバリュー戦略」のポジションをg.u.は目指している。ユニクロは最高品質で低価格の「スーパーバリュー戦略」のポジションを目指していたが、g.u.との棲み分けで最高品質で中価格の「高価値戦略」のポジションに切り替え、収益確保を図ったと考えられる。
しかし、ユニクロの「価値」の軸を考えてみると、実は依然「スーパーバリュー」のポジションにいるのではないかとも考えられる。ユニクロが提供するものは、ただの高品質だけではない。低廉な価格にもかかわらず、ヒートテックやドライ製品など高機能生も提供している。
加えて今回の「+J」の展開でユニクロの価値は一気に高まったのだ。単品で15,000円以下という衝撃のプライスでジル・サンダーのデザインが手に入るのだ。これを「スーパーバリュー」と言わずして何と呼べばいいのか。
それでも価格にこだわる層はg.u.で囲い込んで、品質・機能・デザインという価値を、その価値からすれば最低価格で提供するという、ファッションの価値観を大きく塗り替えるチャレンジをユニクロとジル・サンダーは始めたのである。
もはや、向かうところ敵なしの状態で、ファーストリテイリングは2010年売上高 1兆円の目標に向かって突き進んでいる。
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