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2009.02.02

成長戦略とブランドマネジメントの悩み

ハードなスポーツに取り組む選手のニーズを深掘りして成功したあるドリンク。しかし、その成長戦略には悩ましい問題が見え隠れしているように思える。

「運動中には水を飲むな!」と、アホな根性論が昔はまかり通っていたが、昨今のスポーツでは給水は勝敗を左右する大切な要素だ。シドニー五輪女子マラソンの金メダリスト高橋尚子選手が、北京五輪の代表枠獲得をかけて挑んだ名古屋国際女子マラソン。早々にまさかの大失速に陥ったのは、最初の給水ポイントでスペシャルドリンクを取れなかったも原因の一つと言われている。

重要な水分補給を理想的に実現できるドリンクがグリコの「CCDドリンク」だ。運動中に水分だけでなくエネルギーも補給でき、低浸透圧なため吸収もスムーズだという。
水分が吸収されやすいのはもちろんだが、アスリート達がこの商品を愛用するにはワケがある。エネルギーの吸収もスムーズにできるからだ。
タイガー・ウッズがゴルフのプレー中にバナナを食べているシーンを記憶している人も多いだろうが、長時間ハードなスポーツを行う場合、水分だけではダメなのだ。体脂肪を燃やし身体を動かすためには糖質が必要となる。
さらに、ランニングをはじめとする、常に身体を動かしているスポーツでは、固形物より液体でエネルギーが取れる方がありがたい。消化のために胃に血液を集中させる必要がないからだ。

さて、前述のように、速やかに水分とエネルギーが吸収できるすばらしい特性を持ったグリコの「CCDドリンク」であるが、別の使用用途でも注目されているようだ。看病や介護の現場。食べ物を受け付けなくなってしまった病人に水分とエネルギーを補給し、体力を維持させようという使い方だという。
この製品のキモは低浸透圧で水分吸収がよいことと、BCCA(分岐鎖アミノ酸)とアルギニンというアミノ酸が摂取できることだ。BCCAは筋肉のエネルギーとなり、アルギニンは体内でたんぱく質を生成し脂肪の代謝と筋力強化を促進する。まさにスポーツ自には最適な成分であるが、体力を自力で維持できない人にとっても福音となるのは間違いない。

経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」だ。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。「CCDドリンク」を病人・要介護者マーケットに拡大するのは「既存製品×新市場」であり、マイケル・ポーターが検証したところ4つの中でも一番成功率が高いパターンである。
しかし、簡単にターゲット拡大できないジレンマが生じる。
ハードなスポーツをこなすアスリートと、固形物を摂取できない病人や要介護者。まるで逆の立場だ。ターゲットを安易に拡大すれば、せっかく築き上げてきた商品・ブランドのポジショニングがあいまいになり、顧客の離反を招く可能性があるからだ。

ブランドイメージのジレンマを克服するために、しばしば、サブブランドを作ったり、別ブランドが立ち上げられたりする。もしかすると、他のブランド名でグリコは展開しているのかもしれないと思い、「BCCA アルギニン」で同社のWebサイトを検索してみた。残念ながら、同一カテゴリーのサプリメントしか見あたらなかった。

低浸透圧で水分吸収がよく、液体でBCCAとアルギニンという重要なアミノ酸が摂取でき、エネルギーが得られるという製品特性はこの商品に大きな成長の可能性が秘められていることを示している。商品の「売上げ」とは、「単価」×「顧客数」×「使用頻度」である。ハードなスポーツを行うアスリートと、病人・要介護者はどちらが対象者が多いのか。スポーツの試合や練習の時に用いられるのと、日常の水分・エネルギー補給に恒常的に用いられるのではどちらが使用頻度が高いのか。
「選択と集中」は重要であるが、是非ともブランドのジレンマを克服し、優れた商品を必要とする多くの人に広めてもらいたいと思う。

ブランドを意識しすぎるが故に成長機会を逸している例は、同様に他の市場でも散見される。
プロダクトの中核たる価値はそのままで、それを取り巻くブランドやパッケージという商品の構成要素を変更する。全く別のチャネルで販売する。商品訴求の仕方を変える。などのマーケティングの4Pの他の要素を組み替えることによって、既存ブランドを毀損することなく、別のターゲットに新たなポジショニングを示すことも可能となるだろう。
厳しい経済環境の中、どこに成長の芽があるのか。それはどうやったら取り込めるのか。様々な工夫が求められている。

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