再び100円ショップ業界を「5つの力」で読み解く
日経MJ 3月30日号に100円ショップ業界の新しい動きが掲載されていた。
その意味を再び「5つの力」で読み解いてみよう。
記事は「PBの衝撃」という」コラムで扱われている。<100円ショップ、個性の源に>とのタイトルで、<100円ショップ各社がプライベートブランド商品の拡大に乗り出した>と伝えている。
100円ショップ業界は、一時の原油高による原材料費高騰期に比べればまだ良くなったが、まだまだ原材料は高止まりだ。市場も完全に飽和している。消費者も経済環境の悪化によって財布の紐を締めており、「つい買っちゃう、100円商品」などという購買スタイルは影を潜めている。
低価格志向を強める消費者に対応するため、スーパー大手は低価格なPB商品を多数開発し、100円均一商品も増やしてきている。スーパーは意図的に100円ショップ業界を攻撃しているわけではないのだが、期せずして100円ショップの代替品を多数扱ってしまっているのだ。その結果記事にあるように<「相対的に100円ショップの割安感が薄れてきている」(大手100円ショップ幹部)>ということになってしまっているのである。
ここまでは、昨年10月19日に記した『「5つの力」で読み解く100円ショップ業界の未来
』とさほど環境は変わっていない。
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2008/10/5100-6a7d.html
5つの力で考えると、「買ってくれない消費者」は「買い手の交渉力」として大きく作用する。原材料の高止まりは、メーカーの卸価格も高止まりを招くため「売り手の交渉力」も強い。スーパーのPB商品と100円均一商品は強力な「代替品の脅威」だ。「業界内の競争」は生き残りをかけて当然激しい。5つの力のうち、4つまでが厳しい状況にある。
10月の記事では業界最大手のダイソーと、2位のキャンドゥの展開を分析したが、日経MJには業界中堅企業の独創的な展開が取り上げられている。
業界4位のワッツは<ラップは40メートルから60メートルに><30個入りの紙コップは50個入りに>というように、<同じ100円でもワッツのPBは量が多いという「少しでもお得感を打ち出す」>と同社社長が語っている。
もう一社、セリアという100円ショップは自社のPB商品のパッケージを、同社の新型店舗である<おしゃれな雑貨店のような店舗>の内外装に合わせ、さらに<デザインや素材にもこだわった>という。
両者の狙いは明確で、記事が分析するように<「100円ショップはどこでも同じ」という印象を変える目的>である。
この狙いは重要だ。バリュープロポジション(Value proposition)という。
顧客に対する明確な提供価値であり、顧客がその価値を認めてくれる要素。バリュープロポジションを構築するとは、自社の存在意義を顧客に伝え、差別化を図る上で大きな意味を持つ。
ワッツのバリュープロポジションは「とにかく量が多いこと」である。セリアは「オシャレであること」だ。どちらも顧客にとっては価値が明確であり、わかりやすい。
両社はそのバリュープロポジションを実現するために、前述の5つの力のうち、強い力を弱める工夫をしている。売り手の交渉力をワッツはまず弱めた。<特定の三社に対して独占的な供給契約を結ぶ見返りに大量調達をするほか、子会社を通じ直輸入すること仕入れコストを削減。通常より量が多くても100円で売れるPB作りに成功した>という。
セリアはもともとメーカーと共同で商品開発をする方針があったが、<「PBに関してはさらにパッケージや商品のデザイン、素材まで細かく話し合う」>と同社社長がコメントしている。メーカーと一体となって商品開発を徹底的に行う。売り手と一体となって味方に引き込めば、交渉力を弱める効果がある。
売り手の交渉力を弱めてバリュープロポジションを構築する。一般の100円ショップと差別化することによって、業界内の激しい競争から一歩抜きに出る。結果として、消費者から選んでもらえる。つまり買い手の交渉力も弱まるという構図が実現しているのだ。
5つの力分析は、業界内で働く多くの力が強く厳しい状況である場合、「業界定義を変える」という示唆も与えてくれる。厳しい業界であれば、そこから抜け出して、他の土俵で戦う選択をするということだ。
その意味からすると、セリアは一般の100円ショップ業界から、業界定義を「オシャレ100円ショップ業界」という独自の業界定義をしたといえる。特にオシャレ感を前面に出した新型店舗は「カラーザデイズ」というネーミングで展開しているという。「どこでも同じ」と思われがちな100円ショップ業界の中で、明確な差別化ができているため、他社と同列に消費者から扱われないという効果も期待できる。
普通にやっていたのではモノが売れない時代。たった100円の商品をめぐって、厳しい業界の中から抜け出そうとする企業の姿から学ぶものは多いといえるだろう。