あっぱれ、森永製菓の顧客志向と社会志向のマーケティング
ピーター・ドラッガーは「マーケティングとは、販売の必要性をなくすことだ」と説いた。その心は「売り込む(セリング)」のではなく、「顧客のことを理解し顧客の要望に合わせれば、おのずと買ってもらえるようになる」ということだ。その意味では全てのマーケティングは顧客志向であるべきである。さらに今日の企業活動では、ひとりひとりの顧客の要望に応えるだけでなく、社会全体の要望に応えることも求められている。
ドラッガー大先生の言葉から大げさに入ってしまったが、森永製菓の展開がすごいのだ。
まずは小さなところから。
<割ってひとくち約20kcal! カロリーをカウントできる板チョコレート>
http://www.morinaga.co.jp/company/index_news.html
この商品は<1枚当たりのカロリーがちょうど200kcalで、きちんと10等分に割れる、ひとくち(ひとかけら)が20kcalの板チョコレート>だという。
太りやすい体質なのか、メタボ予備軍と標準のあいだを行ったり来たりして、ダイエットを心がけて体重計の数字に一喜一憂する筆者にはありがたい商品であるとここの上ない。
だがしかし、1枚200kcalと、チョコレートのカロリーの高さに改めて恐怖した。ご飯は100g当たり168kcal。小さめの茶碗に盛れば110g入って185kcalとなる。ダイエットではご飯などの穀類を摂取しない人も少なくないが、そのガマンを一瞬で水泡に帰させる悪魔の200kcal。なんという甘い誘惑。
リリースには<食べた分や前もって決めた分だけカロリーを把握して食べることができる、便利な親切設計の板チョコレート>とある。
「どうしてもチョコが食べたいけど、食べると止まンなくなっちゃう!」という人、「どれくらいカロリーがあるかわからないから怖くて食べられない!」という人。そんな人には手を合わせたくなるほどの福音ではないだろうか。ちなみに、筆者は商品写真に感謝の祈りを捧げた。
ちょっと考えれば、「そんなにチマチマ食べられたのでは、儲らないんじゃない?」と思ってしまいがちだが、そんなことはない。上記のように「食べたいけど食べられない」という人のニーズギャップに、この商品はズバリとマッチしているのだ。
売上=客数×客単価である。一人一人がチマチマしか食べなくて、購入量や購入頻度が低く、客単価が上がらなかったとしても、潜在需要をもった顧客数は計り知れない。
「食べたいけど食べられない」という「顧客のことを理解し」、「セルフコントロールして食べたい」という「顧客の(潜在的な)要望に合わせ」た商品である。きっと、この商品は「おのずと買ってもらえる」ようになるのではないだろうか。顧客をよく見て、ニーズギャップに応えるという、顧客志向の一つのお手本だといえるだろう。
昨今では顧客には社会的責任が求められ、マーケティングも顧客志向であるだけでなく、社会志向が求められるようになってきた。森永製菓はそれにもバッチリ対応した取り組みをしている。
<森永製菓、賞味期限近い菓子を割安で販売 廃棄ゼロ目指す>
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/top/index.cfm?i=2009033010381b1
<森永製菓は賞味期限が近づいた自社在庫の菓子を、スーパーなどで割安に販売する。詰め合わせで、価格は通常の売価から3割強引いた1050円に設定>だという。
今までは<廃棄処分にするほか、ディスカウントストアに安く卸したり、社内販売していた>というが、「もったいない」と思う一方、企業活動としては「仕方がない」ともいえる。ディスカウントストアでの販売は、購入客層が異なっていたり、菓子の購入シーンがスーパーでは食材のついで買いであり、ディスカウントでは菓子をまとめ買いするというように異なっていたりしたはずだ。しかし、スーパーにおいて3割引で販売すれば自社の新しい商品とカニバリ(喰い合い)を起こす恐れが多分にある。
この取り組みでは<10品目前後、約1600円分の商品>が袋詰めされて1050円で提供される。詰め合わせである程度まとめ買いすれば、新商品の購入頻度も低下してしまう恐れもある。
「モッタイナイ」のキモチで廃棄ゼロを目指す。社会的には意義のあることだが、企業の業績には悪影響を与えるかもしれない危険な賭けであり、もしかするとこれは、蛮勇なのではないか。大丈夫なのか、森永製菓。
・・・と、心配するには及ばないだろう。顧客も喜ぶ。社会的にも意義がある。でも、儲からないでは、もう一つの強力なステークホルダーが黙っていない。株主だ。同社には45,625名 の株主がいる、その納得を獲得することは企業としては欠かせない。
「廃棄ゼロ」というすばらしい取り組み。それが顧客に認識されれば、森永製菓への好感度が高くなる。菓子を購入する時に、同社の製品を指名買いすることも多くなるだろう。競合戦略としてしっかり機能するはずだ。
また、10品目の詰め合わせといっても、全ての商品ラインがカバーされているわけではないだろう。「格安のセットを買って、もう一つ欲しい商品は通常の価格で買って」という構内行動を引き出せれば、マージンミックスができて収益も確保できる。
もちろん、廃棄費用の削減というバリューチェーン上のメリットも見逃せない。
顧客のことをしっかり見て、その要望に応える。社会的な要請に耳を傾け、その実現にチャレンジする。しかし、キッチリと収益を確保する裏付けも用意しておく。その整合性が重要なのだ。あっぱれ、森永製菓。消費者として、社会の一員として拍手を送りたい。
そして、顧客として筆者は4月7日から1日に20kcalづつチマチマとチョコを食べ、5月からはお得な詰め合わせを子供のおやつとしてスーパーに買いに行くに違いないのであった。そして、顧客として筆者は発売日の4月7日から1日に20kcalづつチマチマとチョコを食べ、店頭に並ぶ5月からはお得な詰め合わせを子供のおやつとしてスーパーに買いに行くに違いないのであった。
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