キムタクのCMの真実とホンダ・インサイト&ユニクロとジーユー
3月も半ばとなる今週、気になるニュースには「価格」にまつわるものが多い。そして、意外なCMが今日の企業の取るべき戦略の方向性を示していた。
自動車の販売不振が景気の悪化に重くのしかかってきている現状で、なんとも景気のいい数字が各メディアに踊った。
<「インサイト」3倍超す疾走 月間5000台計画が…受注1万8000台>
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200903110093a.nwc
好調の要因は何といっても<最も安いタイプで189万円からという価格戦略>が大きいだろう。「環境に優しい車を買いたい」という意識を持ったり、「燃費のいい車が欲しい」と思っても、200万円を超えるような価格では手が出しにくい。また、本体価格・初期投資の大きさは、それだけ燃費が安くなる効果による投資回収期間が長くなることを意味する。なかなか手が出しづらくなる。
池原照雄氏のコラムがインサイト好調の理由をわかりやすく伝えている。
http://response.jp/issue/2009/0311/article121562_1.html
<インサイトは3グレードが用意されており、189万円の「G」は受注全体の4割を占めた。通常は中心価格帯のグレードが売れ筋となるのだが、まさに「庶民のハイブリッド」らしく、ベースモデルの比率が高くなった>という。
購入層は<40 - 50歳代の男性が45%ともっとも多く半数近くを占めた>といい、その層は<これまで何台かに乗り、クルマの性能などにも比較的詳しいユーザー層>である。ホンダの福井社長のコメントも紹介されている。<『環境』だけでは買っていただけないといった潜在ユーザーを、掘り起こしつつある>ということだ。
「環境に優しい」というだけではなく、「経済的に合理性がある」という「価値」が消費者から求められているのだ。
その消費者からの要請を端的に語っているのが、木村拓哉が出演している明治製菓・キシリッシュのCMだ。
TASTE LONG!!おいしさ、長持ち!!キシリッシュ新CM登場!:「なんで?」篇
【15秒・動画】 http://www.meiji.co.jp/movie/frame/sweets/xylish/xylish_nande_15s.html
キムタクが擬人化されたキシリッシュを演じ、「味長持ち強化中」と掲げられたスローガンの前で、明治製菓の担当者と覚しき人と掛け合いをする。
「味、長持ちにしたならオレの給料上げてもらわないと」
「ムリムリ。1粒で味長持ちってコトは、売上げ落ちるかもしれないんだよ」
「じゃぁ、何でそんなコトしたの!」
「時代じゃない?」
さらりと、「時代じゃない?」と流されているが、まさしくそれが今日の真実を表わしているといえないだろうか。消費者が求めているのは、従来以上のコストパフォーマンスであり、明確に価値の向上が売れるための必須条件となってきているのだ。
さすがに現実の企業は「売上げ落ちるかもしれないんだよ」では済まされないので、インサイトは売上げではなく利益率にこだわって、部品の既存車種との共通化や徹底した軽量化などの策を施したという。企業は知恵を絞り、汗をかいて消費者の要請に応えようとしているのだ。
価格と価値のバランスが求められる今日、そのお手本ともいえる戦略を一層加速したのがユニクロを展開するファーストリテイリングだろう。
<「990円」ファストリ自信 激安ジーンズ、ジーユーに投入>
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200903110017a.nwc
ジーユー(g.u.)はユニクロより低価格な衣料を提供するためのブランドとして2006年の発足して以来、イマイチ成長の軌道に乗っていなかった。
その現状打破のために思い切った低価格戦略が打ち出されたのだ。<これまで「ユニクロの3分の2程度の価格帯」を基本戦略としてきたが、ジーンズの990円に代表されるように新たな低価格戦略では、全商品の約8割がユニクロの半値以下になるという>。
中途半端な安さでは、消費者にその価値が響かない。ある意味、ラディカルさが必要なのだ。
そして、「価格を上回る価値」という時代の要請に対し、ファーストリテイリングの柳井社長は明確な戦略を提示している。
<「ユニクロは(全国規模で販売される)ナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」>
通常は製品の「価値」と「価格」は正比例の関係にある。低価格なものは価値が低く、高価格なものは価値が高い。それを「バリューライン」という。しかし、今日の時代の要請は、「バリューライン上で戦っていたのでは生き残れない」ことを意味している。バリューライン上にあるということは、消費者にとっては「アタリマエ」と映るからだ。
柳井社長の戦略は、「品質は高いが、最低価格では提供できない=ユニクロ」は中価格・高品質という「高価値戦略」。「まあまあの品質で低価格のもの=ジーユー」を低価格・中品質という「グッドバリュー戦略」で展開するということだ。つまり、価格以上の価値を提供せよという消費者からの要請に、低価格でも、中価格でも応えられるようにブランドのポートフォリオを明確に定義したわけだ。
「時代じゃない?」と、消費者の要請に応え、キムタクが演じるキシリッシュは、「同じ価格」で味が長持ちするという「価値」を高めた。
同様にホンダのインサイトと、ファーストリテイリングのジーユーも今日の時代の要請を的確に捉えた展開と思われる。しかし、インサイトには5月にトヨタが、新型プリウス投入と、現行型プリウスの値下げという二枚看板で追撃をスタートさせる。一方、ジーユーも現状は<依然として営業損益は赤字続き>という現実もある。
どこまで、時代の要請に応えられていたのか、今後の動向に注目が必要だ。
しかし、その両社の展開から学ぶところは大きいといえるのではないだろうか。
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Posted by: 遊ぶ大人 | 2009.03.12 09:20 PM