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2009.05.18

ブラトップを900万枚売るユニクロの戦略

 昨年の吹石一恵に続き、今年は栗山千明のCMが話題のユニクロ、ブラトップ。その販売目標数は、昨年3倍増の900万枚だという。その未曾有の大量販売攻勢にこそ、ユニクロの戦略の本質が隠されているのではないか。


■海外で50万枚が意味するもの

 900万枚という計画のうち、50万枚は海外での販売を計画しているという。ユニクロはかつての海外進出では辛酸をなめた。国内では「安くて品質がいい」という消費者のパーセプションを確立することに成功していたユニクロであるが、海外の消費者にはは、ただの「デザインのダサイ服」と映ってしまった。しかし、機は熟した。昨年発売したヒートテックが海外でも大反響を得たように、「安くて品質がよくて、何より機能性が優れている」という、他には代え難いポジショニングを実現しているからだ。今後はジル・サンダーとの契約によって、ファッション性も増していく。売れない理由はもはやなくなったのだ。
 ユニクロの戦略の基本は「規模の経済」である。衣料品の製造小売りというSPAという業態は、単に販売するだけでなく、製造段階から関与する。さらに、売り方のキモは大量の広告攻勢で多店舗展開した自社の販売網に集客し、大量販売するというモデルだ。つまり、生産・広告・店舗と、その固定費は馬鹿にならない。しかし、国内マーケットを考えれば、少子高齢化で縮小は明らかであり、規模の経済を維持するためには、再度、海外マーケットの強化は欠かすことができないのである。ヒートテックに続いて、ブラトップは重要な先兵の役割を担っていることは間違いない。


■国内で850万枚の現実感

 しかし、国内で850万枚である。単一のファッションアイテムで850万枚という数字はかつて例がないのが明らかであろう。その数のインパクトがどれほどなのか。ブラトップのターゲットは女性に限定されるが、年齢層を16歳から55歳としてみよう。すると、全国の対象年齢の女性を積算すると、3,280万人ということになる。それらのターゲットに850万枚のブラトップを売り切ろうと考えれば、3.8人に一人、購入させる必要があるのである。
 かつて、柳井会長のインタビュー記事で、ユニクロを日本の国民服のような存在にしたいという発言を聞いた覚えがあるが、正にそれが現実化されつつあるという所だろうか。しかし、個々人の好みもあるファッションアイテムで、3.8人に一人の現実性はどの程度あるのか。
 筆者の周辺にいる幾人かの女性にヒアリングをしてみた所、実際には全員がブラトップに対してポジティブな見方をしていないことがわかった。ファーストリテイリング社からのプレスリリースでは、『「ブラを付けない解放感」と「ブラを付けている 安心感」が両立し、美しいバストラインが決まります。』としているが、広告訴求では主に、「ブラをしてないみたいで楽」「つけない開放感」「つけてる安心感」という、らくちん志向のベクトルである。栗山千明は美しいのだが、商品の「美しい」はあまり強調されていない。
 オトコであるこの身ではあまり明言は憚られるのであるが、ブラというものの本質的価値は何であろうか。日本初のブラジャーの原型を開発したワコール社。1950年代に初めて上市した「ブラパット」という商品はらせん状に針金を巻き、布をかぶせて乳房の形を美しく整える器具であった。つまり、本質的価値は「美しくすること」ではないか。「美の追究」をする層にはブラトップは心もとなく映るようだ。しかし、女性としては、ブラジャーの束縛感を忌避する声も多く、それが「ブラを付けない解放感」を求めたのであろうことも事実である。


■フェルミ推定で検証した真のターゲット数

 筆者が聞いたネガティブなイメージを持つ、あくまで「美」を求める層がターゲット母数の3,280万人のうち、どの程度いるのか、ざっくり想定してみる。えいっと、三分の一がそれにあたるとしよう。1,093万人がターゲットから外れることになる。同様に、「どうしてもユニクロは好きになれない」という層も存在するだろう。そうすると、ターゲット年代からその層も除外しなくてなならない。同様に三分の一を除外しよう。729万人。そうすると、ターゲットは1,458万人となる。さらに、ユニクロは多店舗展開してはいるものの、とはいえ、近隣にユニクロがない層も出てこよう。それもざっくり、四分の一としてみよう。364万人がターゲットから外れる。ターゲットは1,094万人となる。
 かなりざっくりした計算だが、フェルミ推定は、そのざっくり感がキモである。そして、国内で850万枚販売するためは、ターゲットの約1.3人に一人に買ってもらわねばならない計算になることがわかった。


■変わるユニクロ流の売り方

 購入者数に限界があるのであれば、購入客あたりの購入数を上げればいい。実際に、ユニクロのWebサイトにあるブラトップユーザーの声では、何枚もまとめ買いしたという記述があったり、ユーザーアンケートの、ブラトップを何枚所有したいかという問いには、4枚以上とする回答が4割以上を占めている。
 ブラトップは昨年3タイプの展開であったところを、今年、3倍近い8タイプでの展開となるという。カラーバリエーションも1アイテムで最大14色だという。幅広いバリエーションは、より多くの顧客を取り込むためだけではなく、より多くのアイテムを、一人の顧客に買わせるためのものであることもわかる。
 ユニクロにとって、「まとめ買い」は売り方の基本である。しかし、その「まとめ」の意味する所の本質が大きく変容してきている。バブル崩壊後のアパレル冬の時代にロードサイドに展開して成長の基盤を築いたユニクロ。そのユーザーたちは、車で乗り付けて、広い店内を物色し、安価な衣料を物色して家族全員の衣料をまとめ買いするという購買行動であった。一カ所で、一度で買い物が済む。それが提供価値であった。
 それが、今日ではヒートテックにしても、ブラトップにしても、顧客が商品を指名買いで複数購入していくのだ。「まとめ買い」の本質が大きく変わったのは明らかだ。


■ユニクロの店舗展開を反映するブラトップ

 商品指のまとめ買い。その購買行動の現実化には、今日のユニクロの店舗戦略が大きく寄与しているといっていいだろう。かつてのロードサイド店は凄まじい勢いで廃店している。代わりに目につくのが、大規模店と駅近店である。大規模店は、新宿に登場した最大規模のユニクロが代表的だ。規模を活かして広範囲から集客をして、指名買い的まとめ買いを促進する。一方、生活者の身近な場所、駅ナカや駅ビルにある店舗は、通勤・通学・買い物の度に単品を都度、追加買いすることが期待できる。
 一人あたり4枚以上欲しいとする層が4割。1,094万人の40%×4枚=1,750万枚。それだけで、目標を軽くクリアだ。まとめ買いの大規模店舗と都度追加買いの店舗の合わせ技でそれは実現されよう。そんなに話題なら、と試し買いする層は、生活圏に密着した駅ナカ、駅ビル店で購入し、さらに販売数を押し上げるだろう。

ユニクロの戦略商品であるブラトップ。その強気の販売目標は、ここまでのユニクロの戦略の成果を自ら確かめる目的もあるといっていいだろう。そして、それは恐らく、目標を上回る結果となって現れるのだ。
ユニクロ、恐るべしである。

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