« January 2009 | Main | March 2009 »

13 posts from February 2009

2009.02.26

「損して得取れ」・激安居酒屋の価格戦略に学ぶ

景気の低迷で外食全般のみならず、仕事帰りの一杯は財布の中でずいぶんと圧縮される傾向にある。そんな中でうれしいのが居酒屋の激安メニューだ。鮮魚の刺身10円、焼き鳥1本50円、手羽先5本399円。その狙いを考えてみたい。

<千葉県最近各地で、超激安料金で飲んで食べられる‘価格破壊居酒屋’が増えている>という。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090221-00000007-tkwalk-ent

報道では千葉県の事象として伝えられているが、全国的にこうした動きは広まっているのではないだろうか。
その低価格のヒミツを<千葉県八千代市にある「居酒屋くいくい亭」>という一つの居酒屋を例に挙げ、<馴染みの業者から特別に仕入れている>としている。確かに優良なルートを確保し、低廉な価格で仕入れれば激安価格は実現できるだろう。しかし、10円や50円、399円という価格から利益を得たとしてもたかがしれている。

だとすればこれは、「利益が出なくとも販売する戦略」であると解釈できるだろう。「ロスリダー・プライシング」という。「ロスリーダー」とは、損を覚悟で目玉商品を用意して客を呼び、利益の出るほかの商品を買わせる戦略だ。
例えばスーパーやドラッグストア、ホームセンターでは、トイレットペーパーや箱ティッシュなどのいわゆる「紙もの」が、よくロスリーダー商品として設定される。幾ら目玉商品となっていても、日常的に必要ないものであれば魅力は薄い。生活必需品である「紙もの」は、必ずどこかで買わなければならないもの故、破格での提供が消費者に魅力的に映るのだ。
しかし、小売店にも泣き所がある。損を覚悟でロスリーダーとして設定した「紙もの」は店頭に山積みされる。それを目指してまっしぐらに手に取って、レジに直行。そしてすぐさ会計して店を去る客。「紙もの」しか買わない「紙客」という存在だ。

だが、飲食店では事情は異なる。ロスリーダーたる「刺身」や「焼き鳥」「手羽先」などだけをつまみとして注文したとしても、さすがにそれだけを食べて店を出ることはない。少なくともビールをはじめとした酒類・飲料は注文する。また、目玉商品でないつまみにも多少は手を出すだろう。
酒類・飲料は利益率が高い。また、目玉商品でないつまみの利益率は、店が通常設定している利益率のレベルを達成しているはずだ。低利益率の商品と、中・高利益率の商品を組み合わせて販売することで目標利益を達成することを「マージンミックス」という。

マーケティングの4P、Product(製品戦略)・Price(価格戦略)・Place(チャネル戦略)・Promotion(コミュニケーション戦略)のうち、価格戦略は「最も重要なP」と言われている。製品を作り、チャネルを構築・維持し、顧客とのコミュニケーションによって販売を達成する。Price以外の3つのPは全てコストだ。価格戦略のみが利益を生むのである。

「いざなぎ越え」といわれた好景気から一転して米国発の金融危機に見舞われ、未曾有の不景気に突入した昨今。消費は低迷し、消費者の財布のひもは固くなる一方だ。記事の冒頭が<「お金がないから飲みに行くのは控えなきゃ…」なんて人に朗報!>と始まっているように、価格戦略は大きな消費の原動力となる。そして、外食は価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを表わす「価格弾力性」が大きい業種の代表格である。価格弾力性が大きいということは、価格戦略が効くということだ。だとすれば、激安メニューは事態打開のためのクリティカル(きわどい)な一策として奏功しているのだろう。

価格戦略は前述の通り、企業の利益に直結するため「聖域」とされることが多い。しかし、今日の危機的状況を打開するためには、その聖域にすら手を付けざるを得ない。
恐らくは背水の陣を敷く居酒屋の展開に学ぶものは大きい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.25

ダイソー「新市場開拓」としてのグローバル化

「100円ショップ・ダイソー」としてバブル崩壊後の庶民に愛された大創産業は、100円ショップ業界で60%のシェアを誇り、第二位のキャンドゥを引き離すガリバーだ。しかし、原油価格の高騰は一服したものの、同社の成長期に比べ原材料費は上昇しており、メーカーからの「売り手の交渉力」は依然高止まりしている。

その影響から、同社は新規出店店舗の看板から「100円ショップ」の文字を外し「ザ・ダイソー」とのみ銘打っている。100円ショップを脱したダイソーは150円・200円といった価格帯の商品から、500円~1,000円・2,000円という価格帯までバリエーションを持たせた品揃えに転換している。
しかし、100円オーバーの価格帯商品が売上げ上位の商品にランキングされることは希で、消費者からは依然、100円商品が要望されているのは事実である。そのため、業界2位のキャンドゥは100円商品のみの取り扱いにこだわっているが、100円で仕入れられる商品供給先の確保に苦慮しているという。

国内市場の苦境に際し、底力を見せるのが大創産業のグローバルカンパニーたる、もう一つの顔だ。
同社は2001年に台湾・韓国への本格出店を皮切りに、以降、シンガポール、タイ、カナダ、UAE(アラブ首長国連邦)、 クウェート、カタール、インドネシア、 バーレーン、マカオ、 アメリカ、ニューカレドニア、 オマーン、 ニュージーランド、ルーマニア、 モーリシャス、サウジアラビア、ベトナム、マレーシア、レバノ、ヨルダンと漸次展開している。
その一つ、韓国市場での活況が伝えられている。

<あの「ダイソー」が続々上陸 1000ウォンショップ人気の背景>
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090222/kor0902221301001-n1.htm

1000ウォン(約60円)ショップとして、超物価と<不況に泣かされている韓国の主婦や学生たちの“救世主”>となっているといい、韓国全土で450店舗を構えるまでに至っているという。

原材料の高騰に始まり日本国内での成長の頭打ちに際して、次の成長戦略をどのように描こうかと同社は思案しただろう。
企業の成長戦略には、既存製品で既存市場を深掘りするのが最も堅実な展開であるが、100円ショップ業界にとって、それはもはや困難な選択肢だ。
だとすれば、残されるのは新市場を開拓するか、新製品を開発するかが主な方向性になる。新製品を既存の市場に展開するか、既存製品を新市場に拡大するか、もしくは新製品を新市場に展開する狭義の多角化という3つの残された方向性。ダイソーが選んだのは100円商品を中心として、海外という新市場に展開したのである。

低価格で商品を仕入れようと思えば、大量仕入れによってバイイングパワーを最大化すること。規模の経済を働かせることだ。国内市場に供給するだけでなく、地域的拡大を図れば市場規模はより大きくなり、規模の経済が達成しやすくなる。
さらに、原価低減を図るには生産地と消費地を近接させることが重要だ。B to Bの取引において原材料メーカーが得意先の工場の近くに自社工場を設けるのもそのためだ。100円商品の生産拠点が国内に少ない日本市場では価格維持が困難な状況であるが、韓国をはじめ、世界の工場たる中国、その他各国の生産拠点をフル活用して展開している各国において最も効率的な仕入れを実現しているのだ。

生産国と販売拠点の最適な組み合わせ。さらには、展開した各国の経済環境。さすがに今回の世界同時不況においては同社もダメージを免れないであろうが、不景気においては低価格商品が求められる通例を考えると、むしろフォローの風となるかもしれない。
同社が世界進出をはじめた2001年は、バブル崩壊後、経済環境の上昇を迎えたITバブルが崩壊した年だ。
バブル崩壊期に消費者の心をとらえ成長し、ITバブル崩壊に際し、世界市場に進出したダイソー。不況の世界連鎖が広がる今日、同社がどのような戦いを展開するのか、大いに注目したいところである。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.24

近鉄グループの「沿線住民囲い込み」の妙

近畿日本鉄道グループが、「“楽・元気”生活」と称して奈良県と京都府の一部で生活応援事業を展開している。その姿こそが少子高齢化が鮮明になり、「縮む」日本市場での生き残りの正しい姿を現しているといえるだろう。

<子育てタクシー、買い物商品宅配…近鉄グループの生活応援事業が人気>
http://www.business-i.jp/news/flash-page/news/200902210128a.nwc

報道では以下のような展開が伝えられている。<スーパーの近商ストアが、購入商品を宅配するサービスを提供><子供連れの人の外出をサポートするため、奈良近鉄タクシーがチャイルドシートを備えた「子育てタクシー」などを展開><近畿配送サービスも割安なミニ引越を開始>そして<現在、15社(うち近鉄グループ12社)が同事業に参入>しているという。
そして、担当者のコメントはさらに同グループが事業に注力することを示している。<近鉄経営企画部の山本寛課長は「沿線住民サービスの一環だが、グループ全社を挙げた囲い込み戦略は関西の私鉄では初めてだろう。サービスエリアの拡大も検討中」>

冒頭、筆者は”「縮む」日本市場での生き残りの正しい姿”と書いた。鉄道というインフラを基軸としたグループは、輸送対象となる乗客数の減少が経営を直撃する。もはや止める手立てが見えない日本の少子高齢化は乗客の減少、収益の低下に直結する。特に大阪府・奈良県・京都府・三重県・愛知県の2府3県にまたがり、JRをの除く日本の鉄道事業者では最長の路線網を抱える同グループには、さらにインフラ維持の負担が重くのしかかってくるのである。

鉄道会社の盛衰といえば、セオドア・レビットの名が浮かぶ。
今日のマーケティングにも強く求められる「顧客中心主義」を何と、1960年に説いたセオドア・レビットはハーバードビジネスレビューに寄せた論文「マーケティング近視眼(Marketing Myopia)」で米国の鉄道会社衰退の理由を生産・製品偏重主義にあると指摘した。
米国の鉄道会社は自動車やトラック、航空機の台頭によって衰退の一途を辿った。レビットは「自社の事業を”鉄道事業”ではなく、”輸送事業”と考えるべきだった」と説く。経営者が「鉄道」という製品を中心とした発想をし、「移動する手段」であるという、顧客から見た、顧客中心の発想ができていなかったがために、顧客ニーズの変化に気づかず、対応遅れたことにあると。

しかし、日本における鉄道会社は別の進化を遂げた。狭い国土といった地理的要因からではない。近代私鉄のビジネスモデルを作った、阪急電鉄の創始者、小林 一三は阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道の創立に参画し、「乗客は電車が創造する」として、土地・住宅分譲、温泉、動物園、映画館、歌劇場、プロ野球リーグ、百貨店と徹底した沿線開発を推し進めて乗客を「創造」した。小林 一三の「我々は鉄道会社ではなく、沿線地域を発展させ、人々の生活を豊かにする会社である」という言葉はセオドア・レビットが指摘した、顧客中心の正しい鉄道経営の姿が明確に現れている。そして、そのビジネスモデルが、日本の各私鉄グループの経営モデルとなっているのだ。

しかし、前述の通り、今日の日本の鉄道グループにはさらに、少子高齢化・人口減少という絶対的な顧客減少に直面している。日本における「沿線開発」のモデルも、沿線人口そのものが減少しているため、縮小を余儀なくされる。しかし、鉄道という地域に根ざした産業故、その地域を離れることはできない。

企業の成長戦略を考えるフレームワークに、イゴールアンゾフが提唱したマトリックスがある。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つのマトリックスとなる。
沿線に新規顧客は望めない。さりとて、グループの原資を活用しない新製品(新事業)では効率が悪い。だとすれば、既存の顧客に既存の製品を提供する「市場浸透策」、つまり既存顧客の深掘りしかない。
しかし、この「市場浸透」は非常に手堅い手でもある。マイケル・ポーターによれば、マトリックス中の4つの象限において、その市場浸透は75%の成功確率と最も失敗がないという統計を示しているという。

購入商品の宅配という利便性を提供するサービスの拡張。タクシーにチャイルドシートを装備するという安心感の提供。少人数・単身世帯の増加に対応したミニ引越というサービスの分割。いずれも「かゆいところに手が届く」サービスだ。
顧客の囲い込みは、まずはその「利便性の提供」であり、「自分にピッタリ」と思ってもらい、使用・利用機会を増大させることにある。そうして、さらにサービスの提供者との距離感を縮めてもらい、ロイヤルティーを向上させることにある。

近鉄グループの「沿線住民囲い込み」はまだ、始まったばかりだといえるだろう。しかし、それは、セオドア・レビットの「顧客中心主義」や、小林 一三のビジネスモデルをさらに進化させた、「縮む市場」における生き残りモデルを体現したものであることは間違いない。他の企業や事業にとっても参考になるだろう。


| | Comments (0) | TrackBack (3)

2009.02.23

「マックスコーヒー」33年目の全国侵攻・その勝機

「マジ ハンパなく バリ 甘い」。とにかく目立つクリエイティブとベタベタなコピーが目を惹く駅貼りポスターがそこかしこに掲げられた2月。それは、千葉県民・茨城県民のソウルドリンク、「マックスコーヒー」が全国に販売エリアを拡大した証だった。

千葉・茨城以外にも早期に埼玉・栃木に出荷され、その後徐々に一部関東圏に販売エリアを拡大していたものの、マックスコーヒーは全国的にはほぼ無名だろう。その特徴を端的に伝えるなら、まさに「マジ ハンパなく バリ 甘い」となる。原料の乳成分に100%練乳を用い、さらに砂糖を加えたその味はとにかく甘い。知らずに飲んだら、これがコーヒーか!と心底驚くことになるだろう。その意味では「マジ ハンパなく バリ」は特徴を適確に伝える秀逸なコピーであると同時に、適確な警告でもある。

全国拡大に際して、ポスターだけでなく初のテレビCMも放映された。また、公式ホームページもノリノリで作られている。 http://www.georgia.jp/max/ 

中でも、「プロジェクトMAX」と題されたコンテンツ(動画)が秀逸だ。
<千葉・茨城エリアを中心に30年以上もの間、愛され続けている「 マックスコーヒー」。そのやみつきになるうまい甘さを守り続けた 男たちの甘くないドラマ>
某国営放送のドキュメンタリーシリーズを彷彿とさせ、なんだか、中島みゆきの歌声が聞こえてきそうだ。しかし、パロディーではない。確かにマックスコーヒーを誕生させ、育て、守ってきた「男たちの」姿がしっかりと描かれたドラマなのである。

マックスコーヒー誕生と今日までの歴史は、上記「プロジェクトMAX」と、ウィキペディアの記述を併読するとよくわかる。

1970年代、コカ・コーラブランドには缶コーヒーが存在していなかったが、競合は自販機に次々に設置。自販機オーナーなどから、「缶コーヒーを入れなければ、自販機を撤去せよ」と言われたと、当時の利根コカ・コーラボトリングの商品企画担当者が動画の中で当時を振り返える。地域のボトラーが市場の要請に対して「潤沢な資金のない中での開発(動画より)」をしたという、まさに地域ブランドであるわけだ。県民の支持も集まろうというものだ。

もう一つの転機は、コカ・コーラの缶コーヒーのナショナルブランド「ジョージア」に組み込まれたことだろう。マックスコーヒーを追うように発売されたジョージアは全国区だが、千葉・茨城での<1990年の売上実数でジョージア460万ケース、マックスコーヒー430万ケースとほぼ拮抗する状態(ウィキペディアより)>だったという。
明らかにグループ内でのカニバリゼーション(共食い)を起こしている。同一カテゴリー商品を同一ブランドや自社内で展開する場合、相互補完的な関係が望ましく、カニバリは販売・経費効率の低下を招くため絶対に回避したいところである。
<日本コカ・コーラとの基本契約の中には「コカ・コーラのマーク、車、自動販売機ではコカ・コーラ認定の商品しか扱ってはならない」の一項があり>契約違反になる懸念があったという。様々な協議の末<1991年4月15日にマックスコーヒーの印象を一部残した「ジョージア・マックスコーヒー」という「新製品」として発売することとなった> という。

一つ注目したいのは、「ジョージア」ブランドに組み込まれても、全国区での発売とはならなかった点だ。ウィキペディアによれば、2006年に都内繁華街や駅及びその周辺に拡大。2007年北海道、2008年 愛知県・香川県・愛媛県・大分県・宮崎県などでの販売が拡大されているようだ。
このようにジワジワとした拡大路線であるのが、2009年に一気に全国拡大となったわけだ。ナゼ、この時期なのか。

上記から変化点と考えられる2006年~2009年の環境を分析してみよう。まずはマクロ環境分析のフレームワーク、「PEST」だ。
「Political(政治的な影響要因)」=健康保険法が改正され、厚生労働省は2008年度から健康保険組合にメタボ対策を義務付けた。
「Economical(経済的影響要因)」=戦後最長の「いざなぎ越え」ともいわれた好景気は徐々にかげりを見せ始め、格差社会が拡大。そしてついに、米国発の金融不安に端を発した経済危機が昨秋勃発した。
「Social(社会的影響要因)」=2005年テレビ東京が「元祖!大食い王決定戦」を放映。ギャル曽根を筆頭とした大食いタレントがもてはやされ、各局が追随し、大食い番組を制作。
2006年日本マクドナルドより、以後、牛丼、コンビニ弁当などにも商品大型化(メガフード)の影響を与える「メガマック」が発売される。2008年秋、さらに大型のクォーターパウンダーに引き継がれる。
「Technological(技術的影響要因)」=2005年~2006年にかけて日本のBlog人口は倍増。SNS人口は6.5倍の伸び。自身の体験を簡便に発信することが可能となった。

以上のファクトからどんな「意味合い」が抽出できるのか。
まずは、「大食いブーム」に注目してみたい。当初、エンターテイメント的に扱われていた大食いとメガフードであるが、景気の悪化に伴う消費者の可処分所得の減少によって、「コストパフォーマンス(コスト・パー・カロリー)のいいもの」と受け取る層も増えてきた。
一方、メタボ防止のためにカロリー摂取に関してうるさくいわれる環境が蔓延し、その動きに反発する層も一部で増加した。さらに、各種メガフードを食べ、体験をBlogやSNSで発信する人も増え、メガフードファンがさらに拡大した。
つまりこの時期に、高カロリー食品に対して、「メタボだなんだとうるさくいわれたくない!」という反発心と、ファストフードなどに代表されるように、コストパフォーマンス良く「その一品で満足できる」というものが求められ、ネットなどを通じてファン層を拡大したのだ。

この「ファン層」というと、「若者」とか「体育会」などと考える人が多いようだが、実のところそうではないようだ。例えば「メガマック」のコアユーザー層は30~40歳代男性が多かったという。コストパフォーマンスと、メタボへの反発、カロリーを気にしない満足を求めてかもしれない。
女子の世界でもメガはある。「サーティワンアイスクリーム」の「チャレンジ・ザ・トリプル」キャンペーン。<たくさんのフレーバーの中から、お気に入りの3つを選んで、さぁ、トリプルにチャレンジしよう!>ダブルを買うと、もう1カップが付いてくるキャンペーンでは、店に行列ができるという。「スイーツ別腹」という女子特有の身体構造ゆえかもしれないが、これも立派なメガだろう。

さて、マックスコーヒーはこうしたマクロ環境の中で、どうとらえられるのだろうか。
缶コーヒー中最大の糖質を誇り、さらに練乳の仕様により糖質量以上に甘く感じるその味は、間違いなく「1本で満足」を得られる。缶コーヒーらしい甘みを感じる「ジョージアオリジナル」の1.5倍近いカロリー(100gあたり50kcal)はカロリーなど気にしたら飲むことはできない。
この飲料における「メガ感」。公式サイトで多くのファンが動画でその「甘さ」の魅力を伝え、「疲れた時にピッタリ」と語る「充実感」。そこにカロリーなどという言葉は微塵も登場しない。そして、「コアなファン」が実に多くのBlogを立ち上げ、その魅力を熱心に喧伝している。こうした一連の動きは実に今の時代にぴったりだといえるのではないだろうか。

では、その他の、数多ある缶コーヒーブランドの中で戦っていけるのかを、競合環境を分析する「3C分析」で見てみよう。
まず、「カスタマー(Customer)」。市場の環境と顧客のニーズを見る。
公式サイトの動画「プロジェクトMAX:第4話「マックスコーヒーを守れ!」篇」にも取り上げられているが、缶コーヒーにも「無糖化」の流れが押し寄せてきた。そこで利根コカ・コーラボトリングは市場調査を行った。そして、マックスコーヒーの「甘さ」を求める「ヘビーユーザー層」の存在を確認し、味の変更を行わないことを決めたという。
つまり、時代の流れとしては健康志向に伴う無糖化があるものの、コアユーザーのニーズにはマッチしている。さらに、前項のPEST分析で明らかにしたような、「メガ化」の流れもあるのだ。
では、「コンペティター(Competitor)」、競合の動きはどうだろう。
前述の通り、缶コーヒーは無糖化や低カロリー化が進んでいる。マックスコーヒーほど、ヘビーな商品は存在しない。だとすると、競合の動きには、明らかなカスタマーニーズとのギャップが存在する。
そして「カンパニー(Company)」、この自社は、利根コカ・コーラボトリングではなく、マックスコーヒーをジョージアブランドに組み入れ、今回全国販売を決めた日本コカ・コーラで考えた方がいいだろう。「メガ化」を中心としたニーズをいかにすくい取るか。それには自社のジョージアブランドの中で新製品を開発するより、地域限定ではあるものの、既にコアなファンも抱えているマックスコーヒーを全国化する方がリードタイムもかからず、成功率も高いと判断できるだろう。

「マジ ハンパなく バリ 甘い リアルにコーヒー ちょー元気 続きMAX!」。
これが今回の全国侵攻に際して作られたコピーだ。
健康志向ではなく、極端な甘みによって1本で十分な満足を得られる独特のポジショニングを持ったマックスコーヒー。地域飲料としての33年の歴史を経て、世相の変化に対応し、初の全国展開をスタートさせた今後の動きを見守っていきたい。

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2009.02.18

Z会「わたしたちをこえてゆけ」がやすやすと超えていったもの

通信教育・Z会のCM。これが色々な意味でオモロイ。
http://oya-zkai.jp/movie/index.html

なんやら、やたらオッサンやオバサン(失礼・オネエサン)が出てくるCMだ。なんとなくオモロイ。しかし、通信教育が「続かなかった」というハナシを大勢のオッサン、オバ(失礼)が口にする様は、実にオッサンらと同年代である筆者も同じ挫折を経験しているところであるため、妙にトラウマをサワサワさわられているようで、気持ち悪くも忸怩たる思いでいっぱいになる。

CMは女子高生編・男子高生編があり、できひん子やったオッサンやオ(以下略)が、現役の高校生に口々に自らの挫折を告白し、「チャレンジする!」と宣言する女子・男子に拍手とエールを送るという内容である。

なんとなくオモロイと思った次には、よく考えれば「コイツはすごいCMだ!」と思った。その理由はいくつかある。
まず、メインメッセージが「わたしたちをこえてゆけ」だ。「私は続かなかった」「続けていれば今頃は・・・」などと登場人物のオッサンらが口々に言う。つまり、「こえていく」対象は、「通信教育が続かなかったわたしたち」の「死屍累々」だ。確かに同会は毎年東大合格者を何人も出す名門通信教育だ。死屍累々もやむないかもしれない。しかし、自社の挫折率の高さとも解釈されかねないメッセージを、ここまでしっかり出せるということには大いなる自信を感じる。

もう一つ。
「私は続けられなかったけど」というメッセージ、ある意味、下手をすればイヤミな感じになりかねない。わざとらしさが出たらアウトではないだろうか。しかし、このエキストラ的に大量に登場するオッサンらが実に自然で、ある意味、シロウト的で自然でイヤミがないのだ。聞けば、Z会の社員であるという。
社員を起用すると自社のサービスの質の高さをアピールせんと、不自然な演技になりがちだろう。しかし、実に自然なのだ。いや、むしろ楽しそうだ。
なぜ、そんなに自然にできるのか。もしかしたら、社員の人たちも、通信教育会社の社員でありながら、筆者同様に「通信教育挫折」のスネに傷を持っているのではないかと穿ってしまう。
その真偽はともかく、「挫折する人もいるけれど、続けられれば必ず結果が出る!」と、自社のサービスに強い自信とそれを支える自分たちに強い誇りを持っていることが画面から伺える。

と、考えると、このCMのキモは、大勢のオッサンや(以下略)を演じる社員の演技が、ちょっとシロウトっぽいけれど、自然で説得力があることであることがわかる。
シロウトっぽく社員を登場させるCMであれば、地方テレビのCMで、静止画で社員一同が映っている中古車販売店や不動産会社が各地方ではおなじみだろう。しかし、それらは単に「映っているだけ」でなんの意味もない。
一方、Z会のCMで今回社員達が果たした役割は大きい。
禁断の(?)、通信教育会社の社員が、真偽はともかく「私は続けられなかった」と告白するのは、顧客である受験生にとって、一気に親近感がわくのではないだろうか。「ああ、人の痛みがわかる人たちの会社なのだな」と。
一方、自らの過去(真偽はともかくとして)を告白して、「相手の痛みに触れる宣言」をした社員も後には引けない。「受験生サポート」はその産業の基本ではあるけれど、今まで以上に思い入れを持って顧客に接するだろう。モチベーション向上効果バッチリだ。

しかし、こんなにも大胆なCMをよく作れたなと思ったが、これはWebの動画広告としての使い方をメインにして作ったものなようだ。(もしかすると、テレビで流れたりすることがあるかもしれないけれど)。
従来の常識、従来の方法論を乗り越えて、従来の売り手と買い手(この場合は受験産業の担い手と受験生)の距離感を一気に縮めてしまった感触が画面から伝わってくる。従来のマスメディア、マス広告からは考えられない凄味がこの動画から感じられるのは筆者だけだろうか。

自社や自業界のタブーともいえるメッセージを発し、より顧客との距離感を縮める演出とメディアを使いこなす。Z会の今後に注目したいと思いつつ、CMの世界が大きく変わったということの証左を見せられた気がした。

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2009.02.17

【お知らせ】セミナー情報

1月28日に私が講演をしたセミナーの様子がサイトにアップされましたので、ご報告します。

<1月28日「INSIGHT NOW!ビジョナリーコラボセミナー」レポート!>
http://www.insightnow.jp/blogs/id/27

話題のあの企業をマーケティングのフレームワークと顧客視点で読み解く!
~実践的グループワークで分析する“あの商品”がヒットしたワケ?~

少々大げさなタイトルで開催したセミナーは、グループワークを中心に行いました。
24名の参加者の方は、初めてあったとは思えない和気あいあいさでグループワークを進め、活発に発言もしていただきました。
3時間の枠は少々時間切れになってしまいましたが、講師としても非常に楽しい時間を過ごせました。
この場で御礼を申し上げます。


さて、「インサイトナウ」(http://www.insightnow.jp/)を主催する「クイックウィンズ株式会社」によるマーケティングセミナーの第3弾が参加募集開始となりました。

情報力を飛躍的に高める!実践ノウハウ講座
https://www.insightnow.jp/events/seminar0312

講師はマーケティング・プロデューサーであり、有限会社シャープマインド 代表の松尾 順 氏。
同氏の経歴は以下の通り。

旅行会社の営業を経て、リサーチ会社・シンクタンクで調査・コンサルティングノウハウを習得。
その後、「電通ワンダーマン」にて、各種リサーチ、マーケティング企画、CRMプロジェクトのプロデュースを手がける。
その後eラーニングのネットベンチャーの執行役員として、大規模Webサイトの企画・開発のプロデュースと運営責任者を務める。
2001年2月、有限会社シャープマインドを設立。

経歴の中にある「電通ワンダーマン」は私の独立前の職場です。彼とは数年間机を並べた仲です。
そのワンダーマン在職時代、松尾氏は「先生」と呼ばれていました。
その所以は、彼の定量的・数字で攻める鋭いロジックにあります。数字を読む能力、そして、情報を処理する能力において、彼は卓抜した存在でした。
マーケティングリサーチや分析、クライアントへのレポーティングなど、何度も助けられました。


彼はセミナー概要を以下のようには以下のように説明されています。

<あらゆる仕事の本質は、「情報処理」だと言えます。
すなわち、その業務に必要とする情報を集め、あるいは生み出し、整理、分析した上でなんらかの解釈・判断を行う。そして、その結果を元に、戦略やアクションプランを立案し、行動に移す。
このように、仕事は「情報」を起点として動き出すのであり、高い成果が出せるかどうかは、情報をいかに的確に収集、整理、分析、解釈するかにかかっています。>

平成17年に総務省が行った「情報流通センサス調査」では、基準年の平成7年と比較して我々に向けて各種メディアやインターネットなどが発信してくる情報量は、410倍に達しています。正に「情報爆発」といわれる時代の姿がここにあります。
その情報爆発の時代をビジネスパーソンとして生き抜く能力を磨いてはいかがでしょうか。

セミナー日時は以下の通り。

3月12日(木)18:30−20:30 (21:00からは懇親会)
  ヴィラフォンテーヌ汐留 会議室5

定員30名なので、お申し込みはお早めに。
申し込みはこちら ↓
https://www.insightnow.jp/events/seminar0312

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.16

爽健美茶VS.潤る茶:コンビニの棚からみた茶系飲料の戦い

コンビニの棚は各社の戦いの最前線である。茶系飲料の市場縮小が続く中、今日も生き残りをかけたギリギリの戦いが続いているのだ。

コンビニの飲料ケースの棚を見ると、キリンビバレッジの「潤る茶(うるるちゃ)」のパッケージ変更に気付く。CMで仲間由紀恵が「うるおう理由は、素材にあったんだ」と言うその素材がパッケージにズラリと13種類。「潤う」をイメージさせるしずくの形で表現されている。

茶系飲料の中でこのような、多数の素材を用いた「ブレンド茶飲料」の戦いは現状、日本コカ・コーラの一人勝ちに近い。しかし、ブレンド茶系飲料の元祖は十六茶だ。1985年に他社から発売され、93年からアサヒ飲料が発売元となり、缶・ペット容器入り飲料として発売。大ヒットとなった。
その93年に対抗馬として上市されたのが日本コカ・コーラの「爽健美茶」である。
飲料業界第一位の同社は、業界リーダーの戦略の王道である「同質化」が得意だ。下位のポジションにある企業のヒット商品の特性に、優れた開発力ですぐに追随。上市後、先行商品の存在をかき消すように、強大な販売力で市場を席巻する。スポーツ飲料カテゴリーにおける、大塚製薬の「ポカリスェット」に同質化戦略をしかけた「アクエリアス」も同社の製品である。

93年に「茶流彩彩」ブランドでスタートした爽健美茶は99年に単独ブランドとして独立。大ヒットとなり、ブレンド茶飲料におけるシェアの7割超をおさえている。
ランチェスター戦略の研究者、B.O.クープマンの研究によれば、その業界やカテゴリーにおいてシェアの73.9%を握ると「独占的シェア」といわれるポジションになり、短期的には首位のポジションを奪われることがあり得ない、絶対的な安定シェアであることを意味しているという。実に、その数字に極めて近い。
シェアを奪われ、2位に転落した十六茶の姿は、筆者が訪れたコンビニの店頭にはなかった。

定番化した爽健美茶は、日本コカ・コーラの製品ポートフォリオでは「金のなる木」となった。ポートフォリオマネジメントの基本は、今後の可能性が未知数の「問題児」のポジションに商品を上市し、金のなる木で稼いだ収益で「スター」に育成することだ。
その原則通り、同社は「からだ巡茶」を同じブレンド茶カテゴリーに投入した。商品名は「体の中からキレイを目指す」を意味するといい、女性を明確にしたターゲット設定は明確。薬日本堂と協力して製品作りにも力を入れ、CMを大量投入するプロモーションにも注力した。「スター」のポジションに育成する意図が最初から明らかだったのだ。果たして、現状のシェアは不明ながら、コンビニの棚を2フェイスしっかりおさえていることから、しっかり売れ、「スター」に育ったと推測できる。

独占的シェアを持つ爽健美茶と、スターに育ったからだ巡茶の、「日本コカ・コーラ無敵タッグ」に挑む「潤る茶」であるが、勝算はあるのだろうか。
チャネル営業に力を入れたと見え、棚を3フェイス確保している。仲間由紀恵のCMも大量投入していることから、認知度は向上しているだろう。しかし、絶対王者の爽健美茶はどんな挑戦者も許さないということなのか。潤る茶がコンビニ標準価格の147円なのに対し、125円のキャンペーン価格が設定されていた。競合商品のリニューアルの出鼻をくじくメーカの戦略だと考えられる。

この価格戦略は絶妙だ。いくらCMを大量に投入し、認知度を向上させても、最後に手に取らせて買わせなければ意味がない。
「仲間由紀恵」×「潤いの表現」で、AIDMAのAttention(認知)・Interest(関心)ぐらいまでは行くだろう。「ミネラル・ビタミン・コラーゲン」が摂れるといわれれば、飲んでみようかなと思って記憶に残るかもしれない。Desire(欲求)・Memory(記憶)だ。しかし、飲料などの場合、最後の最後に店頭で「やっぱりこっちにしよう!」とAction(購買行動)がすり替わってしまうことも少なくない。
その直前の心変わりを起こさせるには、一番簡単なのは値引きなのだ。しかし、リニューアルしたての潤る茶は値引きでスタートしたくない。痛いところを爽健美茶は突いてきたわけだ。
他の手立てがないわけではない。例えばプレミアム賞品をボトルネックに付けたり、その場で賞品や賞金の当選が分かるインスタントウィン型のシールを本体に貼るなどの方法だ。リニューアル記念とすれば期間限定だし、意味も明確になる。

ブレンド茶ではないが、緑茶系飲料でそれをうまくやっている商品を見つけた。アサヒ飲料の新製品「アサヒ香る緑茶 いぶき」だ。緑茶飲料は、伊藤園「おーいお茶」、サントリー「伊右衛門」、キリンビバレッジ「生茶」の3強がシェア7割を占める。その中に食い込もうというのだ。並大抵のことでは生き残れない。何とか発売直後の初速を付けたい。そこで、前述のインスタントウィン型のシールを貼付け、新発売キャンペーンを展開したのだ。

個人的には「うるる」という名前で、パッケージの「しずくの形」を見ると、ダイキンエアコンの「うるるとさらら」と、そのキャラクターの「ぴちょんくん」を連想してしまう。なので、ダイキンとコラボレーションで「潤る茶ぴちょんくん」のプレミアムを作って、ボトルネックに付ければよかったのではと思ってしまう。13種類の素材にちなんだ13種類のぴちょんくん。筆者なら集めてしまいそうだ。

製品にとっては消費者の審判を受ける場所である店頭。特にコンビニエンスストアはPOS管理され、売れ行き次第では棚のフェイスは減らされ、最終的には置いてもらえなくなるという厳しい世界だ。マーケティング上、ターゲットやポジショニング、そこから熟考した製品などの戦略幾ら考えても、最終的には手に取って買ってもらえなければ意味がない。
マーケティングの要諦は「整合性」だ。ターゲット・ポジショニング・4P(製品・価格・チャネル・プロモーション)。この製品は誰に、どのような特性をアピールし、それはどんなプロモーションを展開して、そのチャネルでどのようにターゲットが手に取って、幾らで買ってもらうのか。その全てがうまく整合していることが求められる。まして、チャレンジャーがリーダーに挑むのであれば、隙がなく、リーダーの裏をかくことも必要だろう。
強大なリーダーに挑む「潤る茶」にエールを送りつつ、その戦い方を今後もウォッチしてみたい。

| | Comments (1) | TrackBack (2)

2009.02.12

電子書籍端末「キンドル2」からチラつくアマゾンの凄味

アマゾン・ドット・コムが9日、同社が07年に発売した電子書籍端末の後継機を発表した。「Kindle(キンドル)2」。音声による朗読機能など、いくつかの新機能が搭載されたが米国のアナリストの評価は今ひとつの感だ。しかし、端末の評価よりも、アマゾンが電子書籍ビジネスに対して、一つギヤを上げて急加速させようとしている点に注目したい。そこには同社でしかできない戦略が隠れているのだと。

日本においては残念ながら電子書籍は全く発達していない。ソニーが発売したLIBRIe(リブリエ)は07年5月に生産中止。旧松下電器産業から発売されていたΣBook(シグマブック)は05年10月に生産中止。後継機であったWords Gear(ワーズギア)も昨年3月に生産を中止し、国内の電子書籍端末は全て姿を消した。
原因はコンテンツ不足だとされている。複雑に絡み合う権利関係の調整ができず、端末はあれども魅力的なコンテンツがないという状況が普及を阻んでしまったのである。

一方、そうした制約条件がクリアされている米国は全く状況が異なるようだ。
日本経済新聞09年2月10日夕刊で「米、電子書籍が急成長 主導権争い本格化」という記事が掲載された。記事によれば、07年に発売された初代キンドルの販売実績は、08年に50万台だったとシティーグループが推定しているという。06年に国内では不振であったリブリエの姉妹機であるSony Reader(ソニーリーダー)発売を開始しているソニーは現状後塵を拝する形になっている。06年から08年11月までの累計出荷台数は30万台だという。<米国家電協会は電子書籍端末の市場規模が09年にはほぼ倍増すると予測。成長率は低価格パソコンを上回るとみている>という。ベンチャー企業も10年に市場に参入すると表明しており、この市場を誰がリードしていくのかはまだ分からない状況ではあると記事の論調である。

とはいえ、筆者としては圧倒的に「アマゾン有利」と考えている。「コンテンツを持っているから有利なのは当たり前」と言ってしまえばそれまでなのだが、その有利さが盤石に思える点が同社の凄さなのだと考えている。
コンテンツのチカラという点では、人気作家のスティーブン・キングにキンドル限定小説の配信を発表するなどの力業を用いている。しかし、その販促も配信を受けるユーザーあってのこと。同社が持っている力の源泉の一つは「顧客基盤」だ。
イゴール・アンゾフの成長戦略のマトリックスで考えてみる。このフレームワークは、横軸に製品、縦軸に市場をとり4象限を作って各象限毎に戦略の方向性を示す。既存の顧客に既存の製品をさらに販売する「市場浸透」。同じ市場に対し新製品を投入する「新製品開発」。製品は変えずに新たな顧客を取り込む「新市場開拓」。新製品を新市場に展開する「多角化」の4パターンである。
アマゾンが顧客にキンドルを販売するのはどのパターンにあたるのか。電子書籍端末という新商品を既存の顧客に販売することから、「新製品開発」によって成長を達成しようという戦略だと考えられる。
では、ソニーの場合どうか。同社の製品を購入している顧客ベースも持っている。その顧客に、新しいタイプの電子書籍用の端末を販売するのであれば、同じく「新製品開発」であったと考えられる。

アマイケル・ポーターがンゾフのマトリックスの各パターンの成功率を検証した数字がある。「市場浸透」の場合75%。「新製品開発」は45%。「新市場開拓」35%。「多角化」はM&Aで相手先企業のノウハウや資産を活用した場合35%、自社独自展開の場合25%。
こうして見てみるとアマゾン、ソニーとも45%とそこそこ固い手で展開しているように見えるのだが、4パターンの意味をもう一度考え直してみたい。
最も成功率が高いとされている「市場浸透」とは、既存の顧客に製品の使用度を高めさせたり、使用頻度を高めさせたり、新たな使い方をさせるなどして、さらに顧客の深掘りをすることだ。アマゾンは米国最大のネット小売企業であるが、やはり書籍において圧倒的な強さを持つ。「電子書籍」という新たな流通形態で、その端末を使った閲読方法を提案し、さらに顧客の需要を深掘りする。とすればそれは、「市場浸透」なのだ。

CNET News.comではガートナーのアナリストのコメントとして、今回のキンドル2へのバージョンアップの魅力を「モバイルセグメントのプロフェッショナルのようなユーザー層」にしか魅力的に映らず、一般消費者にはあまり価値として伝わらないとしている。それはそのまま、電子書籍及びその端末の普及に対する評価とも解釈できる。しかし、前述の米国家電協会の予測にある「市場倍増」から考えると、09年は普及の新たなステージに入ると考えられるだろう。

E.M.ロジャースの普及論で考えれば、08年までは電子書籍は「導入期」にすぎなかったのだといえよう。しかし、09年から「成長期」に移行するのではないか。導入期には、その製品の目新しさに惹かれる「イノベーター」が採用者であった。成長期には、その製品の持つ機能や価値をきちんと評価して採用する「アーリーアダプター」が動く。そして、ロジャースによれば、そのアーリーアダプター層が動くと、その採用状況を見て一般人の中でも比較的新しいものへの関心が高い「アーリーマジョリティー」が続いて動くとされている。一気に高成長へ加速するのだ。

電子書籍の普及は既存の紙の書籍を圧迫する。まさかパピルスに文字を記してきて以来、5000年もの間人間が慣れ親しんだ紙を全く使用しなくなるわけはない。しかし、流通の簡便性や価格の安さ、また、昨今の環境意識の高まりなどから考えれば大胆にシフトしていくことも考えられるだろう。その前提であれば、アマゾンとしては紙か電子かというメディアの違いへのこだわりは捨て、自らの顧客にコンテンツという商品をさらに深掘りして販売することを狙うだろう。物理的な「本」を売るというビジネスの転換を自ら加速しているのだ。
キンドル2に保存できる本は従来の7倍の1500冊分だという。アマゾンユーザーの多くは、ついつい数多くの書籍を注文してしまい、「積ん読」になる傾向が多い。物理的な本であれば保管場所の制約条件がつきまとうが、電子書籍であれば問題は解決する。毎月の書籍代も気になるが、印刷や配送のコストのかからないメディアであれば、価格も安くすむ。配信価格は現在、新刊で9.99ドルだという。
アマゾンは来るべき市場の転換に向けて、膨大な自社の顧客ベースに対して顧客の深掘り、つまり「市場浸透」を図るために自社のビジネスモデルをどんどん変えていこうとしているのだ。そこに同社の凄味がある。

導入期は製品の認知を高めるのが基本戦略だが、成長期ではシェアをいかに確保するかがキモとなる。アマゾンは製品戦略としては、製品仕様の向上を図った。プロモーション戦略の売り物は人気作家による専用のコンテンツだろう。マーケティングミックスの4Pで考えれば、チャネル戦略は自社そのものであるが、さらに配信に力を入れるだろう。となれば、残るは価格戦略だ。キンドル2の価格は359ドル。決して安い価格ではない。しかし、さらにシェアを早期に確保しようと考えた場合は、低価格戦略でシェアを早期確保するという「ペネトレーション戦略」に転換するだろう。10年にベンチャー企業が参入してくる時には、キンドル2の廉価版をぶつけてくるかもしれない。

日本と全く市場背景が異なる環境にあるため、今ひとつリアリティーを持って受け止められないニュースであるが、このように考えていくと、電子書籍をめぐる戦いは、アマゾンが、アマゾンしかできない戦い方で大胆にリードしていくように感じられる。
圧倒的なリーダーの戦略に対し、チャレンジャーであるソニーやベンチャー企業の戦い方も、今後どうなっていくのか気になるところだ。海の向こうの戦いにも、今後注目していきたい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.10

「異色のコラボ」の狙いとは?

「これを考えたヤツは間違いなく天才だ・・・」。その画像を見た時確信した。
さりげないようだが、よく考えればムリムリなこんなカタチ、普通では思いつかない。
<“ダサカワ”? RODYと赤い電車、異色のコラボ>
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090209/trd0902091406004-n1.htm

RODY(ロディ)と赤い電車のどちらから説明したものかと迷うが、ロディからいこう。
日本で発売されたのは2000年からということは、、キャラクターとしては比較的新顔ということになるのだろうか。もう10年近く経てば日本に馴染んだともいえるのかもしれない。元々はイタリア生まれの子供用の乗用玩具だ。ちょっと何の生き物がモチーフなのか、そのトボケた顔を見ると少し悩むが、馬だ。日本では玩具としてよりは、そのカラフルさが受けてオシャレなカフェなどにインテリアとして置かれるなどして人気が上昇。キャラクターグッズとして文具や雑貨、ベビー用品、ファッショングッズまでおびただしい数の商品が発売されている。
このロディ、一昨年あたりから他のキャラクターとのコラボレーションが行われるようになった。ハローキティやキューピー人形などだ。どちらもよくある各々のキャラクターが着ぐるみとしてロディをかぶっている姿なのだが、今回のコラボのすごいところは、ロディと電車を単純にドッキングさせているところだろう。(まぁ、電車に着ぐるみはムリなのだが・・・)。さらに、本来乗って遊ぶロディが電車に乗っている。ここ、筆者のツボである。

さて、そのロディに乗っかられている赤い電車を見てみよう。
赤い電車、京急線だ。車体の正面に「2100」の文字が見える。そう、これは京浜急行電鉄の名車、「京急2100形電車」なのだ。実は筆者の好きな電車の一つでもあるからたまらない。
都営浅草線への乗り入れは泉岳寺までで、折り返す。会社員時代、東銀座のオフィスに勤務していて、横浜方面のクライアントの所に行く時は好んでこの電車に乗ったものだった。快特なのだが、有料の特急電車のような座り心地のいいシートはベンチシートではなく、進行方向を向く2人掛け。各車両の端にはボックスシートもある。それに乗っていると、ちょっと旅行に行く気分でなんとも楽しい。
この電車、現在は10本を残してもう製造されていないのだが、ファンが多いのだ。前述の豪華なシートの内装だけでなく、他の車両でも聞こえるが、京急独特の駅から発車する時に聞こえるモーター音、俗に「チャルメラ音」ともいわれる音が一番印象的に感じる。その音も人気の秘密だろう。音の正体は電車のモーター。ドイツのシーメンス社製。インバーター装置が搭載されており、それが音の発生源だとマニアの部下から横浜に向かう時、教えられたのを覚えている。

記事には<女性から長らく格好悪いものの代表と見られてきた鉄道グッズだが、京急電鉄は「女子高生や若いお母さんたちを取り込みたい」とイメージ一新を狙っている>とある。しかし、上記の如く、多くのファンを持つ2100形をコラボに用いるのは、「女子高生や若いお母さんたち」だけを狙ったものではないだろう。しっかりマニアも狙っているように思う。
狙い通り、女性達はかわいいロディが奇妙な感じに電車に乗った携帯ストラップやファスナーストラップを「ダサカワ」と感じて身につけたとしよう。すると、今まで本当のマニアしか身につけていなかった「電車グッズ」は一気に市民権を得ることになる。「本当は電車の携帯ストラップ付けたいんだけど、人から”鉄ちゃん(鉄道マニア)”って呼ばれるから・・・」と購入を留まっていた潜在層を一気に刈り取れる。
最初は女性にも人気の「ロディ×2100形コラボ」を買うだろう。女性に「ダサカワ」と評価される。購入への抵抗感が一気に弱まる。その次には、電車単体のグッズを購入。継続的な需要が見込めるのではないだろうか。

ターゲットを選定する時に忘れてはいけないポイントに「優先順位」と「波及効果」がある。当該ターゲットを取り込めば、後からより多くの別の属性を持ったターゲットが取り込めるとしたら、おのずと優先順位が高いターゲットがわかる。有名人やタレントをユーザーとして紹介し、一般人を取り込む、「シャワー効果」と呼ばれる手法もその一種だ。B to BのIT関連のマーケティングなら、有名企業の導入を先行事例として採算は二の次で、「リファレンス・ユーザー」として取り込むのが常套手段である。

ちょっとムリヤリな感じも漂うこのおかしなコラボ、意外としたたかな戦略が込められているのかもしれない。
早速、筆者は釣られて、発売日の14日に品川駅あたりで買い求めてみようと思う。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.09

個食化と少人数世帯化に対応するキーワードは「ピッタリ感」

中味は同じ食品。発売元もブランドも全く一緒。295グラムで180円と150グラムで160円。あなたはどちらを選ぶだろうか。

単価計算をするまでもなく、295グラム入りの方がオトクなのは誰でも分かる。しかしあえて、このメーカーは150グラム入りの商品を追加発売するという。
<手作りトマトメニューをおいしく、簡単に!「基本のトマトソース」295g リニューアル~少人数世帯向けの小容量150gレトルトパウチも新登場~ >
http://www.kagome.co.jp/news/2008/090205.html

トマトといえばカゴメというぐらいにトマトにこだわる同社が、<消費者の節約志向による内食回帰を要因に、トマト調味料の市場は、拡大傾向>にあると商機を見てパッケージリニューアルし、拡販を狙っている。それと同時に<少人数世帯向けの小容量タイプを追加することで、トマト調味料市場の更なる拡大>を図るという。

狙いは確かに分かる。しかし、ナゼに単価換算すると全く釣り合わない2つの商品を発売するのかと疑問に想う方も多いだろう。しかし、消費者心理は経済合理性だけでは説明できない部分があることを巧みに見抜いた価格戦略なのだと考えられる。

昨年末のニュースだが、コンビニに関する以下のような記事があった。
<ファミマ、生鮮食品の扱い拡大へ 全店舗の半数で>
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/081228/biz0812280123000-n1.htm

記事では<最近は、スーパーが自転車や車で行ける距離でも、歩いていけるコンビニで少量だけ欲しいというニーズは高齢者や独身者を中心に想像以上に強い>と分析しているが、「少量、使う分だけ買える」という要素もかなり強いはずだ。少人数世帯の進行と共に各自が好きな時に好きなものをバラバラに食べる個食化も進んでいる。買い込んだ材料で大量に料理する習慣は失われつつあるということだろう。

その影響からか、スーパーでは一玉150円でキャベツを売り出すより、半玉150円で売り出した方が売れ行きがいいという現象も起きているという。一体どういうことか。
少人数家庭化、個食化の現状では一玉を使い切るうちにダメにしてしまうことも少なくない。みすみす、自分が代金を投じて購入するものを廃棄するリスクを考えると手を出すのを躊躇する。半玉であれば使い切れそうなので、気軽に購入する。そうした消費者の心理が働くからだ。
半分ダメにするのではなく、三分の二使って、三分の一廃棄すれば一玉の方が特になるのだが、そうした合理性では割り切れないのが人のココロ。トマトソースも半分使って、半分を保存容器に入れるなり、冷凍すればいいのだが、そうした面倒なことはしたくない。

少人数家庭化、個食化はまぎれもない環境の変化である。そうした変化に対応するためには、消費者の心理に対応した戦略立案が欠かせない。少し古い事例であるが環境の変化で売れ行きが激減し、「個食化」に対応して見事な復活を遂げた食品がある。
<フジッコ―低迷した主力商品を生き返らせる>
http://president.jp.reuters.com/article/2008/12/02/4B105C72-BD16-11DD-A79D-1C123F99CD51.php
<煮豆市場は1998年頃から長期的なダウントレンドに突入。2000年に約5400円だった100世帯あたり購入金額が、05年には約4700円に減少していた>といい、市場調査により煮豆を食べない背景として<「一人暮らしになったから」「夫婦ふたりきりになったから」>という<家族形態の変化を契機とした”煮豆離れ”>が起きていることがわかった。
つまり、<内容量が平均で160グラムある家族向け商品の「おまめさん」は、個食化が進んだ時代に合致しない商品になっていた>ことがわかったのだ。
そこで同社は<食べきれる量目・食べやすい容器・そのまま食卓に置ける>をコンセプトに商品開発を進め、新製品「やわふく」を発売。<工場の能力が追いつかないほどの売れ行き>となった。

既存製品と差別化するために製品の品質も向上させたが、「売れる価格」を実現するためにコストの積み上げではなく製造コストの削減も図ったという。しかし、それでも既存製品よりグラム単価は高くなっている。だが、新しい容器は家庭内で食べたい人が一人でも食べられるような個食対応だ。無駄な食べ残しをしない。自分用に「ぴったり」だという感覚。これこそが単価計算で判断されるのではない、価値観への訴求なのだ。

原材料の高騰に始まり値上げが相次いだ食料品や外食産業。そこに経済の低迷が追い打ちをかけ、消費者の財布の紐は固くなり、企業は厳しい対応を迫られるようになった。安易な値上げは顧客離れを招く。競合との値上げのガマン比べに負ければ顧客を奪われる。
そんな中で、価格は同等か若干引き下げ、内容量を減らす「量目調整」が行われているケースも散見されるようになった。消費者に気づかれにくい「実質値上げ」となる量目調整はネガティブにとらえられがちだ。しかし、上記の3つの例はどれも、実質的には割高なのにもかかわらず、消費者に選ばれるのだ。

その昔、米国での話。公園で若者がポップコーンを売っていた。さっぱり売れない。そこで、公園に来ている人々をつぶさに観察することにした。数多くの老人。小さな子供の手を引いた母親。彼は気づいた。老人や小さな子供では自分が売っているポップコーンでは量が多すぎて食べられないのだと。
量を半分にして売りに出してみると、狙いは的中。多くの人が買いに集まったという。

量目は製品戦略の一部だ。そして価格戦略。それらは密接に関連しているが、それだけを考え悩むのではなく、まずはターゲットを明確にして、そのニーズを探ることが肝要なのだ。そして、ターゲットが「自分にピッタリ」と思えるものを提供する。relevant(適切な・妥当な・実際的な価値を持つ)という英単語の方がしっくり来るかもしれない。
環境変化に柔軟に対応し、ターゲットにレレバントなものを提供する。マーケティングの基本にも通じるが、忘れてはならないことである。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

2009.02.06

膨張し続ける「キットカット」のマーケティング

バレンタイン商戦真っ盛りの店頭で、強い存在感を示している商品がある。キットカット。フィリップ・コトラーも賞賛した、その独自の戦略を見てみよう。

バレンタインコーナーの横で販売されている「キットメール」。受験生への応援メッセージを記したキットカットがそのまま郵便で送れるというパッケージである。今年の「キットサクラサクよ。」キャンペーンの目玉的商品といっていいだろう。今まで、受験生に手渡しされることが多かったキットカットを、離れた人からでも届けられる。メッセージも送れるという、画期的な商品だ。
http://www.breaktown.com/09sakura/

マーケティングの大家、フィリップ・コトラーが自著に取り上げ話題にもなった「受験キャンペーン」。その内容と成功のヒミツに関しては、ネスレコンフェクショナリーの高岡社長の講演記事と、担当クリエイターである関橋英作氏のコラムで、当事者の分析を確認していただきたい。
<「我々のマーケティングは宣伝,広告から離れることから始まった」--ネスレコンフェクショナリーの高岡社長 >
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080617/308431/<あのフィリップ・コトラーが、キットカット受験キャンペーンを取り上げる意味>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20080827/169009/?P=1

上記の2つの記事で成功要因とされているのが、マス的アプローチから離れてターゲットを見極め、ターゲットが求める価値を提供したということだ。そのアプローチは受験キャンペーンだけではなく、キットカットというブランドの力の源泉となっている。それはバレンタイン商戦に参戦している商品にもしっかり活かされているようだ。
<女子中高生の声を反映して開発された「キットカット キット、想いとどく。」は2つに“はんぶんこ”して、パッケージ中面のメッセージ欄にメッセージを書いて渡すことができます。>
http://www.breaktown.com/omoitodoku/
何という絶妙なターゲット設定とニーズの拾い方であろうか。「本命」には手作りの風習が、中高生女子には根強いという。10代向けの雑誌にはこの時期、手作りチョコ特集が花盛りだ。「意気込んだ手作りはちょっと恥ずかしい。市販のチョコなら、軽い気持ちで伝えられるかも。でも、特別な思いは伝えたい」。そんな微妙なオトメ心とターゲットを見極めた戦略なのではないだろうか。

ターゲットとそのニーズを見極めるという、マーケティングの原点ともいうべき戦い方に力を注ぐようになった以前のことについて、関橋氏コラムで述懐している。<それまでのキットカットの価値は、ウエハースが入ったチョコでサクッと食べて気分転換。つまり、物理的な機能に焦点が当たっていました。逆にそれが、ビジネス的に限界を作っていたのです>。
「キットメール」や「キット、想いとどく」は物理的には「レギュラー製品のパッケージ変更」だが、その意味はもっと深い。「ウエハース+チョコ=サクサクしたお菓子」という商品特性を離れて、それを包むパッケージで、ターゲットがどのように用いたいニーズとの適合を図っているのだ。ターゲットを見極めていればこその展開なのだ。

一方で、製品を作り替えることもキットカットは得意としている。2000年にストロベリーフレーバーを期間限定で発売し、続く01年にバナナを発売。03年に期間限定商品を5種に増やし、現在では毎月のように限定モノが発売されている。単なる話題喚起ととらえるには、かかる労力は凄まじい。
メインターゲットとなる若年層のキモチは移ろいやすい。常に刺激を与え続けなければ、簡単に他の商品にスイッチしてしまう。もしくは購買頻度が低下する。つまり、「キットカットは常に新しいフレーバーを提案し続けます」というメッセージをターゲットに送り続けているのではないだろうか。それはブランドからのプロミスであり、価値の提供でもある。
新たなものを求めるターゲットに対して、製品自体もマス・プロダクトを離れ、細分化させる。当然、生産効率は悪くなるだろう。しかし、あくまで新たな価値提供を目指しているのだと解釈できる。

お土産需要を取り込むご当地キットカットもある。例えば昨年発売されていた「キットカットしょうゆ風味 」。<東京に根付くしょうゆ文化を表現した>という。東京限定で都内の空港、駅、サービスエリアなどで販売されていた。これもまた、商品の細分化戦略である。
http://p.nestle.co.jp/kitkat/limited/kk_shoyu.htmlターゲットだった若年層も、やがてキットカットを離れていく人もいる。筆者もその一人だ。お土産を探しているうちに、もしくはお土産としてもらうことで、キットカットとのリレーションが復活することもあるだろう。そのきっかけ商品としても機能するのがこのご当地キットカットではないか。

マス的アプローチから離れてターゲットを見極め、ターゲットが求める価値を提供する。その課程で、ターゲットの細分化したニーズをすくい取るために提供価値も、商品自体もどんどんと膨張していく。一見、効率的に見えない展開だが、もはや「消費者」という一個のカタマリでとらえていては生き残ることはできない時代である。細分化しつつ膨張を続けるキットカットの戦い方に学ぶところは多い。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.04

大ブームの手帳活用術・成功のヒミツは?

今年も月が改まって2月になった。何らかの目標を立て、新しい手帳で活動を開始した人も多いだろう。書店に行けばまだまだ様々な手帳が販売されている。一つのブームともいえる手帳活用術。なぜ人々はそれに惹かれるのか。そのヒミツを考えてみたい。


■ヒミツその1:「見える化」

ビジネスシーンではよく使われるようになった言葉であるが、行っている取り組みを可視化、つまり目に見えるようにして問題点や成功のポイントを明確にすることといった意味がある。様々な定義があるが、最もわかりやすいものは、同名の著書もあるローランド・ベルガーの遠藤功氏のものだろう。<ビジネスにおける問題を常に見えるようにしておくことで、問題が発生してもすぐに解決できる環境を実現すると共に、問題が発生しにくい環境を実現するための取り組み>だという。
では、個々人に置き換えた時、問題点とは何だろうか。例えば、昨今の関心事で言えば「メタボ」などだろう。何とか痩せないといけない。次の健康診断までに少しでも体重を減らさないと会社から指導が入ってしまう!などという切実な状況の人も多いのではないだろうか。
そうした時に有効とされているのが「レコーディングダイエット」だ。日々の食事や間食とそのカロリーを記録して、その内容を自覚することで食生活の改善につなげるというもの。岡田斗司夫氏が著者「いつまでもデブと思うなよ」で紹介し、一気に有名になった。
「見える化」的に考えれば、「問題点」は「自分がデブ(もしくはメタボ)だということ」。その望ましくない状況を認めて改善のための取り組みをするものの、挫折が待っているのがダイエットの常だ。(筆者も幾度も経験していることを告白しておく)。挫折に至らないために「記録」して振り返りをきちんとすることが重要なのだ。
つまり、手帳の効用とは記録することによって自らの行動を「見える化」し、「振り返りのプロセス」を働かせることにある。


■ヒミツその2:「OPDCAサイクル」

前項で手帳の効用は「振り返りのプロセス」にあるとした。もう少し拡大して考えれば、手帳の中にはPDCAのサイクルが内包されているといえるだろう。PDCAとはビジネスパーソンならば一度ならずと耳にした言葉だろう。Plan(計画)→Do(実行)→Check(検証)→Action(改善)。先のレコーディングダイエットでは特に検証から改善のあたりに大きな効用があると思われる。
そのPDCAには、さらにPの前にOを付ける場合がある。Objective=目標だ。まず「目標を明確にして、その達成のために計画を立てましょう」ということである。ダイエットの目標は明確だ。「痩せること」。他にも目標を絞り込み明確にした手帳は数多い。お金の管理がうまくできて貯蓄が増えるという「ミリオネーゼ・スペシャル マネー手帳」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、15週間でフルマラソンを完走できるというカリスマコーチによる「金哲彦のランニングダイアリー」(講談社)など自身の目標を絞り込んで、それにマッチした手帳を選ぶことが達成のための近道でもある。多様性の時代、実に様々な目標達成のための手帳が発売されている。それも手帳ブームを支えている理由の一つだろう。


■ヒミツその3:「フレームワーク」

目標を設定して、自ら行動をして振り返理をし、改善する。つまり「OPDCAサイクル」をまわせばよくなることはわかっている。しかし、「一体どうやればいいのか分からない!」「やり方が分かればとっくにやっている!」という声も聞かれる。そのために、手帳には実践のためのフレームワークが用意されていることも多い。先の「ランニングダイアリー」では、有森裕子などを育てたカリスマコーチのトレーニングメニューが示されており、それを実践すれば完走ができるとされている。
ビジネスパーソンに人気の手帳では「勝間和代手帳」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。2005年にウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」に選ばれ、メディアも数多く登場している同氏は、自身の成功のヒミツを数々の書籍で記している。手帳には自由な発想を促し、ライフ・ワークバランスを保ち、そのためにも時間の管理術を身につけるというメソッドが凝縮されているという。
同様な効用を示すものがフスティーブン・R・コヴィー氏による「7つの習慣プランナー」(フランクリン・コヴィー・ジャパン)だ。過去の膨大な書籍から人生や家庭、事業などに関する成功の秘訣をまとめ上げたとする「7つの習慣」をフレームワークとして手帳に記されている。
自分自身ではなかなか実行できないことを、フレームワークに沿って進めれば目標が達成できるというところがブームの理由でもあるのだ。


■ ヒミツその4:「アナウンス効果」

アナウンス効果とは、選挙の際にしばしば話題になるが、メディアなどが投票結果などの予測を発表することによって有権者の行動が変化し、結果に影響を与えることを示す。ここでは「自らの目標を公表することによって、周囲の人から影響を与えられる」と解釈したい。ダイエットなどにおいては特に有効だ。「私はダイエット中です!」と明言することによって、呑みに誘われない、お菓子を配られないなどの効用があるほか、「最近痩せてきた?」などと聞かれ、実行せざるを得なくなという効果があるとされている。
手帳において「実行せざるを得なくなる」という効果は特に大きい。目標がダイエットだったり、マラソンだったりと明確なものほど、その手帳を使っていれば周囲にもバレバレだ。密かに隠していてもどこかで表面化するだろう。もしくは、ある程度続けられて頑張っている段階になると、自分で言いたくなるのも人の常だろう。そうすると、もう後に引けない。その効果は大きいのだろう。
筆者の手元には、先の「金哲彦のランニングダイアリー」がある。始めれば15週間のスタートだ。こうして記事したら後には引けない。第1日目をいつにするかが問題だ。


さて、今年もあと11ヶ月ある。目標を絞れなかった、手帳を始められなかったという方にもまだチャンスはある。人気の手帳は、カレンダーと連動しているものばかりでなく、自分が始めようとした日からスタートできる自由記入式のものも多い。筆者がランニングの第1日目を記す日も近いハズだ。目標を決め、実行に移す最適なツールとして手帳活用術を初めてはいかがだろうか。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.02.02

成長戦略とブランドマネジメントの悩み

ハードなスポーツに取り組む選手のニーズを深掘りして成功したあるドリンク。しかし、その成長戦略には悩ましい問題が見え隠れしているように思える。

「運動中には水を飲むな!」と、アホな根性論が昔はまかり通っていたが、昨今のスポーツでは給水は勝敗を左右する大切な要素だ。シドニー五輪女子マラソンの金メダリスト高橋尚子選手が、北京五輪の代表枠獲得をかけて挑んだ名古屋国際女子マラソン。早々にまさかの大失速に陥ったのは、最初の給水ポイントでスペシャルドリンクを取れなかったも原因の一つと言われている。

重要な水分補給を理想的に実現できるドリンクがグリコの「CCDドリンク」だ。運動中に水分だけでなくエネルギーも補給でき、低浸透圧なため吸収もスムーズだという。
水分が吸収されやすいのはもちろんだが、アスリート達がこの商品を愛用するにはワケがある。エネルギーの吸収もスムーズにできるからだ。
タイガー・ウッズがゴルフのプレー中にバナナを食べているシーンを記憶している人も多いだろうが、長時間ハードなスポーツを行う場合、水分だけではダメなのだ。体脂肪を燃やし身体を動かすためには糖質が必要となる。
さらに、ランニングをはじめとする、常に身体を動かしているスポーツでは、固形物より液体でエネルギーが取れる方がありがたい。消化のために胃に血液を集中させる必要がないからだ。

さて、前述のように、速やかに水分とエネルギーが吸収できるすばらしい特性を持ったグリコの「CCDドリンク」であるが、別の使用用途でも注目されているようだ。看病や介護の現場。食べ物を受け付けなくなってしまった病人に水分とエネルギーを補給し、体力を維持させようという使い方だという。
この製品のキモは低浸透圧で水分吸収がよいことと、BCCA(分岐鎖アミノ酸)とアルギニンというアミノ酸が摂取できることだ。BCCAは筋肉のエネルギーとなり、アルギニンは体内でたんぱく質を生成し脂肪の代謝と筋力強化を促進する。まさにスポーツ自には最適な成分であるが、体力を自力で維持できない人にとっても福音となるのは間違いない。

経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」だ。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。「CCDドリンク」を病人・要介護者マーケットに拡大するのは「既存製品×新市場」であり、マイケル・ポーターが検証したところ4つの中でも一番成功率が高いパターンである。
しかし、簡単にターゲット拡大できないジレンマが生じる。
ハードなスポーツをこなすアスリートと、固形物を摂取できない病人や要介護者。まるで逆の立場だ。ターゲットを安易に拡大すれば、せっかく築き上げてきた商品・ブランドのポジショニングがあいまいになり、顧客の離反を招く可能性があるからだ。

ブランドイメージのジレンマを克服するために、しばしば、サブブランドを作ったり、別ブランドが立ち上げられたりする。もしかすると、他のブランド名でグリコは展開しているのかもしれないと思い、「BCCA アルギニン」で同社のWebサイトを検索してみた。残念ながら、同一カテゴリーのサプリメントしか見あたらなかった。

低浸透圧で水分吸収がよく、液体でBCCAとアルギニンという重要なアミノ酸が摂取でき、エネルギーが得られるという製品特性はこの商品に大きな成長の可能性が秘められていることを示している。商品の「売上げ」とは、「単価」×「顧客数」×「使用頻度」である。ハードなスポーツを行うアスリートと、病人・要介護者はどちらが対象者が多いのか。スポーツの試合や練習の時に用いられるのと、日常の水分・エネルギー補給に恒常的に用いられるのではどちらが使用頻度が高いのか。
「選択と集中」は重要であるが、是非ともブランドのジレンマを克服し、優れた商品を必要とする多くの人に広めてもらいたいと思う。

ブランドを意識しすぎるが故に成長機会を逸している例は、同様に他の市場でも散見される。
プロダクトの中核たる価値はそのままで、それを取り巻くブランドやパッケージという商品の構成要素を変更する。全く別のチャネルで販売する。商品訴求の仕方を変える。などのマーケティングの4Pの他の要素を組み替えることによって、既存ブランドを毀損することなく、別のターゲットに新たなポジショニングを示すことも可能となるだろう。
厳しい経済環境の中、どこに成長の芽があるのか。それはどうやったら取り込めるのか。様々な工夫が求められている。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« January 2009 | Main | March 2009 »