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18 posts from June 2009

2009.06.29

「カルピス」~変えてはいけないもの、変えるべきもの:定番のヒミツ第13回

日本実業出版社の季刊誌「ザッツ営業」好評発売中です。

ザッツ営業 http://www.njh.co.jp/that/that.html

同誌に連載中のコラム「定番のヒミツ」第13回が掲載されています。

・・・が! 残念なことに「ザッツ営業」誌は今号で休刊とのこと。
「定番のヒミツ」も最終回となってしまいました。
季刊で13回なので、3年ちょっとの連載でしたが、もっとロングランにしたかったのです。
奇しくも90年間という超ロングセラー商品が、最後に紹介する定番商品となりました。

以下、記事転載。

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 世の中には常に売れ続ける「定番」と呼ばれるものがある。なぜ定番は売れ続けることができるのか。当連載はその謎をマーケティングのセオリーから考察する。

『 「カルピス」~変えてはいけないもの、変えるべきもの 』


 今年で90周年だという。日本初の乳酸菌飲料として生まれたカルピスは、まぎれもなく国民的飲料だ。「おいしくて、からだにも良く、安心して飲め、経済的であること」。創業者の思いを受け継ぎ、90年間を過ごしてきた製品である。
 製品の源となる乳酸菌と酵母菌からなる「カルピス菌」で脱脂乳を発酵させて作った、「カルピス酸乳」。それが、製品の甘酸っぱさの秘密であり、製法も90年間変わらないという。その甘酸っぱい味を一度も口にしたことのない人は、恐らくいないはずだ。
 しかし、口にする形態は実に様々になっている。
 カルピスの原液は非常に高濃度だ。通常は2.5~5倍程度に希釈する。濃いゆえ、腐敗しない特性が普及に大きく寄与した。冷蔵庫のない時代でも家庭で保存しやすいという、消費者のニーズに適合していたのである。
 しかし、高度成長期を経て豊かになった消費者は、いちいち希釈する手間を厭うようになった。冷蔵庫も各家庭に普及し保存の心配もない。何も手を打たなければ、カルピスは時代の波間に消えていったことだろう。
 カルピスは原液を炭酸で希釈し、缶飲料の形態にした「カルピスソーダ」を発売。乳酸炭酸飲料ブームの先駆けとなった。高度成長最後年、1973年のことだ。炭酸飲料とすることによって、子供を中心としたユーザーを若年層や大人にまで広げる効果もあった。
 「炭酸もいいけど、普通のカルピスを手軽に飲みたい」というユーザーニーズに応えるには、保存技術の開発が必要で時間がかかった。1991年、ついに「カルピスウォーター」を発売。大ヒットとなる。
 同年、味の素グループとなって、両社の飲料事業を統合した頃から、カルピスのバリエーション展開は加速する。味の素の得意なアミノ酸を使ってダイエット志向の消費者にゼロカロリータイプを提供。酒をたしなむ層には、カルピス味の低アルコール缶飲料を。さらには、血圧など健康を気遣う層にはカルピス酸乳の特性を活かした特保飲料まで開発し
た。沖縄ならゴーヤー、シークワサー、パイン。信州は林檎、北海道なら夕張メロン。各地のお土産需要にも対応し、ご当地カルピスも展開する。
 創業者の思いと製法を90年間継承し、様々な形に展開していったカルピス。変えてはいけない意志とこだわり。適合させるべき環境の変化と消費者ニーズ。
 90年の歴史から学ぶところは大きい。

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2009.06.26

iidaの新機種「misora」こそ、真の次世代ケータイか?

au(KDDI)の夏モデルが出そろい広告も賑やかになった後で、KDDIの別ブランドiidaから第2弾の端末が発売された。

今年の春からau(KDDI)は明らかに戦略を二面作戦で展開をはじめた。その動きがこの夏、一層顕著になったといえる。
春モデルでは「auケータイでサプライズな日々を」。と、様々な機能を盛り込んだ携帯端末を投入した。夏モデルは「去年と違う夏」のコピーだ。充電用ソーラーパネルなどの目新しい機能を搭載した機種のほか、まるで携帯電話機能がオマケに付いているかのような、「電子ブック」や「ハイビジョンムービー」という機能特化した機種もある。確かに使われ方や使用目的は「去年と違う」ことになるだろう。

もう一方の動きが、今年の春から投入された別ブランドiidaである。ブランドの発表会において、小野寺社長が「機能競争は終わった」として「次の競争」として示したのがiidaである。
(関連記事:KDDI(au)の新ブランド「iida」。その先鋭的な狙いとは?

ところがどっこい、本体のauブランドは夏モデルが示すように、さらなる機能強化が図られているが、iidaにおいては、確かに機能ではない、その正反対の性格がさらに強められている。
最初に登場した「G9」はシャープな男性仕様と感じられたが、今度はシンプルでスマートな女性ターゲット仕様といったところだろうか。
<au、iidaブランドの第2弾「misora」を6月27日発売>
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20395610,00.htm

この「misora」はau(KDDI)のデザインプロジェクトを吸収したiidaブランドの真骨頂といえるだろう。<理屈抜きに手にしっくりとなじむ、触っていて気持ちのいいデザインにこだわった>との同社デザインプロデューサーのコメント通りの仕上がりだ。気持ちの良さへのこだわりは、カラーリングにも現れている。white、pink、blackのカラーは水と空を表わすといい、時間によって表情を変える空とそれを映し出した水面を表現しているようだ。
機能的に特筆すべきはメールのさりげない機能だ。<待ち受け画面から直接文字入力ができる「すぐ文字」機能を搭載>だという。
コミュニケションツールである携帯の中核たる価値の一つであるメールの機能を、コミュニケーションが取りたい時、すぐに入力ができるという実体の要素を付け加える。さらに「手にしっくりなじむ」という「持ちやすさ」は付随機能として考えられる。

製品の価値構造はこのように「中核」「実体」「付随機能」に分解して考えるとわかりやすい。本体のauケータイはもはや、「中核」とは関係ない「付随機能」をひたすら高める方向で走っている。一方、「misora」の価値は「付随機能」をも超えた、「気持ちの良さ」という価値を提供することを目指している。

どちらを選択するかは、ユーザーの価値観の問題であるが、au(KDDI)はauケータイ本体で他のキャリアと機能競争をする一方、全く異なる価値観を持ち込んで「次の競争」に向けて加速を高めている。
他のキャリアが「次の競争」へと追随するかわからないが、徐々にユーザーの支持は高まっていくように感じられる。

「ケータイ疲れ」なユーザー動向・携帯電話業界はどう動く?
以前、上記の記事で、高度複雑化した機能を追いかけるのに疲れ、携帯にいつでも縛られているかのような息苦しさと、高価格化した端末の費用負担をユーザーが感じていることを紹介した。
「気持ちの良さ」にこだわった「misora」はシンプルな機能に徹し、価格も2万円台前半だという。ターゲットの女性という枠を超えて多くの支持者を獲得できるのではないかと筆者は考えている。

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2009.06.25

キリン「コクの時間」が仕掛けるガチンコ勝負

「あ、清冽!」。元フジテレビアナウンサー・内田恭子がCMでグラスを傾け一口飲んでつぶやくセリフだ。6月24日発売・キリン「コクの時間」。
同製品は全く新しい製法によって「コクの概念を変える全く新しいコク」を実現したという。同製品紹介のWebサイトによると<清涼感のあるホップの香りが、引き締まった後味を生み出し飲んだ瞬間に実感できる、新しいおいしさ>とある。「清冽」とは「水が清く冷たいこと(広辞苑より)」。つまり、引き締まったのどごしを端的に訴求する言葉なのだ。

この「コクの時間」は第3のビールという、いわゆる新ジャンルビール系飲料である。迎え撃つアサヒの第3のビールにおけるフラッグシップは「クリアアサヒ」。「クリア」というネーミングと「うまみだけ。雑味なし。」というコピーで製品の特性を訴求する。
「うまみだけ。雑味なし。」のアサヒ「クリアアサヒ」。それに対して、「コク」で「清冽」なキリン「コクの時間」。どう見てもガチンコ勝負である。

因縁浅からぬ両社ではあるが、キリンはアサヒになぜ、ガチンコ勝負を挑んだのか。
第3のビールには、麦芽を原料とする発泡酒にリキュールを加えた「リキュール(発泡性)」と、麦を使わず大豆たんぱく・えんどう・とうもろこしを原料とした「その他醸造酒(発泡性)」がある。キリンビールの第3のビールにおけるフラッグシップ「のどごし生」は後者である。
キリンビールの戦略の特徴は、この第3のビールの両カテゴリーに商品を配していることだ。ライバルのアサヒビールは選択と集中で、「リキュール(発泡性)」にのみ特化して製品を開発・販売している。
ビール系飲料は昨今、ビール、発泡酒カテゴリーとも売上げの減少が止まらず、低廉な第3のビールカテゴリーのみ成長が続いている状況だ。しかしその中でも「その他醸造酒(発泡性)」の成長が鈍化し、「リキュール(発泡性)」の成長が顕著になってきたのだ。ある意味、アサヒビールの戦略があたったといえる。しかし、キリンとて、そのまま指をくわえてみているわけにはいかない。かくして、ガチンコ勝負の戦端が開かれたというわけだ。

ガチンコ勝負ではあるが、キリンの戦略は勝負の「軸」を微妙にずらしていることが伺える。もはや苦くてもったりコッテリした昔の「コク」が受け入れられないのは明らかなので、「清冽」を訴求している。しかし、あくまで中心とした訴求ポイントは「コク」であり、パッケージに描かれた「麦」と新製法でさらに香りを高めたという「ホップ」なのである。対するアサヒは「クリア」とスッキリしたのどごしを中心に訴求する。
キリンには「のどごし生」がある。「その他醸造酒(発泡性)」は少なからず「コク」を求める層には薄味過ぎるが、「のどごし」好きは、そのスッキリ加減がいいという。
つまり、スッキリ好きは「のどごし生」でしっかり囲い込み、さらに「コク」を求める、ビールや発泡酒から低廉な第3のビールからの乗り換え層を取り込もうという戦略である。それは、「リキュール(発泡性)」「その他醸造酒(発泡性)」両カテゴリーを抱えるキリンだからこそできる二面戦略である。対するアサヒは「クリアアサヒ」の単発エンジンで迎撃しなければならない。

第3のビールという薄利で苦しい戦いカテゴリーが、唯一残された成長分野であり主戦場となった。低価格志向を高めながら価値を求め、さらには嗜好が多様化しているという、厄介な今日の消費者のハートを捕らえるのはキリンかアサヒか。その戦いの趨勢が両社の今後を占うように思えるのは筆者だけであろうか。

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2009.06.24

「ペプシしそ」にはやられたぜ!

6月23日発売のシソ風味のコーラ、「ペプシしそ」。その味のほどを筆者は事前にペプシのマーケティング戦略から考察し予想していたのだが、果たしてその結果は・・・。

5月29日に公開した記事「「シソ風味ペプシ」の味を大胆予想する!」
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2009/05/post-e0e7.html

筆者の予想では、「ペプシしそ」はオイシイ!という味であった。まさに、ボトルのパッケージに書かれている「清涼感あふれる香り しその風味が爽やかなコーラ!」そのままの味わいを予想したのであった。

ペプシは毎年1~2回、「変わり種コーラ」を発売する。近年最も話題になったのは、一昨年夏の、キュウリ味の「ペプシペプシ アイスキューカンバー」。うす甘くて青臭い、はっきり言ってマズイ、衝撃的だ、などネット上では大きな話題を呼んだ。
ペプシがこのような商品を出すのは、ひとえに「リーダー」であるコカ・コーラに対する「チャレンジャー」だからだ。王道をいくリーダーと比較して「自分たちは違うんだ!」と差別化を市場にアピールすることが目的。故に、おいしさよりも話題になることが重要なのだ。

その意味では、昨年夏の「ペプシブルーハワイ」も期待を裏切らなかった。カクテルのブルーハワイを模した真っ青な色。パイナップル甘く、どこか苦みの残るようで、何となくドロリとした後味は、これまたオイシイというよりは衝撃的であった。
しかし、昨年冬に登場した「ペプシホワイト」は、乳性炭酸飲料の風情でフツーにおいしかった。コンビニでもかなりのフェイス数を確保し、長い期間販売されていた。

おいしくなった変わり種コーラの背景には、ペプシの大きな挑戦が隠されていると筆者は予想した。

「チャレンジャー企業は刮目せよ・サントリーの戦い方」
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2009/04/post-6b9d.html

3月31日に公開した上記にあるように、ペプシを発売するサントリーは、今年1月と3月にコーラ市場でリーダー企業の日本コカ・コーラを追撃し、シェア逆転を狙うという発表を行っていた。かなりアグレッシブな目標だが、リーダー企業にチャレンジする力がなければ、いずれはフォロアーのポジションに転落するのが市場のルール。さすがの展開だといえる。
その中で、オイシイ変わり種コーラであった、「ペプシホワイト」もペプシの売上げを底上げする尖兵として機能したのだとすれば、今回の「ペプシしそ」もおいしくなるハズだと予想したのだ。

・・・ハズレました。スミマセン。

目に鮮やかな、「アイスキューカンバー」を思い起こさせる緑の液体を、グラスに注いでみると、確かにしその香り。一口飲んでみると、少し甘さ控えめの味わいに、しその香りが口腔から鼻腔に充満する。
しかし、甘さと香りがどうにもマッチしない。「青じその砂糖漬け」というモノがあれば、恐らくこんな味なのではないかという想像力がかき立てられるも、500ml飲みきることができなかった。「キューカンバー」以来の衝撃であった。

予想が外れた言い訳ではないが、再び変わり種コーラが「衝撃の味路線」となった背景が見える記事を見つけた。

<【ブログトレンドウォッチ】多様化する味、コーラ商戦の行方は?>(livedoorニュース:提供・kizasiジャーナル)
http://news.livedoor.com/article/detail/4215022/

インターネット上の書き込みを分析すると、事前の話題は6月8日に日本コカ・コーラから発売されている、カテキン入りという、カラダにいいんだか悪いんだかわからない「コカ・コーラ プラス カテキン」の話題が上回っている。
もう一つ気になるのが、変わり種ペプシとしての話題性が、「アイスキューカンバー」以降、かなり低迷しているのがわかる。
話題に上りにくくなっており、しかも、挑戦すべきリーダーの日本コカ・コーラにまで話題をさらわれている。これはチャレンジャーとしては致命的な状況だ。

しかし、そんなことは分かっているといわんばかりに、サントリーのペプシは「ペプシしそ」を「衝撃の味」に仕上げてあった。
筆者もその一人であるが、一夜明けて、今日、ネット上に「ペプシしそ」の衝撃性を書き込む人間は多いだろう。筆者の予想は外れたが、サントリーの狙いはズバリ的中というところだ。
チャレンジャーがチャレンジャーらしいと、少し安心する。「ペプシしそ」を全部飲みきることはできなかったけれど。

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2009.06.22

ユニクロのスマートなリサイクル活動

さすが日本経済新聞という流麗な文章だ。6月22日の朝刊コラム春秋はこう始まる。<百貨店にしても、スーパーマーケットにしても、消費者にモノを「売る」のが本来の仕事。そんな大手小売各社が今年、世に放ったヒット企画は、消費者からモノを「買う」ことだった。>下取りセールを「消費者からモノを買う」とは言い得て妙。

記事は6月18日に発表された日経MJ2009年上期ヒット商品番付の内容を指している。西大関に列せられたのは「下取りセール」。春秋に<不用になった服や靴、かばんに傘、布団、食器、家電製品などを店まで持参すると、現金や値引き券に交換してくれる>と書かれているとおり、まさに何でもありの様相を呈している。
ヒット商品番付に挙げられているのは、各社のビジネスにとって大いに貢献しているからに他ならない。<日本の家は狭く、モノであふれている。たんすの肥やしも多い。場所を空ければモノを買ってくれるはずとの読み>との指摘はまさにその通りで、各社ウハウハなのだ。

一方で批判の声も少なくない。需要喚起になるものの、まだ使える物をリサイクルの名の下に買い換えをさせるという、環境負荷に対してである。確かに、エコな家電、自動車への買い換えは長期的にはプラスにはなるかもしれないけれど、どうもエコな感じはしなくて、少なくとも筆者は気がひける。

春秋は<買い取った物は再利用や途上国などへの寄付に回ると聞けば、まだ使えるものを捨てる後ろめたさも和らぐ。捨てるときにあれこれ分別する手間も省けるとのおまけ付きだ。>という事例も紹介している。このパターンで出色なのがユニクロの「全商品リサイクル活動」なのだ。

ファーストリテイリングのCSRサイトにあるコンテンツ
http://www.fastretailing.com/jp/csr/environment/recycle.html

ユニクロのビジネスにおけるインパクトは、他社の「下取りセール」における意義と同じく、顧客にタンスの肥やしを整理させ、新しいものを購入させる効果だ。しかし、ユニクロにおいてはとりわけこの要素は重要なのだ。なぜなら、昨今のユニクロは品質向上が著しく、めったに衣類が伸びたり縮んだり、色落ちしないからだ。つまり、ずっと着られちゃう。そのあたりは基本的にワンシーズン使い捨てのファストファッションと一線を画しているといっていいだろう。
新しいのが欲しい。でも前のが着られちゃう。だから買えない。すっごいジレンマ。
顧客にとってはジレンマからの開放。ユニクロにとってはセールスの道が開けるという、素晴らしいソリューション。ユニクロは数を売ってなんぼのビジネスモデルなのだから。

でも、結局まだ着られるのに、リサイクルに出すって、家電やクルマに対する抵抗感と変わらないんじゃないのか?という点も大丈夫なのだ。
リサイクルに出された衣料は、発電用燃料としてリサイクルされたり、断熱材や工業繊維としてリサイクルされたりもするが、90パーセントはタンザニア、ウガンダ、エチオピアなどの難民キャンプに寄贈しているという。つまり、9割は「リサイクル」ではなく、「リユース」である。環境負荷の元凶にはなっておらず、人助けができているのだ。

「あなたにとって不要な1枚が、誰かにとって必要な1枚となる」。
「全商品リサイクル活動」のコピーである。考えてみれば、これってスゴイことではないだろうか。
「誰か」って、地球の裏側にある難民キャンプで暮らしている人々なのだ。貧しく厳しい暮らしをしている無辜の人々に、自分たちができることは少ない。せいぜいがポケットの中の小銭を募金するぐらいだろうか。それが、自分のお古の衣類を提供するという直接的な貢献ができるのだ。

<いま、世界はますます「スモール化」「フラット化」が進んでいます。フラット化されたことによりグローバルに統合された世界では、遠く離れた地域で起きる事象も、私たちの日々の生活に大きく影響を及ぼします。つまり、経済的に、社会的に、技術的に、世の中は今、相互につながっているのです。>
これは、IBMが新たに掲げたコーポレートビジョン「SMARTER PLANET」を説明するコピーの冒頭だ。  
IBMが言いたいこととはちょっと違うけれど、世界のスモール化は我々の衣料を地球の裏側まで届けてくれることにつながり、難民キャンプの人々が我々と同じユニクロの服を着ているというフラットさが実現されている。
活動の様子を伝えるフォトリポートで紹介されているエチオピアの若い男性は、筆者が持っているのと同じ、赤いポロシャツを着ている。人とユニクロの服がかぶることを、最近では「ユニかぶり」というそうだが、こんなかぶり方はむしろうれしくなる。

しっかり自社のビジネスにも貢献して、継続性を確保している素晴らしいCSR。ユニクロのスマートさには脱帽である。

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頑張れ、「アサヒ麦搾り」!

9月15日発売と、ずいぶんと先の商品発売をリリースした「アサヒ麦搾り」。果たしてどんな意図があるのだろうか?

ニュースリリースは以下の通り。
<~豊かな麦のうまみと飲みごたえの新ジャンル~ 『アサヒ 麦搾り』新発売 麦1.5倍使用(麦芽、大麦 当社比※)、アルコール分ちょっと高め>
http://www.asahibeer.co.jp/news/2009/0616.html
リリースのタイトルにあらかた特長が集約されているので要約の必要はないだろう。

さて、この商品は「キリン ストロングセブン」の対抗馬であることは誰の目に明らかだ。
キリンが今年4月にリニューアルを発表した時のリリースは以下の通り。
<「キリン ストロングセブン」をリニューアル ~アルコール7%ならではの“キレ”、“飲みごたえ”をさらにアップして、グッとおいしく!~>
http://www.kirin.co.jp/company/news/2009/0422b_01.html

ここで既に、「あらら?」と思う。
両製品は、低価格志向の流れの中で、ビール系飲料は、ビール・発泡酒共に失速する中、成長著しい第3のビールに属している。そして、アルコール度の高い「ストロング系」と呼ばれるカテゴリーになる。
ポジショニングは、「ストロングセブン」は非常にネーミングからしてわかりやすい。アサヒは「麦搾り」でいいのだろうかと、ふと不安になる。

アサヒの気持ちも実は痛いほどわかる。
第3のビールは、麦を使わず大豆たんぱく・えんどう・とうもろこしを原料とする「その他醸造酒(発泡性)」と、麦芽を原料とする発泡酒にリキュールを加えた「リキュール(発泡性)」の2種類がある。
アサヒビールは宿敵キリンとの戦いにおいて、一つの選択と集中を行った。第3のビールカテゴリーでは「リキュール」に経営の原資を集中したのだ。その結果、第3のビールの「リキュール」ではアサヒがトップシェアとなった。(その後、キリン側が発表を控えたため、リキュール・その他、各カテゴリー別シェアは不明)。その背景からすれば、「麦」を訴求したいのは無理からぬことだ。

もう一つ、事情がある。
「麦」から連想されるのは、「うまさ」や「コク」である。「キレ」ではない。しかし、「ストロング系」は高アルコール度からくる、ガツンとしたキレが命。故に、「アルコール分ちょっと高め」という補足説明では本来追いつかない。
しかし、事情があるのだ。
あまり、「キレ」を安価な第3のビールで訴求すると、大黒柱の「スーパードライ」の首を絞めかねない。ましてや、今年、豊川悦治の挑発的なCM「一番うまい発泡酒を決めようじゃないか」と「アサヒ クールドラフト」で、キレを売り物にしている「キリン淡麗生」に大勝負をかけたばかりだ。
キレを売り物にした発泡酒は本来、出したくないが、コクが売り物の「アサヒ本生ドラフト」ではこれ以上戦えないとの苦渋の決断だったはずだ。さらに、第3のビールまでキレを前面に出して、自社顧客が低価格商品に雪崩を打ったら、取り返しはつかない。現在、スーパードライ顧客を必死で囲い込むために展開しているマストバイキャンペーン、「うまい!をカタチに」プロジェクトすら無駄になってしまう。

そんな背景の中、4月22日の「キリン ストロングセブン」のリニューアル内容は、きっと衝撃的であったはずだ。リリースには<リニューアルにあたっては、麦芽使用率をこれまでの約1.6倍まで高めるとともに、「新・高発酵技術」(特許出願中)を採用することで、アルコール7%の“のどにグッとくる刺激”はそのままに、“キレ”“飲みごたえ”をさらに向上させています。>とある。
「麦搾り」のスペック、麦1.5倍・アルコール6%を各々ちょっとずつ上回る。

言いたくてもいえない「キレ」。単なる数字上のスペックかもしれないが、微妙に上を行かれているスペック。どうにも歯がゆい状態である。
製品上市の意図は、「ストロングセブン」に挑むのではなく、「ストロング志向」の自社顧客のキリンへの流出を何とか食い止めようという意図なのかもしれない。故に、元もと自社ファンであれば、パッケージの商品名下にも記載した「麦1.5倍使用(麦芽、大麦 当社比※)、アルコール分ちょっと高め」という文言に気付いてくれるだろうと。

本当に上記のような意図であれば、苦戦が想像されてならない。
世の低価格志向は止められない。外での飲み会もビールではなく発泡酒が選ばれ、宅飲みでは第3のビールがもはや定番だ。「スーパードライ」の延命策は絶対必要であるが、その弱みを突かれて、キリンに発泡酒でも第3のビールでも「キレ」で逆攻撃されている戦局を変えるべきではないだろうか。

射すくめるような豊川悦治の視線。ロッキーのテーマソングにもなった「Eye of the Tiger」のCMソング。「決めようじゃないか」の挑発的コピー。そんなシビレル喧嘩を売ってほしいと考えるのは無責任すぎるだろうか。
9月の発売までにはまだ少し時間がある。少し検討してみてほしいと、アサヒファンの一人として考えるのであった。

■関連記事
アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

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2009.06.19

大塚製薬のSOYJOYと新製品の予感

大塚製薬のバランス栄養食・SOYJOYのCMがどんどんと変化している。それが意味するものは何なのか。

ソイジョイのCMが新しい局面を迎えている。
発売当初はみのもんたが「大豆!ソイジョイ!」とこれでもかとネチっこく、脂っこくアピールして興味を喚起し、続いて田中麗奈と豊川悦治のOL・サラリーマンコンビがオモシロおかしく興味を喚起。後半は田中・豊川が女優とマネージャー(後に芸能プロダクション社長)と役どころを変えて、効果効用をアピールして欲求を喚起し続けてきた。
うーん、何ともAIDMAのお手本のようなA→I→DというCMの展開。コンビニやドラッグストアでの取扱も増え、鉄道の駅構内にも自動販売機がかなり設置されて、商品接触機会も増えてきた。

面白いデータがある。ネット調査の結果だ。
調査主体が異なっており、パネルも質問内容の詳細も違うことから、単純比較するのは乱暴なのはいうまでもないが、あえて並べてみてみる。2007年~2009年までの「バランス栄養食」の利用に対するアンケート結果である。
(全てバランス栄養食利用者の回答・シングルアンサー)

2007年:マイボイスコムの調査
http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/10809/
「最も利用しているバランス栄養食品」=カロリーメイト(大塚製薬)・63.7%、ソイジョイ・10.1%、毎日果実(江崎グリコ)・8.0%

2008年:インターワイヤード・DIMSDRIVEの調査
http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2008/080625/
「最も好きなバランス栄養食品」=カロリーメイト・33.2%、ソイジョイ・19.7%、毎日果実・6.9%

2009年:YAHOOリサーチ・C-NEWSの調査
http://c-news.jp/c-web/ShowArticle.do?did=01&aid=00011541
『今後の食用意向 「カロリーメイト」「ソイジョイ」が僅差でトップ争う』(詳細公開なし)。

2009年の詳細が公開されていないのが残念だが、同じ大塚製薬の商品であるカロリーメイトをソイジョイが猛追している様子がよくわかる。
それは一見、自社内のカニバリゼーション(共食い)に見えるが、カロリーメイトが「栄養バランス」にフォーカスしているのに対し、ソイジョイは「大豆の健康・低GI(糖質の吸収が穏やかで太りにくい)」とダイエット効果を訴求している。当然、ターゲットも異なる。
つまり、両商品は大塚製薬のバランス栄養食カテゴリーの中で、「金のなる木」と「スター」として、ターゲットとポジショニングでうまく棲み分けながら、共存しているのだ。

(関連記事:カロリーメイト VS. SOYJOY・大塚製薬の深謀遠慮 2008年6月27日)

この3年間でソイジョイは「問題児」から押しも押されぬ「スター」に上り詰めた。
そこで今回のCMの変更だ。

「人類と大豆」編
http://www.otsuka.co.jp/adv/soy/index.html

「地球を救う大豆」。荒野にも育つ大豆、健康を助ける大豆。地球の救世主的存在は米でも小麦でもとうもろこしでもない、という原料を英雄に見立てた壮大な表現。
みの→麗奈&トヨエツとどんどん脂っこさが抜けていき、ついにタレントも使わなくなった。この一連の変化は、もう一段、ソイジョイのポートフォリオが進展したことを表わしてはいないだろうか。
タレントによる商品名刷り込みも、楽しくもオカシイおちゃらけも不要。商品の堂々たる王道感を訴求し、一連のコミュニケーションを仕上げる。
時々はリマインドのためのCMもするだろうが、もはやソイジョイはカロリーメイトと同じく「金のなる木」になったのではないかと考えられる。

ポートフォリオマネジメントの基本は、黙っていてもどんどんキャッシュを稼ぐ「金のなる木」がいたら、「問題児」のポジションに新製品を投入して「スター」を育てていくことだ。そうして、次の成長戦略を描くのである。
さて、そうなると、バランス栄養食の新商品登場の予感がしてならない。なにしろ、カロリーメイト、ソイジョイのカテゴリー2強の稼ぎをつぎ込むことができる新製品だ。ワクワクしてしまうのは筆者だけだろうか。

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2009.06.18

見事!花王・メリットの新製品戦略

今年2月26日に発売された花王の「メリットさらさらヘアミルク」の販売が好調だと日経MJ6月17日号の「ヒットのヒミツ」が伝えていた。記事が伝えるヒミツの、さらにその奥のヒミツを解いてみよう。

記事によると、同商品は<「親子で使えるトリートメント」というコンセプトが女児を持つ母親に受け入れられている>とある。
まず、ターゲットの設定とニーズの拾い方が出色である。普通、子供にトリートメントはしない。<トリートメントは大人の女性用というイメージが強く使用する女児は2割に留まっていた>と記事にあるとおりだ。つまり、8割が白地のセグメントが目の前にあるということなのだ。何というブルーオーシャン。
しかし、裸足で暮らす原住民に靴を売るが如く、利便性が理解されれば爆発的に売れるだろうが、理解されなければ全く売れないということになる。

そんな女児の頭髪をめぐって潜在ニーズが確実に存在することを花王は突き止めたのだ。
ターゲットは女児であるが、本人がドラッグストアやスーパーで買い求めはしない。購買意志決定者である母親がキモである。

その母親には子供の髪が<「くし通りや指通りの悪さ」「絡まる」>などの不満があることをアンケートで抽出した。そしてその原因を究明するため<幼稚園や小学校に通う女児の頭髪を調べたところ、太さや固さが戦陣女性の半分程度であることが判明した>という。
環境の変化を見逃さなかったことも大きい。<その昔、女児といえばおかっぱアタマが定番だった。現在はセミロングが増え、2010年には5割を超す可能性があるという>。

かくして、トリートメントをしていなかった8割の女児を取り込む戦略で、さらに<頭髪のパサつき母親も使用可能。だから「親子で」なのだ>とある。母親は他のブランドを使っていたとしたら、親子で使えば使用量は2倍だ。<出荷量は当初計画に比べ2割増>というが、もっと売れるように思う。

しかし、親子で使う、細い子供の頭髪にも合ったトリートメントなどは他社からも発売することができるので、そんなブルーオーシャンはいつまでも続かないだろうとの論もあろう。どうせ、値引き合戦のレッドオーシャンの戦いにすぐなると。
筆者はしばらくはメリットの牙城になると考えている。なぜなら、メリットというブランドが築きあげてきたポジショニングと、支持層であるターゲットがしっかりしているからだ。

シャンプーから始まったメリットは1970年の登場だ。初代キャラクターは田中祐子。CM「結婚式編」では、花嫁である友人に「フケ・かゆみをおさえてお幸せに」とスピーチする。
ターゲットは若い女性であり、「フケ・かゆみをおさえられる」という極めてストレートなポジショニングを示している。しかし、40年近くが経った今日、フケ・かゆみに悩む若い女性はほとんどいない。ターゲットとポジショニングを大きく変化させたのだ。
Wikipediaの「メリット (シャンプー)」の記述がわかりやすい。
<保阪尚輝・高岡早紀夫婦(当時)起用以降は、「新・家族シャンプー 弱酸性のメリット」とCMで宣伝される。近年は、高級化・個別化が進むヘアケア市場の中で普及品である本製品は、従来からのフケ・かゆみを防ぐ機能に加え、家族や親子での使用シーンを広告などで前面に出して、ブランドの再構築を図っている>。CMキャラクターも以降、仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻とこれでもかの家族シリーズでポジショニングを明確にしている。

ポジショニングを変更することは、失敗すれば、従来の支持層を失う危険性を伴う大きな賭である。しかし、その賭に成功し「家族のブランド」になったメリットだからこそ、今回の「母と娘のトリートメント」が意味を持つのだ。
今まで使ったことのない女児へのトリートメント。「本当に必要なのかしら。効果があるのかしら」と考える母親。しかし、そこは「家族のメリットなら安心ね」と、購入のハードルを引き下げる効果がある。

女児向けトリートメントもメリットが市場を十分開拓した後には、やがては競合が参入してくるだろう。しかし、それまでに顧客からの指名買いで十分収益を上げられるに違いない。
では、次は「父親と息子のためのスッキリするシャンプー」などはどうだろう。
今回の「メリットさらさらヘアミルク」の成功はさらなる可能性を示唆している。「家族」という大きな括りではなく、「母と娘」などのように、家族構成をさらにう細分化し、そのつながりに対応した商品シリーズ展開も可能となるだろう。

メリットの展開は、過去に挑戦して得たポジショニングと、それを活かして顧客と市場の変化、ニーズを捉えた商品を開発。さらに、今後の展開の礎を築くという、何とも見事な展開であるといえるだろう。

■関連記事
「花王『メリット』 売れ続けるとは、変わり続けることでもある」:Kanamori Marketing Office

「メリットさらさらヘアミルク」商品紹介ページ:花王株式会社

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2009.06.16

ホンダはトヨタと戦わない。 ~エコグランプリ~

苛烈を極めるトヨタからの攻撃に対してホンダはどう出るのか。固唾をのんで見守っていたら・・・。

ダイヤモンドオンラインが伝えた記事<業界騒然!ホンダ「インサイト」をコケにする トヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”>を元に、6月2日に「トヨタはなぜ、キレたのか?」を執筆した。
リーダー企業であるトヨタが、下位のホンダに対して比較広告を行った異例の展開。それは、予想外に好調なインサイトをそのままにしては、収益面でも自社のブランドポジショニングの面でも大きな影響が発生するからだ。
では、ホンダの次なる一手はどのようなものかと思っていたら、今度は全く独自の世界を展開することにしたようだ。

6月11日のニュースリリース
<「インサイト」のエコ運転技術向上を競う「エコグランプリ」をHondaのホームページ上で開始 >
http://www.honda.co.jp/news/2009/4090611.html
<「インサイト」に搭載されたエコアシストと、インターナビ・プレミアムクラブのサービスを活用し、エコ運転技術の向上を競う>というイベントだ。さらに<インサイトのオーナー以外でも「エコグランプリ」ホームページ上の「インサイト・シミュレーター」でエコ運転を疑似体験できる「バーチャルチャレンジ」機能も追加する予定>だという。

イベントにどのような意義があるのかは、「エコグランプリ」のサイトにある説明の動画中表示されるコピーが非常にわかりやすい。
以下、全文を転載する。

----------------------------------------------------------
20世紀のレースはスピードを競っていた。
21世紀のレースが競うもの。
それは、あなたの燃費。
場所は、ふつうの道。
開催日は、毎日。
そしてドライバーは、全国のみんな。
エコドライブを競いあい、励ましあい、讃えあい、ランキングを楽しむ
かつてないレースが、いま始まります。
記録更新に、ついにんまりしたり。
特に燃費がよかった日には、晩ご飯のおかずが一品増えたり。
気がつけば、向かいの奥さまがライバル(!)なんてことも。
クルマに乗ることが、ただの運転ではなく、イベントになる世界へ。
----------------------------------------------------------

上記からどのようなメッセージが受け止められるだろうか。
昨年12月5日にF1レースからの撤退を発表したホンダ。苦渋の決断を伝える福井社長は「F1に注いできた情熱、リソース、人材を新しい時代に振り向けるべきだという強い意志」と語った。
ホンダの提案する新しい時代、21世紀のレースの一つのカタチが「エコグランプリ」なのだ。

<クルマに乗ることが、ただの運転ではなく、イベントになる世界へ>。この言葉は非常に意味深い。
クルマの中核たる価値は「移動する・輸送する」である。そして、その「移動・輸送」がどのように実現されるのかという、製品の実体価値はクルマの内外装のデザインや走行性能、居住性や安全性、そして燃費性能などで構成される。
クルマをクルマたらしめているのは、何か一つの構成要素ではない。全ての要素が相まってクルマができあがっているのだ。

クルマという製品がもたらしてくれる根源的な価値を何と捉えるのかも重要だ。
かつての高度成長期に、はじめて「マイカー」を手にした人は「ああ、これで移動・輸送が楽になるなぁ」とだけ考えただろうか。真の喜びは「クルマのおかげで日常が非日常になる」というわくわく感ではなかっただろうか。

燃費性能は重要だ。そして、そのために走行性能を犠牲にしないスペックも重要だろう。
しかし、かつて非力なスペックな「マイカー」を手にした時、それを憂うのではなく、そんなクルマをいかに「乗りこなすか」に喜びを見いだし、実践しはしなかっただろうか。
パワーがなくてもいかに速く走るか。ハンドリング、ブレーキング、アクセルワーク。
<20世紀のレースはスピードを競っていた。21世紀のレースが競うもの。それは、あなたの燃費。>
エコドライブの能力を磨いて楽しむ。それがホンダの提案なのだ。

トヨタから突きつけられた逆挑戦状。ハイブリッドとしての性能は「モーターだけでは動けない」「モーターの性能が弱い」との指摘。
ホンダの答えは「気にしない」ではないだろうか。
クルマのスペックだけではなく、乗り手の乗り方、ドライビングの技術と一体となって実現できる低燃費と環境負荷の軽減。そんなメッセージに共感する自社ユーザーを囲い込んで、独自の世界で楽しく競い合って技術を磨く。
関心を持った見込み客もバーチャル体験をさせて、独自の世界観と価値観に引き込む。

スペック云々の指摘には耳を貸さず、あくまで独自の世界観を展開するホンダ。リーダーからチャレンジされたチャレンジャーは、単純なチャレンジを返すことはしなかった。
価値観の違いという、究極の差別化策を展開し、「同じ土俵で戦わない」という絶妙の戦い方を展開しはじめたのだ。

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2009.06.15

プリッツの「つれてって君」から大いに学んだ!

1963年の発売以来、46年にわたって人々から愛され続けているロングセラー商品、グリコの「プリッツ」。そのプリッツが究極の進化を遂げた?

江崎グリコの「プリッツ」は発売以来46年を経た押しも押されもしない、堂々のロングセラー商品である。同じくロングセラーとして商品姉妹商品のような存在である「ポッキー」よりも3年先輩だ。「1粒300メートル」のキャラメルで名をはせた同社が、菓子カテゴリーへ進出を狙った戦略商品であるが、ポッキーと共に見事に看板商品として長きにわたり売れ続けている。

ロングセラー商品、または定番商品といわれるモノが、長い年月を経て人々に愛され、生き残っているヒミツは何だろうか。そんな問いかけをすると、多くの人から「変わらないこと」という答えが返ってくる。
確かに商品を作り続ける上での「こだわり」は不変であってほしいものだ。しかし、商品が生き残っていくためには、時代や人々の嗜好の変化に敏感に対応する必要がある。食品であれば、高まる健康志向に対応して減塩やローカロリーなどに対応する必要がある。また、消費者の嗜好の多様化に合わせて、様々な味のバリエーションが開発され続けているのである。

プリッツが好まれ、売れ続けているのは、一つには食べやすさと食感のよさだ。商品の語源は欧米で食べられている「Pretzel」である。特に米国で食べられているスナック菓子タイプの物が開発のヒントになっていたはずだ。しかし、米国のプレッツェルはあまりにゴツくて固い。かつてブッシュ大統領がフットボール観戦中に喉に詰まらせて倒れたほどに。
それを日本市場に合わせて、ほどよい固さと、指でつまんでポキポキと食べられるように工夫したのがプリッツだ。その形状と食感が中核的な価値である。
その価値を実現する製品の実体としては、様々な味のバリエーションであろう。発売当初「バタープリッツ」という味で登場したが、その後様々な味が開発され、さらにご当地味の展開によって実に多様なバリエーションが市場に投入されることになった。

今回の製品仕様変更は、江崎グリコのホームページにも掲載されていない。深く、静かに進行しているようだ。商品パッケージ変更なので、徐々に切り替わっている。
変更されたパッケージが店頭において目に止まった時のインパクトは絶大だ。例えばコンビニの棚。あなたの目は、棚から見つめる視線に気がつく。そう、このパッケージの意図がわかっている店は、本来的には裏である面を棚の正面に向けて陳列している。パッケージにはつぶらな瞳が描かれているのだ。
なんだろうと思って手に取り、パッケージを見ると、使い方が描かれている。

Photo
「つれてって君」というらしい。
このパッケージを考えた担当者は間違いなく天才だ。
パッケージの表面にミシン目が入っており、「つれてって君」の腕を引き出す構造になっている。腕をカバンの端に引っかければ、カバンの中で迷子になることなく、いつでも取り出せるような状態でプリッツをつれて歩くことができる。

パッケージがどのような形状をしていても、「食べやすさと食感」というプリッツの中核たる価値には影響はない。実体としての価値である「味とそのバリエーション」にも関係ない。しかし、その形状であることが、製品の魅力をより増大させる「付随機能」として、「つれてって君」は抜群の効果を発揮しているといえるだろう。
カワイイ。
アタッシュケースであったり、ブリーフケースであったりする、ガッシリした男子のカバンではイマイチうまく「つれてって君」を引っかけることはできないが、女子のカバン、特にトートバッグタイプなら相性は抜群だろう。女子のハート、わしづかみだ。

トートバッグは小さな子供の母親がよく利用する。バッグの端に引っかければ、カワイイと子供も喜び、取り出して与えるのも容易になる。
ターゲットはママだけではない。独身女性や子育てが終わった女性も「つれてって君」を見れば、ついつれて歩きたくなって手に取り購入する。ターゲット層を拡大するという絶大なパワーも発揮しているのである。
「つれてって君」、恐るべし。

ロングセラー商品、定番商品も、ただ売り続けているのでは生き残ることはできない。
どんな小さな改良でも、本来の価値とは関係ないと思っても、できることは何でもするべきなのだ。カワイイだけではない。「つれてって君」から学ぶ所は大きい。

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2009.06.12

ロッテリアの「さらに一歩」とミスドの「次の一手」

低価格路線をひた走るロッテリアがさらに大幅値下げを敢行。その行き着く先には何があるのか。また、ミスタードーナツの新商品の意味するものは何なのか。

日経MJ5月27日が伝えた<ロッテリア 低価格品で巻き返し 一部バーガー50円引き 100・150円飲料も拡充>という記事も記憶に新しいうちに、ロッテリアはさらなる値下げを展開する。
<ロッテリアが都内限定で“昼メニュー”を大幅値下げ>
http://news.walkerplus.com/2009/0610/12/

<マクドナルドの「MPower スペシャルランチセット」と同じくランチタイムを狙った割引>を都内限定21店舗で約1ヶ月間平日のランチタイムに展開するという。

筆者は以前の記事「したたかなロッテリアのフォロアー戦略?」で「ロッテリアはハンバーガー業界でのフォロアーのポジションを選択した」と推察した。
天才仏料理シェフ・嶋原博氏を招いて「絶品チーズバーガー」を発売。売上げに大きく貢献したものの、マクドナルドの攻勢で失速。20年前のマクドナルドの「390(サンキュー)セット」に対抗した「380(サンパチ)トリオ」が業界リーダーの力の前に敗れ去った轍を踏んだわけだ。(前出記事の読者の指摘通りである)。

もはやチャレンジャーのポジションをあきらめ、フォロアーのポジションに甘んじる。それも、マクドナルドという強力なコストリーダーが君臨している業界においては致し方ない。モスバーガーをはじめ、他の企業はチャレンジよりも独自性を構築してニッチャーとしての独自の生存領域確保に躍起である。それとも一線を画したフォロアーという選択も悪いことではないのだ。

今回の展開は「MPower スペシャルランチセット」へのチャレンジとも映るがそうではない。マクドナルドのセットよりもほんの少し低価格に設定したのは、ランチ予算を圧縮せざるを得なくなって、マクドナルドからの流出した顧客を拾い上げるフォロアーらしい戦略だといえる。リーダーが作った市場の中で、一段階レベルを落としてひたすら生き残りを図るのがフォロアーであるのだから。

しかし、ひたすら低価格化だけでは収益的に生き残るのは難しい。新たな付加価値商品で単価アップを狙う動きもある。それがミスタードーナツだろう。
<ミスド初のイートイン限定ドーナツ「デコド」>
http://news.livedoor.com/article/detail/4194728/

<いつものドーナツに店舗でしか味わえないデコレーションをプラスした「デコド」を、6月10日より全国販売する>として、例えば<メープルハニーディップ」は、メープルソースをかけて温めたハニーディップにホイップクリームを添えた>というような商品を展開するという。価格は189円。高単価の部類に属するだろう。

ミスタードーナツは原料の小麦粉の高騰以来、実質的な値上げである量目調整によって商品自体がずいぶんと小さくなった。ファンには不評が広がった。しかし、世の外食業界・ファストフード業界は低価格路線をひた走る。さりとて、実質値上げをする状態のミスドは値下げは厳しい。そこで、高付加価値商品を投入することとなる。

鳴り物入りで投入されたのが、モスバーガーとのコラボレーション商品の「ドーナツバーガー」。168円と比較的高単価商品であり、期待がかかっていたはずだが、登場時以来、あまり話題に上っていない。売上げも推して知るべしではないだろうか。
コラボレーションはモスとミスドが各々の顧客を送客する狙いがあったと思われるが、イマイチうまくいかなかったのではないだろうか。

そこで、ミスドは次の一手として展開したのが「イートイン」だ。
ミスドにはもう一つ、「大人のミスド」というポジショニングを持った「アンドナンド」という店舗展開をしている。クリスピー・クリーム・ドーナツをはじめとした黒船ドーナツが上陸した時期に、自社もプレミアムドーナツを展開するために起こしたブランドだ。2007年のことである。
明らかに高単価商品がラインナップされており、ドーナツは180円~250円中心。高付加価値・高単価展開を狙い、スタート時には「年内に都内周辺で6店舗出店し、今後全国でフランチャイズ展開も視野に」と強気のコメントも発表していた。しかし、現在も、渋谷・神保町・汐留の3店舗のみと苦戦が鮮明だ。

そのアンドナンドの最も特徴的な商品は「イートインメニュー」であろう。ホイップクリームを載せた暖かいドーナツにエスプレッソやラズベリーソースをかけて食べるスタイル。400円の高単価商品だ。価格的には今回の「デコド」とは倍以上の開きがあるが、スタイルは共通している。
低価格大衆路線のミスドがプレミアム路線のアンドナンドと同じスタイルを展開するのは価値の毀損になる。しかし、アンドナンドもイマイチうまくいっておらず、店舗展開も進んでいないため判断を下したのではないだろうか。

ロッテリアがどこまでフォロアーのポジションをガマンするのか。
ミスタードーナツのプレミアムブランドを犠牲にしてまで展開する高単価商品の投入策がうまくいくのか。
戦略に絶対の正解はないけれど、立ち止まれば必ず沈んでいく動きの速い業界、変化の激しい時代おける必死の策であることは間違いない。成否を見守りたい。

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2009.06.11

「空電(からでん)」は果たして普及するか?

<携帯電話で「電話をかける」だけで、URLなどの情報がメールで届く>というNTTメディアクロスの新サービスは果たして普及するのだろうか。

昨年から試験運用が続いていた「空電(空電)」が6月15日から本格的にサービスを開始するという。
(NTTメディアクロスのニュースリリース: http://www.nttmc.co.jp/newsrelease090609.html )

リリースによると、同サービスは<(携帯電話ユーザーが企業の)広告などの詳細情報を携帯電話用インターネットサイト(以下、携帯サイト)で閲覧する際に、URLの入力や二次元バーコードの読み取りといった煩雑な作業を行うことなく、「電話をかける」だけで携帯サイトのURLなどをメールで受信できる>というものだ。
「空メール」を送るとアクセス先のURLが送られてくるしくみはずいぶんと普及したが、メールを送るのではなく、電話をかけることで代替しより簡便にしたという意味のネーミングである。
NTTドコモ、ソフトバンク、auの3キャリアに対応しているという。

リリースにはデモンストレーション用の電話番号が記載されている。携帯からかけてみるとIVR(音声自動応答装置)に着信し、メール送信承諾の確認を「1」のボタンで入力するだけで、程なくURLがメール(SMS:ショートメールサービス)で送られてきた。メールのURLをクリックすれば、携帯サイトにすぐに接続できる。確かに便利かもしれない。従来のように2次元バーコードをアプリケーションを起動して読み込む必要もない。「続きはWebで」と、検索キーワードを入力して検索サイトからアクセスする必要もない。ましてやURLを直接入力する手間に比べればまさにラクチンである。

全く新しい概念のサービスなので、ここは一つ、E.M.ロジャースの「イノベーション普及要件」で検証してみよう。
このサービスを受容するか否かで大切なのは、エンドユーザーであある消費者と、このサービスを自社で利用しエンドユーザーに提供する企業の双方の視点である。

■相対優位性…今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。

この点に関しては、ユーザーは前述の通り一度使えば便利さが理解できるので問題ないだろう。企業としても簡便さの提供により、ユーザーからのアクセスアップが期待できるため歓迎だ。

■両立性…当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。

空電の電話番号以外にも二次元バーコードや検索キーワードを並記することもできる。ユーザーは好きな方からアクセスすればいいし、企業としても若干、告知が煩雑になるが大きな問題ではないだろう。特に普及の障害になるとは思えない。

■複雑性…理解できないほどの複雑性を持っていないこと。逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であること。そのバランス。

ユーザーにとって複雑ではない。しかし、「電話をかける」という当たり前な行為ではあるが、初回利用時に「電話をかけるとメールが届く」というしくみ自体に違和感を覚える。初回利用をいかにさせるかが一つのカギであるだろう。
企業にとっては、自社で特別なシステムを持つ必要もないため、問題にはならないはずだ。

■試行可能性…とりあえず、本格的な導入の前にプロトタイプやデモなどで効果を認識できること。自ら触ってみることができること。

サービス自体の普及のためには、リリースにあるようなデモ番号を告知して、多くのユーザーに体験させることがポイントとなるだろう。その意味では、サービス提供業者であるNTTメディアクロスが利用者へのプレゼントキャンペーンなどを展開し、応募登録ページのURLを空電で取得するような体験促進を積極的に展開すべきだといえるだろう。
もう一方の側面を考えれば、利用企業がいかに負担なく試行ができるかも大きなカギだ。リリースには利用料金の記載がなかったが、初期費用はできるだけ低減すべきだろう。従量課金である場合、その部分も普及の初期段階ではある程度軽減すべきだ。何といっても、新たなメディアはどの程度レスポンスが発生するのか読めない。まして、同サービスはユーザーの通話料は企業負担となっている。企業に対しても何らかの「お試し」を提供する必要があるだろう。

■観察可能性…目に見えない効果ではなく、明らかに効率が上がるもしくは質が向上するなどの効果が観察・実感できること。

ユーザー側としては、相対優位性の項目でも述べたとおり、二次元バーコードの読み取りやURL、検索キーワードなどの入力という手間の軽減が実感できるため問題ない。
サービスを利用する企業側がどの程度のメリットを実感できるかも重要だ。前項の試行可能性でも述べたように、レスポンスが読めないことを軽減するため、NTTメディアクロス自身がユーザーへのお試しキャンペーンなどを展開し、どのようなパターンでどの程度レスポンスが得られたかなどの結果を積極的に開示することが求められる。

以上のように整理すると、意外と一度試させることができさえすれば、ユーザー側の利用は進むと思われる。むしろ、問題は利用企業側だ。NTTメディアクロスの努力に期待したい。

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2009.06.09

低価格時代の価格戦略フレームワーク

「米フォートルイス大学経営大学院のウィリアム・ドッズ教授が考案したフレームワーク」というものが紹介されていた。他のフレームワークと対比して価格戦略に求められる要素を考えてみよう。

今回はちょっと小難しい出だしになって恐縮なのだが、ちょっとガマン。といいつつ、毎朝「お前の文章は難しいねぇ」と顔をしかめながらコラムを読んでくれている70歳を過ぎた母を思うと少々胸が痛むのだが、あえて今回は書きたい。
尚、何度か紹介してきている事例などとも一部重複するが、今回はフレームワークにフォーカスして論旨を展開することとする。

で、何かというと、日経ビジネスオンラインの新連載「需要蒸発に勝つ価格戦略」の2ページ目に非常に興味深いフレームワークが紹介されていたのだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090604/196695/?P=2

ドッズ先生(William B.Dodds)の著書「MANAGING CUSTOMER VALUE」はGoogleブックスに掲載されていて、ほとんど全ページがプレビューできてしまうのだが、その要旨が日本語でサラリと説明されているのでとっても貴重なので必見記事だといえるだろう。
おっと、記事内容自体も、もちろんとても興味深く面白い。

要旨は、「消費者の価格帯におけるポジション」というフレームで、製品やサービスの価値の高低を縦軸、価格を横軸に置くと、S字状に右肩上がりのポジションができあがる。
価格と価値が正比例するのは当たり前だが、<価格がある程度まで高まると、ほぼ横ばいになる。質の向上が限界に突き当たり、それ以上は高まることがなくなる>というのが一つのミソである。

もう一つは、最低価格ゾーンあたりに群れる顧客層を<安物しか買う余裕がない。質が悪く長持ちしない安物ばかりを買って、その結果、かえって出費がかさみ、ますます貧しくなっていく>「貧困の連鎖層」と定義している所だ。そんな人々を相手にしたら、利益は出ないは店は混むは、一般客はドン引きするわで絶対に引き寄せるべきではないとの主旨だ。無謀な特売の繰り返しは死を招くとの示唆である。

もう一方、価値を高めるのが限界に来ているにも関わらず、それ以上に高い金を払おうとする人たちは、「顕示的消費層」としている。ズバリ、見せびらかし屋だ。そして<彼らは概して気まぐれで人数も少ないので、この層を当てにして商売を行っても、安定した収益を上げることはできない>という。

故に、狙いは真ん中の「バリューゾーン」に属する顧客層。そしてそれは、質よりも価格を重要視する「価格フォーカス層」と、質を重視する「品質フォーカス層」、その中間で両方に注意を払う「バリューフォーカス層」に分類できるという。

記事では不況になると「価格フォーカス層」と「品質フォーカス層」への二極化が進むため、どちらかにターゲットを絞ることが重要としている。そして、その際の留意点が述べられている。
詳細に興味がある向きは、冒頭のリンクから記事を確認していただきたい。ここまででも、筆者としては引用の多用を反省している所だ。スミマセン。日経ビジネスオンラインさん。

さて、ドッズ先生のフレームワークは、筆者がよく使う「バリューライン」という考え方ともよく似ている。もしかすると、ドッズ先生がオリジナルかもしれない。
Photo_2
ドッズ先生と同じように、縦軸に価値、横軸に価格を取る。S字のような繊細な表現はしていないのだけれど、大事なことは、価格と価値は正比例するので、「バリューライン」を上回らなければ、価格戦略上優位には立てないということだ。

ドッズ先生のフレームと見比べて思うのは、「スーパーバリュー戦略」のポジションを取っている事例が、現実にはなかなか見つからないなと思っていたけれど、前出のS字で考えれば、確かに「価格が低くてとても価値が高い」とうポジションは取りづらいあろう。故に、価格戦略の選択肢は価格を抑えて価値を少し高める「グッドバリュー戦略」か、価格を中ぐらいにして価値を高める「高価値戦略」が現実的ということだろう。
このバリューラインのフレームでは、ドッズ先生のいう中間的な「バリューフォーカス」のポジションを考慮していないが、昨今の不景気下でにおける二極化は、期せずしてグッドバリューか高価値かのポジション選択をすることと同じ意味を持つことになる。

どちらを選択するかではなく、両方をうまく使い分けている例がある。ファーストリテイリングだ。990円ジーンズ、480円プリントTシャツの「g.u.(ジーユー)」は「グッドバリュー戦略」。ユニクロは「高価値戦略」のポジションを取り、グループ内での棲み分け、補完的なポートフォリオをうまく実現しているのである。

価格戦略はマーケティングの4Pの中でもとりわけ重要なPである。
製品を作る。販路を作って維持する。広告屋プロモーションなど様々なコミュニケーションを展開する。Price以外のマーケティングの3つのP(Product・Place・Promotion)は全て「コスト」なのだ。
不景気で低成長な世の中、あらゆるフレームワークを使いたおして、綿密に何度もシミュレーションをしまくっても、やり過ぎなことはあるまい。

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2009.06.08

「緑茶風味コーラ」の背後に隠された特保を笑い飛ばす戦略?!

6月8日、日本コカ・コーラが緑茶風味・カテキン入りのコーラ「コカ・コーラ プラス カテキン」を発売した。リリースでは「スタイリッシュな女性のための」とあるが、狙いはどこにあるのだろうか。

「コカ・コーラ プラス カテキン」は1月に発売されたビタミンC配合の「ノーカロリー コカ・コーラ プラスビタミン」に続く「コカ・コーラ プラス」ブランドの第2弾である。リリースによると同ブランドは<毎日の生活にちょっとした“plus”を提供する、スタイリッシュな女性のための炭酸ブランド>というターゲットとポジショニングが与えられている。

飲料業界のトレンドは、ゼロカロリー炭酸ブーム以降、茶系飲料が縮小している一方で、茶の成分であるカテキンの効用には相変わらず高い支持が集まっている。そこで、茶とカテキンを切り離したニュータイプの飲料の登場が今後のトレンドとなると予想される。
この「コカ・コーラ プラス カテキン」もその一つであるが、先行して花王より「ヘルシアスパークリング」が先月発売されている。同製品はヘルシア緑茶という茶系飲料から、限りなく茶系飲料の風味を消し去り炭酸飲料としての属性を加えたものだ。

その意味からすると、コカ・コーラ プラス カテキンとヘルシアスパークリングは強力な競合関係であることがわかる。
ヘルシアスパークリングのターゲット層は明確に発表されていないが、メタボやらウエストやらウエイトやらが気になる人々であることは間違いない。キャラクターは、「ほしのあき」。筆者を含め男性にファンは多いが、「30歳過ぎてグラビアアイドルは凄い」と女性層、特に20代後半から30代女性の支持も高い。コカ・コーラ プラス カテキンのターゲットとかぶる。
コカ・コーラ プラス カテキンのターゲットも女性だけかといえば、そんなことはないだろう。そもそも、コーラ支持は男性の方が強いといわれている。炭酸好きもしかり。故に、コカ・コーラゼロも男性メインの広告展開を行ってきた。
ノーカロリー、もしくはローカロリーのカテキン入り炭酸飲料。健康と体型が気になる男女がターゲット。両製品は元々の茶系飲料と炭酸飲料というカテゴリーから相互に領空侵犯し、ライバル関係となっているのだ。

正確にいえば両製品には明確な違いがある。ヘルシアは特定保健用食品(特保)であり、コカ・コーラ プラスは特保の認可を受けていない。
日本コカ・コーラも2004年~2005年にかけて特保の認可を受けた商品をいくつか上市したが、現在は特保飲料は一つも製品ラインアップに加えていない。ここに、日本コカ・コーラの戦略の方向性が感じられる。

同社には厚労省に申請すれば特保の認可を受けられるのではないか?という商品がいくつもある。例えば、茶系飲料でいれば「一(はじめ)茶花」。お茶の花に含まれる「フローラテアサポニン」に注目し、花の抽出成分を配合。「毎日のウェイトサポートに」というポジショニング。CMでユーモラスなキャラクターを演じる、タレントの「キム兄」に代表されるメタボやらウエストやらウエイトやらが気になる人々がターゲット。しかし、特保は取得していない。
今回のコカ・コーラ プラス カテキンも、「カテキン配合・特保コーラ」というポジショニングだって取れたはずなのだ。話題にもなるだろう。しかし、それをしていない。

特保飲料は通常の清涼飲料の相場、500ml・150円より少々高い価格設定がされている。ヘルシアスパークリングは189円である。一(はじめ)茶花もコカ・コーラ プラス カテキンも特保ではなく、価格は150円だ。
通常の価格と異なれば、自販機でのオペレーションは厄介になり、消費者も買いにくい。自販機の台数を力の源泉とする同社にとってはそれは避けねばならない。

しかし、理由はそれだけではないはずだ。もう一つは、消費者の需要価格への考え方である。確かにシリアスにウェイトやらウエストやらに問題を抱えている人にとっては、特保価格は気にならない。しかし、そうでない人にとって、価格の上乗せ分は受容しがたい。一方、通常の飲料と比べ、同じ価格で特保的な効果を何となく期待できるのであれば、そちらが選択されるはずだ。

あえて特保を取らない日本コカ・コーラの戦略は、低価格で利益率が低くなっても、可能な限りシェアを獲得するという「ペネトレーション(市場浸透)価格戦略」なのではないだろうか。シェアを最大化し、規模の経済と経験効果で利益を創出していくという、同社の得意技である。
消費者の低価格志向は、景気の低迷を反映してますます高まっている。一方、健康志向の高まりだけでなく、メタボ検診の義務化など、日常生活におけるウェイトコントロール需要はさらに高まっている。
一生懸命特保の認可を受けてそれを訴求する他の飲料メーカーと一線を画して、強大な販売力を背景に、健康への効果を期待させる製品を低価格で売りまくろうという日本コカ・コーラ。業界リーダーだからこそできる「力の戦略」に対抗する他社の差別化戦略。生き残るのは千に3つといわれる飲料市場の今後に注目したい。

関連記事:<日本コカ・コーラの茶系飲料戦略を「4P」の整合性で読み解く

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2009.06.05

日本コカ・コーラの茶系飲料戦略を「4P」の整合性で読み解く

茶系飲料市場が縮小している。そんな中で、飲料業界ナンバーワンの日本コカ・コーラはどのように戦おうとしているのだろうか。

日本経済新聞6月4日号投資・財務面に「伊藤園、純利益53%減 緑茶飲料伸び悩む」との見出しが掲載されている。主力商品カテゴリーの縮小が直撃したわけだ。
緑茶飲料に取って代わったのは、カロリーゼロという新たな商品属性を獲得した炭酸飲料だといわれている。炭酸カテゴリーとなれば、日本コカ・コーラは笑いが止まらない・・・かといえばそうでもない。自社にもしっかり緑茶カテゴリーがあるからだ。しかも、緑茶カテゴリーは伊藤園の「おーいお茶」、キリンの「生茶」、サントリーの「伊右衛門」が3強でシェア7割を占める。そこにどうしても切り込めないというジレンマも持っているのだ。

そんな中、日本コカ・コーラの緑茶飲料「綾鷹」が、真田広之が主演するCMの新作を2年ぶりにオンエアしている。う~ん、真田さん、相変わらず渋い。無精髭と長髪がちょっと、もっさいけど。
わざわざCMを作るということは、テコ入れをしようという現れであろうが、あいにくマーケティングはPromotion戦略の一つであるCMで何とかなるほど甘くはない。
と、思っていたら、実はProduct(製品)、Price(価格)、Place(販路)まで改造していた。

綾鷹は2年前にわき起こった「プレミアム緑茶」カテゴリーの唯一の生き残りだ。150円を超える価格。500ml未満の容量。でもオイシイ。そんなカテゴリーを飲料各社が創り出そうとしたのだ。結果はどれも惨敗。確かに時代は「いざなぎ越え」などとうたわれた好景気の中にはあったものの、賢くなった消費者はNO!を示したのだ。
そんな中でも、綾鷹は425ml PETで147円(税別)と、比較的、容量も価格も標準に近く、飲んでみれば確かにおいしいことから生き残っていたのだ。しかし、消費者の低価格志向は高まり、食品は軒並み値下げ傾向である。もはや、綾鷹のプレミアム戦略もこれまで。

ニュースリリースによると、現行の425ml PET 147円(税別)も継続するものの、500ml 150円(税込み)の標準的な価格・容量のものも発売するという。
ペット容器も専用の切り子調スリムボトルから共用品に変更している。つまり、CMだけでなく、ProductとPriceも変更している。そして販路であるが、同リリースではメインの自販機やコンビニだけでなく、販路を拡大するとある。割高なものが敬遠されるスーパーやディスカウントへの展開だろう。つまり、綾鷹の4Pは全て変更されたことがわかる。

4Pが変わると、ターゲットやポジショニングにも影響する。
リリースではターゲットとポジショニングが次のように述べられている。<「綾鷹」のメインターゲット層である本物志向の30代~50代の男性のみならず、豊富なラインナップで家族を始めとするより多くの方々に、本物の緑茶の味わいをお届けしてまいります>。

おっと、ちょ~っとまった。つまり、フツーな人々に幅広く、150円でオイシイお茶をふるまってしまおうということだ。となると、自社商品内でのカニバリゼーション(喰い合い)が心配されるが、大丈夫だろうか。
大丈夫ではないだろう。「一(はじめ)茶織」。
「中嶋農法で作られたお茶」という独自性が与えられているが、やはり、従来型150円の普通の緑茶飲料であるのは変わらない。どうする「一」。

恐らく、今後、綾鷹の拡販が進めば「一茶織」は徐々に市場からフェードアウトしていくのではないだろうか。その代わりに、「一」の派生商品の拡販を強化する。いや、既に強化されている。
「一(はじめ) 茶花」だ。<ロート製薬株式会社との共同プロジェクト素材である、茶花(お茶の花抽出物)を配合した健康緑茶>という、明確なポジショニングも与えられている。
武者姿のキム兄こと木村祐一のオナカのボタンが毎回はじけ飛ぶCMは、ウエイトやウエストが気になる人という明確なターゲット設定もなされている。
ターゲットとポジショニングがかぶっていないので、綾鷹とのカニバリは回避できているということだ。

飲料業界のリーダー企業でありながら、緑茶飲料カテゴリーではチャレンジャーの日本コカ・コーラ。その縮む市場という環境変化を巧みにとらえた戦略には、脱帽である。

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2009.06.04

「もんでいい?」はファンタであってファンタでない?

6月1日発売の「ファンタ もみもみ フローズン」。「ふるふる」で炭酸飲料に禁断の「振る」という属性を加えたファンタは、1958年の発売以来、ついにここまで来たかという進化を遂げた。

待ちに待った(?)発売日。だがしかし、コンビニの店頭には並ばなかった。配貨の都合なのか。遅れること1日。冷凍の棚にグレープ味1フェースのみが登場した。強大なチャネル支配力を持つ日本コカ・コーラといえども主戦場の飲料棚以外では勝手が違うということか。
気がつけば前日まであった「アクエリアス ビタミンガード 冷凍PET」が姿を消している。その商品を犠牲にして「ファンタ もみもみ フローズン」の棚を確保したということか。

既存製品を引っ込めてまで展開する「ファンタ もみもみ フローズン」には、日本コカ・コーラの並々ならぬ力の入れようを感じる。朝青龍関の演じる「ファン太郎」のCM、『ファン太郎が行く 発音』篇は、筆者好み(おっとっと・・・)のメガネの外国人女性教師に「もんでいい?」と発音するという、相変わらずの軽妙洒脱ぶりを発揮している。それ以外にも、なんの意図か朝青龍関の氷像を作るなど、話題喚起に躍起だ。そんな内容を伝える新製品のニュースリリース( http://www.cocacola.co.jp/corporate/news/news_20090528_01.html )もかつてなく盛りだくさんである。

待望の商品を飲んでみた。いや、飲む前にはもまなければならない。「もんでいい?」ってな感じで。
もみもみもみもみもみもみ。手が冷たい・・・。
そう、ニュースリリースでは商品の使用方法として「体を冷やしながらほどよく溶かそう」として、「暑い夏に、海やプール、花火大会などのイベントで、またお風呂上りに火照った体を冷やしたいとき」と、正しい利用シーンが書いてある。6月初旬。ちょっとまだ早かったか。

で、飲んでみたというか、シャリシャリ食べてみた。う~ん、ファンタらしいグレープ味が口中に広がる。その時、自分がティーンエイジャーな気分になる。なんというファンタスティック。
しかし、同時に「あれ?」と思う。「シャリシャリ」はいいけど、「シュワシュワ」がない・・・。

先の衝撃の商品、「ファンタ ふるふるシェイカー」は、炭酸飲料を振るという禁断の扉を開き、さらには日本コカ・コーラが「ゼリーのプルンとした食感と炭酸のシュワシュワを同時にお楽しみいただけるユニークな炭酸飲料」と商品特長を伝えるとおり、その期待を裏切らない感触が楽しめた。
しかし、「ファンタ もみもみ フローズン」には全く炭酸が感じられない。・・・ってことは、これってファンタじゃないじゃん!という感じもする。さすがに炭酸を凍らすのは無理ってこと?
しかし、ファンタという飲料の製品特性を考えれば、それは極めて異常なことではないだろうか。製品の中核たる価値はフルーツ味の炭酸が醸し出す「甘いのにスッキリ」ではないだろうか。その属性を捨てて、「甘くてシャリシャリ」にしたわけだ。でもそれって、ただのシャーベット?

ファンタであって、ファンタでないファンタを上市する日本コカ・コーラの意図はなんだろうと考えてみる。それは、コンビニの「棚獲得」ではないだろうか。
「アクエリアス 冷凍PET」でコンビニの冷凍棚へコカ・コーラは戦場を拡大した。飲料棚からの拡大は、まさにエポックメーキングなできごとであろう。そして、その製品の派生商品である「アクエリアス ビタミンガード 冷凍PET」を展開。2フェース獲得である。
その「アクエリアス ビタミンガード 冷凍PET」を引っ込めての、「ファンタ もみもみ フローズン」の展開だ。確かにアクエリアス2商品はターゲットがかぶる。ファンタであれば、若年層を中心とした新たなターゲットを拡大できる。
新たなターゲットのどんな需要を獲得したいのか。
「ふるふる」は、ゼリー状ではあるが、まだ確かに飲料である。しかし「もみもみ」は正直、飲んだ気がしない。「冷凍PET」は溶けて冷え冷えの所を飲むのが正しい使用法なので飲料であることは間違いない。しかし、「もみもみ」は「食べる」のが正しいのだと思う。
日本コカ・コーラが「飲料であって飲料でない」製品を発売したのだ。だとすると、この商品の競合はなんだ?
ズバリ、コンビニのアイスクリーム棚に陳列されている商品群ではないだろうか。コカ・コーラの営業力を持ってしても、飲料棚を離れて、アイスクリーム棚に展開するのは難しい。ましてや、飲料以外の製品を開発するのも大変だ。だとしたら、飲料に別の属性を加えればいいのではないかとの意図ではないだろうか。

企業の成長戦略を考える、「アンゾフのマトリックス」は、既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかと、既存市場・顧客を狙うのか、新規市場・顧客を開拓するのかというかけ算で考える。既存顧客は少子高齢化の潮流から考えれば縮小は明確だ。かといって、ファンタは年齢を問わない一部マニアな層がいるものの、若年層以外を開拓するのも骨が折れる。だとすると、既存顧客に新たな商品属性を訴求するのが正解だ。
ファンタの顧客層に、「ファンタであってファンタでない」、「もみもみ」を、飲ませるのではなく食べさせる。
もみもみして、シャリシャリ食べながら、日本コカ・コーラの深謀遠慮が伝わってきた。


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2009.06.03

ジーユーの「ケタ違い宣言」とユニクロのそろり値上げの予感?

ユニクロを傘下に持つファーストリテイリング社の「g.u.(ジーユー)」ブランドの戦略が加速している。その影で主力のユニクロを同社はどう動かすのか。

「ケタ違い宣言」であるという。
今年3月に「ジーユー新価格宣言」として象徴的に990円ジーンズを掲げて、従来の価格戦略からさらなる低価格に舵を切ったジーユー。旧価格はユニクロの3分の2程度。正直中途半端が否めなかった。故に、伸び悩んだ。前回の発表では、全商品の8割をユニクロの半額以下にすると宣言した。
そして、今回の「ケタ違い」である。6月2日の発表会での目玉は、990円の半額以下の490円のプリントTシャツ、990円2WAYチュニック、カーゴパンツ、ガールズジーンズなど。全商品の半分が990円以下。「家族4人が1万円以下でトータルコーディネートできる」といい、さらに低価格を強化したのが明確だ。

低価格路線強化の一つの理由は、外資のファストファッションブランドが次々と上陸してくるのを迎え撃つことだろう。原宿に大行列を作ったフォエバー21も「全身コーディネートで1万円」が売りの一つであるが、ジーユーのは価格はやはりそれと比べても「ケタ違い」である。

しかし、ジーユーの今後の展開で見逃せないのが、多店舗展開化をさらに加速させようとしている点だ。<2013年8月期に売上高500億円、日本全国200店舗体制を目指す>。という。
(Fashionsnap.com http://www.fashionsnap.com/news/2009/06/gu-990yen.html )

ユニクロの2月末における国内店舗数は766店。それに比べればまだ少ないが、ジーユーの同時期の店舗数が57店であったことを考えればいかに急拡大であることがわかるだろう。
これは、ファーストリテイリングのグループ戦略である。3月に行われたジーユーの戦略説明会で柳井社長が明言している。
「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」と。

ファーストリテイリングの戦略を読み解くには、「バリューライン」を意識するとわかりやすい。「価格」と「価値」が正比例する関係を「バリューライン」という。価格が低く、価値も低いから、価格が高く価値も高いという比例関係。市場の相場はだいたいそのライン上に形成される。故に、それを下回れば商品は売れない。上回ることができればヒットが見込まれる。
ユニクロはかつて、「最安値宣言」をしていた。同社の戦略の大きな転換点である、98年11月の原宿出店以前のことだ。「最低価格で品質保証・返品自由」が売りで、「これもこれも、返品してええのん?」とレジで服を次々脱いでいく大阪のオバチャンの強烈なCMを覚えている方もいるだろう。つまり、最低価格で高品質の「スーパーバリュー戦略」を打ち出したのだ。
しかし、バリューラインから大きく飛び出るそのポジションを取るのは容易なことではない。同社は最低価格を保証しないものの最高品質を目指す「高価値戦略」に転換した。

先の柳井社長の発言を読み解けば、ジーユーは最低価格で中ぐらいの価値を目指す「グッドバリュー戦略」であることがわかる。つまり、グループ内で見事なポートフォリオを組んでいるのだ。

しかし、さらに深読みすると、ジーユーの急速な店舗展開計画の影にはもう一つの意味があるように感じられる。
バリューラインの「価値」の軸は、外資のファストファッションブランドは明らかに「ファッション性」もしくは「デザイン性」である。その縫製や材質はお世辞にも高品質とは言い難い。
対してユニクロは品質には大手ナショナルブランドにも勝るとも劣らない。また、ヒートテックなどに代表される「機能性」という価値も付加されている。
もう一つ大きいのが、今年3月に発表されたデザイナーのジル・サンダーとの契約だ。彼女がユニクロ製品の全アイテムを監修し、いくつかのラインは自らデザインを手がけるという。明らかに「ファッション性」という価値も軸に加わるのだ。

中価格で、「品質・機能・ファッション性」という価値を実現するユニクロ。しかし、その価値を今まで同様の価格で提供する必要はあるのだろうか。
単純に全体を値上げをすれば、バリューライン上の「プレミアム戦略」になってしまい、旧来のアパレルメーカーと際はなくなってしまうのでそんなことはしないだろう。全体としての価格レンジは据え置き、既存商品より高単価・高利益率のアイテムをいくつか投入し、マージンミックスを図るという展開は十分考えられる。それが受容されれば、徐々に各アイテムの単価を引き上げていくことも考えられなくはないだろう。

価値を大きく高めたユニクロは、そろりと、微妙に商品の価格を引き上げる。多くの顧客は受容するだろう。しかし、価格に極めて敏感な層も存在する。それをすくい取るためにも、ジーユーはユニクロに追随する多店舗展開を目指さねばならないのだろうと推測できる。
ジーユーの低価格路線は市場に受容され、手応えを得た。その上で、ファーストリテイリングとしてのグループでの顧客囲い込みの意味も込めて店舗展開を加速する理由の一つがそれだろう。

多少価格が上昇したとしても、筆者としてはジル・サンダーが手がけた、あのシンプルながらも美しいラインの服をユニクロ価格で買えるなら、何とも幸せなことだろうと思う。
一方、ジーユーの990円ジーンズも見たが、確かに生地はずいぶん薄い気がしたが、価格を考えれば十分アリだろう。ジーユーのキャラクターである眞鍋かをりが自分のBlogで絶賛しているのもわかる気がする。

今後、ファーストリテイリンググループの戦略はどうなるのか。その時、市場の顧客層はどう動くのか。目が話せない状況だ。

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2009.06.02

トヨタはなぜ、キレたのか?

ホンダ・インサイト対トヨタ・プリウスの戦いが激化している。それもあり得ないぐらいの激しさで。
百獣の王ライオンはどんな獲物でも全力で斃すといわれるが、圧倒的な力を持つトヨタの、ホンダ・インサイト叩きは異様な様相を示してきている。

確かに、3代目プリウスの発売に先行して、ホンダ・インサイトは絶好調ともいえる受注状況になった。それに対し、トヨタの取った手段はまず、常識では考えられない手段であった。旧型となる2代目プリウスを40万円以上もの大幅値下げして販売を継続。さらには新型の3代目プリウスの最低価格を極めて低廉に設定した。
消費財などの場合は、大きなシェアを持つリーダー企業が、当該カテゴリーにチャレンジャーが参入してきた時、その出鼻をくじくため、発売のタイミングでキャンペーン的に値引きをすることはある。(注:飲料の場合の例示)しかし、一度購入してしまえば反復購入が望めない耐久消費財である自動車で、しかもキャンペーンなどではなく、定価を引き下げるというのは前代未聞だといえるだろう。それは、トヨタがホンダにハイブリッド車市場を一部たりとも明け渡す意志のない現れだ。

価格の問題だけではない。ダイヤモンドオンラインの記事は、トヨタの凄まじい意志が伝わってくる。
<業界騒然!ホンダ「インサイト」をコケにする トヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”>
http://diamond.jp/series/inside/09_06_05_001/

記事によると、5月18日にメディア向けに行われたプリウスの発表会において、寸劇と配付資料で、ホンダ・インサイトという明示はしないものの、明らかにそれとわかる内容でトヨタのハイブリッドとの比較を行ったというのだ。単純な比較ではない。露骨に、いかに自社のシステムが優れており、他方がダメダメであるかをコッテリたっぷり伝えたという。
比較広告は日本では馴染みがあまりないが、海外においては珍しいことではない。有名な例では、ペプシコがコカ・コーラとの比較を一般消費者に体験させ、それをCMにした「ペプシチャレンジ」。最近では、アップルコンピュータの「マックです。パソコンです。」のCMもその例だ。
しかし、上記の例はいずれも市場ポジションが下位のチャレンジャーが、上位のリーダーに挑んでいる。リーダーが下位のチャレンジャーを比較して、さらに徹底的に叩くということは、極めて異例だといっていいだろう。

記事には< 「あまりにもメッセージ性が強く、わかりやすい戦略。明らかにホンダはトヨタの“虎の尾”を踏んだということ」>と業界関係者のコメントを掲載している。あまりにも露骨なトヨタのホンダ叩きの真意はどこにあるのだろうか。

筆者が業界関係者から聞いた所では、プリウスの価格設定では、トヨタ自動車にはほとんど利益が残らないだろうということであった。まずは、売上げをたて、系列を含め部品メーカーなどにも売上げを立てさせる。販売会社も売れればキャッシュが動く。停滞した自動車市場を少しでも流動化させる必死の策であるということであった。

しかし、トヨタは利益をあきらめるほど甘くはないと、筆者は考える。
低廉な価格設定、場合によっては初期段階では赤字も覚悟して、早期に市場のシェアを獲得する価格戦略を「ペネトレーション(市場浸透)戦略」という。
その戦略の要諦は、競合があきらめるぐらいの低価格をもって参入障壁を築くこと。その意味では、ホンダ・インサイトの価格はトヨタの誤算でもあっただろう。致し方なく、トヨタはより一層のペネトレーション・プライシングをプリウスに設定した。

ペネトレーションで利益を出す方法は、とにかく数を売ることだ。規模の経済によって、固定比率を圧縮し、経験効果によって生産性を向上させ、変動比率も圧縮する。固定費・変動費という原価を圧縮することによって、利益を絞り出していくのだ。
利益をひねり出していくことはトヨタのお家芸である。しかし、インサイトの出足は好調すぎた。みるみる数万台という予約を取り付けられてはトヨタのシェア最大化によって利益を創出するという目論見が潰えることになる。ここが一つの「虎の尾」なのだ。

もう一つ理由がある。ポジショニングの問題だ。
トヨタのハイブリッド技術はホンモノで、ホンダはダメダメとの露骨な表現。それは、トヨタの「環境技術」のアピールでもある。
初代プリウスの登場は1997年。その頃からトヨタは「エコロジー」をポジショニングの中心に据えた。環境をテーマにした広告やイベント、各種スポンサード。これでもかと、「エコのトヨタ」「環境のトヨタ」をピールしてきた。それはナゼか。理由は自らのポジショニングを明確にするためである。

フィリップ・コトラーは著書「マーケティングコンセプト」の「ポジショニング」の項で、今日の米国ビッグ3凋落の理由を早くにして指摘している。曰く、欧州車はBMWが「究極のドライビングマシン」やボルボの「世界一安全な車」などと、ポジショニングが明確なのに対して、米国車は曖昧であると。フルラインナップを揃える米国ビッグ3は、とりあえずラインナップのスキマを見つけては新車種を上市する。そして、個別車種に後付でポジショニングを行う。その結果、GM・クライスラー・フォード各社は、自動車会社としてどんなポジショニングなのかが極めて曖昧になっているという指摘である。
ポジショニングは、消費者のアタマの中にどんな魅力があるのかが明確にイメージできることがキモだ。その魅力が曖昧になるのは極めて危険なことなのだが、それに気付いていなかったわけだ。

同じ構造はフルラインナップメーカーのトヨタにも当てはまる。
そこで、トヨタはこれからの世の中で求められるのは「環境負荷の低減」であると見抜き、「エコロジー」を掲げたのだ。自動車とは環境負荷を与える存在であるが、トヨタの車であれば、その負荷が低減できる。一種の免罪符のようなポジショニングであるともいえるだろう。
景気の低迷によって、環境負荷よりも燃費性能に注目が集まっているが、やがては景気も回復するだろう。その時、再び、「エコのオンリーワン」はトヨタであるというポジショニングを明け渡すわけにいかないということが、インサイト叩きの一因でもあるだろう。

トヨタ・ホンダ両社とも、さらにハイブリッド車種を増やしていくとの発表を行っている。他の自動車メーカーからの発売も続くだろう。その時、トヨタはどのような戦略に出るのだろうか。
圧倒的な力を持ったリーダー企業の総力戦。少々、背筋が寒くなる気がする。


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