「損して得取れ」・激安居酒屋の価格戦略に学ぶ
景気の低迷で外食全般のみならず、仕事帰りの一杯は財布の中でずいぶんと圧縮される傾向にある。そんな中でうれしいのが居酒屋の激安メニューだ。鮮魚の刺身10円、焼き鳥1本50円、手羽先5本399円。その狙いを考えてみたい。
<千葉県最近各地で、超激安料金で飲んで食べられる‘価格破壊居酒屋’が増えている>という。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090221-00000007-tkwalk-ent
報道では千葉県の事象として伝えられているが、全国的にこうした動きは広まっているのではないだろうか。
その低価格のヒミツを<千葉県八千代市にある「居酒屋くいくい亭」>という一つの居酒屋を例に挙げ、<馴染みの業者から特別に仕入れている>としている。確かに優良なルートを確保し、低廉な価格で仕入れれば激安価格は実現できるだろう。しかし、10円や50円、399円という価格から利益を得たとしてもたかがしれている。
だとすればこれは、「利益が出なくとも販売する戦略」であると解釈できるだろう。「ロスリダー・プライシング」という。「ロスリーダー」とは、損を覚悟で目玉商品を用意して客を呼び、利益の出るほかの商品を買わせる戦略だ。
例えばスーパーやドラッグストア、ホームセンターでは、トイレットペーパーや箱ティッシュなどのいわゆる「紙もの」が、よくロスリーダー商品として設定される。幾ら目玉商品となっていても、日常的に必要ないものであれば魅力は薄い。生活必需品である「紙もの」は、必ずどこかで買わなければならないもの故、破格での提供が消費者に魅力的に映るのだ。
しかし、小売店にも泣き所がある。損を覚悟でロスリーダーとして設定した「紙もの」は店頭に山積みされる。それを目指してまっしぐらに手に取って、レジに直行。そしてすぐさ会計して店を去る客。「紙もの」しか買わない「紙客」という存在だ。
だが、飲食店では事情は異なる。ロスリーダーたる「刺身」や「焼き鳥」「手羽先」などだけをつまみとして注文したとしても、さすがにそれだけを食べて店を出ることはない。少なくともビールをはじめとした酒類・飲料は注文する。また、目玉商品でないつまみにも多少は手を出すだろう。
酒類・飲料は利益率が高い。また、目玉商品でないつまみの利益率は、店が通常設定している利益率のレベルを達成しているはずだ。低利益率の商品と、中・高利益率の商品を組み合わせて販売することで目標利益を達成することを「マージンミックス」という。
マーケティングの4P、Product(製品戦略)・Price(価格戦略)・Place(チャネル戦略)・Promotion(コミュニケーション戦略)のうち、価格戦略は「最も重要なP」と言われている。製品を作り、チャネルを構築・維持し、顧客とのコミュニケーションによって販売を達成する。Price以外の3つのPは全てコストだ。価格戦略のみが利益を生むのである。
「いざなぎ越え」といわれた好景気から一転して米国発の金融危機に見舞われ、未曾有の不景気に突入した昨今。消費は低迷し、消費者の財布のひもは固くなる一方だ。記事の冒頭が<「お金がないから飲みに行くのは控えなきゃ…」なんて人に朗報!>と始まっているように、価格戦略は大きな消費の原動力となる。そして、外食は価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを表わす「価格弾力性」が大きい業種の代表格である。価格弾力性が大きいということは、価格戦略が効くということだ。だとすれば、激安メニューは事態打開のためのクリティカル(きわどい)な一策として奏功しているのだろう。
価格戦略は前述の通り、企業の利益に直結するため「聖域」とされることが多い。しかし、今日の危機的状況を打開するためには、その聖域にすら手を付けざるを得ない。
恐らくは背水の陣を敷く居酒屋の展開に学ぶものは大きい。
« ダイソー「新市場開拓」としてのグローバル化 | Main | 「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ »
« ダイソー「新市場開拓」としてのグローバル化 | Main | 「世界のKitchenから」のマーケティング整合性に学ぶ »
Comments