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2009.05.22

マーケティングでヒット商品は作れるのか?

ヒット商品の事例として任天堂のWiiが取りざたされることが多いが、その成功が、果たしてマーケティングの力によるものなのかという議論がしばしばなされている。そこで、「マーケティングでヒット商品は作れるのか?」ということを考えてみたい。

マーケティングのキモは、顧客のニーズを抽出して、それを深掘りすることである。
一方、Wiiという製品のキモは「加速度センサー」を組み込んで体感ゲームに仕上げたこと。しかし、消費者は「加速度センサー」の存在を知らない。いくら掘ってもニーズとして出てこないことになる。ここに、どのような成功のヒミツが隠されているのか。
逆説的にいえば、消費者の顕在化したニースに対応するのは誰でもできる。また、潜在的なニーズを多少掘り起こすぐらいでは、まぁまぁヒットぐらいのレベルにしかならない。誰も知らない、誰も気がつかないような需要を創出したからこそ、Wiiは大ヒットしたともいえる。
しかし、それは結果論。後付の分析だ。ゼロベースで考えた時、どのような思考過程を経て作り上げられていったのだろうか。

任天堂のすばらしいことは、「立ち止まって俯瞰してみたこと」である。
1960年にセオドア・レビット教授がハーバード・ビジネスレビューで発表した論文にある「マーケティング近視眼」に陥らなかったことだ。米国の鉄道事業は自らを輸送産業と定義せずに、鉄道会社同士の競争にあけくれた結果、自動車産業や航空産業に破れ衰退した。そうした近視眼的な経営を「マーケティング・マイオピア(近視眼)」と呼んだのである。

実は、任天堂も近視眼に陥って痛い思いを二度も続けてしたことがある。スーパーファミコンと、NINTENDO64である。ハードウェアは独自の高度な規格にこだわり、ソフトも高度な開発ができるサードパーティーを厳選し、子供のおもちゃ的なゲーム機のイメージ脱却を狙ったが、プレイステーション、プレイステーション2に破れることとなった。また、次世代のニンテンドーゲームキューブもプレイステーション2に一矢報いることはできなかった。

恐らく、ここで任天堂は立ち止まって考えたのだろう。プレイステーションやXboxとだけ戦いを繰り広げても意味がないと。
マクロ環境に目を向けてみれば、そもそも、1990年代後期からゲーム機市場は縮小傾向にある。ハードウェアの性能向上によって実現した、高解像度で美しいグラフィックス、高度なゲーム内容。しかし、それについてこられる人は少なく、ゲームはどんどんマニアな世界になっていく。
任天堂と競合のビジネスドメインを比べれば、おのずと進むべき道が見えたのではないだろうか。ソニー・コンピュータエンターテイメント(SCE)の母体は電機メーカー。マイクロソフトはソフトウエアの巨人。そして任天堂の出自は花札、トランプの製造である。ハードウェア、ソフトウェアでの戦いは得策ではない。

セオドア・レビットは「マーケティング近視眼」にならずに、鉄道事業は輸送事業と捉えるべき。映画産業は娯楽産業と自らを定義すべきだと説いた。
任天堂は、自らをゲーム機メーカーではないく、カードゲームのように、もっとわかりやすく手軽に、誰もが楽しめる道具を提供する事業と再定義したのだろう。
その意志決定は、Wiiの発売から遡ること2年、ニンテンドーDSで既になされていたハズだ。手元でもっと直感的にカンタンにゲーム機を操れる方が多くの人に愛されるハズ。その答えがDSではタッチスクリーンであり、Wiiでは加速度センサーというカタチに行き着いたのである。
以上のように考えれば、任天堂の意志決定の正しさ、WiiやDSの成功はブルーオーシャン戦略から見た成功要因と完全に整合している。

SCEやマイクロソフトの戦い方が間違っているわけではない。市場の環境としては、高性能なゲーム機を作るためのテクノロジーは成熟化している。それを受けて、よりキレイな映像で、より高度なゲームを望むコアな顧客とそのニーズは確かに存在している。競合として、お互い強力なライバルであるが、SCEは自社製のCPUによるひたすら高度なスペックを武器とし、マイクロソフトはPC向けの汎用CPUでコストパフォーマンスのバランスを最適化させることを武器とする。ざっと、3C分析的に考えても、理に叶った戦い方だ。しかし、ブルーオーシャン戦略的に考えれば、その戦いは果てしない血みどろの、レッドオーシャンの戦いである。

ブルーオーシャン戦略は戦わない。新たな市場を創り出す。「コアなターゲット」などのような、特定のセグメントを狙わない。新たな市場において、今までターゲットになっていなかった層を丸ごと取り込む。そして、新たな価値を訴求して、今まで持っていた付加価値からいらないものをどんどん捨てていく。
任天堂はもはやゲーム機市場で戦っていない。誰もが楽しめる、学べる、運動できる道具を提供する事業というブルーオーシャンにいる。

マーケティングでヒット商品は作れるのか?という問いに立ち戻る。
答えは、上記の通り、任天堂の例のように、作れるのだ。
しかし、ブルーオーシャン戦略はマーケティングのフレームワークではない。また、セオドア・レビットの教えも、マーケティング上の留意点を説いているに過ぎない。しかし、重要なことはそこなのだ。レビットはヒット商品、特に大ヒット商品を作る上での重要な示唆を与えてくれているのである。
激しい戦いを繰り広げている特定の競合、とにかく製品の価値を高めるという課題、そうしたことに気を取られていると、マーケティング戦略は俯瞰的視点を見失う。つまり「近視眼」だ。
任天堂は、一度立ち止まり、自らの価値を再定義することで、ブルーオーシャン戦略に移行することができたのだといえる。
マーケティングでヒット商品は作れる。しかし、小手先のマーケティング「戦術」では大ヒットは作れない。まずは、近視眼でない、正しいマーケティングの視点が必要なのだ。


※ブルーオーシャン戦略の解説は下記の記述を参考にした
「ブルーオーシャン戦略の要諦」
※任天堂、及びWiiに関する記述はWikipediaの記述を参考にした

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