「細マッチョ・ゴリマッチョ」:サントリーの戦略を読み解く
2009年03月17日新発売のプロテインウォーター。CMは1975年代の大ヒット曲ヴァン・マッコイ&ソウル・シティ・シンフォニーの「ハッスル」に合わせて松田翔太と中村獅童が軽妙な動きで新しい「細マッチョ」の魅力を訴える。そのサントリーの戦略とは?
新商品「プロテインウォーター」はサントリーのソフトドリンクの中にある機能性飲料カテゴリーに属し、さらに「LIFE PARTNER」ブランドを冠した戦略商品だ。「LIFE PARTNER」ブランドの旗艦商品は「DAKARA」。2000年にスポーツ飲料カテゴリーに大塚製薬のポカリスェット、日本コカ・コーラのアクエリアスを追撃すべく市場に投入された商品だ。
DAKARAの戦略は、一橋大名誉教授の野中郁次郎先生の著書「イノベーションの本質」で一番目の事例として取り上げられているほど秀逸なものであった。サントリーは先行商品が「水分の体内への吸収の良さ」をセールスポイントとしており、後発商品では同じポジショニングでは勝てないと判断した。それ故、独自のポジショニングである「老廃物の排出」を訴求したのだ。
DAKARAの一番最初のCMを覚えているだろうか。小便小僧である。小便小僧は何をしているかといえば、オシッコをしている。つまり「排出」。それまでの水分の「吸収」をひたすら訴求していた先行商品に対して明確な差別化を図ったのである。そして、ネーミングはカラダと引っかけてダカラとし、真っ白なボトル缶に赤いハートを記してメディカルなイメージを演出した。メディカルを訴求するため、街頭サンプリングにもナース姿のキャンペーンガールを用いて話題になった。
そのDAKARAの赤いハートの周りに書かれている言葉が「LIFE PARTNER」。現在、同じ名を冠している商品は「ビタミンウォーター」と「プロテインウォーター」である。
LIFE PARTNERはサントリーのホームページなどには明確なブランド定義がなされていない。しかし、消費者は、LIFE PARTNERといえばDAKARAと認識している。商品を扱っている社外のECサイトや個人ブログではビタミンウォーターとプロテインウォーターを「ダカラ・ビタミンウォーター」「ダカラ・プロテインウォーター」と表記していることが多い。正確にはDAKARA傘下の商品ではないので、ある意味、勘違いともいえるのだがそれこそがサントリーの戦略だといえる。
ビタミンウォーターはビタミンC、ビタミンB6、ローヤルゼリーの摂取ができることを訴求している。今回のプロテインウォーターはプロテインの摂取だ。DAKARAは「排出」を訴求する。そして同じLIFE PARTNERを冠した商品は、「余分なものを排出したら、欲しいものを取り込もう」というメッセージを発信しているのである。
ビタミンウォーターはすっかり定番商品として定着した。しかし、LIFE PARTNERシリーズでも辛酸をなめた商品もある。2007年に上市された「ダイエットウォーター Let's」である。
サントリーは<毎日を軽やかに過ごしたい”という気持ちをサポートするダイエット系飲料>というポジショニングで、含有成分として<カルニチンとカフェインを配合>し、<レモン・フレーバーを加え、すっきり爽やかで、飲みやすい味わいに>という仕立てで市場に挑んだ。その意気込みは商品パッケージにも表れている。独自の形状のボトルを作ったのだ。<ダンベルをモチーフにした、斬新なボトルデザインを採用。思わず、手にとってカラダを動かしたくなるようなデザイン>と自負する。
CMも<カラダを動かしたくなるような>という点を一貫して訴求した。コピーは<ナマケモノに、ダイエットウォーター レッツを与えてみました。 ナマケモノでも、思わず動きたくなる。 ダイエットウォーター レッツ>であった。
しかし、あまり売上げは上がらなかったのか、早々に店頭から姿を消すという結果に至った。
サントリーが力を込めたダンベル型ペットボトルを引き継いで上市されたのが今回のプロテインウォーターだ。<“スタイルが気になる現代人”のための、プロテイン補給飲料>というポジショニングを掲げているが、キーワードはやはりCMで繰り返し表現されている「細マッチョ」である。
プロテインは筋肉をつけたい人が摂取する栄養素。本来、粉や錠剤で筋トレの後に飲んだり、寝る前に飲んだりして理想の筋肉を育てるもの。それには、ムキムキのイメージ、マッチョなボディビルダー、水に沈むほどたくましくも重々しいイメージがつきまとう。今回のプロテインウォーターのCMでは「ゴリマッチョ」とい表現している。
しかし、日本でゴリマッチョの居場所はあまりない。もてはやされるのも、宴会とか、話の種とかだ。世間一般女子に「わーっ、すごい!」と言われても「わーっ、かっこいい!」と言われた経験のあるゴリマッチョは少ないだろう。「ムキムキに抱かれたい!」「マッチョの動く大胸筋にそそられる」という女子はマイノリティ。ゴリマッチョは「日本女子規格」からははみ出てしまっている感が否めない。
日本のマッチョは、ウルトラマン、ヤッターマン、仮面ライダー、ガッチャマン。
アメリカンマッチョは、ターザン、バットマン、エックスメン、スポーン。
日本女子はどちらかというと、ジャニーズのそれとか、サッカー選手の筋肉とか、ボクサーの筋肉にきゅんとくる潜在数が多いのではないだろうか。
しかし、世は空前のマラソンブームに代表されるような、スポーツブームであることは間違いない。ランナーの細くしなやかなムチのような筋肉をまとった肉体もまた「細マッチョ」だ。「スリムなのに、脱ぐとそこそこいい筋肉がついてる」という細マッチョの潜在的な人気を見抜いてCMを仕立てたのだろう。
いかにもやってる感たっぷりなゴリマッチョではなく、「意外とあいつ、いいカラダ」というちょっとしたサプライズは、男子には「あいつすげぇじゃん、やべえ」と焦燥感。女子には「あれ、結構かっこいいかも」と好印象を与える。
LIFE PARTNERの旗艦商品、ダカラは現在のCMでは「余分三兄弟」を配し、健康的な生活のためによくないものを排出しようと喚起して、メタ坊やら、濃い味好きやらの不安を水に流す。生活習慣を改善したら、次のステップ。「理想のカラダをつくりましょう」ということで「日本女子にもてはやされる、細マッチョなカラダづくり」を提案しているわけだ。
サントリーは潜在的なニーズを顕在化させ、男子を中心としたターゲットを拡大した。
・・・次の商品とターゲットは深田恭子がヤッターマンのドロンジョで目指した、女子の「くびれ」か?
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