どうなる?カップヌードルの「肉」変更
「品質改悪ではないか?」との声までがネットでわき起こっているという、日清・カップヌードル。具材を強化し、肉を「ジューシーな角切りチャーシュー」に変更するという同社からの発表を受け、根強いファンたちの間では異を唱える声も大きい。なぜ、そのようなことが起こっているのだろうか。
日清食品のニュースリリースでは、<このたびの具材強化により、お客様に「カップヌードル」のおいしさを実感していただき、カップヌードルブランドおよびカップめん市場全体の活性化を図ります>と、その意図を伝えている。
http://www.nissinfoods.co.jp/com/news/news_release.html?yr=2009&mn=3&nid=1577
リリースでも<発売以来、具材の増量や、容器の「ECOカップ」化など、時代に応じた「進化」を続け>てきたとしている。確かに、今回の「進化」に期待する声もある。一方で、あの独特のフニャっとしたしながら、どこか芯が残るような独特の食感をもった肉(ダイスミンチという名前だったようだ)が姿を消すのはなんとも寂しいというファンたちの声も大きい。一体どちらに転ぶのだろうか。
日清食品が37年間続くロングセラー商品に大きな改定を加えるには、もう一つ苦しい事情も伺える。
<カップヌードルの肉が進化? 日清食品、値下げ見送り“価値向上”>
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090326/biz0903260942006-n1.htm
昨年の小麦価格の急騰に伴って値上げを敢行したカップヌードルであるが、値上げの影響は小さくなく、値上げ前月比-52%という消費者からの手痛い「NO!」を突きつけられた。そして、今年に入ってからの小麦の値下がりによって、値下げも検討したものの、数年前よりいまだに高い状況にある相場から値下げを見送り、その代わりに品質向上を行うという結論に達したということだ。
価格の議論でいえば、昨年の値上げによる売上げ激減でわかるように、カップ麺のカスタマーバリュー、つまり、消費者がその製品にいくらなら払ってもいいと感じる価格は100円を大きく超えるものではない。そのカスタマーバリューにピッタリと合わせたプライシングをしているのがPB商品だ。ほとんどが98円、88円という価格でスーパーの店頭に並んでいる。
カップヌードルの現在の市場相場は170円程度となっており、もはやその差を埋めることはできようもない。その代わりに、日清食品では低価格帯商品のラインナップを充実させ、PB商品に対抗する戦略をとってきたのだ。それ故、原料価格低下に際して、「品質と味の向上による還元」という決断になったのである。
定番商品に対し企業が仕様変更という決断をした結果、消費者がそっぽを向く現象では有名な事例がある。コカ・コーラだ。
コカ・コーラ「カンザス計画」とも呼ばれるこの製品仕様変更の顛末はウィキペディアの記述(リンク)に詳しい。
1975年、米国ペプシコ社の天才マーケター、ジョン・スカーリー(後のアップルコンピュータCEO)は、徹底した飲み比べキャンペーンである「ペプシチャレンジ」を仕掛け「ペプシの味の良さ」をアピールし大きく売上げを伸ばすことに成功した。
追われる不安から、コカ・コーラは製品の味を根本的に変えるという戦略に打って出た。新しい味は、コカ・コーラ発売100年の直前である1985年4月24日に「ニュー・コーク」として市場に投入された。しかし、<ニューコークは消費者の不評を買い、コカ・コーラには抗議の手紙や電話が殺到する事態に。7月10日に至って、元のコカ・コーラをコカ・コーラ・クラシックとして再び販売せざるを得なくなっていった>という。
「知覚品質(Perceived Quality)」という言葉がある。
知覚品質とは、消費者が商品・サービスを購入するにあたって感じる品質のことであり、
商品の機能や性能などの物理的属性に加え、信頼性や雰囲気などの主観的な要素も加味して判断されるものだ。それ故に、企業が何らかの機能や性能を高めたり、原材料を変更したりと物理的な品質、(工場品質とも呼ばれる)を高めても、消費者にとって意味のあることでなければ、知覚品質が高まったとことにはならないのだ。
今回の製品改定を再度マーケティング・マネジメントにおける4Pと、さらに遡ってターゲティング・ポジショニングで検証してみよう。
・Product(製品):まさに今回の中心であり、仕様を具材の「肉」の品質向上という改定をしたわけだ。
・Price(価格):原材料費低下の中で、値下げという選択肢もある中、あえて値段はそのまま。その代わりに品質向上という消費者還元策で整合を図った。値下げもせず、仕様もそのままという状態よりは、基で考えれば整合しているとはいえる。
・Place(販路):変更は特にない。
・Promotion(広告):ニュースリリースによれば、<「カップヌードル」のCMキャラクターである木村拓哉さんが「コロ・チャー」の登場感を最大限に訴求する魅力的なCMを展開します>とある。タレントに消費者の知覚品質を代弁させようというアプローチであるが、共感が得られるかがポイントとなるだろう。
では、そうした4Pの展開を誰を狙って、どのように魅力をアピールしていこうとしているのか、ターゲットを考えてみよう。ネット上の書き込みを見てみると、仕様変更にネガティブな反応を示しているのはどちらかというと、「いつも食べている」といった、ヘビーユーザーらしき内容の記述が目立つ。ヘビーユーザーが保守的になる例は、この製品に限ったことではないが、傾向は強そうだ。
「味の向上」という企業側の主張は、「さらに美味しいカップヌードル」という、ポジショニングに「味のおいしさ」という要素を加えたことになる。しかし、「味の良さで食べているわけではない」とする、まさに、「カップヌードルのイメージ」という「知覚品質を買っている」という状態が伺える。
だとすると、製品改定がもたらす新たなポジショニングは、ヘビーユーザーの知覚品質に合わず離反を招くことが懸念される。
仕様改定されたカップヌードルの発売は4月20日。まだ1月近く前からこれだけの話題を集めるとは、同製品の人気の高さがうかがい知れるし、事前広告効果もバッチリだ。しかし、その後の消費者の反応は未知数である。一口食べて「確かにうまい!」と腹落ちさせることができるのか、知覚品質を納得させることができずに、ニュー・コークのような顛末を辿るのか。
もちろん、知覚品質は人それぞれ異なる。現状では期待するも、心配するも、その人の持つカップヌードルのイメージと価値による判断だ。まずは、改訂後の商品を食べてみようではないか。
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