« 「空気読んでる」・西友の翻訳力 | Main | 加ト吉×永谷園=「製品」ではなく「商品」。 »

2009.07.16

隅っこの価値で白地を狙う・PC低成長時代のHPの戦略

そのPCは明らかにスペックがヤバかった。インテルAtomプロセッサ N270、60GB ハードディスクドライブ。はっきり言って、ネットブックとしても1世代前の仕様。昨今のモデルならプロセッサはN280、HDDは160GBが相場なはずだ。聞けば、2009年1月発売だという。でも、買っちゃった。なぜって、デザインがステキだったから。

HP Mini 1000 Vivienne Tam Edition」。ニューヨークの中国系デザイナー、ヴィヴィアン・タムがデザインした10.1インチのネットブックは筐体全部が真っ赤。キーボードまでも。そして天板には鮮やかな芍薬の花が大きく描かれている。

ヨドバシカメラの店員は「プレゼントですか?」と聞いてきた。メーカーであるHPが女性向けとして発売したモデルであり、実際に6~7割は女性が買っていったという。
まぁ、女性向けであったとしても筆者のハートはわしづかみされてしまったのである。ヨドバシのPCコーナーから足が遠くなっていたし、デジタルものの物欲もすっかり萎えていたのだが、こんなステキなPCが店の片隅でひっそりと、ワタシを待っていてくれたとは・・・即購入。

今日、ネットのニュースを見ると、ちょっと悲しいお知らせが。
日本HPが花柄の新ネットブック、女性層獲得に本腰
懸念したとおり、夏モデルとして後継機が発売されていた。スペックも予想通り、一回り良くなっている。
本来なら歯噛みして悔しがったであろうデキゴトなのだが、不思議と悔しくない。強がりではなくて。
メインマシンのレッツノートのように30万円オーバーの買い物ですぐに新機種が出てはショックだが、実際には5万円もしない買い物であったのだ。何とパソコンとは気軽に買えるカジュアルな存在になったことだろう。

新機種のHP Mini 110は、スペックアップした代わりに、前機種と比べればデザインはずいぶんとおとなしくなった。有名デザイナーとのコラボではなく、カラーも天板の柄も控えめだ。淡紅藤 (うすべにふじ)色という、淡いピンクの天板にはカンナの花をモチーフにしたという模様が薄い色彩で描かれている。
報道のタイトルにあるとおり「女性向け」としては、より幅広く、多くの女性が手に取りやすくなったといえる。<女性層獲得に本腰>とあるように、Vivienne Tam Editionのような、実験的コンセプトモデルのような製品ではなく、女性向けで本気で売ろうというHPの本気度が感じられる。

本日の他の報道では<パソコン世界出荷、4~6月は3.1%減 IDC調べ>とあった。ネットブックが出荷台数を押し上げつつ、単価下落が顕著であったマーケットも、ついに台数までマイナスに転じたのだ。もはや、売れるところはどこでも切り開いていくしかない。
その点、確かに女性マーケットはまだまだ開拓しがいがある白地だ。ネットブックに火が付いた頃、いままでケータイで色々と済ませていた女性たちが、Eモバイルが仕掛けた「100円パソコン」に手を出しPCを所有するようになった。しかし、当時のネットブックはスペックが低く、ずいぶんとストレスのたまるものであった。その買い換え需要も狙えるし、現在のスペックであれば、十分使用に耐えられるので初めての人にもオススメしがいがあるだろう。価格の安さも手を出しやすくしている。

「値段も安いし、買っちゃおうかな」「買い換えちゃおうかな」と思わせる要素を、デザインやカラーという価値においているのは、もはやそれ以外に差別化要素を作れないからに他ならない。
フィリップ・コトラーのフレームワーク、「製品特性分析5層モデル」で考えれば、製品の一番重要な価値は「中核」といわれる、製品・サービスを手に入れることで実現できる中核となる便益である。つまり、パソコンであれば「ドキュメントの作成や計算が効率よくできる。インターネットの利用ができる」。ということ。それに対して、女性向けとしてHPが勝負をかけている色や柄は、一番隅っこというか、外側の「潜在」という「期待はされていないが、実現できれば価値を増大させる」という要素である。

「絶対に欲しい!」という強い物欲ではなく、「あらカワイイ、買っちゃおう!」という筆者同様の購買行動を期待してのHPの戦略である。
もはや、PCは完全にコモデティーとなっている。何年も前に、筆者は電卓のようにビニール袋に入れられて、壁からつり下げられて売られるようになると予想した。当らずとも遠からずだ。
電卓のように十把一絡げで売られないために、中核たる便益から遠い隅っこの価値の部分でも強化して差別化をし、市場の白地を探して売り続けなくてはならないのが今日のPC市場なのだ。ステキなHPの製品の裏に、同社とその業界の苦しさが透けて見えて、少し切ない。

|

« 「空気読んでる」・西友の翻訳力 | Main | 加ト吉×永谷園=「製品」ではなく「商品」。 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 隅っこの価値で白地を狙う・PC低成長時代のHPの戦略:

» イーモバイル eモバイルPCの感想 [イーモバイル eモバイルPCの感想]
イーモバイル eモバイルのPCを買って使ってます。ケータイのPC版のような手軽さに安いときてる!そんなにいいコトばかりなの?体験談を話します。 [Read More]

Tracked on 2009.07.17 07:04 PM

« 「空気読んでる」・西友の翻訳力 | Main | 加ト吉×永谷園=「製品」ではなく「商品」。 »