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19 posts from March 2009

2009.03.31

再び100円ショップ業界を「5つの力」で読み解く

日経MJ 3月30日号に100円ショップ業界の新しい動きが掲載されていた。
その意味を再び「5つの力」で読み解いてみよう。

記事は「PBの衝撃」という」コラムで扱われている。<100円ショップ、個性の源に>とのタイトルで、<100円ショップ各社がプライベートブランド商品の拡大に乗り出した>と伝えている。
100円ショップ業界は、一時の原油高による原材料費高騰期に比べればまだ良くなったが、まだまだ原材料は高止まりだ。市場も完全に飽和している。消費者も経済環境の悪化によって財布の紐を締めており、「つい買っちゃう、100円商品」などという購買スタイルは影を潜めている。
低価格志向を強める消費者に対応するため、スーパー大手は低価格なPB商品を多数開発し、100円均一商品も増やしてきている。スーパーは意図的に100円ショップ業界を攻撃しているわけではないのだが、期せずして100円ショップの代替品を多数扱ってしまっているのだ。その結果記事にあるように<「相対的に100円ショップの割安感が薄れてきている」(大手100円ショップ幹部)>ということになってしまっているのである。

ここまでは、昨年10月19日に記した『「5つの力」で読み解く100円ショップ業界の未来
』とさほど環境は変わっていない。
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2008/10/5100-6a7d.html

5つの力で考えると、「買ってくれない消費者」は「買い手の交渉力」として大きく作用する。原材料の高止まりは、メーカーの卸価格も高止まりを招くため「売り手の交渉力」も強い。スーパーのPB商品と100円均一商品は強力な「代替品の脅威」だ。「業界内の競争」は生き残りをかけて当然激しい。5つの力のうち、4つまでが厳しい状況にある。

10月の記事では業界最大手のダイソーと、2位のキャンドゥの展開を分析したが、日経MJには業界中堅企業の独創的な展開が取り上げられている。
業界4位のワッツは<ラップは40メートルから60メートルに><30個入りの紙コップは50個入りに>というように、<同じ100円でもワッツのPBは量が多いという「少しでもお得感を打ち出す」>と同社社長が語っている。
もう一社、セリアという100円ショップは自社のPB商品のパッケージを、同社の新型店舗である<おしゃれな雑貨店のような店舗>の内外装に合わせ、さらに<デザインや素材にもこだわった>という。

両者の狙いは明確で、記事が分析するように<「100円ショップはどこでも同じ」という印象を変える目的>である。
この狙いは重要だ。バリュープロポジション(Value proposition)という。
顧客に対する明確な提供価値であり、顧客がその価値を認めてくれる要素。バリュープロポジションを構築するとは、自社の存在意義を顧客に伝え、差別化を図る上で大きな意味を持つ。
ワッツのバリュープロポジションは「とにかく量が多いこと」である。セリアは「オシャレであること」だ。どちらも顧客にとっては価値が明確であり、わかりやすい。

両社はそのバリュープロポジションを実現するために、前述の5つの力のうち、強い力を弱める工夫をしている。売り手の交渉力をワッツはまず弱めた。<特定の三社に対して独占的な供給契約を結ぶ見返りに大量調達をするほか、子会社を通じ直輸入すること仕入れコストを削減。通常より量が多くても100円で売れるPB作りに成功した>という。
セリアはもともとメーカーと共同で商品開発をする方針があったが、<「PBに関してはさらにパッケージや商品のデザイン、素材まで細かく話し合う」>と同社社長がコメントしている。メーカーと一体となって商品開発を徹底的に行う。売り手と一体となって味方に引き込めば、交渉力を弱める効果がある。
売り手の交渉力を弱めてバリュープロポジションを構築する。一般の100円ショップと差別化することによって、業界内の激しい競争から一歩抜きに出る。結果として、消費者から選んでもらえる。つまり買い手の交渉力も弱まるという構図が実現しているのだ。

5つの力分析は、業界内で働く多くの力が強く厳しい状況である場合、「業界定義を変える」という示唆も与えてくれる。厳しい業界であれば、そこから抜け出して、他の土俵で戦う選択をするということだ。
その意味からすると、セリアは一般の100円ショップ業界から、業界定義を「オシャレ100円ショップ業界」という独自の業界定義をしたといえる。特にオシャレ感を前面に出した新型店舗は「カラーザデイズ」というネーミングで展開しているという。「どこでも同じ」と思われがちな100円ショップ業界の中で、明確な差別化ができているため、他社と同列に消費者から扱われないという効果も期待できる。

普通にやっていたのではモノが売れない時代。たった100円の商品をめぐって、厳しい業界の中から抜け出そうとする企業の姿から学ぶものは多いといえるだろう。

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2009.03.30

売れる理由と儲かるしくみ

先週、日経新聞朝刊に「今時の売れ筋」と題するコラムが2回にわたって掲載された。その中でサラリと紹介されていた二つの事例、掘り下げてみると非常に興味深いことがわかる。

コラムは<消費低迷のなか、逆風をものともせずにヒットを続ける商品やサービスがある>とはじまる。その一つめとして紹介されているのが格安スーパー「ザ・プライス」の不揃いな魚や野菜だ。<しっぽが欠けていたり大きさがまちまちだったりと普段、流通ルートに乗らない規格外の魚を一括仕入れして実現した>という価格は、例えばアジが1匹77円だという。<特定農家と契約して野菜も提供>しているというが、その値段はタマネギ1個9円、ピーマン7円だ。<鮮度が良ければ、形に対する主婦らの反発は予想外に小さく>店は繁盛しているという。

文中で絵紹介されていないが、「ザ・プライス」はセブン&アイ・ホールディングス傘下の、株式会社イトーヨーカドーが運営するディスカウントストアである。同グループは採算性の悪いイトーヨーカドーをザ・プライスに転換を進めており、首都圏を中心に現在5店舗が営業している。
同店の低価格の秘密は、チラシや店内装飾などの販促費の削減と、食料品に集中し、大量仕入れをしていることと、川口店のWebサイトに説明がある。さらに、そこには『各売場の特徴』として、<青果売場や鮮魚売場では、標準品の他に、形は不揃いながらも品質は確かな「規格外」の青果や魚介類を、契約産地や市場より直接買い付けし、流通コストを削減>と明記してある。間違いなく不揃いな魚や野菜は目玉商品なのだ。

流通において、目玉商品を何にするかは極めて重要な課題だ。なぜなら、その目玉商品で客を集め、その他の商品でしっかり利益を稼ぐというマージンミックスで利益を創出するからである。目玉商品は場合によっては赤字覚悟のプライシングをする。「ロス・リーダープライシング」という。
ロスリーダーにはスーパーの場合、卵や牛乳などが設定されることが多い。なぜならば、価格が安定しており、設定した価格がどの程度安いのかがわかりやすいからだ。では、生鮮品を設定した場合どうだろうか。普通に考えれば、相場がわからないので果たして安いのかどうかわかりにくい。また、明らかに安い場合は、品質は大丈夫だろうかという不安感を客に抱かせることになってしまう。
その点、ザ・プライスの「ふぞろいな魚と野菜」は安さの理由が明確なので安心感が醸成できる。バブル崩壊以来、消費者は「賢い消費者」たらんとする傾向が非常に強まった。「合理的で納得感があること」は必須だ。それ故、この事例は「売れる理由」が明確であり、また、上手なロスリーダープライシングによるマージンミックスでしっかり儲けられていると考えられるので、秀逸な展開だといえるだろう。


コラムではもう一つの事例が紹介されている。
アップルストアで、日本のベンチャー企業が作ったiPhone用のゲームが、全米でダウンロード第1位になったとある。NIKKEI NETでは記事がなかったが、別のサイトにリリースを見つけた。
http://japan.internet.com/release/19411.html

コラムではゲームとしてのおもしろさだけでなく<他のゲーム機専用機向けのソフトが数千円するなか、当初0.99ドルとお試し感覚の値段が人気を呼んだ>と分析している。
上記の2月13日付のリリースでは<無料版である「LightBike Free version」は、20日間で総計60万ダウンロード><有料版の「LightBike Full version」も現在1日1万5,000ダウンロード>とある。実に驚異的な売れ行きではないか。開発したのは株式会社パンカク
という創業2年、資本金1000万円の会社だ。

この事例もプライシングの妙である。新製品の上市に際して、圧倒的な低価格によって市場のシェアを取りに行く価格戦略を「ペネトレーション・プライシング」という。Penetrationという言葉の意味そのままの「市場浸透策」である。
いかにすばやく市場に浸透させ、シェアを取るかがキモであり、そのために顧客がとにかく買いやすい低価格をつける。利益は採算ギリギリだ。それ故、競合もなかなかそこまで踏み込めないため、参入障壁を築くことができる。競合が躊躇する間にさらにシェアを取ってポジションを強固なものにする。
利益の少ないペネトレーションで、どうやって儲けるのか。それは、継続的に生産していく場合、数を多く作ることで習熟度を増して生産効率が高まる「経験効果」によって、コストを下げて利益を創出するのである。

では、ソフトウェアの場合どうなのか。一旦、プログラムが作り上げられたら、特にダウンロード型のソフトであれば、それ以降の作業は基本的には発生しない。収益は開発コストを回収してしまえば、全てバージョンアップや新製品の開発に回せる。つまり、ペネトレーションに向いているともいえる。
ではなぜ、他のゲームは高価格なのか。それは、プライシングが投資回収を多分に意識しているからだといえる。大作のゲームの場合、開発費も凄まじい金額に膨れあがる。億単位になることもあるという。
投資回収を第一に考えるプライシングを「スキミング・プライシング」という。Skimとは上澄みをすくい取ること。高価格・高利益率の価格設定でできるだけ早く投資を回収することを目的とするのである。

「LightBike」というゲームにどの程度の開発費がかかっているか知る術はないが、ゲームとしては異例のペネトレーションで勝負をかけたことが売れた理由と儲かった理由なのだろう。


モノが売れない、利益が出ないという話を良く耳にする。事実、財布の紐が固くなっている消費者相手では容易なことではない。しかし、売れるものもある。儲かっている企業もある。今回の二つの事例は「普通にやっていたのでは、売れないし儲からない」ということを教えてくれているといえるだろう。

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2009.03.27

どうなる?カップヌードルの「肉」変更

「品質改悪ではないか?」との声までがネットでわき起こっているという、日清・カップヌードル。具材を強化し、肉を「ジューシーな角切りチャーシュー」に変更するという同社からの発表を受け、根強いファンたちの間では異を唱える声も大きい。なぜ、そのようなことが起こっているのだろうか。

日清食品のニュースリリースでは、<このたびの具材強化により、お客様に「カップヌードル」のおいしさを実感していただき、カップヌードルブランドおよびカップめん市場全体の活性化を図ります>と、その意図を伝えている。
http://www.nissinfoods.co.jp/com/news/news_release.html?yr=2009&mn=3&nid=1577

リリースでも<発売以来、具材の増量や、容器の「ECOカップ」化など、時代に応じた「進化」を続け>てきたとしている。確かに、今回の「進化」に期待する声もある。一方で、あの独特のフニャっとしたしながら、どこか芯が残るような独特の食感をもった肉(ダイスミンチという名前だったようだ)が姿を消すのはなんとも寂しいというファンたちの声も大きい。一体どちらに転ぶのだろうか。

日清食品が37年間続くロングセラー商品に大きな改定を加えるには、もう一つ苦しい事情も伺える。
<カップヌードルの肉が進化? 日清食品、値下げ見送り“価値向上”>
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090326/biz0903260942006-n1.htm

昨年の小麦価格の急騰に伴って値上げを敢行したカップヌードルであるが、値上げの影響は小さくなく、値上げ前月比-52%という消費者からの手痛い「NO!」を突きつけられた。そして、今年に入ってからの小麦の値下がりによって、値下げも検討したものの、数年前よりいまだに高い状況にある相場から値下げを見送り、その代わりに品質向上を行うという結論に達したということだ。

価格の議論でいえば、昨年の値上げによる売上げ激減でわかるように、カップ麺のカスタマーバリュー、つまり、消費者がその製品にいくらなら払ってもいいと感じる価格は100円を大きく超えるものではない。そのカスタマーバリューにピッタリと合わせたプライシングをしているのがPB商品だ。ほとんどが98円、88円という価格でスーパーの店頭に並んでいる。
カップヌードルの現在の市場相場は170円程度となっており、もはやその差を埋めることはできようもない。その代わりに、日清食品では低価格帯商品のラインナップを充実させ、PB商品に対抗する戦略をとってきたのだ。それ故、原料価格低下に際して、「品質と味の向上による還元」という決断になったのである。

定番商品に対し企業が仕様変更という決断をした結果、消費者がそっぽを向く現象では有名な事例がある。コカ・コーラだ。
コカ・コーラ「カンザス計画」とも呼ばれるこの製品仕様変更の顛末はウィキペディアの記述(リンク)に詳しい。

1975年、米国ペプシコ社の天才マーケター、ジョン・スカーリー(後のアップルコンピュータCEO)は、徹底した飲み比べキャンペーンである「ペプシチャレンジ」を仕掛け「ペプシの味の良さ」をアピールし大きく売上げを伸ばすことに成功した。
追われる不安から、コカ・コーラは製品の味を根本的に変えるという戦略に打って出た。新しい味は、コカ・コーラ発売100年の直前である1985年4月24日に「ニュー・コーク」として市場に投入された。しかし、<ニューコークは消費者の不評を買い、コカ・コーラには抗議の手紙や電話が殺到する事態に。7月10日に至って、元のコカ・コーラをコカ・コーラ・クラシックとして再び販売せざるを得なくなっていった>という。

「知覚品質(Perceived Quality)」という言葉がある。
知覚品質とは、消費者が商品・サービスを購入するにあたって感じる品質のことであり、
商品の機能や性能などの物理的属性に加え、信頼性や雰囲気などの主観的な要素も加味して判断されるものだ。それ故に、企業が何らかの機能や性能を高めたり、原材料を変更したりと物理的な品質、(工場品質とも呼ばれる)を高めても、消費者にとって意味のあることでなければ、知覚品質が高まったとことにはならないのだ。

今回の製品改定を再度マーケティング・マネジメントにおける4Pと、さらに遡ってターゲティング・ポジショニングで検証してみよう。

・Product(製品):まさに今回の中心であり、仕様を具材の「肉」の品質向上という改定をしたわけだ。
・Price(価格):原材料費低下の中で、値下げという選択肢もある中、あえて値段はそのまま。その代わりに品質向上という消費者還元策で整合を図った。値下げもせず、仕様もそのままという状態よりは、基で考えれば整合しているとはいえる。
・Place(販路):変更は特にない。
・Promotion(広告):ニュースリリースによれば、<「カップヌードル」のCMキャラクターである木村拓哉さんが「コロ・チャー」の登場感を最大限に訴求する魅力的なCMを展開します>とある。タレントに消費者の知覚品質を代弁させようというアプローチであるが、共感が得られるかがポイントとなるだろう。

では、そうした4Pの展開を誰を狙って、どのように魅力をアピールしていこうとしているのか、ターゲットを考えてみよう。ネット上の書き込みを見てみると、仕様変更にネガティブな反応を示しているのはどちらかというと、「いつも食べている」といった、ヘビーユーザーらしき内容の記述が目立つ。ヘビーユーザーが保守的になる例は、この製品に限ったことではないが、傾向は強そうだ。
「味の向上」という企業側の主張は、「さらに美味しいカップヌードル」という、ポジショニングに「味のおいしさ」という要素を加えたことになる。しかし、「味の良さで食べているわけではない」とする、まさに、「カップヌードルのイメージ」という「知覚品質を買っている」という状態が伺える。
だとすると、製品改定がもたらす新たなポジショニングは、ヘビーユーザーの知覚品質に合わず離反を招くことが懸念される。

仕様改定されたカップヌードルの発売は4月20日。まだ1月近く前からこれだけの話題を集めるとは、同製品の人気の高さがうかがい知れるし、事前広告効果もバッチリだ。しかし、その後の消費者の反応は未知数である。一口食べて「確かにうまい!」と腹落ちさせることができるのか、知覚品質を納得させることができずに、ニュー・コークのような顛末を辿るのか。
もちろん、知覚品質は人それぞれ異なる。現状では期待するも、心配するも、その人の持つカップヌードルのイメージと価値による判断だ。まずは、改訂後の商品を食べてみようではないか。

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2009.03.25

ファミマの「お得意様優遇」を考える

ファミマはお得意様優遇サービスを今秋から開始するという。従来の画一的な顧客への対応・販売から優良顧客囲い込みへさらに一歩踏み込むことになる。その意味をを、偉大なるマーケターであり、ダイレクトマーケティングの父である、レスター・ワンダーマンの視点で考えてみよう。

ファミリーマートの新展開が09年3月25日日経新聞朝刊の9面に掲載された。NIKKEI NETの記事は概要のみだが、リンクは以下の通り。

<ファミマ、お得意様を優待 大手コンビニで初>
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20090325AT1D2406I24032009.html

ファミリーマートは従来、Tカード提携陣営の1社として、ファミマTカードによって、購入者にポイント付与を行っていた。そのポイントも<月間の購買金額が多い顧客らに対して、買い物に使えるポイントを多く付与、事実上、商品の提供価格に差を付ける>という。また、ポイントだけでなく<売前の商品を優先的に販売するといった特典も設ける>という。

顧客の利用・購入状況に応じてランキング管理し、優遇する考え方は新しいものではない。日経本誌では<百貨店や一部スーパーが以前から採用している>として、イトーヨーカドー、いなげや、オギノ、その他百貨店などの例を挙げている。どのような特典を提供するかは別として、そうした顧客管理の方法の基本は、古く1960年代に米国通販会社でスタートしている。「RFM分析」である。
RFM分析とは、R(recency・最新購買日)=どれぐらい直近に購入しているか、 F(frequency・累計購買回数)=どのくらいの頻度で購入しているか、 M(monetary:累計購買金額)=いくら購入しているかという3つの指標をポイント化して、顧客を管理する手法である。

単に購入状況のデータを活用するだけではないようだ。本誌にある記載、<化粧品の購入回数が多い女性区客は、ファミマと化粧品メーカーが開くイベントへ招待、開発された新商品を発売前に試し買いすることができるといった特典も計画している>という。POSデータもフルに活用され、購入客の性別・年代や購入品目を考慮した展開がなされるのだ。

この取り組みのキモとなるのは、顧客データ。コンビニでのデータ活用といえば、POSデータで商品の仕入れなどを判断することが知られているが、ポイントカードのデータはほとんどが顧客のポイント管理としてしか使われていなかっただろう。
購買データを、個々の顧客データと紐付けて、購買促進に活用する。そうした取り組みは、ダイレクトマーケティングやリレーションシップ・マーケティング、CRM(Customer Relationship Management)といった手法の中で数々試みられた。しかし、問題はその情報処理コストが非常に高く、低廉な商品・サービスではなかなか見合わないということにあった。昨今のITの進歩によって、コストは低減し、さらにきめ細かいデータ処理も可能になる。そうした背景が、ファミマの展開にフォローの風となっているのだろう。

では、今回のファミマの取り組みを、ダイレクトマーケティングを生み出した人物の言葉から考えてみよう。タイム誌が選んだ「20世紀の3大広告人」の一人でもあるレスター・ワンダーマンである。

彼の言葉には次のようなものがある。
<「あなたの価値は、持っている知識の量によって決まる。(You Are What You Know)」・・・情報となり得るデータを集めること。それがひいては知識となる。知識があってこそ、成功が約束され、失敗が最小限にくいとめられる。企業は、持っている知識の範囲以上の存在にはなり得ない。>(ワンダーマンの「売る広告」翔泳社)
まさに情報活用の重要性と有用性を表した名言だといえるだろう。

しかし、そのデータや情報をうまく活用する先には何があるのか。データや情報で、顧客のRFMを向上させ、「囲い込み」を実現することだろう。ファミマの展開もそれを目指したものだ。しかし、この「囲い込み」という言葉がくせ者だ。
囲い込みが成功した顧客を称して「ロイヤルカスタマー」と呼ぶ場合が多い。しかし、レスター・ワンダーマンは「ロイヤルティー(loyalty)」という言葉を強く否定している。
その言葉は本来「忠義」を表わすものであり、顧客が企業や商品・サービスに「忠義」を抱くことはあり得ないと。「ダイレクトマーケティングのゴールは、顧客のロイヤルカスタマー化である」という解釈をする人も多い中、その創始者の言葉としては意外かもしれないがスター・ワンダーマンの顧客との関係のとらえ方は非常に現実的なのだ。

同様に、ダイレクトマーケティングから派生したCRMについても、彼は否定的にとらえている。Relationshipについてである。「顧客とのリレーションシップは幻想に過ぎない。例えば歯ブラシを通じて顧客は企業と”つながり”を意識するのか。否である」と。
Relationshipの代わりに、彼はRelevantという言葉を示している。「大切なのは、顧客に”自分にピッタリだ!”と思ってもらえる、適切性、”relevant”である。”relationship”ではない」。ということだ。歯ブラシならずとも、実際のところ、企業や商品・サービスに顧客は自らとの強い関係を感じていないし、望んでもいない。それを、無理矢理関係付けようとするところに失敗の芽が潜むことになるのだ。

その意味からすると、コンビニエンスストアと顧客との関係は、まさに「歯ブラシ」のようなものだろう。コンビニを心から愛している顧客はまず少ない。特定店舗への来店頻度が多いのも、立地なのか、取扱品目なのか、何らかの「利便性」が自分に「ピッタリだ」と思えるからである。

ファミマの取り組みが成功する要件としては、その情報の活用の仕方が、顧客にとってRelevantな価値提供になっているかという点につきよう。
「「あなたの価値は、持っている知識の量によって決まる。」・・・しかし、そのデータや情報に振り回されないようにすることが肝要である。そそて、顧客視点で考え、顧客にとってRelevantな価値提供となる情報の活用が行われれば、ファミマの取り組みは成功するだろう。

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2009.03.24

B to Bのマーケティングは何が難しいのか?

超・基本ではあるけれど、その業界にいないとなかなか解らないのがB to B(Business to Business=企業間取引)の世界。コンシューマー相手のビジネス(B to C=Business to consumer)の世界にいる人にはなかなか未知の世界である。解っている人には「何を今さら」ではあろうが、様々な人から繰り返し質問されることなので、この際、整理してみようと思う。

■B to BのSTPはQCDが全て

「B to BのSTPはQCDが全て」。以上、この原稿終了。・・・といっても過言ではないのが実際の所。STPとは「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の略。マーケティンにおいては自社の外部環境・内部環境や競合環境を分析して、市場機会・事業課題を洗い出したら、戦略の方向付けをするのが基本的な流れである。

戦略の方向性を出すにもセオリーがある。市場を同質なニーズを持ったカタマリ(セグメント)で括って、どのカタマリを狙うべきかを(ターゲティング)評価し、そのターゲットに魅力的に見える打ち出し方(ポジショニング)を考えるのだ。その手順はB to BもCも同じ。

実はB to Bの場合、このSTPは極論すれば非常にシンプルな要素に絞り込まれる点がCと違うのだ。なぜならば、B to Bの取引は極めて経済合理性に基づいているからだ。
我々が一生活者としてモノやサービスの購入をしようと考えた時、「何となく、な気分」とか「習慣性」とか非論理的な要素が絡む場合が実に多い。しかし、企業活動の中での購買は、ほとんどが論理性と経済合理性で決定される。
どのようなニーズを持っているのかを見極めターゲットを選別する。ターゲットとなり得る見込み客・顧客のニーズにマッチするよう、QCDを調整して提示する。それがポジショニングだ。

QCDとは「Quality(品質)」「Cost(価格)」「Delivery(納期)」。ポジショニングはその組み合わせである。例えば、製造業へのセンサの開発・販売で超高収益を誇る「キーエンス」社の場合、そのQCDで示されるポジショニングが際立っていることが成功のポイントといって過言ではない。
製造ラインの中で、工場の人間も気付かないような問題点を指摘し、その問題の発生を発見し食い止めるようなセンサを提案する。課題発見・解決という極めて高いソリューションを提供しているので、クオリティーは最高レベルだろう。さらに、同社はそのソリューションの実体たるそのラインにカスタマイズされたセンサを非常に短い期間で納品する。その代わり、コスト(価格)は汎用品と比べ桁が一つ違う。
最高の品質(Q)を、桁が一つ違う価格(C)で、極めて短納期(D)で提供する。

もちろん、別のポジショニングを示す企業も重宝がられるはずだ。普通の汎用品を、極めて安価に、期間には余裕を持って納めさせてもらう。つまり、価格特化型だ。
このように、ターゲット企業のニーズとそれに対応したSTPを実現するQCDで勝負するのがB to Bの最大の特徴の一つなのだ。

但し、「B to Bマーケティングの難しさ」という本稿のタイトルに併せてこの項の結論を出すなら、例示したようなQCDでの明確なポジショニングを示すのは容易なことではない。調整がしやすいコスト(C)部分で勝負して利益が出ないどころか、赤字に陥ることもある。クオリティー(Q)の一つにはアフターサービスや技術サポートなども含まれるが、いわゆるそうした「付加価値」で勝負し、結果として「付加コスト」を延々と引きずってしまうこともある。納期(D)を短くせんと無理なスケジュールを組んで、デスマーチに陥ることもある。
クライアント企業の極めてシンプルな経済合理性であるQCDに適合させるための難しさが、B to Bの一つめの難しさなのである。


■B to BはDMU次第

QCDに続いてDMUとかって、いい加減に略号アルファベットはどうかと言われそうだが、DMUもB to Bで極めて重要な要素なのだ。Decision Making Unit(購買決定単位)。企業がモノを購入する際の意志決定に関与してくる様々な人々のことである。
例えば、ある企業の部門が必要としている業務システムを納入しようとしよう。キーマンはその部門のシステム導入担当者だ。スムーズに導入し、業務成果が出ることが彼の関心事である。
ソリューション提案に対して最終的に決済をするのは彼のビジネスラインの上司だ。つまり、ディシジョンメーカー。金額と決済範囲で役職レベルは異なるだろうが、上司の関心事は導入成功や業務成果はアタリマエとして、いかに早く使い物になるかという納期に関心が高くなる。また、自分の決済額の中でいかにコスト効率がいいかも気になるので、コストにも厳しい。
システム導入に影響を与える、インフルエンサー(影響者)という人々も登場する。ITのソリューションなら、そのシステムを保守・管理するIT部門の担当者が出てくるだろう。彼の関心事は、トラブルなく動き続けることである。また、業務システムであれば、その業務の経験が長い熟練者も強力なインフルエンサーだ。「そんなシステムじゃぁ、仕事は回らないよ」などといわれた日には!。そう言わせないためには、使い勝手や、きちんと成果が出るような品質が担保されていることが必要となる。

DMUの洗い出し。その重要性は、各々の関心事をきちんとケアすること。各々の関心事が実現されれば、味方になってくれるだろう。しかし、味方作り以上に重要なのは、「決して敵を作らないこと」である。組織といえども、そこにいるのは「感情の動物=人」である。ここ、重要なトコロだ。
もう一つ、DMUの厄介なことは、企業組織は常に異動があるということだ。せっかくDMUをつかんで関係を構築しても、異動一つで一からやり直しになることも少なくない。ある意味、B to Bば賽の河原に似ている。しかし、それを止めるわけにはいかない。それが第2のB to Bの難しさであり、悲喜こもごもが発生するゆえんである。


■「リファレンスユーザー」「ティーチャーカスタマー」を捕まえろ!

ここまでの整理だと、B to Bは何やらとても大変でオイシクナイ仕事のように思えるかもしれない。しかし、消費者向けのB to Cと比べ、一般に1回の取引量が大きく、うまくすれば継続的な取引が見込めてオイシイ部分も多々ある。さらに、一つの代表的なクライアントを獲得し、そこで成功すれば、その業界に水平展開して次々とクライアントを獲得することも夢ではないのだ。そこで重要な意味を持つのが「リファレンスユーザー」「ティーチャーカスタマー」と呼ばれる存在だ。
「リファレンスユーザー」とは、代表事例となるようなクライアントのこと。例えば、某金融業界では、リーダー企業が導入すれば、右へ倣えでシステムが導入されていくという伝説がまことしやかに語られていた。医療業界もそのよう傾向が強い。先進的な開業医の事例は多くの開業医が参考にする。業界を超えても、どのような課題に対して、どんなソリューションがうまく機能して成功したという話は参考にされる。実際には、「成功事例を真似しても、必ずそれが再現される保証はない」という持論を筆者は持っているのだが、ビジネスパーソンはとかく事例好きである。なぜなら、成功事例があれば、自身のDMUである上司を説得しやすく、失敗した時にも言い訳がしやすいからだ。
「ティーチャーカスタマー」という存在はさらに重要だ。ある業界向けのソリューションを開発したとする。しかし、その業界のことを1から10まで熟知するのは難しい。当然、モレ抜けや使えない部分がぼろぼろ出てくる。そうした問題点を承知で導入してくれて、問題点を解消し、ソリューションを磨いてくれるユーザーを「ティーチャーカスタマー」という。
もちろん、ユーザーから得られる利益は極めて少なくいのが通常で、採算度外視がほとんど。しかし、そこで得られたノウハウで水平展開ができれば大きな利益が得られる。
では「ティーチャーカスタマー」はなぜ、協力してくれるのか。それは、いち早くそのソリューションを手に入れ、運用ノウハウまで獲得できればFMA(Fast Mover's Advantage=先行優位)が獲得できるからだ。他社が完成されたソリューションを導入し、運用ノウハウを獲得するまでに先行逃げ切りで地位を築こうという目論見だ。その意味からすると、ソリューションの提供者による水平展開とは若干、利害が対立する部分もある。
費用を抑えてFMAを取りたいユーザーと、水平展開したい提供者。まさに、腹の探り合うである。そうした部分もB to Bの特徴である。


■異業種交流のススメ

筆者はビジネススクールの講師をしている。実に様々な業種からの実務者が学びに来る。B to BもCもいる。そして、彼らは一様に、BとCの環境の違い、考え方の違いに驚く。自社やクライアント、消費者の意志決定の仕方などを深く話せば話すほどに。
自身もB to Bでは何らかのインフルエンサーぐらいにはなっているかもしれない。B to Cでは確実に一生活者である。しかし、そうした立場は忘れがちだ。BとCの立場を超えて、「マーケティング」という切り口で、一度、異業種交流をすることをお勧めしたい。相互に発見があることは間違いない。その際に、今回はB to Bの切り口で、B to Cとの違いを記したので、そうした差異点を抑えて話すと効果的だろう。

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2009.03.23

アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

「うまい」。思わず唸った。発売されたばかりの発泡酒「アサヒ クールドラフト」を飲んで思わず漏れた一言。しかし、そのうまさ故に、不安を感じざるを得ないコトもあるのだ。

豊川悦司が射すくめるような鋭い目で語りかける。「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」そしてポスターにはもう一言「キレが、うまさだ。」とのコピーが添えられている。「キレ」は確かにアサヒビールのお家芸だ。しかし、誰に対して「一番を決めよう」と挑戦しているのだろうか。

かつてビール市場でのシェアが10%を割り込むまでに落ち込んでいたアサヒビール。チャレンジャーの戦略である「差別化」の切り口として「ビールのうまさは”キレ”」にあるという新たな価値観を訴求した。「スーパードライ」の上市である。「キレのスーパードライ」でシェア50%超えを誇るキリンビールの牙城を切り崩し、一気に首位の座を奪取した。21年前のことだ。そしてついに、<2008年のビール市場(発泡酒と第3のビールを除く)で、アサヒビールのシェア(市場占有率)が、初めて50%を超えることがほぼ確実となった>(※1)という。

しかし、発泡酒と第3のビールを含む「ビール類市場」で見ると、昨今、「ビール」の販売量低下には歯止めがかかっていない(。※2)<ビールの構成比は46・8%と平成4年の統計開始以来、過去最低の水準>であるという。

ビール類市場のポートフォリオで考えれば、アサヒはスーパードライという強力な「金のなる木」を抱えている。金のなる木には積極投資をせずに、新たな「スター」を育成するために「問題児」に投資をするのが原則である。そして、ビール類市場における問題児とは、「第3のビール」に他ならない。
第3のビールは今年2月の統計で、ビール類市場全体が落ち込んでいる中、<構成比率が30・1%と単月で初めて3割を突破>した成長分野である。

成長分野である第3のビールにおける各社の戦いはどのように展開されているのだろうか。<首位のキリンが41・7%で、アサヒは20・9%とサントリーに次ぐ3位>(※3)であるという。
アサヒはシェアにおいてキリンにダブルスコアの大差をつけられているが、そこには明確な意志決定がある。第3のビールには<本来のビールの原料である麦芽を一切使わず、大豆やエンドウ豆を原料とする「その他醸造酒」>と<麦芽を使った発泡酒とスピリッツなどの蒸留酒をブレンドした「リキュール」>の2種類が存在し、アサヒは<先月3日に、その他醸造酒から撤退しリキュールに特化する方針を表明>しているという。つまり<麦芽を使うため、本来のビールに近い味わいが実現でき、ビール党の支持も集め、シェアを急拡大>している「リキュール類」に経営資源を集中し、「第3のビールリキュール類シェア1位」を標榜しているのだ。

そうなると、悩ましいのが発泡酒カテゴリーである。第3のビールのシェアが上回ったとはいえ、このカテゴリーを捨てることはできない。しかし、このカテゴリーで生き残るためには、キリンの「麒麟淡麗〈生〉」ような強力なブランドが必要であることが見えている。
同ブランドが誕生して以来、11年。今年1月に<累計販売本数が200億本を突破>(※4)したといい、<発泡酒売上げ10年連続No.1>の王座で、縮小傾向にある発泡酒カテゴリーにおいても堅調な伸びを示している。
淡麗の人気の秘密はどこにあるのか。それは、淡麗の示すポジショニングが如実に表わしているといえるだろう。<爽快なキレのある味と、引き締まった喉ごしを併せ持つ発泡酒>である。(※5
アサヒがキリンに突きつけたビールの「キレ」という新たな価値。キリンはそれまで、ビールの「うまみ」というものを訴求していたといえるだろう。故に、「キレ」に注目が集まったからといって急にメッセージを転換することはできない。リーダーが従来、顧客に対して発信してきたメッセージと矛盾するような製品を提供する「論理の自縛化」というチャレンジャーの戦略にはまったわけだ。
しかし、発泡酒という新たなカテゴリーなら、「キレ」を訴求できる。それが奏功したのだ。

対するキリンはどうか。発泡酒のメインブランドは「アサヒ本生ドラフト」である。メインメッセージは<これぞ、コクキレ。飲みごたえの「生」。>。(※6
「コクキレ」である。アサヒのお家芸である「キレ」の前に「コク」がきている。実際に飲んでみても、キレよりも、むしろ重たいビールの「味わい」がが感じられる。
発泡酒においてコクを訴求するアサヒ。それは自社のフラッグシップであるスーパードライを守るためではないかと推察できる。低価格な発泡酒で同様にキレを充足させてしまったとしたら、スーパードライとのカニバリゼーション(共食い)が発生する。故に、キレの発泡酒は作れない。
ビール市場でリーダーとなったアサヒは、キリンからチャレンジャーの戦略の定石をしかけられたのだ。リーダーが強みとしている製品と共食い関係となるものを提供する戦略を「事業の共食い化」という。

今回、アサヒは本生ドラフトを温存したまま、クールドラフトを上市した。それにいかなる意味があるのか。広告のコピーは冒頭記した「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」である。発泡酒カテゴリーのリーダーである淡麗生に真っ向勝負というわけだ。消費者から「一番じゃない!」と言われたら、もうどうすることもできない背水の陣を敷いたのだ。
負けられない戦いにおいて、やはり決め手は味だ。そして、その味は「キレが、うまさだ。」とのコピーが端的に表わしている。そして、そのコピーに偽りはなく、確かに喉ごしのキレは抜群でうまい。
味だけではない。パッケージにも並々ならない力のいれようが感じられる。缶の2/3を占める輝くシルバーの地色。それはスーパードライを彷彿とさせ、パッケージを見ただけでもキレを期待させる効果抜群だ。そして、そこに描かれた英文の一節にはとの表記がある。ビールの味は酵母で決まる。スーパードライを世に送り出したアサヒが誇る「純粋培養酵母」を訴求している。アサヒの本気感がビリビリ伝わってくるようだ。

アサヒが本気になってキレにこだわった発泡酒を作る。確かにうまいものができあがった。ユーザーとしてはうれしい限りである。だが、スーパードライと見まごうようなパッケージと、それに迫る味わいは、少なからずカニバリが発生することが予想される。その程度が「少なからず」というレベルに留まらなければ、さらに傷は深まる。
そのため、「うまい!をカタチに!」と称する、ほぼ1年間にわたるような、マストバイ(購入必須)応募型キャンペーンを展開し、スーパードライユーザーの囲い込みを図っている。しかし、それでもカニバリの懸念は消えない。何しろまだ出口が見えな景気の低迷は、消費者の低価格志向をさらに加速させているからだ。

アサヒはスーパードライを自らの製品で喰ってしまうというパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。
しかし、そこにはアサヒの明確な意志決定を感じる。ビール市場において不動の1位を確保し、そこで顧客の囲い込みを図る。しかし、市場自体は縮小傾向だ。そのため、最も成長が期待できる第3のビール分野では、自社の技術が活かせる「リキュール類」に経営資源を集中。そして、キリンに頭を押さえ続けられている発泡酒市場において、ついに総力戦を挑んだということなのだろう。

「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」とのメッセージには、筆者はこの、「クールドラフト」に一票を投じたい。そして、同時に、スーパードライとの関係がどうなってゆくのか。アサヒの製品ポートフォリオ戦略が奏功するのか、今後を見守っていきたいと考えている。

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2009.03.19

「モノの本質を極め、オシャレを身にまとったル・クルーゼの鍋」:定番のヒミツ第12回

日本実業出版社の季刊誌「ザッツ営業」好評発売中です。

ザッツ営業 http://www.njh.co.jp/that/that.html

同誌に連載中のコラム「定番のヒミツ」第12回が掲載されています。

今回は「鍋」です。

鍋も、「煮炊きができれば皆同じ」と、思われがちな商品ですね。
が、しかし、そうではないのです。

定番ともなれば、鍋から学ぶものも多いのですよ・・・。


以下、記事転載。

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「ココット料理」は最近レストランでも鍋ごと出すスタイルが定着してきていて、そこで度々目にするのが「ル・クルーゼ」。素朴でありながら鍋の質感の高さがスパイスとなって、より一層料理が美味しそうに見える。また、厚い鍋だから、料理も冷めない。そしてこの鍋は「一度使うとそれなしでは料理ができなくなる」と一流シェフから家庭の主婦までが口を揃える。

昨今、鍋などホームセンターに行けば千円もせずに買える。しかし、この鍋の価格は3万円前後。もう一つの特徴はその重さ。3~4キログラムという超重量級だ。間違って落ちてきたらと、キッチンのシンク上の棚などには収納できない。料理の際の取り回しも力仕事と化す。なのに、この鍋は別格の扱いで売れ続けている。

鍋のもたらす本質的な価値とは何だろうか。「煮炊きして料理が作れること」だ。ただそれだけならば、ホームセンターの千円鍋でも十分役に立つ。ではその「料理を作れる」を「美味しい料理が作れる」とした場合はどうだろう。弘法筆を選ばず、ではない。プロであればしっかり道具にはこだわる。素人であれば、道具に頼るという意識も働くだろう。

たっぷりと鉄を使って鋳造された鍋は嫌が応にも重量が増す。そのぶん、ムラのない熱まわりが実現し、微妙な火加減を要する調理もおいしく仕上げられるという。重量級の鍋ぶたによって料理が吹きこぼれることもなく、ちょっとした圧力鍋のような使い方もできる。美味しい料理を作るために、「煮炊きする」という本質をより高めた結果、重量は増す。しかし、それは本質的な価値を追求するために妥協できない要素なのだ。

美味しい料理を作るための重い鍋、というと無骨な外見が連想されるが、そこにル・クルーゼがもたらすもう一つの価値が存在する。鍋なのに、ナゼか「新色」が定期的に発売されるのだ。2009年春の新色は「アンティークローズ」。「心地よい春を感じる上品なローズ色」だという。「美味しい料理を作る」ことには何ら関係ないが、商品の魅力を高める付随機能として貢献している。
「料理できそう。おしゃれでかわいい。飽きない」。ル・クルーゼはそんなキーワードで数多くの女性の心をつかんで離さない。そして、結婚記念日やホームパーティーなど、ちょっとしたハレの日の料理作りに活躍するのだ。

自らが顧客に提供する本質的な価値とは何なのか。それを見極め、高める。そして、本質とは一見関係がない要素であっても、顧客が魅力的に感じるキラリと光る要素をさらに身につける。鍋だけの話ではない。全てのビジネスに求められることだ。

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2009.03.18

「価値構造を変化させよ!」ヒット商品に学ぶそのヒミツ!

どこにでもある、ありふれた「コモデティー品」や、もはや使用する人も少なくなった、プロダクトライフサイクルの「衰退期」にある商品。そんな商品が思わぬヒット商品に化けることもある。2つの商品を例に、そのヒットのヒミツを探ってみよう。


「マスキングテープ」をご存じだろうか。
マスキングテープとは、元々は塗装などを行う作業現場で、塗料が不要な部分に付着しないようにカバーする道具である。必要な分だけを引き出して、簡単に手でちぎれる。貼って、簡単にはがせる。はがした後も糊の跡が残らないというのが特徴だ。
そんなプロ用の、使い捨て資材が色とりどりの雑貨として生まれ変わった。

カモ井加工紙株式会社の「mt(masking tape)」だ。
http://www.masking-tape.jp/about/

もともと、マスキングテープははがしやすさから、資材識別のための一時的な目印として用られることもあったので、様々な色展開があった。そして、素材として和紙が使われているため、その風合いがいいとして雑貨小物として利用するファン層があったという。
その熱心なファンから、さらに色展開や模様などをプリントした商品を開発するように促され、商品化に至ったのだ。

マスキングテープの本来の「中核的価値」とは何だろうか。それには、カモ井加工紙株式会社の出自が大きく関係する。
同社の歴史は、大正12年に害虫であるハエを捕る「ハエ取り紙」の製造・販売からスタートした。「ハエ取り紙」を知らない世代も多くなっているはずだが、部屋の天井からリボン状の紙をつるしておき、ハエがたかると、紙にコートされている粘着材で動きが取れなくなるというモノだ。つまり、カモ井加工紙のコアの技術は「粘着」なのだ。

マスキングテープは簡単に貼り付き、簡単にはがせる。糊の跡が残らないという、粘着の具合が「中核的価値」である。その貼る際の簡便さを確保するために、テープの形状となった。つまり、中核的価値を実現するための「実体」がテープという形状であるわけだ。
「マスキング」という本来的な使い方を離れて、はがしやすいという特徴が重宝され、「識別用の目印」として用いられるようになったため、「付随機能」として、色展開が始まった。
こうして考えると、マスキングテープの価値構造は、「貼りはがしのしやすさ>使いやすいテープ形状>識別用色展開」となっていることがわかる。

では、「雑貨小物」として大ヒット中の「mt(masking tape)」はどのような価値構造を持っているのだろうか。中核的価値として、「資材」であるマスキングテープの全ての価値が求められている。即ち、「貼るはがす+テープ形状+色展開」である。それらのどれ一つ欠けても魅力を失う。
そして、新たな実体も求められ、それに応じて開発が続いている。「色・柄」である。識別用としてなら色展開はそんなに多くは必要ない。しかし、趣味の雑貨小物として、様々な使用用途に供するために、もっと豊富なカラーリングが欲しい。色だけではなく柄物もという、価値が求められたのだ。
さらに、「mt(masking tape)」という商品の中核にか直接影響を及ぼさないが、その魅力を高める付随機能も、大変効果的に用いられている。商品パッケージである。雑貨小物らしく、シンプルながらもセンスの良いパッケージで商品の魅力はさらに増しているのである。

プロ用の使い捨て資材を、「おしゃれでかわいい小物小物」に昇華させた「mt(masking tape)」。ヒットのヒミツは価値構造の組み替えなのだ。


もう一つのヒット商品を紹介しよう。こちらは、「知る人ぞ知る」という隠れたヒット商品であるが、静かに全国に浸透し、海外進出まで果たしているようだ。

「こけしマッチ」。
商品紹介のページへのリンクを下に記すが、商品写真を見て吹き出さないように注意いただきたい。
http://www.kokeshi-m.com/kokeshi.htm

マッチである。ただのマッチだ。ただのマッチに顔が描いてあるだけ。それだけ。
しかし、その顔がいい。なんともトボケた表情が心地よい脱力感を与えてくれる。マッチ箱のヘタウマっぽいイラストと、「人生のともしび」というコピーもいい。

きょうび、マッチを使う機会などめったにない。プロダクトライフサイクルで考えれば、もはや衰退期どころか消滅寸前のプロダクトである。
しかし、マッチに顔を描いただけで、「こけしマッチ」は、もしかすると生まれてこの方、マッチを擦ったこともないような新規ユーザーを獲得し続けているのだ。

マッチの中核的価値は当然、「火を点けられる」である。実体は「どこにでも簡便に持ち歩ける」だ。付随機能は何かといえば、パッケージのデザインだろう。そうした人もほとんど見かけないが、パッケージの意匠に惹かれてコレクションをしている人もかつては多かった。

マッチの持つ価値構造の、中核と実体は、今日では完全にライターが代替している。喫煙者がいない家庭でも、1つ100円で購入できるため、ライターの一つや二つはあるだろう。
「こけしマッチ」はマッチの持つ、付随機能を極限まで高めたと解釈できる。
つまり、「趣味のコレクション」としてのマッチである。パッケージに楽しい絵が描いてあるなら、マッチの頭にも絵があった方が楽しいだろう。そんな価値構造の転換が発想の原点ではなかっただろうか。
同サイトには<使い方はいろいろ。マッチをすって燃えゆくマッチにちょっと罪悪感をおぼえたり、色んなマッチたちをコレクションしてみたり>とある。しかし、恐らくこのマッチを本来の「火を点けられる」という価値を実現するために用いる人はいまい。何といっても、このマッチ、4箱で1,000円もするのだ!擦って燃やしてしまってはもったいない!
燃やさないマッチ。価値構造を転換させることによってヒット商品となる例として、この「こけしマッチ」は大いに参考になるだろう。


商品の持つ価値構造を組み替えたり、転換したりすることによって、ヒット商品は生まれる。既成概念だけで考え、「モノが売れない」と嘆く前に、柔軟な発想をしてみることが必要なのだ。

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2009.03.17

リカルデント ガム、その絶妙なポジショニング

リカルデントの新シリーズ「スマートタイム」。ガム市場で強大なシェアを持つロッテに挑むキャドバリーが、秀逸な戦い方をしている。

ガムをかみ始めた幼少の頃、駄菓子屋で買った、丸川製菓の「マーブルフーセンガム」。果物味の砂糖でコーティングされた、丸いガム。4粒で10円、当り付き。フーセンをふくらましたり、くじの当たり外れでドキドキしたりという付随的な楽しみも欠かすことはできないが、中核的な価値としては「口中に甘い味が広がり、それなりに長い時間味わい続けられること」ではなかっただろうか。少ない小遣い銭しか持っていない子供にとって、5円、10円という価格の駄菓子も多くは買えない。飲み込めないもどかしさはあるものの、長く食べ続けられるガムは欠かせないアイテムだった。
しかし、必ず親から言われることがあった。「いつまでも噛んでいると虫歯になるわよ」と。

そんなガムのポジショニングが劇的に変化したのは1997年のことだろう。「お口の恋人」、ロッテから「キシリトール ガム」が発売されたのだ。
1997年、虫歯の原因になる酸を作らない糖アルコールの一種であるキシリトールが、当時の厚生省から食品添加物に指定された。それを遡ること20年前から砂糖の代替甘味料としてキシリトールを研究していたとされるロッテは、事前に商標登録を済ませており、指定直後から怒濤の販売攻勢をかけたのである。

それまでのガムは、「口寂しさを紛らわせることができるが、虫歯になるリスクをはらんでいる」という存在だった。故に、「虫歯を気にしてガムを噛まない」層が多数存在した。
そんなガムが、キシリトールの配合によって、「歯を健康で丈夫に保つ存在」へと大きくポジショニングが変わったのだ。
キシリトール配合ガムによる虫う蝕予防効果には諸説あるものの、少なくとも虫歯を気にする必要はなくなった。それまでもグリーンガムやクールミントガムなどで、口臭予防や清涼感を求めてガムを噛む成人層はいたものの、「食後に歯に良いので噛む」というような、新習慣が広まったのである。

さて、話はようやく本題の「リカルデント」ガムに移る。
1962年に世界初のシュガーレスガムとして米国で登場した「トライデント」。その後継として登場した「リカルデント」は、牛乳のたんぱく質(カゼイン)由来のCPP-ACPを配合して、キシリトール上回る「歯を丈夫で健康に保つ」機能を実現したという。(キャドバリー社のWebサイトより)。

キャドバリー社が抱えているガムのブランドには、定番中の定番である「クロレッツ」がある。クロレッツにも現在では全バリエーションにキシリトールが配合されているが、どうしてもブランドのポジショニングとしては「息がキレイになる」という、口臭予防的なイメージが強い。そして、そのポジショニングは、昨今の消費者が求める価値とは乖離があるといえる。
同じキシリトール配合では勝てない。それ故、「歯に良い」という消費者のKBF(Key Buying Factor=購入理由)に合致したポジショニングをより強化した「リカルデント」で戦いたい。同社の思いはそうしたところだろう。

しかし、ガム市場におけるロッテの存在はあまりに巨大だ。
ガムのシェアを示すデータは少ないが、2002年の全日本菓子協会の発表によると、ロッテのシェアは63%に上る。キャドバリーはシェア2位とはいえ、ロッテのシェアはあまりに大きい。
クープマンの目標値から考えても、よほどの不測の事態がなければトップの座は安泰とされる「安定的シェア(41.7%)」を大きく超え、短期的には首位を奪われることがあり得ない「独占的シェア(73.9%)」に迫る勢いだ。店頭での販売シェアも、ロッテのラインナップにキャドバリー社のラインナップは頭を押さえられた格好になるという。

同じ「歯に良い」というポジショニングでは、いくら機能強化したところで、リーダーの戦略である「同質化」を回避することはできない。いくら「こっちの方が機能が上です!」と訴求しても、強大な広告宣伝やセールスの力の前にはかき消され、ポジションが被されてしまうのだ。

そこで、リカルデントブランドの切り札として2008年10月20日に発売されたのが、「リカルデント スマートタイム」なのだろう。
「ガムで、コバラ。」「これからの、新・間食ガム」というコピーが示すとおり、「間食として食べるガム」という、全く新しいポジショニングを示してきたのである。
シトラス&ベリー味がまず上市され、<ガムの内側からシトラス&ベリーの「ジューシーリキッド」のおいしさがたっぷりあふれ、口の中に広がります。そのカロリーは一粒たった3kcal!>と製品特性がアピールされている。
「ガムで小腹が満たせるか?」と思って試すと、「ジューシーリキッド」の濃厚な味わいで食べ応えが感じられる。しかも、シュガーレスで1粒3kcalだ。同様な意見をWeb上でブロガー達が異口同音に述べている。

さらに強力な新製品も投入された。3月9日発売の「マイルドチョコレート」味。
<噛んだ瞬間、ガムの中から本格的なチョコのおいしさがたっぷりあふれ、口の中に広がります>とアピールしている。
「ガムは歯の健康を保つためのもの」と、いつしかキシリトールの呪縛がすり込まれているからか、「ガム×チョコレート」という組み合わせには違和感が働いた。しかし、シュガーレスであるという。食べてみると、まさにチョコ。しかも、長く噛んでいられるため、1粒でずいぶんとたくさんチョコを食べたような満足感がある。

このキャドバリーの戦略のすごいところは、「スマートタイム」シリーズに関しては、全く「歯に良い」というポジショニングを後ろに隠しているところだ。シュガーレスであるばかりでなく、スマートタイムもCPP-ACP配合であるので、しっかり歯に良いはずだ。しかし、それは言わない。あくまで「間食サポート」であり、「小腹を満たせる」なのである。

ポジショニングを示す時に、複数の効用を示すことがいけないわけではない。
例えば、メルセデスの車は「Luxury」「Comfortable」「Safety」というポジションを示す。確かにメルセデスの車を思い浮かべれば納得がいく。しかし、BMWは「究極のドライビングマシン」という一言で自らのポジショニングを説明する。BMWの方が明快で魅力が伝わりやすいといえるのではないだろうか。

ポジショニングを示す時、どうしても、複数の属性を示したくなるものだ。特にマーケターは2つの軸、4象限でポジショニングを示す「ポジショニングマップ」を使い慣れているので、2つぐらいの属性を組み合わせたくなってしまう。
それを、キャドバリーはぐっとガマンしたのではないだろうか。
特に、チャレンジャーはリーダーに対して、「自分たちは違うんだ!」と言い続けて、ポジショニングを差別化しなくてはならない。あえて、一つの大きな効用を隠し、一番伝えたいメッセージに絞り込むのは大正解だといえるだろう。

戦略ポジションに応じたメッセージの絞り込み。実際には、つい欲が出るため、言うは易く行うは難い。ガムのポジショニングに学ぶところは大きいだろう。

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2009.03.16

第三次野菜ジュース戦争勃発・今度のキーワードは「スッキリ」?

熾烈な飲料の戦いにおいて、いまいちマイナーな存在である「野菜ジュース」カテゴリーであるが、再び2つの商品が戦端を開いた。しかし、その狙いはカテゴリーのトップを目指すだけではなさそうだ。

昨今の飲料業界のトレンドを一言で表わすなら、「緑茶飲料から炭酸飲料へのメインストリームの移行」である。緑茶飲料は、伊藤園「おーいお茶」の独占市場に、キリン「生茶」が進出して以来、サントリー「伊右衛門」も加わり、3強ブランドが市場の70%を占めた。しかし、各社が挑戦の手をゆるめないという、活性市場であった。しかし、業界内の競争ではなく、思わぬ代替品が市場の衰退を招いている。
ゼロカロリーの炭酸飲料である。ゼロカロリー甘味料の使用により、炭酸でさっぱりしながら、適度に甘みも感じるという製品が誕生。「カロリーは気にするが美味しいものを飲みたい」という消費者の嗜好にマッチして、炭酸飲料市場が急伸中である。

そんな中で、イマイチぱっとしなかったのが、野菜ジュースカテゴリーではなかっただろうか。しかし、約1年前の昨年4月頃から、新しい動きが始まっていた。
それまでの中心的ブランドであった、カゴメの「野菜生活100」「野菜一日これ一本」、伊藤園「充実野菜」「1日分の野菜」という二大メーカー、4強ブランドにサントリーが「野菜カロリー計画」で戦いを挑んだのだ。
サントリーの競争軸は「カロリー」。 「野菜一日これ一本」「1日分の野菜」のような、野菜汁オンリーではなく、果汁混合タイプでスッキリした味わいながら、糖質を20%オフ。さらに、今まで「絞りかす」として捨てていた繊維質をピューレ化することで100%摂取できるという健康志向強化も図っている。
スッキリしていて低カロリー。健康志向もより強化する。そんな野菜飲料のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)が見え始めていたのだ。

そして、今春、カゴメと伊藤園は新たな戦いを市場の中で、もしくは野菜ジュース市場を超えて飲料市場に進出しようとしている動きがある。

3月10日から発売が全国で始まったのが、カゴメ「野菜しぼり」。
http://www.kagome.co.jp/news/2008/090128.html

なんともストレートなネーミングであるが、そのこだわりは原材料のチョイスと、ネーミングにある「しぼり方」である。
3タイプの味があるが、いずれも2~3種類の野菜しか使われていない。従来の「何十種類の素材をブレンド!」というものとは明らかに異なる。その厳選した素材を、<超高温・短時間殺菌で、風味を損なわず野菜の甘みを活かす>という製法によって、一切加糖しない野菜だけのスッキリした甘みを引き出しているという。
ターゲットは<野菜ジュースに『野菜本来のおいしさ』を求める、30代以上の男女>であり、<野菜ソムリエの活躍や、野菜レストランの出現、野菜スイーツの登場に見られるように、野菜本来のおいしさが注目され、野菜を味わうことを積極的に楽しむ>ターゲットの増加に対応したとのことである。
つまり、「野菜ジュースを飲む/飲まない」というセグメンテーションやターゲティングではなく、「本格的に野菜を好むオトナ」というターゲットに絞り込んで、野菜ジュースではあるが、むしろ「本格的な野菜加工食品」としてのポジショニングで打って出ようという戦略なのだろう。

もう一方で、さらにユニークな戦い方を挑もうとしているのが伊藤園だ。
野菜と果汁のミックスは従来路線だが、それに炭酸がブレンドされている。
「SPARKLING Vege(スパークリングベジ)」という新製品は本日発売だ。

緑茶カテゴリーのトップブランドである「おーいお茶」を主力商品として持つ伊藤園には、伸長する炭酸飲料カテゴリーに目立ったブランドがない。そこで、もう一つの得意技である野菜ジュースのノウハウを活かして炭酸市場に攻め込もうという戦略だ。
しかし、その方向性は安易な選択ではない。ニュースリリースが、明快な同社の戦略を端的に伝えており、実に面白い。
http://www.itoen.co.jp/news/2009/031204.html

同社が目指したのは徹底した、「ターゲット発見」とターゲットの「ニーズギャップの解消」と「ニーズの掘り起こし」である。

<野菜飲料・炭酸飲料の両カテゴリーともに、既存製品の味わいに「飽き」を感じているユーザー>というターゲットを発見。
さらに、<炭酸飲料ユーザーの中でも「健康」を気にされるユーザー>というセグメントに対し、<野菜と果実を炭酸飲料にミックスするという新しい味わいを提案>というソリューションを提供することを考えたわけだ。
そして、<野菜を20種類、果実を3種類><野菜汁が20%、果汁が30%><350mlあたり60kcal>というスペックで実現したのである。
結果として、流行りの炭酸市場へ、ゼロカロリーではないが「低カロリーなサラリとした野菜系炭酸飲料」というユニークなポジショニングで切り込んでいくわけだ。

より本格的な「野菜加工食品」としてのポジジョニングを目指すカゴメ。「ユニークな炭酸飲料」としてのポジショニングを目指す伊藤園。
伊藤園の分析にもある通り、従来のちょっとドロッとしていて垢抜けない野菜飲料というドメインは、昨今のスッキリ流行からすると、大きな伸長は望めないだろう。だとすると、そのドメインを拡張して、「飲料ながら本格派」だったり、「野菜だけど炭酸」だったりする、ドメイン拡張を行うことは、方向性は異なるものの、正解かもしれない。

今回の野菜飲料戦争は、直接対決ではないものの、どちらが市場に受け入れられ、生き残るか。興味が尽きない。
まずは、カゴメ「野菜しぼり」に続いて、本日発売の伊藤園「SPARKLING Vege(スパークリングベジ)」を試してみよう。

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2009.03.13

「時代じゃない?」では済まない場合もある!

今日も経済・企業関連のニュースは価格戦略に関する話題が花盛り。熾烈な値下げ合戦で血路を開かんとする企業の姿が数々伝えられている。昨日の筆者の記事「キムタクのCMの真実とホンダ・インサイト&ユニクロとジーユー」の続編的にそれらを追っていこう。

まずは、昨日のおさらい。今日の経済環境においては、消費者は企業に対し、「価格」に対する「価値」を高めることを強烈に要求してくる。
キシリッシュのCMに出演したキムタクが演じる役に突きつけられた一言、「時代じゃない?」はそれを端的に表わすフレーズなのだ。「コストパフォーマンス」と一言でいってしまえばそれまでだが、その要請に応えていくことは中途半端な覚悟ではできない。

200万円越えのトヨタ・プリウスに対して、「庶民のハイブリッドカー」として、185万円からの価格を血のにじむような努力で実現した、ホンダ・インサイト。
しかし、トヨタは独走を許さない。

<トヨタ、200万円切る新型ハイブリッド車 2011年メド>
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20090313AT1D1102J12032009.html

5月に発売される新型プリウスが少々高額になるのに対し、現行型を低価格で販売することは既定路線として伝えられていたが、さらにホンダを追撃し、追い抜く戦略が明確になった。
<2011年にも日本で発売する。他車種との部品共通化などでコストを抑え、現行「プリウス」(最低価格233万1000円)より2―3割安く、ホンダが2月に発売した「インサイト」(同189万円)を下回る価格を目指す>という。

一方、ユニクロ、H&M、GAPなどの、新たなアパレルの形態であるSPA(製造小売り)の快走に対して、既存流通も反撃の動きを強めだした。特に、昨日記した、ユニクロの「グッドバリュー戦略」である「ジーユー」対抗の色が強く感じられる。ジーユーの低価格の象徴である「990円ジーンズ」にも真っ向勝負だ。

<スーパー、格安衣料競う 西友1470円ジーンズなど>
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20090313AT1D120BN12032009.html

<西友は13日から最低価格が従来より約3割安い1470円のジーンズを売り出す。イオンは300円台の子供服を8月までに大型スーパー「ジャスコ」全店で扱う>という。

消費者の低価格志向の高まり、価格を超えた価値の追求に応えることは時代の要請であり、企業は生き残りのためにさらなる工夫が求められるのは間違いない。
しかし、その「工夫の仕方」が問題なのだ。

例えば、こんな展開はうまい典型だといえるだろう。
<5個100円!「紅虎餃子房」に“100円餃子”登場>
http://news.livedoor.com/article/detail/4059515/

<通常380円(6個)のクオリティーそのまま!>に100円で提供するという。しかし、<「正直、ギリギリの値段設定なので、とりあえず期間限定で始めます。ここまで思い切った企画は、弊社でも前例がないんですよ」>と担当者はコメントするが、この餃子だけ食べて店を出る客はほとんどいないだろう。戦略的に赤字ギリギリ、もしくは赤字の商品を設定して集客を図る「ロスリーダー・プライシング」の典型だ。
消費者もそのあたりは心得ていて、他の商品もオーダーする。結果として一定の利益率が確保されるマージンミックスが実現される。企業も集客でき、消費者も得した気分になり、実際に特もしているという、良い関係だといえるだろう。

しかし、問題なのは、商品の流通過程におけるサプライチェーンのどこかに歪みが出ることだ。
ネットには取り上げられなかったニュースがある。3月12日の日本経済新聞朝刊24面。
<安い魚、売り場の主役に><解凍魚や”脇役”魚の需要が高まる>とのタイトルだ。
記事によると、冬場にもかかわらず、冷凍サンマや、通常ではマアジに比べ味の評価が低いアオアジが倍以上売れているようだ。他にも、脂の乗りが悪いゴマサバが、マサバを圧倒しているとある。
記事では<低価格路線で一時的に(魚の)消費は伸びるかもしれないが、旬の無視や画一化は魚離れを進める恐れがある>と指摘している。
旬でないものを食べる。味が劣るものを価格だけで比較して選択する。その影響は、最終的に消費者としては食文化の低下を招く。また、魚離れの方向に進めば、市場全体が地盤沈下する。
さらに気になる記述もある。<漁獲量が増えない中で、原材料価格を抑えるのは難しい。「今は生産者や流通のどこかの段階で損失をかぶっている。このままでは廃業が進む」>と東京海洋大学の教授のコメントを取り上げている。

生活者は、安い商品を手に入れることによって、家計が助かる。生活防衛ができる。企業は顧客を確保し、売上げを上げることができる。ミクロの視点でいえば、時代の要請にあった展開だといえるだろう。しかし、マクロの視点で見れば、生産者や中間流通に負担がかかり、流通構造自体の存続が危うくなる。また、消費者にとっても、食文化自体が危機に瀕することになる。これはいわゆる「合成の誤謬」である。

昨日「時代じゃない?」のCMキーワードで、時代と消費者からの要請に従って生き残りを図ることの重要性を記した。その激しさは、今後一層増してこう。
しかし、我々は消費者の立場に立てば、どこまでその要請を強めるべきなのか。その商品を選択するということは、どのような意味があるのかを、今一度考えることも必要なのだろう。
また、一方で企業の立場に立てば、自社の利益のみならず、サプライチェーンのどこかに歪みが生じていないか、きちんとチェックしながら活動することが求められるだろう。ミクロ視点だけでなく、マクロの視点が欠かせないのだ。


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2009.03.12

キムタクのCMの真実とホンダ・インサイト&ユニクロとジーユー

3月も半ばとなる今週、気になるニュースには「価格」にまつわるものが多い。そして、意外なCMが今日の企業の取るべき戦略の方向性を示していた。


自動車の販売不振が景気の悪化に重くのしかかってきている現状で、なんとも景気のいい数字が各メディアに踊った。
<「インサイト」3倍超す疾走 月間5000台計画が…受注1万8000台>
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200903110093a.nwc

好調の要因は何といっても<最も安いタイプで189万円からという価格戦略>が大きいだろう。「環境に優しい車を買いたい」という意識を持ったり、「燃費のいい車が欲しい」と思っても、200万円を超えるような価格では手が出しにくい。また、本体価格・初期投資の大きさは、それだけ燃費が安くなる効果による投資回収期間が長くなることを意味する。なかなか手が出しづらくなる。

池原照雄氏のコラムがインサイト好調の理由をわかりやすく伝えている。
http://response.jp/issue/2009/0311/article121562_1.html

<インサイトは3グレードが用意されており、189万円の「G」は受注全体の4割を占めた。通常は中心価格帯のグレードが売れ筋となるのだが、まさに「庶民のハイブリッド」らしく、ベースモデルの比率が高くなった>という。
購入層は<40 - 50歳代の男性が45%ともっとも多く半数近くを占めた>といい、その層は<これまで何台かに乗り、クルマの性能などにも比較的詳しいユーザー層>である。ホンダの福井社長のコメントも紹介されている。<『環境』だけでは買っていただけないといった潜在ユーザーを、掘り起こしつつある>ということだ。
「環境に優しい」というだけではなく、「経済的に合理性がある」という「価値」が消費者から求められているのだ。


その消費者からの要請を端的に語っているのが、木村拓哉が出演している明治製菓・キシリッシュのCMだ。

TASTE LONG!!おいしさ、長持ち!!キシリッシュ新CM登場!:「なんで?」篇
【15秒・動画】 http://www.meiji.co.jp/movie/frame/sweets/xylish/xylish_nande_15s.html

キムタクが擬人化されたキシリッシュを演じ、「味長持ち強化中」と掲げられたスローガンの前で、明治製菓の担当者と覚しき人と掛け合いをする。
「味、長持ちにしたならオレの給料上げてもらわないと」
「ムリムリ。1粒で味長持ちってコトは、売上げ落ちるかもしれないんだよ」
「じゃぁ、何でそんなコトしたの!」
「時代じゃない?」

さらりと、「時代じゃない?」と流されているが、まさしくそれが今日の真実を表わしているといえないだろうか。消費者が求めているのは、従来以上のコストパフォーマンスであり、明確に価値の向上が売れるための必須条件となってきているのだ。
さすがに現実の企業は「売上げ落ちるかもしれないんだよ」では済まされないので、インサイトは売上げではなく利益率にこだわって、部品の既存車種との共通化や徹底した軽量化などの策を施したという。企業は知恵を絞り、汗をかいて消費者の要請に応えようとしているのだ。

価格と価値のバランスが求められる今日、そのお手本ともいえる戦略を一層加速したのがユニクロを展開するファーストリテイリングだろう。
<「990円」ファストリ自信 激安ジーンズ、ジーユーに投入>
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200903110017a.nwc

ジーユー(g.u.)はユニクロより低価格な衣料を提供するためのブランドとして2006年の発足して以来、イマイチ成長の軌道に乗っていなかった。
その現状打破のために思い切った低価格戦略が打ち出されたのだ。<これまで「ユニクロの3分の2程度の価格帯」を基本戦略としてきたが、ジーンズの990円に代表されるように新たな低価格戦略では、全商品の約8割がユニクロの半値以下になるという>。

中途半端な安さでは、消費者にその価値が響かない。ある意味、ラディカルさが必要なのだ。
そして、「価格を上回る価値」という時代の要請に対し、ファーストリテイリングの柳井社長は明確な戦略を提示している。
<「ユニクロは(全国規模で販売される)ナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」>

通常は製品の「価値」と「価格」は正比例の関係にある。低価格なものは価値が低く、高価格なものは価値が高い。それを「バリューライン」という。しかし、今日の時代の要請は、「バリューライン上で戦っていたのでは生き残れない」ことを意味している。バリューライン上にあるということは、消費者にとっては「アタリマエ」と映るからだ。

柳井社長の戦略は、「品質は高いが、最低価格では提供できない=ユニクロ」は中価格・高品質という「高価値戦略」。「まあまあの品質で低価格のもの=ジーユー」を低価格・中品質という「グッドバリュー戦略」で展開するということだ。つまり、価格以上の価値を提供せよという消費者からの要請に、低価格でも、中価格でも応えられるようにブランドのポートフォリオを明確に定義したわけだ。

「時代じゃない?」と、消費者の要請に応え、キムタクが演じるキシリッシュは、「同じ価格」で味が長持ちするという「価値」を高めた。
同様にホンダのインサイトと、ファーストリテイリングのジーユーも今日の時代の要請を的確に捉えた展開と思われる。しかし、インサイトには5月にトヨタが、新型プリウス投入と、現行型プリウスの値下げという二枚看板で追撃をスタートさせる。一方、ジーユーも現状は<依然として営業損益は赤字続き>という現実もある。
どこまで、時代の要請に応えられていたのか、今後の動向に注目が必要だ。
しかし、その両社の展開から学ぶところは大きいといえるのではないだろうか。

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2009.03.11

おしらせ:またまた「公開セミナー」やります!

1月28日に開催したグループワーク型講習は大変ご好評をいただきました。

しかし、「平日の昼間だと仕事で参加できない」という声や、「グループワークだと気後れして参加できなかった」という声を当Blogの読者の方からもメールでいただきました。

そこで今回は、前回の講習内容を、平日の夜2時間限定で、講義主体のインタラクティブレクチャーとしてコンパクトにお届けします。

さらにお得なお知らせ!
今回は当日のセミナーを撮影して復習用に編集したDVDを、参加頂いた方全員に後日郵送にてプレゼントします!

「話題のあの企業をマーケティングのフレームワークと顧客視点で読み解く」
~あの商品がヒットしたワケ・あの企業から顧客が離れないワケ~

マーケティングやアカウンティングは学問ではありません。
時代の流れ、人々のココロの移り変わりに対応し、日々変化していく「ビジネスの総合格闘技」です。
「モノが売れなくなった」と言われて久しい昨今、さらに景気後退が経済全体と、生活者の消費マインド低下に追い打ちをかけています。

そんな時代だからこそ、全てのビジネスパーソンにマーケティングスキルが求められています。
厳しい時代でもヒット商品は存在します。あんな商品、こんなザービスも見直してみれば、明確な「売れる理由」が存在しているのです。

成功確率を高め、失敗を回避するための「型」が「フレームワーク」です。
マーケティングも、その「型」を理解すれば、より効率的に習得が可能となります。
最新のビジネス事例で、正しく「型」を覚え、自らのビジネスで「技」として磨きをかけられるようにすることを、このセミナーは目指します。


<フレームワークで読み解く最新ビジネス事例>

・タクシー料金の値上げは誰のせい?
・強気の「ダイソンの掃除機」。そのワケは?
・キリン「スパークリングホップ」のライバルは?
・「ドラフトワン」のキレ味?
・マクドナルド「クォーターパウンダー」V.s.モスバーガー「とびきりハンバーグサンド」?
・画期的なトイレ「アラウーノ」V.s.「インテリジェントトイレⅡ」
・バイオ「type P」の魅力に迫る!
・グリコ「 ウォーキーウォーキー」は誰のため?
・ついに始まった「ユニクロ」V.s.「H&M」?
・「崖の上のポニョ」の無敵のマーケティング!


<開催概要>

【会場】ヴィラフォンテーヌ汐留 会議室1(東京都港区東新橋1-9-2)

【日時】3月25日(木)18:30-20:30 また21:00からは、簡単な懇親会を予定しています。

【参加費】 お一人様 10,000円

【定員】 18名(お申込先着順で定員になり次第締め切らせて頂きますので予めご諒承ください。)

【プレゼント】 当日のセミナーを撮影し、復習用に編集したDVDを、参加頂いた方全員に後日郵送にてプレゼントいたします。


※なお本セミナーは、前回のセミナーの続きではありませんのでご留意ください。

お申し込みは以下より ↓ お待ちしています!!

https://www.insightnow.jp/events/seminar0325

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2009.03.10

「慈善」というキー・バイイング・ファクターを考える

人はモノの購入を決断する時、必ず何らかの「理由」が存在する。理由の自覚がない衝動的な購入であったとしても、何らかそのモノに惹かれるポイントがあったはずなのだ。その「買う理由」を「KBF=Key Buying Factor」という。
今日は、これからKBFに加えたい一要素を考えてみよう。

先週、ある企業の研修で一人の受講者をふと見ると、そのシャツが気になった。・・・似ている。その赤いストライプの色や間隔、そしてボタンダウンの襟のボタンまで、筆者が着ているものとそっくりだった。聞いてみると、やはり、同じメーカーのものだった。ユニクロ製。

筆者の洋服や身の回りのモノのKBFはかなり特殊だといえるだろう。テーマカラーが「赤」なので、色にこだわり、デパートやショッピングセンターをふらふら歩いて、赤いモノに反応して即買いする。男性用でキレイな赤は少ないので、見つけた時は躊躇してはならない。それ故、値段やブランドはバラバラ。「赤くてキレイ」は唯一のKBFなのだ。
その意味からすると、高品質で安価という、コストパフォーマンスに優れ、特に赤の発色がいいユニクロは合理的なKBFを提供してくれるため、好きなブランドの一つとなっているなのだが、唯一覚悟しなくてはならないのが「人とかぶる」という点なのだ。人とファッションがかぶることを極度に嫌う方ではないし、「それと同じの買ってもいい?」と人の真似をしたこともある。しかし、冒頭のように初対面の人と出会い頭でかぶるのは、なんとなく気まずい。

さて、ここからが今日紹介したい本論だ。
むしろ人とかぶること、自分と同じモノを身に付けている人が確実にもう一人存在している。そして、それこそが価値であり、KBFになるという商品を見つけた。

<世界の子供に「おそろい」の靴をプレゼント!>
http://greenz.jp/2009/03/07/toms/

アメリカ・カリフォルニアの靴ブランドで「TOMS」というらしい。
<TOMSは、靴1足の売上につき世界の子供に靴1足を寄付することを企業ミッションとする「社会貢献するシューズメーカー」>であり、同社の靴を購入すると、自分とおそろいの靴を世界のどこかで一人の子供が履いていることになるという。

創業者が事業を立ち上げた経緯と、その事業のしくみが記事に記されている。
<南米・アルゼンチンを旅したブレイク(創業者)は、現地の子供たちが、貧困のため靴が買えず、裸足で生活している事実を知る。遠方まで裸足で生活用水を汲みに行く多くの子供たち。この現実に衝撃を受けたブレイクは、2006年5月にTOMSを設立。靴1足を売り上げるごとに1足の靴を世界の子供たちに寄付するという新しい事業を立ち上げた>。

その成果もめざましい。<事業開始以来3年足らずで、アルゼンチンの子供たちに1万足以上、南アフリカに5万足の靴をそれぞれ寄付。2009年1月にはエチオピアの子供たちにも3.7万足の靴を届けることができた>とのことだ。

単なる社会貢献事業を長続きさせるのは難しい。この事業は、存続させるために確実に収益を上げるしくみを作ったのだ。
マーケティングという言葉の意味を端的に表せば、「売れ続けるしくみづくり」となるが、まさに靴が売れ続けると同時に、慈善活動が存続できるしくみが作られている点がこの事業の最大の存在価値なのである。
以下、そのポイントを掘り下げてみよう。

「一つ買うと、一つ無料」は「Buy One Get One Free(BOGO)」呼ばれる販促手法である。身近なところでは、マクドナルドがチキンナゲットの拡販策として以前多用していたと記憶している。2人以上で連れだって来た客に、ナゲットをもうひと品買わせる追加オーダー獲得と、商品の試用促進を兼ねた施策である。

「TOMS」の靴はその逆の発想だ。自分の靴を買う時、本来一つで十分なものがもう一つがセットで提供され、2つ分の対価を支払う。「一つ買うと二つ支払う」である。そしてそれは、目の前の知人や友人のためでもなく、世界のどこかで暮らす貧しい子供のために対価を払うのだ。
自分自身や、身近な存在にとっての直接的な便益ではない。しかし、自分が気に入ったものと同じ靴を受け取って喜ぶ子供の顔を想像すると、やはりうれしくなるはず。それは立派なKBFとなる。

ここでのポイントは生活者が「慈善」の意志を示すのに、単純に金銭を投じるのではなく、自分のお気に入りの商品を手に入れることができることだ。商品自体に魅力がなくては、結局は買われなくなり、事業は存続できない。「売れ続けるしくみ」がきちんと整っていることが肝要なのである。そして「TOMS」にとってのそれは、「デザインの力」なのだ。
「TOMS」の靴はデザインに関する賞をいくつも獲得し、<男性ファッション誌「GQ」や女性モード誌「Vogue」をはじめ、有名な雑誌に数多く紹介されている>という。

尊いことはわかっていても、日本ではdonation(慈善)に寄付する機会も少なく、また、参加するのも少々ハードルが高い。この「TOMS」の靴のように、まずは「自分のお気に入りの商品である」という、通常のKBFを満たし、さらにそれが「慈善につながる」というもう一つの付加的なKBFが用意されているという構造はすばらしいと思う。
もっとこうした価値あるKBFが一般的になって、売れ続けて、慈善目的のお金も集まり続ける「しくみ」がもっと登場してくれたらと願ってやまない。

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2009.03.09

モスバーガーの堂々たるチャレンジャー戦略

「やっぱり、日本が、一番うまい!」 ・・・そんなキャッチコピーを引っ提げてやってくるのが、3月24日発売予定のモスバーガー「とびきりハンバーグサンド」の第二弾だ。それだけではない。モスでは信じられない100円台メニューや、ガッツリ系のパテ2枚バーガーなどが順次登場するという。モスの狙いはなんだろうか?


約2か月間で620万食を売り上げ、モスフードサービスの業績回復に大いに貢献した、「とびきりハンバーグサンド」の第二弾、「とびきりハンバーグサンド トマト&レタス」と「とびきりハンバーグサンド レタス」が3月24日から発売されるという。
http://news.walkerplus.com/2009/0305/17/

その商品情報を見た時、筆者は思わず「美味い!」ならぬ、「巧い!」と唸ってしまった。
モスファンとはいえ、一般人である身には、その味を試すためには発売日まで待たねばならぬ。しかし、その戦略の巧緻は十分味わえたのだ。
ごちそうさま!!(マーケティング的な意味で)。

何が巧いのかといえば、その商品の特徴付けだ。前作の具材はパティと刻みキャベツだけ。ソースは王道のトマトデミソースという直球勝負であったもが、今回は何とも大胆にキャベツが挟まっており、まるでキャベツが主役であるかの風格が漂っている。
パティは変わらず、安心の「国産肉100%の牛豚合い挽き」だ。それに、さらに安心の「国産レタス」がたっぷりという、安心の二段重ねという周到さだ。

製品発表の記者会見では、生産農家の『鈴木さん』が<「ウチのレタスは、除草剤も殺菌剤も使っていません。この時期、一番おいしくなるレタスは、歯ごたえも甘みも充分。生のおいしさを味わってください」と、笑顔でコメント>したという。なんという、生産者の顔が見える、安心感の演出。・・・ちなみに、『鈴木さん』はモスバーガーのWebサイトにある「産地だより」というコンテンツにも登場している、知る人ぞ知る、モスを支える有名人(?)だ。

上記のような、国産へのこだわりと生産者や生産方法へのこだわりは、決してリーダー企業であるマクドナルドには取れない。極めて巧いチャレンジャーの差別化戦略であるといえる。「除草剤殺虫剤不使用」の農法は、ともすれば作柄の不安定や病害虫の被害と背中合わせのリスクを抱えている。また、大量生産にも向いておらず、標準・均等な品質も完全には保証できない。
圧倒的な「規模の経済」を誇るマクドナルドは、標準化された原材料を低廉に大量に仕入れるバイイングパワーが、一つの力の源泉である。そのため、上記のようなリスクのある原材料は使いにくい。それがマクドナルドほど規模が大きくなく、標準・均等な品質よりも従来から自然に近い原材料や食への安心といったこだわりを優先してきたポジショニングが生きてくるのだ。
また、消費者には第一弾で「国産肉100%」という安心感を訴求し、その反応を見てイケる!と確証してから、第二弾でさらにレタスという新たな具材を用いて安心感を強化するという、念の入ったプロセスを踏んでいるのだ。大胆かつ、手堅い戦略であるといえる。

もう一方、従来とは全く異なる戦略も見せている。100円台の「お手頃バーガー」を発売するという。
http://news.walkerplus.com/2009/0305/18/

しかし、モスフードサービスの櫻田社長は「値下げではない」という。<あくまで新価格レンジの一つです。中高生をターゲットにした“小腹メニュー”として提供していきたい>とのコメントだ。そして<通常のハンバーガーパテに比べ、重量を3/4程度にした専用パテを使っている以外は、バンズや具材など通常と同じもの使用する>というから、実のところは「量目調整」であるわけだ。
食品や外食産業においては、量目調整は「実質的な値上げ」と受け取られ、既存顧客の離反につながるリスクがある。しかし、この展開はあくまで従来、モスに足を運ばなかった新たなターゲットを獲得する施策なのだ。
新たな若年ターゲットを取り込まなければ、自社の顧客層はやがて年齢が上がり、ファストフードという業界のターゲットでなくなっていくかもしれない。そのリスクを低減するためには、新たな若年ターゲットを取り込む必要がある。可処分所得が少ない若年層にはモスバーガーの価格はハードルが高い。しかし、品質を下げて安価にすれば、既存顧客層の離反を招く。そのバランスを取る解が「量目調整」であったわけだ。
なんとも微妙さじ加減を行う戦略であるが、リーダーと比べれば遙かに小さい体力で戦うチャレンジャーは、巧みなセグメントで勝てるところ、または、勝つべきところを着実におさえることが求められるのだ。

もう一方は、ともすれば、フォロアー的なリーダーの戦略の模倣とも映る展開だ。
3月24日発売の「W(ダブル)モスバーガー」(400円)は、ガッツリとパテが2枚入っている。マクドナルドがメガマックでその禁断の扉を開け、クォーターパウンダーでさらにパワーアップさせた「メガ系」の風情がある。「メガフード」とも呼ばれるようになったボリュームを売り物にしたメニューはファストフードやコンビニ弁当ですっかりおなじみになった。モスもついにその路線に進出し、ガッツリ系愛好家を呼び込もうとする戦略かとも思えるが、多分そうではない。
メガフード流行りの理由は諸説あるが、健康志向の高まりや、メタボに対する風当たりの強さに対する反動であろうと、筆者は分析している。そして、メガ好きな層は確実に増えているように思う。
そんな市場環境の中で、モスのメニューはボリューム的に見ると、やはり「お上品」だといえるだろう。パテが90グラムと、モスメニューの中では重量級だった、第一弾の「とびきりハンバーグサンド」も、実際に食べてみるとボリュームは感じられない。モスバーガーの既存顧客の中でも、ボリュームを求める層やメガ好きになった層が一定数存在するとしたら、既存メニューだけではマクドナルドをはじめとした他店への流出を招くことになる。その意味からすると、「Wモスバーガー」は既存顧客の流出を防止する「守りのメニュー」だと考えられる。


「とびきりハンバーグサンド」の第一弾で、味と国産材料の安心感で新たな顧客を呼び込み、第二弾でさらなる呼び込みと、既存顧客の定着化を図る。100円台のメニューで若年層を取り込み、ボリュームメニューで顧客流出を防止する。
自社のマーケティング課題を、差別化要素を活かして確実に解決するモスバーガーに、チャレンジャーとしての戦い方のお手本を見た。

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2009.03.05

ダーウィンに聞け! 定番のヒミツと変わらぬ「正露丸」?

栄枯盛衰が激しい時代においても、変わらず売れ続けている商品は存在する。その「定番商品」の売れ続けるヒミツとはなんだろうか。そして、その定番商品の代表格たる「正露丸」はどのような変化を遂げているのだろうか。


「定番商品」というと、どのようなものが思い浮かぶだろうか。筆者が講師を務めるマーケティング研修で「プロダクトライフサイクル」と関連して、定番商品、もしくはロングセラー商品の話題を出すと、受講者からは様々な商品名が飛び出す。
カップヌードル、ポッキー、コカ・コーラ・・・そう、食品や菓子、飲料には定番商品が多い。カローラ、広辞苑なんて名前も出てくる。では、それらの共通点とはなんだろうか。

カップヌードルは、いわゆる「カップヌードル」といわれる味の他に、様々な味のバリエーションを展開している。
ポッキーも基本の「ポッキーチョコレート」をはじめとして、ご当地ポッキーに至るまで、様々なバリエーションがある。
コカ・コーラもクラッシックは変わらぬ味だが、現在では「ゼロ」の方がむしろ主流となっているかもしれない。
カローラはその名前こそ継承されているが、1966年の登場以来10代のモデルチェンジと様々な派生車種を生んで、当然ながら原形は留めていない。
広辞苑は現在第6版となっているが、版を重ねる毎に新語を取り込み、刷新されている。
つまり、定番商品が長い歴史を生き残ってきたのは、時代や環境の変化、消費者の嗜好の変化や消費者のニーズに応じて、様々な進化をしてきたからであるといえる。

生き残りの秘密を説明するには、ダーウィンの『種の起原』における考え方が参考になろう。
<生物の進化は、すべての生物は変異を持ち、変異のうちの一部は親から子へ伝えられ、その変異の中には生存と繁殖に有利さをもたらす物がある><そして限られた資源を生物個体同士が争い、存在し続けるための努力を繰り返すことによって起こる自然選択によって引き起こされる>※2
個体の変異によって多様性が生まれ、それが伝承されていく様は、商品がバリエーションを展開し、消費者に選択されてさらに多様に展開して生き残っていくのと似ているだろう。

しかし、全く変化が起こらない、一つの例外が存在すると筆者は考えていた。

「正露丸」。
割とよく知られた話もあるが、正露丸の歴史は実に興味深い。Wikipediaの記述を見るとなかなか楽しめるはずだ。
元々の名は「征露丸」。文字が違う。日露戦争の折り、「露西亜(ロシア)を征する」と軍の携行薬となったことを示している。諸説あるが、開発されたのは1902年とも1903年ともいわれている。実に100年以上が経っているのだ。

さて、一種異様な香りを放ち、それ故効き目を感じるこの薬、主成分の日局木クレオソート(木クレオソート)は、歯科用の鎮痛鎮静効果は認められているものの、主たる利用用途の止瀉薬としては完全にはその効果を現すメカニズムは解明されていないという。
なんだかわからないけれど、よく効く薬。それだけで、購入する理由はたっぷりなので、どの家庭にもひと瓶は薬箱に入っているだずだ。

100年以上変わらない定番品。商品の進化の過程から考えても極めて異質な存在だといえるだろう。

しかし、効きそうなニオイではあるものの、「どうしてもそのニオイがダメ」という人も少なからず存在する。そんな消費者のニーズに応えて、実は「変わらぬ定番品」は変化していたのだ。
今日でも販売されている「セイロガン糖衣A」の原型となる糖衣錠が、大幸薬品によって1966年に発売された。(大幸薬品のホームページより)
開発されて以来、実に63~64年経ってのことだ。さらに15年を経た1981年、飲みやすさを向上させた「セイロガン糖衣A」が発売された。
開発されて60余年、さらに15年後に製品改良と、恐ろしく長いスパンの中ではあるが、変わらぬと思われがちな定番品もきちんと変化を遂げているのである。

そして、先月末に大幸薬品から発せられたリリースで、また、さらなる変化があったことを筆者は知った。
<大幸薬品、胃腸薬「セイロガン糖衣A 120錠(PTP包装)」を発売>
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=213837&lindID=4

<ご家庭の常備薬としてご購入されるお客様からの「より大容量のものが欲しい」との声にお応えし、この度120錠入りの製品を新発売><この製品は1シート12錠入りのPTP包装で、1シートが簡単に3分割できる折り目入りとなっています。そのため1回分(4錠)や1日分(12錠)に分けて持ち運ぶ際や、ご家庭や職場の一人ひとりで取り分けをする際に便利です>ということだ。

もう一つ、外的要因の変化に対して変異をもってバリエーションを増やす展開をしている例を見つけた。
<大幸薬品、一人暮らしや少人数の家族に便利な小容量タイプの胃腸薬「正露丸 50粒」を発売>
http://news.livedoor.com/article/detail/4045989/

<一世帯当たりの平均人数が2.43人(国土地理協会 発行「住民基本台帳人口要覧(平成20年版)」から)と減少し、一人暮らしの世帯が3割(平成17年国勢調査の結果から)に迫る等、家族の少人数化が進んでいる。この流れを受け同社では、一人暮らしや少人数での使用に便利な小容量タイプとなる「正露丸 50粒」を新発売する>ということだ。
少子化や家族人数の少ない家庭が増える小世帯化の流れはもはや止めることはできないだろう。そうした外的環境に対応しているのだ。
また、ドラッグストアでの販売や、今年行われる薬事法改正によってスーパーやコンビニでも大衆薬の販売が開始されることから、売り場環境も変化する。その動きにも対応している。
<この製品は店頭での様々な陳列に対応できるように外箱を改良し、吊り下げての陳列が可能となっている>という。

製品のパッケージ変更は最も簡易な変更であるが、製造ラインの変更などそれなりに手間はかかるだろう。しかし、正露丸も、変化する速度が通常と比べて非常にゆっくりであったり、小さな変化であったりするものの、生き残るために、確実に変化しているのであった。

100年を超える定番でも確実に変化している。世の中の変化は早まり、経済的な厳しさが高まる今日、全ての商品も、企業も、ビジネスパーソンも、生き残るための変化を欠かすことはできないのである。


※ダーウィンの言葉として紹介した一文が、「ダーウィンの言葉ではないのではないか」というご指摘を受け一部内容を初出より修正しました。

※2ダーウィンの『種の起源』に関しては、wikipediaのチャールズ・ダーウィンの項を引用しました。

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2009.03.04

ユニクロ+丸井=ユニクロガールズが新宿大戦争を激化させる?!

ユニクロが、若い女性向けの商品をそろえた新コンセプトの店舗を、「新宿マルイ カレン」に出店した。その陰にはユニクロと丸井の深い戦略があるように思える。


ユニクロと丸井とのコラボレーション店「ユニクロガールズ」は、<カレンは、「まるごと全館ファストファッションの館」をコンセプトとし、ユニクロを最も象徴的なブランドととらえている>と報道にあった。
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200902270017a.nwc

上記記事中では<矢野経済研究所の「アパレル産業白書2007」によると、日本の衣料品市場における女性向け売上比率は63.2%。これに対し、ユニクロは約40%と低い。これを早期に60%に引き上げ、米GAPやスウェーデンのヘネス&マウリッツ(H&M)など売上高1兆円超のグローバル大手と対抗していくため、同ショップを立ち上げた>とある。
他の報道でも、「ユニクロの「H&M対抗」と見る向きが多いようだ。確かに2010年に1兆円企業となることを目指しているユニクロとしてはいつかは戦わなければならない相手なのだろう。

今までもH&Mの日本進出に際して、同じ衣料品の製造小売りであるSPAという業態を取っているが故に「ユニクロV.s. H&M」と見る報道も多かった。しかし、実際にはSPAで低価格な衣料を提供しつつも、バリューラインを飛び出す提供価値の軸を「品質」におき、定番商品にこだわるユニクロは正確には「ファストファッション」ではない。一方、H&M価値の軸を、「ファッション性」におき、高回転で次々と新商品を展開する、まさに「ファストファッション」そのものの戦略だ。
つまり、今まで両者は戦っているようで戦っていないのが現実だった。それが、今回ユニクロが初めてガチンコの勝負を挑んだと見ることができる。
(参考:「バリューライン」で考える、ユニクロとH&Mの戦い

ユニクロのH&M対抗は、丸井の思惑とも一致している。H&Mの出店戦略を見ると、銀座、原宿に続いて今年7月渋谷に、そして今秋、新宿の伊勢丹本店向かいに出店予定だという。丸井はユニクロとのコラボレーションで一歩先に新宿でファストファッションの地盤を築いて迎え撃とうというところだろう。

さて、ここまでは公開情報の整理と若干の考察。

H&M対抗の話は上記の通りメディアも予測している範囲だが、ユニクロと丸井にはもう一つの秘めたる思惑があるように思われる。
H&Mや同じく人気SPAブランドのトップショップなど「ファストファッション」の得意技は「デザイナーコラボをリーズナブルに」だ。ユニクロはまだデザイナーコラボは発表していないが店作りは<クリエーティブディレクターの佐藤可士和さんがプロデュースを担当し、インテリアデザイナーの片山正通さんが店舗デザインを手掛けた>というから、早晩、服作りにも著名デザイナーが名前を並べるのではないだろうか。

そのコラボレーションの文脈で考えれば、新宿百貨店戦争の勝ち組、伊勢丹もコラボ上手で知られている。雑誌SPUR(シュプール)と長年「コラボ企画」を展開。入場整理券を発行、毎回完売という成功事例がある。今年も「夢のSPUR百貨店」として、3月10日まで開催されているという。

「ユニクロと伊勢丹で服を買う購入層は価格から考えてかぶらないだろう」と見る向きもあろう。しかし、オシャレ上手な女性にインタビューすると「伊勢丹で目当てのものを買い、スパイスとしてのアイテムはユニクロで安くそろえる」とする層も少なからず存在する。しかし、その逆はあまりない。「ユニクロメインの客は伊勢丹に流れない」のである。つまり、うまくすれば、「伊勢丹が様々なムーブメントを作り、ユニクロ+丸井は、その流れに乗っかって一方的な流入を図る」という図式は少なからず期待するところではないだろうか。

それでも、伊勢丹の底力である大胆に展開したセレクトショップの商品を購入する層と、ユニクロは相容れないと考えるなら、別の客層を見てみるといいだろう。地下2階「イセタン ガール」のフロアは109を卒業した若い女性を狙い、上層階の顧客に育成するための戦略的展開だ。そのフロアに集う顧客層を見ると、あながちユニクロ、特に今回の「ユニクロガールズ」とかぶらないと考える理由はないように思える。109でユニクロ服と併存させている若い女性は多い。そこから卒業して伊勢丹ガールに来てからも、さらにオシャレになったユニクロがそばにあれば、そちらにも足を運ぶことになるだろう。

そう考えると、ユニクロ+丸井=ユニクロガールズの戦略とは以下のようなものになるのではないだろうか。
第一にH&Mとガチンコ勝負。
第二に密かな胸算用として、伊勢丹顧客の若い女性の併用狙い。その顧客を自社に完全にスイッチさせることはできないまでも、伊勢丹シェアをユニクロガールズができるだけ喰う。
第三に従来の伊勢丹客でユニクロ併用のオシャレ上手ユーザーのユニクロ(ユニクロガールズ)利用頻度向上。

07年11月期の売上高は約1兆4500億円、SPA企業としては格上のH&Mに対して、売上高5,855億円のユニクロがガチンコ勝負をチャレンジャーとして挑む。戦いの場として、同じファストファッションという土俵を選び、そのために<ファッションに敏感な若い女性のニーズに応えるため、商品は1カ月ごとに入れ替える>という脱・定番戦略を取り入れる。
一方、チャレンジャーの戦略の基本は「差別化」だが、それはファストファッションでありながら、従来の「高品質」という価値を保てば、十分戦えるはずだ。

一方、1兆5597億円と、売上高は格上の伊勢丹(三越合計)にも密かにちょっかいを出す。こちらの戦い方は、衣料品だけで比べれば売上げも規模もユニクロの方が大きいので、規模の経済を活かしたリーダーの戦い方だ。「周辺需要拡大」という、リーダーの戦い方の定石。「伊勢丹で買ってるだけでなく、対価格でちょっとオシャレ、品質のしっかりしたものがこっちにあるよ」と、伊勢丹顧客を呼び込む戦略だ。

メディアが予測しているとおり、H&Mとの戦いは熾烈なものになるだろう。その一方で伊勢丹狙いをしているという考え方は筆者の推測だ。しかし、H&M新宿出店までにはまだ少し間がある。それまでに激戦区新宿の客の流れがユニクロ+丸井=ユニクロガールズの登場でどのように変わるかは興味の尽きないところだ。

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2009.03.03

コクヨの「フリーアドレスソリューション」を勝手に強化する

オフィスの効率的な利用や生産性向上を目的としてフリーアドレスが導入される例は、一次のブームは去ったものの、多くの事例が見られるようになった。しかし、成功事例の陰には効果が出なかった例も多く、悲喜こもごもの様相だ。そんな中で、コクヨがよりフリーアドレスの効果を発揮するソリューションを発売したという。そのソリューションをより強化する運用方法を考えてみたい。

フリーアドレスの導入の歴史と形態はWikipediaの記述が詳しい。
1987年3月・清水建設技術研究所で世界初の実現と、日本発の概念であるとは意外だが、<オフィスの一人あたり面積が欧米に比べて極端に狭いため><実質使える一人あたり面積を欧米並みにするためにとの、苦肉の策であった>との記述には納得させられる。
外出者などが半分という在席率なら、オフィスを2倍広く使えるという基本形の他に、一人あたりの面積はそのままで、オフィス面積を半分で済ませられるという面積効率化の観点での導入もあるという。

今回、コクヨから発売されたソリューションは、「OfficeDARTS」という「座席割り当てシステム」である。<社員の業務目的と利用時間から座席を割り当てるシステム>であり、<座席をランダムに変更することで、業務効率の改善やコミュニケーションの活性化が見込める>という。

オフィスの効率化を図ろうと、フリーアドレスを導入しても、どうしてもお気に入りの場所に居座ろうとする社員が現れる。共有デスクに書類や備品、私物を展開して「営巣」してしまうのだ。対策として、退社時にはデスク上のものを全てキャビネや私物ロッカーに収納することを義務づけても、また翌日にはお気に入りの場所に営巣し、周囲に実質的な「縄張り宣言」をしてプレッシャーを与えるようになる。ひどい場合、自分の縄張りを守るため、必要な外出の時の腰が重くなる。

上記のような、生産性向上の本末転倒を防止するためには、コクヨのソリューションは非常に効果的だ。何しろ、嫌も応もなくランダムに席を割り当てられてしまうのだから、縄張りは作れない。

さらに、<(社員が)「集中」「議論」「発想」など業務に関連した項目を選ぶと、目的に見合った座席を取得し、その座席での作業時間(30分~2時間)を割り当てる>という。業務目的にあった座席で一人、もしくは共同作業するメンバーが手中することができるため、生産性向上の効果が確かに期待できるだろう。

しかし、この効果を期待するためには、どような業務やシーンを「集中」「議論」「発想」と定義するのかといった運用上の定義や、どうすれば「集中」「議論」「発想」の効果・効率が上がるのかと行った設計が必要だ。どんなソリューションでも、システム単体では機能せず、「しくみ」が必要だということなのだ。

今回のソリューションの導入期待効果で「しくみ」が必要ながもう一つある。
<個人の座席を無作為に割り当てるもので、従業員同士のコミュニケーションの促進や業務内容に応じたコラボレーションの活性化につながる>という点だ。フリーアドレス導入効果でオフィススペースの有効活用以上に期待されるのが、こうした「部門・組織の枠を超えたナレッジの交換とコラボレーション」である。

確かに通常の部門・部署を離れ職階も取り混ぜたコミュニケーションは、思わぬ発想や発見があることは、いわゆる「タバコ部屋のコミュニケーション」として有名だ。しかし、それはアンオフィシャルな場だからこそであり、部門・部署・職階ごちゃ混ぜな座席を作って「さぁ、コミュニケーションをしなさい」といってもなかなか思った通りにはならないだろう。なんらかの「しくみ」がやはり必要なのだ。

一つは<業務内容に応じたコラボレーション>という点をもっと整備することが考えられる。部門を超えたプロジェクトなどに参画しているメンバーは、当然のことながら通常は近接した座席が割り当てられるべきだろう。
さらに、業務に直結したプロジェクトだけでなく、日常業務の改善など多くのテーマを社内プロジェクトとして立ち上げ、全社員が必ず何らかのプロジェクトに参画するようにする方法が考えられる。そうすることによって、プロジェクトメンバーは優先度の高い業務がある時以外は、近接した座席が割り当てられるようにして、自然と社内プロジェクトの話題が出るようになり、コミュニケーションが進む。

さらに、「しくみ」だけでなく「組織」をうまくからめることも考えられる。社内改善プロジェクトへのアサイン以外に、社員を習得すべきスキル毎の「学習組織」に参画させることだ。
業務上必要なスキル洗い出し、そのスキルをの高い社員を「リーダー」として、当該スキル習得が必要な社員を「学習グループ」にアサインする。リーダーは学習計画を策定し、必要なスキル教育をメンバーとなっている社員に展開する。リーダーはその実行レベルが、メンバーは修得度が評価に反映されるというしくみである。
この「組織」と「しくみ」を組み合わせた展開は、筆者もかつて会社員時代に実行し、効果を上げた方法である。

しかし、こうしたバーチャルな組織は、いかに定期的な集まりを開催できるかがキモなのだが、現状の組織においては目先の業務が優先されて、結局はなおざりにされてしまう。よほどリーダーや、そのしくみの運営者が強固な意志を持って継続しなければ続かない。
だが、今回のコクヨのソリューションのような「システム」をからめると、ぐっと現実的になる。リーダーやメンバーの業務繁閑に合わせて座席を近接させれば、スキル交換のためのコミュニケーションが促進されることになる。

ソリューションが機能するためには、と「システム」単体ではなく、「しくみ」と「組織」を整備し、同時展開することが必要だ。その意味で、コクヨの「座席割り当てシステム」は、生産性が低いと批判されがちな日本のホワイトカラーのワークスタイルを改善する「ソリューション」としての活用が期待できると考えられるのだ。

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2009.03.02

「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ

東京駅構内のコンビニ「NEWDAYS」。店は狭く、商品棚を確保するため各社はしのぎを削っている。そこで、一気に7フェイスを確保している飲料がある。キリンビバレッジの「世界のKitchenから とろとろ桃のフルーニュ」だ。その戦略の妙を考えてみよう。

「とろとろ桃のフルーニュ」は昨年3月以来の商品リニューアルだ。<煮こんだ桃とマンゴーを増量し、ますますとろとろおいしく贅沢になりました>と言い、新発売時以上に力を入れた展開をしている。

マーケティングミックスの4Pで考えると、この商品は極めて各要素がキレイに整合していることが分かる。
Product(製品戦略)は「世界のKitchen」の共通コンセプトである「世界の母さんがつくる料理からインスピレーションをうけたレシピ」という独特の仕上がりであり、他の飲料ブランドにその例を見ない独自性がある。「桃のフルーニュ」は乳原料を用いているので、乳酸飲料に似ていて、フルーツカルピスやヤクルトの一種にありそうな味ではあるものの、そのどれとも違う。
Price(価格戦略)は商品の量目とも関連関連しているが、320ml入りのペットボトルで150円(税別)。量的に少々割高だ。しかし、商品的に「手が込んでいる感」があり、それが高級感の演出につながる。
Place(流通戦略)は「桃のフルーニュ」という商品だけでなく、「世界のKitchen」シリーズの大きなポイントだ。ミクロ的に見ると、320ml入りのペットボトルは細身で棚のフェイスがおさえやすい。また、通常の飲料6本分で7本収まるので通常より1フェイス多く置ける。7本も揃っているとなかなか壮観だ。消費者もつい手に取りたくなる。店もそれを狙って、多フェイス設置に協力する。
もう少し大きな視点で考えると、「世界のKitchen」シリーズの多くは「期間限定」や「地域限定」で展開している点がポイントだ。「期間限定」は限定感という販促的な効果以上に、過剰生産・過剰在庫を持たないという、バリューチェーン上のメリットが大きいはずだ。
また、「地域限定」は一気に全国展開をするのではなく、市場の反応を見て順次展開するという飲料においては手堅い戦略の常套だ。期間限定と地域限定を組み合わせ、製品リニューアルを繰り返す。すると、常に新しい商品ということで、コンビニなどの流通チャネルの棚を確保しやすくなるのだ。
Promotion(コミュニケーション戦略)は棚確保にも小さなところで工夫が見られる。「桃のフルーニュ」はペットボトルに貼られたシールPOPが3種類あり、 「おまたせしました」「ますますとろとろ」「とろあまずっぱい」と色違いで展開している。最低でも店頭の棚を3フェース確保するためのものだ。また、商品の独自性と限定感は根強いファンを生んでいるが、そのクチコミを促進すべく専用のWeb「ファンサイト( http://kitchen-fc.jp/ )」が作られている。

4Pがキレイに整合していることは上記でわかるが、その前提にはポジショニングが極めて明確なことが貢献している。
キリンビバレッジのホームページ、「商品ラインアップ」のコンテンツでは、各商品が商品カテゴリー毎に紹介されている。<お茶飲料・紅茶飲料・コーヒー飲料・スポーツ/健康飲料・炭酸飲料・果実飲料・野菜飲用・水・乳飲料・その他>。この中で、「世界のKitchen」シリーズは紅茶・炭酸・果実・乳のカテゴリーに各商品が入っている。今回の「桃のフルーニュ」は果実にカテゴライズされているが、現在発売中の他商品のカテゴリーはバラバラだ。そのように多数のカテゴリーをまたいでいるブランドは同社には存在しない。
つまり、「世界のKitchen」シリーズは「世界の母さんがつくる料理からインスピレーションをうけたレシピで次々と新しい商品を展開する」という明確なコンセプトと、ポジショニングありきのブランドであるということなのだ。次は何が出るのだろうという期待感。そして期待を裏切らない新しい商品を限定的に上市し、さらに改良を重ねて再登場させる。そのポジショニングのもたらす好循環が、マーケティングミックスの4Pで実現されている。

マーケティングマネジメントの流れにおいて、ポジショニングの前はターゲティングと環境分析であるが、ここでもキレイな整合性が見られる。
昨今の飲料市場における動きは、「緑茶カテゴリーの成熟~衰退」と「炭酸飲料の伸長」が顕著なことだろう。「緑茶戦争」ともいわれ、多数のバリエーションや高級ラインの展開など、様々な工夫がなされたが、消費者の嗜好は「ゼロカロリー」の登場によって炭酸飲料に流れた。
しかし、市場にはもともとノンカロリーであるお茶や、甘みがあるがゼロカロリーの炭酸飲料を求めるセグメントだけが存在するわけではない。カロリーよりも、飲料としての「味わい」を優先する層も存在したのだ。
しかし、その他の、例えば紅茶や果実飲料、乳飲料などのカテゴリーはメインストリームではないため、目新しい商品はあまり開発されてこなかった。「(カロリー優先ではなく)美味しい飲み物が飲みたい」という層の「ニーズギャップ」を「世界のKitchen」シリーズは独自のポジショニングとコンセプトですくい取ったのだといえるだろう。

マーケティングの妙は「整合性」だ。環境の変化を的確に捉え、ターゲットとそのニーズをすくい取るポジショニングを固める。ポジショニングを実現するために、4Pの要素を組み上げる。その一連の整合性こそが力の源泉となるのである。
つい、施策の一部のみにアタマを使いがちになるが、「世界のKitchen」シリーズの事例から学ぶところは大きいだろう。

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