ホンダはトヨタと戦わない。 ~エコグランプリ~
苛烈を極めるトヨタからの攻撃に対してホンダはどう出るのか。固唾をのんで見守っていたら・・・。
ダイヤモンドオンラインが伝えた記事<業界騒然!ホンダ「インサイト」をコケにする トヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”>を元に、6月2日に「トヨタはなぜ、キレたのか?」を執筆した。
リーダー企業であるトヨタが、下位のホンダに対して比較広告を行った異例の展開。それは、予想外に好調なインサイトをそのままにしては、収益面でも自社のブランドポジショニングの面でも大きな影響が発生するからだ。
では、ホンダの次なる一手はどのようなものかと思っていたら、今度は全く独自の世界を展開することにしたようだ。
6月11日のニュースリリース
<「インサイト」のエコ運転技術向上を競う「エコグランプリ」をHondaのホームページ上で開始 >
http://www.honda.co.jp/news/2009/4090611.html
<「インサイト」に搭載されたエコアシストと、インターナビ・プレミアムクラブのサービスを活用し、エコ運転技術の向上を競う>というイベントだ。さらに<インサイトのオーナー以外でも「エコグランプリ」ホームページ上の「インサイト・シミュレーター」でエコ運転を疑似体験できる「バーチャルチャレンジ」機能も追加する予定>だという。
イベントにどのような意義があるのかは、「エコグランプリ」のサイトにある説明の動画中表示されるコピーが非常にわかりやすい。
以下、全文を転載する。
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20世紀のレースはスピードを競っていた。
21世紀のレースが競うもの。
それは、あなたの燃費。
場所は、ふつうの道。
開催日は、毎日。
そしてドライバーは、全国のみんな。
エコドライブを競いあい、励ましあい、讃えあい、ランキングを楽しむ
かつてないレースが、いま始まります。
記録更新に、ついにんまりしたり。
特に燃費がよかった日には、晩ご飯のおかずが一品増えたり。
気がつけば、向かいの奥さまがライバル(!)なんてことも。
クルマに乗ることが、ただの運転ではなく、イベントになる世界へ。
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上記からどのようなメッセージが受け止められるだろうか。
昨年12月5日にF1レースからの撤退を発表したホンダ。苦渋の決断を伝える福井社長は「F1に注いできた情熱、リソース、人材を新しい時代に振り向けるべきだという強い意志」と語った。
ホンダの提案する新しい時代、21世紀のレースの一つのカタチが「エコグランプリ」なのだ。
<クルマに乗ることが、ただの運転ではなく、イベントになる世界へ>。この言葉は非常に意味深い。
クルマの中核たる価値は「移動する・輸送する」である。そして、その「移動・輸送」がどのように実現されるのかという、製品の実体価値はクルマの内外装のデザインや走行性能、居住性や安全性、そして燃費性能などで構成される。
クルマをクルマたらしめているのは、何か一つの構成要素ではない。全ての要素が相まってクルマができあがっているのだ。
クルマという製品がもたらしてくれる根源的な価値を何と捉えるのかも重要だ。
かつての高度成長期に、はじめて「マイカー」を手にした人は「ああ、これで移動・輸送が楽になるなぁ」とだけ考えただろうか。真の喜びは「クルマのおかげで日常が非日常になる」というわくわく感ではなかっただろうか。
燃費性能は重要だ。そして、そのために走行性能を犠牲にしないスペックも重要だろう。
しかし、かつて非力なスペックな「マイカー」を手にした時、それを憂うのではなく、そんなクルマをいかに「乗りこなすか」に喜びを見いだし、実践しはしなかっただろうか。
パワーがなくてもいかに速く走るか。ハンドリング、ブレーキング、アクセルワーク。
<20世紀のレースはスピードを競っていた。21世紀のレースが競うもの。それは、あなたの燃費。>
エコドライブの能力を磨いて楽しむ。それがホンダの提案なのだ。
トヨタから突きつけられた逆挑戦状。ハイブリッドとしての性能は「モーターだけでは動けない」「モーターの性能が弱い」との指摘。
ホンダの答えは「気にしない」ではないだろうか。
クルマのスペックだけではなく、乗り手の乗り方、ドライビングの技術と一体となって実現できる低燃費と環境負荷の軽減。そんなメッセージに共感する自社ユーザーを囲い込んで、独自の世界で楽しく競い合って技術を磨く。
関心を持った見込み客もバーチャル体験をさせて、独自の世界観と価値観に引き込む。
スペック云々の指摘には耳を貸さず、あくまで独自の世界観を展開するホンダ。リーダーからチャレンジされたチャレンジャーは、単純なチャレンジを返すことはしなかった。
価値観の違いという、究極の差別化策を展開し、「同じ土俵で戦わない」という絶妙の戦い方を展開しはじめたのだ。
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元々、フェラーリにあこがれていた(技術志向の)本田宗一郎創業の本田技研工業株式会社なので、BtoCによる普及が目的のトヨタ自動車株式会社とは業種が同じでも、元々競合していないのでないでしょうか?
※同業のように見える「まんだらけ」と「ブックオフ」は事実上競合していない、のと似ている状況。
元々、技術的にトップダウン(リードユーザー?)的な本田技研工業に対し、技術的にはボトムアップのトヨタ自動車。
非同族経営によるブレイクスルーで成長してきた本田技研工業、同族経営による求心力で安定しているトヨタ自動車。
以上の様に、ライバルというよりも全く別物の2社。
両雄並び立つと思われるので、ある意味WIN-WINの関係を構築して欲しいモノです。
しかしながら、本田技研工業がエンジンというコアコンピタンスにもとづく製品群が、四輪に限らず二輪、バギー車、小型ジェット機、ASIMOのようなロボットというような広範囲にわたること。
また、社風が自由闊達、技術及びレース嗜好・思考・指向・試行・志向ということ。
というような事実及び世間の認識に対して、世界一の自動車販売会社のトヨタ自動車株式会社が、技術・研究会社の本田技研工業株式会社を本質的に恐れて、対抗心を燃やしているだけではないでしょうか?
長々と、思いつきを書きまして申し訳ございませんでした。
Posted by: きこねこ | 2009.06.16 06:11 PM
コメントの連貼り、申し訳ございません。
私が、心中に抱いていたことのヒントが書かれていました。
「インサイト販売店に潜入! プリウスを買う人との違いはここだった!」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090616/197757/?ST=print
トヨタのアンチは多いのに、ホンダのアンチは少ない、ということが、トヨタがホンダを敵視する一因のように思えてなりません。
少なくても、セナ・プロスト大好き世代(アラフォーかな?)では、圧倒的にホンダLoveです。
アラフォーとなり、BMWやベンツに乗れる身分になっても・・・ホンダLoveってのは、非常に興味深い減少と思っています。
Posted by: きこねこ | 2009.06.18 07:36 AM
きこねこ様、興味深いコメントをありがとうございました。
ご指摘のNBオンラインの記事も面白かったです。
特に次の点が出色ですね。
・プリウスVs.インサイトの構図は確かにあるし、プリウスが予約数でインサイトをあっさり抜いたのは事実であるが、インサイトが売れなくなった、または負けたのではなく、相変わらずいいペースで売れている。(つまりもともと、トヨタの方が販売力は上)。
・その好調のインサイトを支えているのは、確たる「ホンダファン」。記事中にある「トヨタが嫌いな人」もいれば、判官贔屓な人、本当のホンダマニアなど混在するものの、支持層の堅さがホンダの力となっている。
・単純な今回の競合だけでなく、「潮目」も変化している。80年代にエンジン性能の向上、90年代にミニバンをはじめとした新しいボディー形状と、自動車は新しい価値を消費者に提供してきた。しかし、ここ10年以上、そうした革新がない。革新がないから買い換えない。売れない。ハイブリッドは新たな提供価値となり得る。エコだから、燃費がいいからという理由だけで買われていない。特にホンダ車はその傾向が顕著。経済合理性だけでいえばホンダ・フィットの方が上。なのに、インサイトが売れる。「無限」のエアロパーツを着装するインサイトユーザーがかなり多い。経済合理性で考えれば、20万円以上するパーツの装着はあり得ない。一方、トヨタ・プリウスにエアロパーツを装着する人は極めて少ない
と、記事を要約するとこんな感じでしょうか。
「潮目の変化」という点はもう少し深掘りしたいですね。
Posted by: 金森 | 2009.06.18 09:33 AM