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2009.03.17

リカルデント ガム、その絶妙なポジショニング

リカルデントの新シリーズ「スマートタイム」。ガム市場で強大なシェアを持つロッテに挑むキャドバリーが、秀逸な戦い方をしている。

ガムをかみ始めた幼少の頃、駄菓子屋で買った、丸川製菓の「マーブルフーセンガム」。果物味の砂糖でコーティングされた、丸いガム。4粒で10円、当り付き。フーセンをふくらましたり、くじの当たり外れでドキドキしたりという付随的な楽しみも欠かすことはできないが、中核的な価値としては「口中に甘い味が広がり、それなりに長い時間味わい続けられること」ではなかっただろうか。少ない小遣い銭しか持っていない子供にとって、5円、10円という価格の駄菓子も多くは買えない。飲み込めないもどかしさはあるものの、長く食べ続けられるガムは欠かせないアイテムだった。
しかし、必ず親から言われることがあった。「いつまでも噛んでいると虫歯になるわよ」と。

そんなガムのポジショニングが劇的に変化したのは1997年のことだろう。「お口の恋人」、ロッテから「キシリトール ガム」が発売されたのだ。
1997年、虫歯の原因になる酸を作らない糖アルコールの一種であるキシリトールが、当時の厚生省から食品添加物に指定された。それを遡ること20年前から砂糖の代替甘味料としてキシリトールを研究していたとされるロッテは、事前に商標登録を済ませており、指定直後から怒濤の販売攻勢をかけたのである。

それまでのガムは、「口寂しさを紛らわせることができるが、虫歯になるリスクをはらんでいる」という存在だった。故に、「虫歯を気にしてガムを噛まない」層が多数存在した。
そんなガムが、キシリトールの配合によって、「歯を健康で丈夫に保つ存在」へと大きくポジショニングが変わったのだ。
キシリトール配合ガムによる虫う蝕予防効果には諸説あるものの、少なくとも虫歯を気にする必要はなくなった。それまでもグリーンガムやクールミントガムなどで、口臭予防や清涼感を求めてガムを噛む成人層はいたものの、「食後に歯に良いので噛む」というような、新習慣が広まったのである。

さて、話はようやく本題の「リカルデント」ガムに移る。
1962年に世界初のシュガーレスガムとして米国で登場した「トライデント」。その後継として登場した「リカルデント」は、牛乳のたんぱく質(カゼイン)由来のCPP-ACPを配合して、キシリトール上回る「歯を丈夫で健康に保つ」機能を実現したという。(キャドバリー社のWebサイトより)。

キャドバリー社が抱えているガムのブランドには、定番中の定番である「クロレッツ」がある。クロレッツにも現在では全バリエーションにキシリトールが配合されているが、どうしてもブランドのポジショニングとしては「息がキレイになる」という、口臭予防的なイメージが強い。そして、そのポジショニングは、昨今の消費者が求める価値とは乖離があるといえる。
同じキシリトール配合では勝てない。それ故、「歯に良い」という消費者のKBF(Key Buying Factor=購入理由)に合致したポジショニングをより強化した「リカルデント」で戦いたい。同社の思いはそうしたところだろう。

しかし、ガム市場におけるロッテの存在はあまりに巨大だ。
ガムのシェアを示すデータは少ないが、2002年の全日本菓子協会の発表によると、ロッテのシェアは63%に上る。キャドバリーはシェア2位とはいえ、ロッテのシェアはあまりに大きい。
クープマンの目標値から考えても、よほどの不測の事態がなければトップの座は安泰とされる「安定的シェア(41.7%)」を大きく超え、短期的には首位を奪われることがあり得ない「独占的シェア(73.9%)」に迫る勢いだ。店頭での販売シェアも、ロッテのラインナップにキャドバリー社のラインナップは頭を押さえられた格好になるという。

同じ「歯に良い」というポジショニングでは、いくら機能強化したところで、リーダーの戦略である「同質化」を回避することはできない。いくら「こっちの方が機能が上です!」と訴求しても、強大な広告宣伝やセールスの力の前にはかき消され、ポジションが被されてしまうのだ。

そこで、リカルデントブランドの切り札として2008年10月20日に発売されたのが、「リカルデント スマートタイム」なのだろう。
「ガムで、コバラ。」「これからの、新・間食ガム」というコピーが示すとおり、「間食として食べるガム」という、全く新しいポジショニングを示してきたのである。
シトラス&ベリー味がまず上市され、<ガムの内側からシトラス&ベリーの「ジューシーリキッド」のおいしさがたっぷりあふれ、口の中に広がります。そのカロリーは一粒たった3kcal!>と製品特性がアピールされている。
「ガムで小腹が満たせるか?」と思って試すと、「ジューシーリキッド」の濃厚な味わいで食べ応えが感じられる。しかも、シュガーレスで1粒3kcalだ。同様な意見をWeb上でブロガー達が異口同音に述べている。

さらに強力な新製品も投入された。3月9日発売の「マイルドチョコレート」味。
<噛んだ瞬間、ガムの中から本格的なチョコのおいしさがたっぷりあふれ、口の中に広がります>とアピールしている。
「ガムは歯の健康を保つためのもの」と、いつしかキシリトールの呪縛がすり込まれているからか、「ガム×チョコレート」という組み合わせには違和感が働いた。しかし、シュガーレスであるという。食べてみると、まさにチョコ。しかも、長く噛んでいられるため、1粒でずいぶんとたくさんチョコを食べたような満足感がある。

このキャドバリーの戦略のすごいところは、「スマートタイム」シリーズに関しては、全く「歯に良い」というポジショニングを後ろに隠しているところだ。シュガーレスであるばかりでなく、スマートタイムもCPP-ACP配合であるので、しっかり歯に良いはずだ。しかし、それは言わない。あくまで「間食サポート」であり、「小腹を満たせる」なのである。

ポジショニングを示す時に、複数の効用を示すことがいけないわけではない。
例えば、メルセデスの車は「Luxury」「Comfortable」「Safety」というポジションを示す。確かにメルセデスの車を思い浮かべれば納得がいく。しかし、BMWは「究極のドライビングマシン」という一言で自らのポジショニングを説明する。BMWの方が明快で魅力が伝わりやすいといえるのではないだろうか。

ポジショニングを示す時、どうしても、複数の属性を示したくなるものだ。特にマーケターは2つの軸、4象限でポジショニングを示す「ポジショニングマップ」を使い慣れているので、2つぐらいの属性を組み合わせたくなってしまう。
それを、キャドバリーはぐっとガマンしたのではないだろうか。
特に、チャレンジャーはリーダーに対して、「自分たちは違うんだ!」と言い続けて、ポジショニングを差別化しなくてはならない。あえて、一つの大きな効用を隠し、一番伝えたいメッセージに絞り込むのは大正解だといえるだろう。

戦略ポジションに応じたメッセージの絞り込み。実際には、つい欲が出るため、言うは易く行うは難い。ガムのポジショニングに学ぶところは大きいだろう。

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