カシオ・社長コメントに、未踏の地を目指し強敵と戦う覚悟を見た
<「2009年はデジカメ革新の年にしたい」と強調する>というカシオ計算機株式会社の樫尾社長のコメントが、日経新聞13日朝刊・企業欄の「人こと」コラムに掲載された。
コラムは<「世界景気は悪化しているが、全く新しい発想でデジタルカメラの需要を刺激する」>という樫尾社長の力強いコメントで始まっている。「革新」を体現する商品として<動画と静止画の合成や超スローモーション動画撮影ができるコンパクト製品>が発売されるとあった。
ニュースリリースされている、1月23日日発売の『EXILIM ZOOM EX-Z400』の『EXILIM CARD EX-S12』ことだろう。
http://www.casio.co.jp/release/2009/ex-z400_s12.html
短い記事中ではあるが、社長のコメントを拾ってみる。<キャノンやソニーなどより規模は小さいが、「デジタル化の発想では負けない」><「ゼロから一を生み出すのが樫尾の伝統」>とある。
このような経営者の方針を前にした時(カシオ計算機の担当者にとっては現実の話だ)、どのようにマーケティング担当者は解釈をすればいいのだろうか。
恐らく、カシオ社内では膨大な蓄積の中から「USP(unique selling proposition):競合が真似できない、自社独自のセールスポイント」となり得る技術を棚卸しし、精査して今回の<動画と静止画の合成>を実現する「新開発エンジン」を実現したのだろう。
「デジタル化の発想」や「ゼロから一を生み出す」という言葉は、自社の技術をユニークな商品作りに活かせと言われていると解釈できる。企業が研究開発を重ねて蓄積した技術を「シーズ(Seeds:”種”の意)」である。その技術の中からユニークなものを伸ばして開発をしていくのが「シーズ志向」の製品開発である。
顧客の叶えられていない要望や、不満、もしくは希望を元に商品開発を行うのが「ニーズ志向」の開発だ。この場合、顕在化したニーズには、どう対応すればいいのかは考えやすいし、潜在的なニーズであれば、アンケートやインタビューで引き出すこともできる。比較的ハズさない開発方法だと言える。
しかし、顕在ニーズはもとより、潜在的なニーズも成熟化したデジタルカメラの市場においては刈り取り尽くされている。もはや「顧客が考えたこともないような使い方や機能」はニーズからは浮かび上がってこないのだ。「シーズ型の開発」のリスクは、開発費を投じたそれが、果たして顧客に受け入れられるのかがわからないという点にある。
しかし、カシオは社長の「ゼロから一を生み出す」と言うように、道なき道を行き、未踏の地を目指す覚悟を決めたことがわかる。
もう一つは、<動画と静止画の合成や超スローモーション動画>というように、「動画技術」の部分に踏み込めば踏み込むほど、「デジタルカメラ」という製品カテゴリから、「デジタルビデオカメラ」との競合を覚悟することにもなる。動画を撮ることにおいては専門領域であるプレイヤーにさえ、独自の機能性で戦いを挑もうというのだ。
新たな機能を提案し、領域を超えた戦いを展開しようというカシオの戦略。そこでもう一つ重要なものが、「ターゲティング」ではないだろうか。USPがUSPとして成立するには、そのユニークさを認めてくれる顧客(顧客層)が存在するということが欠かせない。そうでなければ、「売る側の思いつき」として忘却の彼方に追いやられることになる。
シーズ志向で開発された商品は、当初はそれをどのように評価し、どのように使いこなしてくれる顧客がいるのかということが見えにくい。もちろん、上市(発売)前には何度も顧客インタビューや調査が行われたであろうが、それでもまだ、完全ではないだろう。
当初設定したターゲットや、市場に向けて提案した使い方以外で大ヒットした商品もある。カシオの戦略においては、市場からの「顧客の声」を吸い上げる取り組みがまさに欠かせないといえるのだ。
「その技術・商品を受け入れた顧客は誰なのか?」・・・「ターゲティング」
「そのターゲットに商品をどのような存在(使い途も含め)として認知させればいいのか?」・・・「ポジショニング」
「どのように製品改良を重ねればいいのか?」・・・「製品戦略(Product)」
「どのような訴求方法なら魅力が伝わるのか?」・・・「コミュニケーション戦略(Promotion)」
「未踏の地を目指し強敵と戦う覚悟」。その経営者の卓然たる決断を成功に導くのは、技術力だけではない。最後はやはり「顧客」に立ち戻って、マーケティングプロセスを進めることが求められるのだ。
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