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15 posts from August 2009

2009.08.31

売れる農業・儲かる農業のヒント

農業ビジネス花盛りの今、それがビジネスとして「儲かる」にはどうすればいいのかを考えてみる。

■「加工度」というキーワード

売れる農業・儲かる農業という課題を「新規ビジネスとして、もしくは既存の一次産業としての農業で生産された作物を、より高単価・高付加価値で売ってビジネスとしての成果をあげる」というテーマでとらえ直した時、そのキーワードの一つは「加工度」である。
筆者は過去に、地域活性化プロジェクトに参画したことがある。近隣の競合地域と比べ観光資源に乏しい地域であったため、地場の産物を販売して地域をもり立てようということになった。臨海地域故、海産物が豊富であった。しかし、それが問題で、新鮮な海の幸を武器にしようとした場合、保冷輸送のコストばかりがかかってしまい結局は売れる価格設定ができないのだ。生鮮品の場合、「関サバ・関アジ」のようなブランド化ができなければ、その地方でしか手に入らない珍しい産品でもない限り価格のプレミアム分が消費者に受容されないのである。
一つの解としては、「加工度を上げる」ことが挙げられる。
ゆずの生産で有名な高知県馬路(うまじ)村。山間の村で斜面に植えられたゆずは手入れが大変で、しかも農家は高齢化が進み、手入れをより困難にしている。それ故、出荷時にゆずの果実の等級は低くなってしまい儲けが出なかった。そこで村ではゆずを加工して出荷することにした。搾汁したり、煮たり、乾燥させたりと様々な加工を施した結果、玉で出荷するより加工度が高いため、高単価・高利益となったのである。
(参照:制約条件を活かせ!:馬路村の伝説 )

■加工度と価格プレミアムの関係

消費者に商品がどのような価格が受容されるかは、商品の価値構造と関係する。
例えば、飲料の場合、飲料を手に入れて実現したい「中核的価値」は「喉の渇きをいやせる」ことである。ミネラルウォーターの相場として100円としよう。さらに、清涼飲料は「炭酸でスッキリする」「甘くてオイシイ」「カロリーが低い」など、喉の渇きをどのようにいやせるのかという「実体的価値」が加わる。清涼飲料の平均価格は150円。100円のミネラルウォーターと比較した場合のプレミアム分が50円というわけだ。さらに、いわゆる「トクホ飲料」は189円が相場であるが、一般の清涼飲料より39円分のプレミアムが設定されている。それは、「喉の渇きをいやせる」という中核とは直接関係はないが、「脂肪を燃焼する」「血圧低下が期待できる」などの効果が「付随機能」がプレミアムとなっているのである。
以上のように考えると、加工度を上げるということは、その作物なり産品の中核的価値に実体や付随機能を付け加えていくこと極めて似た関係である。

■加工度向上と知覚品質

加工度向上と価値の追加は似た関係であるが、一つだけ留意したい点がある。それは、価値には馬路村がゆずを搾ったり、煮たり、乾燥させたりと物理的に加工して価値向上を図ることと、消費者が商品・サービスを購入するにあたって感じる信頼性や雰囲気などの「知覚品質」の両面があることだ。
筆者の知人は新潟県南魚沼郡でコシヒカリを生産している。いわゆる「ブランド米」である。彼はそれを農協に出荷すると同時に、独自で顧客に向けて直販も行っている。そして、独自販売の方が高い価値を追加することができているのである。
独自販売の米は「減農薬・合鴨農法」で生産している。完全無農薬にすると、田植え前の除草の手間がかかりすぎるので、一度だけ農薬を散布するという。それは、直接苗にかけているわけではないため、影響は極めて軽微だという。田植え後は、合鴨に除草させるため、自然有機栽培となる。
価値の構造を考えてみる。中核的価値は「おいしい米が食べられる」である。「南魚沼郡産」というブランドが、「おいしい」という価値を裏書き(endorsement)してくれるのが実体価値である。通常であれば、ここまでで十分な価値であるのだが、彼の活動にはさらに付随機能がある。「減農薬・合鴨農法」がそれだ。しかし、その活動の成果が最終製品としての米にどの程度影響を及ぼしているのか、一般の消費者にはほとんどわからないはずだ。にも関わらず、それを価値と考えるのは、生産者の顔が見えて、その生産に対するこだわりに共感しているからに他ならない。つまり、それは工業的な品質向上ではなく、知覚品質が高まっている状態なのである。

■販路という課題

「より高単価・高付加価値で農産物を売る」という課題は上記の通り、加工度を高める。もしくは、知覚品質も含め価値構造を重層化していくことが一つの解である。そしてそのためには直販・通販がその価値を顧客に伝達しやすいことは、合鴨農法・南魚沼産コシヒカリの事例からもわかる。同様に、前掲の馬路村のゆず加工品も通信販売で大きく販売量を伸ばした。
中間に流通チャネルを通さない直販・通販は「ゼロ段階チャネル」といわれる。量販店で販売する。卸を通じて小売店で販売する。一次卸・二次卸を通じて小売店で販売する。それらは、間に入るチャネルの数によって1段階チャネル~3段階チャネルと呼ばれる。
中間にチャネルが入るほど商品の流通スピードは遅くなり、チャネルマージンが上乗せされ、生産者のメッセージが伝わりにくくなり、顧客の声も届きにくくなる。つまり、物流・商流・情報流の3つの大きな流れがいずれもコントロールしにくくなるのだ。
つまり、チャネルを介した販売を行う場合、「価値構造を重層化」は、その価値を顧客と共有するだけでなく、チャネルも理解しファン化するようなしくみがなければ顧客にその価格に見合った価値が伝わらなくなるのである。
しかし、チャネルを介在させる大きなメリットも存在する。それは、市場のカバレッジが高くなるのである。独自に顧客を開拓するのは容易ではない。一方、チャネルは各々が顧客を有している。チャネルの力を使って、その顧客に販売してもらう方が、より数を捌くには適している。
最終的にはこのチャネルの設計をどのようなバランスの上に成立させるかという点が「より高単価・高付加価値で農産物を売る」課題となるのは否めない。

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2009.08.27

「貝柱がいる」シーフードヌードルは、なぜ、歓迎されたのか?

♪ ここに 貝柱がいる 貝柱がいる たしかにここに いる~ ♪
水夫姿の木村拓哉が朗々と歌い上げるCMが印象的な日清・シーフードヌードル。貝柱をプラスしたという製品改良に反対する意見は全くといっていいほど聞こえてこない。それはカップヌードルの肉が「ダイスミンチ」から「コロチャー」に変更された時と全く異なった様相を呈している。

カップ麺のパイオニアである日清食品は、「新・うまい! カップヌードル」というコンセプトのもとに製品仕様の改良を進めている。その一環として、「カップヌードル シーフードヌードル」に、「貝柱」を加えた。それは1984年の発売以来、25年の間に幾度も繰り返された改良の中でも画期的な改良であるといえよう。同社のニュースリリースによれば、<「貝柱」は具材としておいしいだけでなく、うまみがスープに溶け込むことで、コク深いおいしさを演出します>とのことで、食べてみれば確かに味わい深くなっているのがわかる。

カップヌードルの製品改良といえば、「新・うまい! カップヌードル」の第一弾として「カップヌードル」の肉を、独特のフニャっとしたしながら、どこか芯が残るような食感をもった肉「ダイスミンチ」からコロッとしたチャーシュー、「コロ・チャー」に変更した時の市場の反応が思い出される。多くのカップヌードルファンが製品改良のニュースリリースに対して一斉に反対の異見を表明したのである。

今回のシーフードヌードルに「貝柱投入」に対する反応の違いの理由は、「貝柱」は具材として新規投入されたのに対し、「コロチャー」は既存の具材「ダイスミンチ」からの置き換えであったことが大きいだろう。カップヌードルファンはダイスミンチの独特なジャンキーな味わいが姿を消すことを惜しみ、「むしろ製品改悪ではないか?」との意見を述べたのである。つまり、ファンはダイスミンチはカップヌードルらしさの根源であると考えてそれが失われるのを惜しみ異を唱えたのだ。

では、実際に改良版の「コロ・チャー」カップヌードルが発売された後はどうだったかというと、スッと潮が引くかのように反対意見は消え去った。木村拓哉が稲垣吾郎のニックネームである「ゴローちゃん」と、ゴルゴ13を「ゴルゴちゃん」と呼んで「コロ・チャー」の名前と引っかけて連呼するCMソングはおもしろかった。その後押しもあるが、製品の味自体がファンに受け入れられたのである。それは、肉が変わっても「カップヌードルらしさ」は失われていなかったからだ。
一方のシーフードヌードルは、基本のカップヌードルの味にシーフードのうまみが加わっている点が「らしさ」を醸し出しているといえる。それが「貝柱投入」によって「らしさ」がさらに向上すると考えたが故に、ファンも反対ではなく、むしろ歓迎の意を表明したのだろう。

「らしさ」とは、「知覚品質(Perceived Quality)」という。それは消費者が商品・サービスを購入するにあたって感じる品質のことであり、商品の機能や性能などの物理的属性に加え、信頼性や雰囲気などの主観的な要素も加味して判断されるものだ。それ故に、企業が何らかの機能や性能を高めたり、原材料を変更したりと物理的な品質、(工場品質とも呼ばれる)を高めても、消費者にとって意味のあることでなければ、知覚品質が高まったとことにはならない。
カップヌードルも、シーフードヌードルも、肉質の向上や貝柱の投入という具材の変更によって「らしさ」=「知覚品質」が失われていたら、ファンの離反を招いたのは間違いない。
顧客にとって何が価値なのか。それを誤らずに見極めることが重要なのである。

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2009.08.25

トヨタがとっても心配な件と自動車産業のこれから

筆者が独立した2005年2月23日、トヨタの株価は4,050円だった。2003年4月の最安値から見ればだいぶ上昇していたが、まだまだ上がるという見込みは的中。その後順調に上昇し、最高値2007年2月に8,350円をつけた。2年でカッチリ倍以上である。
が、昨年のトヨタショックでは2,650円まで急降下。
悲惨な株価の日々が続いたが、今年8月に入ってようやく4,000円台を安定的にキープしているように見え、今日の終値は奇しくもちょうど4,050円である。
が、まだまだ安心できない。心配だ。心配だ。なぜ、心配って、いいことが見えないから。

創業以来の大赤字を計上し、その後直近は<新型プリウスの販売好調や、各国の販売奨励策が追い風となり、赤字幅は1~3月期の6825億円から大幅に縮小した。(asahi.com 8月4日)>とのことなのだが、そのプリウスがまたなの心配だ。
儲からないという。
痛かったのは、ホンダのインサイトがあまりに出足好調で大幅な対抗値下げをしたこと。
その甲斐あって、登録台数はプリウスがインサイトをあっさり抜き去って首位を獲得しているが、1台売っての利益はあまりに少ないという。
しかも、本来利益の出るクラウンなどの高級車からのダウングレード需要も発生してしまっているようだ。儲かる商品の需要を、自社の儲からない商品がカニバリ(共食い)する。
リーダーの戦略としてはあまりに痛い構造だ。

海外に目を移してみると、8月24日付けの日経新聞の記事にあったように、ブラジルではエタノール混合燃料を使用する「フレックス車」が主流で、それに対応しているフォルクスワーゲンが市場を席巻しているという。同社は中国及びその他新興国の市場もおさえ、一時、世界首位となったトヨタのポジションも抜いた。
少子高齢化にクルマ離れの国内市場。経済危機の影響から抜け出せない先進国市場、特に市場が痛みきった北米などでの優位性では今後は通用しない。

「フレックス車」の存在だけでなく、ハイブリッドの優位がいつまで続くかも気になるところだ。マツダにハイブリッドの技術供与を検討中と先月報道があったが、今後、予想より速いスピードで内燃機関を使わない電気自動車への世代交代が進むのではないかと考えられるからだ。技術供与も必死のハイブリッド陣営構築策かと考えるのは穿った見方だろうか。そもそもハイブリッドにこだわるのは内燃機関の技術優位性存続のためではないだろうか。完全な電気自動車、モーターの世界がやってきたら、長い歴史の中で培ったエンジンの技術や生産設備が全て負債化する。それを避けるための延命策に感じてしまう。

電気自動車の世界はプレイヤーが全く異なってしまう。今日の報道だ。
<慶大やベネッセ、電気自動車で新会社>
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20090824AT1D2408K24082009.html

新会社の名は「シムドライブ」。社長に就任するという慶応大学の登場人物は、あの、環境情報学部・清水浩教授。800馬力・時速370Kmのモンスター電気自動車「エリーカ」を開発した人物だ。

<「みんな勝ち」の未来へ急発進! 時速370kmの電気自動車>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090819/202831/?P=1

上記記事にはエリーカの詳細がある。と、同時に興味深いのは教授の発言だ。
曰く、日本の総合電機メーカーや家電・電池メーカーは電気自動車を技術的には作れるが、最大の得意先が自動車メーカーであるため、商売上、雪崩を打って自動車に参入するということはないだろうという。一方、日本企業の特徴は産業構造の変化に対応するスピードが早いため、自動車会社もきちんと生き残れるのではないかとも述べている。つまり、自動車メーカーは電気自動車に転換して生き残り、商売上のしがらみを解消したプレイヤーが新規に参入してくるとの見方である。

新会社の株主の顔ぶれを見ると、ガリバーインターナショナル、ナノオプトニクス・エナジーとある。ナノオプトニクス・エナジーはインターネット総合研究所の代表取締役所長藤原洋氏が代表取締役を務める2005年設立のベンチャーである。事業内容は超精密工作機械の製造・販売などが主業のようだ。つまり、ガリバーは自動車関連ではあるものの、全く自動車メーカーは参画しておらず、電機関連の姿もない顔ぶれだということだ。

実験的な会社ではない。日経本誌の記事によると<13年までに10万台以上の量産を目指す>とある。しかも<車両価格150万円以下、充電1回で300キロメートル走る5人乗り>という夢のようなスペックだ。
量産化・低価格の実現の目処がどの程度のものかわからないが、「インホイールモーター式」を採用するというから、技術的なバックボーンは「エリーカ」で完成の域に達している。車輪に駆動用のモーターを直接組み込むタイプで電動効率がよく、走行距離も稼げるという。車内も広いだろう。

3年強で10万台。プリウスはエコカー減税もあって月1万台以上売れている。比べるべくもないが、今から13年までの40ヶ月で月平均2500台キッチリ売っていくつもりなのだ。もちろん、準備で生産しない期間を考えれば、月5000台ペース近いのではないか。比べれば、トヨタの「カローラフィールダー」の今年の月間販売台数は3,000~4,000台。である。

国内の競争だけではない。150万円で性能もしっかりした電気自動車であれば、海外向けでも十分競争力を持てるだろう。
エコカー減税だの、ハイブリッド社トヨタVs.ホンダ戦争だのといわれていた影で、すごいことになってきた気がする。

新会社・シムドライブ社は<慶大が開発した電気自動車用のモーター技術を提携先企業に提供。共同の開発プロジェクトとして国内外から参加企業を募る>という。
清水浩教授が、「日本企業は産業構造の変化への対応が早い」というように、自動車各社は、トヨタは内燃機関・エンジン技術からモーターへの脱却をするのだろうか。
少なくとも、100年の歴史を塗り替える自動車の世界の産業構造の転換という、ものすごい事態を我々は目にしているのは間違いない。
・・・株価の行方を気にしながら。

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2009.08.24

なんと、200円でも大人気!セレブ御用達飲料のナゾに迫る!

赤や黄色や緑のビビットカラーが目にも鮮やかな「グラソービタミンウォーター」。NY生まれのセレブ御用達飲料という触れ込みで、都内各地で大規模なサンプリングやイベントキャンペーンを展開し大人気。7月からの販売実績も好調だという。

<グラソービタミンウォーター ブランドサイト http://glaceau.jp/ >

■こんな商品

真っ赤なかき氷シロップにそっくりな「power-Cドラゴンフルーツ(ビタミンC+果糖)」を試してみた。味は液体の激しい色とは裏腹に、やはり「ウォーター」なのでほんのり薄甘~い味である。例えていうなら「イチゴシロップのかき氷を食べずに放置しておいたら溶けちゃって、もったいないからその水を飲んでみたら薄甘かった」・・・ってな感じである。

■こんな価格

そんなProductであるのだが、Priceが特徴的なのだ。なんと、200円。ウォーターということであれば、ミネラルウォーターの相場は500mlで100円~140円。清涼飲料の相場は150円。「ただの水にさよなら」とのコピーがあるので、清涼飲料に属する商品であるのだろうが、それにしても50円分さらにプレミアムが設定されていることになる。

■商品の価値構造と価格構造を分解して考えてみる

この商品がもたらす価値と、その価値がどのように価格に反映されているのかをフレームワークで考えてみたい。フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」を用いる。
その商品を手に入れることで実現したい「中核価値」は、飲料であるので「喉の渇きを癒す」である。これは単なるミネラルウォーターでも実現できるので、100円分の価値と考えよう。
その中核価値を、どのように実現できるのかという価値を「実体価値」という。5種類のフレーバーが楽しめ、不足しがちなビタミンやミネラルなどの栄養素が添加されているため、手軽に摂取できること。さらに保存料・合成甘味料・合成着色料を一切使わず、水も純水使用でカラダに安心して摂取できるということ。つまり、味と機能性と安心感が「実体価値」であり、それは一般の清涼飲料と同じく50円分に相当すると考えられる。合計150円だ。
200円という価格のあと50円分を占めるのが「付随機能」である。付随機能は、それがなくとも「中核価値」に影響は及ぼさないが、存在することでより魅力を高める要素である。
NYのセレブが愛飲していて、カンヌ国際映画祭で併催されたイベントではパリス・ヒルトンやマライア・キャリーが登場したという、セレブ御用達というキーワードに弱い日本人好みの要素がまず挙げられる。商品のパッケージもいかにも洋モノなオシャレな雰囲気を漂わせている。しかし、ちょっとしたユーモアも隠されており、5つのフレーバー各々をテーマにしたショートストーリーが記載されており、楽しい気分を盛り上げる。都内各地で繰り広げられたサンプリングやイベントで話題になり、参加したりサンプルを手にしたりした人がBlogやSNSで書き綴ってさらに話題を盛り上げる。その「流行に乗っている感」も重要だ。つまり、この商品の「付随機能」と50円分のプレミアムは「気分」に由来するところが大きいのがわかる。

■イノベーション論で考えてみる

上記の通り、グラソービタミンウォーターの価値構造と価格のプレミアム部分で重要なのは「気分」に起因するところが大きい。その気分に乗ってサンプルを受け取るだけではなく、200円を払って実際に商品を購入しているのはどんな人々だろうか。
E.M.ロジャースのイノベーション普及論でいうところの「イノベーター(Innovators=革新的採用者)」であろう。しかし、新しいものにすぐ飛びつく「イノベーター(Innovators=革新的採用者)」が採用しただけでは普及は継続しない。そもそも、ロジャースによれば、市場にイノベーターは2.5%しか存在しないとしている。
その価値を正しく理解し採用する層を「アーリーアダプター(Early Adopters=初期採用者)」という。市場に13.5%存在し、自ら情報収集を人への伝達力も強いことから、この層が採用すると、市場全体への浸透が加速するといわれている。
続いて採用する層は「アーリーマジョリティ(Early Majority=前期採用者)」である。比較的慎重派な行動を取るが、平均より早くに新しいものを取り入れる傾向がある。市場全体に34.0%存在するといわれているここまで取り込めれば、市場の半数を抑えたことになる。

■スキミングプライシング:値段を下げて順次ターゲットを拡大する?

新商品の展開において明らかな差別化要因をもってイノベーター層を取り込み、プレミアム価格をもって展開する価格設定を「スキミングプライシング(Skimming Pricing=上澄み吸収価格設定)」という。読んで字の如く、市場の上澄みのオイシイところを吸収し、さっさと投資回収をするのがキモである。しかし、サンプリングやイベントに投下した費用は莫大であり、なかなか回収できるものではない。だとすると、もっとターゲット層を拡大する必要がある。
新商品の価格設定で対極にあるのが「ペネトレーションプライシング(Penetration Pricing=市場浸透価格設定)」である。収支ギリギリの低価格で一気に市場に浸透させシェアを確保することを目的とする手法だ。その場合、最初から収支ギリギリなので価格は下げられない。幅広いターゲットに一気に浸透させてシェアを取ることがキモなのだ。逆にスキミングはターゲットを見極め、普及状況を考慮して段階的に値下げをして裾野を広げていくことができるのである。

■グラソービタミンウォーターの今後の展開

現状、商品を販売しているのは都内の一部スーパーと自販機に限定されているが、8月中にはコンビニエンスストアと自販機の取扱を拡大するようだ。
今はイノベーター層が200円のプレミアム価格で「気分」よく購入している状況。今後は販売チャネルや販売地域を拡大しつつターゲットの裾野を広げていくことが考えられる。すると、前述のように順次値下げも考えられるのだ。
セレブでオシャレで楽しい気分にさせてくれるグラソービタミンウォーター。その気分に消費者が慣れて、ブームも沈静化して、やがてフツーの清涼飲料化するかもしれない。コンビニや自販機にフツーに並ぶ頃、価格もフツーの150円になっているかもしれない。
しかし、その頃にはまた、次なる仕掛けが動き始めているに違いない。そんなことを考えるのも楽しい。しばらくは楽しい気分に乗って200円払って飲んでみるのみいいだろう。

さて、ここまで一気に書き上げて少々疲れてしまった。そんな時には「energy kick トロピカルシトラス ビタミンB6+ガラナ+カフェイン」だ。さて、お味は・・・う~ん、水で薄めたうす~いオレンジジュースの味がする・・・。

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2009.08.20

「デュラムおばさん」はサッポロ一番のプロジェクトXか?

上戸彩がイメージキャラクターを務める「デュラムおばさんのカップパスタ」が発売以来好調な売れ行きを見せているという。その開発の背景を考察してみると、並々ならぬ開発の執念が感じられるのである。

「サンヨー食品」という社名を聞いてどんな会社かすぐに思い浮かばない人も多いかもしれない。しかし、「サッポロ一番」と聞けばすぐに即席麺の代表的ブランドを思い出せるはずだ。
サンヨー食品がサッポロ一番を発売したのは1961年。「サッポロ一番味噌ラーメン」は俳優の藤岡琢也が逝去する2年前まで35年間CMキャラクターを務め、その姿と共に人々の記憶に深く刻まれているに違いない。1975年にカップ麺の「サッポロ一番カップスター」をラインナップに加え、以来、即席麺一筋の商品開発を展開してきている。

いや、正確には「即席麺一筋」ではない。
同社の商品ラインナップを見るとよくわかる。袋麺、カップ麺ともに商品名には全て「サッポロ一番」の名が冠してある。その名は初代社長が全国のラーメンを食べ歩いて札幌ラーメンに感動して付けた名だという。サンヨー食品は「即席麺一筋」である以上に、「サッポロ一番一筋」であるのだ。

その一筋さからすると、今回の「デュラムおばさんのカップパスタ」は異例である。確かにパスタに「サッポロ一番」の名を冠するのはイタダケナイ気はするが、創業以来、サッポロ一番の発売以降は期間限定商品などを除けばその名がついていない商品は存在したことがないからだ。

開発には3~4年を要したという。その頃、2002年2月から始まった景気拡大はまだ継続しており、「いざなぎ景気越え」という声も聞かれていた。しかし、企業業績が労働配分に廻されない、「実感できない好景気」に消費者はランチや外食の価格抑制に動きはじめていたのだ。吉野家やすき家の店頭に人があふれている。コンビニ弁当の売れ行きも向上している。
外部環境は追い風だ。低価格で手軽な新商品ををコンビニなどで展開すれば勝機であると踏んだのだろう。そのためにはサッポロ一番だけでなく、商品の幅が欲しい。新商品を開発して既存の顧客に提供したい。そこからがサンヨー食品のプロジェクトXの始まりであったはずだ。

自社の戦力と顧客ニーズと競合環境に目を向けてみる。
手軽なカップ麺製品であれば、ラーメン類に加え定番のカップ焼きそばが挙げられるが、それは「オタフクソース」とのコラボ製品がある。だとすれば、パスタが狙い目である。
しかし、パスタには当時強敵がいた。日清食品の「スパ王」だ。
1分間湯煎でスピーディーにシコシコ食感の生麺が楽しめるというコンセプトのラーメン「ラ王」が市場に衝撃的なデビューを果たした。その派生商品として登場した「スパ王」も、1995年の登場以来「クセになる味」と根強いファンを持っていた。
生麺で人気のスパ王に対して自社にあるのは即席乾麺の技術。生麺に新たに踏み込むのか、即席乾麺で勝負するのか。議論百出だったのか、意外と結論はすぐに出たのか。

8月19日の日経MJ15面コラム「フーズWho」に「デュラムおばさんのパスタ」開発者インタビューが紹介されている。<「即席麺の分野にパスタを根付かせたい」と意欲を見せる>と語り。開発に際して<既存の生麺を使う商品は、麺の中心にコシが残る「アルデンテ」が実現できず不満を感じていた>という。
つまり、すぐに「自社の即席乾麺に技術でいく!」との意志決定がなされたのではないかと推察できる。

しかし、意志決定してもすぐに実現できるとは限らないのがプロジェクトXだ。
<パスタは、小麦のでんぷん質を高温で「改質」して食べられる状態にする。乾パスタは、この改質を施さないまま乾燥してあるので、沸騰した湯でゆでる必要がある>という。火加減、ゆで加減が命なのである。
そこで、同社の即席乾麺の技術が活きる。
ゆでるのではなく、カップ麺の蒸す技術で改質し乾燥させる。それによって5分という短時間、注いだ熱湯の持つ熱量だけでアルデンテができあがるようにしたのだ。
ほかにもパスタならではの苦労を克服したという。本格派のデュラセム種100%にこだわったが、それはコシが強く固い。ラーメンと異なる蒸し方を工夫した。さらに、パスタには丸麺のスパゲッティー以外に、今回商品化されている平麺のフィットチーネなど、ラーメンと異なる様々な形状がある。乾パスタと同じ高圧押し出し製法を取り入れたという。

既存の即席乾麺の技術をパスタに応用する試行錯誤が3~4年続き、地域限定のテスト販売も成功し、この8月、全国展開が行われた。そこで同社には思いもよらなかったであろう幸運が待っていた。
なぜ、取扱がなくなっているのか理由はわからない。しかし、開発当時、超えなければならないと意識した競合である「スパ王」がコンビニ店頭から姿を消しているのだ。「最近発注画面でも見あたらない」とあるコンビニチェーンの店長は姿を消したスパ王を振返る。
わずかに冷凍のスパ王や、レンジで仕上げるタイプがいくつかのチェーンで確認できるだけであった。
開発の努力を重ねて3~4年。完成した時には、店頭の棚にライバルの姿はなかったというわけだ。そのおかげもあって、各店はいくつものフェイスを提供している。
上市の時期もよかった。夏といえばカップ焼きそば類のフェイスが増える。その中で新発売のカップパスタは珍しく、店としてもついつい、棚を多めに用意したくなるのだろう。

自社の得意技、独自技術を一筋にみがいて、さらにそれに改良を加えて市場の勝機をモノにする。サンヨー食品のプロジェクトX、「デュラムおばさんのカップパスタ」に敬意を表しつつ、その姿に学びたいと思った。


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2009.08.18

お見事!ファミマの「朝食に中華まん」のオススメ!!

ファミリーマートが“朝限定”で中華まんを割引きする「ファミマの朝割」を全国7500店にて2週間実施するという。

<ファミマが中華まんの“朝限定割引”を実施!(東京ウォーカー)>
http://news.walkerplus.com/2009/0814/16/

かつては中華まんの蒸しケースを見かけると「ああ、秋も深まったなぁ」などと感傷に浸ったものであるが、中華まんの登場シーズンはどんどん早まり、ついに夏真っ盛りのお盆には、コンビニ各店のレジ横に鎮座ましますようになった。
地球温暖化防止が叫ばれ、冷房温度の高め設定が励行されているとはいえ、冷房完備の環境が整っている今日、季節感の喪失は否めない。しかし、季節商品の需要期前倒しは年間の販売数を底上げする効果が如実に表れるため、各社こぞって早めの参戦を打ち出すのは商売としては理に叶っている。

季節を前倒しする需要創造に加え、今回は「時間」を前倒しする打ち手をファミリーマートは考えた。
コンビニで購入する朝食の定番メニューといえば、サンドイッチかおにぎりか。しかし、朝から「中華まん」を食べようとは通常あまり思わないだろう。
炭水化物に包まれて中央に具となる食材が詰まっているという構造は、考えてみればサンドイッチやおにぎりと何ら変わらない。それを購入して、冷房の効いたオフィスで「ソトアサ」ならぬ「席アサ」をするなら、むしろ暖かい食物が摂れるのはありがたい気もする。
しかし、今までそれをやらなかったのは個人の習慣であり、社会の慣習だ。
習慣・慣習を打破して、中華まんの朝需要を創造することがこの取り組みの主眼である。

需要価格設定(demand pricing)という。
セグメントごとに、価格を変化させ利益を最大化させる価格設定手法である。対象となるセグメントは顧客セグメントや場所、そして時間などが代表的だ。一般客に対するVIP顧客優待、S席・A席・B席の価格差、飛行機の早割などがその例だ。
そして今回は通常、中華まんの需要が少ない朝の時間帯を、通常価格105円を95円にしている。各社がこぞって割引で提供している100円おにぎりよりさらに安いというわけだ。

東京ウォーカーの記事によれば、ファミリーマートは過去にも時間帯別需要価格設定を行った例がある。
<2008年10月からフライドフードの夜間限定割引企画を実施し>したという。夜の脂ものは絶対に避けたいところ。しかし、晩酌のつまみに乾き物だけでは味気ない。そこにアツアツのフライドポテトや唐揚げが割引価格で提供されている。何という悪魔の誘惑。

夜の脂ものに比べれば、朝の中華まんはありがたい存在だろう。不況の折、前日の深酒の機会も減少し、朝時間の有効活用の気運も高まっている。しかし、お店で食べるソトアサよりも費用抑制のため席アサ需要の方が今後ますます高まるだろう。そこに狙いを絞っているわけだ。

ファミリーマートの中華まん割引にはもう一つシカケがある。
朝割引の中華まんは、肉まん、ピザまん、カレーまん、つぶあんまん、こしあんまんの5種類だが、<肉まんをのぞく4種類は2009年の新バージョンのもの>だという。つまり、人気の肉まんのみ2008年バージョンである。そして、<肉まんは消費が本格化する9月以降、順次新作と替えていく予定>だという。
これはティザー(teaser:じらし)効果を狙った戦略であろう。朝に中華まんを食べる習慣を付けさせ、さらに、キャンペーン終了後に、「肉まんの新作が出ますよ~」という寸法。そして、購入の継続化を図るのだ。

夏のさなかまで販売期間を前倒しして購入機会を増やし、時間限定で需要を創造し、さらに新作の発売期間をあえて後ろ倒しにして購買を継続化させる。
マーケティングの4P(製品戦略=Product・価格戦略=Price・チャネル戦略=Place・コミュニケーション戦略=Promotion)はモレ抜けダブリがない要素に見えるが、実は「時間」の概念が含まれていない。ファミリーマートの中華まん戦略は、小さな取り組みであるが、「時間軸」で考えている見事な戦略である。

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2009.08.13

ユニクロ無敵伝説が完成・「+J」で問いかける新しい価値

今年3月17日、ファーストリテイリングがデザイナーのジル・サンダーとの契約を発表し、ファッション界に激震が走った。「JIL SANDER」ブランド辞任後の彼女の動向が注目されていた中、コンサルティング会社「JS CONSULTING社」を立ち上げての契約であった。その独自のコレクション「+J(プラスジェイ)」がいよいよ姿を現した。

実に22年ぶりにメンズノンノを買った。この秋冬のワードローブをチェックしようということではない。特集記事「ユニクロ×Ms.ジル・サンダーが、世界を変える」をチェックしたかったからだ。
「世界を変える」なんて大げさな・・・と思っていたが、少なくともユニクロは大変身する。いや、世間のファッションの価値観も大転換するかもしれない。

6ページ、6パターンの着こなしが紹介されていたが、洗練されて繊細、かつ上質でミニマルなデザインは間違いなくジル・サンダーの手によるもの。「design without decorathion(装飾のなきデザイン)」のコンセプト通りである。

ジル・サンダーブランドは99年にプラダグループに買収されたが、素材の品実に対する考えの対立でジルが辞任。03年に復帰するも、翌年再び不調和で辞任している。
「品質へのこだわり」という点では恐らく、ファーストリテイリングとの契約は最も正しい選択肢であったといえるだろう。ユニクロがロードサイド店として展開していた時代の認識のままの人にはオカシナ話に聞こえるかもしれないが、現在のユニクロの品質へのこだわりは凄まじい。大手アパレルメーカー幹部も品質だけで勝負したら負けると漏らしていた。
そこにジル・サンダーのデザインである。

2008年に「JIL SANDER」ブランドはオンワード傘下となっており、その名前は使えないため「+J」というブランドが今回立ち上げられた。
そのブランドネームが記された製品タグには「Open the Future」と記された、ジル・サンダーからのメッセージが寄せられている。メンズノンノの記事から引用する。
「私が考える服とは、誰にとっても快適で美しく、高価ではなくてもシンプルさの中に贅沢さが存在するものです。私にとって高品質と低価格の両立、つまりあらゆる人々に高品質なファッションを提供することは新しいチャレンジです」。
まさしく、これこそが「+J」ブランドのコンセプトであり、両社の契約の意義であるといえよう。

雑誌に紹介されたラインナップは、ジャケット類(ミリタリージャケット、ダウン、ピークドラペル)・12,900円、 ニット・12,900円、カーディガン・14,900円、シャツ・3,990円、パンツ類(スラックス、ジーンズ)・4,990円、カットソー・1,990円といったところ。
従来のユニクロのラインナップと比べれば少々高価格帯ということにはなるだろう。また、昨今、ユニクロは確かに品質も上がったが値段も高くなったとの声も聞こえる。
しかし、それには柳井会長は既に答えを出している。990円ジーンズで一気に知名度が向上し、日経MJの2009年度上期ヒット商品番付入りもした「g.u.(ジーユー)」。3月10日の990円ジーンズ発表の記者会見で、柳井会長は次のように述べた。
「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」。

価格と価値の正比例した関係を「バリューライン」と呼び、市場の相場はその上に形成されていく。そして、そのバリューラインを上回る価値を提供できたものが顧客の支持を集めることができるのだ。
「まあまあの品質で低価格のもの」つまり、「品質」×「価値」の軸で考えた時の「グッドバリュー戦略」のポジションをg.u.は目指している。ユニクロは最高品質で低価格の「スーパーバリュー戦略」のポジションを目指していたが、g.u.との棲み分けで最高品質で中価格の「高価値戦略」のポジションに切り替え、収益確保を図ったと考えられる。

しかし、ユニクロの「価値」の軸を考えてみると、実は依然「スーパーバリュー」のポジションにいるのではないかとも考えられる。ユニクロが提供するものは、ただの高品質だけではない。低廉な価格にもかかわらず、ヒートテックやドライ製品など高機能生も提供している。
加えて今回の「+J」の展開でユニクロの価値は一気に高まったのだ。単品で15,000円以下という衝撃のプライスでジル・サンダーのデザインが手に入るのだ。これを「スーパーバリュー」と言わずして何と呼べばいいのか。

それでも価格にこだわる層はg.u.で囲い込んで、品質・機能・デザインという価値を、その価値からすれば最低価格で提供するという、ファッションの価値観を大きく塗り替えるチャレンジをユニクロとジル・サンダーは始めたのである。
もはや、向かうところ敵なしの状態で、ファーストリテイリングは2010年売上高 1兆円の目標に向かって突き進んでいる。


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2009.08.12

セミナー「顧客を動かすインタビュー式営業術」

「マーケティングとは販売の必要性をなくすことだ」とピーター・ドラッガーは説いた。
そのココロは、「とにかく売込み、無理な値引き、無駄な広告をせずとも、顧客の望むものを提供すればおのずとモノは売れていく」ということである。

では、どうしたら顧客の望むものは何なのかが理解できるのであろうか。
「聴き込む」のである。
売れるか売れないか。それは、派手なプレゼンでも、饒舌な話法でもない。
とにかく「聴き込む」のだ。

では、どうしたら顧客は話してくれるのか?

セミナー開催のお知らせをしたい。

無理矢理な[売り込み]は× 顧客が喜ぶ[聴き込み]は○
〜顧客を動かすインタビュー式営業術〜

講師は筆者も寄稿しているインサイトナウ(https://www.insightnow.jp/)の仲間である竹林篤実氏。
氏は筆者の認識では根っからの営業マンではない。むしろクリエイターだ。現在はライティング生業としている。人柄もどちらかといえば朴訥とした感があり、間違っても饒舌ではない。しかし、その得意技は「インタビュー」である。
インタビュー記事を得意として著名人から市井の人々まで500人以上にわたるインタビューを繰り返しその技を磨いたという。そして、その技は『顧客を動かす!インタビュー式営業術』(ソシム社)という書籍に結実している。

「インタビュー式営業術」を学ぶセミナーであるが、特筆すべきは特に「BtoBマーケティングにおいて高収益をあげるための営業術」にフォーカスしているということだ。
個人相手のセールスであれば、「何となく」や「情に流されて」といった販売も可能である。しかし、BtoBの営業は顧客に明確に価値を評価されなければ完結しない。その顧客の評価してくれる「価値」とは何かを探り出すのが「インタビュー式営業術」なのだ。

■日時:2009/09/08(火) 18:30-20:30 【受付中】
■場所:銀座フェニックスプラザ(中央区銀座3-9-11 紙パルプ会館)
■受講料:5,000円(書籍『顧客を動かす!インタビュー式営業術』付き)

セミナー詳細と申し込みは下記のページから是非。
https://www.insightnow.jp/applications/id/71


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日本マクドナルドの恐るべきバランス感覚

日本マクドナルドが過去の人気レギュラー商品や期間限定商品を3ヵ月期間限定で販売するという。その狙いは何だろうか。

3ヶ月継続のキャンペーンは「NIPPON ALL STARS」と銘打たれており、過去の人気日本オリジナルメニューである、「たまごダブルマック」、「月見バーガー」、「チキンタツタ」、「グラコロ」を順次展開していくという。

注目はナゾの米国人男性「Mr.ジェームス」をCMキャラクターに仕立てたキャンペーン告知CMである。いかにもイケテナイ米国人中年男性という風貌のキャラクター設定は、「かつて留学で日本を訪れたのをきっかけに日本が大のお気に入り。おいしいものを食べて、幸せな気分になるとついつい「タマランデス」と言ってしまうのが口癖」だという。
Web限定の「Mr.ジェームス アメリカでの、ニホンゴ スタディムービー !!」も実にユニークで、どこかオカシナ日本語を一生懸命練習するキャラクターが描かれているのだ。
Mr.ジェームスはテレビやWebの中だけで活躍するのではない。日本全国のマクドナルド各店舗や観光名所に出没して、その様子をブログに綴るという。

「NIPPON ALL STARS」メニューやMr.ジェームスの発するメッセージは何だろうか。
それは、「タマランデス」というほど、「日本はスバラシイ!」「日本オリジナルメニューはオイシイ!」ということだろう。そこに隠された意図は日本マクドナルドの微妙なポジショニング調整だと考えられる。

「日本のハンバーガーよ、もう遊びは終わりだ」と強力なメッセージで米国から上陸してきたクォーターパウンダー。CMでは北島康介のビッグマウスも炸裂した。強力なアメリカナイズである。安室奈美恵をキャラクターに仕立て、現在も「バラ色でいくぜ!」とキャンペーン継続中の「日本バラ色計画」で、より多くのファンを抱えるに至った。
しかし、ファンを抱えるということは一方でアンチを生む。また、あまりにも強力なアメリカナイズや、「いくぜ!」的な勢い、クォーターパウンダーのボリューム感についてこられない層も存在する。

例えば、中高年層。ファストフードの顧客層はつい、「若者」と考えがちであるが、日本マクドナルドが銀座に第1号店を構えたのが1971年。70年代、80年代の若者は今ではすっかり中高年。ランチタイムにハンバーガーをほおばる中年サラリーマンや、朝のひとときにコーヒーをすする老人など、昨今ではマクドナルド店舗で見慣れた風景になっている。

そんな顧客層にとっては、圧倒的なボリュームのクォーターパウンダーは少々荷が重い。また、あまりに勢いがよかったり、アメリカナイズされすぎは、自分たちが育った「日本のマクドナルド」と違う感じを覚えてしまう。
そこで、日本オリジナルメニューを連投し、懐かしくも自分たちにピッタリのメニューに安心感を与え、さらに謎のアメリカ人に「タマランデス」と日本讃辞をさせる。

女性客や家族連れにも「NIPPON ALL STARS」メニューはがっつり系ではないので、ちょっとやさしい。メニューは90年代前半から2000年代前半までの人気メニューでやはり若き日の想い出をかぶらす人も多いだろう。家族でのランチなどでは子供に勧めることもあるだろう。
高額商品であるクォーターパウンダーでマクドナルドの客単価は向上した。今度は客数を増やすことがテーマである。話題のコーヒー0円キャンペーンもそこに意図がある。その意味からすると、幅広いメニューで、幅広い顧客層を集客することが欠かせないのである。

「NIPPON ALL STARS」は自社の顧客層とその心理を巧みに読み取って、若者とアメリカ流、そしてがっつり系に行きすぎたポジショニングを微妙に修正しようとする、日本マクドナルドの巧みな戦略であるのだ。

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2009.08.11

売れない時代の生き残り策・100円ショップとタクシー業界

自らが属する業界が成熟化し、過当競争が激しくなってきたとしたら、どのような生き残り策を考えるだろうか。その好例が8月10日の日経MJ一面に二つ並んでいた。100円ショップとタクシー。共に苦境に立たされている業界である。

2000年頃、「こんなものまで100円で買える!」という消費者の新鮮な驚きを集め急成長した「100円ショップ業界」。不動のトップはダイソーだが、第2位が逆転。3位だったセリアがキャンドゥを抜いたのだ。
しかし、業界環境は芳しくない。雨後の竹の子の如く後発の進出が相次ぎ過当競争が起きた。やがて消費者が新鮮さを覚えなくなり、その後の不景気で財布の紐を引き締めた。一時期ほどではないものの主力製品である石油製品や金属の原材料費は高止まりしている。スーパーに並ぶ安価なPB品も代替品として大きな脅威となっている。・・・と、明らかにオイシクナイ業界に変貌してしまっているのだ。

オイシクナイ状況を変革しようと各社は価格改定のチャレンジに踏み切った。100円ワンプライスではなく、300円、500円、1000円などの価格帯も取り入れたのだ。
しかし、価格を多様化するということは、「100円ショップ業界」から、より広汎な「雑貨業界」への転換を意味する。狭い業界から広い業界へと転換すれば、より数多い競合と戦うことになり、取扱商品に対する消費者の比較眼も厳しくなることを意味している。
売上げ第1位のダイソーは、100円以上の商品取り扱いに踏み切る一方、より加速しているのが海外進出である。1000ウォン(約60円)ショップとして大好評の韓国をはじめ、22の国と地域に展開しているのだ。しかし、海外進出は業界でダントツの地位を占めるダイソーを運営する大創産業ほど体力のある企業でなければ容易なことではない。

上記の100円以上の価格の商品展開と、海外進出を成長戦略の分類で考えてみる。
既存の顧客を対象として展開するのか、新規の顧客を対象とするのか。既存の製品で勝負をするのか、新商品を投入するのかという要素を掛け合わせると、4つのパターンができあがる。経済学者のイゴール・アンゾフが提唱した「アンゾフのマトリックス」である。

100円以上の商品を既存の顧客に提供するのは、「新商品開発」という展開だ。
一方、既存の100円商品を新しい国や地域の消費者に提供するのは「新市場開拓」という展開である。
経営学者のマイケル・ポーターの検証によると上記の展開における「新製品開発」は成功確率45%。「新市場開拓」は35%とされている。いかに新たな顧客を確保することが難しいかということと、闇雲に新商品を開発しても必ずうまくいくものではないという示唆と考えることができるだろう。

では、成功確率が高いパターンは何なのか。それは、既存の顧客に、既存の製品を提供する「市場浸透」と呼ばれるパターンである。ポーターによれば成功確率75%だという。
100円ショップ業界では、第2位に躍進し、日経MJの記事に取り上げられているセリアの展開が「市場浸透」である。
同社は100円商品にこだわり、取扱商品を厳選し、店舗設計や陳列方法に工夫をこらし、とても100円ショップには見えないオシャレな「カラーザデイズ」というショップを展開して多数の顧客から支持を集めているのである。

セリアの展開は「市場浸透」であるが、業界定義を考えてみると、必ずしも従来型の100円ショップ業界で戦っているとはいえない。競合各社が100円をあきらめ、広汎な「雑貨業界」に進出したのに対し、同社はより業界定義を狭め「オシャレ100円雑貨業界」という業界を創出して、魅力を高めたのである。

もう一つの記事、「マーケット仕掛け人」で取り上げられているタクシーのANZENグループの展開も示唆に富んでいる。タクシー業界は2002年のタクシー規制緩和によって増車が容易になったことと、同時期のデフレ不況から続く経済の低迷による需要減で明らかな供給過剰となっている。そんな環境下における同社の生き残り策も「市場浸透」である。
病院の順番取り、買い物の代行、子供の送迎など乗務員がタクシー運行にプラスアルファして提供するサービスメニューを8種取りそろえたという。「流しを拾う」という、いわば一期一会が都市部での利用形態であるが、それを「顧客を囲い込む」という発想に転換したのである。
タクシーは運送業であるが、同社は業界定義を「タクシー救護事業」と位置づけているとのことである。自らの属する業界がオイシクナイ業界になってしまったら、積極的に業界定義を転換することが重要なのだ。輸送業であると同時にサービス業であるタクシー事業のサービスの側面を伸長させた展開なのである。

不景気を嘆き、漫然と営業していても何の解決にもならない。環境の変化に合わせ、顧客のニーズをとらえ、事業を変化させて顧客を囲い込むことの重要さを2つの記事が教えてくれている。

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2009.08.07

キムタクのイキパン今年も登場・ガムはやっぱり気分で売れ!

明治製菓のガム「キシリッシュ」。
CMでイメージキャラクターの木村拓哉が「今年も?」と困惑の表情を見せつつも、今年も8月4日からキャンペーンが始まった。題して「イキパン2」。
ド派手なパンツが、メンズ、レディースとも30種が1,000名に当る。パンツはRay、Fineなどのファッション誌や東京ガールズコレクションなどとのコラボ作品もあり、とってもオシャレ。
と、ここまでは昨年通りだが、今年は夫婦イラストレーターユニット・山根 Yuriko 茂樹や、ファッション界の大御所・山本寛斎までを担ぎ出し、さらにパワーアップの様相を呈している。

キシリッシュといえば、今年、製品仕様の変更を行ったばかりだ。「TASTE LONG!!おいしさ、長持ち!!」として、一粒の味が長持ちするという「お得感」を全面に打ち出したのだ。財布の紐が固くなった消費者の購買心理に迅速に対応した結果だといえるだろう。
キシリッシュは消費者ニーズに合わせて、今までにも何度も機能強化を繰り返してきた歴史がある。キシリトール配合で、虫歯になりにくくするという基本性能はもはや昨今のガムではアタリマエ。メインメッセージを「息がキレイになる」とし、その機能を強化した。そして、それが長続きするという機能強化に至ったのだ。

一方で今年はガム市場に一つのエポックなデキゴトがあった。
日経MJのヒット商品番付にも取り上げられた大ヒット・ガムのロッテの「フィッツ」。フィッツには虫歯予防も口臭予防も、何の機能もない。ただ、若者の「何か、ガムって固くね?」という、ニーズギャップに応えたのである。
キャッチコピーは「噛むとフニャン」。若者好みのやわらかな触感にこだわった製品を作ったというわけだ。CMは佐々木希と佐藤健の「フニャフニャダンス」が楽しさを盛り上げ大人気となった。
若者はガムには機能を求めていなかった。楽しい気分を演出するという役割が求められていた。フィッツは見事に、その潜在ニーズを顕在化させ、ガムとしては未曾有の売上げを記録している。

キシリッシュは機能満載だ。しかし、若者の関心はそこにはない。そこでこのキャンペーンが俄然、意味を持ってくる。
「息」と「イキ(粋)」の掛詞はコドモではなく、ちょっとオトナな遊びゴコロを演出する。
「吐息」は異性をやんわり意識したエチケットの提案。「下着」は 堂々とモロに異性を意識するファッションの提案。
恋が熱く燃え上がる真夏から、愛が深まる晩秋11月末までのキャンペーン期間中、「イキパン」が当るか当らぬか、恋が実るか深まるかとのドキドキワクワクが相まって楽しさを演出してくれる。「キシリッシュは機能だけではないですよ~。楽しい人生のお供ですよ~」というメッセージが伝わってくる。

製品そのものを根本的に変えることは容易ではない。やわらかフニャンに追随しては、キシリッシュの噛み心地が気に入っている既存顧客からの支持を失いかねない。しかし、若者層は失いたくない。故に、そこにターゲットを絞ってジャストミートするキャンペーンを展開しようという狙いなのだろう。

購入して製品に記載された数字をインターネットで入力すれば、即時に当選が判別できるしくみは確実に販売数を押し上げることが期待できる。
若者ならぬ筆者も、山本寛斎コラボレーションの赤いパンツに一目惚れだ。ターゲット以外の周辺需要も拾えるということなのだろう。
さて、当るか当らぬか。応募ボタンをポチッっと・・・。

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2009.08.06

マンガとAKB48で若者を誘う文庫本のチャレンジ

「恥の多い生涯を送ってきました」。
冒頭から共感を禁じ得ない、太宰治の自伝的作品、「人間失格」。だが、その一文も本を手に取って、ページを開かねば目にすることはない。
生誕百周年で、にわかに太宰ブームが起きている今日とはいえ、文庫本コーナーの書棚の奥に鎮座していたら、どれほどの人が手に取っただろうか。

2007年夏から29万7,000部の販売数である。
若い世代に名作小説をアピールしようとする、集英社の夏の文庫フェア「ナツイチ」の企画で、人気マンガ「デスノート」の小畑健が表紙を描いた「人間失格」は、各書店で入り口付近のコーナーで平積みされ、多くの若者が手に取り購入した。
2008年には「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦が川端康成の「伊豆の踊子」の表紙を手がけ、13万7,000部を販売したという。この夏は「ブリーチ」の久保帯人が芥川龍之介の「地獄変」と坂口安吾の「堕落論」の表紙を手がけ、同じく書店に平積みされている。

永遠に読み続けられるべき文学の名作ではある。
しかし、プロダクトライフサイクルから見れば、通常の商品であれば、とうに衰退期を迎えている。市場から撤退させないのは細々と版を重ねてきた出版社と、ほんの1冊でも書棚に収納し返本しなかった書店の努力のたまものだといっていいだろう。
30万部近い大ヒットは、今まで我慢を続けた上で、若者こそ文学の名作を読むべきであると考えた出版社のチャレンジが奏功したのだといえるだろう。

当然のことながら、書籍の中味には改訂は加えられていない。表紙を人気漫画家のイラストにしただけなのだが、マーケティング的に見れば、単なる表紙変更以上の意味合いがある。
Productの一部変更である表紙をの改定は、それによって新しさが出て、文庫の棚ではなく平積みコーナーに商品を置かれる効果がある。つまりPlaceも変更されることになる。
有名な文学作品は、あらためて広告などはしにくい商品であるが、マンガイラストへの表紙改定によって、車内吊り広告などで大規模に告知する機会ができた。話題になり、メディアにも取り上げられた。Promotion効果も十分発揮できたのである。つまり、「マーケティングの4P」のうちPrice以外の3つをテコ入れできたがわけだ。
効果的な4Pを設計するためには、その手前のターゲティングを明確にすることが求められる。集英社の文庫はターゲットを若者に絞ったことで、効果的な展開ができたということなのである。

文学作品に新しい表紙を用いたのは、マンガばかりではない。ぶんか社の「夏の三冊」と銘打って、「ぶんか社文庫」の名作シリーズにアイドルグループAKB48を今年初めて起用した。
AKB48のメンバーの前田敦子、小野恵令奈、大島優子が各々、太宰治の「人間失格」、堀辰雄の「風立ちぬ」、夏目漱石の「坊っちゃん」の表紙を飾っている。
ぶんか社文庫はさらに表紙だけでなく、ProductとPriceにも大きく手を入れている。
文庫の文字を大きくし、行間を広めにして、読みやすくした。さらにアイドルの写真を使ったり、紙を変更したことで500円と文庫にしては割高になったが、ターゲットが買いやすい「ワンコイン」の設定にしたという。
文学作品としては初版1万5,000部と勝負に出たが、太宰ブームも相まって、「人間失格」は2週間で重版が決定したとメディアが報じていた。

マンガイラストやアイドルの写真の表紙は、文学作品としてふさわしくないという批判もネットなどで散見される。確かに、通常、文学作品などではあまり表紙に強いイメージを持たせすぎると読み手にバイアスを与えることになるため避ける傾向にあるのも事実だ。
しかし、せっかくの素晴らしい文学作品も、読む人がいなければ、その価値が輝くこともない。人生の輝ける時期を生きている若者にこそ、読んで欲しいという出版社の思いも十分理解できる。

誰もが認知しているが、あえて購入するまでの理由を提示できないような商品は、文学作品の文庫本に限らない。黙っていても売れない商品を、ターゲットを絞って、その関心を喚起する工夫をしてヒットさせる。文庫本のチャレンジから学ぶところは大きいはずだ。

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2009.08.05

人生はバック転だ!・・・のビジネスモデル

ちょっとしたことで、人生は変わるのかも知れない。いや、人生は変わらなくても、生きていくキモチが変わるかも知れない。ちょっとした隠し味があれば。

『オレ、山田伸一(仮名)。ふと気付けば40歳過ぎていて、お腹も最近少しメタボ気味。
だけど、実はオレ、「バック転」できるんだもんね。仮面ライダーやゴレンジャーみたいに。
ちょっと生意気になってきた息子も、バック転を見せてやれば目を輝かせて「お父さんスゴ~イ!」と言ってくれる。この間、社員旅行の宴会の大広間でちょっとやってみたら、職場のみんなも本気でビックリしていた。いい気分だ。』

全国にそんな山田伸一(仮名)のように、人生の隠し味を求めている人は数多いだろう。
平成の世にも綿々と続くオトコの子のあこがれ、「仮面ライダー」の放映が開始されたのは1971年4月。「秘密戦隊もの」の草分け、「ゴレンジャー」は1975年4月の放映開始だ。
少年たちはヒーローの武器や必殺技に固唾をのんでテレビを見守ったが、ドラマの中で欠かせないのがその体術である。バック転や宙返りで軽やかに宙を舞うヒーローはあこがれの的だった。
そんな少年たちもオトナになり、通勤列車に揺られ、アスファルトで靴底をすり減らして暮らす。あこがれは記憶の奥底に深く沈んだままになる。

そんな記憶を、「誰でもバック転、できますよ!」と強烈に呼び覚ましたのが、アクションスタジオ「つばさ基地( http://www.tsubasa-kichi.net/index.html )」である。
日経MJ8月3日号「TREND BOX」に紹介された「バック転だけをひたすら練習するマニアックなスクール」。<幼少期に見たマンガや特撮テレビドラマの影響で、バック転に密かにあこがれる大人が多いことに目をつけた>という。
アクション女優・秋本つばさが主催する同スタジオには、<アクション・アクロバット・ダンス・カラダ作り・エクササイズ・リラックス系まで18種類51のクラス>があるというが、バック転ができるようになることに特化した「バック転クラス」は目下、人気ナンバー1クラスだという。
このクラスの売りは、何といっても「体験クラス」で、スタッフのサポートを受けつつ、その1回のクラスでバック転の「疑似体験」ができるということ。

大人の習い事はブームである。そして、そのポイントは「手っ取り早く希望を叶えてくれること」にある。
例えばピアノ。子供なら「エリーゼのためにを弾きた~い」といっても、「基本が大事!」と、延々と「バイエル」を50~60番ぐらいまで練習することになる。
オトナ向けの教室は「戦場のメリークリスマスが弾きたい!」といえば、時間はかかっても、そこに向けた挑戦をさせてくれる。

「バック転」のさらにいい所は、「時間はかかっても」というイメージを払拭してくれることだ。「スタッフのサポートで、疑似体験はすぐにできる」と聞けば、「逆上がりみたいなものか!」とイメージがしやすい。きっかけを覚えれば、習得に時間はかからないだろうと思えるのだ。
この、「できる感」。顧客の潜在ニーズを引き出し、それに対して、「すぐに成果が出る」と理解させることは全てのビジネスにとって重要なポイントであるといっていい。

しかし、カンタンにできてしまってはビジネスにならないだろう、と思うとそうではない。
疑似体験の後、一人でバック転ができるようになるための<バック転の習得を目標にした身体づくりを行うクラスです>が用意されている。
最初から「体づくり」といわれれば、なかなかやる気は出ないが、一度成功体験を味わっているので、ハードルは低くなる。うまいシカケだ。
さらに、バック転をマスターすれば、<バック転・側転や前方転回・倒立などの基本的なアクロバット技を習得し、ロンダートからの連続技や前方・側方・後方宙返りなどの発展技を目標にがんばるクラス>もある。さらに、バック転より、さらにあこがれの「宙返り」クラスもある。
アップセリング。顧客に同種の商品の買い換え、買い増しを勧めること。
一つ習得すれば、その快感がクセになり、また次を習得したくなる。そして、まさに、幼き日のあこがれであるライダーの体術そのものが身に付けることができるという仕掛けだ。

一方、関連商品のお勧めは「クロスセリング」という。
カラダを動かす快感に目覚めたなら<なつかしのマット運動から高度な連続技まで>を習得できるというクラスで、「おとなの体操教室」を楽しむもよし、<アクションや演舞等で使えるデモンストレーションキック(蹴り技)専門クラス>というキック専門クラスで「ライダーキック」に磨きをかけるもよし。
さらに、趣旨を変えてダンスにチャレンジしたり、本格的に体づくりをしたりという展開もある。同スタジオは「18種類51のクラス」という豊富なメニュー、多彩な講師陣でクロスセリングのビジネスモデルを強力に固めているのだ。

見込み客の潜在ニーズを掘り起こし、そのニーズが簡便に充足できると提案し、まずは成功体験を提供する。顧客化した後には、アップセリング、クロスセリングで囲い込みを図り、ビジネスを重層化させていく。

「バック転できますよ!」というビジネスモデルは、しっかりと強固であり、学ぶところが大きいのである。

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2009.08.04

「宮﨑あおい」の全方位戦略・一眼デジカメ「オリンパス ペン」

モノクロームのスローモーション映像の中、宮﨑あおいがカメラを構えて微笑む。オリンパスのデジタル一眼カメラ「オリンパス ペン EP-1」のCM。現在テレビに大量投下中だ。デジタルカメラとして復活した往年の名機「ペン」の戦略はどんなものだろうか?

「オリンパス ペン」というカメラの名前にノスタルジーを覚えるのは、中高年のカメラマニアだ。「Since1959」とCMのコピーにもあるように、初登場は1959年、高度成長期前期である。当時のカメラは高価なライカが憧れの的であったが、その40分の1、6,000円という価格を実現。さらにまだまだフィルムが高かったため、35ミリフィルムの1枚のサイズの中に2枚撮影できる「ハーフサイズ」を確立した画期的なカメラであったのだ。
その後も様々な改良が重ねられ、1963年には世界初、世界唯一のハーフサイズの一眼カメラとしてリニューアルした。それが今回のデジタルカメラ化されたペンのコンセプトとなっているのだ。

上記の通り、中高年にとっては思い出深いカメラで、一度は手に取った人も多いはずだ。40代の筆者がカメラ少年だったとき、まだ中古機が多く出回っており、それを愛機としていた仲間も多かった。まず、今回のターゲットの一つはその層であることは間違いない。

イメージキャラクターとして宮﨑あおいを起用しているのが絶妙だといえる。
宮﨑あおいの趣味が写真であることを知るファンは多い。兄で俳優の宮崎将と、世界の経済格差問題を描いたフォトエッセー「たりないピース」、環境問題を描いた「Love,Peace & Green たりないピース2」を記すなど活動も本格的だ。2007年~2008年にオリンパスのデジタル一眼カメラE-410/510にも起用されているのでその流れであるが、実際に写真活動を行っている女優が推奨するという演出はにくい限りである。

宮﨑あおいは4歳の子役からのデビューであるが、2005年、社会現象を引き起こした大ヒット映画「NANA」の主演で一気に注目を集めた。2006年、NHKテレビ小説「純情きらり」の出演で家庭にも広く顔が知れ渡り、翌2007年、大河ドラマ「篤姫」の主演によって誰もが彼女を知ることとなる。

そんな彼女のファン層は幅広いことが特徴だ。
テレビ小説、大河ドラマでの高い認知で中高年にも好感度を得ており、その一部は往年のオリンパス ペンファンともかぶる。
家庭によく知られた顔で、実は写真の腕もなかなか。そんな彼女の推奨するデジタルになった「ペンEP-1」をもう一度手にしてみませんか、というメッセージが伝わってくる。

一方、女性の支持も高い。女性向けマンガが原作の「NANA」の主演だけでなく、「篤姫」の役どころは多くの女性の共感を得た。
女性をターゲットとした時、「ペン」のスペックはさらにピッタリとマッチする。「ペン EP-1」はレンズ交換型デジタルカメラとしては世界最小・最軽量である。しかも、初心者にも使いやすい直感的な操作を実現しているのだ。女性向けデジタル一眼カメラとしてはパナソニックの「LUMIX G1」シリーズが先行しているが、そのサイズより大幅に小さく軽い。また、ボディーカラーのホワイトは明らかに女性向けであると考えられる。

通常、女性と中高年を中心とした男性という、相反する2つの層を狙ったターゲティングはあまり例がない。双方のKBF(Key Buying Factor=購入要因)が異なるからだ。
例えば、カメラで考えれば、男性なら「本格的な性能」「信頼のブランド」「写りの良さ」「ステータス」などであろう。女性なら「使いやすさ」「軽くて小さい」「みんなが使っている」「可愛くてオシャレ」などとなるだろう。その結果、両者向けのプロダクトは別々に設計されることとなる。

「ペンEP-1」はその両者を一気に狙う全方位戦略をとっているのが特徴だ。そしてそれを可能にしているのが、そのスペックと来歴。そして、キャラクターの宮﨑あおいなのである。
小さいけれど本格派。それは高度成長期のスター「オリンパス ペン」が確立したポジショニングそのものだ。それをデジタル化したのが「EP-1」となれば、男性ターゲットの納得感は高い。
一方、最新の技術で誰にでも使いやすくなっており、特徴である軽量・コンパクトさは、女性にも受け入れられる。オシャレなボディーカラーも設定した。
イメージキャラクターを務めるのは、男女問わない人気を誇る、写真をよくわかっている女優。そんな彼女は各々のターゲットに対して満足は間違いないというエンドーサー(endorser=保証人)として機能する。

選択と集中という言葉がある。また、モノをきちんと売りたければ、ターゲットをしっかりと絞り込むのは鉄則だ。「二兎を追う者は一兎をも得ず」という故事来歴は誰もが知っている。しかし、それらは絶対の法則ではない。ターゲットのKBFにマッチした要素が確立できれば、全方位戦略や二面作戦を敢行すべきであるだろう。

現在、大量に投下されている宮﨑あおいのCMが、いかに効果を発揮して、その戦略があたるのか。「オリンパス ペン EP-1」の売れ行きを見守ってみたい。
但し、筆者は他社の一眼デジタルカメラを購入してしまったばかりなので、EP-1をついつい、衝動買いしないように自制しながらではあるが。

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2009.08.03

ケータイはどう進化するのか?

携帯ショップ運営会社が実施したアンケート調査「携帯電話の現在・未来」の結果から、ユーザーの求めるケータイの進化のカタチを考察する。

調査を行った携帯電話販売と通信サービスを提供するネプロジャパンは、「調査会社とは違った視点」にこだわり、携帯コアユーザーの生の声を定期的にレポート発信している。今回のレポートは「携帯電話の現在・未来」として、ユーザーの携帯電話に対する満足度や要望を明らかにした。
<レポートPDF> http://files.nepro.jp/jp/mobile/pdf/72.pdf

レポート中で注目すべきは、<(実現性は別として)次のうち最も魅力的な携帯電話は何ですか?>という項目。「落としても壊れない携帯電話(34%)」、「自分でデザイン・設計できる携帯電話(20%)」「同時通訳してくれる携帯電話(18%)」という選択項目が上位となった。他に自由回答としては、「パソコン並の大容量を使ったり送受信したり出来る」「プリンター機能」「話し相手になってくれる携帯」「ホッカイロ機能」「蚊取り付き携帯」などが目につく。

製品の価値構造を分析するP.コトラーのフレームワーク「製品特性3層モデル」で上記回答を分類してみると興味深いことがわかる。

その製品を手に入れることで実現したい中核たる便益を「中核価値」という。
携帯電話であれば、「外にいて移動しながら通話できる」がそれにあたる。1999年2月にNTTドコモによってiモードが開始されて以来、中核に「ブラウジング」と「メール」が加わった。
このように、製品の価値は時代の要請とテクノロジーの進化で変化を遂げる。
では、次に求められるのは何なのか。「パソコン並の大容量送受信」などは、中核に加えられよう。現実にiPhoneやアンドロイド携帯をはじめとしたスマートフォンは、携帯とパソコンの垣根をを消失させつつある新たな進化である。
しかし、注意しなければならないのは、ターゲットユーザーを誰に設定するかによって、求められる価値が異なることだ。「自分でデザイン・設計できる」は、現在のユーザーが全てを扱うことができないほど高度化した機能を、自ら選択してシンプル化したいという要望の現れであるともいえよう。「シンプル・カスタマイズ携帯」も求められる一つのカタチであることは間違いない。

中核たる便益を実現するために欠かせない価値を「実体価値」という。
通話にしろ、ブラウジング、メールも、つながらなければ始まらない。故に、「いつでもつながる」が「実体価値」である。その点については他項目の不満足状況で「通信状態が悪い(9%)」となっていることから、実体価値は実現されていることがわかる。
その他、回答中の「落としても壊れない」は、使用し続けるために欠かせない実体価値として多数のユーザーから求められている重要な要素であることがわかる。
現在のところ、落とす以外の壊れるパターンである水没・水濡れは、防水携帯の普及が進んでいることから、今後、ユーザーニーズに応えるためにはさらなる普及が求められる。加えて、落としても壊れないという、ヘビーデューティーの実現が望まれる。ノートPCでは、机の上の高さから落としても壊れない耐衝撃性を各社競い合っている。携帯電話は立って使ったり、ポケットに入れて歩いたりするため、より高い耐衝撃性を求めるのはユーザーの真情である。メーカーの努力に期待したい。

その要素がなくとも中核価値は実現できるが、それがあることによってより魅力的になる要素を「付随機能」という。
アンケート中の回答には大きく2つのパターンがある。「プリンター機能」などは、メール、ブラウズなどの中核価値をさらに高める付随機能としてわかりやすい。
おもしろいのが、「話し相手」や「ホッカイロ機能」「蚊取り付き」だ。見事に中核価値と全く関係がない。しかし、それらを求める人もいる。ケータイは24時間いつでも自分の最短距離にある存在だ。だとすれば、生活に必須な要素を盛り込んで欲しいと考える人も存在するだろう。それが、ある人は話し相手であり、ポケットの中で手を温めてくれるカイロであり、首から提げれば蚊を寄せ付けない蚊取り線香の機能なのだ。ここは、いかにユーザーの声を拾い集めるかがキモになるということだろう。

アンケートから見えてきたユーザーが求める「携帯電話の現在・未来」。
一つは、高機能なスマートフォンの方向性。そして、それをさらに便利にする周辺の機能である。プリンタなどは内蔵ではなくとも、auのiida・G9が専用のコンパクトなプロジェクターをオプションとして発売したような形態も考えられるだろう。ケータイとパソコンとの垣根は今後ますます消失していくことは間違いない。
もう一つは、シンプルにして頑丈。そして、ユーザーが個別カスタマイズできるケータイだ。ユーザー自身が理解できないような機能は自分で取捨選択・設計して削ぎ落とすことができ、納得して持ち歩くことができる。決して壊れることなく、常に身近で活躍する自分の相棒のような存在である。それは、現在のメーカーが考えている複雑な付随機能とは別の、極めてシンプルではあるが、携帯電話と全く関係のない身近な便利機能が求められているという事実だ。相棒に何を求めるか。寒い時には手を温め、夏には蚊を追い払うなど、それはユーザーによって十人十色なので、ターゲットユーザーの分析とニーズの見極めが欠かせない。

技術の進歩によってケータイの実現可能性は大きく高まってきた。しかし、それがユーザーのニーズと乖離しないように、ユーザーの求める価値提供がなされることが、「携帯電話の現在・未来」には重要なのだ。


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